ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作4.5巻編は、今後のストーリーに関わってくる一部を抜粋して、2話に分けてお届けします!



原作4.5巻編 SS①

 

 SS① かてきょーにしごかれる。

 

 昨日バカンスから帰ってきた俺達1年生。

 夏休みはあと5日間残っているので、皆それぞれに満喫していることだろう。

 

 ちなみに俺は……絶賛トレーニング中です!

 

「……き、きつい」

「甘えてんじゃねえ。お前が俺に指導を求めたんだろ?」

「そ、それはそうなんだけど~」

「死ぬ気の到達点をモノにしたいだろ? それならこんくらいやらねえとな。いや、むしろこれでもヌルいくらいだぞ」

 

 船上試験の時にひよりちゃんから出された課題、自力で死ぬ気の到達点に達する事。

 

 自力で死ぬ気にもなれない今の俺には、これはとてつもなく遠い目標だ。

 

 日本に帰る船旅の最中、まずどうすれば自力で死ぬ気になれるのかを考えたのだが、(これは1人で悩んでいても、やるべき事は思いつかないぞ)という結論に至り、かてきょーに頼る事にしたのだ。

 

 

 

 —— 昨日の夜 ツナの部屋 ——

 

 

「ふぅ」

 

 自分の部屋につき、ベッドに腰かけて一息つく。キッチンではリボーンがコーヒーを煎れている真っ最中だ。

 

 ——コポコポ。

 

「……なぁ、リボーン」

「ん? どうしたツナ」

 

 コーヒーを煎れているリボーンに、帰りの船旅で考えた事をお願いしてみる。

 

「俺、自力で死ぬ気になれるようになりたいんだ」

「! ほお。どうしてだ? 小言丸があるじゃねえか」

「ひよりちゃんと約束したからさ。死ぬ気の到達点に自力で到達してみせるって」

「ふむ、確かにしていたな」

 

 完成したコーヒーを、マグカップへと注ぎいれるリボーン。注ぎ切ると、一口だけ口にした。

 

「(ごくっ)……それで? なんでその話を俺にしてくるんだ?」

「基本的にボンゴレは学校内での出来事に干渉はしない。でも、お前は納得できる理由があれば指導はしてくれるんだろ?」

「そうだな。俺が納得できる事なら、かてきょーとして指導はしてやる」

「よし。じゃあ俺に死ぬ気状態に関する指導をしてくれ!」

「理由はなんだ?」

 

 ここで納得できる理由がなければ、指導はしてもらえないだろう。ここが勝負だ。

 

「お前は死ぬ気の事にも死ぬ気の炎についても詳しいだろ。だから自力で死ぬ気状態になる術を知ってると思うんだ」

「そうだな。確かに死ぬ気については熟知しているつもりだ」

「だろ?」

「でもなんで教えて欲しいのが死ぬ気状態なんだ? 死ぬ気の到達点へ至るのが目標だろ?」

「自力で死ぬ気になれないのに、死ぬ気の到達点なんて到達できるわけないからだよ。まずは最初の1歩目から踏み出して、死ぬ気の到達点はその後だ」

 

 質問への回答を聞いたリボーンはニヤッと笑った。

 

「ふっ。どうやら俺に指導を頼む前に、ちゃんと自分でもどうすればいいか考えたようだな」

「もちろん。何も考えずにただ頼んでも、お前が受け入れてくれるわけないからな」

「俺の性格をよく分かってるじゃねえか。褒めてやるぞ」

「伊達に3年間生徒をやってないよ!」

「ふふっ、そうだな」

 

 満足げに頷いたリボーン。しかし数秒後、今度はなぜか少し難しい顔になって考え込み出した。

 

「……すまねぇが、死ぬ気の到達点については俺から指導できる事はもうないかもしれねぇな」

「え? なんで?」

「お前は一度死ぬ気の到達点を経験している。それはつまり、お前は死ぬ気の到達点に至れるだけの素質があるって事だ」

「素質?」

「そうだ。全身の細胞が死を覚悟するなんて、簡単にできることじゃねぇ。それが出来るだけの資質や強い意志が必要だからな」

 

 それと指導できる事が少ない事に何か関係があるのだろうか。

 

「で、だ。お前は死ぬ気の到達点に一度は到達した。つまりは体の細胞1つ1つに死を覚悟できる資質があり、経験がある。それに、アルコバレーノの奥義『特殊弾による技の継承』を使っても、体に死ぬ気の到達点に達する感覚を覚えさせることくらいしかできないだろうし、そもそも1番大事な自力で死ぬ気の到達点に達する方法が、俺や家光にもわからねぇんだ」

「そ、そっか」

 

 リボーンにも、あくまで俺に死ぬ気の到達点に到達させるサポートしかできないらしい。死ぬ気の到達点の事は自分で試行錯誤していくしかなさそうだな。

 

「だが、お前がお望みの自力で死ぬ気状態になる術なら教えてやれるぞ」

「! 本当か!」

「ああ。……こいつを使ってな」

 

 リボーンはキッチンから自分のスペースへと移動し、何やら1冊のノートを持ってきた。

 

「ノート?」

「ああ。これにはな、自力で死ぬ気状態になれるように奮闘した、1人の男のトレーニング方法が記されているんだ」

「誰?」

「家光だぞ」

「父さんかよ!」

 

 ノートをよく見てみると、表紙に「父から息子へ、愛の死ぬ気トレーニング大全!』と書かれている。小さく父さんのイラストも描かれているのは気にしないようにしよう。

 

「俺からお前にする指導は、このノートに記されたトレーニングを、お前の状態に合わせてこなさせる事だ」

「な、なるほど」

「よし、早速明日の朝からやるぞツナ」

「え? わ、わかった」

 

 ……この時の俺は、父さんのトレーニングがどれほど厳しいものなのか分かっていなかった。

 

 

 

 〜現在 〜

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 と、いうわけで、今俺はトレーニングをしているわけさ。

 

 ……正直すごく辛い。今までのどのトレーニングよりも、メニューが過酷すぎる!

 

「ダメツナ、何を辛そうな顔をしてんだ。もっと笑顔で走れ!」

「いや、しんどすぎて笑えるかよ!」

「このノートの1ページ目に、『全てのトレーニングは満面の笑顔でこなす事!』って書いてあるぞ」

「何だよそれ! 父さんの悪ふざけだろ!」

「いいから笑顔で走れ! このダメダメダメツナが!」

「ひいぃ~!」

 

 こうして、残りの夏休みの半分くらいを、笑顔でトレーニングをする時間に当てる事になりました……。

 

 

 

 SS② 占い師? ここ八百屋さんじゃ?

 

 

「199……200……う、占いのお店?」

「はい。バカンス中に出来たそうですよ」

「へ、へぇ~」

 

 ある日の昼下がり、広場で筋トレに励む俺の元にひよりちゃんが訪ねてきた。

 

 そして、なぜか俺のトレーニングを見学していく事になった。その途中で、ひよりちゃんに一緒に占いに行かないかと誘われたのだ。

 

「よく当たるらしいんですよ。私と一緒に行きませんか?」

「い、いいけど。みーちゃんを誘った方が良くない? 占いって好きな女の子多いし」

「それが、みーちゃんは今日の午前中にクラスの友達と行ってきたそうなんです」

「なるほど。うん、分かった。後5分待ってくれる? このトレーニングを終わらせるからっ」

「はい。見学して待っておきます」

 

 ひよりちゃんに見られながら、区切りの良い所でトレーニングを終わらせた。

 

 

 

 —— ショッピングモール ——

 

 

 敷地内にあるショッピングモール。その中には、安い食材を売っている小さめの商店街のようなスペースがある。俺達Dクラスには強い味方だ。

 

「で、占いのお店ってどこにあるの?」

「あそこですよ」

 

 商店街を歩きながら、とあるお店を指さすひよりちゃん。

 

 ひよりちゃんの指している方向を目で追ってみると、違和感が目に飛び込んできた。

 

「え、あれ?」

「はい。あのお店です」

 

 確かに沢山の人が並んでいるが、どう見ても占いのお店ではない。

 

「……八百屋さんだよね?」

「はい。八百屋さんです」

「占いのお店は?」

「八百屋さんが占いを始めたらしいんです」

「え!」

 

 八百屋さんと占いなんて全く結び付かないぞ?

 なんで占いなんて始めたんだ?

 

「……怪しくない?」

「でも本当によく当たるらしいですよ?」

「ほ、本当かなぁ」

「しかも料金は野菜を1つ分。なんでもいいから商品を購入すれば占ってくれるんですって」

「意外と商売上手なんだなぁ、あのおばちゃん」

 

 俺も八百屋さんは結構利用しているので、店主のおばちゃんとも顔馴染みだ。だから、あのおばちゃんが占いを始めるなんて余計にびっくりなのだ。

 

「あ、そのおばちゃんは退職されてますよ?」

「え!? そうなの!?」

「はい。で、今は新しい人が店長みたいです。占いもその店長が始めたんでしょうね」

 

 バカンスに行っている間に色々あったんだな。

 

「とにかく、私達も並びましょう?」

「うん。ここまで来たしね」

 

 今から帰るのも勿体ないので、占いをしてもらう事にした。

 

 列に並びながら買いたい野菜を選んでおけばいいらしく、俺とひよりちゃんも適当に野菜を選ぶ事にしたのだが……野菜を物色していると、変な看板が目に入ってきた。

 

『マシマロベジタブル、おいしいヨ♪』

 

「……ま、マシマロ?」

「マシュマロの事でしょうか?」

 

 その看板の下には、いくつかの野菜が置いてある。試しに一つ掴んでみると……。

 

「わぁ、ふわふわです」

「マシュマロで出来た野菜みたいだね」

 

 なるほど、マシマロで出来た野菜でマシマロベジタブルか。

 

「俺、これにしよう」

「私もこれにします」

 

 何となく気になってしまったマシマロベジタブルを持ち、列に並ぶ事数分。

 

「——お客様、こちらへ」

「わっ!? は、はい」

 

 いきなり白いフードを被った男が現れ、俺とひよりちゃんを店の奥へと案内し始めた。

 

 店の奥には小さな部屋があり、そこが占いのお店になっているとの事。

 

 部屋に入ってみると、そこには小さい机を挟んで三脚の椅子が置いてあった。二脚がお客さん用らしく、もう一脚には占い師が座っている。

 

 占い師は顔を伏せているが、若い男のようだ。

 

「どうぞ、おかけください」

 

 フードの男に言われるままに俺達は椅子に腰掛けた。

 

「……ぷっ♪」

「?」

「ハハハハハw」

 

 いきなり占い師が、顔を伏せたまま笑い始めた。

 

「あ、あの。どうして笑うんです?」

「ハハハハハ♪ いや~ごめんね? 久しぶりの再会で嬉しくなっちゃった!」

「!  その声てまさか!」

「うん! そのまさかさ♪」

 

 ゆっくりと顔を上げる占い師。

 

「び、白蘭!?」

「いえ~い♪ 驚いてるね~綱吉クン!」

 

 そう、占い師の正体は、未来で死闘を繰り広げて代理戦争では共闘もした白蘭だったのだ!

 

「な、なんで白蘭が!」

「あ、ボクだけじゃないよ? 後ろを見てごらんよ♪」

「え?」

 

 白蘭に言われるがまま後ろを振り向くと、そこには案内してくれた白フードの男が立っている。

 

「?」

「(スっ)」

「あ!」

 

 白フードの男がフードを外した。

 

「が、γガンマ!?」

「よお、代理戦争以来だな」

「えええ~!?」

 

 白フードの男は、ユニの右腕であるγだった。

 

(な、なんでこの2人が?)

「ジョーコファミリーの強襲に供えての赴任です、ね?」

「え?」

「そう! さすがはひよりちゃん♪」

「え!? どうして白蘭がひよりちゃんの名前を!」

 

 さっきから驚いてしかいない俺に対し、ずっと冷静なままのひよりちゃん。

 驚愕している俺に見かねたのか、ひよりちゃんが説明し始める。

 

「この2人とは、入学前に一度お会いしているんです」

「!? そうなの!」

「はい、ユニさんに協力を依頼する時に」

「あ、なるほど」

 

 ユニに会うなら、ミルフィオーレファミリーの所へ行かないといけないもんな。

 

「……で、ジョーコの強襲に備えての赴任って?」

「ジョーコファミリーの幹部は、ボンゴレの壊滅を目論んでいます。バカンス中に仕留めきれなかった今、学校に強襲してきてもおかしくありません」

「そう! で、そんな時に綱吉クンの力になってあげてってユニに頼まれてさ~、それでボク達が来たってわけさ♪」

「姫からボンゴレに掛け合ってな。ボンゴレも有事の為の人員を送り込むつもりだったそうだから、そこに俺と白蘭をねじ込んでもらったのさ」

「そんな事になってたとは……全然知らなかった……」

「ツナ君が学校生活に集中できるように、配慮されたんですよ」

「そうそう♪ あ、ボク達は有事の時以外は学校に雇われたショッピングモール職員だから。学生生活を邪魔したりしないから安心していいよ♪」

 

 安心していいのか微妙だよ!

 別に敵だとは思ってないけど!

 

「それで、2人は八百屋を任されたんだね?」

「そう、でもそれだけだとつまんないじゃん? だから占いを始めたんだよね~」

「なんで占い?」

「女の子達が沢山集まるかな~って!」

「そんな理由!?」

 

 ブルーベルが知ったら激怒するんじゃないか?

 この学校の女子が全員消されたりして……。

 

 変な心配している俺の肩に、γが手を置いてきた。

 

「心配すんな。学校の奴らに危害は加えない。姫との約束だからな。ブルーベルも白蘭が押さえるだろうよ」

「? 俺の考えてる事がよく分かったね」

「俺も最初同じ事思ったからな」

「ああ……」

 

 気苦労が絶えなさそうなγに、少しだけ同情してしまう。

 

「でも、よく当たるって有名になってるね」

「うん! 平行世界に飛んで、お客さんに起こり得る出来事を調べてるからね、的中率は中々高いよ♪」

「それ占いなの!?」

 

 マーレの大空の適応者としての能力をそんな事に使うとは……いや、でも大繁盛しているからすごい有用な使い方なのかもしれないな。

 

「ところで、君達? お代は持ってきたかい?」

「ああ、これを買うよ」

 

 俺とひよりちゃんは、さっき選んだマシマロベジタブルを机の上に置いた。

 

「ワオ! さすがは綱吉クン。マシマロベジタブルを選ぶとはお目が高いねぇ~♪」

「あはは……」

「よ~し。早速占って上げようかなっ。ちょっと行ってきま~す♪」

 

 そう言うと、白蘭は目を閉じた。並行世界へ飛んでいるのだろう。

 

「……これ、どれくらいかかるの?」

「ほんの数秒で戻ってくるぜ」

 

 γの言った通り、白蘭はすぐに意識を取り戻した。

 

「ただいまっ! 綱吉クンの占い結果から教えちゃうね」

「うん」

「えっとね~。夏休み最終日、プールに行くお友達に注意! 以上♪」

「えっ? それだけ?」

「マシマロベジタブルは安いからね〜♪ これぐらいが適正さ」

「看板でおすすめしてたくせに!」

「おいしいよって味のオススメだよ? 別に占いのお代にオススメしますとは書いてないし〜」

「ぐっ! 確かに……」

 

 完全に白蘭の言い分が正しくてグウの音も出ない。

 あくまで商売なのですね。

 

「私の占い結果は?」

「ひよりちゃんはね~。2学期になったら、綱吉クンがいいものを見せてくれると思うよ♪」

「いいもの?」

「そうさ! これ以上は教えないよ♪」

「ふふ、わかりました」

 

 俺とは違い、なんか満足そうなひよりちゃん。

 

「ごめん、もっとお話したいんだけど、後ろが詰まっているから今日はお引き取り頼むよ」

「ああ、うん。わかった」

「ありがとうございました」

 

 言われた様に椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとすると、白蘭が声をかけてきた。

 

「あ、ボクらは基本ここにいるから、たまには遊びにきてね。マシマロパーテーしようよ♪」

「う、うん(マシマロパーテーって)」

 

 手を振る白蘭に背を向け外に出る。

 最後に、レジでマシマロベジタブルの精算をした。

 

 レジ担当はγの様だ。

 

「マシマロベジタブル1つで、20Pだ」

「安っ!」

 

 読み取り機に学生証端末をかざして、それぞれ支払いをすませた。

 

「白蘭のおやつ用マシマロの余りから作ってるからな、安くていいらしい」

「余り物なんですか……まぁ有効活用かもしれないですが」

 

 ひよりちゃんもあまりの安さに苦笑いしてしまっている。

 

「そうだ。言い事を教えてやろう」

「良い事?」

「2学期が始まったら、野菜はスーパーで買え。ここはもうじき、マシマロベジタブル専門店になっちまう」

「なんで!?  それはもうマシマロ屋じゃん!」

「店長の独断だ、すまん」

「あ〜。……いつもご苦労様です」

 

 やはり苦労していそうなγに労いの言葉をかけ、俺達はマシマロ屋を後にした。

 

 そしてマンションへの帰り道、ひよりちゃんがこんな事を言ってきた。

 

「さっきの私の占い結果ですけど」

「うん」

「良い事ってことは、ツナ君が私の課題をクリアしてくれるって事かもしれませんね」

「え! い、いやぁ~、どうかなぁ~」

「ふふふ、2学期が楽しみですね」

「あ、あははは……」

 

 ……ものすごいプレッシャーをかけられてしまった。

 

 あ、ちなみにマシマロベジタブルの味はまんまマシュマロでした。

 

 

 

 SS③ 堀北さんのSOS

 

 

 夏休み終盤の夕方、学校から緊急連絡があった。

 なんと、トラブルで敷地内全体が断水状態らしい。

 

 水道が使えない分、混み合う事が予想されるコンビニ等も使用禁止だ。

 ちなみに復旧は最悪明日になるそう。

 

 一応ショッピングモールか学生食堂に行けば、ベットボトルの水は配給してもらえるらしいけど。

 

「まじか。飲み物とかあったっけ?」

 

 冷蔵庫のドアを開けてみると、中にはコーラのペットボトルと、お茶のペットボトルが1本ずつ入っていた。

 

「よかった。これで明日までは保つだろ」

 

 安心して冷蔵庫の扉を閉めると、リボーンがキッチンでお湯を沸かしている姿が見えた。

 

(あれ? ウチに飲料水は置いてなかったと思うんだけど)

 

「リボーン」

「ん?」

「うちに飲料水なんて、置いてなくないか?」

「ああ。これは俺のブレンドコーヒー専用の水だ」

「専用?」

「そうだぞ。俺のスペースにこの水を備蓄してあるんだ」

 

 コーヒーメーカーの隣に置いたあったペットボトルの水を見せられる。

 そのラベルには、外国の文字が書かれていた。

 

 イタリア語か? 読めないや。

 

「それ、イタリアの水なのか?」

「ああ。イタリアの秘境で取れる湧水なんだ。コーヒーとの相性は抜群だぞ。9代目が毎月俺に箱で送ってくれるんだ」

「へぇ~」

 

 珍しいのでジロジロとラベルを見ていたら、リボーンがニヤリと笑った。

 

「欲しいならやるぞ?」

「え、いいの?」

「ああ。1万ポイントでな」

「高いな!」

「当たり前だ。高級な湧水だからな」

 

 水に1万はさすがに払う気にはなれないなぁ。

 俺もコーヒーの美味しさがわかる様になれば、1万も惜しくなくなるのだろうか。

 

「う、遠慮しとくよ。俺はコーラでいいや」

「そうか。まだまだガキの味覚だな」

「うるさいよ! 赤ん坊のくせに!」

「ふん、ムキになるのも子供の証だ。少しは俺のダンディズムを見習え」

「どこかダンディなんだ、どこが!」

「全体的に決まってんだろ?」

 

 何言ってるんだと言いたげな顔をしているリボーン。

 どうせ口喧嘩では勝てないので、ここは撤退にかぎる。

 

「まったく!」

 

 ——プシュっ。

 

 お口直しに冷蔵庫からコーラを取り出して飲んでいると、学生証端末の着信音が鳴った。

 

 ——プルルルル、プルルルル。

 

(誰だろう? あ、堀北さんだ)

 

 着信相手は堀北さんだ。

 そういえばバカンスから帰ってきてからまだ会ってないけど、どうかしたのだろうか?

 

 ——ピッ。

 

「はい、もしもし?」

「……沢田君、夜にごめんなさい」

「ううん、全然大丈夫だよ。どうかした?」

「……」

 

 少しの間を開けて、堀北さんは用件を話だした。

 

「あの、ちょっとトラブルが起きてしまって」

「トラブル? 何があったの?」

「説明が難しいわ。悪いのだけど……わ、私の部屋まで来てくれないかしら?」

「わかった。すぐに行くよ」

「……ありがとう。鍵は開けておくわ」

 

 電話を切ると、俺はすぐに家を出た。エレベーターに乗り、5階まで降りる。

 

 男子用と女子用のマンションは5階の連絡通路で繋がってる。だから5階から行くのが近道だし、堀北さんの部屋もちょうどいい事に5階だ。

 

 

 

 —— 堀北さんの部屋 ——

 

 

 ドアを開き、部屋の中に入る。

 廊下からリビングに行くと、ダイニングの椅子に堀北さんが座っていた。

 

 なぜか右手にタオルをかけている。

 

「堀北さん、お待たせ」

「すまないわね、沢田君」

「ううん、いいんだよ。何があったの?」

「……そ、それが」

 

 堀北さんは顔を少し赤くして、言い辛そうにしている。

 

「言いにくい事?」

「そういう訳じゃないのだけど……実は」

「実は?」

「……抜けなくなってしまったのよ」

「抜けなく? 何が?」

「そ、その·手がよ」

「手?」

「ええ……」

 

 堀北さんは左手で右手に掛けていたタオルを外した。

 

「——え?」

「……こういう事なのよ」

 

 なんと堀北さんの右手が、赤い小さな水筒にすっぽり突っ込まれていたのだ。

 

『……』

 

 2人の間に気まずい沈黙が訪れる。

 

「え~と、何でそうなったの?」

「水筒を洗っていたのよ。底の方にお茶の葉が張り付いていたから、手で剥がそうとしたのだけど」

「……抜けなくなってしまったと」

「……ええ」

 

 堀北さんの顔がさらに赤くなる。恥ずかしいのだろう。

 俺的には堀北さんも凡ミスするんだなって分かって少し嬉しいんだけど、それを言う必要はない。

 

「1人で抜けなくて俺を呼んだんだね?」

「ええ。左手で右手を動かない様に抑えるから、沢田君は水筒を引っ張ってほしいの」

「よし、わかったよ」

 

 さっそく堀北さんの隣に行き、右手が嵌っている水筒をがっしりと掴む。

 

「じゃあ引っ張るね?」

「ええ」

「せ~の! ん〜っ!」

 

 力を込めて引っ張ると、堀北さんの顔が苦痛で歪んだ。

 

「——痛っ」

 

 しかし、水筒はピクリとも動かない。手首の前の1番幅が広い所が、釣り針の返しの様になってしまっているのかもしれない。

 

 しばらくひっぱり続けるも、結局水筒を動かす事は出来なかった。

 

「これはもう、石鹸で滑りを良くして抜き取るしかないね」

「そうね。でも間の悪い事に、今は断水中よ」

 

 そういえばそうだった。うっかり忘れてしまっていた。

 

「あ、そうだったね……この部屋に飲料水とかは?」

「ないわ。飲み物も切らしているのよ」

「そっか……じゃあどうしよう」

「食堂かショッピングモールに水を取りに行くのは避けたいわ」

「ああ、まぁそうだよね」

 

 今の自分を誰かに見られたくないんだろうな。

 俺に助けを求めたのも、きっと苦渋の決断だっただろうし。

 

(ん~ならどうするか。俺が1人で水を貰いに……あ!)

 

 その時、ふいに先程のリボーンとの会話を思い出した。

 

(そういえば、リボーンが水の備蓄をしているって言ってたな。それを1本もらってくればいいんだ)

 

 問題は1本1万ポイントする所だけど、堀北さんをこのままにする事もできないしな。これは必要経費だと割り切るしかない。

 

「堀北さん、俺の部屋に水のペットボトルがあったのを思い出したよ。今から取ってくるからちょっと待ってて?」

「いいの? ありがとう」

 

 そして、俺は一旦部屋に戻り、リボーンから湧水を1本譲ってもらった。何に使うのかと聞かれて『相棒がピンチだから』と答えたら、なぜか『今回だけ特別に無料でいい。持って行け』と言われて水をもらえた。

 

 急いで部屋に戻り、堀北さんと共にキッチンに向かう。

 

「よし、じゃあチョロっと水を入れて~、洗剤を垂らすと」

「……動かしてみるわね」

 

 洗剤のおかげで滑りが良くなっているから、少しずつではあるが確実に堀北さんの手が抜け始める。2分もすれば完全に水筒から手を抜くことができた。

 

「はぁ、助かったわ沢田君。まさかこんな事になるとは思わなかったけど、これから気を付ける様にする」

「あはは、気にしなくていいよ。パートナーは助け合ってこそでしょ」

「……」

「?  堀北さん?」

 

 パートナーという言葉に反応したのか、堀北さんの顔が暗くなってしまった。

 

「……私、沢田君のパートナーって言えるのかしら」

「え? 何で?」

「だって私はバカンス中に、あなたに大した協力が出来ていないもの。好成績が収められたのは、ほとんど沢田君と綾小路君の力だったわ」

 

 帰りの船旅でも元気なかったけど、その事を考えていたのかな。全然気にする必要なんてないのに。

 

「別に気にする必要ないよ?」

「私が気にするのよ。パートナーである以上、役立たずなんて嫌だわ」

 

 堀北さんの事を役立たずだなんて思う訳ないのにな。

 

「無人島試験では俺の作戦に協力してくれたし、干支試験でも頑張ってくれてたんでしょ? それだけで十分役に立ってくれてるよ」

「……」

 

 まだ納得いっていなさそうな顔だ。ここは俺の本心を伝えるべきだな。

 

「俺さ、堀北さんがいるから頑張れるんだよ?」

「……は? い、いきなり何を言うの!」

 

 なぜか焦った様にそう言う堀北さん。

 顔が若干赤いのは気のせいだろうか。

 

「堀北さんがパートナーとして一緒にAクラスを目指してくれているから、俺は頑張れるんだよ」

「っ……」

「俺は感情的になりやすいからさ、堀北さんみたいに冷静に周りを見てくれる人がいると安心なんだよ」

「そ、それは綾小路君も同じよ」

「ううん、違うよ! 綾小路君も大事な仲間だし、冷静なんだけど、ん~。堀北さんの方が安心感があるっていうのかな」

 

 安心感という言葉に、堀北さんが不思議そうな顔をする。

 

「安心感?」

「うん。同じ熱量で同じ目標を持ってくれてる人だって感じるからかな、俺は1人じゃないって思えるんだよね」

 

 これは俺の本心からの言葉だ。

 

『カッコつけんなツナ、お前はヒーロになんてなれねー男なんだぞ。皆を過去に返すとか、敵を倒す為に修行に耐えるとか、そんなカッコつけた理屈はお前らしくねーんだ。あの時の気持ちはもっとシンプルだったはずだぞ』

 

 昔、未来で初めてリングに死ぬ気の炎を灯した時に、リボーンに言われた言葉。

 それは今でも覚えているくらい、俺の中で大切なモノになっている。

 

 俺はヒーローにはなれないし、ヒーローの様なカッコいい行動も出来ない。

 だけど、誰かの為になら力を発揮する事はできるんだ。

 

「熱量は多いんだけど冷静沈着で、そんな君がいるって分かってるから、俺も堂々と行動していけるんだよ」

「……」

「それにさ、俺がクラスの役に立ててるとしても、元を正せば堀北さんが一緒にAクラスを目指そうって言ってくれたからだし。それだけでも相当助かってるよ」

「……沢田君」

「だからさ、そんな事気にしないでよ。俺達はパートナーじゃないか。2人で同じ目標を目指して頑張ってるんだし、どちらの方が役に立ったとか関係ないよ」

「……そうね。ごめんなさい、自分に嫌気が差して悩んでいたのかもしれないわ」

「ははは、まぁ悩むのは学生の特権って言うし、それがいい方向に向かうならいいと思うよ。でも、今回のバカンスでの自分を蔑む必要はないからね」

「……ありがとう」

 

 俺の気持ちが伝わったのか、堀北さんは微笑んでくれた。

 

 

 ——その後、俺が水の残りでシンクに残った洗剤を流していると、ふいに堀北さんが質問をしてきた。

 

「そういえば、どうして洗剤を使えば手が抜けるって分かったの?」

「え? ああ、小さい頃に俺もやった事があってさ。その時に、母さんが同じ方法で手を引き抜いてくれたのを覚えてたんだよ」

「そうなのね。ちなみに、どうして水筒に手が嵌まったの?」

「その時に持ってた水筒が、当時に流行ってたロボットアニメのやつでさ。形が主人公のロボットの腕に似ているから、ロボットパンチごっこをしようとして、手を入れちゃったんだと思う」

 

 昔話をしながら当時の事を思い出す。

 あの時は俺大泣きしたんだっけ。

 

「男の子って感じの理由ね」

「はは、そうだよね。でも懐かしいな~。こうやって水筒に手を入れてさ、ロケットパーンチってやってたなぁ~」

 

 懐かしさに思わず堀北さんの水筒に手を入れてしまった俺。

 しかし、すぐにその事を後悔する事になる。

 

(はは、ふざけすぎかな。この辺にしとこう——あれ?)

 

 水筒から手を抜こうとしたら、抜けなくなっている事に気がついたんだ。

 

(あれ? 指までしか入れてないのになんで!)

 

 今更遅いけど、よくよく考えれば堀北さんと俺の手の大きさは結構違うから、嵌まってもおかしくなかったな。

 

(くそ、俺も洗剤で引き抜いて——って、もう水がない!?)

 

 シンクの洗剤を洗い流すのに、残りの水を全部使い切ってしまっていた。

 思わず数秒前の自分を恨んでしまう。

 

「沢田君? どうかしたの?」

「あ、あの〜」

 

 俺が慌てているのに気づいたのか、堀北さんがシンクを覗き込んできた。

 そして、水筒に嵌まった俺の手に視線が止まる。

 

「……」

「ご、ごめん。懐かしくて思わず手を入れたら、抜けなくなっちゃいました」

「……」

 

 堀北さんは俺の手を見つめたまま動かない。

 

「本当ごめん、新しいのを明日買って返すから!」

「……」

「ほ、堀北さん?」

「——ぷっ」

 

 謝っても無反応なので相当怒っているのかと思っていたら、堀北さんは急に息を吹き出した。

 

「ふ、ふふふふw」

「……堀北さん?」

「ち、ちょっと、な、何をやっているの沢田君、ふふふふw」

 

 俺のバカさ加減が面白かったのか、堀北さんは笑ってしまっている。

 それから2分程笑い続ける堀北さん。

 

 やがて落ち着くと、無言のままの俺に声をかけてくる。

 

「ご、ごめんなさいね。堪えきれなかったわ」

「……」

「沢田君? そんなにショックだったのかしら?」

「ううん、そうじゃなくてさ。堀北さんが楽しそうに笑う所を初めて見たから」

「っ///」

 

 堀北さんは、俺の発言にさっきよりも顔を赤くした。

 やっぱり笑っているのを見られるのは恥ずかしいのだろうか。

 

「し、しょうがないじゃない! あなたが余りにも滑稽だったから、これはあなたのせいでもあるのよ!」

「あ、別に笑ってるのが変だと思ったわけじゃないんだ」

「? じゃあ何?」

「今まで見た事ない堀北さんが見れたから、嬉しいなぁって」

「っ///」

「笑ってる堀北さん、すごい可愛いかったな〜」

「つっ……ふんっ!」

「ぐええっ!」

 

 さらに顔を赤くした堀北さんの拳が、鳩尾にクリーンヒットする。

 何か言ってはいけない事を言ってしまったのだろうか?

 

「うぅぅ……なんかごめんなさい」

「ふ、ふん! 二度とあんな事は口にしない事ね!」

「は、はい」

 

 ——ピロン。

 

 痛みに耐えていると、学生証端末からメール受信音が鳴り響いた。

 

『?』

 

 水筒に嵌っていない方の手で学生証端末を操作し、メールを確認する。

 

 

 TO 沢田綱吉

 

 敷地内の断水が治りました。以降は自由に水道を使用可能です。

 また、コンビニの利用も許可します

 

 FROM 高度育成高等学校

 

 

 メールを確認した俺達は無言で目を合わせた。

 

「あはは、断水治ったみたいだねぇ~」

「……はぁ、沢田君、手を貸しなさい」

「え?」

 

 ため息を吐いた堀北さんは、俺の水筒に嵌った手を掴んで、水道の蛇口を捻った。

 連絡通りに水はきちんと出ている。

 

「洗剤を入れるわよ」

「う、うん。ありがとう」

 

 今度は堀北さんが、俺の手を抜く手伝いをしてくれるらしい。数分後、俺の手は水筒から抜け出す事ができた。

 

「ご、ごめんね? 迷惑かけちゃって」

「……いいのよ」

 

 手拭きタオルで濡れた手を拭きながら、堀北さんは俺に視線を向ける事なくそう言った。

 怒っているのかと思ったが、その後に俺の方に振り返った堀北さんは、優しい微笑みを浮かべていた。

 

「……だって、私達はパートナーでしょ?」

「え? うん」

「だったら、助け合って当然じゃない」

「!」

 

 さっき俺の言ったものと同じようなセリフを言い返されてしまった。

 ……そして、なんだかそれが嬉しいと思ったんだ。

 

「うん、そうだね!」

 

 その後、少し世間話をしてから堀北さんの部屋を出た。

 

(堀北さんとの距離が縮まったみたいで良かったな。よーし! 2学期からも一緒に頑張ろうね、堀北さん!)

 




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