ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作4巻編 その③王 美雨

 

「うぅぅ……」

「……」

 

 物陰から、すすり泣いている王さんを見ていた。

 

(——声をかけていいものか。聞かれたくない事もあるだろうし)

 

 声をかけるかどうかで迷っていたけど、泣いてる女の子を放っておく事はできない。

 

 階段の踊り場に出ると、俺は王さんに声をかけた。

 

「王さん、大丈夫?」

「! 沢田君!」

 

 王さんは急に現れた俺に驚いたのか、勢いよく立ち上がって、服の袖で目を拭った。

 

「……もしかして、聞いちゃった?」

「ごめん。偶然近くにいたものだから」

「ううん。それなら仕方ないよ」

 

2人の間に沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、王さんだった。

 

「……あの、沢田君。ちょっとお茶でもしない?」

「え?」

「さっきの話、もう聞かれちゃったし。全てを教えておこうかと思って」

「でも、言いたくない事じゃない?」

「まぁね。……でも、沢田君には伝えたいんだ」

「そっか。じゃあカフェテリアに行こうか」

 

 こうして、俺達はカフェテリアで話をすることになった。

 

 

 

 —— 船内、カフェテリア ——

 

 

「あ、カフェオレを1つ下さい」

「私はオレンジジュースを」

「はい、かしこまりました」

 

カフェテリアの席に座り、飲み物を注文する。

やがて頼んだものが運ばれてくると、王さんはオレンジジュースを一口飲んでため息をついた。

 

「(ゴクっ)……はぁ」

 

 喉を潤した王さんは、真剣な表情になってゆっくりと口を開いた。

 

「さっきの会話を聞いてればなんとなく分かったかと思うけど。同じ巳グループの1人、Aクラスの王小狼君は私の双子の兄なの」

「……そうなんだ」

 

 言われてみれば、小狼君の顔は王さんとよく似ていた気もする。

 

「私達は王一族の分家の子として生まれた。でも生まれてすぐに、私は今の両親に引き取られたの」

「え、今の姓も王だよね? 親戚か何かなの?」

「うん。今の私の父親は、本当の母親のイトコに当たるの。今の両親は本家の人間で、本家なのに子供がいない事に悩んでいたらしいんだ」

「……本家に子供がいないから、分家から子供を養子として引き取ったって事?」

 

(本家と分家の違いとか色々とあるんだろうけど、それでも分家から子供を奪うなんて事するのかな?)

 

 なんとなく感じた俺の疑問に、王さんは首を横に振って答えた。

 

「そんな単純な話ではないの。沢田君は、忌み子と呼ばれる者を知ってる?」

「い、一応は」

 

 忌み子とは、望まれずに生まれた子供、もしくは呪われた子の事だ。

 

 昔の日本では、双子の事を忌み子と読んで差別していた事もあるらしい。

 

「中国でも、双子は忌み子とされてたの?」

「うん。現代では消え去った古い悪習なんだけど、中国には今だに双子を忌み子と呼ぶ人達も多いから。そして、王一族はそんな古い考えを今でも持っている一族の筆頭。……王一族は中国でも歴史の長い一族だから、仕方ないのかもしれないけど」

 

 王さんは悲しそうな顔になるが、もう一口オレンジジュースを飲んで、落ち着いてから話を続ける。

 

「沢田君、中国に最近まであった政策は知ってる?」

「政策? あ、1人っ子政策の事? でも、双子は特例で認められてたんじゃないの?」

「そうだね。国自体は多胎児を特例として認めてた。でもその特例が当てはまらない者もいるんだ」

「え? なんで?」

「中国では、一族によって独自の法律が決められていたりするの。そして私の王一族は、双子を産むことは絶対にしてはならない禁忌と定めていたんだって」

「……理解できないよ」

 

 俺のその言葉に、王さんは苦笑する。

 

「ふふ、そうだよね。私も理解できない。でもてそれを良しとする古い人間もいるんだよ」

 

 そう言う王さんの顔は、とても悲しそうだった。

 

「それで、忌み子であり一族の禁忌とされる双子を生んだ私の実の両親は……中国からの追放処分を受けた」

「! 追放処分!?」

「王一族は中国の中でもそれなりに影響力のあるからね。禁忌を犯した人物を国に置いていては、都合が悪いとでも考えたんだよ」   

「……酷い話だね」

「うん。……そして、実の両親は国を去る事になったんだけど、そんな両親を助けようとした人達がいた。それが今の両親なんだ」

(なるほど。本家の人が、助けようとしてくれたのか)

「今の父親と本当の母親はとても仲の良いイトコだったそうだよ。だから、古い考えによってその家族が不幸になって欲しくないと思った今の父は、中国人の知り合いが住んでいるイタリアに両親を渡らせてくれたの。その知り合いに生活を立て直す手伝いをする様にお願いした上で」

「そっか。優しい人達なんだね」

「うんっ。とっても優しい——大好きな両親だよ」

 

 今の両親の事を考えたからか、王さんは少しだけ優しい表情になっていた。

 

「実の両親は、そのお礼として子供のいない今の両親に私を預けた。双子を育てるのは大変だし、女の子には辛い思いをさせたくないからって言って」

「……そうなんだ」

「それから、今の両親は私の事を実の娘の様に可愛がってくれた。私も今の両親が本当の親じゃないとは全く思う事もなく、王一族本家の1人娘として生活を送っていたの。たとえ本家の娘でも、忌み子の片割れだと知られたら迫害を受けてしまうから、私の事は一族には養子という事にしていたみたい。だから、私は今の両親以外の王一族の人間に一度も会った事はなかった」

 

 

 優しい両親のおかげで、自分の出生の秘密を知る事もなく過ごしてこれたんだな。

 

「私を育てる傍ら、イタリアに渡った両親にも度々仕送りをしてくれていたみたい。私だけでなく、小狼の成長も見守っていてくれたってことね」

「うん」

「そして月日は流れ、私が13歳になった頃。——幸せだった日常は、突然終わりを迎えた」

「! 何があったの?」

「突然、本当の両親と小狼が本家を訪ねて来たの。怪しげな格好をした何者かを連れて」

(……怪しげな格好をした何者か?)

 

 ここから、王さんの纏う雰囲気が少し変わった様な気がした。

 

「家族で応対した私達に、実の父親は手土産だと言ってあるモノを投げつけた。それは私の近くに着地して、私の足元まで転がって来た。止まったそれをよく見てみると……それは人の生首だった」

「っ!」

 

 王さんは両手を組んで、ガタガタと震え出した。

 当時見た光景がまだ脳裏に焼き付いているんだろう。

 

「実の父親は、生首を見て悲鳴を上げる私達にこう言った。『今日から王一族は生まれ変わる。俺達を本家として、全く新しい崇高な一族へと変わるだろう』と」

「……」

「詳しい話を聞けば、実の両親は私達以外の王一族を全員虐殺していた。私達を殺さないのは昔助けようとしてくれたお礼だとも言ってた」

 

 追放された事への復讐で、虐殺をしたって事なのか?

 

「それから、実の両親達はさらに話を続けたの。『自分達と一緒に、新たな王一族で世界を獲らないか?』と。今の両親はもちろん拒み、むしろ警察に自首をしろと進めた。でも、実の両親はそんな両親を殴りつけ、背後に控えていた怪しげな格好をしている人達に指示を出して、私達を拘束したんだ」

「……拘束なんて」

「拘束された私達に、実の両親達はこう言った。『この世界で覇権を握る王と女王に逆らうなら、お前達には地に堕ちてもらわないとな。今日から、お前達は奴隷だ』と」

 

 奴隷、しかも世界を獲るなんて。

 一般人にそんな事を出来るのか?

 

 ——まるでマフィアじゃないか。

 

「そして、私達家族は日本に渡った。クラスの皆には親の仕事の都合で日本に留学したと話してるけど、本当は実の親の命令で日本に来たの」

「なんで日本だったの?」

「それは……」

 

 言い淀みつつ、王さんは俺の事を見つめた。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「日本にボンゴレX世の候補者がいる、という噂があったから」

「!」

 

 ……なんで王さんがボンゴレの事を?

 

 それに、なんで俺の事を見ながらボンゴレX世と口にした?

 

 まさか王さんは、俺がボンゴレX世である事を知っているのか?

 

「……ボンゴレ、X世」

「うん。つまり、君がいるから日本に来たんだよ」

「!」

 

 今、王さんはハッキリと俺がいるから日本に来たと言った。やっぱり、王さんは俺がボンゴレⅩ世だと知っているって事だ。

 

 13歳の時に日本に来たって事は……俺がちょうどリボーンと出会った頃か。

 

 その時にはもう、日本にボンゴレの次期ボス候補がいるって噂になってたんだろう。

 

「——目的は?」

「……ボンゴレX世の候補者を、始末する事」

「そうか……でも、俺は君に会ったことがないと思うんだけど」

「それは、なぜか日本に渡ってすぐに待機命令が出たからだよ。今はボンゴレX世に手を出すなってね」

「何で?」

「ボンゴレの抱える、最強のヒットマンが守っているからだって聞いたよ」

(……なるほど。リボーンがいるから危険だと判断したわけか)

 

「……それから中学を卒業するまで、特に何かを命令されるわけでもなく、普通の生活が出来てた。父も日本の企業に就職して普通に働いていたしね。でも、中学を卒業する頃。家に帰ってる時に実の両親が現れたの。そして、高度育成高等学校に入学しろと言ってきた。断るなら今の両親を消すとの脅しの言葉付きで」

「この学校に入るように命令された……それも俺が入学するから?」

 

 俺の言葉に王さんはコクリと頷いた。

 

「そう。在学中はボンゴレから守られる事もないという情報があるから、今度こそボンゴレX世を始末する為に、ね」

「……」

 

 今俺は、自分を殺すために入学しましたというクラスメイトと面と向かって話をしている。

 それなのに、驚くほど冷静に話が出来ているのは……きっと、王さんから敵意とか殺意を微塵も感じないからだろう。

 

 その考えが正しかった事は、次に発した王さんの言葉で分かった。

 

「——だから沢田君。小狼には気をつけて! 海上に囚われている今、証拠隠滅がしやすいからって命を狙ってくるかもしれない!」

「王さん……」

 

 王さんの瞳には涙が浮かんでいる。本気で俺の事を心配してくれているんだろう。

 親の命を握られている状況でも、俺に警告をしてしまうくらいに。

 

(……もしかしたら、さっき泣いてたのも、俺と小狼が一緒のグループになってしまった事を悲しんでくれてたのかもしれないな)

 

「うぅぅ……」

「……」

 

 目に溜まってた涙が流れ出した王さんの手を、精一杯の笑顔を見せながら掴む。

 

「! さ、沢田君?」

「ありがとう、王さん。俺の事を心配して情報まで教えてくれて。大丈夫、安心して? 俺は殺されたりなんてしないから」

「……本当に?」

「うん。——だから教えて? 君の実の両親は何者なの?」

 

 王さんは服の袖で涙を吹き、ゆっくりと答えてくれた。

 

「私の実の両親は、イタリアのとある組織をお金の力で乗っ取ったの」

「買収ってこと?」

「うん。商才ある何者かと手を組んだらしくて、イタリアで起こしたビジネスで巨額の富を築き上げた実の両親は、そのお金を使ってマフィアからファミリーの実権を買い取ったんだ」

「——マフィアか。そのファミリーの名は?」

「……ジョーコファミリー」

「!  ジョーコ!」

 

 つい最近、耳にしたばかりのその名前。

 俺は驚きを隠せなかった。

 

「じゃあ、君の実の両親がジョーコのボスなの?」

「そうだよ。実の父が『原罪のキング』、母が「贖罪のクイーン』。そして、小狼は次期ボスに当たるね」

「……そんな」

 

 ジョーコが攻めて来たら迎え撃つつもりだったのに、まさかボスがクラスメイトの実の家族だったなんて。

 でも、狙われている以上は対処しないわけにはいかない。

 

 再び2人の間に沈黙が流れる。

 でも、今度は俺がその沈黙を破った。

 

「王さん」

「……うん」

「もし、ジョーコファミリーがボンゴレや高度育成高等学校を狙って来たら、俺は皆を守るために君の本当の両親と戦わないといけなくなると思う」

「……うん」

「……でも、君や今の両親を、ジョーコの支配から救い出す事もできるはずだ」

「! ほ、本当に?」

 

 王さんが震えた声で訪ねて来た。

 

「うん。それは約束する、絶対に救い出す。でもその為には、君は本当の両親と兄に敵対する事になる。それでも大丈夫?」

「……」

 

 俺の問いに、王さんは少しだけ考えてから答えてくれた。

 

「私の両親は、今の両親だけ。あの日、拘束された日からあの人達を親だと思っていないの。……でも」

「……でも?」

「それでも、血の繋がりは消せない。だから、両親達にはマフィアから足を洗ってほしい。そして小狼には、中学までの私の様に普通の幸せを味わって欲しい」

「うん。そっか」

 

 やはり、王さんは優しい。どんなに酷い事をされていても、家族であった事には変わりない。だから、裏の世界から救い出したいと思っているんだ。

 

 王さんはDクラスのクラスメイトで、すでに俺が守るべき人物だ。

 そんな彼女が、俺に助けを求めるなら。

 ——俺はそれに答える必要があると思う。

 

「わかったよ。俺が必ず君と両親、そして兄と実の両親を救い出す。だから安心していいよ、王さん」

「……本当にいいの? 自分の命を狙っている敵なのに」

「いいよ。俺は元々戦いは嫌いだから。それに大切なクラスメイトからの願いだし、叶えてあげたいって思うのは当然だよ」

「うぅぅ……ありがとう、ありがとう」

 

 王さんは俺の手を握り返し、何度も頭を下げた。

 俺は「いいんだよ」と言いながら、しばらく王さんを宥め続けた……。

 

 

 —— 5分後 ——

 

 

「ご、ごめんね? しばらく泣き続けちゃって」

「全然気にしなくていいよ」

 

 5分程泣き続けて、ようやく王さんは泣き止んだ。

 落ち着いた様なので、これからの話をしようとしたその時、後ろから誰かに声をかけられた。

 

「あれ? みーちゃんじゃないですか。どうして目が赤いんです?」

「えっ!?  あ、ひよりちゃん!」

「ん?」

 

 声をかけて来たのは椎名さんだった。

 呼び方からして、前から仲が良かったんだろうか?

 

「大丈夫ですか? もしかして、沢田君に泣かされたんですか?」

「えっ!? い、いやそうだけど、違うって言うか~」

 

 いや、それだと俺が泣かした事になるよ?

 ……まぁ間違ってはいない、のか?

 

 王さんの反応を見て、椎名さんは少しほっぺを膨らませて俺に詰め寄って来た。

 

「沢田君。みーちゃんを泣かす事は、私が許しませんよ?」

「い、いやね? 別に泣かしたわけじゃ」

「そ、そうだよ? 別に酷い事されたわけじゃないし、むしろ相談に乗ってくれてたんだから!」

「むう? そうなんですか? それならいいのですが」

「そ、そうだよ! あ、ねぇ、せっかくだからこのまま3人でお茶しない?」

「あ、沢田君とは今度お茶をする約束をしてましたし、ちょうどいいですね」

「良かった~。あ、沢田君も大丈夫?」

「う、うん。もちろん」

 

 と、いうわけで。しばらくの間3人でお茶を飲みながら談笑する事になった。

 

 そして、成り行きで2人は俺の事をツナ君と。

 俺はひよりちゃんとみーちゃんと呼ぶ事になった。

 

 

 

 —— お茶終わり ——

 

 

 

 お茶が終わり、2人と別れた後。

 俺は人気のない地下施設にやって来ていた。

 

「……」

 

 キョロキョロと辺りを見回し、誰もいない事を確認してから壁の一部に向かって声をかけた。

 

「リボーン、いるんだろ?」

 

 すると、声をかけた壁の一部が動き出し、中からリボーンとコロネロが出て来た。

 

「ちゃおっす。よく見つけたな、ツナ」

「観察眼が鍛えられてるようだな、コラ!」

「コロネロもいたんだ。……うん。この船もボンゴレが作ったんだろうし、それなら絶対にリボーン用の隠し通路とかがあると思ったんだ」

「よしよし。きちんとシンキングしてるようだな。……で、用件はジョーコの件か?」

 

 リボーンは要件をずばり言い当てた。

 思った通り、リボーンは俺の様子を観察していたようだ。

 

「うん。クラスメイトの王さんなんだけど、彼女の今の両親をボンゴレで保護したいんだ」

「ほぉ。さっきのセリフはただのカッコつけじゃないって事か」

「もちろんだよ。まだボンゴレは9代目の指揮下だけど、俺にもボンゴレを動かすくらいの権限はあるだろ?」

「ふん。そうだな。それはもちろんあるぞ」

「だろ? だから、命を握られてる王さんの両親を保護しに向かってほしいんだ」

「……いいだろう。美雨の事はどうするんだ? 同じグループにジョーコの次期ボスもいるんだろ?」

「それは俺が守る。学校での出来事にボンゴレから干渉はできないんだろ? だったら俺が守るしかないよ」

 

 俺の言葉を聞いたリボーンは、ニヤッと笑った。

 

「言う様になったじゃねぇか。いいだろう。俺から9代目に連絡して、人員を選定してもらう」

「ありがとう! じゃあ頼むな!」

 

 

 ——去っていくツナの背中を見ながら、リボーンとコロネロは生徒の確かな成長を感じていた。

 

「……なんか、男になってきたな。コラ!」

「ふん。まだまだお子ちゃまだがな。俺の様なダンディーな男まではほど遠いぞ。でも、確実に成長していってる事だけは確かだな」

「ふん。素直に褒めてや……」

 

 ——ブブブ。

 

 コロネロの通信機が振動しているようだ。

 コロネロは素早く通信器を取った。

 

「こちらコロネロ。なんだ、コラ!」

(もうじき、そちらに親方様が到着されます)

「あ? なんで家光が?」

(なんか、可愛い息子と昔の生徒に会いにいくとか)

「何だその理由は! コラ! 情報を掴んだとかじゃないんか!」

(すみません、止められませんでした)

「もういい! とにかく用件は聞いたぜ、コラ!」

 

 コロネロは乱暴に通信器を切った。

 

「家光が来るのか?」

「ああ」

「なんでだ?」

「知らん! 愛しの息子に会いに来るらしいぞ、コラ!」

「そうか……」

 

 その後、2人は壁の通路の方に戻って行った。

 

 

 

 ——  夜8時、2階巳部屋 ——

 

 

 結局、平田君達と情報交換をする時間もなく、夜の8時になってしまった。

 

『……』

 

 夜のグループディスカッションでも、Aクラスは試験放棄の姿勢を崩さない。

 

「……困りましたね」

 

 ひよりちゃんも困っているようだ。

 B~Dクラス内での話し合いも、1時間も持つわけもなく、実質30分くらいしか実のある話は出来ていなかった気がする。

 

「……あと4回の話し合いで、優待者を見つけられるのかな?」

 

 夜のグループディスカッション終了後、佐倉さんがそんな事を呟いた。

 

「が、頑張ろう!」

 

 俺にはそんな事しか言ってあげれない。

 だって優待者は俺だからな。

 

 

 

 —— 客室フロア、ロビー ——

 

 

 堀北さんとの集まりには少し時間がある。

 なので、客室フロアのロビーで同室(高円寺君は抜く)のメンバーで情報交換をする事になった。

 

「それで、皆のグループはどう?」

「兎グループは膠着状態だ。Aクラスが話し合いを放棄してる」

「……だなぁ」

「巳グループもだよ、Aクラスのメンバーが話し合いには参加しないって言ってるから、話し合いが全然進まない」

「そうか。それはAクラスの作戦なんだろうね」

 

 平田君の言う通り、葛城君の作戦なんだろうな。

 提供できる情報はこれくらいかと思っていたら、平田君は周囲を確認してからさらに話を続けた。

 

「……実は、Dクラスに優待者が1人いる事を確認したんだ」

「!  誰だ!?」

 

 平田君の話に幸村君が食いついた。平田君は学生証端末のメモ帳に何かを入力してから、俺達にスマホの画面を見せて来た。

 

『優待者は、櫛田桔梗』と表示されている。

(桔梗ちゃんも優待者なのか、これでDクラスの優待者は2名いる事が分かった)

 

「……学校の公平性から考えれば、優待者は各クラスに平等にいる可能性が高い。だとすれば、あと2名はDクラスにも優待者がいる事になるな」

 

 幸村君が顎に手を添えながらそう言った。

 

(4クラス×3人で12グループって事か)

 

「……」

「……」

 

 無意識の内に綾小路に視線を向ける。すると、綾小路君もこっちを見ており、俺に向かって頷いた。

 

(お、以心伝心?)

 

 自分も優待者である事を伝えるかどうか迷っていたけど、綾小路君からもOKが出たから報告してしまおう。

 

「皆、俺からも言いたいことがあるんだ」

「どうした、沢田」

「何かな?」

 

 幸村君と平田君の視線を集めてから、俺は学生証端末のメモ帳に文字を入力し始めた。

 そして、入力し終わったメモを2人に見せる。

 

 画面には『俺も優待者だよ』と表示されている。

 

「!」

「!  ……そっか」

 

 

 メモを見て、平田君と幸村君は考えこみ始める。

 

「……やはり、各クラス3人ずつ優待者がいる可能性は高いな」

「そうだね。その人物が分かれば、優待者の選定方法も分かるかもしれない」

「だな。でも、残りの1人が自白してくれるかは分からないがな」

「うん、そこは本人の意思次第だしね」

 

 それから、俺達はもう1人の優待者が分かれば共有しようと約束して分かれた。

 

「……沢田、もうすぐ堀北と集まる時間だぞ」

「うん。一緒に行こう」

 

 時刻は9時25分。いい時間なので、俺は綾小路君と一緒にカフェテリアへと向かった。

 

 

 

 —— 本日3回目のカフェテリア ——

 

 

「……そう。兎と巳も膠着状態なのね」

「ああ。Aクラスが話し合いを放棄してるからな」

「ん~。どうにかしてAクラスを話し合いの場に引き摺り出せればいいんだけどね」

「……なぁ堀北」

「何?」

「軽井沢に関する情報が欲しい」

「は?」

「えっ?」

 

 軽井沢さんというワードに大袈裟に反応してしまう。

 

(そういえば、まだ昨日の話の続きを聞けてなかった)

 

「……どうして軽井沢さんなの?」

「軽井沢は、Dクラス内では結構存在感があるし人望もあるだろ?」

「確かに」

「そうね。彼女には人心を把握する力があるのかもしれないわ」

「だろ? なのに、この試験ではその影も見せないんだ」

「え? どういうこと?」

 

 意味がよく分からずに聞き返すと、綾小路君は分かりやすく説明してくれた。

 

「この試験が始まってから、軽井沢は全く存在感を見せないんだ。兎グループは一之瀬が全体を取り仕切っている。普段の軽井沢なら、自分が取り仕切ろうとしそうだろ?」

「ああ。なるほどね」

「だから、そうしない理由が何かあるんだと思うんだ。そして、それが兎グループの攻略の鍵になるんじゃないかともな」

 

 そんな会話をしていると、後ろから声をかけてくる人物が現れた。

 

 ——龍園君だ。

 

「ようお前ら。3人で夜のデートか? 俺も混ぜてくれよ」

 

 龍園君はゆっくりと俺達に近づいてくる。

 そして、そのまま堀北さんの隣に座った。

 

「あなた暇なの? 私に構っても何も話さないわよ」

「そう邪険にすんなよ。それで、優待者を見つけ出す算段はついたか?」

「あなたに教えるわけないでしょう?」

「それは残念だな。ご高説願いたかったんだがな。だが、その様子を見るに優待者の絞り込みは進んでいないようだな」

「……そこまで言うのなら、あなたには優待者が誰か分かっていると言うの?」

 

 龍園君はその言葉を待っていたように、余裕の笑みを浮かべる。

 

「優待者の正体が既に分かり始めている。そういえば信じるか?」

「信じないわ。あなたは内外に敵だらけの人よ。満足な情報が集まるはずがないわ」

「ふん、それは違う。敵の数が多い事と情報が集められるかどうかは、全くの別問題だ」

 

 龍園君はそう言いきってみせた。

 

「生憎と俺は、この試験の根幹に手を突っ込んでるんだよ。場合によっちゃ、圧勝でCクラスが勝ちあがることもありうる」

「……まさか」

 

 これが事実なら、この試験の攻略法が龍園君には分かりかけている事になる。

 学校は基本的に何らかの法則性、ルールをもとに試験を作っていると思う。それは中間、期末テスト、そして無人島での試験も同じだったから間違いない。

 

 ルールの裏にある法則のようなものを見つければ、高得点や好成績をおさめられる作りになっているんだ。

 だとすればこの試験だって同じで、龍園君もそのことにも気が付いているのだろう。

 

「単純な話だ。クラスの誰が優待者なのかを調べればいい」

「……それはそうね。だけど、素直にクラスメイト達は答えるかしら? 黙って50万ポイントを得ようとする人が現れるかもしれないわよ?」

「はん。答えるもなにも、嘘をつけない状況にしてやればいいのさ」

「は? 嘘をつけないように?」

「クラスメイト全員に学生証端末を提出させたのさ。そうすれば、後は全員のメールを直接確認するだけだ」

「……ありえない。禁止事項に抵触しているわよ。誰かが訴えれば退学になる可能性も!」

「それこそありえないな。絶対に問題になんてならない。——だから俺はここにいるんだ」

 

 クラスの支配者による、恐怖による強制。

 それによって、龍園君が好き勝手暴れても誰も訴えそのものを起こさないと、確信しているんだろう。

 

 彼の言っている事を信じるのなら、龍園君はCクラスにいる3人の優待者を突き止めていて、その3人の情報によって優待者の選定方法が分かりかけているということだ。

 

「それが本当なら、何でまだ辰グループの試験は終わっていないの?」

「暇だから遊んでるだけさ」

「……そう、まだ確信は持てていないのね」

「ふん。とにかく俺は、詰めの段階に入らせてもらうぜ?」

 

 そう言うと、龍園君はどこかに去って行った。

 龍園君が見えなくなると、堀北さんはため息を吐いた。

 

「どこまで本当かは分からないわね」

「……だな。だけど完全な嘘でもなさそうだ」

「だね。俺達もなるべく早く見つけ出さないと」

 

 現時点でDクラスの優待者は2名分かっている。あと1人の優待者が分かれば、Cクラスと同じ立ち位置に上がれる。堀北さんは再びため息を吐き、椅子から立ち上がった。

 

「はぁ。今日はもう休むわ」

「あ、うん。お休み」

「じゃあな、堀北」

 

 堀北さんは客室に帰っていった。堀北さんを見送ると、綾小路君も立ち上がった。

 

「俺も帰る。……沢田は?」

「……もう少し、夜風に当たって帰るよ」

「わかった。あとそのセリフ、似合ってないぞ」

「……知ってた」

 

 綾小路君もいなくなると、立ち上がって夜風に当たりながら物思いに更ける。

 

(……Cクラスは3人の優待者を把握した。それに対し、Dクラスは2名しか把握していない。優待者の法則性の解明に近いのは、間違いなくCクラスだ)

 

 ならば、Cクラスの優待者の情報を知ることが出来れば俺達の方が優位になる。

 ……ここはあの子達の力を借りるのが、1番早くて確実だな。

 

 考えが纏まり、客室に戻ろうとすると——。

 

(わ、周りカップルだらけじゃん!? き、気まずい……)

 

 いつの間にか、周りがカップルだらけになっていた。

 気まずいので小走りで客室廊下に向かう。

 

 そして廊下に入ると……。

 

「! あれ? ツナ君?」

「あ、桔梗ちゃん!」

 

 桔梗ちゃんが1人で、廊下の窓から夜空を見上げていた。

 

「ツナ君、1人?」

「うん、今から客室に帰るとこ」

「そうなんだ。私はデッキで夜空を見ようと思ったんだけど、カップルだらけで気まずいから廊下に逃げて来たんだぁ」

「ああ、確かに1人だと気まずいよね」

「うん。私ももう客室に帰ろうかな」

「じゃあ、途中まで一緒に行く?」

「うんっ♪」

 

 桔梗ちゃんと一緒に廊下を進み始めた。

 歩きながらたわいも無い話をする。

 

 話をしているとあっと言う間で、先に桔梗ちゃんの客室にたどり着いた。

 

「あ、私ここだ」

「そっか。じゃあおやすみ、桔梗ちゃん」

「うん。おやすみなさい、ツナ君♪」

 

 おやすみの挨拶を済ませ、桔梗ちゃんに背を向けて歩き出そうとすると——。

 

「待って!」

「! 桔梗ちゃん!」

 

 ——ギィィ……バタン。

 

 いきなり桔梗ちゃんが背中に抱きついて来た。

 

「えっ!?  き、桔梗ちゃん?  どうしたの?」

「え? あっ、ごめんなさい! 急に抱きついたりして!」

 

 桔梗ちゃんは顔を赤くして俺から離れた。

 

(び、びっくりしたぁ~。まだドキドキしてるよ……)

「ご、ごめんね? さっきカップルだらけの所にいたから、寂しくなっちゃったのかな」

「そ、そうなんだ? 俺は全然気にしてないし、大丈夫だよ?」

「……そっか、じゃあ今度こそおやすみ、ツナ君」

 

 桔梗ちゃんはそう言って、自分の客室に入って行った。

 俺は廊下を再び歩き始める。

 

(……ドキドキして寝れなかったらどうしよう)

 そんな不安を感じながら、俺は自分の客室に帰ったのだった。

 

 

 ——その頃。船内のBARにA・B・Dの担任教師達が集まっていた。

 

「なんかさー、久しぶりよね。この3人がこうしてゆっくり腰を下ろすなんてさ」

「因果なものだ。巡り巡って、結局俺達は教師という道を選んだんだからな」

「あーそう言えば見たよ? この間デートしてたでしょ? 新しい彼女?  真嶋君て意外と移り気なんだよね。朴念仁ぽいくせにさ」

「チエ、お前こそ前の男はどうした」

「あはは。2週間で別れた〜。私って関係深くなっちゃうと一気に冷めるタイプだから。やることやったらポイね」

「普通、それは男側が言うことなんだがな」

「それより——どういうつもりだ、チエ」

「急に何ぃ?」

「通例では、辰グループにクラスの代表を集める方針だろう」

「私は別にふざけてなんかないわよ? 確かに成績や生活態度だけ見れば、一之瀬さんはクラスで1番だよ。でも、社会における本質は数値だけじゃ測りきれないもの。私は私の判断のもと、超えるべき課題があると判断したってわけ」

「ふん。ならいいんだがな」

「チエの発言はもっともだが、何か引っかかることでもあるのか?」

「個人的恨みで、判断を誤らないでもらいたいだけだ」

「やだ、まだ10年前のこと言ってるの? あんなのとっくに水に流したって」

「どうだかな。お前は常に私の前に居なければ我慢ならない口だ」

「私は本当に一之瀬さんには学ぶべき点があると思ったから、辰グループから外しただけ。そりゃあ沢田君や綾小路君の事は気になるけど、偶然偶然。島の試験が終わった時、沢田くんがリーダーだったことなんて、全然気になってないしー?」

「そういうことか。チエ、規則ではないがモラルは守ってくれ。同期の失態を上に報告するのは避けたいんでな

「もう。信用ないなぁ~」

 

 そんな話をしていた3人の隣に、ハットを目深く被った男が座つた。

 

(誰だ?)

(うわ、なんか暗~い)

(……この男、まさか)

 

 急に隣に座った男に、それぞれが思い思いの感想を抱く中。

 ハットを被った男が口を開いた。

 

「お~。3人とも立派な大人になったなぁ~。おじさん感動しちゃったよ」

『!』

 

 男が声を発した途端、3人は男の正体を察した。

なぜなら、3人には聞き覚えのある声だったからだ。

 

「まさか……」

「あ、真嶋はもうおじさんって感じだなぁ」

「え、ガチで?」

「かぁ~っ。その反応、チエちゃんは変わってないねぇ~」

「……なぜここにいるのですか?」

「サエちゃ~ん。君は結構変わったね?」

「あなたは前より暑苦しくなりましたね。……家光先生」

 

 家光先生と呼ばれたその男は、ハットを外した。

 

「!  家光先生!」

「うっそお! どうしてこの船に乗ってるのぉ!?」

「どうせ、息子絡みだろうさ」

「お、さすがサエちゃん! 分かってるねぇ~」

 

 男の正体は沢田綱吉の父親にして、ボンゴレの門外顧問でCEDEFのボス。

 

 ——沢田家光だった。




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