ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— side綾小路 ——
「――2人の退学を賭けて、期末テストで私と勝負しない?」
『……』
こちらが吹っかけようとしていた勝負を、櫛田の方から吹っかけられてしまった。
「あれ? 2人が呼び出してきた理由とは違った?」
「……いいえ、全く同じよ」
「あ、やっぱり? 私と堀北さん、意外と似た者同士だもんね〜」
「……何を言うの。私とあなたの性格は、似ても似つかないわ」
「性格とかじゃないよ〜。中身っていうか……本質? みたいなものだよ」
……本質? 根本的なところが似ているとでも言いたいのか?
「……そんな話より、勝負についての話をしましょう」
堀北は咳払いをし、ニコニコしている櫛田と話を詰めに入る。
「勝負は私と櫛田さんの1対1での勝負」
「あら? 綾小路君は勝負に参加しないの?」
「……俺は、堀北の勝ちにベッドするだけだ。堀北が負ければ、俺も負けでいい」
「あははっ! いいねぇ、2人と別々に勝負するよりわかりやすいよ」」
いまだ笑顔の櫛田だが、その瞳には狂気が潜んでいる気がしてならない。
「総合点ではなく、期末テストで行われる8教科の内1つで勝負、ということでどうかしら。櫛田さんが自由に得意科目を選んでもらって構わないわ。そして、もしあなたの点数が私の点数を上回ったら、その時は私と綾小路君は自主退学を申し出る」
「それでいいよ。逆に、私が負けたらどうすればいい?」
「もう私達を退学させようとしたり、クラスの妨害をしないで。同じクラスの仲間として、私達と共にAクラスを目指してほしい」
「……わかった。その条件を呑むよっ♪ 希望科目は数学。勝敗の決定はさっき決めた通りで、もし同点だった時は無効……ってことでいいかな?」
「ええ、その内容で勝負しましょう」
堀北の提案を櫛田が受け入れ、俺達の勝負は成立した。
「期末試験が楽しみだね、堀北さん」
「ええ。お互いに全力を尽くしましょう」
「うふふ。じゃあ私はこれで——」
「待て、櫛田」
「!」
教室を去っていこうとする櫛田を呼び止めた。その理由は、俺には奴にどうしても聞きたいことがあったからだ。
「なあに? 綾小路君」
「……勝負の前に、お前が隠し通そうとしているもの……中学時代にお前が起こした事件について教えてほしい」
「……」
「ちょっと、綾小路君!」
「退学を賭けた勝負するんだ。俺達には聞く権利があるだろ」
「……そうだね〜、まぁいいかな。冥土の土産に聞かせてあげる♪」
そして、櫛田は今まで誰にもしてこなかったであろう、心の奥底を吐露し始める。
—— 櫛田桔梗の独白 ——
ねぇ2人とも。他人にはない自分だけの価値を感じる瞬間って最高だと思わない?
ほら、小学校の頃は、小さな課題をクリアするだけで周囲がチヤホヤしてくれたでしょ。
テストで1番を取ったり、駆けっこで1番を取った時、皆が注目してくれるよね。凄い、格好いい、可愛い、そんな視線を浴びる瞬間があるじゃない?
承認欲求っていうのかな。誰しも必ず持っているものだけど、……私は多分、それが人よりもずっと強くて依存してるんだと思う。だから目立ちたくて仕方がないし、褒められたくて仕方がないの。それが叶った瞬間に自分の価値の高さを実感する。生きてるって最高だと感じることができる!
——けど私は、私の限界を知ってる。
どれだけ頑張っても、いつからか勉強やスポーツでは1番にはなれなくなってしまった。2番や3番じゃ欲求を満たすことが出来ないのにね。
だから考えたんだ、誰もやりたがらないことを率先してしようって!
勉強を見てあげて、手伝ってあげて、慰めてあげて!
誰よりも優しく、誰よりも親身になって!
……おかげで私は1番になれた! 学校で1番の人気者にねっ♪
そこで覚えちゃったの! 頼りにされて、信頼されることの快感を!
……あぁ〜。気持ちよかったなぁ〜♪
……でもね、皆がやらないことをやり続けるのは、苦痛だよ?
……苦痛に決まっているよ。
人気を維持するため、手に入れたものは捨てられない。
……耐えて、耐えて、耐え続けた。
でも、耐え続けるなんて……無理だった。
そんな私の心を支えてくれたのは……ブログだったんだ。
誰にも言えない内に秘めたストレスを、ブログでは全部発散することができた!
そしたらすーっとね? 溜飲が下がって行ったんだぁ〜。
——だけどある日。ブログをクラスメイト達に発見されてしまったの。
いくら匿名であっても、書いてる内容ですぐに私が投稿したものだと気づかれてしまった。
みーんなが私を責め立て始めたよ。まぁクラスメイト全員の、無数の悪口を見られちゃったんだから仕方ないんだけどさ〜。
今まで……今まで私に散々助けられてきたくせに! ぜーんぶ掌返し!
私に告白してきた男の子も! 彼氏に振られた時に慰めてあげた女の子も!
……まぁ? 男の子は気持ち悪いから死んでほしいって思ってたし?
女の子の方も振られた理由なんて顔見りゃ分かるって思ってたけど〜。
とにかく私は身の危険を感じたの。クラスメイト全員が敵に回っちゃったんだもの。
だから。だから私……武器を使ったんだ。
え? なんのことかって?
——それはね、「真実」、ってやつだよ。
全部ぶちまけたんだ。ブログにも書いていなかった、クラスメイト達全員の真実を!
あいつは誰と二股してるとか、あの子はこの子の悪口を裏サイトに書き込んだとか、皆の中にある〝真っ黒〟な真実を!
そしたらね? 私に向けられていた言葉の刃が! 私以外に向けられるようになった!
男子は殴り合いを始めたり、女子も髪を引っ張ったり張り倒したりで、教室の中はもう大騒ぎになっちゃって。あの時は本当に凄かったなぁ。ははははっ、ざまあみろ!
……ふぅ。仕方がないよね〜。皆が私を褒めてくれなくなったんだもん♪
私も当然学校に責められたけど、やったのは匿名でブログに悪口を書いただけ。それにクラスメイトに真実を話しただけだから学校も処分には困ったみたいだね。結局停学にも退学にも留年にもならずに済んだんだ。
あ、これはさすがに堀北さんでも噂を聞いていないと思うんだけど、実はこの後にもう一悶着あったんだ。
クラスが崩壊した後、私は保健室登校をすることになったんだけど、その時に毎日私に会いに来る同級生がいたんだ。堀北さんも覚えてるかな? ほら、事件の後に退学しちゃったサッカー部のエースストライカー君だよ。
その時はすでに、学校内で私のクラスが崩壊したことは有名になっていて、私がクラスを崩壊させた張本人だって噂も流れてたし、彼はきっと慰めにきてくれたんだろうね。
毎日毎日、昼休みと部活前に保健室に来ては「俺は櫛田のことを信じてるぜ、あんな噂気にすんなよ」って言ってた。まぁ、本当は体目当てなのは、視線でバレバレだったけどね。
そして私が保健室登校を始めて、1週間ちょっと経った頃かなぁ。その子がね、一緒に帰ろうぜって誘ってきたの。
私、その誘いを受けちゃったんだ。その子は女子を喰い散らかしてるって有名だったし、どうせワンチャンあるくらいに思ってるんだろうってわかってたんだけど、さすがにそろそろ承認欲求が爆発しそうだったし、その子に私の承認欲求を充電させてやろうくらいの軽い気持ちで。
それでね。私の家より先にその子の家の前に着いたんだけど、「ちょっと寄って行けよ」って案の定な誘いをされたんだ。
うわぁ、露骨でキモいって思ったんだけど、あまりにもしつこいから仕方なくお邪魔することにしたの。
やっぱりというか、その子の両親はいなくて、すぐにその子の部屋に通された。
で、その子の部屋に入った瞬間。
「へへっ!」
「きゃっ!」
……私は床に押し倒された。「家に来たってことはOKってことだよな?」とか意味不明な持論を叫んでたな。
私は一応「やめて」って言って抵抗していたんだけど、その子は止まらなくて私の胸を触ってきた。
「——はい、これで証拠ゲーット」
「え」
私は冷静にそう言うと、その子はキョトンってしてた。そんな彼に、私は「制服の胸の部分にお前の指紋がはっきりついた。これを証拠に学校に訴える」って言ってやったんだ。
そしたらその子逆上しちゃって、私に襲いかかってきたからさ、念のため持っていた暴漢退治用の電力弱めのスタンガンを使ったの。
見事に決まって、痺れで動けなくなってたから、その子が動けないうちに私は逃げ出した。
——次の日、私は証拠を持って学校に訴えたんだ。あの子に強姦されそうになりました。退学させてくださいって。
……でもね。学校は男の子がサッカー部のエースであることを理由に、彼を守ったんだ。反省してるから大事にはしないって理由をつけてね。
もちろん私は不服だったんだけど、これ以上騒いでも無意味かなって、仕方なく諦めようとしてたよ。……だけど、その日の昼休みに男の子がまた保健室に来て、私に向かって暴言を放ってきたんだ。
「お前が可哀想だと思って、この俺がせっかく誘ってやったのに! クラス崩壊がお前のせいって噂も本当なんだろうな! よくも俺のことをちくってくれたなこのクソ女が!」
……ってね。
それで私、キレちゃってさ。学校が対応しないならってことで、私はその日の放課後に警察に駆け込んだの! 実は昼休みの暴言は携帯で録音してたし、指紋付きの制服もあったからさ。
そして、男の子はね。見事に警察に掴まって少年院にぶち込まれたの!
私達が成人してもしばらくは出てこれないんだって!
もちろん学校も退学!
あっははは! あれはスカッとしたなぁ〜。
—— side綾小路 ——
「……ふぅ。これが、綾小路君の知りたかった事件の真相だよっ!」
『……』
櫛田の吐露した内容に、俺も堀北も何も言えなくなってしまっていた。まさか、こんな過去が櫛田にあろうとはな。
「なるほどな。誰よりも親切にするお前の振る舞いは、自分の武器を集める行為でもあるわけか」
「そうだよ。まぁ中学の時とは違って、まだDクラスの仲間のことは詳しく知らない。だけど数人を破滅させるだけの『真実』は握ってるの。今の私の唯一の武器」
これは脅しだな。他言すればどうなるか覚悟しろということか。必要に応じてその真実を利用すれば、結束し始めたDクラスに亀裂を入れることも出来る。そうなれば今の追い上げムードも消えてなくなってしまうだろう。……沢田が止めてくれるとは思うが。
「自分のストレスの吐き出し口をインターネットにしてしまったのは失敗だね。不特定多数の人が見るし、情報は永遠にデータとして残ってしまうから。だからブログはやめた。今はストレスを言葉で吐き出すことで何とか我慢してる状態。あ、ツナ君がよく吐き出しに付き合ってくれるから助かってるよ♪」
俺と沢田が以前見た、櫛田のもう1つの顔。堀北の暴言を吐いていたあの時にした沢田の提案は、今も密かに実行されていたようだ。
「そうまでして、あなたは今のあなたでありたいの?」
「それが私の生きがいだもん。皆から尊敬され、注目されることが何より好き。私にだけ打ち明けてくれる秘密を知ったときに、想像を超えた何かが自分に押し寄せてくるっ!」
恍惚な表情で、櫛田はそう話した。
(……まるで、承認欲求の怪物だな)
……そんな承認欲求の怪物が、どうしてあそこまで沢田に心酔しているんだ? こいつの持つ沢田への感情は、一体何なんだ。
俺は、その事にも踏み込んでみることにした。
「……櫛田」
「ん? まだ何か聞きたいの?」
「これまでの話を聞くに、お前は異性に執着するような人間には見えない」
「……」
「それなのに、どうして沢田には執着しているんだ。お前は、沢田に対してどういう感情を持っているんだ」
「……そうだねぇ。ツナ君のことは大好き……ううん、愛してるねっ♪」
『……は?』
当たり前のように愛していると言い切る櫛田に、またも俺と堀北は絶句する。
「……いや、承認欲求の強いお前が、他人に依存するとは思えないんだが」
「え〜っ。そんなことないよぉ。ま、確かに普通の男に興味なんてないけど、ツナ君は特別だしっ♪」
「何が特別なんだ?」
「ん〜。私ね。さっき言ったサッカー部の男子の事件の後、考えたんだよね。あ〜私、このまま1人で生きていくのかな〜って。1人で生きて、承認欲求を満たせればいいのかな〜って」
櫛田はもう一度、本音を吐露し始めた。
—— 櫛田桔梗の独白その② ——
……最初はそれでいいかなって思ったんだけど、よく考えたら、私もいつまでも学生でいるわけじゃないでしょ?
高校、大学と進んでいけば、いつか社会に出ていくことになる。つまり、私の生きる世界はどんどん大きくなっていくわけ。そうなった時、私の承認欲求はどこまでいけば満たされるんだろう。そんな心配が湧き上がってきた。
これまでも承認欲求はどんどん膨らんできたわけだし、環境によって増していくのはどう考えても明らかだった。
大人になれば、結婚する人達もたくさんいる。周囲が結婚していくのに自分だけ結婚できずにいるなんて、私が耐えられるわけない。だからといって、興味のない男と一緒になるなんていやだし、どんな環境でも私は自分が1番で称賛を浴びていないと嫌。
……それで気づいたんだ。私が結婚できるとしたら、私の事を裏切らず、私の承認欲求をいつまでも満たし続けてくれる人だけだって。
本当の私を見ても、普段と何も態度を変えず。さらにどんどん膨らんでいく承認欲求を、隣にいるだけで満たし続けてくれる、常に上へと進んでいく人。そんな人がいれば、私はその人と一生添い遂げることができるはず。
だから、高校に入ったらそんな人を見つけたいなって思ってたの。この学校は何かしらの才能や実力がないと入学できない学校。ここなら私の求める人もきっと見つかるって。
最初はね、平田君はどうかなって思ってたんだ。でも軽井沢さんを守る為に偽装カップルになってあげた時点で違うってわかった。
え? なんで偽装だって知っているのか?
あははっ♪ そんなの見てれば分かるよぉ〜♪
——私ね、誰にでも優しい人間には3つのタイプがいると思ってるんだ。
1つは本当に優しいんだけど、優しいだけで力がないから何もできないタイプ。もう1つは優しいのはフェイクで、内心ではゲスいことを考えているタイプ。最後の1つは、自分の為に、あえて人に優しくする計算タイプ。
2つ目と3つ目は、自分のために人に優しくする偽善者。私とかさっきのサッカー部の男子とか、平田君。だいたいの優しい人がこのタイプに含まれると思う。
1つ目はめったにいないし、いたとしてもただの馬鹿。力もないのに他人に優しくしたって、もしもの時に誰も守れやしないでしょ。結局自分も相手も傷つくだけ。
それでね、ツナ君のことは最初、どうしようもないバカで、規格外のお人好しだって思ってたんだ。つまり1つ目のタイプだって思ってた。
上手いこと利用して、私の駒にできないかなーって思って近づいてみたんだけど……ツナ君はそんなことができる人じゃなかったんだ。優しい人のどのタイプにも当てはまらない人だった。
赤点で須藤君が退学になりそうになった時は、ポイントを先生から買うって方法を考えついて、自分のポイントを使って須藤君の退学を取り消した。
その後に須藤君が事件を起こした時も、自分も相手に殴らせるなんて方法でCクラスの訴えを取り下げさせた。
すごいよねっ♪ 本心から優しくて、しかも問題をちゃんと解決できる能力を持った人に、私は初めて会ったよ。そして、人を集める不思議な魅力も持ってる。その頃には、ツナ君が私にとっての運命の王子様かなって思ってた。
——でも、そんな時だよ。私がストレスを発散しているところをツナ君と綾小路君に見られちゃったのはさ。
悲しかったなー。せっかく見つけた王子様候補なのに、あの姿を見られた以上は秘密を守るように脅して取引しないといけないんだもん。そうなったら、中学のクラスメイト達みたいに態度を豹変させてくるかもしれないもんね。
でも、そんな心配は無用だった。だってツナ君は、秘密を守ると信じられる担保をよこせって言う私に「じゃあ自分も人に知られたくない秘密を教える」、だなんて言ってくるんだよ? 信じられる? 私だったら私みたいな奴、何とかして距離を取ろうとするのに。
しかも取引した後に、「今回みたいなことがないように、ストレス発散したい時は俺を呼んで? 誰にも聞かれないように受け止めるから」なんて言ってくれたの!
あー、あの時は本当に嬉しかったなぁ。思えばあの時だったんだよ、私がツナ君を好きになったのは。もうツナ君に抱きついて、大好きって叫んじゃいそうだったよぉー。
でもなんとかグッと抑えたんだ。私って、基本的に人を信頼してないからさ。相手の人間性を二重チェックして判断しないと不安なんだよね。
そして、私はツナ君への最終確認として、クラスを裏切ってみることにした。
そう、船上試験の時だよ。
私の理想の王子様は、たとえ私が裏切ったとしても、責めたりせずに受け入れてくれる人。ツナ君は私がクラスを裏切ったとき、どんな反応をするか確認しようとしたんだ。
私は自分が優待者であることを、龍園君に教えた。その代わり、堀北さんを退学させる手伝いをするという契約でね。あ、怒らないでよ? 本当の目的は、ツナ君がどういう対応をするか確認する為だったし、ツナ君なら絶対負けないって信じてたもん。
でも、この裏切りではDクラスには特に影響がでない。だから一応裏切りに気づかれなかった時のために、ツナ君の前で龍園君との密会を匂わせたんだけど、そんな必要なかったよね。
ツナ君は私の裏切りにちゃんと気づいていた。その上で私に対して何もしなかった。責めることも、糾弾することもね。
それどころか、ツナ君は体育祭の練習の時にこう言ってくれた。「クラスを裏切ってでも解決したい悩みがあるんだったら、俺に相談してもらえないかな。何が出来るかは分からないけど、絶対助けるから!」……ってね♪
もう完璧すぎる回答だよね! 私を責めるわけじゃなく、何か理由があるんじゃないかって心配してくれたんだもん♪
さすがツナ君、二重チェックの1回目、無事に通過ですっ♪
そして、すぐにでも最後のチェックをしたかった私は、次の体育祭でもクラスを裏切ってみることにした。
今度の裏切りは、各競技のメンバー表を龍園君に渡すというもの。これなら確実にクラスにダメージを与えるし、裏切りは当日にならないと発覚しない。体育祭の真っ最中にクラスメイトに不都合があれば、ツナ君も無反応ではいられないと思ったんだ。
実際、私の裏切りでクラスはめちゃくちゃになったよね。堀北さんは怪我しちゃったし、須藤君も龍園君にいいようにやられて大激怒。ツナ君と喧嘩までしちゃってさ。前半は完全に龍園君のいいようにされてたから、もしかしたら本当に負けちゃうかもってちょっと心配しちゃった。
でもその心配も喜憂だったね。結局午後の部はツナ君が大活躍して、龍園君の妨害を防いだだけでなく赤組とDクラスを優勝にまで導いた!
それに、最優秀生徒賞にまで選ばれた!
私の裏切りを、クラスメイトに話して糾弾することもしなかった!
しかも体育祭の後、元会長の推薦で生徒会副会長にまでなっちゃった!
はいはい! もう余裕で2回目の二重チェック通過!
やっぱりツナ君こそが、私の王子様だったってわけ♪
あ、これは確信してるんだけど、ツナ君は将来絶対に大物になるよ!
私はツナ君の隣で、ツナ君の恋人、やがては妻という立場になって、周囲からの称賛や羨望の眼差しを大量に浴び続けるんだぁ〜♪
—— side綾小路 ——
……櫛田が沢田に執着する理由は、なんとなく分かった。
分かったが、異常としか言えない。
「……」
それは堀北も同様で、無言になってしまっている。
「——ふぅ。というわけで、ツナ君の隣にいるのは私じゃないと嫌なんだ。だから、まるでツナ君の隣が自分の居場所のように振る舞ってる2人のことは絶対に許せないんだよね。もう正直、中学の事件を知ってるからっていうよりも、こっちの理由の方が2人を退学させたい理由として大きいかな」
「……私達を排除して、自分が沢田君の隣を独占したい、そういうことなのね」
「そうだよ。……忘れないでね。数学の点数で私が勝ったら、堀北さんと綾小路君は自主退学するって」
「……ええ。約束は守るわ」
堀北の答えに頷くと、櫛田は、教室から出て行った。
残される俺と堀北。
「……綾小路君」
「……なんだ」
「櫛田さんの話を聞いて、どう思ったの?」
「どうって……異常な執着心だなってことくらいだが……お前は?」
「……最初はありえないって思ってたけど、櫛田さんが言っていたことも、あながち間違いでもないと思ったわ」
「は? なんのことだ?」
「私と櫛田さんが、本質的に似ているって話よ」
ああ、確かにそう言っていたな。
「……どうしてそう思った?」
「私も彼女と同じように、自分の目的のためだけに他人をないがしろにして生きてきたからよ」
「!」
堀北は入学当時、自分だけでAクラスに上がることを目論んでおり、クラスメイトと交流を持とうとはしていなかった。まぁそれは俺も同じだが、そのことを言っているのか。
「兄さんに認められたい。その一心で、私は自分の能力を上げることだけを考えて、他人のことなんて気にもとめていなかった。自分の欲求を満たす為に他人を犠牲にする櫛田さんと同じだわ。そしてその先に求めるのは、ただの自己満足。そこも一緒ね。違うとすれば、ベクトルが自分に向いているか、家族に向いているかってことだけ」
櫛田の場合は、止めどない承認欲求。そして、堀北の場合は兄に認められたいという願望ということか。
「……入学時は、確かにそんな感じだったな。でも、今は違うだろ」
「……そうね。今は変わったと信じたいわ。行動も心も入れ替えたつもりだもの。……だけど、ちょっと考えてしまったのよ。今の私のこの感情は、私が一方的に持っている感情で、綱吉君にしてみれば迷惑だったりしないかって」
沢田のパートナーは自分だ。そのボジションは今の自分の誇りだ。そうまで言っていたのに、櫛田の心の内に秘めた願望を俯瞰的に見たことで、自分も同じなのではないかって不安になっているわけか。
……バカだな。そんなわけないだろうに。
「……それは、違うんじゃないか」
「え?」
「堀北。お前は、沢田からもらったパートナーという言葉。それがすごく嬉しくて、大切なものになって。だからその言葉を受け取れるポジションを誰にも譲りたくないんだろ?」
「……ええ。そうよ。でも、もしパートナーという言葉が、綱吉君にとってふいに出た何気ない言葉だとしたら……」
「そう考えてしまって、不安になったのか」
「……(こくり)」
俺の問いに、堀北が頷いた。
「……お前、沢田のことを信じてないのか?」
「っ! 馬鹿なことを言わないで! 私は綱吉君のことを一番——」
「……だったら、そんな沢田の言葉をお前自身が疑っていたらダメだろ」
「!」
堀北がハッとした表情になる。
「お前は最近、他人を信じられるようになってきた。だがその一方で、自分と沢田の違いを実感しすぎて、逆に前のように〝自分を信じること〟ができなくなってしまっているんじゃないか」
「……」
「……自覚があるようだな。いいか、逆に考えてみろ。お前は沢田の事を信じているか?」
「ええ、もちろん」
「なら、沢田はお前のことを信じているか?」
「……そう、思うわ」
「なら、お前が信じている男が「君と俺はパートナーだ」と言う程に信頼している人間。その人物は、お前は信じれないのか?」
「……いいえ、信じてる相手が信頼しているんだもの。私が疑うことなどないわ」
「そうだろ。じゃあ最後の質問だ。……お前は、
「……ええ!」
堀北は力強く頷いた。……もう平気だな。
「よし、目は覚めたな」
「ええ、ごめんなさい、弱気になってしまっていたわ」
「俺はお前の勝ちに退学を賭けてる。それなのに勝負前に弱気なられてたらかなわん。いつものように、凛とかまえていてくれ」
「……そうね、ありがとう。ここでもう一度宣言しておくわ」
「宣言?」
「ええ。綱吉君の選んだパートナーは私、そして相棒はあなた」
「……おう」
「綱吉君の隣に立ち、その背中を支える……そうね、両翼といえばいいかしら。背中を支える両翼は私達よ。これは誰にも譲れないし、譲らない」
「おう」
言葉を紡ぐ堀北は、いつもの凛とした強気な表情に戻っていた。
「櫛田さんには、絶対に負けないわ。だから綾小路君。あなたの退学を私に預けて。一緒に戦ってほしいの」
「……強引だな。だが、それでこそ堀北鈴音だ。俺の退学はお前に預けるし、一緒に戦わせてもらう」
「ありがとう。……勝つわよ、2人で」
「もちろんだ」
俺と堀北は互いに口角を少しだけ上げ、すぐに真顔に戻る。
そして、一緒に教室を出ていくのだった。
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