ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 第3競技、棒倒し ——
一抹の不安を感じながらも、体育祭は待ってはくれない。
次は男子限定の競技——棒倒しだ。
先に敵陣営の守る棒を倒した方が勝ちというシンプルな競技だが、荒々しくなるのは必須なので危険も伴う競技である。
「よおしっ、絶対勝つぞテメエら!」
「おおっ!」
須藤君がAD連合チームの男子を集め、鼓舞した。
「平田、事前に決めていた作戦通りでいいのだな?」
「うん、僕達が先にオフェンスをやるよ葛城君」
Aクラスの葛城君と平田君で最終確認を行なっている。
この棒倒しは先に2本先取した方が勝ちだ。なのでAとDのクラスごとに交互にオフェンスとディフェンスをやるが、赤組が先に1本先取した場合は、その時にオフェンスを行っていた方がそのままオフェンスを続けるという取り決めをしてあるのだ。
「あぁ、やっぱり白組も同じ戦法できたね」
「うん」
平田君の視線の先には、赤組と同じように綺麗に攻守で分かれたBC連合チームの姿があった。 連携が大事になるこの競技だけど、赤組も白組もお互いにそこまで信頼関係を築ききれなかったということか。
1戦目、BC連合はCがオフェンスでBがディフェンスのようだ。先にオフェンスをやる俺達Dクラスの前に、Bクラスの男子達が陣形を組んでいる。
ちなみにオフェンス同士がぶつかり合うことは禁止されている。あくまでもオフェンス対ディフェンスでぶつかるルールになっていた。 つまり一戦目では俺達とCクラスとはぶつからないわけだが……BC連合がもし2戦目でオフェンスとディフェンスを入れ換えなければ、次戦ではCクラスとぶつかることになる。……気を引き締め直しておこう。
「よっしゃ! いくぜツナ!」
「うん!」
棒倒しが始まってすぐに、物騒なことを言いながら須藤君が相手のディフェンス陣営に突っ込んだ。俺も横並びで続く。
さすが須藤君というべきか、高身長と高1とは思えないパワーで次々と棒周辺に張り付く生徒が引きはがしていく。
「おい、須藤を止めろ!」
「ちっ、面倒クセェな! ツナ、俺が後続の道を作ってる内に棒を倒せ!」
「了解!」
須藤君は3、4人の男子生徒に一斉にブロックを受けてしまい、進行が防がれる。その代わり俺に割く人員が減ったので、これ幸いと俺が棒を倒すつもりで突っ込んでいく。
「させねぇよ!」
(っ、俺にも3人付けてきたか!)
しかし、俺に対してもすぐに追加人員をつけてきたので俺の進行速度も遅くなる。……他の男子達も果敢に須藤君の作った道に突っ込んでいるが、突破するまでには至らない。俺達はギリギリの瀬戸際で防ぎ切られていた。
この競技におけるDクラスの問題点は、パワー自慢が殆どいないことだ。一方でBクラスは平均よりやや上の力を持った生徒が多いらしい。
——そして、それはCクラスも同じだった。
「やべえぞ! 山田何とかってハーフがすげぇ暴れてるぞ!」
「あぁ!?」
「えっ!?」
その声に振り返ると、Aクラスの守る赤組の棒が少しだが斜めに傾き始めていた。
Cクラスは武闘派のような生徒が多いようで、防御を楽々と突破しているように見える。
取っ組み合いになれば、Aクラスが不利なのは明白だった。
Cクラスの男子達も、龍園君に攻めるよう命令されていれば死にもの狂いにもなってもおかしくない。
何とかしないとだけど、俺も須藤君も1対複数のディフェンスに阻まれてゆっくりとしか進行できない。
「くそがぁぁ!」
「うおぉぉぉ!」
(なんとか、Cクラスに棒を倒される前にこっちが!)
——ピッ!
必死で俺と須藤君がBC連合の棒を狙う中、無情にもホイッスルが鳴ってしまう。結局、白組に1本目を先取されてしまったのだ。
「くそが! 何やってんだよお前ら! 俺達みたく死ぬ気でいけよ!」
無残に倒れた棒を睨みつけながら、攻めきれなかった後続達に怒りをぶつける須藤君。
「んなこと言われてもよ、あいつら結構強いぜ? いてて、膝擦りむいちまった」
「かすり傷だろ! 噛みつくなり膝蹴り入れるなりして抵抗しろよ、使えねーな!」
須藤君の言ったことをやれば、どれも反則の1発退場だ。
「終わったことは仕方がないよ。今度は俺達がしっかり守ろう」
優しく須藤君の肩を叩き怒りを鎮め、2〜3人で倒れた棒を起こした。
「ちっ、絶対に守り通すぞ、いいなお前ら!」
『お、お〜』
須藤君や俺との温度差で、クラスメイト達は変に気後れしちゃっている気がする。
Dクラスのディフェンスは、棒を俺と須藤君が直持ちで守り、その周辺を他の男子達が広がって進行を防ぐというもシンプルなものだった。
「俺とツナのパーフェクトディフェンス! 破れるもんなら破ってみろやぁ!」
(なにその名称! 聞いてないよ?)
ディフェンスの体制になり、須藤君が叫んだ。
「このままあっさり連取なんてさせねぇぞ。俺は龍園の野郎をぶっ飛ばすんだ!」
あ、そう言えばさっきの1本目、オフェンスだった龍園君はほぼ観戦していただけだったな。須藤君的にはそれが気に入らないんだろう。
〜2戦目〜
「おっしゃ! Cがオフェンスだぜ!」
(……まずいな。今の須藤君とCクラスをぶつけるのはまずい気がする)
威勢のいいCクラスの男子が攻撃を開始すべく睨みつけている。 そしてそのクラスをまとめるリーダー、龍園君は後方で不敵に笑っていた。
「それでは、2戦目を開始します!」
——ピッ!
「……行け」
『うおおおお!』
試合開始の合図と共に、龍園君は号令をかけ突撃を命じた。
須藤君に近い体格、運動部系の生徒で固められた男子達が先頭で突っ込んでくる。
「うわぁぁ! 怖ぇぇぇ!」
Dクラスの数名から悲鳴が上がり、棒の周囲を取り囲んでいる人達がたちまちに減っていく。
「起き上がれ! 足を掴んで引きずり倒せ!」
「はっ、無駄無駄ぁ!」
無茶な激励を飛ばす須藤君の声も、相手の怒号にかき消される。
Cクラスは反則すれすれの肘打ちなどを繰り返しながら、あっという間に本丸に斬り込んだ。
Aクラスのオフェンス陣も棒に触れそうな位置まで進軍していたが、間に合うかどうかぎりぎりだ。
「ぐぉっ!」
「! 須藤君!」
すぐ斜め前で棒を支える須藤君から、悶えるような声が聞こえた。彼の間近まで詰めて来ていたの山田アルベルト君だった。
その体格はもちろん、パワーも須藤君以上。彼に押されて守るべき棒がわずかに傾いている。
下半身だけ死ぬ気状態にしてはいるが、上半身がニュートラルな状態なせいで、棒が傾くのは阻止できない。それでも下半身には意識を向けておかないと、あっという間に後ろに引きずられそうだ。
「誰だ、腹を殴りやがったのは!」
どうやら混戦に紛れて誰かが須藤君を直接攻撃したらしい。
しかもそれは1度や2度じゃないようで苦しむ声と怒りの声が入り混じる。
だが棒を両手で押さえておく必要がある須藤君にはどうする事も出来ない。背中を丸めて懸命に堪えるしか方法はない。
「痛ぇな! この野郎が!」
さすがに苦しくなり、膝を地面につく須藤君。それでも棒を守ろうと手を離そうとはしない。
「す、須藤君!」
「っ、ツナ!」
腕と足にかかる力を緩めることはなく、足を引きずるようにして須藤君の隣に移動する。
そして、足を広げて須藤君の前に立った。
「がはっ!」
「ツナ!」
「だ、大丈夫! 君は少し、休んでなよ——ぐはっ!」
「ツナ……」
須藤君を庇う形になるので、当然彼に向かっていた攻撃は全て俺に当たることになる。
(この程度の痛み、全然耐えられる!)
このまま、Aクラスが敵陣の棒を倒すまでなんとか耐えれば——。
「……アルベルト」
「YES.BOSS」
(?)
龍園君がアルベルト君に何か指示を出した。一体どんな指示を出したのかと思えば、アルベルト君は小走りで棒から距離を取る。そしてアルベルト君がこちらに向き直ると、龍園君は俺に攻撃しているCクラスの男子達に「一旦退け」と指示を出した。
たちまち俺への攻撃がやむが、一体何をする気なんだ?
「……アルベルト、やれ」
「YES!」
再度龍園君が指示を出すと、なんとアルベルト君が棒に向かって一直線に突進し始めた。
「……まさか。須藤君! 全力で棒を押さえるんだ!」
「! お、おう!」
俺の言葉を受けて、膝を突いていた須藤君も急いで立ち上がり、俺とは反対側から棒を抑える。
「皆も来て! 俺達の周りを固めて!」
『!』
周囲に広がっているクラスメイト達も集めて、Dクラスの男子全員で棒を取り囲む。
(これだけいれば、さすがにあの体格でも……)
「はっ、無駄だぜ」
「……JUNPING!」
まるで走り幅跳びをするかのように、アルベルト君が棒から少し離れた所から飛び上がった。
すさまじい跳躍力で、彼は誰もいない棒の上部分に迫りくる。
「Catch!」
そして勢いそのままに棒を掴み、走り幅跳びの要領で生まれたエネルギーで、棒ごと地面に倒れ込んだ。
——バターン!
『うわぁぁぁ!?』
当然、棒を掴んでいた俺と須藤君も一緒に倒れこむ。
——ピッ!
ホイッスルが鳴り響き、1年生の棒倒しは白組の勝利で終わってしまった。
(……くっ! 完全に龍園君にしてやられた!)
不甲斐なさを覚えながらもすぐに立ち上がり、倒れている須藤君に手を差し出す。
「す、須藤君大丈夫?」
「く……なんとかな……くそ、くそっ!」
須藤君は痛みよりも、理不尽に反則技を受けたことへの怒りが収まらないらしい。
「あのスカシ野郎、今度見かけたら殴り倒してやる!」
唾を吐きながらそう言う須藤君に、池君が近寄ることはせずに苦言を呈す。
「やめろよ健、また騒ぎになるぞ。あの時の問題を繰り返すつもりか?」
池君が言っているのは、Cクラスの喧嘩騒動のことだろう。今回は須藤君から仕掛けたとなれば今度こそ処罰されることになる。
「なんでだよ! あいつは良くて俺はダメなのかよ! 俺とツナの服の汚れを見ろよ!」
「……言いたいことは分かる。でもそれは、競技中の自然な行為とみなされるだろうな」
綾小路君も須藤君に言葉をかけるが、彼の言いたいことはよくわかる。きっと須藤君や俺達が同じようにやってもそう上手くはいかないだろう。
なぜなら龍園君と須藤君、互いにやろうとしていることは同じだけど、テクニックに圧倒的な差があるのだ。
特に仕掛けるタイミングとやり方が、むかつくほどに上手い。
「くそイライラする! 全勝するつもりだったのによ!」
『……』
不満を周囲にぶつける須藤君に、他の赤組メンバーは少し距離を取りながらテントへと戻っていった。
「須藤君、とりあえずテントに戻ろう」
「……ああ」
残された俺は、須藤君の背中に手を添えながら一緒にテントへと戻った。
その後、女子のみの競技である玉入れでは赤組女子が勝利を収めてくれたので、なんとかさっきの負けは取り返すことができた。
休むまもなく第4競技の綱引きが執り行われたが、これは何事もなく終了した。
しかし、次の第5競技で大きな問題が起きてしまう。
—— 第5競技、障害物競争 ——
次は障害物競争。
グラウンドに設置された平均台、綱、ズタ袋の3つの障害を超えてゴールを目指す競技だ。足の速さや体幹など様々な能力を試される。
今回は俺が最後、須藤君が1番手を担うことになっている。9組目までは何事もなく進行され、同じく最後組の池君と共に、スタートラインへと入る。
「が、頑張ろうぜ沢田!」
「う、うん。頑張ろう」
池君はかなり不安そうにしているが、それは始まる前に須藤君が「3位以下を取ったやつは罰を与えるかんな!」と言っていたせいだろう。
「——へへへ」
(……?)
笑い声が聞こえてきたので視線を隣のレーンに向けると、そこ立っているCクラスの男子が、俺を見てニヤニヤと笑っていた。
この人は確か……これまでに一緒の組にはなったことないが、かなり足が速い人だった気がする。
嫌な予感をひしひしと感じつつも、俺はスタート体制に入った。
——パァン!
スターターピストルの音が鳴り響き、1組目の全員が走り出す。
序盤は俺が1位、2位が先ほど笑っていたCクラスの男子という展開になった。
2位に2mくらいの差を付けながら、俺は最初の障害である平均台に突入。
両手でバランスを取りながら、なんとか平均台を突破するも、体幹が強いのかCクラスの男子にかなり距離を縮められてしまった。
そのままの距離を維持しつつ、2つ目の障害である綱に潜り込む俺とCクラスの男子。
(この中は人目につかない。何か仕掛けられるならここだな)
さっきのニヤニヤ顔が心配で、何とかこれ以上距離を詰められないように急いで匍匐前進で進む。
しかし、網の中間地点まで進んだところで、突然後方から片足首を掴まれてしまった。
「っ!」
「へへ、ちょっと遊んで行こうぜ?」
後ろを振り返ると、さっきと全く同じニヤニヤ顔をしているCクラス男子がいた。
「くっ! 離せっ!」
「嫌だよ。俺はお前とおしゃべりがしたいんだ——」
「離せっ!」
「なっ!?」
下半身に集めていた死ぬ気の炎エネルギー。それを全て掴まれている片足に集中させて足払いすることで、何とかCクラス男子の手を振り払うことに成功する。
「よしっ!」
「ちっ! 待て!」
再び足首を掴もうとしてくるので、足を背中側に持ち上げたうえで、腕のみを死ぬ気状態にして腕の力だけで進むことにした。
「なんだよそれ、しゃちほこかよ!」
この作戦が功を奏し、網を抜けるまで掴まれることはなかった。
網を抜けてすぐに下半身を死ぬ気状態に戻し、次の障害まで駆け抜ける。最後の障害であるズタ袋は、俺の方が明らかに進行速度が速かったから、最後の50mの直線でも序盤くらいの差を開けての1着ゴールとなった。
「……ふぅ」
「くそっ!」
2位でゴールしたCクラス男子が怒りの視線を向けて来るが、俺はそのことには目もくれず、急いで赤組テントへと戻った。
「ねぇ、堀北さんはまだいる?」
「もう準備に入ってるよ。彼女は1組目だからね」
「くっ、そうだよね……」
「沢田君、どうかしたのかい?」
俺の様子を見て、心配した平田君が声をかけてくれた。
「実はさ……」
俺は先ほど受けた妨害について話した。その事に皆顔をしかめるが、一番反応したのはやはり須藤君だ。
「あいつら……ツナにまで手を出しやがって!」
「須藤君落ち着いて。……それで、堀北さんにも同じようなことが起きるって思うのかい?」
平田君の言葉に俺は頷く。
「実は俺と堀北さんは『体育祭でお前達を潰す』って、龍園君から言われていたんだ」
「……なるほど、それで堀北さんも危険だと思ったんだね」
「うん。もし女子の1組目に足の速いCクラスの子がいたら、その可能性は高いと思う」
「……その予想は当たりっぽいぞ」
テントに張り出された各競技の組み合わせ表を見ながら、綾小路君がそう言った。
「いる? 速い人」
「ああ。ハードル走の時も同じ組だった、木下と矢島がいる」
「……そっか」
しかし、いくら危険があるとわかっても、すでに準備に入っている堀北さんに伝える術はない。
「どうしよう」
「……とりあえず、大事にならないことを祈るしかないだろ」
「……そうだね」
——この時、無理やりにでも伝えればよかったと、後に後悔することになる。
女子の障害物競争の1組目が出走した。最初は木下さんが抜け出た。真っ先に平均台に足をかけて、グイグイと後続を引き離していく。2番手は矢島さん。それを堀北さんが追うという形のスタートとなった。
堀北さんには申し訳ないが、このままの順位でゴールまで行って欲しいと思わずにはいられない。彼女の身に何かがあるよりは、その方が何百倍もましだ。
途中で、矢島さんと木下さんの順位が入れ替わる。
純粋な走力や体力を試される100メートル走やハードル走と違い、様々な不確定要素が盛り込まれた障害物競争では各順位の差は思いのほか広がらない。平均台を終えた時には、2位の木下さんとほぼ横並びの状態にまで距離を縮めてきていた。
「……鈴音」
近くで須藤君がそう呟く。堀北さんを応援もしているし心配もしているようで、グッと手に力を込めながら様子を見守っている。
網をくぐり抜ける頃には、堀北さんが一歩前へと躍り出た。しかし、木下さんが障害物の間にある短距離で距離を詰めてきて、順位も逆転してしまう。
1位の矢島さんの順位は揺るがないだろうけど、堀北さんは2位を奪うために全力で駆けていく。最後のズタ袋に辿り着く直前、僅かにバランスを崩した木下さんに距離を詰める堀北さん。そして抜き去ると全力で疾走し、それを脱ぎ捨てる。
最後の50メートルを堀北さんは全速力で駆け抜ける。ところが、後ろから迫る木下さんが気になるのか、チラチラと何度も後ろを小刻みに振り返っている。そしてそれが失速に繋がったのか、木下さんに並ばれてしまう。
(これは……まずい、距離を取るんだ堀北さん!)
そんな願いも虚しく次の瞬間、抜かれまいとする堀北さんと、追いついた木下さんが絡まるようにして共倒れしてしまう。
「堀北さん!」
「やべぇ、なんか嫌な音したぞ?」
どちらから接触したかは遠過ぎて分からなかったが、ぱっと見では競った故のトラブルに見えた。2人は起き上がっている間に次々と抜かれていき、一気に下位に落ちる。
すぐに起き上がることは出来ないようで、お互いに土煙の中で必死に立ち上がろうとしていた。何とか競技を続行できたものの、そのハプニングが最後まで響き、堀北さんは7位でゴールした。転んだもう1人の木下さんは競技続行不能ということで棄権扱いになった。
「……綾小路君、どう思う」
「……偶然、じゃないな」
「そうだよね」
最後の50mでの木下さんの動き、明らかに堀北さんとの距離を測っている感じだった。もしかしたら、危険な接触をするタイミングを図っていたのかもしれない。
障害物競争を終えて戻って来た堀北さんの表情は重かった。明らかに違和感を感じさせる歩き方と仕草を見れば、状況は一目瞭然だった。
「堀北さん、痛む?」
「……ちょっとだけ。でも競技に影響が出るほどじゃないわ。少し休めば大丈夫」
そう強がってはいたが、座るのも辛そうに見える。
「無理しないで。本当は歩くのも辛いんでしょ?」
「……それでも、我慢してやるだけよ」
「リタイアすると点数そのものが入らないもんね。頑張りたい気持ちは分かるんだけど……」
それでも怪我した堀北さんに無理をさせることはできない。
どうしようかと考えていると、綾小路君が堀北さんに声をかけた。
「おい堀北。どうして後ろをチラチラと気にしていた?」
綾小路君が言っているのは、最後の50mの直線のことだろう。
「……私の後ろを走ってた彼女が、何度も走りながら私の名前を呼んだのよ」
「なるほどな。それで競技中に時折振り返ったわけか」
「流石に変だと思ってたの。でも振り返った直後に身体がぶつかってきて、ご覧のあり様。抗議したい気持ちもあったけれど、普通ぶつかるなら名前なんて呼ばないはず」
確かに、不意打ちした方が転倒させられる可能性は高い。……それでもだ。
「全くついてないわ……まだ中盤だって言うのに……」
「いや、これは意図的に起こされた事故だと思う」
「え?」
ボソリと呟くと、堀北さんが驚いて俺に目を向ける。
俺は自分の身に起きたことを彼女にも伝えた。
「……なるほど。狙っていたってことなのね」
「俺達2人に同じようなことをしてきたわけだし……そうだろうね」
「す……堀北! 大丈夫か!?」
須藤君がすごい勢いで堀北さんに心配の声をかけてきた。
「問題ないわ」
「いや、問題あるだろ! 辛そうじゃねぇか!」
「問題ないって言ってるの。それより、あなたは早く次の競技の準備に入りなさい。もう1年男子はスタートラインに向かい始めてるわよ」
「ぐっ……わ、わーったよ」
堀北さんを心配してこの場を離れそうもなかった須藤君だが、想い人の言葉で渋々だが足を動かした。
「……とりあえず、しばらく動かない方がいいよ」
「いいえ。私は這ってでも競技に参加するつもり」
唇を噛んで、堀北さんは痛みに耐えながら強がった。俺も次の競技があるし、それまでの時間で彼女を説得するのは無理だろう。
「……わかった。せめて男子の競技中だけでも安静にしてほしい」
「ええ……そうするわ」
「うん」
堀北さんに動かないように再度言い聞かせ、俺も次の競技の準備に向かうのだった……。
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