ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作5巻編 その①2学期が始まる

 

 昨日で夏休みも終了し、今日から2学期が始まる。

 もちろん通う教室は変わらないので、特に目新しいものはないんだけど、明らかに1学期と違う事がある。

 

「あ、ツナ君おはよう~♪」

「おはよう、桔梗ちゃん」

「お、おはよう、沢田君」

「うん、おはよう佐倉さん」

「……よう」

「おはよう、綾小路君」

「あら、初日からギリギリ登校ね?」

「堀北さん、おはよう。いやぁ、昨日寝るのが遅くなって」

「おっす、ツナ!」

「遅ぇぞ、沢田!」

「夜更かしでもしたんかぁ?」

「おはよう須藤君、池君、山内君」

「あ、ツナ君おはよう!」

「おはよう。みーちゃん」

「沢田君。おはよう」

「おはよ」

「平田君、軽井沢さん。おはよう」

 

 クラス内に友達が沢山増えた事だ。

 確実に信頼を得る事が出来ている様で嬉しい。

 

 自分の席に座り、カバンを机に掛けながら、俺は決意を新たにする。

 

(よし! 2学期も頑張るぞ!)

 

 ——この時の俺は、2学期にあんなに大変な思いをするとは思ってもいなかった。

 

 

 

 〜1時限目 〜

 

 

 ——ガラガラ。

 

「席に付け。ホームルームを始めるぞ」

 

 教室の扉が開き、茶柱先生が入ってくる。

 教卓に着いた先生は、クラス全体に何枚かのプリントを配り始めた。

 

「今日から2学期なわけだが、来月の頭には体育祭が執り行われる」

『体育祭?』

 

 体育祭という言葉に、クラス中が少しざわつき始める。

 先生はそれを無視して話を続けた。

 

「その為、今日から1ヶ月程は体育の授業の比率が多くなる。今配ったプリントの1枚目は体育祭が終わるまでの特別な時間割だ。各自確認しておく様に」

 

先生に言われるまま、プリントに目を落とす。

1枚目は茶柱先生の言う通り、新しい時間割だった。そして2枚目以降は、体育祭に関する資料の様だった。

 

 プリントを見た平田君が、挙手をして先生に質問をした。

 

「先生、これも特別試験の1つなんでしょうか?」

「どう考えるかはお前達次第だ。が、クラスに大きな影響を与えるのは間違いない」

 

 どっち付かずな言い方だが、試験という名前は付いてないけど、特別試験と言ってもおかしくない行事ってことかな。

 

「え~、私運動は苦手なのに」

「俺はまあまあ自信あるぜ?」

 

 クラスメイトの反応も様々だ。運動が得意な子は喜ぶし、苦手な子は嫌そうである。

 

 そんな事を考えていると、隣の席のみーちゃんが話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、ツナ君は運動得意?」

「ん? どうだろう、結構トレーニング頑張っているから少しは自信あるかな」

「そっか〜」

「みーちゃんは?」

「私も結構白信あるよ」

 

 そういえば、みーちゃんは学力も運動能力も高いって桔梗ちゃんに聞いた事があったっけ。みーちゃんは結構体育祭が楽しみな様だ。

 

 再びプリントに目を通していると、先生から説明が始まった。

 

「既に目を通して気づいている者もいるだろうが、今回の体育祭は全学年を2つの組に分けて勝負する方式だ。お前達Dクラスは赤組に配属になる。1年生のもう片方の赤組はAクラスだ。つまり、この体育祭の間はAクラスが味方ということだ」

(BクラスとCクラスは白組って事か)

 

 今までの試験なら、基本はクラス毎の戦いだった。でも、今回はAクラスとのチーム戦になるわけだ。

 

(……小狼君とみーちゃんが同じチームってのはなぁ。よく見ておいた方がいいかもしれないぞ)

 

 横目でちらっとみーちゃんを見ながら、俺はそう思っていた。

 

「いよいよお前があいつと接触する機会が出来るってことか」

「ここでその話をしないで。二度は言わないわ」

 

 後ろの席で、綾小路君と堀北さんがそんなややり取りをしているのが聞こえた。

 そういえば、堀北さんのお兄さんは3年Aクラスだったな。

 

(ん~、複雑な心境なのかもしれないな)

 

 ——パンパン!

 

「お前達」

 

 各自近隣の席の子と話始めたからか、先生は手をパンパンと叩いて注目を集めた。

 

「まずは体育祭で起こり得る結果に目を通せ。何度も説明する気はないぞ、一度でしっかりと聞く様に」

かりと聞く様に」

 

 先生は、体育祭における最終結果の決定方法について話し始めた。

 先生の説明を聞きながら、再び書類に目を落とす。

 

 

 —— 体育祭におけるルール及び組分け ——

 

 

 全学年を赤組と白組の2組に分け、対戦方式で行う。

 内訳は赤組がAクラスとDクラス。白組がBクラスとCクラスで構成される。

 

 ●全員参加競技の点数配分(個人競技)

 

 1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。

 5位以下は1点ずつ下がって行く。

 団体戦の場合、勝利した組に500点が与えられる。

 

 ●推薦参加競技の点数配分

 

 1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が組に与えられる。

 5位以下は2点ずつ下がって行く(最終競技のリレーは3倍の点数が与えられる)

 

 ●赤組対白組の結果が与える影響

 

 全学年の総合点で負けた組は、全学年等しくCPが100引かれる。

 

 ●学年別順位が与える影響

 

 各学年、総合点で1位を取ったクラスにはCPが50与えられる。総合点で2位を取ったクラスのCPは変動しない。

 総合点で3位を取ったクラスはCPが50引かれる。

 総合点で4位を取ったクラスはCPが100引かれる。

 

「簡単に言えば、気を抜かずに全力で競技に臨めということだ。負けた組が受けるペナルティは軽くないぞ」

 

 ふむ、CPがマイナス100というのは大きいな。

 

「あの先生。勝った組は何ポイント貰えるんですか? 記載がないみたいですが」

 

 俺も気になっていた事を平田君が質問してくれた。

 しかし、先生からの返答は思っていたものとは違ったようだ。

 

「何もない。マイナスという措置を受けないだけだ」

『え~!? ご褒美なしかよ』

 

 どうやら、今までの試験と違って特別な個人の旨みがないらしい。

 それでやる気を失う生徒も多いかもしれない。

 

「言っておくが、学年毎にクラス別のポイントもしっかりと計算されるぞ。仮に赤組が勝ったとしても、Dクラスの総合点が最下位だった場合には、100ポイントのペナルティを受けることになる」

 

 いや、それでもしっかり頑張らないと、自分にもクラスにも不利益が生じるらしい。決して楽をしてはいけないという事だな。

 

 つまり、損をしない為には赤組が勝つことは大前提。

 そしてその結果にDクラスが大きく貢献してる必要がある。

 

 最悪なのは、白組が勝利して1年の総合点でDクラスが最下位になる事。これだとCPが200も削られてしまうからな。

 旨みはないのに頑張らないといけない。その事がクラスメイト達のやる気を更に削いでいるが、先生から朗報があるようだ。

 

「安心しろ。クラス毎の旨みはないが、個人の旨みはきちんと準備されている」

「個人の旨み?」

 

 先生の言う個人の旨味とは、ようするにこういう事らしい。

 

 

 ●個人競技報酬(次回中間試験にて使用可能)

 

 個人競技で1位を取った生徒には5,000PPの贈与、もしくは筆記試験における3点分の点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は出来ない)

 

 各個人競技で2位を取った生徒には3,000PPの贈与、もしくは筆記試験における2点分の点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は出来ない)

 

 各個人競技で3位を取った生徒には1,000PPの贈与、もしくは筆記試験における1点分の点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は出来ない)

 

 各個人競技で最下位を取った生徒はマイナス1,000PP。(所持するポイントが1,000未満になった場合には、筆記試験でマイナス1点を受ける)

 

 

 ●反則事項について

 

 各競技のルールを熟読の上厳守すること。

 違反した者は失格同様の扱いを受ける。

 悪質な者については退場処分にする場合有。

 それまでの獲得点数の剥奪も検討される。

 

 ●最優秀生徒報酬

 

 全競技で最も高得点を得た生徒には10万PPを贈与する。

 

 ●学年別最優秀生徒報酬

 

 全競技で最も高得点を得た学年別生徒3名には各1万PPを贈与する。

 

 色々な報酬があるみたいだけど、今までになかったようなものがあるな。

 その事については池君が質問してくれた。

 

「先生! この1位とか2位とかを取った時の特典なんスけど、筆記試験の点数を得るってどういう意味っスか!?」

「お前の想像通りだぞ。体育祭で入賞すれば、それに応じて筆記試験に補填できる点数を得る事もできる。勉強が苦手な者にとっては、大いに役立つ報酬だな」

 

 先生のその言葉に、クラスから歓声が上がる。特に反応を示さないのは、綾小路君、堀北さん、高円寺君くらいか。

君、堀北さん、高円寺君くらいか。

 

 この3人はきっと、報酬の影に隠れたデメリットに気付いているのだろう。

 それは、報酬が記載された資料の裏に記載されている。

 

 ●全競技終了後、学年内で点数の集計をし下位10名にペナルティを科す。ペナルティの詳細は学年毎に異なる場合があるため、担任教師に確認すること。

 

 担任教師、つまり俺達は茶柱先生に確認しないといけないわけだ。そしてこの場を逃したら、先生はもう教えてくれないだろう。一度しか説明しないって言ってたし。

 

 皆がまだ気付いてなさそうなので、ここは俺から質問してみよう。

 

「先生、このペナルティってどんなものなんですか?」

 

 俺が質問すると、先生は少し口角を上げた気がする。

 

「お前達1年生に科せられるのは、次回筆記試験におけるテストの減点。総合成績下位

「お前達1年生に科せられるのは、次回筆記試験におけるテストの減点。総合成績下位10名の生徒は、10点の減点を受けるから注意するように。どのような方法で減点を適用するかは筆記試験が近づいた時に改めて説明するため、ここでは質問を受け付けない。また下位10名の発表も同様に、筆記試験説明の際に通告することになっている」

 

 つまり、テストで何点引かれるかは当日まで分からないと言うことか。

 勉強が苦手な人からしたら最悪だな。

 

(俺も人ごとではないんだけどね)

 

 体育祭についての一通りの説明が終わると、次は体育祭の競技の確認が始まった。

 体育祭の種目を分類すると、全員参加と推薦参加の2つに分けられるらしい。

 

 全員参加とはクラス内全員の生徒が参加する種目。100メートル走などの個人競技や、綱引きなどの集団競技も含まれるらしい。

 

 そして推薦参加は、クラスから選抜された一部の生徒のみが参加する競技だ。他者からの推薦でも自薦でも構わないらしく、1人が複数の推薦参加競技に出ても構わないとの事。つまりは話し合いが必要なわけだ。競技内容は借り物競争や男女混合二人三脚、1,200メートルリレーなど。

 

 おそらく、各クラスから運動ができる人達が沢山出てくるだろうな。

 

「体育祭で行われる種目の詳細は、全てプリントに記載されている通りだ。変更は一切ない」

「まじ!? これめっちゃハードじゃん!」

 

 池君が驚くのも当然。競技の量がとても多いのだ。

 

 ●全員参加種目

 

 ・100メートル走

 ・ハードル競走

 ・棒倒し(男子限定)

 ・玉入れ(女子限定)

 ・男女別綱引き

 ・障害物競走

 ・二人三脚

 ・騎馬戦

 ・200メートル走

 

 ●推薦参加種目

 

 ・借り物競争

 ・四方綱引き

 ・男女混合二人三脚

 ・3学年合同1,200メートルリレー

 

「普通1人がやるのって3~4個ですよ!ていうか1日でできないでしょ!」

「問題ない。応援合戦やダンス、組体操などの種目は一切存在せず、体力、運動神経を競い合う種目のみだからな」

「えええ~」

 

 先生からの嬉しくもない問題なし発言で池君は力なく机に突っ伏してしまうが、そんな池君を無視して先生は1枚の紙を見せながら説明を続ける。

 

「ここに参加表と呼ばれるものがある。参加表には全種目の詳細が記載されている。お前達にはこの参加表に自分達で各種目にどの順番で参加するかを決めて記入し、担任である私に提出してもらう」

「自分達で参加する順番を決めるって、どこまでですか?」

 

 平田君からの質問に、先生は即答する。

 

「全てだ。体育祭当日に行われる競技の全て、何組目に誰が走るかまで全部お前達で話し合って決めろ。締め切り時間以降は如何なる理由があっても入れ替えることは許されない。それが体育祭の重要なルールだ。提出期間は体育祭の1週間前から前日の午後5時までの間のみ。もしも提出期限を過ぎた場合はランダムで割り振られるので注意するように」

 

 生徒達自身で計画を立て、勝ちを目指す試験という事なのかな?

 とにかく、参加表の存在は体育祭における最重要アイテムだという事だろう。

 

 先生の説明が一区切りつくと、堀北がさんが手を挙げた。

 

「私からも質問よろしいでしょうか。茶柱先生」

「ああ。何だ?」

「参加表は受理された時点で変更できなくなるようですが、もしも当日に欠席者が出た場合はどうなるのでしょうか? 個人競技であれば、資料に記載されている通りに欠席扱いで済むと思いますが、団体戦、特に数名で行う騎馬戦や二人三脚といった競技では、競技そのものが成立しなくなりますよね」

 

 なるほど。堀北さんの言う通りだな。

 確かに二人三脚とか1人じゃ走れないもんな。

 

「全員参加の競技は、当日に必要最低限の人数を下回る場合には失格とされる。騎馬戦であれば1つ騎馬を作ることが出来なくなるから、本番は他クラスより1騎少ない状態で対決することになる。二人三脚も同様だ。パートナー選びも重要かもしれんぞ」

 

 団体戦において、パートナーやチームメイトは運命共同体ってわけだ。

 

「だが、救済措置も用意されている。体育祭の花形でもある推薦競技のみ、代役を立てることが許される。しかし好き勝手に代役を立てられるわけじゃないぞ。代償としてポイントを支払う決まりだ」

 

 不正行為防止の為の代償を支払わせるということか。

 参加表に嘘を書いて、あえてそれを他クラスに流しておいて当日にメンバーを総入れ替えとかすれば、他クラスを出し抜けるもんな。

 

「付け加えて聞きますが、体調不良や大怪我を負っても、本人が希望すれば参加し続けることは可能でしょうか。それともドクターストップがかかりますか?」

「基本的には生徒の自主性に任せている。自己管理も社会に出る上で必要不可々な能力だからな。……とはいえ傍観できない状況になれば、さすがに止めざるを得ないぞ」

「分かりました。では代役に必要なポイントはいくらですか?」

「競技に1つにつき10万PPだ」

「……なるほど。ありがとうございます」

 

 代償は安くはないな。でも場合によっては代役が必要な場面になるかもしれない。

 

「他に質問者がいなければ、私からの話は終わりだ」

 

 教室を見回すも、誰も手を上げないのでこれでホームルームは終了のようだ。

 

「2時限目は体育館に移動し、各組事に他学年との顔合わせとなる。私からは以上だ。……まだ20分ほど授業時間が残っているな。残りの時間は好きに使うといい。雑談するのも真面目に話し合うのも自由とする」

 

 先生が教室を出ると、クラス中が騒がしくなる。それぞれ仲の良いメンバーで集まっているようだ。

 

 因みに俺は綾小路君・堀北さん・須藤君・池君・山内君と集まっていた。いや、集まったというか、いつのまにか皆が堀北さんの机の周りに来ていたんだけどね。

 

「堀北、体育祭で勝つ作戦を話し合おうぜ」

「賛成賛成っ!」

 

 盛り上がっている須藤君達とは対象的に、堀北さんは深いため息を吐いた。

 

「どうしてこんな人達ばかり集まるのかしら」

「あはは、そこまで言わなくても」

「事実よ」

 

 文句を言いつつも堀北さんはノートを開いた。

 話し合いは必要だと思ってくれている様だ。

 

「いいわ。何か考えがある人はいるの?」

「ああ、俺に作戦がある!」

 

 元気よくそう言い放ったのは須藤君だ。

 何やら自信があるらしい。

 

「全員参加は難しいけどよ。俺とツナが全部の推薦競技に出れば、組でもクラス毎でも負けねぇんじゃねぇか?」

「え? 俺も?」

 

 須藤君の提案に思わずポカンとしてしまった。

 そんな俺の背中をパンパンと叩く須藤君。

 

「当たり前だろ? このクラスで1番運動ができるのは俺とツナだろうしな!」

「おお! 確かにな!」

「昨日の股間ブロックはすごかったもんな」

(せめてスーパージャンプと言ってくれ!)

 

 須藤君の提案を聞いた堀北さんは、少し考え込むと頷いた。

 

「単純だけど、確実な方法ね。あなたと沢田君はクラス内でも飛び抜けて運動神経がいいもの。全ての推薦競技に参加するのは悪い話じゃないかもしれないわ」

「……俺もそれに賛成だな」

 

 綾小路君も須藤君の提案に賛成の様だ。

 しかし、池君には少し不満があるようだ。

 

「待ってくれよ。健と沢田が推薦に全参加するのは賛成だけどよ。俺らにもチャンスはくれない? 点数欲しいしよ」

「クラスの勝つ可能性を下げるとしてもかしら?」

「いや、そうだけどさ。チャンスは欲しいぜ?」

「推薦競技は普通、運動神経の良い連中が出てくるぞ。寛治は運動苦手だろ?」

「わかんねえじゃん? 偶然勝てる可能性もあるし、チャンスは公平にすべきだろ」

 

 池君、堀北さん、須藤君が意見を交わすも、このままでは纏まりそうもなかった。

 

「ん~。細かいことはクラス全体で話し合うべきじゃない?」

「そうね。クラスの話し合いは必要不可久でしょうね」

 

 俺が場を収めるために放った一言に、堀北さんが頷いてくれたが、須藤君は納得いかないようだ。

 

「運動のできる奴が沢山参加するのが1番だろ。ツナも堀北も甘いぜ!」

「須藤君の言いたいことはよくわかるんだけどさ。体育祭はチーム戦だし、クラスで纏まる必要があると思うんだよ」

「須藤君と沢田君の全種目参加の意志は汲むつもりよ。けれど、手放しで全部の競技に出るのを後押しはできないわ」

「なんでだ?」

「体力には限りがあるもの。立て続けに出れば消耗するし、連勝は難しいわ」

「でも、運動音痴に任せるよりよくね? 疲れてても俺達なら寛治達よりは働けるしよ」

「……今この話を続けても答えは出ないわね。次のホームルームでクラス全体で決めましょう」

しょう」

 

 堀北さんのその言葉で、俺達は解散した。

 席に着くと、学生証端末からメール受信音が鳴り響いた。

 

(ん? メール……あ、リボーンからだ)

 

 メールの送り主はリボーンだった。

 

 TO  ツナ

 

 体育館に行く前に、特別棟の裏に来い。

 

 

 ……休み時間に呼び出しなんて初めてだったけど、無視はできないのでとりあえず返信することにした。

 

 TO リボーン

 

 わかった。

 

 そう返事を出し、クラス内を見回した。もう皆休み時間モードらしく、ちらほらいない人も見受けられる。

 

(……もうすぐ休み時間だし、行ってもいいか)

 

 綾小路君に「用事があるから先に行く」と伝え、俺は教室を出て特別棟の裏に向かった。

 

 

 

 —— 特別棟の裏 ——

 

 

 特別棟の裏には、すでにリボーンが待機していた。

 

「リボーン、来たぞ」

「おお」

「で、何か話?」

「そうだ。体育祭があるんだろ?」

「うん……まさか?」

 

 呼び出された理由に心当たりがあった俺は、リボーンの言おうとしている事がなんとなく分かった。

 

 ニヤリと笑ったリボーンは話を続ける。

 

「そうだ。試験恒例の特別課題発表のお時間だぞ」

「やっぱりか」

 

 想像通りだったけど、体育祭における特別課題って何なんだろう。

 

「で? どんな課題?」

「課題はシンプルだ。体育祭の最終結果にて、『最優秀生徒』もしくは『学年別最優秀生徒』に選出されろ」

「ええ!? 厳しいだろ!」

「弱気になってんじゃねえ。それに体育祭は、クラスメイトや同級生にお前の存在をアピールする絶好のチャンスじゃねえか」

「アピールしてどうすんだよ」

「バカが。学年全体のボスになるには、存在感がないと話になんねぇだろうが」

「あ……それもそうか」

 

 なるほど。体育祭は最終課題をクリアする為にも重要な行事って事か。

 

 この時、小言丸を飲んでスーパー化すればいけるんじゃないかと思っていた俺の考えは、次のリボーンの発言で早くも崩れ去ることになる。

 

「ちなみに注意事項だが……体育祭で小言丸の服用は認めない」

「ええ!?」

「ツナ、体育祭は己の力のみで戦うものだぞ」

「そ、そうだけど、陸上部とかに勝つ為にはさ」

「死ぬ気で頑張ればいいんじゃねえか?」

「いや、死ぬ気と言われても、小言丸は服用禁止なのに~」

 

 厳しい条件に震える俺に、リボーンはもう一度念押しをした。

 

「もう一度言うぞ。今回の課題はいずれかの最優秀に選出される事。体育祭での小言丸の服用は認めない。あくまで己の力のみで戦うんだ」

「……わかった」

「よろしい。んじゃ、頑張れよっ!」

 

 リボーンはレオンを気球に変化させると、ぷかぷかと空に消えて行った。

 1人残された俺は、大きなため息を吐いた。

 

「……はぁ~。どうしようかな」

 

 

 

 

 —— 2時間目、体育館 ——

 

 

 2時間目は全学年の顔合わせが行われるらしく、1年生から3年生までの全生徒と教師陣が体育館に集合していた。その数、約400名。

 

 赤組と白組に分かれているとはいえ、この人数ではどんな人達がいるのかさっぱりわからない。

「……」

 

 堀北さんがキョロキョロ辺りを見回している。お兄さんを探しているのだろうか。

 

 その時、1人の3年生が立ち上がって手を叩き、赤組の生徒達の注目を集めた。

 

「え~、こほん。俺は3年Aクラスの巻という。今回の体育祭で赤組の総指輝を執ることになった」

(総指揮か、生徒会長が仕切るんじゃないんだ)

 

 横目でチラリと堀北さんを見ると、どこかホッとしているように見えた。

 

「 1年生、ひとつだけアドバイスをしておくぞ。分かっている者もいるだろうが、体育祭は非常に重要なものだということを肝に銘じろ。体育祭での経験は必ずこれからの試験で活かされる。これから受けていく試験の中には一見遊びのようなものも多数あるだろうが、その全てが生き残りを懸けた大切な戦いになるからな」

 

 えーと。とにかく、全てに試験には全力で望まないとダメってことだよね。

 

「今の話がよく分からなかった者もいるかも知れない。だが、やる以上は勝ちに行く。

その気持ちを強く持つんだ。それだけは全員共通の認識として持っておかねばならん」

「それはそうね」

 

 堀北さんは藤巻先輩の言葉を頷きながら聞いていた。

 

「俺達は同じ赤組ではあるが、全学年が関わる種目は最後の1,200メートルリレーだけだ。それ以外は学年別種目ばかり。なので、今から各学年毎に体育祭について好きに話し合ってくれ」

 

 藤巻先輩の話はここで終わりらしく、上級生達がそれぞれ学年毎に分かれ始めたので、俺達1年生は、すこし遅れて1箇所に集合した。

 

「……」

「……」

 

 今回は味方だと言うのに、お互いに相手を警戒せずにいられない。1年生の周囲にはそんな雰囲気が漂ってくる。

 

(普段は敵同士だし、いきなり味方と言われてもぎこちなくなって当然か)

 

 そんな膠着した場を動かしたのは、Aクラスの葛城君だった。

 

「思わぬ形で共闘することになったが、よろしく頼むぞ。出来れば揉め事を起こさずに互いの力を合わせられればと思っている」

「こちらこそよろしく葛城くん。僕達としてもそうしたいと考えているよ」

 

 葛城君と平田君は握手を交わし、協力しあう意思を示しあった。

 

『……』

 

 葛城君の後ろに控えているAクラスの生徒達の中には、すごく不服そうな顔をしている人達もいた。格下のDクラスとは協力したくないと思っているのかもしれないけど、リーダーの葛城君が協力するつもりだから、渋々付いて行ってるといった所だろうか。

 

 あれ? そういえば、Aクラスには葛城君の他にもう1人リーダーがいるって聞いてたよな。そのもう1人のリーダーは何も言わないのだろうか?

 

「なぁなぁ、あの子さ」

 

 その時。俺の近くで池君が誰かを指差しながら、小さくそう呟いた。

 池君が指している方向を見てみると、そこには椅子に座っている小柄な女の子がいた。

 

 綺麗な銀髪で、椅子の横には杖が立てかけられている。

 足が不自由なのだろう。

 

「……それでだが」

 

 ——ざわざわ。

 

『!』

 

 葛城君達が話を進めようとした瞬間、急に体育館の中が騒がしくなった。

 何かあったのかと白組の方へ視線を向けると、一之瀬さんと龍園君が何かを話している所だった。

 

「話し合うつもりはないってことかな?」

「当然だ。たとえ俺が協力を申し出たとしても、お前らが信じるとは思えないしな。結局お互い腹の探り合いになるだけで、話し合う意味はない」

「ふ~ん。私達にとってもその方がいいと?」

「そういうことだな。むしろ感謝してくれよ」

 

 そして、龍園君は笑いながらCクラスの生徒全員を連れて歩き出した。

 

「……独裁政権だな」

 

 俺の後では、綾小路君が的を得たコメントを呟いていた。

 

「でもさ、龍園君。協力なしで体育祭で勝てる自信でもあるの?」

 

 歩きだした龍園君に一之瀬さんは食い下がったが、龍園君は足を止めようとはしない。

い。

 

「……さぁな」

 

 そう言い、龍園君はCクラスの生徒全員と共に体育館から出て行ってしまう。

 

 俺達赤組の1年生は、去っていくCクラスの背中を目で追いかけていた。

 

「……早くも動き出した、ということでしょうか」

 

 Cクラスの背中が見えなくなると、1人の生徒がポツリと呟いた。

 声の主は、池君がさっき指差していた銀髪の小柄な女の子だった。

 

 Dクラス全員の視線が女の子に集中すると、葛城君が女の子の事を紹介してくれた。

 

「彼女は坂柳有栖。体が不自由なために椅子に座ってもらっているんだ」

(!  あの子が坂柳さんか)

 

 一之瀬さんから聞いた、Aクラスのもう1人のリーダーだ。

 

(なるほど、だからバカンスは久席したのか)

 

 坂柳さんにとっては、無人島試験には命の危険もあるからという学校側の配慮だろう。

 

 葛城君の紹介を受けて、坂柳さんは微笑み、そしてゆっくりと口を開いた。

 

「私は残念ながら戦力としてお役に立てません。全ての競技において不戦敗となります。AクラスにもDクラスにもご迷惑をおかけするでしょう。そのことについて、まず最初に謝らせて下さい」

「謝る必要なんてないよ。誰もその点を追及するつもりはないから」

 

 頭を下げる坂柳さんに、平田君が優しく微笑みながらそう言った。

 平田君の言う通り、誰1人不満を漏らす者はいなかった。

 

「学校も容赦ねぇなあ。身体が不自由な奴はペナルティーを免除してくれたっていいのによ」

「坂柳さん、気にしないでいいからね」

「皆さん、ありがとうございます」

 坂柳さんの印象は、礼儀正しいお嬢様って感じだ。一之瀬さんは革新的だと言っていたけど、今のところそんな感じはしてこないな。

 

 ——いや、ちょっと待て? よくよくAクラスを見てみると、葛城君と坂柳さんで完全に二分する様に分かれている。

 

 両者の間には幅2メートルくらいの見えない壁があるみたいだ。これがAクラス内にある2大派閥か。

 

 そして葛城君の方が人数が少ない。Aクラスの3分の2が坂柳派という所だろうか。

 

 バカンス中のAクラスの失敗が影響しているのかもしれないけど、坂柳さんはバカンスに参加していないはず。それなのに大多数を従えているという事は、それだけのカリスマ性でもあるのかもしれない。

 

 皆が坂柳さんに注目している中、平田君と葛城君はリーダー同士の話し合いを続けていた。

いた。

 

「AとDの協力関係についてだが、俺は互いの邪魔をしないという契約を結ぶだけでいいと思っている。Dクラスとしては俺の考えに賛同してもらえるか?」

「うん。Dクラスとしてもそれで構わないよ」

「よし。とはいえ、一部の団体競技は協力が必要なものもあるだろう。そういう競技に関してのみ、後日打ち合わせをしようと思うのだが、それもかまわないか?」

「もちろん。棒倒しとかは配置決めも必要だろうしね」

 

 ふむ。仲間とはいえ、学年別の優劣も付けるから、お互いに手の内を明かし合いたくはないか。

 

「皆もそれでいいかな?」

 

 平田君が振り返ってDクラスの面々に確認を取る。異議を唱える者はいなく、全員が頷き返している。

 

「よし、じゃあよろしく頼む」

「うん。こちらこそ」

 

 AとD両方の合意が取れたところで、赤組1年生の話し合いは終了となった。

 

 これで解散らしく、Dクラスの教室に戻ろうとした所、池君が声をかけてきた。

 

「なぁなぁ。沢田、綾小路」

「ん?」

「どうした?」

「あの子、お前達の事じっと見てるぜ」

「えっ?」

 

 池君が指差している方を見てみると、そこには坂柳さんがいた。そして、そんな坂柳さんに寄り添う様に見知らぬ女子が1人立っている。

 

 池君の言うように、確かに俺と綾小路君の事をジッと見つめているような気がした。

した。

 

「……(ニコっ)」

 

 俺達も見つめ返していたら、視線に気づいたのか坂柳さんはニコリと微笑んだ。

 気まずかったので、こちらもぎこちない笑みを返しておこう。

 

「沢田。坂柳と面識はあるか?」

「ううん、話したこともないよ」

「そうか……俺もだ」

「なんでこっちを見てたんだろ」

「こっちの勘違いかもしれないな」

「ん~、まぁそうかもね」

 

 こっちの自意識過剰ということにしておくことになったのだが、俺は坂柳さんの他に2人から視線を向けられているような気がしていた。

2人から視線を向けられているような気がしていた。

 

 1人は小狼くん。そしてもう1人は、坂柳さんに寄り添っているポニーテールの女の子だ。

子だ。

 

(小狼君は単純な怒りで睨んでると思うんだけど、女の子の方はなんだ? なんか変な感じがするんだよなあ。なんというか……優しい感じがするというか)

 

 ——ポンっ。

 

「沢田、教室に戻ろう」

「あ、うん……」

 

 綾小路君に肩を叩かれ我に帰る。ここで考えていても答えは出ないだろうし、俺は綾小路君と共にDクラスの教室へと帰った。

 

 ——ツナ達が体育館を出た後、坂柳は山村と共にゆっくりとAクラスへと帰り始めた。

 

 歩きながら、2人はこんな会話をしていた。

 

「ついに、あなたと沢田君が接触することになりますね」

「はい。そして有栖さんもね」

「ええ。これからが楽しみですよ」

 

 

  ——教室に帰った後、すぐに休み時間になった。

 

 喉が渇いたので廊下の自販機に向かおうとした所、綾小路君と堀北さんも付いて行くと言い出した。自販機で飲み物を買い、教室に帰るべく歩き始める。

 

「ねぇ、沢田君、綾小路君。体育祭——いえ、今回の特別試験で勝つにはどうすればいいと思う?」

「……今回は正攻法じゃないとダメだろうな」

「ん~、そうかもね。裏工作とかも難しいだろうし、先生も「体育祭はあくまで生徒の体力と運動能力を測るものだ』って言ってたしね」

「……そうよね」

 

 堀北さんなら聞かずとも分かっていたことだろうに、堀北さんは少しだけ何かに期待していたように見えた。

 

「……堀北、お前は切り札を持っておきたいんだろ?」

「! ええ。その通りよ」

「切り札?」

「純粋な運動勝負をしたとして、Dクラスの分が悪い場合に少しでもDクラスを有利にする手段が欲しいってことさ」

「あ~、そういう事か」

 

 なるほど、抜け道のようなものが欲しいって事か。

 

 だけど、今回の体育祭においてはそれは難しいと思う。もちろん何かを仕掛けたりすることはできるし、やる意味がないわけじゃないが、戦況がひっくり返るような効果は得られないと思う。

 

 そこまで大きな効果を得る為には、多分相手チームに裏切り者を作らないと無理だ。

 

 例えば、白組の各競技の参加選手名簿を白組の誰かに流してもらい、確実に勝てる相手をぶつけるとか。

 

 でも情報を渡してから参加選手を総入れ替えをされる、なんて可能性もあるから、この作戦は簡単に実行できる事じゃない。

 

 俺的にも、基本スタンスは勝てる可能性のある選手を出場させるのが無難だと思う。

 かといって全員が運動が得意なわけじゃないし、皆の希望の問題もある。ベストな組み合わせにする為には、クラスがまとまる事が必要不可だ。

 

 きっと今まで以上にクラスのまとまりが試されるだろう。

 

 現在のDクラスは決して上手くまとまっているとは言えない。

 だから、体育祭に向けて俺達Dクラスが1番やるべきことは……。

 

 よし。この体育祭を通して、俺はクラスの皆と仲良くなるぞ!

 

「とりあえずさ。Dクラスを1番いい人選で各競技に割り振る事を考えようよ!」

「そうね」

「ああ……だが、お前達にひとつ忠告しておくぞ」

『忠告?』

 

 綾小路君の忠告という言葉に俺達は足を止めた。

 

「船上試験の後、次はお前達を狙い撃ちにすると言っていた奴がいるだろ」

「龍園君ね」

「そうだ」

「体育祭で何かを仕掛けてくる可能性が高いと?」

「ああ、体育祭は絶好の機会だろ」

 

 体育祭で龍園君が何かを仕掛けてくる……その可能性は高いと俺も思う。

 

 堀北さんに牙が向けられるなら、何としても俺が守らないといけない。

 

「うん。十分に気をつけるよ」

「分かってるならいいんだ」

 

 

 

 —— 翌日のホームルーム ——

 

 

 体育祭が終わるまでは、週に一度は2時間のホームルームが行われるらしい。

 そして、その時間は生徒達の自由にしていいそうだ。

 

 俺達Dクラスは、今回のホームルームでは各競技のメンバーの選び方を話し合うことになった。

 

「さて。これから体育祭に向けての話し合いを始めようと思う。まず初めに決めるべきなのは、競技の参加順と推薦競技の出場者。この2つの決定方法だと思うんだ」

 

 平田君の提案に誰も反応しない。まあ無言の肯定なんだろうけども。

 体育祭を通じてクラスメイトとの距離を縮めようと決めた俺は、いつもより積極的に話し合いに参加しようと思った。

 

「平田君は何か考えがあるの?」

「うん。例えばさ——」

 

 平田君は黒板にチョークで2つの言葉を書き記す。

 

 『挙手』と『能力』だ。

 

「選手選びの指標となるのはこの2つだと思う。競技毎に希望の順番を聞いていく挙手制。個々の能力を見極めて効率化を図る能力制。このどちらかじゃないかな」

 

 挙手制になれば、それぞれ希望通りの順番が通りやすい。複数人の希望が被ったら場合は希望が叶わない事もあるだろうが、能力制よりも穏便に決められる。でも、いい結果を残せるかは分からないから運の要素もある。

 

 一方で能力制にすれば、個々人の能力に沿って機械的に決める事ができるし、勝率を高くする事ができる。でも、運動が苦手な人達に取っては得点を得るチャンスがもらえないわけだから、不平不満が出やすいだろう。

 

 どちらも一長一短な気もするけど、俺的には能力制がいいんじゃないかなと思う。それで選ばれた人が得点を受け取れたら、ポイントをクラスで分け合う事もできるし。

 

 ……テストの点数については分け合えないけど、そこはまた皆で勉強会をすればいいと思うんだ。今のDクラスが1番にするべきことは、仲間として団結する事だと思うから。

 

 例え言い争いになったとしても、そこから生まれる仲間意識だってある。

 

 ——ガタっ!

 

 平田君の説明が終わると、須藤君が立ち上がった。

 

「どう考えても能力で決めるべきだろ! 自分の能力は自分が1番分かっているしな!」

 

 須藤君は自信満々にそう言い切った。彼の運動能力は誰しもが知る所だから、須藤君の意見を批判できる人は少ないだろう。

 

「俺とツナは全ての競技に参加するぜ! 俺達が勝てばクラスが勝つ可能性が上がる。それで万々歳ってヤツだ!」

それで万々歳ってヤツだ!」

「ムカつくけど、否定はできないわね」

 

 体育祭では必要不可欠な戦力になるだろう須藤君。そんな彼の言う言葉には説得力もあるのか、女子達が賛同し始めた。

 

「俺は運動があまり得意じゃない。推薦競技を須藤と沢田が一手に引き受けてるという案には賛成だ」

 

 幸村君も須藤君の意見に賛同してくれた。1人が賛同すると、連鎖するように続々と賛同者が増え始める。

 

「なら決まりだろ。俺達は推薦競技に全部参加するぜ」

「異議な~し!」

 

 高らかに宣言する須藤君と、それに賛同するクラスメイト達。

 クラスメイト達を一気に取り込めたみたいだけど、こんなにあっさり決まっていいのか?

か?

 

 これだと人任せに見えるというか……俺の考える団結とは違うんだよな。

 

 このまま決まってしまうようならば、俺が一石投じてみた方がいいのかも。

 

「もし皆がその方針でいいなら、推薦競技に関しては能力重視と」

「待って」

(!)

 

 須藤君の提案が可決されようとしたその時。堀北さんが口を開いた。

 

「堀北さん、何かな?」

「補足提案があるわ」

 

 いつもはクラスの話し合いに参加なんてしない堀北さんが、自分から話の中に割って入ったので俺は驚いた。

 

 船の上でもクラスメイトとの協力が必要と分かったとは言っていたけど、堀北さんは確実に俺達に歩み寄ってくれているようだ。

 

「2つの案の中で選ぶなら、須藤くんの言うように能力制にすべきよ。そこに異論はない。でもそれだけじゃ確実に他クラスに勝てる保証はないわ」

「うん、もちろんそうだね」

 

 平田君が堀北さんの意見に頷いて肯定する。

 それはもちろんそう。俺と須藤君で絶対に勝てる保証なんてないもんな。

 

「であるなら、運動神経が良い人には優先的に好きな推薦競技に参加させるべきなのはもちろんだけど、全員参加競技も同様に勝つ為の最善の組み合わせで戦うべきよ。簡単に言えば、速い人と遅い人を組み合わせるべきね」

 

 なるほど。足の速い人と遅い人を組み合わせる事で、同じ組み合わせに速い人が被らなくなる。それでなるべく沢山の勝ちを拾えるようにしようというわけか。

 

 確かにそれなら勝つ確率は上がる。でも、これだと反対意見も出やすいと思う。堀北さんの提案は運動が苦手な人にとっては、非情な考えに思えるだろうから。

 

 せっかくまとまりかけていた場を崩すような堀北さんの発言。

 でも、俺はこういう意見が大事だと思う。今後のDクラスの為にも、全員で意見をぶつけ合う事が必要だと思うんだ。

 

「ちょっと待って。その作戦ってさ、運動苦手な子達が勝つ可能性を下げるって事でしょ?」

 

 最初に異論を唱えたのは、篠原さんという女子だった。

 

「堀北さん、私は納得できないんだけど? 運動が苦手なのに強い人と勝負したら絶対に勝てないよ。特典だって欲しいし」

「仕方がないわね。それがクラスの為なんだもの」

 

 おおう。そこまでストレートに言わなくても。

 しかし、篠原さんも負けてはいない。

 

「クラスの為なのは分かるよ。でも成績が悪いとPPだって引かれちゃうのよ?」

「クラスとして勝てば、その分大きく返って来る。それが不満なのかしら」

「入賞したら貰えるテストの点数は大きいし、一部のクラスメイトにだけ特典を諦めさせるのは、不公平じゃない?」

「そう考えたい気持ちは分かるわ。けれど、それもおかしな話なのよ。最初からそんな特典の点数に頼らなくてもいいように、普段からきちんと勉強しておけばいいだけのこと。それに3位まで可能性があるのなら入賞が無くなっても問題ないはずよ。というか元々あなたの運動能力で入賞出来るほど簡単な競技は無いんじゃない?」

(堀北さ~ん。意見をぶつけ合うとは言っても、喧嘩腰である必要はないですよ~)

 

 どちらも譲らない言い合いが続く。

 

「誰もが堀北さんみたいに頭がいいわけじゃないんだよ? 一括りにまとめようとしないでよ」

「勉強は日々の積み重ね。それを疎かにしておいて、言い訳しないでほしいわね」

 

 他のクラスメイトは、堀北派と篠原派で分かれて野次を飛ばしあっている。なんかすごい仲悪い感じだけど、これが今のDクラスの現状なんだ。

 

「いい加減にしろよ篠原。おまえらのせいで負けたら責任とれんのかよ。あ?」

「それは……」

 

 体育祭において大事なのは運動能力。だから運動が得意な人の意見は強い。Dクラス最高の運動能力を誇る須藤君にそう言われては、反論なんてできないだろう。

 

 篠原さんが劣勢になった事で、クラスの雰囲気はどんよりとし始める。

 その空気に、堀北さんがトドメの一言を放った。

 

「全く面倒ね、頭の悪い人と話すのは」

「つ、堀北さん!」

「!」

 

 堀北さんの言いように思わず口を挟んでしまった俺。

 堀北さんも篠原さんもいきなり割り込まれてキョトンとしている。

 

「沢田君、何かしら?」

「……あの、堀北さん。今のは良くないよ」

「どうして? 本当の事じゃない」

 

 悪びれない堀北さんにキツイ視線を向ける篠原さん。

 堀北さんがコミュニケーションが苦手なのは分かってたけど、あそこまでストレートなのは止めざるを得ないよ。

 

「堀北さん。今回の体育祭、クラスメイトと険悪になっていてはだめだよ」

「どうして? 今回の試験で大事なのは各自の運動能力でしょう」

「それは大前提だけどさ、1番大事なのは団結力だと思うんだよ」

「……団結力?」

 

 クラス中からの視線を受けながら、俺は自分の思いを堀北さんに告げる。

 

「そう。今回の体育祭、勝ちに行く為にはどうしたって誰かに我慢を強いらないといけないと思う。でもさ、だからこそ全員の気持ちを1つにするべきじゃないのかな」

「……」

「『クラスの勝利の為に、全員で今回の体育祭に勝ちに行く』。そういう考え方をしないと、クラスとしてまとまる事ができずに、大事なところで空中分解しちゃうよ」

「——そう、ね」

 

 堀北さんは少し悲しそうな顔をしながら、俺の言葉に頷いてくれた。

「分かってくれてありがとう。でもさっきまでの意見のぶつけ合いは大事な事だと思う。そうする事で、全員が納得して勝つ為の最善を選択する事ができるんじゃないかな」

「うん、僕も沢田君に賛成だよ」

 

 平田君が俺に賛同してくれた。

 

「クラスメイト同士で貶し合うんじゃなくてさ。純粋に体育祭における自分の考えを言い合おうよ」

い合おうよ」

「ええ。分かったわ」

「うん。じゃあ~。あ、軽井沢さん!」

「え! 私!?」

 

 急に声をかけられて、慌てる軽井沢さん。

 

(いきなりごめん、でも、今こそ君の力を貸してくれ!)

「軽井沢さんはさっきの2人の意見をどう思う?」

「私? ……ん〜、そうね。私は堀北さんの意見に賛成かな」

「それはどうして?」

「クラスで勝てれば結局後でポイントとして帰ってくるし、試験に関しては、前みたいに皆で勉強会すればいいかなって」

 

 ほっぺをカリカリと掻きながら意見を述べた軽井沢さん。

 

「私も軽井沢さんと同じ意見かな~」

「私も! 軽井沢さんと同じ気持ち〜」

 

 俺の予想通り、軽井沢さんが意見を出したら彼女を慕っているクラスメイト達からも意見が出た。

 

「……俺は篠原の意見に賛成だなぁ~」

「! 池……」

 

 そして、今度は池君が篠原さんの意見に賛同し始めた。

 これでいい。沢山の意見が集まる事が大事なんだ。

 

 これらを皮切りに、沢山の意見が飛び交い始めた。そして、このままでは決まりそうもないという事で、平田君の提案で堀北さんの複合案に篠原さん達も納得できる条件を付与することになった。

 

「それじゃあ……全競技の選手の選抜は能力重視で行う。各競技で得たPPはクラスで集計し、後で全員で振り分ける。そして、定期試験前には希望者で再び勉強会を開く、って事でいいかな?」

 

 全体の意見をまとめて決められたクラスの方針に、今度はクラス全員が頷いたのだった。




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