黒狐。
古くから吉兆や縁起の良い瑞獣とされ、「北斗七星」の化身とも。
姿を現すと、平和の象徴・万民の喜びとなるであろうと伝えられているらしい。
そのことを黒狐自身はどう思っているのか。
答えは『鬱陶しい』
ただこの一言に尽きる。
『平和の象徴・万民の喜びとなる』と言われても何も嬉しくなどないしむしろ余計なお世話だ。
……人間は苦手だが、妖怪ならどうか?
答えは襲われる。
ある者は名を上げるために
またある者は無謀な戦いに身を投じて
――――黒狐に殺された。
○
「入るぞ。」
ドアが開かれる。
そこには誰もいない。
『いつもならこの部屋に居る筈なんだがな。』
「知らぬ間に人の部屋に許可なく入る癖でも付いたか、玉藻の。」
「少し話がしたくて来たんだが」
「とりあえず座れ。」
黒狐はレジ袋から買ってきた物を出す。
……ほとんど酒だが。
「お前はこの世界をエンジョイし過ぎなんじゃないのか?」
「エンジョイしようにも肩身が狭い。」
そんな環境でも必死に生き続けられる人間は恐ろしい。
「で、用件は何だ。」
「『幻想郷』に殺して欲しい人間がいる。」
「……いいのか?『人間と妖怪の共存』とやらをぶち壊すような真似して。」
「既に里の住人からは許可は取ってある、里の人間も腹に据えかねていたそうだ。」
「そうか。……お前そろそろ八雲に就くのは辞めたらどうだ?」
玉藻の前、八雲藍は理由が分からないという顔をした。
なぜ今の主人を裏切るようなことをせねばならない。
「貴様……今すぐここで喉笛を噛みちぎってくれても良いのだぞ。」
「冗談のつもりで言った筈なんだが?」
「仮に冗談であったとしても私が紫様を裏切ることは決して無い。」
従者は主人に対して不満を抱えないのか?
○
殺すことに罪悪感など一切感じない。
自分のちっぽけな良心など気にしてはいられない。
「お前……私が誰だか分かっているのか!?」
この言葉も疾うに聞き飽きた。
なぜこうも追い詰められた奴は同じことしか喋れないのか。
「貴様、何者だ!!」
「お前に名乗る名など持ち合わせてはいない。お前が死んだ後は人の記憶からお前という存在は完全に消え去る。」
やるなら徹底的に。
それが俺のポリシーだ。
胸にナイフを突き立てる。
肉を抉るような感触と血がドクドクと流れ出る感覚。
心臓が止まるまでナイフを強く握った。
そして、心臓が止まり、突き立てたナイフを軀から抜いた。
『
人殺し?
殺人鬼?
何と言われようが構わない。
「相変わらず見事ね。」
「後は任せたぞ。」
「任せておきなさい、ところで貴方、この前荷物全て幻想郷に持ってきてたわね。(荷物と言っても生活に必要最低限なモノだけでびっくりしたけど。)」
「あー、玉藻の……藍から聞いてないか?」
いつもの癖で藍のことを毎回玉藻の前と言ってしまう。
そろそろ治さなければ。
「幻想郷に移りたいみたいな……」
「そうなんだが、とは言っても実は人間様がどうやら狙ってるみたいでな。」
つまり匿えということか。
ただ、黒狐を上手いこと手中に収められれば、更に幻想郷を強くできる。
「いいわ、ただし私と藍、博麗の巫女の依頼の時以外は基本的には人間を殺さないこと。これが条件よ。」
なんだそれは。
俺を冷徹な殺戮マシーンとでも思っているのか。
「いいぜ、ただ油断してたらお前の首が飛ぶかもな。」
実際俺を手中に収めるということはそういうことだ。
黒狐の名前……決めれてない……。