天津気刹那から見たウェザエモン・アマツキについて


※原作小説のネタバレ、独自解釈、独自設定を含みます。


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アニメ良かったですね


まるであの空のようなあなた

 

 

 まるであの空のようなあなた

 

 

 吹き荒ぶ嵐のような人だった。

 映像の中の彼はいつも、苛烈で、冷酷で、無機質な鉄の閃きを纏っていた。寂しい人だと思った。

 

 英雄計画(ヒロイックプラン)。この星に満ちるマナ粒子の特異性を利用した、始源に対抗しうる人類個体の生成を目的としたプロジェクト。その素体として選ばれたのがウェザエモン将軍だった。私はその責任者で、そうして私達は出逢った。

 

 

 揺蕩う雲のような人だった。

 彼はいつも、誰かのためにあろうとした。誰かに望まれるままに、流れて、そうして、どこかへ行ってしまいそうだった。

 

 

 実験の成果は目覚ましいものだった。

 彼の身体能力はもはや、生物的にも、物理的にも、説明できはしなかった。

 彼の活躍に人々は湧いた。彼の強さを上層部は危惧した。彼が危ういことを知るのは私ばかりだ。

 でも、何人も彼の実態を知る必要はない。知らないからこそ、彼は強くなる。そういう実験だった。そういう理論だった。私の提唱した理論で、私が進めている実験だ。そうすべきだと、私が一番わかっていた。

 彼の素顔の画像データは残っていない。残らない。残せないのだ。

 ああ。記録の中の彼は、人々が目にする彼は。

 巨大な鎧を身に纏い、その素顔を兜で隠して。まるで空想の中の人物のよう。

 誰かが英雄だと叫んだ。誰かが怪物だと呟いた。

 そんなことはないと言いたかった。

 

 言えるはずもなかった。

 

 

 

 寄せては引く波のような人だった。

 こと人付き合いにおいて彼は不器用だった。距離を詰めるのは躊躇う癖に、こちらを心配ばかりしていた。不器用で、優しい人だった。

 

 姿形が違うということはどうしても壁を生んだ。鎧兜を脱げば、彼はただ一人、武術と向き合うこと、あるいは読書を好んだ。寡黙の中に、古くから紡がれた伝統を慈しみ、言葉の響き合いを楽しむ一人の人がいた。そんな姿に私は惹かれた。言葉を交わし、逢瀬を重ね、私は彼を知っていった。

 

 

 

 

 不安が重く伸し掛かっていた。

 人類の未来のこと。

 彼に、ウェザエモンに起こっている異変のこと。

 なんとかしなくてはいけなかった。

 いつかなんとかできると信じていた。そのいつかが遠かった。

 

 激務の中、与えられた僅かな休暇。気づけば彼の下へ足を運んでいた。

 そうして彼にあった時、思わず涙が零れた。

 彼がここにいることが嬉しかった。その彼を失うことが怖かった。

 

 泣き止んだあと、手を引かれて人工庭園に出た。

 雨が降っていた。気分は晴れなかった。

 他愛もない話をした。気分は晴れなかった。

 遠い未来の話をした。それでも気分は晴れなかった。

 そして最後に、遠くない未来の話をした。

 もしも、この計画が終わったらどうしたいか。

 どうしてと思った。考えないようにしていたことだった。役目を終えた彼がどう扱われるかは想像に難くなかった。気分は、晴れるはずもなくて。

 

 雨が降っていた。

 花の咲き誇る中、彼は言った。

 

 『願わくば、お前と共にいたい』

 

 彼を見た。

 晴れ渡る空のように、笑う人だった。

 素敵だった。恋をしていた。どうしようもなくこの人を愛おしかった。抱きついて、抱き締めて、転げあった。雨が降っていた。虹の下、喜びが頬を濡らした。いい天気だった。二人見つめ合っていた。今ここにいるあなたを見ていた。

 

 

 こんな日が、この先も続けばいいと夢見ていた。

 

 

 

 

 雨が降っていた。

 

 水滴が頬を打って目が覚めた。

 

 暖かな微睡みに別れを告げるとき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨のような、人だった。

 

 

 

 頬に落ちる雫の冷たさに目が覚めた。混濁する記憶を手繰り寄せれば、何が起きたのか徐々に思い出された。自分がどうなったのかを理解すれば、目を覚ますことができたのはひとえに幸運であったことがわかった。そして、その幸運がもたらした時間は限りなく短いこともわかっていた。

 

 一瞬の油断だった。脆い人体に、飛来した流れ弾は容赦なく風穴をあけた。

 意識の断絶は僅かな間だったろう。それでも、降り注ぐ雨と共に多くの血と熱が流れ出ていた。

 とうに末端の感触はなかった。痛みもまたなく、ただ熱さがあったが、それすらもどこか遠く、自分のものでないように感じた。視界が掠れていく。浮かぶ思考も、雑音にかき消されていった。そういえば、撃たれる直前、彼と目が合ったような気がした。もしそうなら、とても申し訳ないことをしたな、と思った。冷たい泥のせいか、酷く寒かった。

 

 

 そうして、降りしきる雨の中で。

 その時、頬に落ちた雫の温もりで、それだけで私は彼だとわかったのです。

 

 ああ、

 

 ああ、

 

 嗚呼!

 

 

 風のように寂しい人だった。

 

 雲のように儚い人だった。

 

 波のように優しい人だった。

 

 晴れ渡る空のように笑う人だった。

 

 

 何も見えなくなって、何も聞こえなくなって、初めて知る。

 

 雨のように泣く人だった。

 

 泣く人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 

 

 

 晴れ渡る空のように、笑う女だった。

 そばにいると心が安らいだ。彼女の笑顔は、いつだって俺の心を晴らしてくれた。

 彼女を守りたかった。彼女の笑顔を守りたかった。英雄になれば、それができると思った。

 

 すれ違うことが増えていた。我が身の異変はとうに理解していた。心配など、するのは俺の方だ。

 

 不安が重く伸し掛かっていた。

 人類の未来のこと。

 彼女の、刹那のこと。

 俺がなんとかしなくてはならないと。俺なら、なんとかできるのだと。

 ただ、早くしなければと焦っていた。

 

 青空の下でまた、二人笑い合えればいいと、夢見ていた。

 

 

 

 雨が降っていた。

 

 虹の下見た、彼女の笑顔が忘れられない。

 

 

 雨が降っていた。

 

 腕の中、眠る彼女は冷たかった。

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 雨が降っていた。

 

 

 雨が、ああ、何故。

 

 

 

 

 何故。

 

 

 


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