ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 第6競技、二人三脚 ——
次の競技は男女別の二人三脚。2人1組となるため、一度に走る人数は4組と少ない。ちなみに俺のペアは綾小路君だ。
「っしゃああ!」
「うわぁぁぁ!」
1組目の池君と須藤君のペアから大声が上がる。
どうやら1歩目から須藤君の技がさく裂したらしい。それはある意味究極の必勝法で、須藤君が池君を半ば持ち上げた状態で力任せに爆走するという技だ。
反則に近いけど、一応見た目だけはギリギリ二人三脚を保っている。須藤君は池君が転ばないように強引に支えながら、なんとか1位をもぎ取ることに成功した。
「……すごいな」
「う、うん。池君は可哀想な気もするけど」
「1位取れたんだし、気も晴れるんじゃないか?」
お互いの足に紐を結びながら、俺達はそんな会話をした。
そして紐を結び終え、体を起こした時。綾小路君が真正面を向いたまま口を開いた。
「……沢田」
「ん?」
「この体育祭、もちろん勝つつもりだよな」
「うん、もちろんだよ」
「……わかった」
何かを決意したかのように息をひとつ吐くと、綾小路君は俺と顔を向き合わせた。
「——ならこの二人三脚。お前は俺のことは気にせずに全力で走れ」
「え、でもそれだと君が」
「大丈夫だ。置いていかれないように、俺はお前に合わせることに集中する。だからお前はゴール目指して、全力で走れ」
そう言う綾小路君。でもそれだと彼に大きな負担をかけることになる。俺の顔も心配を隠せない。
「綾小路君……」
「心配そうな顔をするな。それに、俺がお前に合わせるのが得意なのは知っているだろう?」
「!」
無人島で言い争ったことを気にしているのか、少し自虐的にそう言う綾小路君。
俺は彼の気持ちが素直に嬉しくて、笑って頷き返す。
「……わかった。死ぬ気でゴールを目指すよ」
「それでいい。……絶対勝つぞ」
——スッ。
(!)
その時。俺の前に綾小路君の拳が突き出される。彼らしからぬ行動だが、俺に対して信頼し合った仲間内でしか行われないアクションを起こしてくれたことはとても嬉しかった。
もちろん、俺も拳を突き出して綾小路君の拳とぶつけ合う。
「うん。頼むね、相棒!」
「……」
相棒と呼んでみたら、綾小路君の表情が微妙なものに変化する。
「……相棒、か」
「うん」
「堀北はパートナーで、俺は相棒?」
「え、うん。一緒にAクラスを目指している堀北さんがパートナーだから、隣で目の前の問題解決に動いてくれる君は、相棒かなって」
「……そ、そうか」
「あれ、もしかして嫌だった?」
俺の質問に、綾小路君は目を逸らして後頭部に手を当てて首筋をさする。
「……いや、別に嫌ではない、な」
「……ふふっ、そっか!」
これは彼なりの照れ隠しなのかもしれないと思うと、なんか笑ってしまった。
それからあっという間に、最終組である俺達ペアの順番が回ってきた。
スタートラインに入り、相棒と肩を組む。
「位置について。よーい」
(行くよ、相棒!)
——パァン!
スターターの合図が鳴ると同時に、俺は駆け出した。
言ってもらえた通り、前だけ向いて死ぬ気で足を動かす。それでも動きづらいなんてことは全くなく、綾小路君がしっかり俺の速さに付いてきてくれているのがわかる。
(……)
(……)
一瞬、チラッと綾小路君の方を見るが、目で「大丈夫だから前を向け」と言われたように感じた。
一部だけとはいえ、死ぬ気状態の俺の動きに完璧に合わせられる綾小路君は、やはり凄い身体能力を持っているのだろう。ニュートラルな俺だったら、完全に綾小路君の方が身体的に勝っていそうだな。
スピードに乗ったまま、他のペアと大差をつけて俺達はゴールした。
その後女子の二人三脚が始まり、2組目である堀北さんと桔梗ちゃんペアが準備を始めた。 このペアは関係はよくないけど、利害関係は勝つことと一致しているため問題はないだろうと綾小路君が言っていた。
2人には勝って欲しい。けど、堀北さんに無理をさせることはできない。
「……気配り上手の桔梗ちゃんなら、堀北さんの怪我にも気づいてくれるよね」
「……どうだろうな」
「お願いだ桔梗ちゃん。……どうにか、堀北さんが無理しないように抑えてくれ」
そんな他人任せな願いは、女子の2組目が出走した瞬間に崩れ去った。
桔梗ちゃんと堀北さんのペアは、全速力で前進し始めてしまったのだ。最初こそ好調に見える2人の走りだが、やはり今の堀北さんの足ではすぐについていけなくなり、どんどん失速していく。結局、堀北さんと桔梗ちゃんのペアは最下位という結果に終わった。
「……次、15分の休憩だよね」
「ああ」
「休憩時間に入ったら、すぐに保健室に湿布をもらいに行こう」
「……まぁ、何もしないよりはましだな」
その後休憩時間に入ると、俺は真っ先に保健室に向かい湿布をもらい、テントで休む堀北さんに痛むところに貼るように手渡した。
「……少しはましかな」
「……ええ、ありがとう」
堀北さんはそうお礼を言ってくれたが、この後の競技もまともに出れるとはとても思えなかった。
—— 第7競技、騎馬戦 ——
休憩時間が終ると競技の順番が一時的に逆転し、女子騎馬戦が幕を開ける。1年の女子全員がグラウンドの中央に集まっている。当然ここでもDA連合とBC連合の対決だ。
騎馬戦のルールは男女共に同じで時間制限方式。3分間の間に倒した敵の騎馬と残っていた仲間騎馬の数に応じて点数が入る仕組みだ。騎馬は4人1組。それぞれのクラスから4つの騎馬が選出され8対8の形になる(そのため一部余った生徒は補欠、予備の人材扱いとなる)。
1騎馬につき50点、クラス毎に1騎馬だけ大将騎が存在し、大将は100点を保持している。これは生き残っても入る点数だし、相手のハチマキを奪うことでも同等の点数が手に入る。強い騎手がいれば一度に400点500点得ることも不可能ではないわけだ。ちなみにDクラスで騎手を務めるのは堀北さん・軽井沢さん・桔梗ちゃん・森さんが選出されていた。
Dクラスの作戦としては、1番自信のない騎手を大将とすることで戦いには参戦させず、それを守る形で3つの騎馬が囲むという陣形を組むようだ。
——ピッ!
試合の合図と共にCクラスとBクラスの騎馬が静かに距離を詰め始める。中でもやる気に満ちていたのは、やはりCクラスの伊吹さんだ。騎手役になった伊吹さんは迷わず指示を飛ばし堀北さんへと向かっていた。……いや、伊吹さんだけじゃないぞ!
「お、おいおい何だよあれ!?」
池君がそう叫び、隣で須藤君が歯を食いしばる様子がすぐに伝わってきた。Cクラスはもう1つの敵であるAクラスを全く相手にせず、そしてDクラスの大将や他の騎馬に目もくれず、堀北さんの騎馬だけを取り囲んだ。あまりにも露骨過ぎる狙いだ。
(やっぱり、俺と堀北さんは確実に潰しにかかってるぞ)
4つの騎馬が堀北さんに襲い掛かる。向こうの戦略は各個撃破か、あるいは堀北さんさえ倒さればいいと思っているのか。龍園君が指揮しているのならどちらもあり得る話だ。
多勢に無勢の状況で期待するのはAクラスの助っ人だが、漁夫の利を狙うつもりなのかAクラスは牽制するだけで露骨にその戦いに参戦する素振りは見せない。
「露骨に堀北狙ってるよな」
「クソが……龍園の指示だろっ。あのボケカス!」
「堀北はDクラスをまとめてる人間って思われてるからなぁ。頭を潰しにかかるのは当然っちゃ当然なのかもな」
その状況を見て真っ先に動いたのは、救援に駆けつけようとする軽井沢さん率いる騎馬軍。中央で軽井沢さんを支える篠原さんが駆けた。しかしそれを阻んだのはBクラスの大将騎馬、一之瀬さんだった。Aクラスと違い、Bクラスは独断で行動するCクラスにしっかりとフォローに入る。
ぶつかり合う軽井沢さん対一之瀬さん。
先に仕掛けたのは軽井沢さん達だった。 それも必然か、狙われつつある堀北さんを援護するには一早く片づけなければならないから。
軽井沢さんを支える3人の女子達は飛びぬけた運動神経があるわけじゃない。あくまでも仲の良い友達で構築された連係プレイを主体とした騎馬だ。対するのはBクラスでも指折りの実力者たちを騎馬に据えた一之瀬さん。
攻める軽井沢さんにも物怖じせず、それを凌駕する軽快な動きで攻めを避ける。しかし一方で、直接攻撃可能な一之瀬さんの動きにはキレがない。その攻めに対して軽井沢さんはなんとか上手く対応し応戦出来ていた。結束力VS機動力の勝負は、思いのほか長引く様相を見せたのだ。
「すっげーいい勝負だな!」
場の興奮が高まりつつある中、硬直する2つの騎馬以外の状況に変化が表れ始める。
歓声が湧く。軽井沢さん達の動きを見ている間に、1つの騎馬がハチマキを奪われたらしい。それはやはり堀北さんだった。4騎馬から同時に攻め立てられ、その執拗な攻撃を避けきれず負けてしまったらしい。
結構派手に落馬したのか、地べたに倒れこんでいて悔しそうに上半身を起こそうとしていた。
(堀北さん。今は怪我が悪化してないことを祈るしかできない俺を許してくれ)
堀北さんの敗北を皮切りに乱戦が始まった。1騎欠いたDクラスはBクラスにも追撃を加えられた結果、瞬く間に連携が乱れ、落馬したりハチマキを奪われたりと軽井沢さん以外の2騎は抵抗するも虚しく脱落してしまう。
一之瀬さんと拮抗したバトルを繰り広げていた軽井沢さんは8対1という場面へと持ち込まれると、最後の最後、落ちる寸前に自爆覚悟でBクラスの別の騎馬からハチマキを奪うことに成功し、相打ちで勝負を決めることに成功する。
これで1騎失ったものの、CクラスとBクラスは残ったAクラスに襲い掛かりAクラスは全滅。逆に相手チームは2騎の損害で済む大敗を喫してしまった。
悔しさを噛み殺しながらテントに戻ってくる堀北。そんな彼女に須藤君はすぐに声をかけに行った。
「気にすんな。今のは無理だ、つか他の奴らのカバーが遅かったのが悪いぜ」
「……負けたことに違いはないわ。私も向こうの勢いに飲まれてしまった」
「任せとけ。お前の分まで俺が暴れて来てやるからよ」
「……期待させてもらうわ」
「っしゃ、行くぞお前ら!」
叫ぶ須藤君が。ついに男子の騎馬戦が始まる。
俺は騎馬役として左方を務める。須藤君は真ん中でどっしりと構え、右方には綾小路君。そして騎手に平田君とクラス内最強の騎馬だ。
仮に仲間の騎馬がやられても勝てる可能性を持たせた一騎当千型である。
「おい平田。おまえはハチマキを奪われないこと、そんで落ちないことだけに集中しろ」
「……例の作戦を使う、ってことだね?」
「棒倒しじゃ散々やられたからな。容赦しねぇで勝ちに行く」
表情は見えなかったが、須藤君がにやりと笑ったことだけは分かった。授業中何度も練習したあの手を使って、殲滅を狙う算段なのだろう。
「でも、僕からも1つ提案させてもらえないかな。さっきの女子の試合を見ていて勝つための方法を1つ思いついたんだ。葛城くんにも伝達済みだよ。各個撃破されたんじゃ苦しいからね」
試合開始の合図と共に、平田君の指示の下、Dクラスの騎馬は全てAクラスの騎馬隊に合流した。Aクラスに紛れることで強制的に大きな塊を作り上げる。
女子の試合では襲われるDクラスを見殺しにした節があったが、ただ負けることはAクラスも望んでいないだろう。
その様子を見てCクラスの大将を務める龍園君が不敵に笑う。
細かな連携が取れないのなら、大雑把な命令で強引に足並みを揃える。葛城君の号令と共に8つのDA連合の騎馬が相手チームへと突撃していく。
「狙うはクソ龍園の首1つ! うらぁ! ぶっ飛べや!」
瞬く間にフィールド全体で戦闘が始まる中、須藤君が全力疾走で飛び出す。半ば暴走とも取れる行動にBクラスの騎馬が立ちふさがる。
「邪魔すんじゃねーよ!」
しかし、須藤君は止まることもなく敵騎馬に渾身の体当たりをかまし、バランスを崩させた。
「うわぁ!」
須藤君のパワーに、向こうはなす術もなく騎手ごと崩れ落ちる。
「どうだオラ!」
実は、騎手を落としてもハチマキを奪った扱いにはならず自滅扱いになる。本来得るはずの50点が宙に浮いてしまったことになるんだ。それでも、ハチマキを奪いにかかるリスクよりはマシだと言った、須藤君らしい作戦だと思う。
だがまだ油断は出来ない。Bクラスには神崎くんと柴田君を入れた機動力を活かした大将騎、Cクラスには龍園君を騎手に置き下を腕っ節自慢で固めたパワータイプの大将騎が残っている。この2つを倒さない限りAD連合に勝機はない。
龍園君の考えも読みづらく不気味だ。
「須藤君、まずは周りの人たちから倒そう。龍園君は最後に」
「あぁ? まどろっこしいこと言ってんじゃねーよ! 狙うは大将首だろうが!」
須藤君がの言うこともわからないではないが、龍園君の前を阻む壁は厚い。
「ここで感情に流されたら彼の思う壺だよ。最後に勝つために必要なことをしよう」
「ちっ!」
俺達の前にCクラスの2組の騎馬が襲い掛かる。
「わーったよ、まずはこいつらを蹴散らせばいいんだろ!」
倒すには神経を集中させる必要がある相手だ。上手く平田君がコントロールしてくれた。
棒倒しでは圧倒的な力の前に敗れたが、今回は展開が違った。須藤君がBクラスとCクラス合わせて3つを崩し圧倒的な力の差を見せつけた。その勢いに乗るように、Aクラスの生徒は3騎失いながらも柴田君神崎君の騎馬を討ち取ることに成功する。残った敵は大将騎、龍園君のみ。一方でこちらは平田君と葛城君の2騎を生存させながらDクラスは他にも1つの騎馬を残す絶好の状況を作り出した。
「へへっ、3対1だぜ? この勝負は貰ったな!」
目配せした葛城君と平田君、騎馬2つが龍園君を包囲する。もう1騎も少し離れながら龍園君をターゲットに捉える。1つハチマキを奪っていることから龍園君騎馬の強さはある程度推し量れるが、それでも多勢に無勢だろう。
しかし龍園君は慌てない。動じない。むしろこの絶体絶命の状況を楽しんでいるようだった。 油断はないが負けもない。そんな空気が流れている。
2騎同時にかかれば、最悪1騎やられてもどちらかが龍園君のハチマキを奪える。それで勝ちは確定するだろう。 しかし、そんな状況だからこそ、龍園君は相手の心の隙を突いてくる。
「名前は覚えたぜ須藤。棒倒しでは苦しそうだったな」
「黙って待ってろや、今からぶっ倒してやるからよ」
「騎馬の足の分際で中々偉そうだな。馬を見下ろすのは中々気持ちがいいもんだ」
「へっ。馬の上に乗ってる方が偉いとは限らねーんだよ」
「へえ……だったらタイマンでもしなきゃ意味ねーな」
「はぁ?」
「いや、お前が2対1じゃなきゃ俺に勝てないって言うなら仕方ない。だが『勝ち』ってのは基本的にタイマンで勝ってこそ意味がある。挟み撃ちで勝って気取る気か?」
「んだと!」
「ダメだよ須藤君。彼の挑発に乗るのは得策じゃない。他の騎馬と協力しよう」
「……わかってるよ」
たまらず俺も口を挟むが、龍園君の口はまだ閉じない。
「わかってねーのはお前だ須藤。前にこいつらの面倒見てくれたようだが、その時も大方卑怯な手を使ったんだろ? 信頼する俺の仲間が正面からやられるわけないしな」
龍園君の身体を支える騎馬には須藤君と問題を起こした石崎君と小宮君がいる。
「ざけんな。喧嘩の弱いカスだぜそいつら」
「証拠もねーのに強気だなオイ。もしそうじゃねーってならタイマンで来いよ。それで俺を倒すことが出来たら土下座でも何でもしてやるよ」
「……決まりだ。今の言葉忘れんなよ龍園! 聞いたろ葛城、絶対手を出すなよ!」
「何を言っている、この機を逃すのは愚行だ。確実に挟み撃ちで倒すべきだろう」
「もし手を出しやがったら、お前の騎馬からぶっ倒すからな」
どうやら龍園君の挑発に完全に乗ってしまったらしい。既にタイマンする気満々のようだ。
「どうしても1対1をするんだね、須藤君……やるなら勝とう」
「! ちょっと待ってよ平田君! タイマンなんてダメだよ!」
「でも須藤君を止める方法がない以上、受け入れるしかないよ沢田君」
平田君はここで不用意に説得を続けても得じゃないと判断したのか、タイマンを肯定してしまう。
「当たり前だ。絶対にハチマキ取られんなよ平田! ツナも覚悟決めろ! 行くぞぉ!」
須藤君の強引な合図で騎馬は前へ。
突撃した須藤君の体当たりが決まる。だが相手の騎馬はそれに動じず踏ん張っている。パワーは互角のようだ。龍園君を守る騎馬の中心はアルベルト君だけど、押し返されないということはこっちも完全にパワーで負けているわけじゃない。
「面白ぇな。ほらほら来いよ」
平田君を挑発する龍園君だが、先に仕掛けることもなく手招きしている。龍園君はこれまでの試合、相手にも恵まれつつ個人競技は全て1位。つまり運動神経は悪くないということだ。
平田君が伸ばす手を上手く避けながら様子を見て来る。おそらく実力はほぼ互角。どちらが勝ってもおかしくない。
「まだかよ平田!」
1人で相手の騎馬から受ける攻撃の殆どを対処する須藤君から苦しい声が飛ぶ。
「もう少しっ!」
フェイントを織り交ぜながら伸ばす腕。その腕がついになびく龍園君のハチマキを掴んだ。ただし掴んだのは先の数センチ。
懸命に手元に引き寄せるが、奪うまでには至らなかったのか手をするりとハチマキが抜ける。
「何やってんだよ平田! 取れよ! こっちは相当体力使ってんだぞ!」
「ごめん……ちょっと手が滑って!」
息を荒くしながらも再度アタックを狙う須藤君。それを不敵に待ち構える龍園君。
すでに平田君の息は上がりはじめている。
「どうした? そんなもんか?」
「……ごめん須藤君、一度下がって!」
平田君の叫びに従い一度距離を取る。
膝が震えだしている須藤君は、息も絶え絶えに体勢を立て直した。
「次がラストだぞ平田。絶対に奪えよ!」
「……わかった。やってみるよ」
平田君も一度呼吸を落ち着け、龍園のハチマキを奪うことだけに集中する。
「食らえ!」
最後の力を振り絞って体当たりをかましたが、騎馬が倒れるには至らず。またも騎手同士の戦いへと突入する。
「——取った!」
ただ真っ直ぐ、堂々と伸ばした腕が再度ハチマキを握りこむことに成功したようだ。だが、再びその手からハチマキがするりと抜け出てしまった。
「なっ!?」
その動揺を見逃さなかった龍園君の手が、無防備な体勢になった平田君のハチマキを掴んだ。カウンターの形で握りこんだその手の位置はハチマキの奥深く。そして力強い。引き抜くと呆気ないほどあっさりとハチマキは頭から外れる。
「……」
「うわぁ!」
「平田君!」
負けたという事実に須藤君が膝から崩れ、平田君が騎馬から落ちてしまった。
高らかに掲げられる平田君のハチマキ。ただちに陣内から出るように審判から警告が下る。
「くそっ!」
荒ぶる須藤君が立ち上がりながら龍園君を睨みつける。でもジッとしているとどんな注意を受けるか分からない。須藤君の背中を押し外へ向かう。
残されたDA連合の2騎もその後、平田君と同じくハチマキを掴んだかと思えば取りきれないという似た展開を繰り広げた末にハチマキを奪い取られてしまった。
結果としては、龍園君が最後まで生き残ったことになる。試合終了の合図が鳴ると共に、自分のハチマキを外してそれを振り回し勝利をアピール。ああして徹底して挑発行為を繰り返すのも、彼の戦略なのだろうか。
「あいつにだけは負けたくなかったのによ! しっかりしろよ平田!」
龍園君にだけは負けられなかっただけに、須藤君のフラストレーションは本日最高レベル。 暴れだして場をめちゃくちゃにしてもおかしくない状況になりつつあった。
「ごめん須藤君。ハチマキが変に濡れてたせいで引っ張りきれなかったんだ。てっきり汗だと思っていたんだけど、ちょっと変な気がして……」
平田君はそう言って手を見せてきた。指先でそれに触れてみると、やや粘り気のある透明の液体が付着しているのが分かった。
「……汗じゃないよ。粘り気のある何かだ」
「ってことはあの野郎……!」
自らも指先で触れて確かめた須藤君は、龍園君の元へと詰め寄った。
「おい反則だろ龍園! ハチマキに何か塗り込みやがったな!」
「あ? 知らねーよ。もしそうだとしたら髪のワックスだろ。負け犬が吠えるなよ」
怒りをぶつける須藤君に対し、龍園君は悪びれる様子もなく堂々とハチマキをした際に髪の毛からワックスが付着したのだろうと言い切る。
勝利と共に振り回した影響か、地面で拭ってしまったのか、龍園君が手に持っていたハチマキはそれほど濡れておらず汚れているだけ。どうやらすでに証拠は消し去られてしまったようだ。
「須藤君、ここじゃ騒ぎになる。とりあえずテントに戻ろう」
露骨に審判がこちらを睨んでいるのが分かった。騒ぎになっても龍園君が塗りこんだ証拠は出てこないだろうし、事実髪のワックスを使ったんだろうと思われて終わるだろう。そうでなければリスクのある反則を繰り出すことはしないだろうから。
「わかってる! つかツナも戦犯だからな! もっとしっかり支えてろよ!」
「……ごめん、1番頑張ってくれてた君の助けになれなかった」
テントに戻ってからも須藤君は冷静さを取り戻す気配はなかった。
「マジでボコボコにしてやる、あの野郎!」
怒り治らぬ須藤君は、Cクラスのテントに向かって力強く歩きだしてしまう。
「須藤君の言いたいことは分かるよ。でも暴力を振るったらこっちの完敗になっちゃうよ!」
須藤君を止めるべく前に立ちふさがるが、須藤君は俺を力強く押しのける。
「うるせぇよ! ふざけてんのはあいつだろ! 反則ばっかりしやがって!」
「反則してるのは俺も同感だよ。だけどその証明ができないんだって!」
棒倒しの攻撃や、ワックスをつけていた騎馬戦も。証拠のない今では憶測の話としか学校側には受け取ってもらえないだろう。むしろ怒りに任せて詰め寄ってしまえば、あしらわれるどころか逆手に取られてしまうかもしれない。
「この体育祭じゃ俺がリーダーだ。従えよツナ、副リーダーのお前も一緒に龍園に詰め寄れ!」
「だからそれはダメなんだって! それが龍園君の、Cクラスの思惑なんだから!」
思わず語気を強めて必死に説得にかかるが、この説得が須藤君の怒りを倍増させてしまう。
「何を甘いこと言ってんだ! お前と堀北は龍園の野郎に直接狙われてんだろ! むしろ俺以上にお前が龍園にキレるべきだろうが!」
「俺だってキレてるよ! もちろん堀北さんのことは俺も許すつもりはない! でもその件を解決するのは今じゃないんだ!」
「バカが! やるなら今だろうが! 証拠がないなら後々にしたらもう龍園に報復できなくなるかもしれねぇし!」
「それはっ! ——それは、どうにかするさ!」
「何だそれ! それってお前には何も策がねぇってことだろ! だったら大人しくリーダーの意見に従えよ! 俺はクラスの為に必死になってんだ!」
後から解決する策がすぐには思いつかず、一瞬言い澱んでしまった。
そしてそれが、須藤君に俺を見限る隙を与えてしまったのだ。
再びCクラスのテントに向かおうとする須藤君。俺もすぐに進路を塞ぎに掛かるが——そのせいで事件が起きてしまった。
「待ってよ須藤君!」
「うるせぇ!」
——ブン!
——パシッ!
俺を押し退けようと、須藤君が腕を大きく振ってなぎ払おうとする。——俺は反射的に、それを軽く受け止めてしまった。
「……」
「……なんだよ、お前にも軽く受け止められちまうのかよ! 俺の拳はよぉ!」
「……須藤君?」
悲しそうな顔でそう叫ぶ須藤君。
その時俺は——。
もしかしたら彼は、この体育祭を自分がリーダーとして勝つことで、クラスの皆に信頼されたいと思っていた。
なのに全然勝てず、さらに龍園君の挑発に乗ってしまいクラスの雰囲気を悪くしてしまった。そんな自分に嫌気がさしていて、それが怒りとして溢れ出てしまっているのかもしれない。
——そう感じたのだ。
「何事だ?」
「!」
俺達の言い合いが大声だったからか、茶柱先生が様子を窺いにきたらしい。
須藤君の腕を俺が掴んでいるこの状態では、何もありませんというのは厳しいかもしれない。
「喧嘩か?」
理由を聞くこともなく事実だけを聞き出そうとする茶柱先生。溜飲の下がっていない須藤君は否定することもせず苛立ちながら答えた。
「……だったら何だってんだ」
肯定する須藤君に、俺が慌てて訂正する。
「違います先生、ちょっと言い合いになっただけです!」
「さっきの大声を聞くに、ただの言い合いとは思えんがな」
「本当です! お互いに強い思いがあったのでそれをぶつけ合っていただけです!」
「……」
少しだけ間をあけた茶柱先生だったが、すぐにジャッジを下す。
「そうか。まぁ被害者がいないというなら問題はない。だが客観的に見てお前達の間に何らかのトラブルがあった可能性がある。今は互いに距離を取れ。それから上の方に報告だけは上げておく。再発防止のためだ」
「……分かりました」
これ以上問題を大きくするわけにはいかないので、仕方なく須藤君の視界から外れるように距離をおいた。
対する須藤君は怒りを抑えきれないのか、傍のパイプ椅子を思い切り蹴り飛ばした。しかし茶柱先生監視の下では、Cクラスに殴りこむことも出来ない。
「……やってられっか。勝手に負けてろよ雑魚ども。体育祭なんてクソ食らえだ」
一瞬須藤君は一部始終を見ていた堀北さんを見たが、視線を逸らされてしまう。 そして彼はテントを離れて寮の方へ向かって歩き出してしまった。
リーダー不在となったDクラス内は、雰囲気がさらに悪くなった気もする。
「大変なことになったな、沢田」
「……はい。でも、まだ諦めてはいませんから」
高円寺君は体調不良で欠場。そして今度は須藤君が去ってしまった。
劣勢だったDクラスだが、ほぼ窮地に立たされてしまったようなものだ。
——だが、まだ活路はある。
この後発表される途中経過次第だが、まだ逆転のチャンスはあるはずだ。
読んでいただきありがとうございます♪
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