ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 船上試験、2日日夜 ——
「あ、沢田君。こっちだよ」
「お待たせ、平田君」
電話で言われた通りに2階の休憩スペースに行くと、平田君が自販機のそばに置いてあるベンチに座っていた。
「よう」
「! 綾小路君もいたんだ?」
「ああ」
そして、自販機の前には綾小路君がジュースを2本持って立っていた。
「ほれ」
「わっ、ありがとう」
持っている缶ジュースの1本を俺に投げてくれた。
もらった缶ジュースのプルタブを開けて、一口飲みながら平田君の隣に座る。
「……それで、初日の話の続き?」
「うん。それもあるんだけど……」
「?」
「ちょっと問題が起きていてね」
「問題? 軽井沢さんに?」
俺の問いに平田君は頷いて返事をした。
「そうなんだ。実は——」
平田君は軽井沢さんに起きている問題を教えてくれた。
どうも、軽井沢さんがCクラスのリカという女子生徒にぶつかったらしいのだが、その時に謝らなかった事にリカさんの友達が怒り、軽井沢さんに謝罪を強要しようとしているとの事だ。
「なるほど、幸村君が言ってたのはこの事か」
「? 幸村君が何か言っていたのかい?」
「ああ、うん。4回目のグループディスカッションの後に、真鍋って女子達が軽井沢さんに暴力を振るおうとしてたって」
「そっか。その時は幸村君もいたんだったね」
「ああ。俺と幸村で目撃した」
「……で、問題はその後の事なんだよ」
平田君はどこか悲しそうな顔で、腕を組みながら話を続けた。
「さっき、軽井沢さんから呼び出されてね。真鍋さん達からのいじめ行為を、力づくで辞めさせてほしいって頼まれたんだ」
「……平田君はそれを受け入れたの?」
平田君は目を閉じて、首を横に振った。
「いや、受け入れられないよ。代わりに、軽井沢さんと真鍋さん達が仲直りできる様に間を取り持つ事を提案したんだ」
「うん」
「でも、その為には軽井沢さんも歩み寄らないといけない。リカさんに謝る事も必要になると思うんだけど、それだけは絶対に嫌だって拒否されたんだ」
謝ってしまったら、今の自分の立場が崩れると思ったのかもしれない。
軽井沢さんからしたら、せったく抜け出したのにまた戻るなんて事、絶対したくないだろうからな。
……でも、軽井沢さんがぶつかったのに謝らなかったのが事実なら、そこは謝るべきだと思うけど。
「それでね、僕は彼女の手を離してしまったんだよ」
「? 手を?」
「ああ。『それなら、僕にできる事は残念だけど何もないよ』ってね」
「……そっか」
「そしたら、軽井沢さんは激昂してしまってね。『私の事を守らないなら、あんたなんて必要ない!』って言って去って行ったよ」
なるほど。自分を守ってくれる人から手を離されて、激昂してしまったのか。これは、難しい問題だな。
ここで、綾小路君も口を開いた。
「……強い相手への寄生。軽井沢はそうやって自分の身を守っているんだな」
「……ずいぶんストレートに言うんだね。まぁでも、軽井沢さんも自分の事を寄生虫だって自虐していたよ。残念だけど、僕では軽井沢さんを守り切る事が出来ないって事かな」
「——ちょっと待ってよ」
『?』
2人の言い様に納得が出来ず、思わず険しい顔で口を挟んでしまった。
「……寄生虫なんかじゃないよ、軽井沢さんは」
「……ごめん。そうだよね。こんな言い方は酷いよね」
「そうじゃない。言い方の問題じゃないよ」
俺の言ってる事が理解できないのか、平田君は首を傾げている。
「平田君は、軽井沢さんに頼られる事を迷惑に感じてたの?」
「! いや、僕は本心から彼女を守りたいって思っていたし、今も思ってるよ」
よかった。平田君は本心から誰かの助けになりたいと思ってる人だと思っていた俺の考えは、間違いではなかった。
でもそれなら、なおさらさっきの言い方は良くない。
「でしょ? って事は、2人はお互いに納得の上で、そういう関係になってたんだよ。それなら、寄生虫とは言わないよ」
「だが、軽井沢が平田に寄りかかってるのは事実だろう?」
俺の考えに、綾小路君が異議を立ててきた。
「まあね。でも、人間は1人では生きていけない。誰しもが誰かの助けになっていて、誰かに迷惑をかけるんだよ」
「……綺麗事だな」
「そうかもね。でも綺麗事を言えなくなったら、世界は真っ白になっちゃうよ」
「……真っ黒じゃなくてか?」
「真っ白だよ。自分の事だけを考えていれば、思い通りに生きていけるかもしれない。でも、一見明るく見えるその道を進んで行くと、やがて自分以外の何も見えない濃い真っ白な霧の中で、ひとりぼっちになっている事に気づくんだよ。そんなの……悲しいし、寂しいじゃない?」
『……』
俺の言った綺麗事に平田君は目を見開き、綾小路君は真顔のまま視線を逸らした。
……俺の言いたかった事は、伝わったのだろうか。
「じゃあ沢田君。君ならどうする?」
「え?」
「君なら、どうやって今の軽井沢さんを助けるんだい?」
「……そうだね」
俺ならどうするか。平田君の質問に対する答えを、目を閉じて考える。
やがて、1つの結論に到達した。
「俺なら……軽井沢さんと同じ立場に立つかな」
「同じ立場?」
「うん。軽井沢さんと同じ目線で、同じ状況の中でどうするかを考えると思う」
「だが、完全に同じ立場になる事なんてできないだろ?」
「もちろんそうだよ。でも、同じ立場になろうとして初めて分かる事もあると思う。相手は何を考えているのかとか、何をする事が一番相手の為になるのか、とかね」
「……」
俺の答えを聞き終えた平田君は、ベンチから立ち上がり、俺と綾小路君の日の前に立った。そして、そのまま深く頭を下げた。
「改めてお願いするよ。沢田君、綾小路君。僕の代わりに軽井沢さんを助けてあげてほしい。今の僕では、今の軽井沢さんを助ける事はできなかった。だから、お願いします」
深々と頭を下げる平田君に、俺と綾小路君はお互いの顔を見た。
「……」
「……」
多分同じ事を考えてると思ったんだけど、その前に綾小路君は、平田君に1つ確認を取った。
「平田。1つ、聞いてもいいか?」
綾小路君にそう聞かれ、平田君は頭を上げた。
「うん。何かな?」
「お前が軽井沢の為に、彼氏のフリまでした理由は何だ?」
「え? さっきも言ったけど、本気で彼女を助けたかったからだよ」
「……」
「納得いかないかい?」
「いや、納得はできるが、そこまでできるのには、もっと深い理由があるんじゃないかと思ったんだ」
「……」
真っ直ぐに自分を見つめる綾小路君に観念したのか、平田君は綾小路君の言う〝深い理由"について話始めた。
「中学の時、幼なじみをいじめが原因で失っているんだ」
「! 亡くなったのか?」
「いや。学校の屋上から飛び降りて、奇跡的に命は助かったけど脳死状態になってしまったよ」
平田君は、どこか遠くを見つめる様な目をしながら昔話を始めた。
「その幼なじみ、杉村君とは幼稚園からの仲でね。中学に上がるまでは殆ど毎日の様に遊ぶほど仲が良かった。でも、中学に上がれば別の地区の同級生も入って来て、学年の人数も増える。中1で別のクラスになってからしばらくすると、僕も別の友達と過ごす時間が多くなっていった」
なるほど、これくらいならよくある話だと思う。
「でもその一方で、杉村君はクラスでいじめを受けていた。たまに顔を合わせば、顔に痣が出来てたりしていたよ。……でも、僕はその事に気づいていながら何もしなかった。新しい友達との時間を優先してしまったんだ」
「……」
「それから1年後、杉村君へのいじめはさらに過激化していた。ある日の朝にクラスの友達と学校に行くと、校門で杉浦君が待っていたんだ。僕が来た事に気づいた杉浦君は、僕に近づいて声をかけてきた。『平田君、話があるんだ』ってね。……でもその時、クラスの友達が怪訝な目で杉浦君を見ている事に気づいてね。僕はクラスの友達に変な目で見られたくなくて、杉浦君を無視して教室に向かってしまったんだ」
「……それで、その後?」
「うん、授業中だったよ。何かが地面にぶつかる音がしたと思ったら、杉浦君が地面に倒れていたんだ」
……そんな事があったのか。
平田君はその罪滅ぼしのつもりで、軽井沢さんを助けようとしているのかな。
「これで杉浦君が救われるとは思ってない。でも、誰かを救う事でしか償う事もできないと思ったんだ」
「でも、そんな簡単な話でもないだろ。全てのいじめを無くす事なんてできやしない」
「分かってる。でもせめて、僕の身近な人の事は助けたいって思ってるんだ。これは、杉浦君を救えなかった僕の責任なんだよ」
「……それでも、今回のお前の行動はおかしいぞ。お前は軽井沢だけでなく、真鍋達の事も救おうとしているだろ? 両方助けるなんて不可能だろうに」
綾小路君のその言葉に、平田君は乾いた笑いを浮かべる。
「はは。そうだよね。矛盾している事は分かっているよ。僕は正義のヒーローじゃないし、なる事も出来ない。だから君達にお願いしているのかもしれないね」
「……分かった、依頼を受けよう。沢田がな」
「ええ! 俺1人?」
「安心しろ、サポートはする」
「一緒に頑張ろうよ……」
「俺は目立ちたくないって言ってるだろ?」
少し気にはなるけども、綾小路君も平田君の頼みを聞いてくれるみたいなので、良しとしよう。
「もう……まぁとにかく、なんとか頑張ってみるよ」
「ありがとう2人共。僕に出来る事があればなんでも言ってほしい」
「わかった」
平田君が安堵した表情になる。
そして、何かを思い出した様に「あ」と呟いた。
「そうだ。まだ2人に伝えたい事があったんだ」
「?」
「何だ?」
「初日の夜、クラスに優待者は3人いるって話をしただろう?」
もちろん覚えている。現状分かっているDクラスの優待者は2人、俺と桔梗ちゃんだ。
「うん」
「実は、最後の1人もすでにわかっているんだ」
「! そうなの!?」
「すまない。本人に誰にも言わないでくれと頼まれていたんだ」
「……まぁそれは当然だな」
確かにクラスメイトとはいえ、自分が優待者である事を伝えるのは慎重になって当然か。
「で、誰なの?」
「このタイミングで言い出したって事は……」
「そう、軽井沢さんだよ」
「!」
軽井沢さんは綾小路君と同じ兎グループだったっけ。
でもとにかくこれで——。
辰グループ・桔梗ちゃん。
兎グループ・軽井沢さん。
巳グループ・俺、という3人の優待者の情報が集まった。
この試験の根幹に近づいたと言っていいだろう。
「これで、Dクラスの全優待者の情報が集まったな」
「うん。試験の法則性にたどり着けそうだね」
「だな。……平田、教えてくれてありがとうな」
「いいんだよ。軽井沢さんの事をお願いするお礼だから。……じゃあ僕は先に客室に戻るよ。2人はまだ話しがしたいだろうしね」
そう言うと、平田君は1人で客室へと向かって行った。
—— side綾小路 ——
……さて、どうするかな。
本当は軽井沢を真鍋達にいじめさせて、心が弱っている所に付け入って手駒にするつもりだったんだが……。
(まぁ、沢田にまかせれば自然と協力関係を築けるか。沢田はそういう奴だしな)
だが、沢田が軽井沢をどうするつもりなのかは、聞いておいた方がいいな。
俺はベンチの沢田の隣に座った。
「……沢田」
「ん?」
「軽井沢の事、どうするつもりだ?」
「……ん〜」
少し考える素振りを見せた後、沢田は口を開いた。
「まずは、真鍋さん達との喧嘩を終わらせようと思う」
「……どうするんだ?」
「軽井沢さんと真鍋さん達を集めて——その後の流れは、須藤君の時と同じ感じでいいんじゃないかな?」
「……真鍋達に自分をいじめさせて、その証拠を残すのか?」
須藤の事件の時はその作戦が見事成功した。だが、真鍋が沢田の事までいじめるだろうか?
それに、いじめたとしても軽井沢がターゲットから外れるとも限らない。
「ううん。証拠を残すのは、真鍋さん達が軽井沢さんに謝罪を強要してる所だけでいいと思う」
「? いじめの現場は残さないのか?」
俺はいじめ現場の録画データを使い、真鍋の事をCクラスのスパイにするつもりだった。
「いらないよ。それだと軽井沢さんの心の傷を掘り返す事になるし」
「じゃあ、どうするんだよ」
「まずは、平田君同様に軽井沢さんに謝るようにお願いしてみる」
「……聞くとは思えないが」
「かもね。で、もし拒否されたら——」
「……」
俺は、沢田の作戦を聞いて納得した。
(なるほど、それなら、真鍋達のいじめを止める事もできるだろうし、軽井沢にも害はおよばないな)
「1番いいのは軽井沢さんが謝ってくれる事だけど、もし無理ならこの作戦に入ろう。それで最終的には……」
「?」
最終的には?
沢田の作戦には続きがあるようだ。
「最終的には、軽井沢さんにも仲間に加わってもらおう」
「! Aクラスを目指す仲間にか?」
「うん。軽井沢さんは女子の中心だし、仲間になってくれれば、クラスをまとめる手助けをしてくれると思うんだ」
……沢田も軽井沢を手駒にするつもりになったか。
よし、これなら俺の考えていた結末と同じ様な終わり方になるな。
「どうやって仲間になってもらうんだ?」
俺は軽井沢の事を助けることで、新しい寄生先になるつもりだった。
が、沢田ならどうするのかが気になる。
「平田君、軽井沢さんが自分の事を寄生虫だって自虐してた、って言ってたでしょ?」
「ああ」
「きっと軽井沢さんは過去の事が原因で、誰かに助けを求める事に臆病になってると思うんだ」
「……ほう」
「いじめられてた自分を、周りは助けてくれなかった。だから、誰かに守ってもらうって事を悪い事だって考えちゃってるんじゃないかな。でも、いじめられないように自分を守る為には、自分がいる集団の中で高い地位に行く必要がある。で、強い人に守ってもらう事を『寄生する』って自虐しちゃうんだと思う」
「……それで? 具体的にはどうするんだ?」
「……迷惑をかけたり、助けたり。それが当たり前の関係になってあげるのが1番いいと思うんだ。絶対に軽井沢さんを守ると宣言した上でね」
「……仲間、ってことか?」
「うん。仲間なら助けあったり迷惑をかけ合うのは当たり前。だから、そんな関係になれる人がいれば、軽井沢さんも考えを改める事に繋がるんじゃないかって」
「……なるほどな」
思ってたよりも、沢田は軽井沢の事を本気で救おうと考えている。
利用するのではなく、仲間になる事で考え方の強制をしようとするとは……やはりまだ理解ができないな。
「と、いうわけで。明日の昼にでも、軽井沢さんと真鍋さん達を呼び出そう」
「わかった。平田に軽井沢を呼び出してもらおう。真鍋達は俺が呼び出す」
「わかった。……ん? なんで真鍋さんの連絡先を知ってるの?」
「……グループディスカッションで仲良くなったんだ」
「……ふ~ん」
苦しいごまかしをしたが、沢田は追求をしてはこなかった。
それから、俺達は一緒に客室へと戻った。
—— 船上試験休養日、朝 ——
〜 sideツナ 〜
船上試験3日目。今日は完全休日で、グループデイスカッションはない。
しかし、俺にとっては大事なイベントが2回もある忙しい日でもある。
その内の1つのイベントの為、俺は朝早くから地下にある談話室へとやって来ていた。
—— 地下談話室 ——
談話室にはテーブルを囲む様に3人掛けのソファーが4つ置かれている。
俺はソファーに座って人を待っていた。
——ガチャ。
数分後、談話室のドアが開かれる音がすると、廊下から8名の男女が現れる。
「10代目、おはようございます!」
「ツナ、おはようさん」
獄寺君と山本を先頭に入室してきたのは、姉妹校の8人のエリート。
Otto talenti のメンバーだった。
「みんなおはよう。朝早くからごめんね」
「いえいえ、ボスのお呼びとあらば」
「ふっ、私をお呼びとは、さすがはボス。みる目がおありだ」
「朝からレオナルドはきつい……」
獄寺君・山本・クローム。そしてアルロ・ビアンカ・カルメン・ドナート・レオナルド。無人島ぶりに8人が勢揃いだ。
「今日集まってもらったのは、皆にお願いしたい事があるからなんだ」
「はいっ! 何でも言ってください!」
目を輝かせながらそう言う獄寺君。頼もしい限りである。
「実は、本校のAクラスにジョーコの次期ボスがいるんだ」
「なっ?」
「……次期キングって事か」
「うん」
俺は、小狼君の事やみーちゃんの事を皆に話して聞かせた。
「——と、言うわけで。皆にはみーちゃんを解放する為に、力を貸してほしいんだ」
獄寺君以外の7名は快く頷いてくれた。一方獄寺君はというと……。
「じ、10代目を溺死させる、だとぉ!?」
「ご、獄寺君?」
「くそ小狼がぁ! 俺が消す! 山内とかいう奴も消してやりますよぉ!」
顔を真っ赤にして咆哮する獄寺君。
「お、落ち着いてよ獄寺君! 相手を消すのはなしだよ!」
「しかし!」
「この試験中、俺は暴力禁止なんだ。君達が暴力を振るっても、きっと俺は課題をクリアできなくなっちゃうよ!」
「ぐっ!? ……わ、分かりました」
獄寺君を何とか説得して落ち着かせた俺は、1人1人にお願いをしていく。
「獄寺君と山本は、小狼君の行動を見張っておいてほしい。作戦中に関わらせたくないからね」
「はい! お任せください!」
「わかったぜ。Aクラスの王小狼って奴を見張ればいいんだな」
獄寺君と山本のコンビには小狼君の見張りを頼んだ。俺の作戦がうまくいけば、小狼君が直接接触してくる可能性があるからな。
「ドナートとアルロには、特定の通信電波を遮断する装置を作ってほしい。できる?」
「もちろんです。一度作った事がありますので、すぐに作れますよ。アルロ、お前も手伝ってくれよ?」
「うん! 通信系はあたしの方が専門だかんねっ♪」
2人には、今日の夜から明日の夜まで特定の通信電波のみを遮断する装置の開発を頼んだ。
これは、試験終了までジョーコの本部と小狼君の交信を防ぐ為だ。
「レオナルドとカルメンにはCクラスの情報収集を頼みたい。昨日は失敗しちゃったけど、今度は堂々と龍園君に近づいてみて欲しい。2人なら、龍園君はそこまで警戒はしないでしょ?」
「ふっ。もちろんさ、彼は無人島で私達を完全に仲間に取り込んだと、信じているからねぇ」
「……そうですね。堂々と行けば、昨日の女子に邪魔される事もないでしよう」
「うん。あ、でもなるべくひよりちゃんのいないタイミングを狙ってね? 龍園君が認めても止めてくる可能性はあるからね」
「はい」
無人島試験の時に、龍園君はレオナルドとカルメンが潜伏している事を見抜いていた。
更にそれを利用し、今後の試験で優位になる為に2人を利用しようとしていたんだ。
彼が何を考えているのか気になった俺は、あえて2人に龍園君に発見されるように指示を出した。
龍園君から出された交渉はこうだったらしい。
① 潜伏している事を黙っている代わりに、自分の事も外部に漏らさない事。
② 姉妹校と本校の合同試験が行われる時、龍園君の指示を仰ぎ、Cクラスの為に動く事。
つまりは、怪しい行動を黙ってる代わりにこっちの駒になれって事だな。
だから、そんな2人が試験中に話しかけて来たら、勝利の確率を上げる為に利用しようとするんじゃないかと思ったんだ。そうすればCクラスの掴んでいる情報も手に入れられるかもしれないし。
「クロームとビアンカには、今夜やってほしい事があるんだ。詳細はまた後で話すよ」
「うん。わかったよ、ボス」
「かしこまりましたわ」
クロームとカルメンには、みーちゃんを救う上で1番重要な役割を担ってもらう事になる。
でも、2人になら安心して任せられるだろう。
「じゃあ皆、よろしくね」
『はいっ!』
俺の指示の元、Otto talentiのメンバー達はそれぞれの任務へと向かって行った。
『……よし! まずは軽井沢さんの方からやって行こう!』
そして、俺もやるべき事をする為に談話室を去ることにした。
—— 軽井沢恵の独白 ——
……私は結局、中学の時から何も変わっていない。
いや、変わろうともしていない。
自分の事はよく理解している。周りからどう思われているかも分かっているつもり。
なのに、それでも変わろうとは思えない。
理由は単純だ。自分の現状を辛いとも思わないし、むしろ今の現状を自分から望んでいるのだから。
……あの日から、私は神様に人格も人生も奪われたままだ。
でもそれでも構わない。またあの様な目に合うくらいなら、青春も友達もいらないし、りの自分だって演じきってやるつもりだ。
……1番大事なのは、自分自身を守る事。
その為に必要な事なら、なんだってする。
私は——弱い。
1人で生きる事の出来ない、誰かに寄りかかる事でしか生きていけない生き物。
私は、寄生虫なんだ……。
—— 船上試験休養日、午後2時 ——
〜 side軽井沢 〜
「え〜、ここ電波はいらないじゃん。平田君もどうしてこんな所を待ち合わせ場所にするかな〜」
今朝、平田君から『14時に地下施設に来て欲しい。昨日の話の続きがしたい』と電話があった。
やっぱり、私のお願いを聞いてくれる気になったんだ……そう思った私は、言われた通りにここに来たのだ。
(……平田君はまだかしら——!)
地下施設の入り口から、足音が聞こえてくる。
——カツカツ。
平田君が来たんだと思った。
——カツカツ。
……でもおかしい。
——カツカツ。
近づくほどに、足音が増えている様に感じる。
明らかに1人じゃなかった。
(平田君、誰か連れて来たの? ……真鍋さん達じゃないでしょうね)
私のその予想は当たっていた。
——カツカツ!
……私の予想よりも、最悪の形で。
「あれ~? 軽井沢じゃん? なに、待ち合わせ?」
「な、なんで……ここに」
現れたのは、真鍋とその取り巻き2人。
あとメガネをかけた女子もいる。
(! あの子は確か……こないだぶつかった子?)
どうやら、真鍋さんはリカって子も連れて来たらしい。
「じゃ、役者は揃ったし。始めようか! 軽井沢の、土下座撮影か~い♪」
「いいねいいね~♪」
「やっちゃお〜♪」
「!」
真鍋さん達が、学生証端末を取り出しながら近づいてくる。
「昨日は逃げられたけど~、ここなら誰も助けてはくれないねぇ?」
「ってか、もう逃さないし~?」
「それなそれな~♪」
「ひいっ……」
じりじりと近づいてくる真鍋さん達に、思わず小さい悲鳴が出た。
昔の記憶がフラッシュバックして、心臓の鼓動が不規則になる。
「っ……っ」
「ぷっw ひっ、だってえ~」
「さすがはいじめられっ子。悲鳴が板についてるねぇ♪」
「ほら、さっさとリカに土下座しろよ!」
「い、イヤァ……」
あと数センチで真鍋さんが私の髪の毛を掴む程に近づいて来た、その時。
「ちょっと待って! 止めてくれ!」
「! 誰よ!」
「今いいとこなんだけど!?」
「邪魔すんなし!」
「ごめん。でも、さすがに止めずにはいられないよ」
1人の男子が、地下施設の入り口から中に入って来た。
その男子は、私のクラスメイトだった。
「……沢田、君?」
クラスメイトの沢田綱吉君。私の過去を知っている同い年の男の子。
沢田君に過去の事を話したのは、前に体を張って須藤を助けていたこの人なら、暴力から私を守ってくれるんじゃないか。……という下心でしかなかった。
でも、本当に助けに来てくれた。平田君が頼んでくれたのかもしれない。
「とにかく、暴力はやめようよ」
「はぁ? あんたに関係ないでしょ?」
「そんな事言ったら、君達も当事者じゃないでしょ?」
「ぐっ……」
真鍋さん達が押されている。このまま沢田君が真鍋さん達を退けてくれたらいいな、そう思っていた。
——が、沢田君は想像もしてなかった行動に移った。
「軽井沢さんが、君達の友達にぶつかってしまった事は本当なの?」
「そうよ!ねぇ、リカ?」
「う、うん。本当です」
リカって子が頷くと、沢田君は今度は私の事を見て来た。
「軽井沢さん、どう? ぶつかったのは覚えてる?」
「……ええ」
ここで嘘をつけば、真鍋さん達が激昂しかねないから、本当の事を言うしかない。
それに、認めても沢田君がどうにかしてくれるだろうと思っていた。
「そっか。じゃあ謝らないといけないね」
「! ……わ、私は嫌!」
「ま、そうだよね。じゃあ代わりに」
でも、沢田君は——。
「! あ、あんた何してんのよ!」
「? 土下座しろって言ってたじゃないか」
「軽井沢に土下座しろって言ったのよ!」
私の目の前で、真鍋さん達に土下座をし始めたのだ。
「まぁまぁ。君達も代理で謝罪を要求してるんだから、こっちも代理人が謝罪してもいいじゃない?」
「はあ!?」
「その代わりほら、俺の土下座を撮影してくれて構わないから。それに、さっき軽井沢さんにしようとしてた事を、俺にやってくれてかまわないからさ」
「何言ってんのよ!」
私にも分からなかった。どうして沢田君がこんな事をするのか。脅すとかして諦めさせればいいのに。
「ぶつかったのはこっちが完全に悪い。……そこはきちんと謝罪するよ。本当にすみませんでした」
「あんたに謝られても、意味ないのよ!」
「そこをなんとか。俺に何でもしていいから。土下座してる所を写真に撮って拡散してもいいし。それでどうにか許してもらえないかな?」「ああもう! あんた何なのよ! 軽井沢がさっさと謝らないのが悪いんでしょ! 口を挟まないで!」
「……だからって、君達のように暴力を振るおうとするのは、受け入れられないよ」
「そんな事してないわよ!」
「でも、昨日幸村君が止めた時は暴行してたんでしょ?」
「ぐっ」
「……どう? 俺の謝罪で許してくれる? それか、軽井沢さんの代わりに俺に制裁する事で許してくれる?」
「そもそも、なんで軽井沢の為にあんたが犠牲になんのよ! 何の得があんの?」
「得? ……自己満足?」
「はぁ!?」
「俺が軽井沢さんを助けたいから助けるだけ。完全な自己満足だよ。そこに軽井沢さんは何の関係もない。俺の一方通行だからね」
「バカじゃないの? あいつは男を盾にして、自分は逃げる卑怯な女よ! 平田君を利用して守ってもらってるだけの、寄生虫の様な女なんだよ!」
「っ!」
真鍋さん達に嫌な所を突かれてしまった。
沢田君には、私が寄生虫である事を悟らせたくなかったのに……。
「……」
そう。私は平田君と言うリーダーの彼女というボジションを得る事で、クラス内での確固たる地位を築き上げた。
私1人では、そんな事は不可能だから。
さすがの沢田君も私の本性に呆れるかと思った。
でも、沢田君は表情を変える事もなく、淡々と反論してくれたのだ。
「軽井沢さんは寄生虫じゃないよ?」
「はぁ? 寄生虫でしょ?」
「違うよ。だって平田君は、軽井沢さんの事を自分の意思で守ってるんだから」
「それが何!?」
「寄生虫っていうのは、宿主の養分をただ奪っていく奴のことでしょ? 平田君と軽井沢さんは、お互いに納得の上でそういう関係になってるんだから、寄生虫とは言わないよ」
「そんなの屁理屈でしょ?」
「そんな事ない。人間なんて1人では生きていけないんだから、誰しもが誰かに迷惑をかけてるし、迷惑をかけられているんだ。俺もそうだし、君達もそうだろ?」
「……」
——初めてだ。
私の事をただ肯定してくれる人に出会ったのは。
平田君は優しいから、私の境遇に同情して助けてくれているんだと思う。でも、私が寄生虫だと言った時、強く否定はしてくれなかった。
それは、彼の中でも私を寄生虫だと思う部分もあるという事だ。
別にそれをひどいとは思わない。私自身が自分の事を寄生虫だと思っているから、他人からも思われても当然だから。
……でも、それをはっきりと否定してくれたのは、沢田君が初めてだった。
「誰かを頼るのはおかしい事じゃないよ。もちろん一方的に迷惑をかけ続けるのはよくないけど、軽井沢さんはそれには当てはまらない。軽井沢さんと平田君の事をよく知りもしないで、そんな事を言わないでくれないか」
「……」
さっきまで呆れた顔になっていた真鍋さんが、怒りで顔を歪め始めた。
沢田君の言う事に反論できないのかもしれない。
そして、その怒りが私ではなく沢田君へと向けられている様に感じた。
「はっ! そこまで偉そうな事言うなら、証明してもらおうじゃない! あんたに軽井沢の身代わりになってもらうわ! ほら、さっさと土下座しなさいよ!」
「分かった。じゃあ、俺が身代わりになれば、軽井沢さんの事許してくれるんだね?」
「そうよ! だからさっさと土下座しなさいよ!」
「わかった、ありがとうね」
……ありがとう?
どうして沢田君は、自分にひどい事をしようとする相手にお礼が言えるの?
私の事を許してくれたから?
でもそれだけでお礼なんて言える?
代わりに自分が酷い目に遭うのに。
沢田君は言われるままに土下座をした。そして、それを笑いながら真鍋さん達は写真に納めていく。
「あっはっは! あんたに襲われそうになったって、情報を流してやるかんね」
「おお! それいいねぇ~♪」
! 嘘の情報を流すつもり?
沢田君もさすがに、それは受け入れられないんじゃ?
「……」
しかし、沢田君は土下座をしたまま動かない。
(なんで? どうして動かないの?)
沢田君がされるがままになっている姿を見たまま動けずにいると、私の学生証端末からメールの受信音がなった。
——ピロン。
(! 誰よこんな時に。あ、でも平田君だったら沢田君を助けてもらえるかも)
そんな希望を抱きつつ、こっそりとメールを開くと、差出人は知らないアドレスからだった。
(……平田君じゃない。誰よもう!)
差出人不明のメールには件名はなく、本文が一文だけ入力されていた。
『沢田は信じてるぞ。軽井沢が一緒に謝罪してくれる事をな』
(! 沢田君が私の事を信じてる?)
……どう言う事、私が謝るのを、沢田君は待ってるって事?
——ピロン。
(! また?)
またも受信音が鳴り、確認すると同じアドレスからのメールだった。今度も件名なしの本文のみだ。
『謝るのは嫌か? まぁそうだよな。自分をいじめようとする奴らに謝るなんて苦痛だよな? ……でもな。お前は沢田の思いに答える必要があるんじゃないか? お前の為に土下座してる沢田を、助けられるのはお前だけなんじゃないか?』
さっきまでの会話を聞いていたかのような内容だ。
でも、今はそんな事はどうでもいい。このままでは、沢田君は女子を襲ったけど失敗した最低で弱い男、ってレッテルを貼られてしまう事になる。
そんな事になれば……もう沢田君に守ってもらう事はできない。
(……)
自分の思考に嫌気が差した私は、自分の太腿を強くつねった。
(違う、今考える事はそうじゃないでしょ? 沢田君は私の事を助けるだけでなく、私の存在を肯定してくれた。人に頼ったり守ってもらうのは、悪い事じゃないって言ってくれた。だったら、今度は私が自分の意思で沢田君を助ける番じゃない!)
「ま、待って!」
『!』
足も声も震えながら、必死に声を絞り出す。
今の私が出せる、精一杯の勇気でなんとか体を動かしている。
「——何? せっかくあんたの身代わりが出来たのに、まだ文句あんの?」
「……」
楽しい時間を邪魔されたと思ったのか、真鍋さんは顔をしかめながらそう言った。
(……怖い。でも、やらないと沢田君が!)
なけなしの勇気を振り絞って、ぎこちなく体を動かす。
そして、沢田君の隣に膝を着いた。
「! な、何よ急に!」
「……軽井沢さん」
ふと横を見ると、嬉しそうに微笑む沢田君が見えた。その姿を見た時、なぜか体がすっと軽くなって、土下座の体制になる事ができた。
そしてそのまま、絶対に言うつもりのなかった言葉を口にした。
「……私がリカさんにぶつかりました。本当にすみませんでした」
「——すみませんでした」
私に続いて、沢田君も一緒に土下座してくれた。
誰かが味方でいてくれる、それだけでこんなに心が軽くなるなんて……。
……そして。
「……い、いいよ?」
「! ちょっ、リカ!?」
ずっと後ろに隠れていたリカさんが、前に出てそう言った。
「もういいよ。謝ってもらえたし」
「でも、こいつはさっきまで全然悪びれてなかったんだよ!?」
「私は許すって決めたから、もういいんだよ」
「……だけど!」
「これ以上は、いじめになっちゃうよ」
「っ!」
リカさんに説得されたのか、真鍋さんはしぶしぶ納得した様だ。
「……ふん。リカが言うから仕方ないわ。もうこの件はこれでおしまいね!」
「そっか。ありがとう」
そして、真鍋さん達はこちらを睨めつけながら、地下施設から出て行ったのだった。
「……」
「……」
数秒間、無言の時間が過ぎた。
今回のお礼を言おうと思ったその時、沢田君が仰向けに床に寝転んだ。
「ったぁ~! 無事解決してよかったぁ~! 軽井沢さんもよかったね! あ、あと謝ってくれてありがとうね! リカさんも軽井沢さんの謝罪を受け入れてくれたし、これでwinwinだね~」
「……ぷっw」
寝転んだまま無邪気な笑顔でそう言う沢田君。
私の心を動かすなんて、凄いことをやってくれていた先程までとは全然違う人の様だ。
(沢田君って、どんな奴なのかよく分からないわ、でも、そこが沢田君の凄い所なのかもしれないわね)
私が吹き出したのを見て、沢田君も笑ってくれている。
そんな時、また足音が聞こえて来た。その人物は2階へ繋がる階段から降りて来ていた。
「え、綾小路君?」
「あ、綾小路君。どこにいたの?」
「2階だよ」
「一緒に来てくれればいいのに」
「俺は目立ちたくないんだって」
綾小路君が現れた事に沢田君は驚かない。
元々知っていたのだろう。
「なんでよ、サポートしてくれるって言ったじゃんか!」
「ちゃんとサポートしたよ、これでな」
「え? どういう事?」
そう言って、綾小路君は学生証端末を見せた。
(……もしかして、あのメールは綾小路君が送って来たの?)
そんな事を考えていると、綾小路君と目が合った。
「……」
「……」
目が言うなと語りかけてくる。
別に言うつもりもないし、黙っておく事にした。
「ま、とにかく! これで軽井沢さんはもう大丈夫だね!」
「うん、本当にありがとう」
「……で、どう? 少しは誰かに頼る事に前向きになれそう?」
「!」
沢田君の言いようから、沢田君は私に自分の事を寄生虫だと思う事を止めさせたかったんだと気づいた。
あんな状況の中で、私を守りながら助けようともしてくれてたなんて。
「……分からない。あの時は火事場の馬鹿力で勇気が出ただけかもしれないし」
「……まぁ、人間そう簡単には変われないからな」
綾小路君が淡々と事実を告げる。
「ん~、でもさ。誰かに頼る事は悪い事じゃないって、少しは思えた?」
「……うん。思えた」
これは嘘じゃない。どちらも相手との共存を望んでいるのなら、寄りかかって助けてもらう事もあるし、逆にこちらが助ける事もある。でもそれは、良い事なんだって思えたから。
その答えを聞いて、沢田君は笑顔になる。
「よかった! じゃあさ、これからもその気持ちを忘れない様に、俺達の仲間にならない?」
「え、仲間?」
「うん、仲間同士なら迷惑かけて当然だし、かけられて当然。お互い助け合う仲間として過ごしていく内に、それが自然になっていくんじゃないかなって思うんだ」
「——私が、沢田君達の役に立てるわけ?」
今回は特殊な例だ。私の身代わりになった沢田君を、本来あるべき形に戻す事で助けたってだけだから。
「もちろん!」
「……例えば?」
「俺達は、DクラスをAクラスにしたいって思ってるんだ。その為に軽井沢さんの力を借してほしい」
「? 私がAクラスに上がる為に、何かできるの?」
「うん。軽井沢さんって女子のまとめ役じゃない? そんな君がいれば、クラスをまとめないといけない時にとっても助かるよ」
沢田君はとても嬉しい事を言ってくれている。
でもその言葉の中に、1つだけ心配な事があった。
「でも、私は別にAクラスに上がりたいとは思ってないわ。……それでも、仲間になれる? 目標が同じじゃないのよ?」
「大丈夫だよ。目指すものが違っても、たとえ昔敵対してたとしても、仲間になる事はできるんだ。俺はそれを体験してるから間違いないよ」
「……」
「俺達が君の事を絶対に守る。君が中学時代の様な思いを絶対にしないように、守り切ると誓うよ」
そう言って、沢田君は片手を差し出して来た。
その手に吸い込まれる様にして、私も手を差し出した。
沢田君の手に包まれた私の手から、心地のいい暖かな光が流れ込んでくる様な感覚を覚えた。
「——わかった。よろしくね」
「うん! こちらこそ!」
沢田君の手を離すと、今度は綾小路君が話を切り出した。
「で、さっそくやって欲しいことがある」
「何?」
「俺達のグループ、兎グループの試験に勝ちに行くんだ」
そして、綾小路君は作戦の詳細を私に説明し始めた——。
——ツナ達が軽井沢を助けてから数時間後。
夜が少し更けて来た頃。
歌劇場の裏手に、2人の男女が立っていた。
「……完全に寝てんなぁ」
「うん。睡眠薬入りの飲み物を飲ませたから」
「よく睡眠薬なんて手に入れたなぁ」
「ポイントで買ったんだよ」
「ふ〜ん」
2人の足元には、大きな麻袋が置いてある。ちょうど人が1人入れそうな大きさだ。
「よし、さっさと海に落としちまおう。それでミッションコンプリートだ」
「……うん」
男女は2人で麻袋を持ち上げて、船の縁に乗っけた。
「よし、落とすぞ。じゃあな沢田。あの世で恨むなら王ちゃんを恨めよ」
「……」
「くくく、冗談だって。よいしょっと!」
——ザバーン!
大きめの音を立てて麻袋は着水するが、エンジンの音でかき消されてほとんど聞こえてないだろう。
「おーわり! 終わってみれば呆気ないもんだなぁ」
「……」
「さっそく小狼様に報告してくるわ。一緒に行く?」
「……行かない」
「そっか。まあ小狼様も顔を見たくなさそうだったしなぁ」
そして、男の方は1人で歌劇場から遠ざかっていった。
一方、残っている女の方は——。
「これでいいんだよね? ……ツナ君」
麻袋が投げ出された海に向かって、ポツリとそう呟いたのであった……。
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