ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 特別試験終了後、浜辺 ——
「よし、それでは客船に戻るぞ。各クラス毎にボートに乗り込め」
真嶋先生の号令を受けて、各々がボートに乗り込んでいく。
俺もボートに乗り込もうとしたら、茶柱先生に呼び止められた。
「沢田」
「はい?」
「荷物の移動を手伝ってくれ」
そう言いながら、茶柱先生は姉妹校のボートを指さす。
(あ、なるほど。リボーンが呼んでるのか……特別課題の結果発表かな)
「分かりました。行きます」
茶柱先生にそう返し、俺は姉妹校用のボートに向かった。
〜 姉妹校用ボート内 〜
ボートに乗り込むと、アルコバレーノの3人とOtto talentiのメンバーが待っていた。
「ちゃおっす、ツナ。よくやったぞ、褒めてやる」「しょうがねぇから俺も褒めてやるぜ、コラ!」
「沢田、見事な采配だったな。少し驚いたぞ」
言い方が気になるが、リボーンとコロネロから珍しく褒められた。おかげでラル・ミルチの言葉が染みる染みる。
「あはは、ありがとう」
頭を掻きながらお礼を言うと、今度はOtto talenti のメンバーが話しかけてきた。
「10代目! 見事な勝利でしたね!」
「いや~、ツナならやると思ってたぜ?」
「……やっぱり、ボスはすごいね」
「フフフ、姉妹校に入学したのは正解でした。今後一生お仕えするお方が、ボスで嬉しいですわ」
「ボスの役に立てて嬉しかったです。今後も精進致します」
「はははっ! ボス、いずれボンゴレの中枢を任されるこの私、その活躍をお忘れなき様に!」
「あたし、ボスに惚れちゃいましたよ! ボスの妻を目指します!」
「ええっ!? ……わ、私も立候補します」
皆嬉しそうに俺を称賛する。……アルロとカルメンの言葉はよく聞こえなかったな、うん。
Otto talentiの面々が静かになると、リボーンが口を開いた。
「よし、それでは合否の確認といくぞ。ツナ、初日からどんな動きをしたのか、最終的にはどんな作戦を立てて、Ottotalenti をどう動かしたのかを話せ」「うん、わかった」
よし。リボーンに報告する為、初日から行動を振り返ろう。
—— 初日 ——
特別試験初日は拠点探しで終わったけど、ルールに関して重要な事実を知ることができた。
それは、拠点を茶柱先生に報告した時の事。
報告ついでに、ある質問をしたんだ。
「茶柱先生。スポット占有に使うキーカードって、壊れたりしたら再交付してもらえますか?」
「! 再交付は可能だ。キーカードとしての機能が使えないと、私に証明できればだがな」
「なるほど……じゃあもう1つ聞きたいんですけど、キーカードにリーダーの腕時計を登録するじゃないですか。なんらかの理由でキーカードを交換した場合は、リーダーも登録し直しですか?」
「——それは答えられない。ただ、リーダーは正当な理由なく変える事はできない、とだけ言っておこう」
「そうですか、ありがとうございます」
試験の勝敗に関わる質問には明確には答えられないらしいけど、それだけで十分だった。
この質問で分かった事は2つ。
1つは、キーカードの再交付は可能という事。
もう1つはキーカードが新しくなってもリーダーは変えられないという事。
(これは後の作戦に大きな意味をもたらした)
……あと、綾小路君から勝負を挑まれもしたね。
そして、深夜。Otto talentiとの会合でそれぞれから情報を集めたんだ。おかげで5つの事実が分かった。
①Cクラスは2日目の夕方にリタイアする
②AクラスはCクラスのポイントで備品を購入した
③AとCで何かしらの取引がなされている
④Cクラスの伊吹と金田がBとDクラスにそれぞれ入り込んでいる
⑤AとCはどちらも無線機を購入している
——以上の事を踏まえて、まずはAとCの取引を調べる為に、ドナートとアルロに無線機のカスタムを頼んだ。
—— 2日目 ——
2日目。朝早く綾小路君が何かをしていた事に気づいた。けど、何をしたかはわからなかった。
午前中は伊吹さんの見張りをクロームにまかせて、俺と獄寺君は堀北さんと綾小路君と共に、他のクラスの偵察に出た。
そして、Cクラスの計画を綾小路君が一度見ただけで見抜いてしまった。
今までの綾小路君の行動と、宣戦布告された時の言葉から、綾小路君はすごい優秀な頭脳を持っていて、今まで俺がぶつかってきた問題に対して俺と同じ答えを導き出している事に気がついた。
なんでいつもは隠しているのかは知らないが、目立ちたくないと言う彼にとっては、大事な事なのだろう。
そして、俺が仲間と超直感の力で辿り着く答えに、綾小路君は自分の頭脳だけで辿り着く事ができる。
以上の事をふまえると、綾小路君ならば、俺が考えたものと同じ作戦を確実に見つけるだろう。
そして俺のやり方が気に入らないのだから、俺が決して選ばないやり方を選ぶはず。
つまり、綾小路君に勝つ為には、彼ではできない方法を取って、先に仕掛けるしかない。
作戦を立てる時には、その事も注意しようと決めた。
……結局、偵察の収穫はBクラスと友好関係を結べた事ぐらいだったけど、裏でビアンカに別の指示を出しておいたんだ。
それは、偵察中ずっと獄寺君の腕時計と通話をし続け、そこから聞こえてくる人物の声と話し方の癖を覚えてほしい、という指示だ。
それをビアンカは見事に成功させて、偵察中に言葉を発したある3名の声の模倣をできる様にしてくれた。
夕方にはCクラスの生徒達がリタイアし始めたが、レオナルドとカルメンにはリタイアせずに森の中に潜伏。
そしてまた夜の会合。そこでは、Cクラスの龍園君と伊吹さんと金田君の3人は、リタイアしなかった事が分かった。
これでCクラスは試験から降りていないことが確定。
こうなったからには、やっぱりAクラスとCクラスの取引内容を知りたい。
その為に、ドナートとアルロにカスタムさせた腕時計を使って、ビアンカに龍園君の声で葛城君に通信して呼び出してもらい、その隙にドナート達が葛城君の荷物を探る事になった。
レオナルドには龍園君の潜伏先探させて、カルメンにはAクラスの拠点に潜入する方法を探す様に指示を出しておいた。
(なぜカルメンにそんな指示を出したのといえば、後に決めた作戦に絶対必要な作業だからだ)
—— 3日目 ——
3日目の午前中。ビアンカ達が見事にやり遂げてくれたおかげで、AクラスとCクラスの取引内容を知ることができた。
その取引内容は以下の3つ。
①Aクラスの欲する備品200ポイント分をCクラスのポイントで購入する。
②Cクラスが得た他クラスのリーダー情報をAクラスに教える。
③2学期以降、Aクラスの生徒は龍園に毎月2万PPずつ譲渡する。
つまり、Cクラスが得たリーダーの情報はAクラスにも渡る事になってしまう。
そうなれば、DクラスはAとCにリーダーを当てられて100ポイント失う事になる。しかし、逆に考えればリーダーをごまかす事ができれば、CとA両方に50ポイントを失わせる事ができるわけだ。
そして3日目の午後。浜辺でBクラスの一之瀬さんと神崎君と会った事で、もう1つ重要な情報を得た。
それは、Aクラスのリーダーが戸塚弥彦君だと言う事。
なぜ分かるのかといえば……実は初日、俺と綾小路君は、今のAクラスの拠点である洞窟から、葛城君と同じくAクラスの弥彦という男子が出てくるのを目撃している。しかもその時に葛城君がカードキーを持っているのを確認した。
しかし、一之瀬さん達が言うには葛城君は保守的らしい。保守的な葛城君が、自分がリーダーだと教える様な行動をする可能性は低い。
でも、スポットを占有するのはリーダーでないと無理。
これらをふまえて、Aクラスのリーダーは、その場にいた戸塚弥彦君で間違いないと思ったんだ。
これまでに集めた情報を総合して、俺は勝つ為の作戦を思いついた。
それで、その前準備で堀北さんに声を掛けて俺の作戦に協力する様にお願いしたんだ。
~3日目、午後。Dクラス拠点~
拠点に帰ってきた俺は、焚火の近くに座っている堀北さんに声をかけた。
「堀北さん、少しいい?」
「! ……沢田君。ええ、かまわないわ」
堀北さんの許可をもらい、堀北さんの近くに腰掛ける。
「実は、Dクラスを勝たせる為の方法が見つかったんだ」
「! ……本当?」
堀北さんは驚いた表情になり、周りをキョロキョロしてから、小声で返してきた。
「うん。他クラスに間違ったリーダー情報を流すんだよ」
「え、そんな事できるの?」
「うん、伊吹さんやBクラスの金田君だけど、あれはきっとスパイだと思うんだ」
「ええ、私もそう考えていたわ」
「でしょ? で、伊吹さんはDクラスのリーダーを知りたがっているはずだ。だから、堀北さんがリーダーだって、それとなく知られる様にしよう」
「……でも、それでどうやってリーダーを勘違いさせるの?」
「簡単だよ、伊吹さんがDクラスのリーダー情報を持ち帰ってから、リーダーを変えちゃえばいい」
俺の作戦を聞いた堀北さんは、少し顔をしかめてしまった。
「……なるほどね。沢田君の考えた方法、確かに有効かもしれない。でも、その為には私がリタイアしないといけなくなるじゃない」
……やっぱりそこに喰いついてきたかあ。
「そうだね」
「リタイアは何か理由がなければできないわよ、私もしたくないし」
「大丈夫だよ、Cクラスだって皆元気なのにリタイアしたんだから」
「でも私は……」
「堀北さん、君はリタイアするのに正当な理由があるよね」
「っ!」
俺の言葉に、体をビクッと震わせる堀北さん。
——これはもう間違いないな。
「.……体調、悪いんでしょう?」
「……もう3日も我慢しているわ。それにリーダーがリタイアしたら、ここの占有権もなくなってしまうもの」
「責任があるから、リタイアできないって事?」
「そうよ」
さすがは堀北さん。責任感が強いなぁ。
……まぁ、その心配は無用だけども。
「大丈夫だよ、リーダーを変更すればいいんだから」
「え? ルールだとリーダーは変更不可じゃなかったかしら?」
「ううん、正当な理由があれば変更は可能って書いてあったよ」
俺はリーダーに関するルールを堀北さんに説明した。
「……なるほど、リーダーの体調不良は、正当な理由ね」
「でしょ?」
「だけど、やっぱり私はリーダーから降りたくはないわ」
「……そっか」
堀北さんが俺の申し出を断る。
これは俺の予想通りだ。
彼女の性格なら、限界まで耐えようとするだろうと思った。でもだからこそ、次の言葉は受け入れてもらえるはずだ。
「わかった。リタイアするかどうかは、堀北さんに任せる。でも、別のもう1個のお願いは聞いてほしいんだ」
「何かしら?」
「今日の夜、キーカードを貸してくれない?」
「! どうして?」
「キーカードの偽物を作るんだよ」
「——偽物?」
首を傾げる堀北さんに、俺は初日に茶柱先生に聞いた、キーカードに関するルールを話した。
「……なるほどね。スポットを占有する事が出来なければ、一見壊れてなくても、再発行してもらえるって事ね。そしてキーカード自体は本物だから、見ても物だとは気づかれない」
「うん! そういう事!」
「……でも、どうやって占有機能だけ破壊するのかしら?」
当然な疑問を持った堀北さん。
これについてはフェイクを入れて答える。
「姉妹校の獄寺君がさ、機械に強くてこういうキーカードをいじった経験があるんだって。で、さっき聞いてみたら、占有機能だけの破壊は可能だって言ってたよ」
「……」
堀北さんはしばらく顔を伏せて、考えをまとめ始めた。やがて顔を上げた彼女からは迷いが消えた様に見えた。
「分かったわ、私は沢田君を信じる。あなたの作戦に乗らせてもらうわね」
「! ありがとう、堀北さん。じゃあ夜にでもキーカードをクロームに渡してもらえる?」
「え? 獄寺君じゃなくていいのかしら?」
「うん。人前で渡すのはリスクがあるし、クロームと獄寺君は同じ姉妹校の生徒だから、怪しまれにくいでしょ?」
「それもそうね。わかったわ」
こうして、俺は堀北さんの説得に成功した。
——そして夜の会合。
そこでは龍園君が何かを探して森を徘徊している事。そして、徘徊中の龍園君と綾小路君が接触して、何らかの協力を取り付けたという報告を受けた。
龍園君が探しているのは、おそらくレオナルドとカルメン。
綾小路君は龍園君と一緒に、6日目の午後に何かを仕掛けてくる。でもどうして2人を探しているのか、その理由はわからない。
この2つをふまえて、綾小路君に何かをされたとしても、すでに俺の勝ちが決まっているという状況を作っておく事と、クロームとビアンカに龍園君に探りを入れてもらう事を決めた。
その後、Otto talenti のメンバー達に最終的な作戦を説明した。
俺の考えた作戦は……キーカードの偽物を作り、偽物を伊吹さんに掴ませる。
その結果、AクラスとCクラスにリーダーを誤認させる。
伊吹さんがいなくなったのを見計らい、堀北さんにリタイアしてもらってから、新しいキーカードに新しいリーダーを登録する、というものだった。
偽物を作ってからは、スポット占有のポイントを得られなくなるけど、最終的には200ポイント以上にできるので、クラスメイト達には納得してもらわないといけない。
そして偽物を作るのは綾小路君ではできないから、これなら確実に気づかれることはない。
まぁ、最初からそんな選択肢は選ばないだろうから、綾小路君はキーカードを伊吹さんに掴ませて、逃げ出した後に堀北さんをリタイアさせて、リーダーを変更する、という方法を選ぶはず。
ちなみに、堀北さんをリタイアさせる方法だけど——綾小路君も堀北さんの体調不良には気づいているだろうから、堀北さんの体調不良がピークに達したくらいでキーカードを盗ませると思う。
伊吹さんはデジカメを持っているのだが、それが誰かに壊されていた事からも間違い無いはずだ。写真を撮らせて逃げられたのでは、責任感の強い堀北さんを、リタイアするしかないレベルまで追い込む事はできずに、リタイアを拒否される可能性があるからな。
(正直、俺が堀北さんを説得できるかも賭けだったしね)
そして、綾小路君は俺のやり方が理解できない。つまり、『辿り着きたい結末に向かう過程で、仲間や友達に危害を及ばせない』ことを重要視している俺のやり方を、彼は選びたくないはずだ。
きっと堀北さんを追い込んで、無理やりにリタイアさせようとするだろう。それを裏付けるもう1つの要因として、綾小路君と龍園君が何かを仕掛けてくるのが6日目の午後だという情報がある。
仕掛けてくる理由は、俺に綾小路君の邪魔をさせない為に違いない。綾小路君の作戦は6日目の午後に実行されるが、俺が目撃したら間違いなく止めてしまう作戦だ、という事だからね。
綾小路君の作戦への対抗策としては、綾小路君に何をされても大丈夫な様に、6日目の午後までには俺の作戦を完遂すればいいと思っていた。
また、堀北さんをリタイアさせる為に、綾小路君が何かしようとするなら、クロームの幻覚でビアンカを堀北さんに扮させ、堀北さんの代わりに綾小路君の作戦にかかったフリをして、上手い事躱してもらおうと思っていた。
(正直これが甘い考えだった。綾小路君の頭脳を計り切れていなかったせいで、結局堀北さんの体調は悪化してしまい、倒れてしまったんだ)
作戦の説明後、俺はOtto talenti に指示を出した。
獄寺君には6日日まで綾小路君の監視、6日目からは俺の近くにいてもらって、綾小路君からの工作に備える事。
クロームは基本的に伊吹さんの監視。また別任務として、5日目にはビアンカに『他人からは伊吹さんの容姿に見える幻覚』をかける事。
4日目と6日目にはまたもビアン力に『他人からは堀北さんに見える幻覚』をかける事。
ドナートとアルロには、キーカードの〝スポット占有機能〟のみを破壊する事。
レオナルドには龍園君を監視する事。
カルメンには、Aクラスの拠点に掘った穴からカードキーを回収し、獄寺君に渡す事。
ビアンカにはとても重要な役割を任せた。
まず4日目には、クロームに幻覚をかけてもらう事で、堀北さんの姿や立ち振る舞いや声を完全再現する。そしてその姿で茶柱先生にキーカードの再発行を頼んでもらい、新旧両方のキーカードを持ち帰ってもらうこと。
5日目は、クロームに「他人には伊吹さんに見える幻覚」をかけてもらう。その後にドナートとアルロのカスタムした腕時計を使って連絡を取り、伊吹さんになりすまして龍園君に接触してもらう。その後、どうしてレオナルドとカルメンを探しているのかを聞き出してもらう。
6日目には再度堀北さんに扮してもらい、綾小路君の作戦を、堀北さんの代わりに躱すように指示を出した。
最後に山本。山本には6日目の朝まではレオナルドとカルメンの食糧の運搬。そして、正午からは万が一の時に手助けしてもらえる様に、Dクラスの拠点近くで待機してもらう事にした。
—— 4日目 ——
4日目は、伊吹さんと軽井沢さんの口論で始まった。
おそらく、軽井沢さんの下着を盗み出す事で、Dクラスにイザコザを起こそうとしたんだろう。
クロームのおかげで、未然に防ぐ事ができたので良かった。
そして午前中、獄寺君がカルメンからキーカードを受け取った。ビアンカを呼び出し、計画通りクロームに幻覚をかけてもらう。
~ 4日目午後、教師用施設~
「茶柱先生」
「ん? 堀北か、どうした」
「はい。それが、キーカードがおかしいみたいで、スポット占有の更新ができないんです」
「何? かしてみろ」
茶柱先生はキーカードを受け取ると、近くにあるスポットと同じ様な機械に何回か通して見せた。
もちろん反応はしない。
「……確かに、故障している様だ」
そう言いながら、茶柱先生はジュラルミンケースを取り出し、そこから新しいキーカードを抜き出すと、ビアンカに手渡した。
「これを持っていけ」
「ありがとうございます。……その壊れたキーカードも持っていっても構いませんか?」
「……ああ、別に構わないぞ」
茶柱先生から新旧のキーカードを受け取ったビアンカは、茶柱先生に一礼すると森の中に戻って行った。
帰還したビアンカから、新旧のキーカードを受け取り、新しい方は俺が保管。古い方はクロームから堀北さんに渡してもらう事になった。
それ以降のスポット占有は、キーカードを通すフリだけをする事にした。
伊吹さんがきた時から、念のためにスポットに搭載されたディスプレイには布をかけてあるので、都合も良かった。
そして、4日目は特に必要がないので夜の会合は無しにした。
—— 5日目 ——
5日目も俺や綾小路君、そして龍園君に特に変わった動きはない。
午後になってから、再びビアンカを呼び出してクロームに幻覚をかけてもらう。
今度は伊吹さんに見える様になる幻覚だ。
幻覚をかけた後、ビアンカにはドナートとアルロの所に行ってもらい、腕時計を使って通信をかけてもらう。
『……なんだ、伊吹』
『龍園、少し気になる事があるんだ。どこかで話をできないか?』
『あ? バカが、そんな危険な事できるか』
『……すでに危険を犯して、森の中を探り周ってんでしょ?』
『! ……お前、何でそれを知っている?』
『Dクラスの奴が、あんたを見た気がするって話をしてるんだよ』
『ちっ、あいつか』
『——あいつ?』
『何でもねえよ。今Aクラスの拠点付近にいるから、そこに来い』
『分かった』
見事に龍園君をおびき出したビアンカは、Aクラスの拠点付近に向かった。
相手は無線機で通信していると思っているだろうから、近くまで来といて通信もせずに見つけられないと変に思われる。
だからレオナルドに通信をかけて、あらかじめ龍園君の位置を教えてもらっておいた。
これ以降は、6日目に獄寺君から聞いた龍園君とビアンカの会話の内容だ。
「よぉ、伊吹」
「……龍園。あんた3日で結構変わるんだな。ヒゲモジャじゃないか」
「うるせえよ。……で、気になる事ってなんだよ」
「さっきも言ったけど、何で森の中をウロウロしてるんだよ。誰かに見られたらどうするんだい」
「……姉妹校のあいつらを、探してんのさ」
「!はあいつらなら、リタイアさせたんじゃないのか?」
「いや、姉妹校の他の生徒は、島の裏にある遊園地にいるらしい。だから、あいつらもリタイアしたらそこに向かうはずだ。……でもな、その為には船で回りこまないといけない。試験の舞台である島の方から遊園地に行く道はないからな。なのに、あいつらは森の中に入って行った。おかしいだろ? リタイアするのに森の中に戻るなんてよ。だから、あいつらは何かの目的で、まだリタイアできねぇんだと分かったのさ。つまり森の中に向かったのは、潜伏する為以外には考えられないんだよ」
「……本当に道はないのか?」
「ああ。初日に石崎達に森の中を調べさせた。その時に、森と遊園地のある土地の境目も確認させた。あれではどうしたって遊園地のある方に行くことはできない」
(·ほう。一般人にしては、中々の頭脳をお持ちのようですわね)
「なるほどね。で? もし見つけたら、そいつらをどうするんだ?」
「なぜリタイアしないのかを吐かせた後、俺に忠誠を誓わせる」
「は!? なんで? 姉妹校の連中でしょ?」
「……姉妹校との交流が1回あった。しかも特別試験でだ。こうなると、別の特別試験でも姉妹校の奴らと組まないといけない可能性は高い。そしてその時、俺の言う事を聞く人間が、姉妹校側にもいるとやりやすいからな」
「! なるほど、アンタらしい考えだね」
......という訳で、龍園君は裏から表マフィアランドに行くには船を使わないといけない事を見抜いていて、レオナルドとカルメンがリタイアしていない、という結論を導き出したらしい。
これで2人を探す理由も分かった。
龍園君は。姉妹校にも自分の言う事を聞く手下が欲しいって事だ。でも、どうやって2人を自分に従わせるのかも気になる。その方法を知る為に、6日目にレオナルドとカルメンには龍園君に接触してもらう事にした。
—— 6日目 ——
そして運命の6日目。
この日は俺も綾小路君も作戦を実行する日だ。
午前中は綾小路君に怪しまれない様に、獄寺君と共に池君達と川で遊んだ。
正午を迎えると、急に天候が怪しくなってきた。このままでは雨が降るかもしれない。
雨が降ったら、堀北さんの体調が悪化してしまう。なので、少し早めに作戦を実行しようと動き出した——その瞬間。
綾小路君から、声をかけられてしまったのだ。
〜6日目、正午〜
「おい、沢田」
「! 綾小路君、どうしたの?」
少しの間を置いて、綾小路君は淡々と用件を話し始めた。
「1時間くらい前に、櫛田と佐倉の2人が森の中に入っていった」
「うん」
「……で、そのまま森の中で消えた」
「——は?」
意味が分からなかった。いきなり何を言い出すんだと思っていたら、綾小路君は続きを語り始める。
「森の最深部に向かって行ったんだけどな、そこで急に消えたんだよ」
「……」
「そういえば森の最深部って、この島の端っこで、少し高い崖らしいぞ。その島の端っこで急に消えたなんて……海に落ちない限り、有り得ないと思わないか?」
「なっ!」
綾小路君は、何一つ表情を変えずに俺の事を見ている……そんな姿に俺は、無意識の内に綾小路君の肩をガシッと掴んでいた。
「……したの?」
「君が突き落としたの?」
「そんな事はしていない」
「2人は無事なの?」
「無事だと思うぞ? ……今はな」
「今は……って、なんだよ」
「知っているか? この時間、島は干潮なんだよ」
「……干潮」
「後は行って、確かめろ」
一切の罪悪感を感じさせない綾小路君。
俺は彼の肩からゆっくりと手を離して、森の方へ方向転換する。
そして、ズボンのポッケから、クロームに貰っていた丸い物を口に放り込んだ。
——ゴクッ。
走り出す直前、俺は綾小路に一言だけ告げる事にした。
「……綾小路」
「! ……なんだ?」
「後で、きちんと説明してもらうからな」
それだけ言い残し、俺は全力疾走で森の中を進んで行った。
……この時に俺が飲み込んだのは、当日の朝に渡された、クローム特製の小言丸の有幻覚だ。
中にクロームが霧の炎を閉じ込めてくれているので、飲み込めば、激 死ぬ気状態に近い状態になる事ができるらしい。
俺は死ぬ気状態で森の最深部まで走り抜けた。
しかあしこの時、俺は怒りで気づく事ができていなかった。綾小路君の作戦に備えて俺の側にいたはずの、獄寺君の姿が見えなくなっていた事に。
~6日目、森の最深部~
全速力で走り、森の最深部に着くと、森の地面の終わりが見えた。
(あれが綾小路の言っていた崖か)
崖に近寄ると、道の終わりの先には海が見える。ここから海面まで大体15mくらいだろうか。
桔梗と佐倉が無事である様に祈りながら崖下を覗き込むと、真下には楕円形の全長3mくらいの小さい砂浜が見えた。
そして、その上に何やら白いものが敷かれていて、その上に桔梗と佐倉が項垂れて座り込んでいる。
俺は大声で2人に呼び掛けた。
「桔梗、佐倉、大丈夫か!」
『! ツナ君!(沢田君!)』
俺の大声に反応して、2人が崖の上を見上げる。
2人ともすごく不安そうな顔をしている。
「怪我はないか!?」
「う、うん! 怪我は特にないよ!」
「わ、私もっ!」
よかった。とりあえず、2人とも怪我がないようだ。
——しかし、15メートル上から落下して怪我がないなんて、2人とも強運の持ち主だな。
いや、そんな事を考えている暇はない。
早く2人を助けてやらないと。
俺は崖を伝って、2人がいる砂浜まで降りた。
「わっ! ツナ君、危ないよ!」
「だ、大丈夫!?」
崖から降りたものだから、2人に俺の体を心配させてしまった。
「大丈夫だ。すぐに上に上がろう。……ん? この下に敷いてあるのは……」
砂浜に敷かれていたのは、今回の試験で最も高い備品、高級マットレスだった。しかも2枚重ねられている。
「マットレス?」
「あ、うん。私達、目が覚めたらこの上に寝ていたの。なんでこんな所にいるのか分からなくて怖かったんだけど、ツナ君が来てくれて安心したよ」
「……そうか」
砂浜と海。そして崖を見回して、2人が無事な理由と、綾小路が言っていた「今は無事」という言葉の意味を悟った。
まず、下に敷かれたマットレス。これは夜の会合でドナートから聞いた事だが、備品の1つである高級マットレスはボンゴレが開発した優れものらしい。
その素材は、高所からの飛び降りスタントなんかに使われるマットの、数倍の衝撃吸収率を持っているらしい。
更に、1つのマットレスに10人の成人男性が毎日寝たとしても、10年はへたらない程の耐久性もあるそうだ。
この素材を2枚敷く事で、15mの落下の衝撃から2人の身を守ったのだろう。……でもそうなんだとしたら、マットレスの性能を見抜き、そして正確にそこに落下するように、計算しないといけないはず。
綾小路はそれを可能にするほどに優れた頭脳を持っていると言う事か?
またDクラスはマットレスを買っていないから、龍園にCクラスの購入した物を準備させたのだろうか。
次に、綾小路の言っていた「今は無事」という言葉の意味。
よく見ると分かるが、海面から5mくらい上の崖面に、海面に近い所に生息する貝が何匹かくっ付いているのだ。
これから分かることは、少なくともその貝がくっ付いている場所までは、海面が上がるということだ。
波が行くだけでは貝が住み着く事はない。つまり、あそこまで海面が上がる時間が数時間はあるのだろう。
ここでもう1つ綾小路の言葉を思い出す。
『この時間、島は千潮なんだよ』
干潮、つまり時間が立てば、今よりも海面は上に上がると言う事。
やっぱり間違いない、満潮になれば貝がくっ付いている所……ここから5mくらい上まで、水位は上昇する。今いる砂浜は、完全に海の中に沈んでしまうだろう。
しかしこの砂浜から抜け出すには、崖を登るか、海を泳いで最初に上陸した砂浜を目指すしかない。
2人は崖を登る事は出来ないだろうし、ここは森の最深部。砂浜とは真反対に位置している為、砂浜までは森の中を直線的に走っても15分はかかる。
泳いで回り込むとなれば40分以上は泳ぎ続けないといけないだろう。
(なるほどな。確かに今は無事だ。だが、満潮になったら、砂浜にたどり着く前に疲れて溺れてしまう可能性がある。——綾小路と龍園。お前達はどうしてこんな事ができるんだ……)
綾小路と龍園に怒りを覚えるが、今は2人を助ける事が最優先だ。
「結梗、佐倉。今から1人づつ背中に背負って、崖を登るぞ」
「えっ!? そんな事できるの?」
「さ、沢田君。危ないよ」
俺の言った事に、2人共驚いた顔になった。
しかし、助けるにはこの方法しかないんだ。
この時に獄寺君がいない事にも気づき、その為に山本とも連絡が取れない事に気づいた。
「大丈夫だ、中学の時に崖を登るのには慣れてる」「そ、そうなの?」
「で、でも」
俺はまず、渋る佐倉の腕を掴んで、自分の首に回させた。
「えっ、ええっ!?」
顔を真っ赤にする佐倉に、冷静に話しかける。
「悪い。2~3分でいいから、全力でしがみついてくれ」
「あわわわ/// わ、わかりました」
佐倉の手に力が入ったのを確認すると、俺は崖を登り始める。
慣れたものでスイスイとの登って行き、2分程度で、森最深部まで到達する事が出来た。
森の地面に佐倉を下ろすと、ヘナヘナと座り込む。
無理もない。怖い思いをさせてしまったからな。
「佐倉、ここで待っていてくれ。もう一度降りて桔梗を連れてくる」
「う、うん」
もう一度崖を伝って砂浜に降りると、桔梗が手をパチパチと叩いていた。
「すごいねツナ君! 崖を登っちゃうなんて!」
「まあ鍛えてるからな」
そんな会話をしつつ、俺は桔梗の腕を自分の首に回させる。すると、桔梗が耳元で何やら囁いてきた。
「ふふっ、ツナ君、本当に助けてくれたね♪」
「……当たり前だろ」
「おお~、かっこいいこと言うねぇ♪ ……って事は~、私はツナ君にとって、守るべき大切な人になれたって事かな?」
「!」
その時、ランニング中に桔梗と話した事を思い出した。
『そっか~。あ、ねぇねぇ。それじゃあさ、私が沢田君の大切な人になれたとしたら、沢田君は私を守ってくれるって事?』
『え? う、うん。もちろん』
『私が助けを求めたら、必ず助けてくれる?』
『うん。必ず』
『ふふふっ♪ そっか!』
「……あの時から、すでに結梗は守るべき大切な人だったぞ」
「——っ! そ、そう?」
「ああ。佐倉もな」
「……むぅ~、最後のは言わないで欲しかったかな?」
むくれながら、桔梗は更に強くギュッと俺にしがみついた。
その後、俺は再度崖を登って森の最深部に戻った。桔梗を下ろすと、桔梗は安心したのか大きなため息を吐いた。
「はぁ~、怖かったあ。本当にどうしようかと思ったよぉ」
「もう大丈夫だ。さぁ、佐倉も連れてDクラスの拠点に戻ろ……佐倉?」
3人で帰ろうと佐倉に声をかける。しかし、佐倉の姿が見えなくなっていた。
「佐倉! どこに行った!?」
「え? 佐倉さんどうしたの?」
桔梗と2人で周囲を見回していると、茂みの奥から薄ら笑いが響いてきた。
「ククク……」
「! 誰だ」
笑い声がだんだんと近づいてくる。やがてその声の主が俺達の前に姿を現した。
「よお、猿のパシリ。探してんのはこの女か?」
(ん〜!)
「……龍園」
「え? なんで龍園君がいるの?」
声の主は龍園だった。龍園は、佐倉の口元と片腕を押さえ込んでいる。俺が砂浜に降りた隙に、待たせていた佐倉に接触したらしい。
「……2人を下に落としたのは、お前か?」
「そうだ。あいつに言われた通りにな」
「言われた通り……か」
と言う事は、綾小路が龍園に指示を出したって事か。よく綾小路の言う事を素直に聞いたものだな。
「目的はなんだ?」
「お前には猿を退学にさせるのを邪魔をされたからなぁ、そのお礼がしたいと思ってたのさ」
「……俺に何をさせたいんだ?」
龍園がギロッと睨みつけてくる。そして、奴はゆっくりと語り始めた。
「簡単だ」
そう言いながら、足で地面をトントンと踏みしめる。
「土に額をこすりつけて土下座しろ。そうすればこの女は解放してやる。断るなら、試験終了までこの女は俺のおもちゃだ」
龍園のその言葉で、佐倉の顔が恐怖に歪む。
そして佐倉は目を潤ませながら、必死で俺の顔を見つめ始めた。
「……最低。ツナ君、どうしよう」
桔梗が龍園に軽蔑の視線を向けながら、俺にそう聞いてきた。
「大丈夫だ。佐倉は助ける」
「! ツナ君、土下座する気?」
「ああ、それであいつの気が済むならな」
喧嘩をして龍園を押さえつけるのは可能だろう。
しかし、龍園なら俺が暴力を奮ったと先生に報告するに決まっている。
須藤の一件から考えても、Cクラスの担任は龍園の作戦を援護しようとするはずだ。それだと龍園から仕掛けてきたと証明するのは難しい。龍園しか怪我を負わないからな。
だから、ここは龍園の望みを叶えるのが1番佐倉に取って安全な助け方だろう。
俺の言葉を聞いて、龍園は嬉しそうに笑った。
「ははは! 正しい判断をするじゃねぇかパシリ。なら、俺の足元で土下座しろよ」
「わかった」
龍園の足元に跪き、額を地面に擦り付けて土下座をしてみせる。すると、龍園は俺の後頭部を強く足で踏みつけた!
俺の顔が地面にめり込んだのを見て、龍園は嬉しそうに笑った。
「はははっ! 土で少しはいい顔になるといいなぁ、パシリよお」
「ちょっ! やめてよ龍園君!」
「あ? そんな事言ってると、お前もおもちゃにすんぞ?」
「……っ」
俺を助けようと桔梗が龍園に文句を言うが、龍園に一蹴されてしまう。
(龍園の奴め……。さて、どうやってこいつから離れ——っ! この気配は……)
とある事に気づいた俺は、龍園の足を頭に乗せたまま全力で勢いよく立ち上がる。
(すくっ)
勢いよく立ち上がったから、龍園は体勢を崩し地面に倒れ込んだ。
「なにっ!」
「佐倉、こっちに来い!」
「う、うんっ!」
龍園が倒れた事で解放された佐倉を、急いでこっちに来させる。これで人質はいなくなったな。
倒れた龍園は、舌打ちをしながら立ち上がってきた。
「ちっ、だが残念だったな。そいつがいなくても、お前を逃がしはしねぇよ」
「残念なのはそっちだ、龍園」
「……あ? 何を言ってやがる?」
「こっちには、最強の助っ人がいるからな」
「……助っ人だと? はっ、誰の事だよ?」
「——俺の事だろ?ツナ」
「は?」
助っ人発言を鼻で笑おうとする龍園の言葉に、親友の頼もしい声が重なった。
声の聞こえた方に目を向けると、ニコニコ笑顔の雨の守護者が立っていた。
「ナイスタイミングだ、山本」
「へへっ、そうだろ?」
俺とハイタッチを交わした山本は、龍園の前に立った。
「……お前、Bクラスに配属されてた、姉妹校の奴だな?」
「山本武。悪いな龍園、助っ人とーじょーだ」
「……くそ」
2対1である事。そして山本の力量を無意識に感じ取ったのか、龍園は思わず後ずりをする。
「……ここは引くしかなさそうだな。あんまり派手に暴れる訳にもいかねぇし、もう十分パシリの足止めはしたからな」
そう捨て台詞を残すと、龍園は森のどこかに逃げて行ったのだった……。
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