ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
「……ん、んん?」
「あ、沢田君。目が覚めたんだね!」
目が覚めた時、俺はベッドに寝ていた。
天井は学校のものなので、おそらく保健室だろう。
「あれ、一之瀬さん。もしかして看病してくれてたの?」
目覚めてすぐに声をかけてくれたのは、なんと一之瀬さんだった。
俺の質問に、一之瀬さんは笑いながら手をふりふりして否定する。
「看病なんてしてないよ〜。ただ寝ている君のことを見てただけ」
「そ、そうなの?」
「うん!」
寝ている俺に付いててくれたのなら、ほぼ看病と同じな気もするけど……。というより、ずっと寝顔見られてたとか恥ずかしいな。
「でも、ありがとうね」
「気にしないでよ! 私がしたくてしてるだけだから。それに、綾小路君と堀北さんにも頼まれたしね」
「え? 綾小路君と堀北さんに?」
「うん。龍園君とのいざこざを終わらせてくるから——」
「っ! そ、それならすぐに俺も行かないと!」
「あ〜ダメダメ! バタンキューした人は寝てるのが仕事ですっ!」
起き上がろうとしたが、一之瀬さんに優しく押されてベッドに戻される。やばい、本当に力が残ってなさそうだ。1回死ぬ気で寝ないとダメかもしれない。
「でも2人だけじゃ……」
「だいじょ〜ぶ!
「!」
彼女の言うアレとはきっと、綾小路君づてに頼んでおいた、午前中の事故について龍園君達が話している録音データだ。
それを渡してあるということは、何かこちらの無実を証明できる何かが掴めたということか。
「……それなら、まぁ。大丈夫かな?」
「そうそう! だから沢田君はしっかり寝てよう、ね?」
「うん。わかったよ」
大人しく布団に入ると、一之瀬さんが1枚の紙を手渡して来た。
「これ、体育祭の結果表。沢田君倒れて見てないから、って、堀北さんから預かったよ」
「あ、ありがとう、気になってたんだ」
紙を受け取って開いてみる。あれが夢じゃなけりゃ、俺の思い通りの結果になっているはず……。
○体育祭最終結果
優勝 赤組
最優秀生徒賞 沢田綱吉
○1年最終順位
1位 Dクラス
2位 Bクラス
3位 Cクラス
4位 Aクラス
学年最優秀生徒賞 柴田颯
「ほっ、夢じゃなかった」
「あはは、そんな心配してたの?」
「うん、少しね。ははは」
一之瀬さんと笑い合っていたが、そういえばまだ証拠集めを手伝ってもらったお礼をしていなかったことを思い出した。
「そういえば、まだ協力してくれたことへのお礼を決めてなかったよね」
「別に、あれくらいならお礼なんていらないよ?」
「いや、そこはきちんとお礼をしたいんだ。そうだな……俺も、一之瀬さんの頼みを1つ聞くってことでどう?」
一之瀬さんは顎に手を当てて少し考えると、何かを思いついたのか、掌をポンと合わせた。
「そういえば、沢田君にお願いしたいことがあったんだ」
「そうなの? じゃあそれを、俺が受け入れればいいかな」
「うんっ! 受け入れてくれると嬉しいな♪」
そう言って、彼女が俺に頼みたいことを口にしようとした時だった。
——ガララっ。
『!』
保健室のドアが開かれ、廊下から1人の男子生徒が入って来た。
……なんと堀北先輩だ。
「沢田、目が覚めたか——なんだ。君もいたのか、一之瀬」
「あ、はい」
「会長お疲れ様です。沢田君が起きるまで、見守っておこうと思いまして」
「そうか」
堀北先輩は、話しながら俺が眠るベッドの側までやってきた。一之瀬さん同様に、ベッドの近くにあった背もたれのない椅子に腰かける。
「——あの、握手してる時に気を失ったりして、申し訳ありませんでした」
記憶を辿ると、確か俺はゴールした後に堀北先輩に握手を求められ、そのまま意識を失っていたはずだ。せっかく握手を求めてくれたのに、よもや気を失ってしまうとはかなり失礼をしてしまったものだ。
「いや、かまわない。倒れてしまうほど、お前が本気で勝負してくれたということだから。俺にとって、高校生活で最も燃えた勝負だった」
「そんなふうに言っていただけるとは、光栄です」
思っていたよりも、堀北先輩はあの勝負に本気で望んでくれていたらしい。不快に思われていなかったのならなによりだ。
「……で、だ。俺がここに来た本来の理由なんだが、夏季休暇での約束は覚えているだろう?」
「はい」
夏季休暇にした約束……確か俺の頼み事を1つ聞いてもらう代わりに、こちらも堀北先輩からの要望を1つ聞く。というものだったはずだ。
「そちらの要望が決まったということですね」
「ああ。……だが、まずは先に来ていた一之瀬の方から話してくれ。俺が入ってくるまで、何か話していたのだろう?」
話を続けるように先輩に言われる一之瀬さんだが、笑って手をふりふりと振る。
「大丈夫ですよ。多分、私の話の続きと会長のお話は内容が同じですから」
「! そうか。じゃあ俺から話そう」
「お願いします♪」
一之瀬さんのお願いと、堀北先輩の話の内容が同じ?
どういうことなのだろうか。
「——沢田。生徒会に入れ」
「……えっ?」
堀北先輩の話は、まさかの話だった。俺が生徒会に誘われるなんて、考えたこともなかったから。それに1回だけ必ず要望を受け入れさせる、という取引を消費してまでの要望なのか?
一之瀬さんの様子も横目で伺うと、ニコニコして俺達を見つめていた。この感じだと、一之瀬さんのお願いも生徒会に入ってくれというものだったということか。彼女が1年で唯一生徒会入りしていることは本人から聞いてはいたけど。
「えっ、俺を生徒会に?」
「ああ」
「……本気ですか?」
「無論だ」
「じゃあ、一之瀬さんも本気?」
「本気だよ?」
2人とも至って真面目に頷いている。
「……あの、どうして俺に?」
「沢田、お前に生徒会でやってもらいたいことがあるんだ」
「やってもらいたいこと?」
「……詳しい内容はまた今度話す。今は、お前が生徒会に入るという言質が欲しい」
「……」
できれば、受ける前に詳しい説明を聞きたいのだが、取引で決めた約束なわけだし、受け入れるしかない。
「……わかりました。お受けします」
「そうか、助かる。正式な入会日についてはまた後で連絡する」
「了解です」
そう言うと、用が済んだからか堀北先輩は椅子から立ち上がり、保健室から出て行った。
堀北先輩が保健室のドアを閉じると、一之瀬さんも椅子からゆっくりと立ち上がった。
「さてと! 沢田君も起きたし、私も行こうかな。多分、もうすぐ綾小路君か堀北さんが来ると思うし」
「あ、うん。改めて、付き添ってくれてありがとうね」
「全然いいよっ! さっきも言ったけど、私がしたくてしたんだし、それに沢田君が生徒会に入ってくれることになったしね」
「にしし」とでも効果音が付きそうな顔で、歯を見せて笑う一之瀬さん。本当に嬉しそうだ。
……彼女はどうして俺を生徒会に誘おうと思ったのだろうか。
堀北先輩みたいに、頼みたいことでもあるのかな。
「ねぇ、なんで俺を生徒会に誘おうとしてくれたの?」
「ん? 沢田君となら、楽しく生徒会として働けるかな〜って!」
帰って来たのは、彼女らしい、真っ直ぐな理由だった。
「そ、そっか。まぁこれからは生徒会仲間としてもよろしくね、一之瀬さん」
「うんっ! ……ねぇ、せっかく同じ生徒会メンバーになったんだし、名前で呼び合わない? そのほうがもっと仲良くなれると思うんだよね」
「わかったよ。じゃあ帆波ちゃん、でいいのかな?」
「オッケ〜♪ 私は綱吉君って呼ぶね。改めてよろしく!」
「よろしくね!」
帆波ちゃんに握手を求められ、俺は彼女と硬く握手を結んだのだった。
—— その頃、堀北は綾小路と共に体育館裏にいた。
「よう。逃げずにやって来たようだな鈴音。……だが、なんでパシリじゃなくて、お前の腰巾着が一緒なんだ」
「あなたも知っているでしょう。沢田君はリレーの後に倒れてしまって保健室なの。ここには来れないわ」
「……俺は、沢田の代理人だと思ってくれ」
「……ふん、まぁいい」
「今度はこちらが聞きたいんだが、どうして櫛田がいるんだ」
綾小路は、龍園と堀北の間にさも当然と立っている櫛田に視線を向けた。
「私、今回の騒動に少し関係しててね。場を抑える仲裁役ってところかな?」
「……そうか」
「質問は終わったな? ならとっとと本題に移るぞ」
「そうね。でも龍園君との話の前に……いい加減茶番は終わりにしない? 櫛田さん」
「え? 茶番? 一体どういうことかな?」
夕焼けに染まる校舎で、真正面から見つめあう堀北と櫛田。
綾小路はその様子を無言で見守っている。
「この場に立ち会って良い人を気取るのもいいけれど、それが目的じゃないでしょう? 今回の体育祭、あなたが情報を漏らした。だからCクラスは上手くことを運べたのね。昼休みから龍園君と一緒にいるのも、上手く事を運ぶため……違う?」
「……綾小路君? あなたが何か告げ口したの?」
櫛田は真顔でそう問うが、綾小路は首を振って否定する。
「違うわ。私自身が感じていたことよ。違和感を拭いきれなかったの。今この場には私達以外誰もいない。いい加減向き合うべきなんじゃないかしら」
「向き合うって、何にかな?」
「やっと思い出したのよ……櫛田桔梗さん。あなた、私と同じ中学よね」
「!」
いつも笑顔を保つ櫛田だが、明らかなに表情が崩れていく。
「……あははっ。ついに思い出しちゃったか〜。まぁ、私は色々と問題児だったもんね」
「そんなことないでしょう。今のDクラスのように、クラスの誰からも信頼される生徒だった——」
「やめてもらっていいかな。それ以上昔話をするのは」
真顔のまま、視線を鋭くする櫛田。
2人の会話を、楽しげに笑みを浮かべながら聞く龍園。
そして、何一つ表情を変えない綾小路。
「……そうね。今更過去のことを語っても意味がないわ」
「中学のことを思い出したのなら、もうわかるよね、私がどうしたいと思っているのか」
「ええ。もういい加減気付いたわ。あなたは私をこの学校から追い出したいと考えているのでしょう? でもそれは、あなたにとっても大きなリスクじゃないかしら。私が真実を暴露すれば、今の地位は失うことになるんじゃない?」
「私と堀北さん。どっちが人間として信用されているかは明白だし。リスクヘッジってヤツだね」
「けれど暴露されればあなたは困ることにならない? たとえ私の話を誰1人信じなかったとしても疑念は残る。少なくとも同じ中学だったことは否定できない材料だもの」
「そうだね。でも……万一、あんたが私のことを誰かに話したら、その時は徹底的にあんたを追い詰めてやる。それこそ、あんたが敬愛するお兄さんを巻き込んでね」
「そんなことをすれば、それこそ沢田君が黙っていないと思うわ」
「それはそっちも同じでしょ? 私が辛い思いをするようなことを、ツナ君が見逃すとは思えない。それに、ツナ君とはお互いの秘密をバラさないって制約を結んでるし」
「……それなら、私のことなど無視すればいいじゃない。私が人と関わらないことも、余計なことに首を突っ込まないことも知っているでしょう?」
「それは4月までの話だよ。今のあんだは誰の問題にでも首を突っ込んでしまうはずだよ。だって、ツナ君と一緒にいるんだもん。彼と一緒にいて、知らんぷりなんてできるはずないよね」
「……」
お互いに、そう簡単には動けない。うかつに動けば相手の逆鱗に触れるし、2人ともツナを信頼してるがゆえ、逆にツナが行動を制限する障壁にもなるのだ。
「……というわけで。私が私であり続けるためには、過去を知る人は全部いなくなってもらわないと困るんだよね」
水掛け論はおしまいと言いたげに、櫛田はそう告げた。
その時、龍園がクククと笑いながら口を挟んだ。
「おいおい。だったらこの話を耳にしてる、俺やその腰巾着もお前の獲物ってワケか?」
「綾小路君はすでにそうだね。龍園君は……場合によっちゃそうなるかもよ」
「はっ、食えねー女だ」
「待って、どうして綾小路君まで」
不気味に笑う櫛田と龍園の会話を遮り、堀北は櫛田に問いかける。
「簡単な話だよ。彼も私にとって邪魔な存在ってだけ。ひとつ宣言するね、堀北さんと綾小路君。私はあなた達を退学にする。そのためになら、悪魔とも組む」
そう言い、櫛田は龍園の隣に並んで見せた。
「……話を済ませましょう。ポイントと土下座だったわね。あなた『たち』の望みは」
「ああ。お前は沢田綱吉の指示を受け、木下にわざと怪我を負わせた。そのことに対しての賠償だ」
「……いいえ。今回の件はあなたが仕組んだことよ。あなたが木下さんに命令して私を転倒させた。そう確信してる」
「はっ、責任転嫁すんなよ」
「事実よ。その証拠を手に入れたもの」
「……は?」
「……」
堀北の言葉を受け、綾小路は学生証端末を取り出す。そして、とある音声を流し始めた。
『——なぁ、本当に潰してくれるんだろうな?』
『しつけぇぞ、王。潰すったら潰すんだよ。黙って見てろよ』
『心配なんだよ。あのお前が足を怪我させた女、沢田に絆されてただろう』
音声の序盤を聞いて、龍園は諦めたように髪をかき上げた。
その隣の櫛田は、なぜか微笑んでいる。
「ちっ、王の野郎め」
「……」
せっかくの策が台無しになり、顔をしかめる龍園。
対照的に、あいも変わらず微笑み続けている櫛田。
櫛田のそんな不気味さに、深く介入するつもりはなかった綾小路だが、櫛田に一歩踏み込むことに決めた。
「……櫛田」
「ん? 何かな?」
「せっかくの策が不発に終わったのに、全然悔しそうじゃないな」
「!」
櫛田は一瞬、驚いた顔を見せるが、すぐに微笑み顔に戻り、綾小路の問いに答える。
「ん〜。まぁ失敗すると思ってたからね」
「! 何?」
「ツナ君だもん、そう簡単に龍園君に負けるわけないよね」
「……失敗すると思ってたのに、どうしてクラスを裏切ったの?」
堀北のその質問に、櫛田は満面の笑みで答えてみせる。
「ツナ君を試す為。それには、この裏切りが必要だったんだ」
「……試す?」
「はっ。てめぇ、俺のことも裏切るつもりだったのか?」
怪訝な顔でまたも口を挟む龍園だが、櫛田は何でもないように即答する。
「違うよ? だって契約通りにDクラスの情報は渡したでしょ。協力はするけど、上手くいかないだろうなって思ってただけ」
「……はっ、やっぱり食えねぇ女だ。もうここにいる意味はねぇし、俺は行くぜ」
「……」
龍園がその場を去った。
綾小路は戸惑いつつも、さらに質問を続けた。
「沢田を試す為って、何を試したんだ?」
「確認したんだよ。私がクラスを裏切ろうとしたら、ツナ君はどんな行動をとるかな〜って」
「……」
「で、勿論ツナ君は私の裏切りに気づいていたはず。そうだよね?」
「……ああ」
「気づいた上で、彼はどんな行動を取った?」
「……何もしなかった。沢田は『特に何もしないし、体育祭でも勝つ』、そう言っていた」
綾小路の答えに、櫛田は満足そうに頷く。そして、視線を堀北へと移す。
「ねぇ堀北さん? ツナ君はどうして、私の裏切りを放置したと思う?」
「……あなたの裏切りが告発されれば、あなたがクラスで村八分になってしまうと思ったのでしょうね」
「うんっ! そうだよねっ! ツナ君ならきっとそう考えたんだよねっ♪」
『……』
突然、櫛田が顔を赤らめてもじもじし始めた。
綾小路と堀北は櫛田の変化にさらに不気味さを覚える。
「……それで、確認した結果はどうだったんだ?」
「もちろん合格〜っ♪ ツナ君は私の裏切りを知った時、咎めることはあっても、邪魔したり糾弾することはしなかった! しかも赤組を勝たせるだけじゃなく、最優秀生徒賞まで取った! 私の理想の、王子様だったよ!」
「お、王子様?」
艶やかな表情で王子様と発言した櫛田。その姿は完全に恋する乙女であり、さっきまで相対していた櫛田との違いに、綾小路も堀北もただただ困惑する。
「王子様って、沢田がか?」
「そうっ! ツナ君は私の王子様〜! ……だからね?」
『!』
今度は急に冷たい真顔になった櫛田。
そして、片手の人差し指で綾小路達を指差す。
「……ツナ君の隣に、私にとって1番の邪魔者達が陣取っているのが我慢ならないんだ。しかも、パートナーとか相棒とか言われちゃってさ〜」
「なっ、どうしてそのことを……」
自分がパートナーと呼ばれてることを知り、堀北は驚きと気恥ずかしさで一杯になる。
「綾小路君以外の人前で言われたことはないのに……」
「私の情報網を舐めないで? 壁に床に天井に、高度育成高等学校に櫛田桔梗有り、だよ」
「……」
「……」
改めて、櫛田桔梗の凄さを目の当たりにする綾小路達。
櫛田は、自分異様なまでのツナに対する心酔っぷりに引いてしまっている2人を意にも介さず、夕陽が昇り始めていた大空を見上げて、思いの丈を叫んでいた。
「あぁ〜、ツナ君〜♡ 私のツナ君〜♡」
読んでいただきありがとうございます♪
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