迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
デスマで死にかけてます。
気づかぬ内に盛大なポンを晒した姫様だが、知らぬので相変わらず絶好調で人形作りを続けていく。
そうしてこもること数日、遂に姫様を完全再現した人形が完成した。
「角と羽と尻尾もこれで良し!
強度と可動域も問題無し!
胸部の魔力コアを加えた重量バランスも整えたしまさに私の才能があってこその成果ね!!
オーホホホ!!」
自画自賛し高笑いを上げる姫様。
因みにこの時点で七徹目であり、執事のお土産は既にアリアス達のお腹の中に消えていた。
しかしそんな事など知る由もなく姫様は徹夜テンションそのままに意気揚々とドレス姿の人形を起動した。
「さあ目覚めなさい私!!
そして見事私を務めるのよオーホホホ!!」
コアの魔力を動力とし姫様を
「ふふふ…。
お目覚めは如何かしら?」
自らを褒め称えるだろうと想像しワクワクしながらそう尋ねる姫様だが、『人形』はゆっくりと辺りを見回してから徐ろに口の端を吊り上げた。
「ええ。実に良い気分よ」
「そうでしょうそうでしょう?
オーホホホ!!」
その口元の笑みがどんな呼び方をされるのか全く気づく様子もなく言葉通りに受け取った姫様は気分よく高笑いを上げ続ける。
「さあ、気分も高まってきましたそろそろ目的を果たしましょう!」
『人形』を自分の代わりに配し、その間に執事とイチャイチャするのだと欲望をダダ漏れにする姫様だが、しかし『人形』が発した言葉に虚を突かれた。
「そうね。先ずはもう
「はえ?」
あまりに唐突すぎる宣言に頭を巡らせる暇もなく、工房の片隅に転がっていた大斧が視界いっぱいに広がった。
「はわわっ!?」
ぶおんっ、と風を断ち切りながら首めがけ振り抜かれた大斧は、しかし既の所で身を翻し転がりながら回避した姫様にかすりもせず空振った。
「なっ、何をするのよいきなり!?」
「言ったはずよ?
貴方はもう用済みよと。
今から私がこの城の主【白銀の城のラビュリンス】になるの。
お古はこの城に必要無いわ」
【白銀の城のラビュリンス】の悪魔らしからぬ善性やポンコツに隠れてしまい忘れているかもしれないが、彼女のその性根は残忍で我儘であり自らが気に入らないものに対しては非常に冷酷かつ邪悪な対応にて振る舞う正真正銘の悪魔なのだ。
そんな傲岸不遜、天上天下唯我独尊な性格を
まあ、そんな訳ないよね。
「な、ななな、なんですって〜〜〜〜!!??」
姫様の確かに優秀な頭脳はその答えにあっさりと辿り着き、そして己の致命的失態に白目を剥いて驚愕する。
だったら思考リミッターを掛けておけという話だが、完全に再現する事に拘った姫様はそんな物を取り付けたら完全な再現になっていないと至極当然に嘯くだろう。
まあ。つまり。予定調和というやつだ。
「消えなさい!!」
両手で縦に振り下ろされる斧を姫様は真剣白刃取りの要領で両手で受けとめる。
「ぐぎぎ…」
脳天をかち割らんとする凶刃を姫様は顔を真っ赤にしてしながら押さえ込む。
「嘘ッ!?」
「な、め、るんじゃないわよ!!」
そのまま強引に斧ごと『人形』を持ち上げ入口を粉砕させながらぶん投げた。
こちらも忘れがちだが姫様はエースモンスターのラインとされる攻撃力2500族ではなく更にその上の最上級モンスターの標準数値3000族に部類される強力なモンスターである。
基本のドレス姿では2900まで下がるが、本領を発揮する際の鎧を纏えば攻撃力3000防御力2900と破格の性能を有した上で強力な効果と耐性も兼ねた強者側に並ぶ御方である。
なので、寝不足かつジャージ姿であろうと自身と普段振り回す大斧をまとめてぶん投げてしまうことぐらい容易に可能なのだ。
「あったまきたわ!!
私を乗っ取ろうなんて愚かな欲望を抱いたお前はガラクタにしてやる!!」
お前が始めたんだろと総ツッコミを受けるだろう発言をかましながら姫様は『人形』をぶん投げた廊下に飛び出す。
が、飛び出した廊下では足元で大穴が口を開けて出待ちしていた。
「あえ?」
間抜けな悲鳴が漏れ、嘲笑う愉悦の笑みを浮かべた己の顔がゆっくりと視界から消えて…
「にゃぁあぁぁあああっ!?」
そのまま何処とも知れぬ奈落へと落ちる前に姫様は咄嗟に縁を掴んで落下を免れる。
「アハハハ!!
何よ今の悲鳴!
まるで蛇と野菜を見間違えた猫みたいだったわよ?
アハハハハハハ!!」
この落とし穴が開いていたのは勿論『人形』の仕業である。
完璧を求めた姫様が城内の罠の管理権限まで与えていたため、それを果断なく使用した結果である。
無様さが堪らなく可笑しいとお腹を抱えて大笑いする『人形』にブチブチとただでさえ短い自制心がまとめて吹っ飛んでいく。
「6番8番17番起動!!」
大噴火したまま姫様がそう叫ぶと開いた穴の横から落ちた者が這い上がるのを阻止し押し潰すためのギミックが足元付近からせり出し足場となり、同時にまだ爆笑している『人形』目掛けて廊下いっぱいのサイズのアイアン・メイデンと振り子刃が襲い掛かる。
「え? ちょっ!?」
アイアン・メイデンを避けようとすれば振り子刃が切り刻む逃げ場のない構図に流石に『人形』も慌てるが、すぐに対処してしまう。
「68番起動!!」
本来なら逃げ場を封じる壁が生じてアイアン・メイデンの進路上に生えたことで接近を阻みその隙に斧を振り子刃が繋がる鎖へと投擲して鎖を切り裂き落下させる。
「武器をくれるなんてお優しいことね!!」
穴から飛び出した姫様が落下してきた振り子刃を掴み即席の獲物として構えそのまま大上段に振りかぶる。
「くたばりなさい!!」
跳躍による加速も加えた必殺の振り下ろしは、しかし、
「23番!!」
真下から飛び出した三角木馬により阻まれ、更に姫様がズドンッと音を立て見事にその上に乗っかってしまった。
「〜〜〜〜〜〜っ!!??」
飛び出した際のスピードに加えて落下速度と振り子刃の重量まで加算された人体構造的に一番の急所への途轍も無いダメージに姫様が言語化できない絶叫を上げる。
「ぉ…ぉぉぅ……」
いっそ気絶できたほうが幸せなダメージに頭が真っ白になった姫様が三角木馬からずり落ちて股間を抑えながら白目を剥いて泡を吹きながら悶絶する。
「さ、流石にこれは良くなかったわね…」
自分と同じ顔が死ぬほうが楽な痛みを受けた姿に『人形』も選ぶものを間違えたとドン引きしていると、騒ぎを聞きつけたアリアスが慌てた様子で駆けてきた。
「何事ですか姫様!!??
……って、え?」
股間を押さえて蹲る姫様とドン引きしている姫様という光景に流石のアリアスも情報過多に陥り思考が停止してしまう。
「あら?丁度いいわ。
アリアス。その失敗作の人形を片付けてしまいなさい」
「え? あ、はい」
『人形』の命令に思考が追いつかぬまま、しかしなんとなく事情を察したアリアスはその命令のままに大鎌を呼び出すとピクピクと痙攣している本物の姫様へと振り下ろすため鎌を持ち上げ勢いよく振り下ろした。
ザクンッ!!
「なん…で…?」
振り下ろされた鎌がそのまま掬い上げる軌道を描き
「失敗作は貴様の事だろう。
出来損ないの
凍り付くような冷たい眼差しで『人形』を見遣りながらアリアスは手首を捻り『人形』を逆袈裟に切り捨てた。
ゴトンと硬い音を起てて四肢を放りだして倒れ込む『人形』から視線を外し、未だ回復の兆しも見せない姫様の側に傅く。
「すぐに痛みを和らげますので少々お待ち下さいね」
急いで回復魔法と苦痛を緩和する魔法を重ねがけするとさしたる間もなく姫様は痛みで強張った表情筋を緩め半泣きでアリアスにしがみつく。
「ありあしゅ〜…」
「ご安心ください姫様。
姫様を害そうとした不埒者は完全に壊してしまいましたよ」
念の為もう一度視線を向けてみるが、指先一つ動いた気配はなく大丈夫だろうと姫様をあやすのに専念する。
「……ふぅ。心配掛けたわね。
だけどもう復活したわ!!」
十分程あやされ漸く気を取り直した姫様が立ち上がると、アリアスも立ち上がり姫様に尋ねる。
「それでですが、この度は如何様な事があって御自身を模した人形など仕立て上げたのですか?」
「それは勿論…」
自分が出掛ける為のか影武者にするためだと正直に言えば絶対叱られると気付いた姫様は、ここから入れる保険を必死で検索し始めた。
「勿論?」
「そう。執事のためよ!」
元を糺せば何時まで経っても城に帰ってこない執事が悪いのだから全部責任を被せてやろうとその場で理由をでっち上げる。
「私と逢えなくて寂しがっているだろうからその慰めに用意してあげたのよ!
ただ、まあ、ちょっと気合い入れすぎて中身まで再現したくなったせいでこんな事になっちゃったけど、私が天才すぎたから仕方ないわよね!
オーホホホ!!」
このまま押し切るつもりで高笑いをすると、アリアスは少しだけ思案してから「成程」と頷いた。
「確かに姫様の御姿を側に置いておけば彼も姫様への忠誠心を揺らがせることもなくなるでしょう」
「そうでしょうそうでしょう?
やはり私は冴え渡っていたのよ!!
オーホホホ!!オーホホホホホホ!!」
上手く切り抜けられた安堵もあって何時もより3割増ぐらいの高笑いを上げる姫様に。アリアスが提言する。
「それはそれとして。
長時間の作業に加えて激しい運動をなされましたしこの辺りで湯浴みするのは如何ですか?」
「ええ。確かにアリアスの言う通りね。
じゃあ後片付け宜しくね」
背を向け立ち去る姫様に慇懃に頭を下げて見送ったアリアスは、姫様の姿が完全に消えたことを確認をしてから頭を上げ、そして力無く膝を着いた。
「あ、危なかった…」
その顔には普段の余裕は一切伺えず、むしろ恐怖さえ浮かんでいた。
その恐怖を捻じ伏せようとしているのか胸元を強く握りしめながらハァハァと激しく荒い呼吸を繰り返すアリアス。
何故ならアリアスは『人形』を本物の姫様と誤認し、言われるままに姫様を手に掛けようとしてしまっていたのだ。
自らの命だろうと擲つことに躊躇いもない程敬愛する姫を亡き者にしようとした事実にアリアスは慄き泣き叫びたいほど動揺していた。
それを姫様のために必死で抑えつけていたが、姫様が居なくなったことで箍が外れこうして恐怖を曝け出して震えていた。
「ああ!ああ!!私はなんて事をしようとしてしまったんだ…」
寸分違わぬから間違えましたでは到底許されない罪にやり場の無い怒りと悔悟で顔をぐちゃぐちゃにしながらアリアスは額を床に押し付けて震える。
加えて姫様が本物だと気付けたのも外見や衣服などではなく、七日も工房に籠もり続けた姫様から乙女から放たれてはいけない饐えた香ばしさを漂わせていたからだというあまりにも情けない理由であったこともアリアスの絶望に拍車を掛けていた。
「許さないよ執事君…」
そうしたやり場のない怒りが執事へと向くのはアリアスからしたら当然の事であり、責任を取るのは至極当然のことであった。
「覚悟し給えよ?
君だけは絶対に逃さない。
どんな手段を使ってでも姫様を幸せにさせるからね?」
〜おまけ〜
「執事君。これは一体なんなんだい?」
数日後、屋敷に魔力コアを取り除き外装を直した『人形』が郵送された。
「分からんが、姫様からのプレゼントなんだよ」
「プレゼントかぁ…」
今にも動き出しそうな精密な人形に感心しつつ、自分の似姿を送り付けてきた姫様という人物に若干引いた感情をブルーノは抱く。
「よく出来ているね」
「ああ。だけど姫様を再現しているにしてはあまり似てないぞ」
「そうなのかい?」
「ああ。まず鎖骨のこの辺が本物の姫様はもう少し窪んでいるし腰のラインは若干違うな。
後胸のサイズも微妙に小さいしそもそも…」
「君のその姫様への執着心が何よりドン引きだよ」
因みに三角木馬は【ラビュリンス】のコンセプトの元ネタである【影牢】というゲームから引っ張ってきたネタだったりします。
次回は完結に向けての仕込みも兼ねつつ中編で纏まれば…いいなぁ。
まあ、デスマ中なのでちょっと時間かかると思います。