ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
堀北が須藤を説得している頃。
ツナは1人、体育館裏にいた。
その理由はもちろん、Dクラスと赤組が勝つために必要なピースのひとつを集めるためだった。
—— 体育館裏 ——
体育館裏の一角で、ツナは目を閉じて集中していた。
(……体内の生体エネルギーを、死ぬ気の炎エネルギーに変換。そして生まれたエネルギーを全身に巡らせれば——)
——カッ!
勢いよく目を見開いたツナ。
だが、思考も感覚もニュートラルな自分と何も変わっていなかった。
「……くそっ! どうして死ぬ気になれないんだ!」
上手くいかないことに苛立ち、ツナは拳を強く握って地面を踏み締めた。
ツナがここに来てから、すでに20分以上が経過している。午後の部がスタートするまで、もう15分もないのだ。
(午後の部が始まるまでに、死ぬ気になって戻らないといけないのに!)
——そんな焦るツナの様子を、校舎の屋上から観察している者がいた。
「……バカツナが。精神を乱したら、余計に死ぬ気になれねぇだろうが」
ツナの家庭教師のリボーンだ。
——ガチャ
「!」
突然、リボーンの背後にある屋上の扉が開かれる。そして、校舎内からジャージ姿の少女が2人現れる。
「ひよりとユニじゃねぇか。ツナの様子でも見にきたのか?」
「ええ、リボーンおじさま」
「近くで見ていては、彼の集中を阻害してしまうと思いましてね」
その少女とは、大空のアルコバレーノであるユニ——が、変装した姿。Aクラスの山村美紀。そして、Cクラスの生徒であり、チェッカーフェイスの実の娘である椎名ひよりだった。
ひよりとユニはリボーンの両サイドに立ち、ツナの様子を見る。
「……上手くいっていないのでしょうか」
自分のルーツを知ったとはいえ、ひよりはまだ死ぬ気状態に対する知識は浅い。ツナの状態は、ユニとリボーンに確認しないとわからないようだ。
「ああ。今の状態じゃいつまで経っても死ぬ気にはなれねぇだろうな」
「そうですね」
「ユニから見て、今のツナはどうだ?」
「……やろうとしていることは間違えていないと思います。問題はやはり、精神状態ですね」
ユニとリボーンは、死ぬ気になれないツナの問題点に気づいている様子。
「……ちょっと行ってきます」
「え、ユニさん?」
突然後ろに振り返ったユニは、そのまま扉を通って校舎内へと戻ってしまう。
「ユニさん、どこにいったのでしょうか」
「ツナのとこだろうな。少ししたら出てくるだろ」
リボーンの言った通りに、少しするとユニが体育館裏に現れた。
「あ、ユニさん出てきました」
2人が見守る中、山村(ユニ)はツナのすぐ背後まで近寄る。そして、全然気付いていない様子のツナに声をかけた。
「……沢田さん」
「っ!? ——あ、えっ? 誰?」
「Aクラスの、山村美紀です」
山村のことを知らないツナに、ユニは自分の仮名を教えた。
ユニが山村美紀として学校に潜入できるのは、霧の匣兵器による擬態のおかげだ。普段のツナなら山村美紀と相対したら違和感を覚えるはずだが、焦りによって超直感がうまく働かないのか、気付いていなかった。
「あ、あのー、山村さん? 何か用なの?」
「ええ、ちょっとお話があって」
「は、話?」
時間がないので、ツナは早く山村(ユニ)に立ち去ってほしかったが、話があると言われてあからさまに焦っている。
「あの、ごめん。ちょっと今は忙しいからまた後で——」
なんとか1人になろうと、ツナは山村から離れる口実を作ろうとするが……山村の次の一言ですぐに足を止める。
「——今のままでは、午後の部が始まるまでに、死ぬ気状態にはなれませんよ」
「なっ!?」
見知らぬ同級生から出た、「死ぬ気状態」という単語。それは、マフィア関係者でないと知るはずのない単語だ。
「い、今なんて?」
「今のままでは死ぬ気状態にはなれません、と言いました」
「……どうしてそのことを」
なぜこの同級生が知っているのか。じっと山村の顔を見て警戒するツナ。そんなツナに答えを教えるべく、ユニはジャージのポケットから藍色の匣を取り出して見せる。
「っ! 霧の匣!?」
「はい、その通りです」
真顔で肯定した山村は、人差し指に小さなオレンジ色の炎を灯した。
「それは……大空の炎?」
「ふふっ」
——カシュッ!
山村は指に灯った炎を匣の窪みに注入する。すると、匣の中央部が開き、藍色の霧が中から吹き出して山村の体を包み込む。やがて霧が消えると、そこには山村より少し体が少し小さく、左目の下に花弁の模様が浮かんだ可愛らしい少女が立っていた。
「ゆ、ユニ!」
「はいっ、お久しぶりですね沢田さん」
驚きに目を見開くツナに、ニッコリと笑いかけるユニ。
「ほ、本当にユニもこの学校にいたんだ」
「ええ。その理由はひよりさんに聞いていましたよね」
「う、うん。ひよりちゃんのやりたいことに、ユニも賛同したからだよね」
「そうです。まぁもう1つ理由もあるのですが」
「え?」
「——まぁ今は関係ないですね。まずは、今の状況をどうにかしないと」
そう言うと、ユニはツナに一歩詰め寄る。
「沢田さん、どうして死ぬ気になろうとしているのですか?」
「えっ、それは……勝つためさ」
「勝つため、ですか。それは何において?」
「何って、体育祭においてに決まってるじゃないか。俺達赤組としても、Dクラスとしても」
「ふむ……では沢田さん。あなたが死ぬ気になれば、赤組もDクラスも勝てるんですか?」
「っ、それは……きっと勝てるし、むしろ俺が死ぬ気にならないと勝てないんだよ」
「どうして?」
ユニはツナの心の内を吐露させるように、質問を繰り返している。捉らえようによっては責め立てているようなその聞き方に、ツナも思わず語気が強くなる。
「どうしてって……だって今の状況から逆転勝利するには、残りの競技全てでDクラスが勝たないといけないんだぞ! それはある意味奇跡を起こすようなもので、その為には死ぬ気になる以外には——」
「そう、そこです。沢田さんが死ぬ気になれない理由は」
「——えっ?」
ツナは何を言われたのか分からず、固まってしまう。
そんなツナに向けて、ユニはやわらかく微笑んだ。
「沢田さん。今のあなたは〝自分がやらないといけない〟、〝自分じゃなきゃできない〟みたいに自分に乗っかっている責任に追い詰められています」
「……」
「確かに、ここからDクラスが逆転するのは奇跡を起こすようなものでしょう。……でも、私は沢田さんならできると思っています」
「っ!」
「だって私は……2回も沢田さんの起こした奇跡に救われていますからね」
「え、奇跡を起こした? 俺が? 2回も?」
「はい、そうです」
ユニは大きく頷き、指を1本だけ立てて、顔の前に持って行く。
「沢田さんが起こしてくれた1つ目の奇跡——それは、未来で白蘭を倒してくれたことです」
「……あの時か」
「はい。白蘭と真6弔花との戦い、その最終決戦の時です。1対1で白蘭とぶつかった沢田さんは、1度は白蘭に及ばず、死ぬ気状態も解けて絶体絶命の状態でした。ですがそこで、沢田さんは自分の力は仲間との絆から生まれるものだと気づき、再度死ぬ気状態に達しました」
「っ!」
ユニの言葉でその時のことを思い出したのか、ツナはハッとした表情になる。その表情を見て、ユニは笑った。
「気づきましたか? そうです、沢田さんはすでに一度、自力で死ぬ気状態になっているんです」
「ああ……でも、結局君を守る約束は守れなかったよね」
「いいんです」
悲しげなツナに首を横に振り、ユニはにっこりと笑った。
「私は沢田さんを信じ、沢田さんに託した。そのおかげで今、私はこの時代で生きている。沢田さんは見事に白蘭を倒し、私達はもちろん、世界まで救ってくれたんです」
「世界を救ったなんて……大袈裟だよ」
「ふふっ、これが沢田さんが起こしてくれた奇跡の1つ目です」
続いて、ユニはもう1本指を立てる。
「そして、沢田さんが起こしてくれた奇跡2つ目——それは虹の代理戦争の時です。あなたは、アルコバレーノ諸共チェッカーフェイスを消そうとしていたバミューダ達復讐者と戦い、勝ってくれた。そしてそれだけでなく、おしゃぶりに永遠に炎を灯し続ける方法まで見つけてくれて、私達現アルコバレーノを虹の呪いからも救ってくれた」
「……」
「さて、ここで2つの奇跡を振り返ってみましょう」
ユニは立てていた指の一方をもう片方の手で隠した。
「最初の奇跡。あの時、再度死ぬ気になった沢田さんですが、何を考えていましたか?」
「……あの時は、とにかくユニを助けたかったんだ。皆のおかげで手に入れた炎で、白蘭を倒したかった」
ツナの答えに頷くと、ユニは隠していた方の指を再び見せた。
「では、2度目の奇跡です。バミューダを倒した時の事は覚えていますね?」
「うん。あの時は、死ぬ気の到達点に達したことでなんとか勝てたんだよ」
「では、死ぬ気の到達点に到達できた理由は?」
「……ごめん、それは正直覚えていないんだ」
「あの時はハイパー状態で死ぬ気弾を受けた、というきっかけもありましたからね。覚えていなくても仕方ないです……ですが沢田さん」
「?」
もう一歩ツナに近づいたユニは、ツナの目を真っ直ぐに見つめる。
「——ユニ?」
「私、リボーンおじさまに聞いたことがあります。本当の死ぬ気とは、どういうものなのかを」
「えっ」
「本当の死ぬ気とは……迷わないこと、悔いないこと、そして自分を信じること。そうおじさまは言っていました」
「リボーンが……」
「はい。つまり自分を犠牲にしてでも成し遂げたいというという覚悟。そしてそれができるという自分を信じる意思を持った時、初めて人は死ぬ気になれるということなのでしょう」
「覚悟、か」
「そして、あの時の沢田さんはこう言っていました。『俺の死ぬ気は希望から生まれる』、と」
「希望……」
「私もそう思います。沢田さんの死ぬ気は希望から生まれている、だから沢田さんは周りに希望を与えるのだと。そして私は思ったんです。沢田さんにとっての希望とは、『大切な人達を守るために戦う意思』。そして『その先にある皆で笑い合える未来』なのではないか、と」
「っ!」
再び目を見開いたツナ。どうやら何かに気付いたようだ。
「おそらく、沢田さんが死ぬ気になる為の条件は至ってシンプルだということでしょう。それは……ふふっ、もうわかりますね?」
(……こくっ)
無言で頷き、ツナはその答えを口にする。
「……大事な人達を、自分が死んでも守り切るという覚悟。そして、その先の未来への希望を持つことだ」
「はいっ。私もそう思います!」
ユニはそう言って大きく頷くと、ツナの背後に周って背中に優しく手を添えた。
「さぁ沢田さん。理解したのなら、さっさと成功させてしまいましょう。グラウンドでクラスメイトが……大切な人達があなたを待っていますよ」
「——ああ!」
ツナは目を閉じて、再度全身に意識を集中させる。
(……全身を巡る生体エネルギを、死ぬ気の炎エネルギーに変換。そして生まれたエネルギーを全身に巡らせる——)
先程とは違い、頭の中では今日まで共に頑張ってきたクラスメイト達、そして親友に相棒にパートナーの顔が浮かんでくる。
全身に変換された死ぬ気の炎エネルギーが回りきった時。ツナは自らに覚悟を示す。
(皆を龍園君の悪意から守りたい。そして皆で一緒に——勝ちたいんだ!)
——ボウウゥ!
「! さすがです、沢田さん」
ツナの額に、大空の死ぬ気の炎が灯った。
無事に自力で死ぬ気状態になることに成功したようだ。
「……」
「……」
——ボッ、ボッ、ボウっ!
ツナは死ぬ気状態になってもなお、目を開けようとはしなかった。
そして、なぜか額の炎が明滅を始めたのだ。
その様子を見たユニは、何も言う事なくツナに背を向けて歩き始める。
——が。
「待ってくれ、ユニ」
「!」
目を閉じたまま、振り返ることもしないツナに声をかけられて立ち止まる。
「……ユニ、ありがとう」
「……ふふっ、お礼は全部終わった後にしてください。今はまだ集中が必要でしょう?」
「……そうだな」
再び口を閉じて、額の炎を明滅させるツナ。その姿を確認し、ユニは再び歩き始める。そして、リボーンとひよりの待つ屋上へと戻っていった。
—— 屋上 ——
「ユニ、上手く行ったようだな」
「ええ、リボーンおじさま」
「おつかれさまでした、ユニさん」
「ふふっ、まだ終わってないですよ。ひよりさん」
リボーン達のいる所に向かい、ユニも一緒にツナのことを見守り始める。
——ボッ、ボッ、ボウっ!
『……』
まだ明滅を続けるツナの炎。リボーンとユニはその様子を無言で見続けるが、ひよりが口を開いた。
「あの、ツナ君は今何をしているのでしょうか」
「ひよりはまだ知らなかったな。ツナは今、死ぬ気の臨界点を探っているんだぞ」
「……臨界点?」
首を傾げるひよりに、リボーンは説明を始める。
「ひよりは、臨界点という言葉を知っているか?」
「えっと……液体がその状態を維持できる限界点、ですよね」
ひよりの答えにリボーンは肯く。
「簡単に言えばそうだな。じゃあ、ツナの死ぬ気状態とはどんな状態なのかは分かるか?」
「ええっと……」
「生命体が持つ生体エネルギー。それが宿主の覚悟によって死ぬ気の炎エネルギーへと変換されて、体内を駆け巡っている状態です。その影響で、肉体のリミッターが解除されて潜在能力を引き出してくれます。あの額の炎は、死ぬ気状態では体内の生体エネルギーが勝手に炎エネルギーに変換されていくので、体内に収まりきらないエネルギーが炎として噴出してしまうのですよ」
死ぬ気についてまだ詳しくないひよりに代わり、ユニが答えてくれた。
ひよりはふむふむと相槌を打っている。そして、死ぬ気の臨界点の意味を悟ったのか、ポンっと手を合わせた。
「なるほど。つまり死ぬ気の臨界点とは、体内に死ぬ気の炎エネルギーを押さえ込んでおける限界値ってことですね」
「正解だぞ」
「……でも、どうしてそんなことするんです?」
「死ぬ気の炎は、ボンゴレやその傘下ファミリー、そして7³の存在を知る者しか知らない極秘事項だからな。一般人に額の炎を見られるわけにはいかないんだ」
「……そういうことでしたか」
腑に落ちたのか、何度か頷くひより。
「死ぬ気の炎が額から噴出しない状態。俺とツナはその状態を激死ぬ気モードと呼んでいる。その状態では、MAXの死ぬ気状態である超死ぬ気モードの約半分くらいの死ぬ気レベルだがな』
「それでも、表社会の学校においては充分すぎますけどね」
「へ〜。……あっ、でも」
何かに気付いたひよりは、すかさず2人に質問を投げかける。
「あの、常に死ぬ気の炎エネルギーが生まれ続けるなら、どうしたって溢れちゃいませんか?」
「普通にしてたらな。だからこそ、ああやって炎を明滅させているんだ」
「?」
ひよりは首を傾げながら明滅するツナの炎に視線を向ける。
「あれが、必要なことなのですか?」
「そうだ。あれは死ぬ気におけるプラスの境地とマイナスの境地を行き来しているんだ」
「プラス? マイナス?」
「死ぬ気度合いを図る為の、縦軸のみの表があると考えてくれ。普段のツナは表の中心、ニュートラルな零地点にいる。そして死ぬ気状態になるとその上の境地、プラス地点に移動するわけだ」
「マイナス地点に行くと、どうなるのです?」
「死ぬ気状態の真逆になる。つまり零地点より下のマイナス地点では、普段のツナよりも死ぬ気の炎エネルギーが少なくなっていると思ってくれればいい。そしてその境地では、体内にあるはずの炎エネルギーが勝手に減っていってしまうんだ」
「あ、なるほど」
ひよりはリボーンの言わんとすることがわかったようだ。
「つまり、死ぬ気の炎が生まれ続けるプラス状態から、一時的にマイナス状態になることで体内の制御しきれない死ぬ気の炎エネルギーを減らそうとしているんですね」
「正解です、ひよりちゃん」
「ありがとうございます。……でも、それを意識的に続けるというのはとても大変ですよね。今回の体育祭のように、体を動かしながらだと尚更です」
「そうですね。でも、沢田さんならできると思いますよ」
「えっ……あ、未来で見えたことがあるんですね?」
「ふふ、はいっ」
そう言って年相応に笑うユニと笑い返すひより。
やはり同年代の友達がいるってのはいいもんだ、とリボーンは心の中で笑った。
「俺もできると思うぞ。ボンゴレⅩ世、沢田綱吉にもついにこの時がきたんだ」
「この時、ですか?」
「ああ。初代ボンゴレがマイナスの境地で『死ぬ気の零地点突破』を編み出したように、ツナはその全てを網羅する新しい技を生み出すんだ。……その名も」
——カッ!
『!』
リボーンがツナが到達した新境地の名を口にしようとしたその時、ツナの目がカッと見開かれた。
「ツナ君、目を開けましたね」
「ああ。額に炎は……灯ってねぇな」
「ええ。でも見てください。沢田さんのあの目を」
ユニが指差したその先には、リボーンとユニが何度も見てきた、ツナが死ぬ気の時にだけ見せる凛とした瞳があった。
「……」
「!」
突然、ツナがリボーン達のいる屋上へと視線を向ける。そして、3人に向かって無言で頷いた。
「……ツナ君、笑っているようです」
「ふふ、無事に成功したみたいですね。リボーンおじさま」
「……だな」
ひよりとユニのその言葉に、リボーンは帽子を深く被り表情が見えないように隠した。
「よくやったぞツナ。〝死ぬ気の臨界点突破〟、無事に成功だ!」
読んでいただきありがとうございます♪
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