ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— 教室、side ツナ ——
ペアが決定される小テストが翌日に控えたある日。6時間目のホームルームが始まると、茶柱先生は即座に教室を後にした。
そして、先生に変わるように平田君が教壇に出ていく。
「今日のホームルームは明日の小テストに向けての作戦会議を行いたいと思うんだ。茶柱先生には許可を得ている。ホームルームの時間は好きに使って構わないと言って貰えた。まずは堀北さん、いいかな?」
平田君の言葉聞き、鈴音さんが静かに立ち上がり、平田君の隣へと歩み出る。
今回の特別課題において、俺は余計な口は挟まずに静観するという約束を鈴音さんとしている。だからこの後鈴音さんが何を話すのかは俺も知らなかった。
「……まず始めに。次の小、期末テストに向けて私は全力で挑むと宣言するわ。そして今回の特別試験、ペーパーシャッフルはクラス全員が一丸となって闘わなければ乗り越えられないと思っているの。その為に、皆の力を貸して欲しい」
鈴音さんの言葉を聞き、最初は驚いた様子のクラスメイト達だったが、各々で頷き返していく。全員の意思を確認したところで、佐藤さんが質問を投げかけた。
「それはもちろんなんだけどさ、対策とかの打ちようってあるわけ? ペアの決め方とか、そういうのはわかんないんでしょ?」
「いいえ。ペアの法則は既に解明されたも同然。上手く運べばここにいる生徒全員に理想の相手をつけることも可能よ。平田君、お願い」
サポート役らしい平田君が合図を受け、黒板にペアの法則を書き連ねていく。
○ペア決めの法則
・クラス全体で見たとき、最高得点と最低得点の所持者がペアを組む 。
・次は2番目に成績の良い生徒と悪い生徒、次が3番目の~という法則に沿っていく 。
例・100点の生徒は0点の生徒と、99点の生徒は1点の生徒とペアになる。
「これが小テストが行われる意味とペアの法則。シンプルでしょう?」
「お、おぉーっ。これがペアの法則っ、良く見つけたな堀北! すげえぜ!」
「これくらいは多くの生徒が気づいているはず。それに大切なのはここからよ。以上のことからもわかるように、成績下位の人はほぼ自動的に成績上位者と組むように出来ているの。だけど常に例外は起こりうる。そこで確実で的確なペア分けをするための戦略を今から説明するわ」
鈴音さんも平田君の横に立ち、チョークを手に取った。
「これまでのテストの結果を踏まえて、点数に不安のある生徒達を重点的にカバーしつつ、成績上位者と計画を立てて組ませたいと思ってるの。個人的に不安を抱えている生徒もいるでしょうけど、全員をカバーできないのが実情よ」
確か、中間テストで満点を除いて平均80点以上だった生徒は11人。90点以上となれば6人しかいなかったはずだ。
内容が比較的簡単だっただけに、成績が良かった人がクラスの半数に届かなかったというのは大きな不安要素だろうな。 60点以下の生徒が多い中、全員を理想的なペア……つまりハイスコアの人と組ませられないのは現実として見えている。
そこで、成績の良い者と悪い者を10人ずつを強制的に組ませることで安定を図る、というのが鈴音さん達の狙いらしい。
「今から、このクラスを成績順で4つのグループに振り分けるわ。自分がどのグループか確認して頂戴」
平田君と鈴音さんとで、黒板にクラスメイトを成績順で振り分けた4分割の表が作られていく。
4つのグループとは、「HIGH」「MEDIUM-HIGH」「MEDIUM-LOW」「LOW」、の4つだ。
ミディアムの2つが残された中間層を2分割にしたものだろう。ちなみに俺の名前は、「MEDIUM-HIGH」に書かれていた。
「えっと、よくわからないんだけどさ。俺達はどうすればいいわけ?」
「LOW」グループで真っ先に名前が書かれた山内君が質問する。
「LOWグループの10人は、小テストでは名前を書くだけ……つまり白紙で提出してもらうわ。成績には反映されないから0点をとっても何のデメリットもないから安心して。逆にHIGHグループの10人には必ず85点以上を取ってもらう。そして残った2つのMEDIUMグループも、同じように10人ずつに振りわけていく。MEDIUM-HIGHの人には最大80点を目指してもらい、MEDIUM-LOWの生徒には1点取ってもらう。そうすることで、期末テストに向けたバランスの良い組み合わせが自動的に出来上がるはず。ただし後できちんと詳細確認をするわ。事故が起こる可能性もあるから」
なるほど。ここで大切なのは、0点を取る生徒と1点を取る生徒がペアにならないようにすることなんだね。 極力学力に差がある生徒同士を組ませなければならないと。
「僕もその案がいいと思っているよ。何も対策せずテストに挑むべきじゃない」
平田君が同調したことを皮切りに、クラス全体でも肯定の流れが出来上がっていく。おかげで、すぐに鈴音さん達の作戦で行くことが決まった。
——そして翌日。小テストの時間はあっという間にやって来た。
すぐにテストを始めると思っていたが、担任である茶柱先生は先に1つ話を始めた。
「これから小テストを行うが、その前にひとつ報告しておく。今回お前達が希望してきた期末試験でのCクラスへの指名だが───他クラスと被ることはなかったため承認された」
「AクラスもBクラスも、Dクラスを指名したということかしら? なんにせよ学力の低いCクラスへの挑戦権を運否天賦に頼らず得られたことは大きいわね」
まずは第一関門を突破できたようで、鈴音さんが安堵する。次はどのクラスがDクラスを指名したかだ。
「そしてDクラスに問題を出すことになったクラスだが───Cクラスで決定した。こちらも指名が被ることは無かった結果によるものだ」
おお。つまり今回の戦いはDクラス対Cクラス、Bクラス対Aクラスという形式か。
「理想的な組み合わせになったわね」
「そうみたいだな」
鈴音さんと綾小路君がそう言い合っている。
指名が被らなかったということは、上位クラスはそれぞれ直接対決で差を広げるため、詰めるために強敵を選んだ。そういうことなんだろうか。 とにかく上々の結果だったようだ。
「それにしても今からテストだというのに、池も山内も顔色が良いな。テスト前には目の下にクマを作ってくることも少なくないが秘策有りと言ったところか?」
「へへへ。まあ見ててくださいよ先生」
池君や山内君は自信満々の様子。まぁそれもそのはずだ。白紙で出せばいいとなれば、プレッシャーもないだろうからね。
この小テストは、変に点数を取ってしまうとペア調整に狂いが出るし、真剣に挑む方がリスクの高まってしまう、特殊なテスト。きちんと決められた動きを各々がする必要があるけれど、逆を言えば決められたことをしっかりやれば、作戦通りに事が運びやすいはずだ。
しかし、茶柱先生は自分の受け持ちクラスに忖度するとこはない。この学校の先生らしく、生徒達へと試練を与えてくる。
「後で後悔だけはしないようにな。真剣にテストに向き合った方がいいぞ」
「な、なんすか真剣って。成績とかには影響しないんですよね?」
「もちろんだ。成績への反映は全くない」
「だったら点数取らなきゃ安泰っすよ」
「お前の思い通りであるなら、な」
不安を煽るような言い方に、池君らLOWグループが一瞬静まり返る。
「点数とっておいた方がいいんじゃねえか……?」
須藤君も思わず落ち着きが無くなっている。 上手いやり方だ。茶柱先生は俺達がペア調整のために対策を練っているとわかっている。だからその調整の要であるLOWグループを惑わしにかかって来たようだ。
(……本当なら池君達に声をかけたいけど、今の俺にはできない。だから、全てを託した君に任せるよ。君なら必ずどうにかしてくれる、そう信じてる)
次の瞬間、俺が信じているパートナーが口を開いた。
「惑わされないようにしなさい。私達の計画に間違いはないわ」
慌てるクラスメイトに鈴音さんの一喝が飛ぶ。おかげで瞬時に須藤君も冷静さを取り戻した。
「……だな。鈴音を信じてやるだけだぜ!」
それを見ていた茶柱先生も、クラスの空気が戻ったことを確認しプリントを手にした。
「さて、それでは小テストを行っていく。くれぐれもカンニング行為はやってくれるな? たとえ成績に関係なかろうとカンニングすれば容赦ないペナルティを科すぞ」
列の先頭にプリントを渡し後ろに回させる。テスト開始までは伏せるよう言われているので、手元に回ってきたプリントをすぐ裏にする。
「始め」
やがて、茶柱先生の合図と共に小テストが幕を開ける。
「……まじか」
ゆっくりとプリントをひっくり返してみると、その内容に思わず声が漏れてしまう。多分驚いたのは俺だけじゃない。難易度が低めに設定されているのは想定していたけど、本当に簡単な問題ばかり。多分、リボーンに出会う前の俺でも赤点回避できるレベルである。
なるほど、茶柱先生が煽ってきたのは、この甘い罠に俺達がかからないようにとの先生なりの警告だったわけか。万が一不注意に飛び込んでいれば大惨事も起こり得た。でも、鈴音さんの一喝のおかげで、Dクラスが理不尽な結果に陥ることはないだろう。
—— 翌日 ——
小テストは問題なく終了し、翌日の4時間目に早くも返却日がやって来た。
「それではこれより、期末テストに向けたペアの発表を行う」
返ってきた小テストの結果と共に、決定されたペア一覧が貼りだされて行く。
鈴音さんと須藤君、平田君と山内君、桔梗ちゃんと池君、みーちゃんと佐倉さん。幸村君と井の頭さん。
綾小路君と鈴音さんの会話を聞いた感じ、ほぼ想定通りのペアが発表されたようだ。
ちなみに俺はというと───。
〝沢田綱吉——軽井沢恵 〟。
「お、軽井沢さんか」
チラリと視線を向けてみると、彼女も俺の方を見ていたようで視線が合う。笑顔で手を振ってきたので、こちらも笑顔で手を振り返しておこう。
「この結果を見るに、お前達は小テストの意図を理解していたようだな」
張り出したペアの一覧を見て茶柱先生が感心する。
「点数の最大点と最小点の差が広い生徒から順にペアを組む。点数が等しく同じ場合にはランダムで選ばれることになっている。もはや説明は不要だろうが伝えておく」
「組み合わせ、露骨に厳しいところはなさそうだな」
「ええ。ここまでは怖いくらいに順調ね。だけど本番はこれからよ。どうやって問題を作っていくか、どうやって期末試験を乗り越えるか」
鈴音さん達も、読みが当たっていて一安心と言うところだろう。
そして昼休みに入ると、俺の席の周りに鈴音さん・綾小路君・桔梗ちゃん・平田君が集まってきた。
「今回もクラスの平均点を高めるために、期末テストまでの間勉強会を開くわ。今回は先生役が数名確保できるから、1日2部制にしようと思っているの。学校終了後の午後4時から午後6時までの2時間勉強する1部と、部活動組に配慮した午後8時から午後10時の2部。それぞれ持ち回りを決めてやるわ」
「僕は部活組だから、当然2部を担当するよ。皆で協力して頑張ろう」
実に堅実。教えられる人間が増えたからこそ取れる戦略だな。
「わかった。俺も先生役で参加、ってことでいいんだよね」
「ええ、お願いするわ。それで、できるなら綱吉君には、生徒会がない日は2部とも参加して欲しいのだけど……いいかしら」
「うん、大丈夫」
「私も2部とも参加するよっ! 頑張ろうねツナ君!」
「ありがとう。ちょうどいいし、櫛田さんと綱吉君にはMEDIUM-LOWグループを重点的に見てもらうことにするわ。LOWグループは私や平田君で見るから」
それからの話し合いで、正式に決定した内容はこうだ。
1部の監督役として鈴音さん。2部の監督役に平田君。2人には勉強会の全体を支えつつLOWグループへの指導を担当してもらう。
俺と桔梗ちゃんは1部2部両方に出席しつつ、特殊な立ち回りでMEDIUM-LOWグループの勉強を見る。
勉強会の詳細が決まり、解散しようとしたその時。ふいに声をかけてくるクラスメイト達がいた。
「……少し相談したいんだがいいか」
……三宅君と長谷部さんだ。
「三宅君? どうかしたの?」
この2人は日頃から物静かで、誰かと絡む様子を殆ど見かけない。だから意外な組み合わせだった。
「2人は確か───今回の期末試験じゃペアを組むことになってるよね?」
共通点を見いだした平田君が聞くと、三宅君が事の次第を話し始めた。
「俺達、試験でペアになったんだけどな、どっちもテストの得意不得意が被ってるんだよ。それでちょっと困ったからアドバイス貰いたくてな」
そう言い、小テストと中間テストの答案用紙を差し出してきた。
ペアを決める小テスト、その互いの平均点は対照的で三宅君が79点、長谷部さんが1点と狙い通り離れている。鈴音さんが目指していた成績上位と下位の生徒で上手くペアが組めているように見えた。だがここに誤算があった。2人の中間テストの平均点数は65点と63点。学力に差は殆どない。僅差でMEDIUM-LOWとMEDIUM-HIGHに振り分けられたということか。
どちらも普通に良い点数を取れそうだけど、そこに落とし穴があったようだ。2人の得意不得意の傾向があまりにも似通っていた。
「なるほど、それはちょっと想定外だったわね。他のペアの確認も後でしましょう」
テストの内容を見るに、2人とも普通に頭はいいだろう。得意不得意がハッキリしすぎているのが問題だった。全体的に勉学が苦手な人とは少し違う異色な感じだな。
「どうするのがいいかしら。あまり勉強の範囲ややり方を複雑にはしたくないのだけれど……」
「そうだね。できればマンツーマンで教えたほうがいいとは思うんだけど……」
どうすればいいかと悩む鈴音さんと平田君。
よし、こういう時こそ、サポーターの出番ってものでしょう!
「じゃあ俺が2人と勉強するよ」
「え、いいのかい?」
「うん。1部と2部の空き時間とかで出来ると思う。生徒会もテスト期間はほとんど仕事ないしね。2人が俺で良ければ、やらせてもらうよ」
そう言って視線を向けると、三宅君も長谷部さんもすぐに頷き返してくれた。
「沢田、ぜひとも頼む」
「私も沢田君ならいいかな」
「オッケー、なら決定ってことで。あ、あと他にも2人みたいなペアがいれば、少人数での勉強会にしてもいいかな」
「俺はかまわない」
「ん〜、別にいいけど、なるべく少人数でよろしくね?」
2人の了承を得て、今度こそ勉強会の詳細が正式に決定となった。
—— 放課後 ——
放課後になりさっそく勉強会に向かおうとすると、みーちゃんに声をかけられた。少し後ろには佐倉さんもいる。
「ツナ君、ちょっとお願いがあるんだけど」
「ん? どうしたの?」
聞き返すと、みーちゃんは後ろにいる佐倉さんに声をかけ、背中を押して俺の前に連れてきた。
「ほら、愛里ちゃん。自分で言ったほうがいいよ」
「は、はい。……あ、あの。沢田君」
もじもじとしながら、何かを伝えたい様子の佐倉さん。俺は彼女が次の言葉を言うのをただ待った。数秒の沈黙の後、佐倉さんはゆっくりと話し始めた。
「あの、あのね? 沢田君が少人数の勉強会をするって聞いて……それで、あの、わ、私もその勉強会に参加させてもらえませんかっ!?」
顔を真っ赤にしながら、凄い勢いで言い切った佐倉さん。
「佐倉さん、みーちゃんとペアだったよね。1部とか2部の勉強会はいいの?」
「あ、あうぅ……」
「あのね、愛里ちゃんって大人数より少人数の方が集中できるんだって」
口籠る佐倉さんにみーちゃんが言葉を付け足す。よくわからないけど、とにかく勉強を頑張りたいってことでいいんだよね。
「わかった。一緒に勉強しよう」
「! あ、ありがとうっ!」
「愛里ちゃんよかったね」
「う、うんっ!」
「じゃあ、一緒に行こうか佐倉さん」
「は、はひっ!」
(……ハルのマネかな?)
その後、佐倉さんと共に、待ち合わせ場所であるパレットへとやってきた。
「お待たせ〜って、あれ?」
パレットの入り口付近には、すでに三宅君と長谷部さんがいたのだが、なぜか綾小路君と幸村君も一緒にいた。
「綾小路君。どうしたの?」
「俺もこの勉強会に参加する」
「え? 綾小路君、鈴音さんの1部に参加するって言ってなかった?」
「……堀北にこっちに行けと命令されたんだ」
「あ、そ、そっすか……」
まぁ断る理由も、つもりもないけどね。ありがたいことに先生役もしてくれるらしい。
「幸村君はどうしたの?」
「沢田と一緒に教師役を担いたい。……そう堀北と平田に志願したんだ」
「本当? ありがとう。助かるよ」
「俺は体育祭で役に立てなかったからな。こんな時くらい俺もクラスに貢献したいんだ」
そういえば幸村君は運動が苦手だったな。それを気にしちゃってたようだ。
「別に気にしなくていいことだけど、参加してくれるのは嬉しいよ。あ、佐倉さんも参加するから、先生役が3人になってちょうど良かった」
後ろにいる佐倉さんの参加も周知し、早速俺達は勉強会をするべく店内へと入った。
—— パレット ——
6人座れる席を確保し、改めて場を仕切りなおす。
教えやすいようにと、俺・綾小路君・幸村君。佐倉さん・三宅君・長谷部さんの先生と生徒という二手に分かれた。
「えっと、とりあえずよろしくね」
「一応何か質問があれば先に受け付けるけど」
綾小路君がそう聞くと、長谷部さんが軽く手を挙げてから言った。
「綾小路君って喋るんだ」
「……いきなり出てきた質問がそれか」
長谷部さんは少し興味深そうに彼を見ている。珍しい動物でも見ているみたいだ。
「なんていうか、全然印象なかったから。休んでても気づかない生徒みたいな?」
「……否定はできないな」
「いやいや、否定して? 綾小路君、結構クラスの為に動いているんだから」
「え、そうなの?」
「へぇ」
興味津々な長谷部さんと三宅君が食いついてきたので、自分のことでもないのに誇らしさすら感じながら説明する。
「そうだよ。俺も何度も助けられてきたし。……でも恥ずかしがり屋だから、表に出たくないんだよね」
「ぷっw 綾小路君、恥ずかしがり屋さんなんだ〜」
「……違う。目立たずひっそりと暮らしたいだけだ」
「え〜? あ、沢田君。これも照れ隠しなの?」
「そうそう。本当は友情に熱い男なんだから」
「……友情?」
「え、そこ疑問系にしちゃう!?」
「……なぁ。そろそろ本題に入っていいか」
待ちくたびれたのか、幸村君がそう言った。おしゃべりは終わりにして、勉強会を始めよう。
「昼休みに言ってあった、1学期と前回の中間テストのテスト用紙はある?」
「あるよ」
「佐倉さんは〜、持ってないよね」
「あ、沢田君に勉強教えてもらおうと思ってたから、ちょうど持って来てるよ」
長谷部さん、三宅君、佐倉さんからをテスト用紙を受け取り、先生役3人でその中身を同時に確認していく。そこから出る結論は……。
「長谷部と三宅は見事な理系だな」
「……だな。文系教科の殆どが壊滅的だ」
2人とも数学の点数は70点ほどと比較的高得点だが、国語や世界史に関しては40点ほど。これなら2人が心配になるのも頷ける。
——そして。
「佐倉さんは逆に文系だね。理数系が苦手みたいだ」
「……分かれたな」
「そうだな……」
教えるべき3人のうち、2人が理系で1人が文系か。これは、2手に分かれたほうがいいかもしれないな。……そう言おうと思った時、幸村君から提案があった。
「じゃあ、長谷部と三宅は俺と綾小路でみよう。沢田は佐倉を見てやってくれ」
「あ、うん。了解」
「綾小路もそれでいいか?」
「ああ、かまわない」
「決まりだね。佐倉さん、頑張ろうね」
「う、うんっ! さ、沢田君と2人で///」
「あ、分かれるけど、今みたいに集まってやるでしょ?」
「そうだな。一緒にしたほうが、何か行き詰まった時にいいだろう」
「……あぅぅ」
「? 佐倉さん?」
「よし、じゃあ具体的な勉強方針を考えていくぞ」
何かがっかりしている佐倉さんを心配しつつ、幸村君を中心に3人のこれから勉強方針を考えていく。
「長谷部と三宅は……この辺を重点的に」
「佐倉さんは……ここからここまで……ん?」
ふと視線を感じ、何となくその方向へと視線を送った。すると数人の男子生徒がこちらの様子を窺いながらどこかへと電話していた。
その時、見覚えのある生徒3人が店内に入ってきた。Cクラスの石崎君・小宮君・近藤君という、いつもの仲良し3人組だ。
石崎君達はこちらに時折視線を送りながら、パレットのレジ横に置かれてあるショーケース前まで足を運んだ。そこはドリンクと一緒に食べたり、持ち帰ることが可能なケーキが陳列、販売されている。
石崎君が店員さんと会話をし始めた。注文しているみたいだけど、一向にショーケース内に手を伸ばす気配はなく、店員さんの顔が段々と困ったような申し訳ないような表情に変わっていく。
(——何をしているんだ?)
「なんとかなんねーのかよ!」
(!)
痺れを切らした石崎君が叫び、騒がしかったカフェ内が一瞬大きくボリュームを落とす。
「そう仰られましても。そういった特注のケーキであれば、あと1週間は早めに言って頂かないと対応が難しく……とても当日では対応できません」
そんな対応の声が聞こえてくると共に、再びパレットは何事もなかったかのように騒がしくなる。
なるほど、ケーキの注文で揉めてるのか。特注のケーキは、当日受けてくれるような店はこの敷地内に1店舗しかないからなぁ。
「なにあれ」
「さあな。ほっとけよ」
長谷部さんがペンをクルクルさせながら、石崎君らを少し気持ち悪そうに見る。三宅君も同様だ。
「三宅の言う通り。俺達には関係ないことだ」
幸村君は関心を示すこともなく、3人の中間テストを見て何かを書き出していた。そして、綾小路君と佐倉さんは、ショーケースを見て何かを呟いていた。
「ケーキか……」
「……ケーキ、いいなぁ」
(? ——あ)
そうだった、もう明日だったよな。一応準備はしてるけど、せっかくならこのメンバーで……っと、今はそれよりも店員さんを助けないと!
——ビリリ。
俺はノートの一部をちぎり、そこに文字と地図を書き込んでいく。
「沢田君? どう、したの?」
「——ちょっと行ってくるね!」
「えっ?」
心配したのか声をかけてくれた佐倉さんにそう告げ、俺は石崎君達の元へと向かった。
「いいから、さっさと作ってくれりゃいいんだよ!」
「で、ですから、それはできません」
「! てめぇ、いい加減に——」
今にも店員さんに手が出てしまいそうだったので、俺は急いで石崎君を止めに入り、上がりかけた彼の腕を掴んだ。
「止めなよ、石崎君」
「なんだてめぇ、俺の腕を離……っ、沢田!」
「店員さんも困っているじゃんか。一体何をそんなに騒いでいるの?」
「……ちっ!」
舌打ちをしながら、俺に掴まれた腕を引っ込める石崎君。相当イラついてるようだな。
「……ちょっと豪勢なケーキを頼みたいだけなのに、この店員ができないって言うんだよ」
「ちょっと豪華って……どういうの?」
詳細を聞くと、石崎君は手に持っていたメモを見せつけてきた。そのメモに書かれていたのは、数種のフルーツがふんだんに使われたケーキで、確かにすぐに受けられそうにはないものだった。
「……元々、特注ケーキは1週間前には予約するって決まりなんだから、潔く他の店を探しなよ」
「もう他の店で断られまくってんだよ! ここが最後の砦なんだ!」
なるほど、それであんなにしつこく頼んでいたのか。でも無理なものは無理なのだから、お店に迷惑をかけてはいけない。
「……ほら、この店に行ってみて」
「ああ? どこだよここ」
俺はさっき書いたメモを石崎君に渡した。そのメモには簡単な地図と、とあるお店の名前が書いてある。
「ケヤキモールの近くにあるケーキ屋さん。そこなら当日でも特注ケーキを受けてもらえるはずだから」
「なにっ、それは本当だろうな」
「夏休みに、誕生日ケーキを当日注文したことがあるんだ。だから信用していいはずだよ」
「……おいっ、行くぞ!」
石崎君達が急いでパレットを出て行く。あ、あいつら店員さんに謝っていかなかったな。
「あの、ご迷惑おかけしました」
「あ……いえいえっ! 助けてくださってありがとうございました!」
代わりに店員さんに謝罪して席に戻ると、長谷部さんがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「へ〜。あんなふうにサラッと助けちゃうんだね〜」
「え、うん。店員さん困ってたし」
「さ、沢田君は優しいもんね」
「……だからって、自分から面倒ごとに飛び込んで行くか?」
幸村君から呆れたようにそう言われると、綾小路君も加わってきた。
「普通なら無視するだろうが、こいつはそれができないんだよ。世界一のお人好しだからな」
「あはは、確かに。キョーちゃんに聞いてた通りのお人好しみたいだね〜」
「キョーちゃん? ……あ、桔梗ちゃんのことか」
「えっ、今の呼び方で誰か分かったのか?」
「こいつ、変なところで鋭いからな」
今日は綾小路君がやたらとこいつ呼びしてくる。なんか距離が縮まったみたいでいいね。相棒になったし、もう親友と言っても差し支えないかも。
「……あ、もう暗くなってきたな」
「だね。今日はそろそろ終わりにする?」
「そうするか。後は家でそれぞれ考えよう」
日が落ちてきたので、その日は結局大方の勉強方針を決めるだけで解散となった。
明日からは、一部と二部の勉強会もあるし、忙しくなるぞ!
—— side綾小路 ——
「勉強会が終わったら、Dクラスの教室に戻ってきて」
——堀北からそうメールが来たのは、パレットでの勉強会がちょうど終わることだった。
(……なんで教室なんだ?)
「綾小路君? どうかした?」
「……なんでもないぞ。沢田、俺はこの後野暮用があるから、先に行かせてもらっていいか」
「わかった。じゃあまた明日ね」
「ああ。また明日な」
勉強会が終わるとすぐにパレットを出て、俺は学校へと戻った。
〜Dクラス教室〜
——ガララ。
「! 綾小路君、来たのね」
「ああ。待たせたか」
「いいえ。大丈夫よ」
堀北らしからぬ優しい返事をすると、俺を教室の隅に呼び寄せた。
「……で、呼び出した理由は?」
「この後、櫛田さんがここに来るわ」
「! 例の勝負を持ちかけるためか」
「ええ。……でもその前に、あなたに聞いて欲しいことがあるのよ。——私と櫛田さんの関係について」
「お前と櫛田の関係? 同じ中学だったってのはこの前聞いたぞ」
「そうね。でも、当時に起きたある出来事のことをまだ話していない」
「?」
俺が首を傾げると、堀北はある出来事について話し始めた。
「私が卒業を間近に控えた中学3年生の2月も終わりかけのある日、1つのクラスが集団で欠席する出来事があったの」
「……インフルエンザが蔓延した、ってわけでもないよな?」
「ええ。情報は私の耳にもすぐ回ってきたわ。ある女子生徒が引き金となって、クラスが崩壊するほどの事件が起きた、と。そしてそのクラスは卒業するまでの間、原状回復することはなかった」
「その女子生徒ってのは、この場合考えるまでもないよな?」
「櫛田さんよ。でもどうして学級崩壊にまで追い込まれたのか、その詳細は分からない。おそらく学校側が徹底して情報を伏せたんじゃないかしら。明るみに出た場合、学校の信頼度が落ちて、多くの生徒の進学や就職にも大きな影響を与えかねないし。それでも臭いものに蓋は出来ない。生徒間では色んな憶測も踏まえて噂がたっていたわ」
「断片的にでも聞こえてきたことはないのか?」
どんな事件だったかの概要が知りたい。堀北は当時を思い返すように話し出した。
「事件が明るみになった直後に、その話をしている同じクラスの生徒がいたわ。何でも教室は滅茶苦茶にされて、黒板や机は誹謗中傷の落書きだらけだったとか」
「……櫛田が虐められていた、なんて線は考えられるか?」
「どうかしらね。本当に幾つも噂が飛び交っていたから。クラス内の誰かが虐められたとか、逆に虐めたとか。ひどい暴力行為を振るったなんて話もあったかしら。でも曖昧だわ」
とにかく無数の噂話が流れたらしい。
「でも、そんな噂も瞬く間に聞かなくなった。誰もそのことについて話をしなくなったの。クラスが1つ崩壊に追い込まれたのに最初から、全て無かったかのようにされてしまった」
……どこかで圧力がかかった、ということだろうか。
「何にせよ情報統制されていたのなら、櫛田がクラス崩壊の原因だとお前が知らなくても無理ないな」
「ええ。……私が話したかったのはこれだけよ」
「……そうか」
なぜこの話を今してきたのか。それはきっと、今回も同じような状況になる可能性もあると俺に伝えたかったのだろう。
櫛田が引き金でクラスが崩壊した、なんて噂が広がれば、今の櫛田が築きあげてきたイメージは崩壊してしまうだろう。そうなると、この事件を知る者は存在すら許せないのもある意味納得だ。
「話を整理すると、櫛田が起こした事件があって、お前はその事件のことを詳しくは知らない。だが、櫛田本人はお前が知らないとは思っていない。同じ中学出身である以上、ある程度その内容を知っていると考えた。ゆえに排除にかかっている。そういうことだな」
「……そういうことよ」
ため息をつく。これで堀北がどういう状況下に置かれているのかが見えてきた。
ようは、始まりは櫛田の一方的な勘違いと敵対心だったわけだ。それだけ過去の事件は櫛田にとって大きなものであり、絶対に隠し通したいものであるとも言える。
きっと堀北が事件のことを知らないと言っても信じないだろう。中身をどこまで把握しているかは櫛田にとっては些細なことなのかも知れない。本来の意味では矛盾になるが『事件』に関連する話をした時点で、自分の過去を知られたも同然なんだろう。
……これだけでも非常に厄介だな。加えて今は、沢田という男を独り占めしたいという欲望まで追加されているときたもんだ。おかげで沢田が自らパートナーや相棒と呼称する俺達は、奴にとって世界で最も消したい存在になってしまったようだ。
「私達は櫛田さんに面と向かって言われたわ。お前達をどんな手を使ってでも追い出すと。彼女はDクラスが窮地に追い込まれても、きっと私達への攻撃の手を緩めない」
「厄介だな。自分の過去を隠すため……というか沢田を手に入れるためなら、中学時代のようにクラスを崩壊させることもいとわないかもしれない。そして、もし最悪そういう行動を自分が取っても、沢田がいれば大丈夫という歪んだ信頼が出来上がってるんだろうな」
「ええ。クラスの崩壊は綱吉君が防ぐと信じているのでしょうし、何をしても彼が自分を責めることはない。体育祭でそう確信したのでしょうね」
「……」
「……」
——ガララっ!
『!』
堀北との会話に間ができると、教室のドアが開かれて、廊下から櫛田が現れた。
「あ、2人とも早いね。お待たせ〜♪」
櫛田はいつも通りの笑顔なのだが、全身から何か不吉なオーラのようなものを放っている気がした。
「……いえ、急に呼び出してごめんなさい」
「ううん、私もちょうど2人に話があったから♪」
「え?」
「……話ってなんだよ」
「気にしなくていいよ! きっと君達の話と同じだと思うからっ♪」
「俺達の話と同じ、だと?」
「……じゃあ、櫛田さんの用件から聞かせてもらえるかしら」
「そう? じゃあ単刀直入に言うねっ♪」
櫛田の放つ異様な雰囲気に、堀北が会話の主導権を櫛田に受け渡してしまう。そして、次に櫛田の口から放たれたのは、堀北が言おうとしていたものと全く同じだった。
「——2人の退学を賭けて、期末テストで私と勝負しない?」
——次回。櫛田桔梗のやばさがついに全開に。
読んでいただきありがとうございます♪
感想もお待ちしています!