ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 体育館 ——
「……あ、いたよ堀北さん」
「ええ、あなたの言う通りだったわね」
予想通り、須藤君は体育館で1人バスケットボールを触っていた。
バスケ大好きの彼のことだ。気持ちを落ち着けるために好きなことをしようとすると思ったのは正しかったらしい。
——トントン……パシュ。
——バゴーン!
「ちっ!」
どうやら気持ちが不安定なせいで手元が狂い、全然シュートが入っていないようだ。しかもそのせいでさらにイライラが募るという悪循環。
「あーくそっ! イライラするぜっ!」
イライラが溜まりきったのか、須藤君は持っていたバスケットボールを壁に向かって強く投げた。
ぶつかって跳ね返ったボールは、体育館のツルツルした床を転がり、俺の足元までやってくる。
そのボールを拾いあげると、須藤君が俺達がいることに気づいた。
「っ、ツナに堀北じゃねぇか」
「うん、君ならここにいると思ったんだ」
そう言いつつ、須藤君にボールを投げ返す。
綺麗にキャッチした彼は、ボールを抱えたまま俺達に背を向けてしまう。
「……何しに来たんだよ」
「俺? 堀北さんをここまでエスコートしてきたんだ」
「は? ……なんだよ、連れ戻しにきたんじゃねぇのか」
少し寂しそうにそう言う須藤君。心のどこかで、誰かに来て欲しかったのだろう。
「安心して、君は自分からグラウンドに戻るだろうから」
「……意味わからんことを言うな。俺は戻らねぇぞ」
「そうだよね。でも残念だけど、俺には君を連れ戻すことはできない」
「……はっ、ならとっとと出ていけや。俺は1人でいたいんだよ」
もう話すことはないと言いたげに、須藤君は俺達から距離を取ろうとする。しかし、そうさせるわけにはいかないのだ。
——さぁ、君の出番だよパートナー。
「君を連れ戻すのは俺じゃない。それができるのは堀北さんだからね」
「!」
俺の言葉に須藤君が足を止める。
「堀北が?」
「そう! 今から彼女には、君を説得してもらう」
「……はっ、誰が来ても同じだ。俺は戻らねぇ」
「いいや。君は堀北さんと一緒にグラウンドに戻る。俺はそう信じてる」
「っ……」
そう告げ、俺は須藤君に背を向ける。
「ごめんね、俺は今からやらないといけないことがあるんだ」
「……そうかよ」
「ああ。午後の部の全競技でDクラスが1位を取る為にね」
「——は? お前、まだ勝てると思ってんのかよ」
俺の言葉に呆れたのか、須藤君は信じられないと言ったら声色でそう聞いてきた。
「うん、勝てるさ。俺と君、親友コンビがグラウンドに揃えばね」
「っ、ツナ……」
「その為に、しばらく俺は別行動なんだ。君を呼び戻すのは、堀北さんに任せる。……じゃあ堀北さん。あとはお願い」
「……ええ、わかったわ」
須藤君のことは堀北さんに任せ、俺はもうひとつのピースを集める為に、体育館から走り去ったのだった。
—— side堀北鈴音 ——
「須藤君。お願い、グラウンドに戻って」
沢田君がいなくなり、須藤君と2人だけになった私。
最初に口に出たのは、ありきたりな説得セリフだった。
「……だから、俺は戻らねえって言ってんだろうが」
そんな言葉に返されるのは、こちらもまたありきたりな拒否のセリフだけだった。沢田君ならもっと、気の利いたセリフを言えるのだろう。でも今だに円滑なコミュニケーションが不得意な私には、これが精一杯だった。
「お願い。あなたが抜けてしまったら、Dクラスに勝ち目はなくなるわ」
「だろうな。現にヤバイんじゃねえの?」
「ええ。現時点で最下位であることは推測できるし、沢田君も言っていたけど、ここから逆転するとなると推薦競技で1位を取り続ける必要がある。それでもトップに立つことはほぼ不可能よ」
「はっ、どうせトップになれねぇんなら、やっぱり戻る意味はねぇな」
——不可能。今のDクラスの現状を見たら、誰もがそう判断して当然だ。私も正直、午前の部が終わった時にはそう思っていた。
だけど彼は……沢田君は、私のパートナーは。
全く諦める様子もなく、ここから大逆転する為に必要なアクションをすぐに起こしたのだ。絶対逆転できる、赤組もDクラスも勝てる、そうまっすぐに信じて。
そして彼は、勝つ為に必要なピースを集めるために、私の力が必要だと言ってくれた。パートナーである私の力が必要だと言ってくれたのだ。
兄さん以外で、初めて心の底から信用した人。それが私のパートナー、沢田綱吉君だ。
そんな彼が、私を信じて須藤君の説得をまかせてくれたのだ。だから、私は必ず須藤君を説得してグラウンドに一緒に戻るの。
私の言葉だけでは不可能なら、彼の言葉も借りればいいのだ。
「俺が引っ張ってやってたのによ。クラスの奴らは不甲斐ねぇ結果ばかりだしやがるし、ツナは日和って龍園の野郎から逃げようとしやがる」
「……沢田君の行動は間違っていないわ。万が一にでも龍園君に手を上げていれば、あなたは体育祭そのものを失格になっていたかも」
「そうだとしても、やられっぱなしじゃ我慢ならねーんだよ。あいつがやったことは反則なんだ」
「……あなたの怒りもわかるわ。体育祭に対して真剣に取り組んでくれたものね」
須藤君はリーダーとしてしっかりやってくれていた。それは近くで見ていたからよく分かる。だからこそ、その成果が龍園君達の妨害で日の目を浴びないのが我慢ならないのだろう。
……だけど、それだけであそこまで怒り狂うだろうか。ふいに沸いた疑問を、私は須藤君にぶつけてみた。
「ねぇ。どうして体育祭のリーダーを引き受けたの?」
「は?」
「感に触ったら悪いと思うわ。だけど、あなたはそういうタイプに見えなかったから」
正直な疑問だった。入学当初の彼は、私と同じで周囲との関わりを自分から排除しようとしていた。そして私と違ってクラスを押し上げたいわけでもないだろうし、リーダーを引き受ける理由がわからないのだ。
親友の沢田君に頼まれたとはいえ、そう簡単に受け入れられることではないだろう。
「元々個人戦が得意でしょうし、集団行動も苦手そう。なのに、どうしてクラスを引っ張るリーダーを引き受けたの? あなたが憤慨していたのは、そのことも関係しているのではなくて?」
「……」
答えはもらえないかと思ったけれど、少しの間を置いて、須藤君はゆっくりと話始めた。
「俺がリーダーを引き受けた理由はよ、運動が出来りゃそれで体育祭は楽勝だと思ったからだ。事実俺は他のクラスの連中にも負けてなかった。改めて個人戦なら誰にも負けねえ自信がついたぜ。でもな、団体戦となると個人ではどうしょうもねぇ。棒倒しも騎馬戦も、使えねー連中のせいで負けた。それも我慢なんねーのさ」
愚痴りたくなる状況だったのは分かる。須藤君は確かに学年でもずば抜けた運動神経をしている。でも周囲はその須藤くんに合わせられるほどの実力者ではない。 それができるのは沢田君くらいだろう。
「あなたが得意分野で負けず嫌いなことは見ていれば分かるわ。でもそれだけ?」
運動で誰にも負けたくないだけなら、リーダーを引き受ける必要はなかった。団体戦で苦戦することは須藤君にも見えていたはず。つまり別の理由も必ず潜んでいる。 少しだけ考えるように首を捻った須藤君だったけれど、すぐに答えが返って来る。
「……多分ツナみてぇに、俺も注目を浴びて尊敬っつーの? そんなものを集めてみたかったって気持ちがあったかもな。今まで俺をバカにしてた連中を見返したかったし、親友のツナと同レベルになりたいと思っちまったんだよ……ダセェな」
冷静になったことで自分の欲望と、そしてそれを遂行できず投げ出してしまった現実に気がつき真っ赤に染まる髪の毛を強く掻き毟った。
「クラスの奴らも俺に呆れただろうし、これで俺も完全に孤立か。まぁいいさ、どうせ入学時と同じとこに戻るだけだしな」
「……いいえ、そんなことには絶対にならないわ」
「は?」
自分のぼやきを私が即答で否定したことに、須藤君はぽかんとした表情になる。
「だって、あなたには〝親友〟がいるじゃない」
「っ、ツナ……」
「そう。あなたには沢田君がいる。だから孤独になることなんて絶対にない。それは須藤君、あなたにもわかるでしょう?」
「……」
返事はないが、表情から沢田君のことを考えているのはわかる。彼のことを考えれば、そんなことをする人じゃないことはすぐにわかるのだ。
「……でもよ。俺はそんな親友に暴言を吐いちまって、逃げちまったんだぜ。さすがのツナも呆れちまってんだろ」
「……」
悲しそうにそう呟く須藤君。休憩前の事件を気にしているのだろう。
そして、そんな彼の気持ちが、私には手に取るようにわかってしまう。
それはきっと、須藤君は私と似ている部分があるからだろう。
「……不思議なものね。私とあなたって、タイプは違うけど根本的な部分では似ているわ」
「あ? なんだよそれ」
「誰かに尊敬されたいと思う気持ち。誰かに認めてほしいという気持ち。私にもあるから」
兄さんに認めてもらうため、1人で努力を続けてきた私。
自分の力を周囲に認めさせるため、1人で努力を続けてきた須藤君。
ようやく近づけたと思ったら、自分を否定されて拒絶されてしまった私。
やっとチャンスが訪れたと思ったら、上手くいかずに周りにも拒絶されてしまった須藤君。
細かい部分では違っても、深い所ではよく似ている。それが私と須藤君なのだ。
そして今の須藤君は……兄さんに否定された時の私と同じ状況に立っているのだろう。
私はその時に沢田君の言ってもらえた言葉に救われて、今日ここまで歩んでこれたと思っている。
沢田君は私を卑下することもなく、何の根拠もないのに私の可能性をただ信じてくれて、一緒に同じ頂を目指そうと言って手を伸ばしてくれた。
彼は私が変われると信じてくれて、その後もずっと信じ続けてくれた。
『自分を信じてくれる人がいる』。それだけでどれだけ心強いか。
それだけでどれだけ安心できるのか。
私はそれを、身を以て知っている。
沢田君が教えてくれた1番大事なこと——それは『信じる』こと。
自分が信じ続けるから、相手も自分を信じてくれるんだということ。
根拠なんかいらない、自分が相手を信じたいと思うから信じるんだということ。
そして相手を信じるということは、自分のことも信じることでもあるということ。
私はそう言ってくれた沢田君に救われ、少しづつだけれど、他人も自分のことも信じてみようと思えている。
——私が今ここにいるのは、私のパートナーが、私なら須藤君を説得できると信じてくれているからだ。
……その信頼に応えるため、私は自分のことを信じよう。
私なら必ず、須藤君が言って欲しい言葉を紡ぐことができるのだと。
沢田君のような人間に、私もいつかなりたいから。
「……須藤君。少し私の話を聞いてくれるかしら」
「あ? なんだよ急に」
まず、私の事を彼に知ってもらおう。あの時、自分はダメダメな人間だったと素直に告白した沢田君のように。
「知ってると思うけど、この学校の生徒会長は私の兄なの。そして私がこの学校に入った理由は、成長した自分を兄に見せて、認めて欲しかったから」
「っ、そのためにこの学校に入ったのか?」
「ええ。皆のように、将来なりたいものとかやりたいことがあるわけじゃない。兄さんがこの学校にいるから、同じ学校に行きたかったから、ただそれだけ」
「……」
なんとしょうも無い理由なのか。そう思う人が大半だろう。ただ、私にはとってはそれが全てで、それは今も変わっていない。
少し変化があったとすれば、この目的は1人ではなく、パートナーと一緒に達成したいと思っていることだ。
兄さんの在学中には間に合わなくとも、私は沢田君と一緒に必ずAクラスに上がって卒業する。そして自信で満ち溢れた私の姿を兄に見せて、この目標にけじめをつけるんだ。
「……」
「ふふっ、しょうもないと思ったんでしょう?」
「……いや」
「え?」
「自分の目標のために、そこまで行動できるお前はすげぇよ」
「……ありがとう」
笑うこともなく、そう言ってくれた須藤君に、私は素直に嬉しいと思った。
「でも、現実はそう甘くなかった。入学してすぐ、兄さんに会いにいったわ。兄さんが入学してからの2年間で、私がどれだけ成長したのかを見てもらうためにね。……だけど兄さんは、私は何も変わっていない、今だに勘違いしていると言ってきた」
「……そんなこと言われたのに、まだ諦めてないのか?」
もちろん諦めない。だって、この目標はすでに私だけのものじゃない。私達の目標になっているのだから。
「ええ。もちろん。だっておかげで気がついたのよ。私は優秀なんかじゃない。この学校に入学してからも何ひとつ満足な結果を残せていない。そんな私を兄さんが認めてくれるわけがないわ。私がAクラスを目指すのは兄さんに認めてもらうため。それは変わらない。だけどそのための手段は間違っていることに気づいたの。1人じゃない。仲間を持つことで初めて、その頂に近づくことが出来るかもしれないと」
「まじで諦めないのかよ」
「あなたと私に違う点があるとするならその部分ね。私は絶対に諦めない。兄さんに認めてもらうために、恥ずかしくない人間になるために努力する」
「苦しいぜ、その道ってヤツはよ……」
「そうね。でもかまわないわ。だってこれは、私が望んでやっていることだもの。兄さんに認めて欲しいのは本当だけど、それは兄さんのためにじゃない。私がそう望んだからよ」
「……堀北、お前は強ぇな」
嘘偽りない私の本音。それで紡いだ私の言葉は、彼の心にも何かしらの影響を及ぼしたらしい。
「いいえ、私が強いわけじゃないわ。私には何があっても自分を信じ続けてくれて、目標に向けて一緒に歩んでくれる。そんなパートナーがいるから。その分、勇気が上乗せされているだけよ」
「そうか。……いいな、そういう仲間がいるってのはよ」
須藤君は、寂しそうな目をしてそう呟く。
「あなたにも、信じ続けてくれる仲間はいるはずよ」
「いや、いねぇよ」
「なら聞くわ。あなたが赤点を取って退学になりそうになった時、真っ先に助けようとしたのは誰?」
「……それは」
「Cクラスに訴えられた時、クラスの誰もがあなたを疑って責めていた時、ただ1人だけあなたの無罪を信じ続けてくれて、なんとかしようと行動してくれたのは誰?」
「……ツナ、だな」
「ええ。そうよ、あなたにも沢田君という親友がいるの」
沢田君は私のパートナーなだけじゃない。他のクラスメイト達にとっての何者かでもあると思った。だからこそ、彼はあそこまで信頼を集めているのだから。
「あなたの親友は、今でも信じているわ。あなたと自分が力を合わせれば、必ず赤組もDクラスも勝てると」
「……」
「あなたの親友は、確信しているわ。あなたは必ず戻ってきてくれると」
「……ツナ」
「そして、あなたを信じているのは、沢田君だけじゃない。私もよ」
「っ!」
須藤君は目を見開いて、私を見つめる。
沢田君以外に仲間はいないと思っていたのだろう。
私も須藤君を、ただ信じてみよう。
かつての自分が、沢田君にそうしてもらえたように。
「今からAクラスで卒業するその瞬間まで、私は何があってもあなたのことを信じ続けるわ。もしもあなたがまた道を踏み外しそうになったなら、その時は私が連れ戻す。だから卒業するまでの間、あなたの力を私に貸して。私もあなたに全力で力を貸すことを約束するから」
目を見つめた。逸らさないように見た。私の決意を受け止めてもらいたかったから。
「さっきまで、全然そうでもなかったはずなのによ……なんで今のお前の言葉はそんなに重いんだろうな」
「きっとあなたもわかってきたのよ。自分を信じてくれる人の存在が、どれだけ心強いのかをね」
まだ、大手を振ってそんなことを人には言えない。だけど似た存在の彼なら、素直に言えた。
「もう一度言うわ、須藤健君。私にあなたの力を貸して」
「堀北……」
「そして、午後の部で全校生徒に知らしめてやりましょう。須藤健はすごい男だということを!」
「……っ!」
須藤君は両手で力強く握りこぶしを作ると、2つの拳を自分の額に叩きつけた。
「あー……んだよこの感じ。よくわかんねぇけど、目が覚めた気がする……」
そう言って、私に一歩詰め寄る。
「協力するぜ堀北。俺は……俺はバスケとツナ以外で初めて自分の存在意義を認められた気がする。だから、お前のその気持ちとツナからの信頼に答えたい!」
——その言葉に、私は自然と笑みが溢れ出たのが分かった。
初めて訪れる感情。 この胸の高鳴りはなんだろう。友情とか恋とか、そういう類じゃないことだけはわかる。
そんなものとは別の……そう、恥ずかしい言葉で言うなら、初めて自分から仲間という存在を作ったのだ。
それは沢田君とも綾小路君とも兄さんとも違う、これまでの私に足りなかったもの。
きっとそれはまだまだ無数にあるだろう。
けど、小さい最初の一歩を踏み出せたんじゃないだろうか。
(——沢田君、私の方のピースは集まったわよ)
読んでいただきありがとうございます♪
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