ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作6巻編 その③ 大空の下、動き出す者達

 

 

 —— side綾小路 —— 

 

 

 〜パレットにて〜

 

 カフェ「パレット」に到着した俺達は、平田達が確保してくれていた席に着いた。

 

「待たせてごめんなさい」

「全然構わないさ。じゃあ早速始めようか」

「おいおい平田、鈴音に茶を一口くらい飲む時間を——」

「必要ないわ。須藤君、あなたもこの後部活があるでしょう? 早く会議を始めるわよ」

「! お、おう!」

(……飼い慣らされてるな、須藤)

 

 堀北が忠犬須藤を落ち着かせると、平田と堀北を中心にペーパーシャッフルについての会議が始まった。

 

 

「それじゃあ、最初に小テストのことから話を始めましょうか」

「小テストに関しては、成績に一切反映されないらしいけど……僕は、そこまで勉強対策はしなくてもいいかなって思ってるんだけど、堀北さんはどうだい?」

「ええ。私も小テストの勉強対策はある程度でいいと思うわ。ただ、別の対策はしないといけない。それは平田君も同意見、ということかしら?」

「うん。そうだね」

「何々? 2人だけで納得しないでくんない?」

 

 平田と堀北で話を進めていると、話が理解できなかったのか軽井沢が口を尖らせて抗議した。

 

「あはは、えっとね〜簡単に言うとこういうことかな?」

「うん、何々?」

 

 堀北に変わり、櫛田が軽井沢への説明を買って出た。

 

「小テストは成績には反映されないから、事前の勉強は程々でいい。でも、小テストの結果でペーパーシャッフルの『ペア』が決定されちゃう」

「うん」

「ペーパーシャッフルにおいて、誰とペアになるかはとても重要な要素でしょ?」

「そう、らしいね」

 

 あ、こいつわかってないな。

 

「で、小テストの結果でペアが決まるなら、その法則を見つけ出せば、こっちの思い通りにペアを作れるねってことだよ」

「あっ、その法則を見つけようって話なのね!」

「そうそう、そういうことっ♪」

 

 軽井沢は理解したようだが、さっきから須藤が微動だにしないな。

 

「……須藤、理解できてるか?」

「……できねぇから、せめて邪魔しないようにしてるんだぜ?」

 

 キリッとした表情で返された。須藤お前、なんか悪い方向に成長してないか?

 

 1名理解を放棄しているが、そんなことにはお構いなしで話は進行する。

 

「期末試験の鍵を握るペアの選定には必ず法則がある。つまり法則を見つけ出せば、期末テストに向けた有利な一手が打てるはずよ」

「点数が近い者同士とか、そういうこと?」

「そうね、その可能性も高いと思うわ」

 

 軽井沢が何となく口にした法則に、堀北が同意する。

 

 そんな堀北に対して、平田はやや疑問を感じたのか笑みが消え真剣な顔つきに変わる。

 

「少しいいかな、僕はその法則性に対して、懐疑的な部分があるんだ」

「何かしら?」

「今言ったような法則があったとしたら、上級生に確認すればすぐに答えが出てしまうはずだ。例年同じ試験をやっているのなら、その法則が同じである可能性も高い。わざわざ先生が隠すようなことなのかな?」

「私もそれは少し疑問かも。仲の良い先輩なら教えてくれそうかなって」  

 

 櫛田が平田に賛同する。確かに簡単な法則なら最初から教えてしまっても差し支えないはずだ。だが、これまでの試験を考えるに、堀北の考えは正しいだろう。

 

 堀北のここまでの話の進行には文句のつけようもない。俺はどのようなスタンスを取るべきか考えていたが、とりあえずは堀北のサポートをするだけでいいかもな。

 

 ……いや、本当にそれだけでいいのか?

 

「平田君の言うことも分からなくはない。でも学校側は法則を見つけ出すことに否定的ではないんじゃないかしら。むしろ見つけられることが前提だと思ってるはずよ。それはこれまでの試験が証明しているわ」

「確かに、これまでの特別課題にはほとんど法則性があった。つまり法則を見抜くことがゴールじゃなく、法則性を知ることから試験が始まると? だけどそれじゃ、万が一法則を見抜けなかったときは壊滅的な結果を招いてしまう恐れもあるよね」

 

 平田はクラスの半数が退学してしまう、最悪のシナリオを想像したのだろうか。

 

「それこそが今回の試験の核なんじゃないかしら。もし私達が小テストによるペアの選定、その法則性を見抜けなかったとしても、安直に壊滅的な結果に繋がらないと思うの。だって例年でも1組か2組のペアしか退学者が出ていないのよ? 何かがおかしいわ」

「なるほどね。堀北さんは法則性を見抜けなかったとしても、期末試験への深刻な被害は出ないようになっていると考えているんだね?」

「ええ」

「一応、根拠聞いてもいい?」

 

 自信を含んだ堀北の態度に軽井沢が問いかける。

 

「想像してみて。もしも法則性を見抜けず試験に挑んだ場合、悲惨な結果が待っているとしか思えないでしょう?」

「そうだね。赤点に近い生徒2人がペアになったとしたら、かなり苦しいと思う」

「それが怖いからペア決定の法則性を見つけ出すんだよね? ……あれ?」

「そう。法則性は絶対に知っておきたい。そして平田君の言うように赤点に近い生徒達がペアを組む最悪の状況だけは絶対に避けたいと考える。けれど茶柱先生は、例年1組か2組の退学者が出ていると言った。1組か2組の退学者というのは少なすぎないんじゃないかしら? 仮にうちのクラスで成績の悪い生徒同士が不幸にもペアを組まされれば、それだけで10人近い生徒が脱落することになるわ」

「……なるほど。そういうこと、だね」

「ねぇ、どういうことなの? ちょっとよく分からなくなったんだけど」

「えっと、そうだね。どう説明したらいいかな。じゃあ一度頭を空っぽにするために、法則を見抜く見抜かないの話は一度置いておこう。もし仮に、僕らが『法則の存在を知らず』に試験に挑んだことを想定してみて欲しいんだ。どうなると思う?」

「えっ。ヤバイんじゃない? 頭の悪い生徒で偏ったら凄い退学人数になるかも」

「そう思うよね。でも例年退学者が出るのはDクラスのみで、しかも1組か2組」

「——あっ」

 

 堀北や平田の言いたいことをまとめるとこうだ。ペアの組み合わせは必然的に、バランスの取れた組み合わせになるように出来ているってこと。そしてそれが、法則が存在するという何よりもの証明でもあるということだ。

 

「これまでの話し合いから導き出される答え。それは『高得点を得た者と低得点を得た者がペアを組む』という法則。これ以外には考えられない。仮に私が100点、須藤君が0点であれば最大点と最小点の差が最もある2人が組む。こうすることでもっともバランスの取れたテスト結果がはじき出される」

「なるほど、そういうことね」

 

 納得のいった軽井沢だが、新たな問題が浮上してくる。

 

「でもさ、それって平均点くらいの生徒が一番危ないんじゃない?」

「そうね。点数が中央に寄るほど様々な危険性が高まるわ」  

 

 その通りだ。点数の低い生徒は高い生徒と組めるが、中間層は同じ中間層と組む可能性が高くなる。そうなると点差があまりないペアは合計点が低くなってしまうのが必然だからな。

 

「上級生に法則の確認をして同じ答えが返ってきたのなら、法則性の問題はそれで解決。私達は次のステップに進むことができるということよ。平田君と櫛田さん、上級生への確認をお願いしても良いかしら」

「もちろんだよっ」

「サッカー部の先輩達に聞いてみるよ」

 

 2人が快く引き受ける。これでまず、小テストの対抗策が見えて来た。

 

「あともう1つ聞きたいんだけど」

「どうぞ」  

 

 軽井沢からの疑問に対しても、堀北は嫌な顔ひとつせず促す。

 

「さっきからツっ君抜きでどんどん話続けてるけど、いいの? クラスのリーダー抜きで大事な会議しちゃって」

「……」

 

 体育祭以降、誰もはっきりとは明言しないが、『Dクラスのリーダーは沢田綱吉だ』という認識にクラス内で、いや学年全体で変わっていた。これまでは平田か堀北がリーダーという感じだったが、体育祭の沢田の見れば、その認識を改めてもなんら不思議ではない。

 

 なので軽井沢の疑問も最もなのだが、堀北はどう返すだろうか。俺達の勝手な判断でリーダーを締め出しているのだから、言い訳も難しいだろうな。

 

「……綱吉君は、ペーパーシャッフルではクラスの方針決定には関与しないわ」

「は? なんで?」

「私と綱吉君の話し合いで、そう決めた。彼には勉強会の指導役を頑張ってもらうつもり」

「はあぁぁ!?」

 

 おっと、そんなに正直に話すとは思ってもみなかった。

 

「な、なんでそんなことにしたの?」

「綱吉君は体育祭で、他のクラスメンバーの何倍もの貢献をしてくれたでしょ?」

「それはまぁ、そうだね」

「終わった後に倒れてしまったのは、心配したよね」

 

 確かに、体育祭における沢田の活躍はすざまじかった。

 

「だからこの試験では、少し小休止を取ってもらいたいというのと……単純に綱吉君抜きでもいいと思った、という理由もあるわね」

「いやいや、ツっ君はいないとダメでしょ!」

「そうかしら。今回の試験は、綱吉君よりも平田君が指揮を取ったほうがいいと思うわ」

「なんでよ!」

「試験の内容が期末試験だから……だね?」

「ええ、平田君の言う通りよ。問題作りも私と平田君、そして櫛田さんでやるつもり」

「えっ、えっ?」

 

 戸惑っている軽井沢に、平田が説明をする。

 

「今回の試験で最も大事なのは、対戦クラスに出す問題作りと、逆に対戦クラスから出される問題の対策。つまり、学力がかなり重要になってくるんだ」

「うんうん」

「そうすると、問題作りや対策をするのはクラスの中でも学力の高い人がするのが効率的だ。沢田君も成績はいいけれど、Dクラスの中では上位じゃない」

 

 確かに、Dクラスの学力ランキングをつけるなら……幸村と堀北が同率トップだとして、その後には平田や櫛田、その他数名が入ってくる。沢田は10位といったところだからな。

 

「それに、綱吉君は良くも悪くも真っ直ぐすぎる。だから、私や平田君が問題作りをしたほうがいいのよ」

 

 なるほど……嫌らしい捻くれた問題を出しやすいってことか。でも堀北、それだと平田も少し捻くれてるみたいな言い方になるぞ。……否定はしないが。

 

「私も賛成かな〜。ツナ君は生徒会も忙しいだろうし」

「あ、そっか。ツっ君副会長だもんね。頼りすぎるのもよくないか……」

「うんうん。今回は私と平田君と堀北さんとで頑張るよっ!」

 

 ……櫛田も問題作りに参加させるのか。

 まぁ当然と言えば当然だが、堀北は何を考えている?

 

「解決したかしら?」

「ん、まぁね」

 

 軽井沢の疑問が払拭され、次の議題へと移る。

 

「小テストの法則、その裏が取れ次第次のステップに進むとして、次に考えるべきはもう1つの方……どのクラスを指名して戦うか。私の答えはシンプル。狙うべきはCクラスただ1つよ」

 

 他の誰かの意見を聞く前に、堀北はまず自分の意見を述べた。そして根拠も続ける。

 

「理由は話すまでもなく総合的な学力の問題。CクラスはAクラスとBクラスに学力で劣る、それだけのこと。それはこれまでのクラスポイントを見ていれば歴然でしょう?」

 

 基本的な考えとしては間違っていないだろう。わざわざ学力の高いクラスに挑む意味は殆ど無い。だが、平田もそれを理解しつつ少しだけ補足した。

 

「賛成だよ堀北さん。だけど、AクラスとBクラスだって当然そこを突いてくる。Cクラスが学力で劣っていると仮定するなら、十分被る可能性もあるんじゃないかな。考えられる悪いパターンだと───」

 

 平田はノートに組み合わせをイメージして書き表した。

 

 AクラスがDクラスを指名→どことも被らずDクラスに確定 。

 

 BクラスがCクラスを指名→くじ引きに勝利→Cクラスに確定 。

 

 CクラスがBクラスを指名→どことも被らずBクラスに確定 。

 

 DクラスがCクラスを指名→くじ引きに敗北→Aクラスに強制確定 。

 

「悪いケースだけど、こんな形になることだって十分にあるんじゃないかな」

「うわ、こんなのになったら最悪じゃん。頭が良いAクラスに問題文作られるし、Aクラス相手の問題文を作んなきゃいけないんでしょ? 勝てる気がしないんだけど」

「そうね。Cクラスを別のクラスが狙わない理由はないでしょうね。だけど恐れて避ける理由もない。勝てる可能性を下げる必要はないでしょう?」

 

 くじ引きのリスクを負ってでもCクラスを狙っていくべきと主張する堀北。

 

「AクラスとBクラスには明確な学力の差はないのか? Cクラスとどれだけ違うとかも気になるんだが」

 

 ここで俺も、素朴な疑問をぶつけてみた。

 

「少なからずAクラスのほうが上なのは間違いないね。だけど、露骨に違うってほどじゃないと思う。BクラスとCクラスの総合学力には結構な開きがあるんじゃないかなぁ……。そのあたりにはしっかり探りを入れてみるよ」

 

 俺達はDクラスの平均学力は理解しているが、他クラスについては深く知らない。思い返せば学校側もそれを告知していない。唯一分かっているのはCPの差くらいなものだ。そこから学力だけを明確に推察できるわけじゃない。その点を見てもこういったテストを見据えてのことだったのかもな。クラスポイントの多寡が単純な学力の差でもない。もしBクラスの方がAクラスより学力で上だった場合には、手痛い結果を見ることにも繋がりかねないだろう。

 

「……色々と勘案した上で、堀北さんの案で決まりってことでいいかな」

 

 平田の確認に、全員が頷いて同意する。

 

「ありがとう。これで次の段階に進むことが出来そうだわ」

 

 ある程度打ち合わせで引っかかるところは出たものの、方向性はまとまった。16時を過ぎたところで解散となり、平田や須藤は部活へと向かって行く。

 

 軽井沢もマンションへと帰っていった。残ったのは俺と堀北、そして櫛田。

 

「じゃあ、私も先輩に試験のことを聞いたら報告するね」

「よろしく」

 

 ここでは特に、例の話に触れることも無く櫛田は去って行った。当然か。

 

「ふぅ。ここまでは上手く行っているわね」

「だな。ここまでの流れはほぼ100点、文句の付けようもない。お前も今回の予測には自信があるだろ?」

「ここまではね。でも期末テストに挑むには正面から実力をつける必要がある」

「だな。とにかくクラス全体で学力を向上させなきゃ話にならない。だが言い方を変えればある程度学力を高めれば簡単にクリアできる課題でもある。ま、そこは沢田の力を借りれば問題ないだろ」

「あなたも勉強会には参加してもらうわよ」

「ああ。だけど指導役はしないぞ」

「……あくまでも、あなたはサポートに徹するわけ?」

「ああ。俺のできる仕事はそれくらいだからな。後はお前の勝利にベットするだけだ」

 

 ……俺ががやれることとしては妥当な線じゃないだろうか。そう思ったがこの女は一筋縄ではいかないようだった。

 

「私はそれだけではないと思うけれど。あなたもDクラスの1人だし、何よりDクラスのリーダーの相棒だわ。ゆえに適した役割を与える。Dクラス全員で勝ち抜くために、ね」

「……考えとく」

 

 俺はそう答えてはぐらかしておくのが精一杯だった。

 

 

 

 ——同日、同時刻の放課後、ある教室の空気は異常なほどに凍り付いていた。  その原因は一目瞭然。Cクラスの教壇に腰を掛けクラスメイトを見下ろす男から放たれる威圧感だった。

 

 

「これまで俺達は、一体何度Dクラスに対して仕掛け、そして覆されてきたんだろうな」

 

 思い返すように話し出した男の名前は龍園翔。Cクラスのリーダーにして独裁者。その傍に姿勢良く立つのは山田アルベルト、石崎などの武闘派。万一龍園に歯向かう生徒が現れれば、鉄拳制裁も辞さない───という無言の脅しが感じられる。

 

「俺が王を務めるこのクラスが、敗北し続けたままなんてのは、絶対にありえねぇ」

 

それは一見独り言のようで、誰かに聞かせているような曖昧さを持った言葉。

 

「次こそ、完全にDクラスの息の根を止める。その為の作戦会議だ。お前達の奇譚なき意見を聞きたい」

『……』

 

 意見を求めるが、この状況で発言ができるのは、龍園と同じで教壇近くに待機している者達のみである。その中でも、最初に口を開いたのは伊吹澪だった。

 

「……次も、堀北を狙うわけ?」

「いや、今回狙うのは、沢田綱吉だ」

『!』

 

 龍園のその発言に、全員が驚いたような表情になる。

 

「何驚いてんだよ。これまでのことと、体育祭でのことを考えると、Dクラスの中で1番やっかいなのは鈴音でも平田でもねぇ。あいつだ」

「……そうだね、確かにそうかも」

 

 伊吹が肯定したことで、Cクラス全体のターゲットが、「沢田綱吉」へとロックオンされた。

 

「で、どうやって沢田を潰して、Dクラス全体も潰すわけ?」

「沢田はDクラスの核といってもいいはずだ。つまり、沢田を潰せばDクラスも終わり。あいつ以外に脅威になる奴はいねぇだろうからな」

 

 そう言うと、龍園は教団から飛び降り、クラスメイト達の座る席をゆっくりと周り始める。それにより、クラスメイト達はさらに萎縮していく。

 

「……さて。ここからが本題だ。お前らの中に、沢田についての情報を何かしら掴んでいる奴はいねぇか? ……おい、お前はどうだ?」

 

 龍園が1人の女子の前で立ち止まり、顔を覗き込んで聞く。しかし、その女子は首がもげそうなほどの勢いで横に振るのみだった。

 

「そうか……じゃあお前はどうだ?」

 

 龍園は適当に数人に同じように聞くが、どれも答えは同じ。クラスメイト達は誰も答えられないと、龍園の機嫌を損なってしまうとビクビクしている。だが、龍園もこの展開は予想していたので特に気分を害することはない。

 

 まるでエキシビジョンかのように速やかに数名への質問を終えると、満を時した感じで、またも1人の女子生徒の席で立ち止まる。

 

「……お前、確か沢田と仲良くしてたよな。なら何か知ってんだろ? なぁ、——ひより」

「……」

 

 龍園に声をかけられたのは、椎名ひよりだった。

 

 クラスの誰もがひよりが答えてくれることを期待したが、ひよりが答えたのは他の者達と同じような答えだった。

 

「残念ですが、龍園君の役に立つような情報は知りませんね」

「……それは、本当か?」

「ええ、本当です。ツナ君を潰すのに役に立つ情報なんて、持っていません」

「……フッ。そうかよ。ならいい」

 

 数秒ほどひよりの顔を見た龍園は、何かを察したのか軽く笑い、ひよりから離れていく。

 

 龍園がすぐに諦めたのは、本当に知らないんだと思ったからではない。ひよりが、『()()()()()()()()()()()()()()』。そう確信していると悟ったからである。

 

 その予想は当たっていて、本当はツナの情報などひよりは沢山持っているのだ。ゆえに言おうと思えば何かしら言えることは間違いなくある。それなのに口に出さなかったのは、やはり龍園ではどんな手を使ってもツナを潰せないと考えているからだった。

 

(……あなたが何をしようとしているのかはわかりません。——ですが、もう彼の仲間に手を出すようなことはやめるべきですよ、龍園君)

 

 そんなひよりの願いも虚しく、龍園はひよりの考える最悪の手を選択していくのだ。

 

「誰も知らないんじゃ仕方ねぇ。お前に聞くしかねぇなぁ……真鍋」

「ひっ!」

 

 龍園の手が肩に置かれ、Cクラスの女子生徒、真鍋志帆は体をびくっと揺らした。

 

「ど、どうして、私に聞くの」

「バレてねぇと思ってんのか? 体育祭の最後、沢田が活躍しだし時にお前は言ってたそうじゃねぇか。『船上試験の時は、私らに土下座してたくせに』……ってな」

「っ!」

「……話せ、その時の事を、詳しくな」

 

 真鍋は船上試験の際、クラスメイトの藪菜々美と山下沙希と共に軽井沢に対しいじめのような行為を行なっていたことを話した。そして、全てを聞いた龍園は、ギロリと真鍋を睨みつける。

 

「あの時、俺達の標的はAクラスだったはずだ。何を勝手に他のクラスに手を出してんだ? あ?」

「ひっ、ご、ごごごめんなさい」

 

 真鍋は勢いよく椅子から立ち上がり、そのまま床に額をつける土下座して見せた。

 

 その様子を見ていた龍園は、真鍋の目の前で腰を下ろす。そして、彼女の肩に優しく手を置いた。

 

「落ち着け。別に制裁を加えるつもりはねぇよ」

「……え?」

 

 まさかの言葉に、真鍋も顔を上げる。

 

「勝手とは言え、お前は沢田に土下座までさせたんだ。なら、沢田の弱みとか、何か知ってるだろ? それを教えてくれよ」

「……弱みって言われても」

「あ? まさかわからないとか言わないよな。そうなると、アルベルトの出番なんだが」

「ひっ……」

 

 龍園の後ろで拳を鳴らすアルベルト。その様子を見て、真鍋が一瞬だけ感じた安堵感も消え去ってしまう。

 

 あの大きな拳が自分の顔にめり込むのを想像し、恐怖で一杯になった真鍋は、必死であの船上試験でのことを思い返していた。

 

「……あっ」

「……?」

 

 何かに思い至った真鍋だが、こんな答えでもいいのかと不安になってしまったのか、中々口に出せないでいる。

 

 中々口を開かない真鍋に痺れを切らし、龍園は彼女の髪を掴み上げた。

 

「ぐ、ぅぅぅ!」

「……おい、何か思いついたんだろ、さったと言え」

「は、はい、言いますからっ!」

 

 涙目で懇願する真鍋。龍園はやれやれといった様子で掴んでいた髪を離した。

 

 そして、真鍋の席に腰掛けると、地面に座ったままの真鍋に話をするように促した。

 

「……で、何を思いついた?」

「あ、あの……これが正しい情報かはわからないんですけど……沢田の弱点は、〝クラスメイト〟だと思います」

「クラスメイトだと?」

「は、はいっ! 私達に土下座したのも、自分が軽井沢の身代わりになる。制裁も代わりに全て自分が受けるってあいつが言ったからなんです。だ、だから、あいつはクラスメイトの為なら何でもするんじゃないかなって……」

「……ほう」

 

 龍園は、真鍋の言うツナの弱点について深く思考する。

 

(……確かに、須藤の時も、鈴音の時も、あいつがでしゃばってくる時は全て俺達がDクラスの奴に手を出した後だった。須藤の時はわざと石崎達に自分を殴らせていた。そして真鍋の時は制裁の身代わりになろうとした。! そうだ、体育祭の時もあいつは……)

 

 思考の末、龍園の中に1つの答えが湧き上がった。

 

「……フッ、いい答えだな真鍋。これでお前の罪は不問としてやる」

 

 龍園がそう言うと、真鍋は体の力が抜けたのかへたり込んだ。

 

「よし、これで大体の考えはまとまったな」

 

 龍園は再び教壇に戻ると、クラスメイト達を見回す。

 

「普通の思考なら馬鹿げた考えだと一蹴するだろうが、馬鹿げた事を平気でする大馬鹿野郎には、その馬鹿げた考えが1番効果があるのかも知れねぇ」

「……で、その馬鹿げた考えってのは?」

 

 クラスメイトを代表して、伊吹が龍園に問う。

 

「簡単なことだ。Dクラスの奴を人質に取って、沢田を嵌める。まだその嵌め方は考えついていねぇがな」

「……正気? 人質に取るとか、大問題になるぞ」

「……かもな。だからその対策もしっかりと講じた上で、確実に沢田を……Dクラスを潰す」

 

 龍園は最度教壇に飛び乗ると、自身の支配する配下達に、1つの命令を出した。

 

「おい、雑魚ども。てめぇらで手分けして、しばらく沢田の交友関係を探れ。誰と特に仲がいいか、誰を攻撃されたら沢田に1番ダメージが行くか、とかを考えながらな」

『……』

「……行け」

 

 ——ガタッ。

 

 龍園の指示で、Cクラスの席に付いていた者達が一斉に教室を出ていく。全ては自分の身を守る為、ツナの仲間達を調べる為に。——しかしそんな中でも。ひよりだけは、席を立たずに教室に残っていた。

 

「おい椎名、てめぇも——」

「黙れ石崎、ひよりはいいんだよ」

「で、ですが」

「いいから黙ってろ——行くぞ」

 

 石崎が動こうとしないひよりに怒鳴ろうとするが、龍園はそれを止める。そして、周りに侍らせた配下達と共に教室を出ていく。

 

「……じゃあな、ひより」

「……はい、龍園君」

 

 廊下に出る寸前、龍園はひよりに声をかける。ひよりも、言葉を返した。

 

「……」

 

 1人になったひよりは、席を立って窓際に向かう。そして窓を開いて、夕焼けに染まりつつある大空を見上げた。

 

 綺麗なオレンジ色で満たされた大空だが、遠くの方に、ちらりと積乱雲が見える。

 

「はぁ、最悪な予想が現実になりそうです。……もうじき嵐が来るかもしれませんが、あなたならきっと、それさえも包み込んでしまうのでしょう。そうですよね、〝私〟の、大空さん」

 




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