ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作4巻編 その⑦王 小狼

 

 —— side山内 ——

 

 

 船上試験の3日目は完全休日。

 

 明日が最終日という事もあり、生徒達には独特の雰囲気が流れている。

 そんな中、俺は遊技場で主人のご機嫌取りに勤しんでいた。

 

 

 —— 船上試験休養日、夜。 ——

 

 

 船内にある遊技場にはビリヤードやダーツ、テーブルゲームといった暇つぶしに持ってこいな遊び道具が多数取り揃えられている。だが今は、俺を入れて2人の男子生徒しかいない。

 

 もう1人の男子生徒はビリヤード台に座り、俺はその前に跪いている。

 もちろん、座っているのは俺の主人である王 小狼 だ。

 

「……で? きちんと始末してきたのか?」

「もちろんです。睡眠薬で眠らせて、麻袋に閉じ込めて海に投げ捨てました。眠ったまま溺死した事でしょう」

「そうか」

 

 小狼は台を降りると、俺の肩をポンと叩いた。

 

「!」

「よくやった。それでこそ俺の奴隷だ」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 跪いたまま頭を下げる。

 

(誰かに見られたら相当恥ずいぞこれ! でも俺の明るい未来の為、ここは頑張るしかねぇ!)

 

「もちろん、美雨も手伝ったんだろ?」

「ええ。作戦を立てたのもあなたの妹です」

「よし、あいつも自分の立場を理解している様だな」

 

 王ちゃんが自分の言う通りに動いた事を確認し、小狼は満足そうに笑った。

 

「あの、小狼様?」

「ん?」

 

 主人の命令を完璧に、それはもう完璧に遂行した俺であったが、1つだけ気がかりなことがあった。

 

「船から沢田を突き落としたの、俺達だってバレませんかね?」

 

 それは、警察や学校に自分が沢田殺しの犯人の1人だとバレる事である。

 今までもschiavo Giappone として上からの様々な指令をこなして来た俺だが、人殺しは初めてだったから正直少し怖い。

 

 あ、そもそも犯罪を犯すのが初めてなんだけどな。

 

「はぁ? お前バレる様な消し方をしたのか?」

(あ、やべ! 怒らせたか?)

 

 小狼のご機嫌を損ねたと感じ、急いで否定する。

 

「い、いえいえ! バレないとは思うんですけど、最悪の事態を想定しただけです!」

「……そうか」

 

 取り繕ってはいるが、俺は内心で『警察に捜査でも受けて俺と王ちゃんが迎人とバレてしまったら、こいつはすぐにでも俺達を見捨てるんじゃないか』と、警戒しているのだ。

 

 小狼は少し考える素振りをみせると、ニヤニヤしながら答える。

 

「そうだなぁ。もしもお前達が犯人だとバレる様な事があれば、1人捨てるな」

「なっ!?」

「ボンゴレX世の亡き今、奴隷は1人いれば十分だろ?」

「そ、そうですね~、あはは〜」

 

 愛想笑いを浮かべながら、心は不安でいっぱいになっている俺。

 

(やっぱり邪魔になったら捨てる気かよ! くそ、とにかく不用品に選ばれるのだけは避けねぇと。その為には——)

 

 どうすればもっと自分の有用さが伝わるのか。

 その答えは、あらかじめ用意しておいた秘策を使う事だった。

 

(王ちゃん、ワリぃけど先に報告させてもらうわ)

 

 この時、俺は数時間前の出来事を思い出していた。

 今朝、カフェテリアにて1時は巻き戻り今朝の事。

 

 沢田を消す作戦を聞く為に、カフェテリアに王ちゃんを呼び出していた。

 

 

 

 〜今朝のこと〜

 

 

「……おはよう」

「王ちゃんおはよ〜。で? 考えて来た?」

 

 王ちゃんがカフェテリアに着くなり、俺はさっそく本題に入った。

 

「……(こくり)」

「おお、偉いじゃん」

 

 無言で頷く王ちゃんを席に着かせ、店員を呼んで注文をする。

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 注文が通す為に店員がいなくなると、王ちゃんは考えた作戦を説明し始めた。

 

「——今夜、私が沢田君を呼び出して眠らせる。そしたら一緒に麻袋に入れよう」

「麻袋?」

「キッチンに、人が1人入りそうな大きな麻袋があった。それをもらっておいたから、眠らせた沢田君の手足を縛って入れ込むの。そうすれば、海に落とした後に目が覚めても抜け出す事はできないはずだから」

 

 なるほど。眠らせればいくら沢田でも抵抗できねぇか。

 王ちゃんは沢田と仲良くなったみたいだし、沢田も警戒しないだろうな。

 

「ほお~。さすが王ちゃん、頭がいいんだね」

「……ありがとう」

「よし。じゃあその作戦で行こう。実行は何時頃にする?」

「……11時に歌劇場裏に来てくれる? 歌劇場裏に沢田君を呼び出して眠らせるから」

「わかった。11時な」

 

 話が終わると、タイミングよく店員が料理を運んできた。

 

「いただきま~す!」

「……いただきます」

 

 2人で頼んだ朝食を食べ始める。元々騒がしいのが好きな俺は、無言の時間を作らない様に適当な話題を王ちゃんに振ることにした。

 

「明日で試験も終わりだな」

「そうだね」

「王ちゃんのグループはどう? 勝てそう?」

「……どうかな」

「あ、そういえば。王ちゃんは小狼様と同じグループだったな。それだと勝つわけにもいかねぇか~」

「……うん」

 

 元々暗い顔になっていたが王ちゃんだが、小狼の話題になるといっそう表情が暗くなった。

 

「優待者を見つけたら、小狼様に報告しろよ? いいアピールになるぜ」

「——優待者」

 

 優待者のワードが出た途端、王ちゃんが動きを止めた。その姿を見て、俺はありえないとは思いつつもとある推測を立てた。

 

「あれ? 何その反応。もしかして自分が優待者なのに、まだ報告してないの?」

「!」

「……え? まじで?」

 

 王ちゃんの過剰な反応。俺は自分の推測が正しかったのだと思った。

 

(……まじかよ、優待者が分かってんのに主人に教えねぇとか——いや待てよ? これって俺を売り込むチャンスなんじゃね?)

 

 優待者の正体を自分から小狼に伝えれば、知っておきながら報告していなかった王ちゃんの印象は悪くなる。そうすれば、反対に自分の印象が良くなるんじゃね?

 

 だが小狼へ報告をするには、確実な答えでないといけない。もし間違いであれば報告した俺のミスになってしまう。

 

 そうならない様に確実な証拠を掴む為、俺はぎこちない笑顔で王ちゃんに話かけた。

 

「な、なあ王ちゃん。お前が巳グループの優待者なの?」

「……(こくり)」

 

 数秒間反応がなかった。が、やがて観念したのかゆっくりと頷いた。

 

「……なんで小狼様に報告しないの? 言った方が王ちゃんの評価も上がると思うぜ?」

 

 あくまで優しい言葉を選ぶ。でもそれは優しさじゃない。自分が小狼に王ちゃんが優待者である事をばらしたりしないと思わせる為の作戦だ。

 

「……そう、だよね」

「あ、ああ! あ、でもさぁ? 優待者だって信じてもらう為には、証拠が必要だよなぁ?」

「証拠?」

「そうそう! あ、あれなんていいんじゃね? 初日に届いたメール。あれには自分が優待者かどうか記載があるし、ごまかしもできねえだろうから証拠になるだろ!」

 

 学生証端末にはスマホと同じSIMカードが入っている。だが、SIMカードの入れ替えはできないようにロックがかかっているから、他人の端末を自分の端末と偽る事はできない。このルールが王ちゃんが優待者であるという確実な証拠になると考えたのだ。

 

(さすが俺。あったまいい〜♪)

「なるほど、確かにそうだね」

「だろ? あ、念のために俺にも見せてくれない?」

「え? どうして?」

「王ちゃんが報告した後、俺も後押しした方が信用度もあがんだろ?」

 

 あくまで自分は王ちゃんの評価を上げる為のアシスト。

 それを前面に押しだしていくぅ〜!

 

「なるほど。ありがとう」

「い、いいよいいよ!  さ、早速見せてくれよ!」

「わかった」

 

 俺が急かすと、王ちゃんは自分の学生証端末を操作し始める。そして、メールを表示したディスプレイを見せた。

 

〝厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれました。

 グループの1人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。

 本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。

 巳グループの方は2階巳部屋に集合して下さい。〟

 

 表示されたディスプレイを見て、俺はニンマリと微笑んだ。

 

(ふっ、これなら問題ないな)

「確かに優待者みたいだな。よし、じゃあ小狼様に報告したら教えてくれよ?」

「うん」

「あ、でも待てよ? ミッション完了報告の後に伝えた方がもっと好印象なんじゃね?」

「……じゃあ、作戦が成功してから報告する事にする」

「それがいいな!」

 

 微笑んでいる様に見せながら、心の中で考えを巡らせる。

 

(納得した様に見えるが、王ちゃんの顔は曇っている。きっと自分が優待者である事を小様に教えたくねぇんだろうな。でもそれなら、作戦成功後に、王ちゃんが葛藤している隙に俺が報告する事もできそうだな)

 

 

 

 〜現在〜

 

 

「——あの、小狼様?」

「なんだ?」

「実は、報告する事がもう1つあるんすよ」

「もう1つだと?」

 

 作戦完了後すぐにここに来たので、王ちゃんがまだ小狼に報告してない事は確実。それが決め手となり、自分の口から小狼の役に立つ情報を報告する事に決めた。

 

「小狼様の巳グループなんですけど、優待者を突きとめたんです。俺が!」

「何?」

 

 小狼は、興味があるのかないのか判断しにくい顔になっていた。

 

 

 

 —— 王小狼の独白 ——

 

 

 ……俺は、昔からトップに立ちたいと思っていた。

 

 小さい頃、俺達家族はイタリアの小さな町で暮らしていた。

 優しい両親と共に慎ましやかな生活を送っていたのだが、口には出さないものの、自分の境遇には不満が募っていくばかりだった。

 

 なぜこんな暮らししかできないのか。それは祖国を追われたからだ、と両親は言っていた。

 

 俺の暮らしている町からは富裕層の高層ビルがよく見えていて、いつかあのビルの最上階を自分の物にしたいといつも思っていた。

 

 その目標の為に、町に1校だけある小さな学校で俺は必死に勉強に励んだ。

 

 ……いつか金持ちになる為に。

 下々の者を、顎でこきつかう立場になるために。

 

 その努力の甲斐あってか、小学校ではいつもトップの成績を取ることができていた。

 

 しかし、いい成績を残そうと自分の境遇が変わる事なんてなかった。そんな生活に希望が見えたのは、小学5年の秋だった。

 

 親父が知り合いと会社を立ち上げる事になった。その会社は開発型の会社で、共同経営者となる知り合いがすごい科学者らしい。

 

 会社は急に成長し、企業から1年後には夢だった高層ビルで暮らせるまでになっていた。

 

 その頃には親父の会社の後継者になるという新しい夢ができていて、俺はさらに勉学に打ち込む様になっていた。

 

 ある日の朝。親父が共同経営者を夕食に誘うと言って来た。

 実は共同経営者の優秀な科学者に密かな憧れを抱いてたから、そわそわしながら1日を過ごしたのを覚えている。

 

 夕食時になり、親父が1人の男と共に帰宅してきた。

 親父が連れて来たのは、20代後半くらいの好青年だ。

 

 綺麗な藍色のスーツに身を包み、優しい笑顔に持ち主に見える。

 

(……かなり若いな。本当にこの人が天才科学者か?)

 

 食卓に着くと、好青年が自己紹介をしてきた。

 

「はじめまして。ご主人の共同経営者で、科学者のケーニッヒと申します。以後お見知りおきを」

 

 話し方には気品があって、正直どうして親父と共同経営する事にしたのか不思議に思ったものだ。

 

 食事中のケーニッヒさんは母さんの料理を褒めちぎり、俺の事も将来有望なお子さんだと褒めてくれた。おかげで俺も母さんもケーニッヒさんの事をすごく気に入っていった。

 

 そして食事が終わり、お茶を4人で飲んでいた時。ふいに親父が口を開いた。

 

「2人共聞いてくれ。会社も大分大きくなって来たし、そろそろ次のステップに移ろうと思うんだ」

「次のステップ?」

「ああ。——ある組織を買収しようと思っている」

「ばいしゅう?」

 

 小学校では習っていなかった買収という単語に首を傾げる俺に、ケーニッヒさんが優しく教えてくれた。

 

「他の会社をお金で買う事を買収って言うんだよ」

「え? 買ってどうするの?」

「お父さんの会社の仲間になってもらうのさ」

「へ~」

 

 理解できていたのか怪しかったが、俺がケーニッヒさんの話を聞いている間も親父は母さんに説明を続けていた。

 

「ジョーコファミリーだ」

「っ!  あなた本気? それってマフィアと手を組むってことじゃないの!」

「もちろん分かっている」

「じゃあどうして……」

「王一族に返り咲く為さ」

「……は?」

 

 この時の俺には意味がまるでわかっていなかったが、親父の言葉に母さんは顔を真っ青にしていたのは間違いない。

 

「俺達が真の王一族となり、今度は世界の王を目指すんだよ」

「……ありえない。真の王一族なんてどうすればなれるの?」

「——俺達以外の一族を消すんだよ」

「!」

 

 親父のその一言を聞いて、母さんから椅子から立ち上がった。

 そして俺の手を掴んで2人から遠ざけようとする。

 

 ……が、俺の腕を掴んだ所で、ケーニッヒさんが母さんの口元に手を当てた。

 

「……奥さん、落ち着きましたか?」

「……はい」

「では、どうぞお座り下さい」

「……はい」

 

 口元にケーニッヒさんの手が当たった母さんは急に大人しくなり、言われるままに俺の手を離して椅子に座り直した。

 

「……こほん。では、話の続きに戻りましょうか。あ、気分を変える為に私が作ったアロマで焚きますね」

 

 ケーニッヒさんは、椅子の横に立てかけていた鞄から奇妙な箱を取り出した。変な箱で、真ん中にボタンがついている。

 そして、ケーニッヒさんがボタンを押すと……箱から良い匂いの煙が噴射された。

 

 ——プシュ!

(·……いい匂いだな)

 

 俺は煙が放つ匂いをいい匂いにしか感じていなかったが、母さんは違った。

 煙が噴射してしばらくすると、いつも優しい母さんの顔が、急に怒りで歪んだのだ。

 

 ……かと思えば、今度は悲しそうに泣き出しはじめる。

 さらに次は泣きながら怒りに顔を歪め、その次は急に何事もなかったかの様に無表情に変化した。

 

 まるでジェットコースターの様な表情の変化だった。

 

「……お母さん?」

「ふふ、小狼君、心配はいりませんよ」

「え?」

 

 思わず母さんに声をかけると、ケーニッヒさんは安心しなさいと言いたげに微笑んだ。

 

「君のお母さんは今、贖罪の役目を与えられたんだ」

「しょくざい?」

「そうだよ。ちなみにお父さんは原罪の役目を与えられている」

「げんざい?」

「そう。そして君には——」

 

 

 ……ここで意識を失ったのだろう。その後の事は記憶に残っていない。

 

 それから、両親はジョーコファミリーのトップになり、俺はその後継者となった。

 

 マフィアになって初めに行ったのは、王一族の殺勢。

 そして妹と叔父と叔母の奴隷化だった。

 

 奴隷となった妹達は任務の為に日本に渡ったが、予期せぬ展開で任務を果たすことが難しくなり任務は一時中断となった。

 その影響か、ジョーコファミリーはしばらくの間は大した躍進を遂げる事もなく燻っていた。

 

 しかしそれから1年後、14歳の11月初旬。ケーニッヒさんが変な事を言い出した。

 

「ふふふ! ついに、ついに分かりましたよ。ジョーコがボンゴレを潰し、世界の覇権を握る為の道筋が!」

 

 この時のケーニッヒさんは、初めて会った時の様な好青年ではなく歪な笑顔を浮かべる変態にしか見えなかった。

 だが、本当にケーニッヒさんの言う通りにジョーコは変わっていった。マフィア界でも覇権をどんどん広げていき、名を知らない者はいないくらいの組織へと変貌していった。

 

 しかし、それでもまだまだ中堅所。これより上に行く為には、超巨大マフィアを引き摺り下ろす必要がある。

 そのターゲットになったのがボンゴレファミリーだ。

 

 ボンゴレの10代目である沢田綱吉は俺と同い年、そして日本のとある高校に進学することが決まっているという。

 

 ボンゴレX世を消す為に、2名のschiavo Giappone を潜入させる事が決定する。

 そして、その陣頭指揮を取る為に、この俺も同じ高校に入学する事が決まった。

 

 それが高度育成高等学校だ。

 

 ジョーコの力で無事に俺達の入学も決まり、今年の春から俺は日本に渡った。

 しばらくは学校内にとけこむ為に行動は起こさなかったが、船上試験ではターゲットと奴隷が近くにいるという絶好の環境だ。そして海上で証拠隠滅も容易いと考え、ついに行動を起こす事に決めた。

 

 奴隷の事なんて気にした事もなかったから、schiavo Giapponeの1人が美雨だった事は驚きだったな。

 

 

 

 —— 現在、side小狼 ——

 

 

 Aクラスは今回の試験を放棄しているので、結果1か2を目指している。

 だから別に優待者を探す必要はないのだが、他の誰かが気づいたら裏切って密告される可能性が高まる。

 

 さすがにそれは避けたいので、一応優待者の正体を知っておこうと考えた。

 

「……誰だ?」

「妹さんですよ」

「なに?  美雨だと?」

「はい。間違いありません」

「……」

 

 山内の報告内容には、思わず憤りを覚えた。

 

(美雨、どうして自分から報告して来ない? まさか奴隷の分際で、PPを減らされたくないとでも考えやがったのか? 主人と同じグループに配属されていて、なおかつ優待者を見つけ出す課題において、自分がその優待者に選ばれているのに、主人に報告しないなんてありえねぇ。——だが)

 

 ここで1つの疑問が浮かぶ。

 そもそもどうして、山内は違うグループの美雨が優待者であると断言が出来るのか。

 

(……こいつ、俺に気に入られる為に適当な事を言ってんじゃねぇだろうな?)

 

 元より奴隷を信頼などしていない俺は、山内のその自信の根拠を示させる事にした。

 

「おい、間違い無いと言える根拠はあるのか?」

「はい。試験の朝に送られたメールを見ました。『あなたは優待者に選ばれました』と書かれていましたので」

「……そうか」

 

 メールを見たのなら、それは確実な証拠になる。しかし、もう一度言うが俺は山内の事を全くと言って良いほど信用していない。故に山内の言葉を無闇に信じたりはしない。

 

(この情報は、美雨を服従させる為の秘策程度に考えておくか)

 

 結局、元々のスタンス通りに、試験放棄の姿勢を続ける事に決めたのだった。

 

 

 〜その後。デッキにて〜

 

 山内と別れた俺は、ボンゴレX世の死亡を本部に伝える為に、デッキに出て来ていた。

 右肩に仕込んである通信機のスイッチを皮膚越しに押し、ケーニッヒさんへ通話行った。

 

 ——シーン。

 

(あ? なんでだ? 通信ができないぞ)

 

 その後も何度か試したが、結局一度も通信は出来なかった。

 

(……まぁいい。この辺が通信しづらいだけだろう。また明日にでも試すとするか)

 

 適当な理由を付けて納得し、俺は自分の客室に戻る事にした。

 

 

 —— 船上試験最終日。12時55分 ——

 

 

 5回目のグループディスカッションが始まるまで、後5分。

 ABCは全員揃っているというのに、Dクラスは2人しか入室していなかった。

 

 いない2人の内、1人はいなくて当然だ。

 なぜなら、沢田綱吉は昨日海の藻屑になったのだから。

 

 だが、もう1人の美雨がいないのはおかしい。

 

(……まさか、人殺しの罪悪感で自殺でもしたか? そうだとしたら面倒くさいな)

 

 そんな心配をしていると、巳部屋のドアが開き、美雨が入って来た。

 

「すみません、遅れました」

「いえ、問題ないですよ」

 

 美雨は時間ギリギリで入室してきた。

 

(ふん、緊張で寝れなくて昼寝でもしてたか?)

 

 とにかく美雨が来た事に安堵した俺は、学生証端末に視線を落とそうとした……その時。

 

 美雨の後ろから、いるはずのない男が現れたのだ。

 

「ごめん、遅れました」

「あ、沢田君。まだ時間内なので大丈夫ですよ」

 

 頭をかきながら椎名と話しているその男は——。

 

「なっ、なんでお前がいるんだ!」

『?』

 

 海に沈んで死んだはずの沢田綱吉だった。驚きの余り大きな声で問いかけてしまい、全員の視線を集めてしまった。

 

「……す、すまない。寝ぼけていたようだ」

 

 ——ピンポンパンポーン。

 

 誤魔化す様に変な嘘を吐くと、ちょうどよくグループディスカッション開始のチャイムが鳴ったので、全員の関心が試験を移ってくれたようだ。

 

「今回はUNOにしません?」

「いいよ~」

 

 3~4回目のグループディスカッションの時と同じく、今回も参加組はカードゲームで時間潰しをする様だ。

 

 いつもなら俺は学生証端末を弄って時間を潰すのだが、今の俺はそれどころではない。

 

(……なんで生きている? 眠らせて拘束した上で海に落としたんじゃなかったのか? 何をやってんだよ、山内の野郎!)

 

 どうして死んでいないんだという驚きと、なんで殺せていないんだという奴隷への怒りが頭がぐちゃぐちゃになる。

 

 行き場の無い感情をどうにかしようと沢田綱吉と美雨を睨みつけていると、いつのまに1時間経ったのか分からないが、グループデイスカッション終了のチャイムが鳴り響いた。

 

 ——ピンポンパンポーン。

 

「……これで終わりですね」

(ダッ!)

「! あいつ!」

 

 チャイムが鳴った後、美雨が巳部屋を飛び出ていってしまう。

 逃げた美雨を捕まえる為に俺も急いで巳部屋を飛び出した。

 

「はっ、はっ」

「.……おい、奴隷」

「!」

 

 しばらく追い掛けていると、美雨が疲れたのか動きを止めた。そこは地下施設だった。

 

 息が荒い美雨にゆっくりと近づいていく。

 

「……おい、なんで沢田綱吉が生きている?」

「……」

「薬で眠らせたんだよな?」

「……」

「……身動きできない様に拘束したんだろ?」

「……」

 

 何を聞いても無言を貫く奴隷に、俺の感情がどんどん昂っていく。

 

 近づいてく俺に比例してジリジリと後ずさる美雨だが、やがて壁にぶつかり逃げ場を失い、床にへたり込んだ。

 

「ふざけんなよ! 何とか言えよこの奴隷が!」

 

 怒りを露わにして美雨に殴りかかろうとした、その時!

 

「……やめろ」

 

 振り上げた腕を、後ろから誰かに掴まれた。

 

「……沢田綱吉!」

「美雨から離れろ。小狼」

 

 腕を掴んだのは沢田綱吉だった。

 

「お前こいつの事庇うのか? こいつはお前を殺す為に、この学校に入学してきたんだぞ?」

「知ってる。そしてもちろん庇う。美雨は俺の大切な友達だからな」

「なんでだよ! お前の敵だぞ!」

「敵じゃ無い。友達で仲間だ」

「はぁ? おい美雨、こんな事してどうなるか分かってんのか? お前の大事な両親はすぐに処刑してやるよ。いいのか?」

 

 沢田には脅しは通じなさそうなので、美雨にしかける事にする……が。

 

「その脅しはもう効かないぞ?」

「ああ?」

 

 美雨に対する脅しが、なぜか沢田によって否定されてしまう。

 

「美雨の両親は、ボンゴレで保護させてもらったからな」

「……は、はぁ!?」

 

 沢田は意味の分からない事を言いはじめた。

 美雨の両親を保護した?

 

 そんな事できるわけがない。

 あいつの家はジェラスに監視させているはずだ!

 

 意味の分からない嘘に、思わず沢田に殴りかかってしまう。

 

「嘘を吐くな!」

「……ふん」

「うわぁ!」

 

 勢いよく殴りかかった俺の拳を、沢田は華麗に避けた。

 そして勢いそのままに、俺は地面に倒れ込んでしまった。

 

 俺が倒れ込んでいる間に、沢田はへたり込んだ美雨を抱え上げて出て行こうとする。

 しかし、地下施設から出る前になぜか俺に振り返った。

 

「——小狼」

「な、なんだ……っ!」

 

 沢田の鋭い眼光が俺の動きを止める。

 

「もう美雨に関わるな。彼女はもう、schiavo Giappone じゃない。次に美雨に何かしようとしたら……俺が許さないからな」

 

 そして、美雨を抱えたまま沢田は消えていった……。

 

「……くそおぉぉ」

 

 俺しかいない地下施設には、俺の情けない声だけが響いた。

 

(……どうして、沢田は生きてるんだ? それに、どうやって美雨の両親を救い出した?)

 

 疑問ばかり出て来て、解決策は1つも思い浮かばない。

 

(美雨の奴も、捨て忌み子の分際で俺を裏切りやがって! あいつら2人は絶対に殺す!  この俺が殺す!)

 

 段々と美雨への怒りが沸き上がり、その怒りを糧にあいつらへの報復をどうするかを考えていると、山内からの報告の事を思い出した。

 

『小狼様の巳グループなんですけど、優待者を突きとめたんです。俺が!』

(……そうだ。俺には1つだけ、すぐに沢田と裏切り者の美雨に報復できる方法があるんだった)

 

 俺は立ち上がると、地下施設から出て1階への階段に出た。

 そして、階段を登りながら学生証端末を取り出して、メールを打ち込み始める。

 

 

 TO  高度育成高等学校

 

 優待者を告発します。

 巳グループの優待者は『王美雨』です

 

 FROM 王 小狼

 

 

「ククク……」

 

 メールを送信し終えた俺は、太陽の下で1人不気味に笑う。

 そして、メール受信音が鳴り響いた。

 

 ——ピロン。

 

 受信メールを確認すると、それは巳グループの試験終了を知らせるメールだった。

 

 

 TO 王小狼

 巳グループの試験は終了致しました。

 以降、巳グループの方は試験に参加する必要はありません。

 

 FROM 高度育成高等学校

 

「ククク……」

 

 ……内容を確認した俺は、自分の客室へと向かったのだった。

 




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