ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作5巻編 その②体育祭準備、前編

 

 

 体育祭の方針を話し合った後、俺達Dクラスは体育館に向かった。

 

 当日までの間は体育の時間が増えるが、そのほとんどが自由に体育祭に向けての練習に使う事ができるらしい。

 という事で、俺達は最初の体育の時間をクラスの体力測定に使う事にしたのだ。

 

 つまりは、この測定結果でそれぞれが参加する競技を決めるわけだ。

 

 

 

 —— 体育館 ——

 

 

「オラあ!」

 

 ——ピピッ!

 

「よっしゃ! 82・4だ!」

「なんつう馬鹿力だ!?」

 

 握力測定機を掲げながら須藤君が吠える。

 クラスメイトの男子達は、彼の有り余る力に感心していた。

 

「普段から鍛えてんだよ。よし、次はお前だぜ高円寺!」

「……」

 

 須藤君が高円寺君に握力測定器を渡そうとするも、高円寺はステージの縁に座って爪を整えるのに夢中だ。まったく反応しない。

 

「……おい、高円寺、お前だよお前!」

「興味ないねぇ~、私はパスさせてもらおう」

「ああ!? てめぇふざけんなよ!」

「ちょっ! 落ち着いて須藤君!」

 

 相変わらず非協力的な高円寺君に、須藤君が殴りかかる。

 なんとか止める事に成功したけど、高円寺君の事もどうにかしたいものだ。

 

「ちっ! ほら、じゃあ次はツナが測れよ」

「あ、うん」

 

 苛立ったまま、乱暴に測定器を須藤君から手渡される。

 次は俺が測定する順番のようだ。

 

「……」

 

 握力測定器のバー部分を握りしめ、体の側面に添わせる。

 

(そういえば、中3の時、山本と獄寺君がこんな事言ってたっけ)

 

 力を込める寸前、中学時代の握力測定の思い出が蘇ってきた。

 そう、あれは1年前の春のこと……。

 

 

 —— 1年前 ——

 

 

「はぁ、握力がなかなか上がらないなぁ」

「そうか? 去年より大幅アップしてるじゃん?」

「そうっすよ! さすがは10代目です!」

「でもさぁ、2人比べれば全然だし」

 

 2人との力量の差に落ち込んでいる俺に、山本と獄寺君は握力測定のコツを教えてくれた。

 

「ツナ、握力を上げるコツを教えてやるよ!」

「おい山本! それは俺の役目だぞ!」

「じゃあ2人で教えてあげればいいじゃんか」

「あ、ありがとう」

 

 そして授業が始まるわけだが……山本の教えはこうだった。

 

「手を体の横に置いてな。ん~っ、って力を込めんだよ」

「う、うん。それは今もやってるんだけど」

「そうか? じゃあ声を出しながらやってみるのはどうよ?」

 

 ……そして獄寺君は。

 

「いいですか、10代目。握力の強さは単純に腕の太さに比例するものではないんすよ。もちろん無関係ではないですが、大切なのは前腕にある腕橈骨筋、側手根屈筋といった筋肉の束です。仕組みとしては、前腕の筋肉が収縮して腱を引っ張ることで指が曲がるため、この束を鍛えることで握力が向上するわけです。つまり、ある程度の筋肉量があれば、鍛え方次第で100キロを越えることも可能なんです!」

「う、うん。えっと、つまり?」

「つまり、ここの筋肉を意識して握り込んでみてください!」

 

 獄寺君は俺の腕を数カ所触って、注意すべき場所を教えてくれた。

 

 ん~。昔泳ぎを教えてもらった時もなんだけど、山本はセンスでやってるからフワフワした説明しかしてもらえないし。逆に獄寺君は頭が良すぎて、論理的な説明ばかりで俺の頭では理解ができないものだった。

 

 しかしだ。あれから1年経ち、俺の頭脳も向上しているはず。獄寺君や山本の教えを思い出しながらやってみれば、案外いい結果が出るかもしれないぞ。

 

(須藤君と一緒で全競技に参加するわけだし、へボい結果は出すわけにはいかないしな)

 

「……よし、行きます!」

 

 もう一度バーを握り直し、腕に意識を集中する。

 

(大事なのは前腕。そこに意識を集中して……ん〜っ!)

 

 ——ギュっ!

 

 ——ピピッ!

 

 測定終了のアラームが鳴り、モニターを確認すると……そこには驚きの結果が表示されていた。

 

「え!? 75・5!?」

「おおっ! ツナもやるじゃねえか!」

「すごいよ、沢田君!」

 

 須藤君レベルは無理だったが、過去最高記録を叩き出す事に成功した。

 これは2人のアドバイスと、今までのトレーニングがきちんと結果として出たという事だろう。

 

「おおお……はい、綾小路君」

「……ああ」

 

 次の綾小路君に測定器を渡しながら、俺は獄寺君と山本に感謝した。

 

「60・5だな」

「へぇ~! 綾小路君も意外に筋力あるんだね!」

「え? 男子の平均くらいじゃないか?」

「いや、高1男子の平均は50じゃないじゃないかな」

「そ、そうなのか?」

 

 その裏では綾小路君もいい結果を出していたようだが、俺は見ていなかった。

 

 

 —— 体力測定終了後  ——

 

 

「うん。これで男女共に、運動が得意なメンバーは割り出せたね」

 

 体力測定の結果、男女別にクラスメイトの中で運動神経の良い人が決定された。

 

 ○女子

 

 1位、堀北さん。

 2位、小野寺さん。

 3位、桔梗ちゃん。

 

 ○男子(高円寺君を除く)

 1位、須藤君。

 2位、俺。

 3位、綾小路君と三宅君。

 

 男子3位は2人が同じ点数だったので同点3位となった。

 

 多分高円寺君が参加していたら、須藤君は分からないけど他3人は順位は下がると思う。無人島での動きを見れば、身体能力がハンパないのは明らかだからな。

 

「じゃあ、この結果を参照して各競技の参加者を決めようか。堀北さん、一緒に考えてくれるかい?」

「ええ、もちろん」

 

 平田君と堀北さんが、体力測定の結果を参考にノートに各競技の参加選手を記載して行く。

 

「……よし、これでいこうか」

「ええ、これがこの結果から見ればベストだと思うわ」

「練習をしてみて、微調整はするだろう?」

「もちろん、ギリギリまで最終決定はしない方がいいわね」

 

 2人での話が終わると、平田君がノートをクラスメイトに手渡した。

 

「皆、これが現時点でのベストメンバーだと思う。ノートを回すから、各自確認して欲しい」

「このキャスティングはトップシークレットよ。情報漏洩を防ぐ為に、写真に残したりするのは禁止するわ。忘れてしまったら私か平田君に確認してちょうだい」

 

 ノートはクラスメイト達を回っていき、俺と綾小路君の元にやってきた。

 

「綾小路君は何競技くらい出たい?」

「できればゼロだな」

「素直な答えをありがとう」

 

 俺達はノートを開いた。

 

 ○沢田綱吉、全競技参加。

 

 男子二人三脚のパートナー「綾小路清隆」

 男女二人三脚のパートナー「堀北鈴音」

 1,200mリレー「アンカー」

 

 

 ○綾小路清隆、推薦競技2種目参加。

 「男子二人三脚」、「男女二人三脚」

 

 男子二人三脚のパートナー「沢田綱吉」

 男女二人三脚のパートナー「櫛田桔梗」

 

「うわぁ。俺リレーのアンカーとか初めてだよ」

「2種目も参加か。最悪だな……」

 

 あからさまに嫌そうな綾小路君。

 推薦競技に出れば、嫌でも目立っちゃうもんね。

 

「……まぁ練習でわかるだろ。俺は出るべきではないってな」

「ははっ。コラコラ、最初からやる気を無くしちゃダメですよ?」

 

 相変わらずクールな綾小路君に、俺は思わず笑ってしまうのだった。

 

 

 

 —— 翌日の体育の時間 ——

 

 

「おいおい、何かジロジロ見られてんぞ?」

 

 グラウンドに向かっている最中、生徒棟を指差しながらそう言った池君。

 

「ん? あ、本当だ。あれは……Bクラス?」

「……だな。赤組の偵察ってとこだろ」

「でも、Aクラスからも見られてるみたいだよ」

「……学年ごとの競争もある。同じ組でも戦力を図るのは、当然っちゃ当然だな」

「あ~、そういうことか」

 

 池君の指を追うと、1年フロアのBとAクラスの窓から、こっちをじっと見つめる人達がいた。

 Cクラスからは見られていないようだけど、それが逆に怖い。

 

「……このまま練習して大丈夫かな」

「目眩しに、参加しない競技の練習にも参加した方がいいかもしれないぞ」

「平田君に相談しようか」

「そうだな」

 

 綾小路君の提案で、とりあえず今日は全員が全ての競技の練習に参加する事になった。

 

 

 〜 練習開始〜

 

 練習が始まると、須藤君の運動神経の良さを、これでもかと理解させられた。

 俺は平田君と堀北さんと一緒に、須藤君を目をまん丸にして見ていた。

 

「すごいね、須藤君」

「ええ。身体能力だけなら間違いなくAクラスね」

「そうだね。でも沢田君もすごいよ」

「あはは、ありがとう」

 

 須藤君はどの競技でも、クラストップの成績を出している。次点で俺。

 女子は堀北さんと小野寺さんがすごいみたい。次点で桔梗ちゃん。

 

 平田君に優められたけど、正直納得がいってはいない。確かに俺にしてはかなりの好成績を出せているけど、本当はもっと良い成績が出せると思うんだ。

 

 夏休み最終日のプール。あの時に出来たスーパージャンプ。あれが自在にできれば、体育祭で沢山活躍できるはずだ。リボーンも言ってたけど、体育祭は全校生徒に俺の存在感を示す絶好の機会。学年全体のボスになるって最終目標の為にも、ぜひとも今回の体育祭では活躍したいものだ。

 

 1人でそんな事を考えていると、平田君が何かを思いついたようで声をかけられた。

 

「ねぇ沢田君、体育祭は須藤君と君で引っ張ってくれないかな?」

「え? 須藤君にリーダーをやってもらうの?」

「うん。沢田君には須藤君をサポートしてやってほしいんだ。今の須藤君、すごく楽しそうだし。ああいう人が仕切った方が皆やる気が出ると思う」

「……そうね、異論はないわ。強大な力で牽引するのもリーダーシップの1つだもの」

 

 堀北さんがあっさり認めるのも意外だった。堀北さんも須藤君の身体能力のすごさはきちんと評価してくれていたようだ。

 確かに須藤君なら体の使い方とかよく分かってるだろうし、的確なアドバイスとかを皆にしてくれるかもな。

 

「うん。良いと思う」

「本当かい? じゃあ早速、須藤君に話そう」

 

 そして俺と堀北さんと平田君は、リーダーになってほしい事を須藤君に話した。

 

「は? 俺が体育祭のリーダー?」

「うん。須藤君にはクラスを率いる資格があると思う」

「お願いするわ。あなたはその身体能力で、クラスを引っ張ってちょうだい」

「でもよ、俺はリーダーってがらじゃねぇしなぁ」

 

 好きな人からのお願いでも、あまりやる気になれなそうな須藤君。

 こんな時こそ副リーダーの出番だろう。

 

「俺も副リーダーとして支えるからさ。やってみない?」

「……ツナが支えてくれんなら、まあいいか。わかって、やらせてもらうぜ」

「ありがとう!」

 

 こうして、須藤君がリーダー。俺が副リーダーとして体育祭の間はクラスを率いる事になった。

 

「——あ、なぁ堀北」

「何?」

 

 クラス全体に今の話を伝えようとすると、須藤君が堀北さんを呼び止めた。

 

「も、もしも俺がさ。体育祭でDクラスを勝利に導いたら……す、鈴音って呼んでもいいか?」

「……は? どうしてそんな事許さないといけないの?」

 

 須藤君、気をしっかり保ってくれ!

 今の攻撃は効いただろうけど、これに耐えられないと堀北さんと付き合うのは無理な気がするからっ!

 

「……頼むっ!」

 

 須藤君は力強く、再度お願いした。

 さすがだ。男らしいし、根性がある!

 

「……はぁ」

 

 堀北さんは須藤君を見て沈黙した後、深くため息を吐いた。

 

「……仕方ないわね。これでやる気を失くされるよりも、許可した方がましだわ」

「え! じ、じゃあいいのか!」

「ええ。でもクラスが勝つだけじゃダメね。あなたが学年最優秀賞を取ったら許可するわ」

(えっ!)

「よっしゃあ!」

 

 すごく嬉しそうな須藤君。

 

(いやあの……須藤君に学年別最優秀生徒賞を譲ると、俺は最優秀生徒賞を取らないと課題をクリアできないんですけど!)

 

 須藤君のリーダー就任をクラスで報告した後、俺達は推薦競技の練習に入った。

 

「く~、全然動かねぇ!」

「もっと腰を落とせ! 腕だけじゃ、力が縄に伝わらないぜ!」

「お、おーう!」

「そうそう。腰を落として、下半身に重心を持って行くんだ。馬役がしっかりと安定していれば、騎手役が自由に動きやすいからね」

「うん、わかった!」

「ツナ君の説明分かりやす〜い♪」

 

 推薦競技練習は、須藤君が男子の綱引き。俺が女子騎馬戦のフォローをする事になった。

 フォローと言っても、超直感のおかげで競技毎の体の使い方がなんとなく分かるから、それを皆に説明するだけだけども。

 

「沢田君、こっちも見てくれない?」

「あ、うん。すぐ行くね」

「沢田~! こっちも見てくれ!」

「コラ、池! 男子は俺が見るって決まったんだよ。ほれっ!」

「うおっ! ぺっぺっ!砂をかけんじゃねぇよぉ!」

 

 須藤君が池君に砂をかけている。

 

 ——全く、仲がいいなぁ!

 

 綱引きと騎馬戦の練習が終わると、男女共に二人三脚の練習をする事になった。

 

「いっち!」

「に……」

「いっちっ!」

「に……」

「いちっっ!」

「に……」

 

 まずは男女別の練習という事で、俺はペアである綾小路君とグランドを走っていた。

 

「いいっちいっ!」

「……に」

 

 このテンションの差を聞きました?

 普通だったら絶対に上手く行きませんよ、こんなペアは。

 

 .……なのに。

 

 ——ピッ!

 

「沢田君と綾小路君、息ぴったりだね!」

「俺と平田よりも全然速えな!」

 

 そう。平田君と須藤君が言うように、なぜかものすごい走りやすかった!

 走るのも楽しかった!

 

 なんでこんなに走りやすいんだ? 

 ……なんて考えてたけど、そんなのは簡単だ。掛け声が俺主導なんだから、綾小路君が俺に合わせてくれてるんだ。

 

「綾小路、けっこうやるじゃん?」

「沢田が俺を引っ張ってくれたからな。沢田が凄いんだよ」

 

 須藤君の賛辞にも喜ばない綾小路君。

 まるで、こんなの出来て当たり前だと言うように……。

 

 最近気にしてなかったけど、やっぱり綾小路君は本来の実力を隠してるんだ。

 どうして隠すのかは分からないけど、本気を出した綾小路君はどんな感じなんだろう?

 

 またも1人の世界に入り込んでいると、須藤君が俺達の後方を見てため息を吐いた。

 

「……ハア。全然息があってねぇな、あの2人」

「そう……みたいだね」

 

 平田君も心配そうに見つめている。

 

 2人の視線は、さっき俺達が走っていた方向を向いている。

 その先にいるのは、堀北さんと小野寺さんのペアだ。

 

 どうも堀北さんのスピードに、小野寺さんが付いて行けていないようだ。

 なんとかゴールした2人だが、険悪な雰囲気が漂っている。

 

「ちょっと堀北さん! 早すぎるんだけど!」

「確かにリズムが合っていないわね。でもそれは、あなたが遅いからよ」

「は!?」

「速い方のリズムに合わせるべきでしょう? わざわざタイムを落としたくもないわ」

「……ふん!」

 

 小野寺さんは足に巻いた紐を乱暴に外すと、どこかに行ってしまった。

 

「……はぁ」

 

 1人になった堀北さんは、グラウンドの外周をランニングし始める。

 今もまだ、堀北さんはコミュニケーションは苦手のようだ。

 

 クラスメイトとの関わりを持ち始めたとはいえ、いきなりは難しいか。

 

「……堀北さん」

 

 走る彼女を見ながら、どうすれば彼女の為になるかを考えるのだった。

 

 

 

 ——数日後。体育祭まで、あと2日 ——

 

 

 あれから数日が過ぎ、9月も半ばに突入した。

 

 競技の練習は順調に進み、1つを残して選手は全て正式に決定されていた。

 そのラスト1つとは、二人三脚だ。

 

 なんで決まっていないのかと言えば、堀北さんと小野寺さんのペアがうまくいかないからだった。

 何度かペアを変えてみたんだけども、結果は同じだった。結局は堀北さんと小野寺さんがペアになるしかないんだけど、まだ2人の連携ができていないのが問題だ。

 

(よし。ここは俺が頑張るぞ!)

 

 男女別の二人三脚が形になってきているので、今日からは男女ペアの二人三脚も練習を始める事になっていた。

 ちょうどいい事に、男女の方は俺が堀北さんとペアだからな。

 

「堀北さん、紐結ぶね」

「……ええ」

 

 2人の足を紐で結びながら、堀北さんに話しかける。

 

「ねぇ堀北さん。ちょっと提案があるんだけどさ」

「何?」

「2回連続で走ってみない? 1回目は堀北さんのスピードに俺が合わせる。逆に、2回目は堀北さんが俺に合わせてよ」

「……ええ。わかったわ」

 

 堀北さんの了解を得たので、近くにいた綾小路君にタイム測定をお願いする。

 

「綾小路君、俺達2回走るからさ。2回タイム計測してくれる?」

「わかった」

「ありがとう」

 

 綾小路君にストップウォッチを2個手渡してから、俺達はスタートラインに着いた。

 

「堀北さんの走りたいように走ってね」

「ええ」

「いくよ? よ~い。どん!」

 

 ——ピッ。

 ——ダッ!

 

 ストップウォッチに音と共に、俺達は走り出した。

 1回目はひたすら堀北さんに合わせるんだ。

 

 堀北さんが走りやすいように、リズムを合わせる。

 上手い事行っているのか、堀北さんの顔が若干楽しそうに見えた。

 

 ——そしてゴール。

 

「はぁ、はぁ」

 

 全力で走ったからか息が乱れているが、堀北さんは確かな手応えを感じてるようだ。

 

「堀北さん、もう1回だよ」

「はぁ……ええ」

 

 息を整えながらスタート地点に戻り、再び走る準備をする。

 

(ここで大事なのは、堀北さんがギリギリ着いて行けなさそうなスピードで走る事だ。1回目で堀北さんの全力疾走は見た。後はそれよりも若干速いくらいで……)

 

「行くよ?」

「ええ」

「よーい……ドンっ!

 

 ——ピッ。

 

 再びスタートした俺達。

 

「……!ち、ちょっ!」

「頑張って合わせてみて!」

「そ、そんな事言われても、このスピードじゃ!」

 

 ——ピッ。

 

 結局2回目は、ほとんど俺が堀北さんを引きずっている様な感じでのゴールとなった。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 倒れない様にするので精一杯だったのだろう。1回目より確実に堀北さんの息は上がっていた。

 

 足を繋いでいる紐を外し、堀北さんと共にグラウンドの周りを囲んでいる芝に座り込んだ。

 

「どうだった?」

「……倒れない様にするので、精一杯だったわ」

「そっか」

「よく分かったわ。遅い方がどれほど大変な思いをしているのかが。沢田君、あなたは私に小野寺さんの気持ちをわからせる為にやったんでしょ?」

 

 何かを悟った様な堀北さん。

 俺はそんな堀北さんにはっきりと告げた。

 

「違うよ?」

「……え?」

 

 キョトンとしてる堀北さんに、俺は言葉を続けた。

 

「小野寺さんの気持ちもそうなんだけど、俺が味わって欲しかったのは1回目の方だよ」

「1回目?」

「そう、1回目! 走っててどんな気持ちになった?」

 

 質問の答えを、堀北さんは目を瞑って考える。

 

「……すごく走りやすかったわ。なんというか、どこまでも走って行けそうな」

「うん。でもそれはね、俺が堀北さんのスピードに頑張ってついて行ったから感じたんじゃないよ」

「え?」

「俺が走りながら考えていたのは、どうすれば堀北さんが気持ちよく走れるかなって事」

「……」

 

 思っても見なかった答えだったから、堀北さんは驚いた顔になっていた。

 

「君の事を考えていたから、お互いに全力を出して走り切れたんじゃないかな」

「そうかもしれないわね」

「うん。逆に2回目は、お互いに自分の事しか考えてなかったでしょ? だからあんなに走りづらいんだよ」

 

 堀北さんに分かって欲しいのは、二人三脚は相手の事を第一に考えるべきって事だ。

 そして、それが必ず勝利に繋がるはずだってことも。

 

「堀北さん、1回目と2回目。どっちが速かったと思う?」

「え? それは2回目でしょう。沢田君の方が速かったもの」

「ううん。それがそうでもないんだよ」

「どういう事?」

「——綾小路君!」

 

 タイムを測ってくれた綾小路君からストップウォッチを受け取り、液晶部分を堀北さんに見せる。

 

「右が2回目だよ」

「……えっ!」

 

 堀北さんは驚いた。2回目より1回目の方が3秒も速かったからだ。

 

「ど、どうして?」

「片方が速くたって意味はないんだ。二人三脚はペアで挑む競技。ペアの信頼関係が、結果に絶大な影響を及ぼすんだと思う」

「信頼、関係……」

「そう。だから、まずはペアの事をよく考えてみてほしいんだ。今の堀北さんなら小野寺さんだね」

「小野寺さんの事……」

「そうさ。元々足の速い2人のペアだよ? そんな2人がペアとしてお互いを尊重しあえたら、どのクラスにも負けないさ!」

「!」

 

 堀北さんは、芝から立ち上がって俺の事を見つめた。

 

「沢田君、ありがとう」

「ううん、俺達はパートナーだもんね」

「ふふ、そうね」

 

 堀北さんは俺に微笑みかけると、意を決して平田君とのペア練に励む、小野寺さんの元へ向かった。

 

「——平田君、少し小野寺さんを借りてもいいかしら」

「え? ……うん、もちろん」

 

 平田君が2人から離れ、堀北さんと小野寺さんが向かい合う形になった。

 

「なによ。今は男女ペアの時間よ」

「……(ギュッ)」

 

 堀北さんは拳を握りしめると、深く深く頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

「え? ……な、なによ急に」

「私が間違えてたわ。でもお願い、あと1回だけチャンスを頂戴」

「……どうせ同じでしょ?」

「いいえ。今度は私があなたに合わせるわ」

「は? 本気?」

「もちろんよ。水泳部で優秀なスプリンターである小野寺さんの足を、私は信じる。一生懸命ついて行くから、あなたの力も貸してちょうだい!」

「……」

 

 堀北さんの気持ちが伝わったのか、小野寺さんは最後に一回一緒に走ってくれるそうだ。

 

「……本当に全力で走るからね」

「ええ。私は全力でついて行くわ」

「わかった」

 

 2人はスタート地点に立つ。

 

「いちについて~、よーい!ドン!」

『つ!』

 

 平田君の合図で走り出す。

 

「いち!」

「に!」

「いち!」

「に!」

 

 今までの走りが嘘みたいなリズムぴったりの快走だ。

 どんどんと加速していき、一度も減速することなく、ゴールにたどり着いた。

「……! すごいよ、2人とも!」

『!』

 

 平田君からタイムを聞かされた2人は、向かい合って握手を交わしたのだった。

 

 




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