迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
色々有りましたが、多くの温かい言葉をいただき今後も続けていこうと思います。
それと、前回のトラブルとなったスカイ・マジシャンの強制効果を任意効果と間違えていた件ですが…今回だけは見逃してほしいなぁと。
じゃないとアーリべワンパンをやらないにせよエルドリッチの時点でライフが残らず最期のやり取りが出来なくなるのでデュエルとしてではなく物語としての美しさが…と、そんな風に思ってしまうわけです。
勿論ルールに忠実にやりたい気持ちもあるので、今後は徹底してルールに準じてデュエルするのは変わりないので今回だけは付してお願いします。
だめならエルドリッチエンドに書き直します。
「やはり慣れないことはするもんじゃないね」
ゆっくりと立ち上がった榊遊勝はパンパンとホコリを払いながらそう嘯いた。
「それはティ・フォンの事ですか?
それとも、
「気付いていたのか…」
バツが悪そうに帽子に手をやる姿にやはりかと思った。
「スタンダード次元での貴方のデュエルの映像を拝見しましたが、その時と比べて先のデュエルでの貴方の動きは精彩を欠いているように見えました」
映像は5年前のものであったが、映像の先では榊遊勝の動きはプロスポーツ選手も顔負けな程非常に機敏なものであり、一回のバトルでアクションマジックを2枚3枚と当たり前のように重ねて発動していた。
しかし先のデュエルでの動きはぎこちなさが垣間見えアクションマジックも二枚目に足が間に合わずにバトルを終えており、その顔には隠しきれないほどの自身への苦い感情が伺えた。
「今更隠し立てをしても恥ずかしいだけだから白状すると、私は3年前に零王が居る融合次元へと向かおうとして次元跳躍に失敗し、融合次元ではなくエクシーズ次元に辿り着いてしまったんだ。
次元跳躍の失敗はチャンピオンとしての役目も放棄し、零児君達が不完全なシステムだから止めろという言葉を振り切った代償だろうと、私は少しでも零王の魔の手に立ち向かえるようエクシーズ次元でデュエル塾を開いて融合召喚に対する対抗手段を流布していたんだ」
独白というよりは罪の告白のような自虐の浮かんだ表情で榊遊勝は己の足跡を語り続ける。
「そうして遂に融合次元は侵略戦争を開始した。
私も零王の被害者を一人でも減らそうと戦ったよ。
だが、デュエルの最中に次元の歪みに巻き込まれ私は再び次元跳躍をする羽目になってしまった。
その次元跳躍で融合次元に辿り着く事が出来たが、私の足は酷い有様になっていてね。
日常生活を送る分には問題無いが、以前の様な激しいアクションを行う事は出来なくなってしまったんだ」
「そして傷を癒し漸く零王の居るアカデミアに潜入することが出来たが、そこで見てしまったんだよ。
君が零王を拳で打ち倒しその願いが決して叶うはずが無いと論破するところを。
そして零王が恐れた世界を破壊しようとして悪魔と呼ばれた少年の嘆きを受け止め、癒してみせたその瞬間を」
「…そうでしたか」
あの時居たのかよ。
なんで姿を……見せられるわけ無いか。
「今だから言えるが私は君に酷く嫉妬したんだ。
多くを擲ち喪った私ではなく、巻き込まれただけの部外者が何もかもをまとめて解決してしまうその姿に嫉妬したんだよ」
「……」
その言葉を否定するのは簡単だ。
しかし、逆の立場であったら?
姫様を救おうとして何もかもを捧げておきながら只の道化に終わって、それを解決した相手に俺は心からの感謝を向けられるだろうか?
無理だな。
何故自分では無いのだ。
どうして貴様がそこに居る。
そこに居るべきなのは俺のはずだ。
そんなどうしようもない感情を堪えきれるだろうか?
「私は零王の言葉を聞き、息子と同じ顔の少年がその悪魔の生まれ変わりだと知り、私は息子の中に眠る悪魔に利用されていたのではないかと疑いの目を向けてしまったんだ。
君が彼を救われなかった憐れな子だと本心から嘆いていたそのすぐ近くでだ。
そんな自分が酷く無様で惨めに思えてしまってね。
次元同士が航海可能になっても妻にも息子にも友人達にも合わせる顔が無いと無為に彷徨っていたのさ」
己を蔑み空を見上げた榊遊勝は、しかしどこかスッキリした顔をしていた。
「君とのデュエルを通して理解したよ。
私こそが間違えたのだ。
私の傲慢な考えが息子の笑顔を奪おうとした。
次元跳躍を試みる前にチャンピオンとしての務めを果たし活動を休止すると宣言していれば妻も息子も辛い3年間を過ごさずに済んだ。
蓄えがあるから大丈夫と楽観しなければ塾を畳ませはしないと友人を奔走させ苦労は掛けなかった。
なにより、
特に君の巻き戻し要請でね」
「その件については此方からも少し言葉を選ぶべきだったと謝罪しますよ」
熱が入りすぎてエスプリを効かせるでは誤魔化しきれないほどの悪意を込めてしまったと謝罪を口にするが、榊遊勝は否と謝罪を固辞した。
「いや。あの辛辣な指摘こそ私に足りなかった全てだ。
頂点へと上り詰めたと天狗になり、エンタメデュエルと称して対戦相手へのリスペクトを忘れていた私にはとても効果的な気付け薬になったよ。
故に謝罪は必要無い」
「……そちらがそう申すのでしたら」
晴々とした様子を伺わせる仮に、やっぱり最後はデュエルが全てを解決する世界なんだなぁとそんな場違いなことを思っていたら、榊遊勝がゲートに近付きパネルを操作した。
「どちらに行かれるのですか?」
「負けたのだから君との約束を果たしにスタンダード次元へ帰るよ。
許されないだろうが、大人としてのケジメを付けてくる」
と、榊遊勝がデッキから2枚のカードを抜いて差し出してきた。
「息子に沢山良くして貰ったことと私からの個人的な礼だ。
それとデュエルで怪我をさせてしまった詫びも含めているから受け取ってもらえないかな?」
「それで貴方の気が済むなら受け取りましょう」
渡されたカードを改めると、それは先程俺を追い詰めた【
【
効果モンスター
星5/風属性/魔法使い族/攻2000/守1500
このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに永続魔法カードが存在する場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが手札から特殊召喚した場合に発動できる。
デッキからレベル4以下の魔法使い族・光属性モンスター1体を墓地へ送る。
(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合、
フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「流石に貰いすぎ…」
エースのスカイ・マジシャンでは無いが同じ名を冠する強力なモンスターだと顔を上げると榊遊勝の姿はそこには無かった。
どうやらカードを確かめている間に次元跳躍を行ってしまったようだ。
「……まあ、迷惑料として納得しておきましょう」
ティ・フォンはドレスの姫様と相性が良いから【ラビュリンス】に加えて、マジシャン・ガールの方は効果に光属性を要求するので【霊使い】で活用するのが良いだろう。
「シラユキ…いや。素直にライナを差すか」
同じ攻撃力で其々が有効な効果を持つ【妖精伝記】という競合相手が居るせいで【霊使い】で唯一【憑依装着】をデッキに入れていなかったが、マジシャン・ガールの為に光属性の比率を高めたいので投入を検討する。
「君は自分が怪我人だということを忘れていないかい?」
バランスをどう取るかと頭を捻っていたら呆れた様子のアリアスに叱りつけられてしまった。
「アリアス。見てたのか?」
「姫様はいつだって君を見守っておられるよ。
それよりもまずは怪我の様子を見せてくれ」
そう肩に手を置き俺を膝立ちにさせてからハンカチを外す。
あの、この位置だとちょうど胸が視界に収まるのですが?
姫様ほどボリューミーではないが、十分に女性らしさを感じさせる豊かさに視界を占拠されついでにアリアスの甘い薫りが鼻を擽り色々と抑えが必要になってしまう。
「うん。傷自体は大したことないようだが、念の為医者の方で精密検査を受け給えよ。
さて、次はこちらだね」
そう言い俺の首を上に傾けると左瞼を下に引っ張り眼球を覗き込む。
「…執事君。見えているかい?」
「駄目だな。この距離でぼやけている」
右目を閉じて左目だけにすると間近に迫るアリアスの顔さえはっきりと見えなくなっていた。
「一時的なものであればいいが…勿論この事は姫様にお伝えさせて貰うよ」
「それは当然だが、」
「安心し給えよ。
君を傷つけられたことは大変お怒りだが、対価を差し出した榊遊勝に報復の手を伸ばすおつもりは私にも姫様にも無いからね」
「なら、安心だな」
スタンダード次元で川で浮かんでいるのを発見なんてニュースを聞くのは洒落で済まない。
「じゃあすぐに医者に診てもらおうか。
君一人だと後でいいなんて事をやりかねないからね」
「流石にそれは…」
「倒れるまで無理をする君にその言葉の説得力は無いよ」
バッサリ切り捨てられ、俺はがっくりと項垂れた。
後日、スタンダード次元にて行方不明となっていた榊遊勝の帰還と電撃引退が報道されたと新聞にて知った。
紙面には自身の振る舞いにより多くの関係者に迷惑をかけたと頭を下げる姿が写真で掲載されており、今後は塾の運営に集中し後進の育成に専念をするそうだ。
「あら? カッコいいデザインの眼鏡ね」
教会へと出勤しようとしていたマルファが通り掛かりにそう言った。
「ああ。姫様からのプレゼントなんだよ」
治療の結果、俺の左目は失明こそしなかったものの視力が大部落ちてしまいそれを憂いた姫様から手ずからデザインされた眼鏡を頂く運びとなった。
「私の贈り物をいつも身につけることで私への敬意を更に高めるのよ!
オーホホホ!!」
なんて深夜テンションらしく目元に真っ黒な隈を浮かべながらも心底愉しそうに嘯く姫様に心からの感謝を告げて賜り、こうして俺の愛用品として活用させてもらっている。
「ふふっ、愛されているようで何よりね」
「ああ。そうだな」
笑みを浮かべながら出ていくマルファに俺も笑みを浮かべて見送り、再び新聞に目を落とすのだった。
次回は書きたかっかけど削除した小話を書こうかなと。
若干グロとシリアス多めになるからひとをえらぶでしょうが…