ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 午後の部直前 ——
(……なんとか間に合ったな)
無事に死ぬ気の臨界点突破を完成させた俺は、急いでグラウンドへと戻った。
走りながら体の状態を確認するが、調子はすこぶるいい。小言丸を飲んでのスーパー化よりも、死ぬ気は深くなっているように感じる。これなら午後の部でも結果を残せそうだ。
1〜2分も走ると、赤組のDクラステントが見えてくる。テントの中では、須藤と堀北が他のクラスメイト達と話をしている様子だ。
(さすがだ堀北。無事に須藤を呼び戻してくれたか)
「……ありがとう、堀北」
「! え、ええ」
「ツナ……す、すまなかった」
「謝らなくていい。須藤、戻ってきてくれてありがとう」
「お、おう……」
「午後も頼むぞ、リーダー」
テントについた俺は、須藤や堀北に感謝の気持ちを伝えた。
その後、南雲という生徒会副会長を務める先輩が俺を訪ね……いや、値踏みしにきたりもしたが、今は推薦競技に集中するために頭の隅に置いておく。
間も無くして体育祭後半戦、午後の部である推薦競技がスタートした。
—— 推薦競技第1種目『四方綱引き』 ——
午後の1発目の競技は四方綱引き。この競技は四方に別れた特殊な綱を使って行う、四つ巴の競技だ。センターラインの縄に結ばれた白布を、東西南北に分かれた自分の陣地に引き込んだクラスが勝つというシンプルな競技である。
『……』
スタートラインに着くと同時、他クラスの様子を観察する。AとBは、明らかなにCクラスを警戒している。そんなABに対し、龍園率いるCクラスは余裕の表情だ。
アルベルトという高校生離れしたパワーの持ち主がいることと、他クラスからの過度な警戒が龍園にとっては好都合といったところなのだろう。
「皆、俺の作戦を聞いてくれ」
これらの情報を基に、俺はこの競技で勝つ方法をすぐに考えつくことができた。その方法を伝えるため、すぐに他のDクラス参加者に声をかける。
「……俺が合図をしたら、全力で縄を引いてくれ」
「え、作戦ってそれだけ?」
「ああ」
皆に頼むのは、これだけだ。後は縄を引くタイミングを間違えないことと、俺の踏ん張りしだいである。
——バンっ!
周囲に勝負開始のスターターピストルの音が鳴り響く。俺はその瞬間、後ろに並んでいるクラスメイト達へと合図を出した。
「今だ! 全力で引け!」
『おおお!』
いきなり勝負をかけに来るとは思っていなかったのだろう、他クラスが縄の保持にかけるパワーはたいしたことがなかった。おかげでセンターラインの白布は勢いよくDクラスの陣地にひきづり込まれていく。
「止めろ! これ以上引かれんなぁ!」
「くっ、全然とまんねぇ!」
もちろん他クラスもすぐに立て直しに来るが、敵陣からの縄を引き込む力は全て俺が腰を落として踏ん張ることで、なんとか抑え込むことに成功した。そして無事に、Dクラスが1位を取ることが出来たんだ。
「……なぁ、今何が起きた?」
「……全力で引っ張ったら、何の抵抗も感じずに縄が引けた」
「だよな。俺達、そんなに筋力上がってたのかよ」
「いや、筋力差だけじゃ説明つかねぇだろ」
フィールドから退場する中、須藤や池が困惑していたり、綾小路にじーっと無言で見つめられたたりもしたが、そこは謎のままにさせていただこう。
「……やっぱり、ツナ君なら負けないよね」
—— 推薦競技第2種目『借り物競走』 ——
続いての種目は借り物競走だ。言わずと知れた、出されたお題目を観覧者達から拝借してゴールまで運ぶという定番競技である。
競技前、審判から簡単な説明が入った。
「借り物競争では高い難易度の物も設定されている。その場合は引き直しを希望することも出来るが、次に引き直すまでに30秒の待機を要求する。希望するものは競技中クジを引く地点にいる審判に申し出ること。また3名がゴールした時点で競技は終了とする。以上だ」
その説明の後、説明をしてくれた審判によりスターターピストルが発砲されて、借り物競走がスタートされる。
まずはお題の入った箱までの短距離走だ。死ぬ気で走り、他クラスのメンバーとは大差を付けてお題の入った箱が置かれた位置へと到達する。
置かれた箱に手を入れる。中にはそれなりの数の紙が入っているようだった。間違えて複数引かないように気をつけながら取り出す。四つ折にされた紙を開いた。
『金髪と赤髪の美少女』
「……よかった、簡単だな」
1発目から簡単なお題を引けてラッキーだった。俺はお題の書かれた紙を片手に、1年Dクラスのテントへと全速力で駆け出した。
間も無くテントに到着した俺は、すぐに目当てのクラスメイトに声をかける。
「軽井沢、佐倉。一緒に来てくれ」
「えっ? わ、わかったわ」
「う、うん」
呼びかけに応えて、軽井沢と佐倉がテントの外に出てきてくれた。
「ツっ君、私と佐倉さんが借り物なの?」
「ああ」
「あ、で、でも私足遅いから1位逃しちゃうかも……別の人の方が」
佐倉は自分のせいで1位を取れないかもしれないと心配そうにしている。だが、全く問題ない。彼女達がしばらく我慢をしてくれたら、の話だがな。
「心配ない。俺が2人共抱えて走る」
「えっ!?」
「えええっ!?」
驚きで目を見開き、なぜか顔を赤くする2人。申し訳ないが、Dクラスの勝利のために耐えてほしい。
「ごめん。恥ずかしいだろうけど、俺達が勝つ為に耐えてほしい」
「い、いや、恥ずかしいからとかじゃないんだけどね……」
「あわわわわ///」
「?」
軽井沢は更に呆れたような顔になり、佐倉は更に赤面してしまっている。うん、ここはさっさと行動してしまった方がいいな。
「……佐倉、すまない」
「あわわ……えっ!?」
「ちょっ!?」
俺は赤面する佐倉を抱きかかけるように持ち上げた。ほぼ無理やりだからな。当人である佐倉も、そばで見ていた軽井沢も困惑しているようだ。
しかし、今は時間が勝負だ。すぐにでもゴールに向かいたい。そう思った俺は、佐倉を抱えたまま軽井沢の前に屈み込んだ。
「軽井沢、背中に乗ってくれ」
「えっ! お、おんぶってこと!?」
「恥ずかしいよな。だけど頼むよ、俺達が勝つ為なんだ」
「う、うぅ。わかったわ」
渋々ながらも、なんとか軽井沢は俺の背に乗ってくれた。
「こ、これでいい」
「ああ。足は曲げてる俺の肘のとこに乗せてくれていいから。しっかり掴まっててくれ」
「う、うん」
「よし」
軽井沢がしっかりと掴まったことを確認し、勢いよく立ち上がる。
「じゃあ行くぞ。佐倉、君も一応しっかり掴まって……」
「はわわわわ///」
(……まずい、早く下ろしてあげたほうがいいな)
しっかり掴まってるようにと佐倉にも伝えようとしたが、彼女の恥ずかしさが限界ぎりぎりのようだ。さっさとゴールしてしまおう。
「じゃあ行くぞ!」
俺は彼女達を抱えたまま、全速力でゴールに向かって駆け出した。最初のリードが効いたのだろう、まだ誰もゴールしてはいなかった。おかげで俺は1着で借り物審査へと入ることができる。
軽井沢と佐倉をおろし、3人でゴール前の審査スペースに向かう。
「1年Dクラス、沢田綱吉。お願いします」
「わかった。えーと、お題は……」
お題の書かれた紙と、軽井沢と咲良を見回す審査担当の教員。
ここで、審査に落ちればやり直しなわけだが、軽井沢と佐倉はすんなりと審査に通った。
「よし、いいだろう。1年Dクラス沢田綱吉。君のゴールを認める」
「はい」
こうして、俺は借り物競争でも1位を取ることに成功した。
「あ、あの、沢田君」
「どうした?」
テントへと戻る中、佐倉が声をかけてくれた。まだ顔が赤いままで、申し訳なさがこみ上げる。
「あの、お題ってなんだったの?」
「あ、それは私も聞きたかった」
そういえば、お題の説明はしていなかった。
「ああ、これだよ」
『なになに……ええっ!?』
お題の書かれた紙を見せると、2人共驚きの顔になり、顔が真っ赤になる。
「あ、あわわわわ///」
「き、金髪の美少女///」
「?」
「このお題で、私を選んでくれたのね///」
「び、美少女だなんて……」
なるほど、自分は美少女じゃないと思い込んでいるのか。
「お題を見た瞬間、2人の事が頭に浮かんだんだ。お題にバッチリハマってるし、その証拠に審査も簡単に通過できただろ」
「そ、そんなストレートに言わないでっ///」
「きゅ、きゅうううう〜///」
「佐倉っ!?」
さらに顔を赤くして、へなへなと地面にへたりこむ佐倉。慌てて抱き起こそうとするが、軽井沢に止められてしまった。
「あ、待ってツっ君! 佐倉さんは私が介抱するから!」
「え、でも俺の方が力あるし」
「いいからっ! 今またツっ君に抱き抱えられたら、佐倉さん帰ってこれなくなりそうだし!」
「え? ……わ、わかった。じゃあ佐倉を頼む」
「うん、ツっ君は次の競技の準備に入ってよ」
軽井沢の意思が固そうなので、俺は言われた通りに先にテントの方へ戻ることした。
「……ちっ」
—— 推薦競技第3種目『男女二人三脚』 ——
次の競技は、男女でペアを組む「男女二人三脚」。Dクラスからは「俺・堀北ペア」と「綾小路・櫛田ペア」が出場することになっているが……。
「……」
テントに戻ると、椅子に腰掛けて痛めた足を気にしている堀北の姿が見えた。
「堀北」
「っ、沢田君」
「次の競技、男女二人三脚だけど」
「……」
「出るだろ?」
「えっ?」
出るなと言われると思っていたのだろう。堀北は驚いた表情をしている。
「本当なら棄権すべきだと思う。だけど、君の様子を見るにどうしても出たそうに感じた。……違うか?」
「……ええ、私はあなたと男女二人三脚に出たい。でも……」
堀北は足に手を当てて唇を噛み締める。出たいが、この足では無理だという状況が歯痒いのだろう。
こんな時こそ、パートナーとして俺が助けるべきだ。
「堀北。君の足を悪化させず、ペアで出場できる方法が1つだけある」
「えっ! それってどうやって?」
「午前中の二人三脚で、須藤と池がやっていた方法と同じだ」
「須藤君と池君の? ……っ///」
2人がどんな走りをしていたか思い出したのだろう。さすがの堀北も赤面してうろたえてしまう。
須藤と池の走り方、それは須藤が池を片腕で抱え、そのまま須藤が突っ走るというシンプルなものだ。シンプルとはいえ、異性のペアでそれをやるのはかなり勇気がいるだろう。
「っ、あ、あれをやるというの?」
「ああ。君の願いを叶えるためには、それしかない」
「……」
堀北は顔を伏せて考え始めたが、すぐに答えを出してくれた。
「……わかったわ。それしか方法がないのなら、やる以外に選択肢なんてないもの」
「いいんだな。気持ちの整理とかは大丈夫か?」
全校生徒に、俺に抱えられる姿を見られてしまうからな、女子的には相当なことだろう。
「すでに兄さんに、あなたにおんぶされている姿を見られてしまったもの。あれよりは恥ずかしくないわ」
「さすがは堀北だ。わかった、君のその決意に応えて、俺は君に一切負担を位与えずに1位を取るよ」
「ええ、信じているわ」
俺は堀北に手を差し出し、彼女はが立ち上がりやすいように引っ張り上げる。
「じゃあ行こうか」
「ええ」
堀北に肩を掴ませて、俺達はゆっくりとスタート地点へと向かった。
〜スタート地点〜
「なんだよ、お前その足で出場するつもりなのか? 鈴音ぇ」
「……龍園君」
二人三脚のスタート地点には、すでに他のクラスのメンバーが揃っていた。ABCDの順に並ぶため、俺達Dクラスの隣はCクラスの参加者が並ぶことになる。そして、その参加者の1人が龍園だったようだ。
龍園は薄ら笑いを浮かべながら隣のレーンに並んだ俺達に話しかけてくる。
「お前、足痛めてるんだろ? なのにまだ走るつもりか?」
「……」
堀北は無視をしようとするが、龍園がそれを許さない。
「……あ〜そうか。お前はそこの沢田に指示されて木下に怪我をさせたんだよな。今回も無理やり出るように沢田に命令でもされたんだな。暴力的なお仲間がいると大変だなぁ」
「っ! いいかげんに!」
「——落ち着け」
龍園に噛みつきそうになった堀北を肩に手を回し、自分の方に抱き寄せる。
「さ、沢田君?」
「落ち着け堀北。龍園が言っているのは全てでたらめだ。気にする必要はないぞ」
「っ、そうね。ごめんなさい」
「ほら、紐を結ぶからじっとしてて」
堀北を落ち着かせた後、俺は屈んで、彼女の痛めていない方の足と自分の足を結びつける。
結んでいる間も、龍園は堀北に話しかけていたが、堀北は無視をしてくれた。だがさすがにしつこいので、紐を結び終えて立ち上がった俺は龍園に忠告をすることにした。
「おい、須藤のパシリに使われる気分はどうなんだよ」
「——龍園」
「あ?」
堀北から俺へと視線を移した龍園。
「もう俺達の妨害をしようとは考えない方がいい。お前がダメージを受けるだけだ」
「……はっ、妨害をしてきてるのはテメェらだ」
「好きに言ってろ。だが、これだけは言っておく」
「あ?」
「——俺達は、お前の思い通りにはならない」
「っ!」
俺の最後の言葉が気に障ったのだろう、男女二人三脚が始まるその瞬間まで龍園は俺を睨みつけていた。
そして、睨みつけながらも小声でペアのCクラス女子に何やら耳打ちしている。
「……」
「……」
大方、俺の妨害でもするように指示でも出しているのだろう。
片目を動かし、Cクラスのペアを観察する。隣り合うのは俺とCクラスの女子だ。つまり、この女子が妨害するとしたら俺だろう。
ちらっと足元の目を向けると、Cクラス女子の靴の先が俺のレーン上に向いていることに気づく。
(……なるほど、俺の1歩目の着地位置を考え、そこに突然女子の足を持っていくことでバランスを崩させる作戦か。避けようとして倒れてもよし、間に合わずに俺が女子の踏んでもよしってわけか)
超直感の恩恵で龍園の策を察知した俺は、龍園達には聞こえないように堀北に耳打ちする。
「堀北、最初に大きく動く。しっかり掴まっていてくれ」
「わかったわ」
その後間も無く、男女二人三脚がスタートする。
「位置について! よーい……」
——ドンっ!
「よっと!」
「なっ!?」
スターターピストルが鳴っての1歩目。俺以外の全員が俺と堀北ペアの挙動に驚いただろう。なぜなら俺は、1歩目で踏み出すのではなく、スタートラインより後方に飛び下がったのだから。
「えっ、沢田君?」
「心配ない」
堀北も驚いただろうが、もっと驚いているのは隣のレーンを走るCクラスの龍園ペアだろう。想像もしていなかった行動をターゲットに取られたのだから当然だ。
(……やはりな)
後ろに飛びながら、本来なら一歩目で踏んでいたであろう位置を見た。するとそこには、隣のレーンを走るはずのCクラスの女子の片足が置かれていた。
超直感で感じた通りの展開だ。俺は上手いこと龍園の妨害を阻止した。フライングしたわけでもないし、ルールも破っていない。
「……」
——ダッ!
『!』
地面に着地すると同時、堀北を抱えながら全力で駆け出す。強く地面を数回蹴ると、すでに俺達は1位に躍り出ていた。
「くそっ!」
後ろから龍園らしき声が聞こえた。しつこくあいつも追いかけてきているようだ。
——パアン!
『1着はDクラス、沢田・堀北ペアです!』
『わぁぁぁ!』
——パアン!
『2着はCクラスのペアです!』
俺達の1位通過のアナウンスから少しして、龍園のペアもゴールしたようだ。俺達に抜かれた後、必死で追ってきていたらしい。それでも数秒の差ができてしまったのが我慢ならないのか、龍園は肩で息をしながら俺を睨みつけている。
「……」
顔だけを後ろに向けて龍園と視線をぶつけ合っていたが、俺は1つだけ龍園に言葉を送ることにした。
「はぁっ……はぁっ……」
「——おい、龍園」
「はぁっ……あ?」
「だから言ったろ? お前がダメージを受けるだけだってな」
「っ! てめぇ……」
更に視線を鋭くする龍園から視線を外し、俺は堀北に振動が行かないように気をつけながらテントに向かって歩き出した。堀北が歩かなくてもいいように紐は結んだままだ。
……テントに戻る中、堀北が不思議そうな顔でこう訪ねてきた。
「龍園君をわざわざ煽るなんて、沢田君にしては意外ね」
「……まぁそうだな。普段ならしないだろうが、今日は君が龍園から酷い目に遭わされているから。その仕返しかな……なんてね」
「……全く、そんな理由で煽ったなんて」
「たまにはいいだろ。それに龍園を抜いた後、君は後ろに視線を向けながら笑ってたじゃないか」
「なっ/// そ、そんな子供っぽいことしていないわ」
「ふっ、じゃあそういうことにしておこう」
「ほ、本当にしてないわ! ……でも、ありがとう」
そんな会話をしながら、俺達はテントへと戻った。
さぁ、後は最後のリレーを残すのみだ。
「……ねぇ。そこは、私の居場所なんだよ?」
—— 最終競技「1,200mリレー」 ——
いよいよ次がこの体育祭を締めくくる最終競技、全学年で行う「1,200mリレー」だ。
「いよいよ次で最後だね」
「ああ。俺は死ぬ気で走るよ」
スタート地点に移動する前に、クラスで話し合いをすることになった。その内容は、代役を2人決めることである。
怪我をしている堀北が参加できないのはもちろんだが、男子からも三宅が足を痛めたらしく参加を辞退することになった。なので、2人の代役を立てる必要があるのだ。
「まずは堀北の代走だが……」
「はいはい! 私が走るよ!」
堀北の代走には、すぐに桔梗が立候補してくれた。
「ああ、君に頼もうと思っていたんだ。ありがとう桔梗」
「えっ!? う、うんっ! まかせてよっ♪」
「あとは三宅の代走だが……」
「……俺が走る」
『!』
三宅の代走もすぐに立候補者が出た。
「……いいのか? 綾小路」
「ああ。俺に走らせてくれ」
立候補してくれたのは、目立ちたくないといつも言っている俺の相棒。綾小路だった。
テストでの運動神経はDクラスの男子4位だったため、綾小路はリレーの候補からは外れていた。だが、彼が何やら凄い能力を持っているのは間違いない。代役は綾小路で間違い無いだろう。
……実は、立候補されなくても頼むつもりだったしな。
「よし。じゃあ桔梗は堀北の代わりに第5走者。綾小路は三宅の代わりに第4走者を頼む」
「は〜い♪」
「わかった」
「よし、じゃあ行こう」
『おお!』
無事に代役も決まったことで、俺達はスタート地点へと向かった。
「位置について、よーい……」
——ドンっ!
「おっしゃああ!」
スタートを告げる音と共に、須藤は緊張などものともしない様子で好スタートを切る。今まで見てきた中でもベストタイミングと言えるダッシュだ。一歩目から他クラスの11人を出し抜く勢いを見せる。わーっと声援が走る生徒達と共に高速で移動していくのが分かった。
他の男子も速いはずなのだが、混戦に巻き込まれ位置取りに苦労していた。その隙にどんどんと突き放した須藤は15メートル以上のアドバンテージを持ち帰還した。
「任せんぞ平田!」
「うん!」
その好リードに沸きあがるDクラス。第2走者である平田へとバトンが渡る。
平田は華麗な走りでトラックを駆け抜けていく。 次々と後続の生徒が後を追うが、開いた差は殆ど詰められることはなく、計画通りのリードを保ったまま3番手の小野寺へ。
とても足が速い小野寺だが、運の悪いことに後続から迫ってくるのは殆どが上級生の男子。そのリードは確実に詰められていく。
第4走者の綾小路に渡る頃にはリードはほぼなくなり、走り出したところでついに2年Aクラスの男子に抜き去られてしまう。次々と新たな生徒が駆け出していく。 1位を狙ってはいたものの、やはり上級生は強い。更に小野寺は3年Aクラスに抜かれ、続々と迫られる。3年Aクラスと2年Aクラスが頭ひとつ抜き出る形になった。周囲の予想通りといったところか。
「えっ!? 綾小路、あんな足早かったっけ!?」
しかし、綾小路がとても凄い走りを見せ、5番手の櫛田へとバトンを渡す頃には2・3年のAクラスとほぼ横並びのところまで付けてくれた。
「……櫛田」
「うんっ!」
「バトンだ、後は頼む」
「まかせてっ! ……あっ!」
『!』
——しかし、体育祭にハプニングはつきもの。綾小路からバトンを受け取った桔梗が走り出そうとしてその瞬間。後ろから追い上げて4位になったCクラスの5番手の女子が桔梗と軽く接触してしまい、ぶつかった方の手で握っていた1年Dクラスのバトンが、トラック外に飛び出てしまったのだ。
「そんなっ!」
桔梗も慌ててバトンを拾いに行くが、そのロスは大きい。彼女がトラック内に戻る頃には、俺達Dクラスは最下位まで転落してしまっていたのだ。
「……」
「……」
その時、ふと視線を感じた方に顔を向けると、堀北先輩が俺の事を見ていた。
「……沢田」
「……心配いりません。昼に言った通り」
「——あ〜。この勝負は俺の勝ちッスね堀北会長。出来れば接戦で走りたかったですよ」
『!』
俺と堀北先輩の会話に加わって来たのは、2年Aクラスで生徒会副会長の南雲雅先輩だった。
南雲先輩は迫って来るトップランナー2年Aクラスの生徒を見つめながら笑う。2位を走る3年Aクラスとは30メートルは開きがあるだろう。実力が似た者同士なら勝ちにくい距離だ。
「総合点でもうちが勝ちそうですし、新時代の幕開けってところですかねー」
「本当に変えるつもりか? この学校を」
「今までの生徒会は面白みが無さすぎたんですよ。伝統を守ることに固執し過ぎたんです。口では厳しいことを言いながらも救済措置を忘れない。ロクに退学者もでない甘いルール。もうそんなのは不要でしょう。だから俺は新しいルールを作るだけです。究極の実力主義の学校を」
そう言うと、南雲先輩はなぜか俺の肩に腕を回した。
「フレッシュなルーキーが入って来たことだし、ここから俺の覇道は始まるんですよ」
「……」
「あ、沢田君。君も残念だけど、今年の最優秀生徒賞は俺がいただくよ。ここまでの成績を見る限り、俺達は三者同率のままだ。だからこのリレーで1位を取った奴が、最優秀生徒になることは必然だからね」
現在の1位は2年Aクラス。2位が30m離れて3年Aクラス。そして俺達1年Dクラスは最下位。もう自分の勝ちは決まったといいたいのか。
南雲先輩は手を振りながらゆっくりと歩き出した。迫るバトンを受け取る助走に入ったのだ。 バトンが2年Aクラスのアンカー、南雲先輩に渡る。
その後、現在2位の3年Aクラスのアンカーである堀北先輩も中継地点へと向かう。すぐに5番手の先輩からバトンが渡されるが、なぜか堀北先輩は走り出そうとしない。
「え、え? どうしたんですか?」
バトンを渡した先輩も堀北先輩の行動に戸惑ってしまっている。
「……どうして走らないんです?」
「お前と全力勝負できるチャンスだ。ならば同時にスタートしなければ意味はない」
やはりか。この人は初対面の時の勝負のやり直しをしたがっていたようだ。
「……勝負するなら、先に行って待っていて下さい」
「なに?」
「勝負のスタートは〝ゴール前200m〟からです」
「! ……了解だ。ならば先に行っておこう」
そう言うと、堀北先輩は今度こそスタートした。俺の言葉の意味をわかってくれたのだろう。
勝負はゴール前200mから。つまり、『あなたがゴール前200mに入るまでに追いつくから、そこから勝負を始めよう』と言う俺からのメッセージだったわけだ。
「きゃあああ♪」
「堀北会長〜♪」
もの凄い速さで1位の南雲先輩へ迫っていく堀北先輩。俺と必ず勝負できると確信しているような、迷いのない走りだ。
……そうなると、俺も絶対に勝負に参加しないといけないな。
次々と他クラスのアンカーが出走する中、ついにその時がやってくる。桔梗が10位のクラスとほぼ横並びで向かって来ている。
(さすがは桔梗。あそこまで距離を縮めてくれるとはな)
「はっ、はっ……ツナ君、ごめん!」
「気にするな。後は俺に任せてくれ!」
「うんっ!」
——パシッ!
——ダッ!
桔梗からバトンを受け取った俺は、全速力で駆け出した。
「なんだあいつ!? すげぇ速い!」
「もう前の走者を追い抜いてる!?」
地面を強く蹴り、加速する。それを幾度となく繰り返し、500mも走った頃には、俺は6位まで順位を上げていた。
「沢田〜!」
「沢田君!」
「ツナ君!」
「ツっ君!」
「ツナ、いけぇ〜!」
クラスメイト達の声援が、体に力を与えてくれる。
(よし、このまま1位争いに……!)
6位まで順位を上げ、次は5位の走者を抜こうとしたその時。前の走者がチラチラとこちらを見ていることに気がついた。
その走者とは……。
「くくく……」
(! 王 小狼!)
1年Aクラスのアンカー、王 小狼だった。
……しかもそれだけじゃない。
「——くっくっく」
(……その前に、龍園か)
現在の4位、Cクラスのアンカーである龍園翔。この男も俺の方をチラチラと見ている。
なぜか、王と龍園はほとんど差がない状態をキープしながら走っている。しかもインコースと真ん中よりのアウトコースを陣取って、抜いていくにはその真ん中を取るか、かなり大回りをしないと追い抜けないように絶妙な位置どりをしているようだ。
(こいつら、グルで俺を潰しにきたか)
素直に真ん中を通ろうとすれば、2人から挟まれて何をされるか分からないし、抜くこともできないだろう。
でもコースラインギリギリのアウトコースを通って行こうとすれば、無駄に体力は削られるし、奴らに追いつかせる隙も与えてしまう。
つまり、どっちを通っても抜くのは難しいし、万が一抜かれても相当な体力を削れるから1位を取ることはできなくなる。……そういう妨害作戦ってわけか。
さて、どうやって抜くか。真ん中を通れば何かされるのは間違いないし、怪我をさせてしまう恐れもある。かといってアウトコースを通ればそれだけ体力が削られてしまう。
……答えは決まってる。アウトコースを通って追い抜くしかない。
体力がいくら削られようと関係ない。俺は1着でゴールする。そして赤組としてもクラスとしても勝つ。
その為なら自分を犠牲にしてもかまわない。そんな覚悟を持って俺はこの場にいるんだ。
(よし、行こう!)
俺は進行方向を大きく変え、アウトコースギリギリを沿うように駆け出した。
予想とは少し違い、龍園達は追いかけてこようとはしない。あくまで俺の体力を削る為だったようだ。
しかし、大回りした為に、少しのタイムロスをしてしまった。このままではゴール前200mの勝負に間に合うか怪しい。
(もっとスピードを上げないとダメだ)
今も死ぬ気で走ってはいるが、もう一段階スピードを上げるにはどうするか。
(……)
超直感で見えたその答えは、体内で制御している死ぬ気の炎エネルギーの扱い方を変える、というものだった。
全身を円を描くように巡らせていた死ぬ気の炎エネルギーを、全身の筋肉に纏わせるようにする。すると、これまでよりさらに全身の動きを意識できるようになった。
(これならいける!)
「うおおお! 更に加速したぁ!?」
死ぬ気の炎エネルギーを筋肉に纏わせることで、さらに走るスピードを上げることに成功した。名前を付けるなら、『死ぬ気の臨界点突破 フィジカル・エンチャント』だろうか。
スピードを上げて爆走すること数秒。ついに4位のクラスも抜き去り、俺達1年Dクラスは3位にまで上り詰めた。この時点で、トップはゴールまで約400mの地点にいた。
これで堀北先輩との勝負に臨む事ができる。
「……! ひゅ〜。想像以上だな、沢田君」
「……ふっ、100mも余裕があったな」
「……待たせましたね」
ゴールまであと300mの地点で、俺はついにトップ争いに食い込むことに成功した。
『……』
ほぼ横並びになった俺達。すぐには飛び出さず、横目にお互いの出方を伺っているのがわかる。
そして、ゴールまで200m地点まで入ったその瞬間。
——ダッ!
3人共が速度を上げた。ゴールまでの最後の勝負が始まったのだ。
「うおおお! 三つ巴だ〜!」
「堀北く〜ん!」
「会長〜!」
「きゃ〜! 南雲く〜ん!」
「負けないで〜!」
「かっこいい〜♪」
「沢田〜!」
「頑張れ沢田く〜ん!」
「ツナ、行けぇ!」
3者それぞれに大きな声援が送られているが、俺達にそれに応える余裕などない。3人とも誰よりも早くゴールする、それしか考えていないのだ。
勝負は混迷を極めた。誰かが一歩前に出れば、他の誰かが抜き返す。それが何度も繰り返されている。
このままいけば、誰が1位を取るかは全く分からない感じだ。
(……これはまずいな)
予想ではすぐに1位に躍り出れると思っていた。だが、色々な理由が重なっているせいで、死ぬ気度合が最初よりも格段に落ちてしまっているのだろう。
——初めての自力でのハイパー化。
——初めての死ぬ気の臨界点突破。
——午後の部の間中、死ぬ気モードで全力を出していること。
——そして、龍園と王を抜くための強引な走り。
死ぬ気の臨界点突破は、通常の死ぬ気状態よりも気力の消耗が激しい。4つの競技を経て、すでに俺の気力は限界ギリギリといったところなのだろう。
(……まぁ、そんなの関係ないけどな)
こうして走っている間も、俺を応援するクラスメイト達の声援は止むことなく続いている。
「沢田ぁ!」
「沢田君!」
「ツナぁ!」
「ツナ君!」
「ツッ君!」
ゴールまであと100mを切った時。ちょうどDクラスのテントの前を通過するタイミング。
「……」
俺がテントに再接近する少し前、テントの中で椅子に腰掛けていた少女が、痛みを堪えながら急いで立ち上がった。
「……」
「あれ、堀北さん?」
「痛いんでしょ? 無理に動かない方が」
「……いいの。どうしても言いたい事があるから」
その少女——堀北鈴音は、俺がテント前に到達するのと同時にテントの1番前まで歩み出て来ていた。
「……すぅ」
堀北は俺を視界に捉えると、短く一呼吸する。そして再び目を見開き、今にもテントから離れようとしている俺に向けて声を張り上げた。
「……お願い。勝って! 綱吉君!」
「っ!」
視界からは消えていたが、堀北の張り上げんばかりの声援は確かに俺の耳まで届いていた。その言葉は、俺の中で何かのエネルギーへと変わり、全身へと巡っていく。
そのエネルギーの暖かさに、俺の口角がわずかに上がったのが分かった。
(普段なら絶対しないであろう、大きな声での声援。それを君の口から聞けたのだから、応える以外に道はない)
Dクラステントを通り過ぎた時、俺は後ろまで届くように大声を出す。
「まかせろ! 鈴音!」
「!」
パートナーの名を口にした瞬間、俺は加速した。その加速により、3人の中で1番前に出ることができた。
「くっ!」
「……ここにきて、その加速とはな」
(よし! 前に出たぞ!)
ゴールまではあと50m。あとはこのまま抜かれる事なくゴールするだけだ。
(……何が何でも、倒れたとしても!)
気力が尽きたのなら、生命力を使えばいい!
体力が尽きたのなら、死力を尽くせばいい!
死ぬ気の炎エネルギーが尽きたのなら、体内でエネルギーに変えられるものを全て変換すればいい!
例えゴールした瞬間に死んだとしても、そうするだけの意味がある!
昼休みにユニから聞いたリボーンの言葉、「本当の死ぬ気とは迷わないこと、いとわないこと。そして自分を信じること」。
Dクラスの皆と勝利する為なら、俺は命を賭けてやる!
俺ならそれができるはずだ!
迷うな! 自分の力を信じろ!
だからもっと死ぬ気になれ、沢田綱吉!
「うおおおおおおおっ!」
「くっ……」
「くそっ……1年坊に負けるか!」
体中の全てをエネルギーに変え、最後の激走を繰り広げる俺達3人。永遠とも思われた3人のトップ争いは、ついに終わりの時を迎える。
——バァン!
「トップがゴール! 1位はなんと、1年Dクラスだぁ!」
『わぁぁぁぁっ!』
「続いて、2位が3年Aクラス! 3位が2年Aクラスです! トップは赤組が独占だぁ!」
(はぁっ、はぁっ。よ、よかった。なんとか……1位を取れたみたいだな)
ゴールしてすぐ、アナウンスによって自分が位1位を取れたことを知らされる。
ゴールしたことで気が抜け、スーパー死ぬ気状態も解かれてしまっていた。体内のあらゆるものをエネルギーに変えていた為、もう何も残っていないだろう。意識も朦朧としてきた。
地面に屈み込み、荒い呼吸をゆっくりと整えていると、眼前に誰かの手が差し出されていた。
「……! 堀北先輩?」
「……今日は、最高の勝負だったぞ」
手の主は堀北先輩だった。勝負終わりの握手を求めているようだ。
俺はなんとか体を起こし、堀北先輩と握手を交わす。
「ありがとう、沢田」
「……はは。こちらこそ、先輩と勝負ができ、て、最高で……」
——バタン!
「! 沢田!」
お礼の言葉を返す寸前、ついに俺の意識は落ちてしまった……。
—— その後 ——
ツナは握手をしたまま意識を失い、堀北学に寄りかかるように倒れた。
「綱吉君!」
「ツナ君!」
「ツナぁ!」
その様子を見ていたDクラスのメンバー達は、慌ててツナのもとへと駆け寄った。
「……鈴音。俺は養護教諭を呼びにいく、沢田を頼む」
「っ! は、はい。兄さん」
堀北学はツナの体を鈴音にあずけ、擁護教諭を呼びに向かった。
ツナの体を預かった鈴音は、ツナをゆっくりと地面に座らせて、頭だけは自分の膝に寝かせた。
「わぁ! 堀北さん積極的だねぇ!」
「ち、違うわ! 今日のMVPを、地面に寝かせるわけにはいかないでしょう?」
「へ〜。でも、さっきからツナ君のこと名前で呼んでない?」
「っ! 気のせいよ!」
「ふ〜ん」
櫛田が鈴音に突っかかている間、綾小路はツナの口元に耳を近づけて呼吸音を確認していた。
(す〜っ。す〜っ)
「……大丈夫だ。気絶というより、気絶したみたいに寝ているだけだ」
『……はい?』
綾小路はツナの寝息を聞き、気絶しているわけではないと皆に説明した。その説明に、全員がぽかんとしたのは言うまででもない。
「いやいや、さっきまであんな凄い走りしてたんだぜ? しかも1位取ったってのに。普通アドレナリン出まくって寝れねぇだろ」
「……それでも寝てしまうぐらい、沢田が頑張ったってことじゃないのか」
『……』
綾小路の言葉に、全員がツナの寝顔を見る。その寝顔は、どこにでもいそうな普通の男子そのものだ。
「ふふっ、気持ちよさそうに寝てるわね」
「うん♪ もう、ツナ君ってば、さっきまであんなにカッコよかったのに、急にそんな可愛い顔するのは反則だぞ〜?」
櫛田がツナのほっぺを軽くつつくが、全く起きる気配はない。
その様子を見て、池がポツリと呟く。
「なんか、小さい子供みたいだな」
「え?」
「いやさ、小さい子って、エネルギー切れるまで全力で遊んで、切れると倒れるようにどこででも寝ちゃうだろ? なんかそれと似てるなって」
池のその感想に、全員が納得したように頷いた。
——ポツン。
「! 堀北さん?」
「……ごめんなさい。汗が垂れてしまったわ」
その時突然、ツナのほっぺに水滴が一滴落ちた。堀北はハンカチを取り出して、その水滴をすぐに拭った。
そしてハンカチをポケットに戻すと、堀北はツナの頭を優しく撫でながら呟く。
「あなたはDクラスの為に、倒れてしまうくらい全力で戦ってくれたのね。本当に凄いわ。——ありがとう、綱吉君」
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