迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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これにて今事件も完結。閉廷!


偶には人の心を投げ捨てたい(締)

 カタパルト・タートルから射出されたアークリベリオンが生み出したキノコ雲に誰もが恐怖する中、あっけらかんとした声でユーリは執事に問い掛けた。

 

「オジサン〜。

 ちょっとやり過ぎじゃないかな〜?

 あれ、絶対死んでるよ?」

 

 目の前の地獄も気にしないあまりに無邪気な物言いに誰もが言葉を失う中、ズシリズシリと足音を起てて粉塵の中からアークリベリオンが歩み出てくる。

 その手には髪はアフロのように縮れ黒焦げになりながらも白目を剥いて気絶しているだけのロジェが掴まれていた。

 

「どうやら手加減はしていたようですよ?

 お陰で人殺しにならずに済んで良かったです」

「逆に死ねないほうが可哀想だけどね」

 

 実のところアークリベリオンはロジェを確殺するためにユベルの加護(呪い)を確実に貫通するだろう値を目指して最大火力を用意してもらったが、着弾直前になりこんな屑の命でも自分がそれを奪えば主はその咎を背負ってしまうのだと今更思い至りギリギリのところで殺すのは止めたのであった。

 そんな事情などおくびにも出さず、ベシャリとロジェを投げ捨てたアークリベリオンはボロボロの姿になりながらも成すべきを成したと満足げな様子で力尽き光の粒子に溶けていった。

 そして隣で急冷の蒸気を吹き出していたカタパルト・タートルも役割を終えたとゆっくりとその色彩を急速に色褪せていく。

 

「永らくご苦労様でした。

 次に遭う機会があれば色々とお手柔らかにお願いしますね」

 

 最初期から戦線に立ち続けた古強者の最後の勇姿を見届け、カードに描かれたイラストが薄く消えていくカタパルト・タートルにそう謝意を送り執事は丁重にもう使えなくなったカードをデッキに戻す。

 そしてふと足元を見るとロジェが投げ捨てた手札が足元に落ちていることに気づき、捨て置くのも忍びないと拾い上げた執事はそのカードに顔を顰めた。

 

「ところでさ、そのデッキて弱点あるの?」

「…沢山ありますよ」

 

 主役が使えなくなるとはいえギミック自体は健在であり、多少弄れば殺戮の手段に事欠かないのが現代遊戯王。

 それを見抜いたユーリの問いに執事は懸念を棚に上げて答えた。

 

「今回はグリフォンライダーが立っていたので懸念は然程でもありませんでしたが、うららやわらしを始めとした手札誘発系は刺すタイミングを見切られるとなかなか厳しいですよ。

 特に怖いのは【ディメンション・アトラクター】と【増殖するG】と【原始生命態ニビル】の三枚ですね。

 増Gは相手のデッキの誘発次第ではサブプランに移行してデッキキルを狙いに行けるので他2つに比べて脅威度は下がりますが、墓地展開を封殺するアトラクターと再展開不可能地点で落とされるニビルはどちらも致命的損害を食らいやすいですよ。

 変わりどころとして【朔夜しぐれ】も怖いですね。

 アークリベリオンにしぐれを撃たれたらそのターン中にはアークリベリオンを撃てなくなりますからやられると中々キレたくなりますよ」

「でも対戦相手からしたら自業自得だってなるよね?」

「ぐうの音も出ませんね。

 実際決めてやったときの爽快感は最高でしたよ」

「「アッハッハッハッハ!!」」

 

 現代遊戯王の理不尽さで殴り合う世界をゲラゲラ笑いながら楽しそうにする二人。

 そんな二人を化物を見る目で見てしまう周囲。

 

「おや?皆さん如何が成されました?」

「…今の光景は貴殿には普通なのか?」

 

 辛うじてそう問い掛けを絞り出した零児に執事は「ええ」と頷く。

 

「精霊界では滅多矢鱈に見る機会はありませんが、私の故郷では最先端を逝くデュエリストのデッキは先攻制圧が基本で、次に多いのが先攻ワンキルと制圧捲りでした。

 本当にもう、いい加減にして欲しいと思うぐらいやられますよ」

「……」

 

 瞳の光をどんよりと濁らせながら嘯く姿にドン引きする零児。

 

「さて、その話は追々として今はこの男の()()()()を片付けてしまいましょう」

 

 そう言って荷物を抱える様にロジェを肩に担ぐ執事。

 

「零児君。

 すみませんが中央評議会の方に通達と対処の要請をお願いします。

 私はその間に彼の拘束とドクトルの確保を完了しておきますので」

「…分かった」

 

 「ではその様に」と言い残し『セキュリティ』庁舎へと向かう執事を見送る一同。

 

「ああ、そうそう。

 皆さんに言っておきたいことが一つ」

 

 振り向きながら執事はどう反応していいか分からず固まったままの遊矢達に笑顔で告げる。

 

「今のデュエルで分かったでしょうが、勝つことに固執した先にあるのは対話を否定した独りよがりなデッキ回しです。

 勝ちたいという気持ちは大事なモチベーションではありますが、君達は勝つこと以上にデュエルに大事なものがあるという事を忘れてはいけませんよ。

 そうでないと、デュエルがつまらなくなってしまいますからね」

 

 地獄を知る者からの警句は、彼等の心に深く突き立てられたのであった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 『セキュリティ』長官の暴挙というトラブルはあったものの、精霊界を含む五次元合同のデュエル大会こと『フレンドシップ・カップ』は特別なトラブルが起きることも無く成功と共に無事閉会を迎えた。

 

 そうして事件が終息を迎えた数日後、一連の出来事を振り返りつつ久しぶりに城へと戻った俺は姫様への挨拶を終えてアリアスとテーブルを囲っていた。

 

「いやぁ、3位だなんて残念だったね?」

「そうでもないさ。

 即興とは言わないが使い込んでいないデッキでの結果なんだし十分だろう」

 

 結論を言うと俺は【ラビュリンス】も【霊使い】も使わず大会に出場した。

 今回は他の四次元に対等であることを示すためリンク召喚を主体にするべきという政治的配慮から【星杯パラディオン】で挑む羽目になったのだ。

 その結果、準決勝で当たったユーリにメタ読みしてデッキに入れていたという【弾帯城壁龍】なるリンクメタカードを先攻で出されて為すすべなく負けてしまった。

 

「それにユーリが楽しそうだったからな。

 あんな風に笑っているのを見れば怒りも湧かないさ」

「楽しそうで何よりだよ」

 

 ニコニコと笑うアリアス。

 そんな彼女に俺は紅茶で喉を潤してから問を放った。

 

「それで、何処からがお前の仕込みだったんだアリアス?」

「……」

「ロジェの手札には【サイコ・ショッカー】があった。

 レアだが古いカードだし持っていてもおかしくは無いが、しかし奴のデッキは【古代の機械】だった。

 シナジーが全く無いわけじゃないが、汎用枠として組み込むには些か重すぎるカードだろう。

 で、俺を【迷宮の執事見習い】と知りデッキに【サイコ・ショッカー】を仕込むよう助言し渡せるとすれば誰になると考えて、サイコ・ショッカー本人と交流があるアリアスが候補に挙がった」

 

 こじつけ的な要素も少なくない推察を聞いたアリアスは否定せずただ愉しそうに嗤っていた。

 

「飛躍は多いけど悪くない推理だよ執事君」

 

 ニヤニヤと愉しそうな嗤い声で嘯くアリアス。

 

「逆に君は何処からが私が糸を引いていたと思うんだい?」

 

 そう問い返すアリアスに、俺は憶測を口にする。

 

「ロジェが関わっていたのは間違いない。

 だが、ドクトルの脱走がどちらなのかが分からない。

 なによりこの件でラビュリンス(姫様)がなんの利益を得たのかが分からない」

 

 アリアスが暗躍するとすればそれは姫様の為だけだ。

 だからこそ今回の騒動がラビュリンス(姫様)のご意思であったのかと不安に感じていた。

 それを舌に乗せる前にアリアスは口を開いた。

 

「君がおかしな勘ぐりをする前に白状すると、今回の一連の事件に私が関わった理由にラビュリンス(姫様)は関係無いよ」

「なんだって?」

「それと私が糸を引いていたのは逃亡()()ドクトルのシンクロ次元への亡命の手伝いと、ロジェ君にカードを渡して少しばかり甘言を囁いて暴走するよう仕向けたことだけさ」

「……」

 

 あまりにらしくない行動に困惑し、ふと気になる言葉に気づく。

 

「逃亡()()?」

「うん。私が動く気になったのはドクトルがレオ・コーポレーションからの脱走を成功させたからさ。

 実を言うと彼には監視だけつけておいたんだ」

 

 アリアスは態々監禁されていたドクトルに独自に監視までつけていたという。

 

「なんでまた?」

「彼がハスキーに復讐の対象として執着していたからさ。

 私はこう見えて友人は大切にする質でね。

 大人しくしているなら余生を終えるまで何もするつもりはなかったけれど、諦めないと言うなら相応の報いは受けてもらうさ」

 

 邪悪な笑みを浮かべて笑うアリアス。

 

「そのためにシンクロ次元を巻き込んだのか?」

「彼は精霊界に逃げ込むつもりだったからそれをさせないための止むを得ぬ判断だったんだよ。

 それにロジェ君も融合次元からの亡命者だったみたいだから早めに手を打つに越したことは無かっただろうしね」

「それに何の関係が?」

「ロジェ君はシンクロ次元の民意を操作して元々あった格差意識をさらに苛烈にしていた。

 その結果があの様なんだけど、上手く運べば君にも利があると利用したのは余計な御世話だったかな?」

「……」

 

 そう言いたい感情はあるが、しかしアリアスの暗躍が功を奏しているのも事実だ。

 ロジェの失脚は中央評議会の格差撤廃に対する意識をより前向きにし、更に『フレンドシップ・カップ』の結果が後押しとなってその実行を決意させた。

 当然『トップス』にそれを受け入れる者などおりはしなかったが、デュエル弱者に人権の無いこの世界で『トップス』側が擁立したデュエリストが檜舞台である筈のライディング・デュエルでさえも誰一人として二回戦にさえ上がれず敗退した事実が彼等の口を塞ぎ、『シティ』の格差社会の歴史は終りを迎えた。

 とはいえすぐに何もかも良くなるといはうことはないだろう。

 フランスやドイツといった歴史を紐解けば極端な体制変化が大きな混乱を伴うものであったことを如実に記しているのだ。

 シンクロ次元が本当に格差をなくして平和な世界になるのは永い時を要するだろう。

 

「思うところはあるが、アリアスが動いたおかげで単純明快な解決法を取れたのは事実だ。

 そこには感謝しておく」

 

「どういたしまして」としたり顔で笑うアリアスに溜息を返しておく。

 

「話は変わるけれど執事君。

 悪魔族になってみた感想はどうだったい?」

 

 後で聞いて知った話だが、デュエル中俺の目はヤギのように歪んでいたらしい。

 ダルク曰く、「感情が昂りすぎて一時的に悪魔族に変化していた証左」だそうだ。

 

「あまりハッキリしないんだが、自分が自分じゃないような妙な違和感がしていたのは何となく覚えている。

 それが良いのか悪いのかまだ分からない」

「まあ、今はそんなものかな」

 

 よく覚えていないこともあって玉虫色な答えしか出来ない俺にアリアスは肩を竦める。

 

「悪魔になるのは歓迎しているけれど、力に呑まれないよう気をつけてくれ給えよ?

 君が君のまま悪魔に転生しなければ意味が無いのだからね」

「ああ。気をつけておくよ」

 

 アリアスの助言を胸に刻み俺は紅茶を飲み干して席を立つ。

 

「それじゃあ姫様のご機嫌を伺いに戻るよ」

「ああ。姫様が満足するまで甘えさせてあげてくれ」

 

 そうして席を後に立ち去る俺の背中を愉しそうに眺めるアリアスの視線に終ぞ気づかぬまま姫様の元へと向かった。




 ちなみにドクトルは以前執事がアリアスから受け取った種族変化のスクロールの中身をダルクが改竄した絶対服従の契約書により二度と悪さが出来なくなりました。
 原作みたくカードにされるよりは自由意志があるぶんまだ温情だね☆

 アークファイブで問題はもう無いよね?

 平和に環境デッキで遊矢達を阿鼻叫喚をさせるギャグだけ描いてもいいよね?
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