ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作6巻編 その⑦ 失うのは怖い

 

 —— side綾小路 —— 

 

 

 波瑠加:明日の授業が終わったらさ、全員で気分転換に映画でも観に行かない?

 

 グループができて数日後の夜。グループチャットにこんなメッセージが送られてきた。

 

 明人:もしかして、例の新作映画?

 波瑠加:そうそう。明日から上映開始なんだって。今はテスト期間中だから意外とすんなり席が予約で押さえられそうなんだよね。

 啓誠:リフレッシュ目的としては悪くない案だな。全員ということは俺も参加しないといけないのか?

 波瑠加:もちろんゆきむーも参加しなきゃ意味ないでしょ。グループも発足したばっかだし。だけど急に声かけたわけだし、スケジュール合わないならテスト後に変更して行こうよ。みんなはどう?

 清隆:俺は大丈夫だ。

 愛里:私も行きたいです。

 明人:俺も大丈夫だ。

 啓誠:わかった。あと綱吉も行くのなら、俺も行こう。

 

 これで綱吉以外は全員が参加を表明した。綱吉だけは返事をしていなかったが、数分後にチャットに気づいたのかメッセージを送ってきた。

 

 綱吉:行きたい。でも生徒会の仕事が少しあるから放課後すぐには無理そう。6時くらいには行けると思うんだけど……。

 波瑠加:おけ。じゃあ6時以降の上映時間で予約取っちゃうね。

 綱吉:了解。ありがとう。

 

 このやりとりを最後に、チャットは動かなくなった。

 

「……明日は、グループで映画か」

 

 経験したことのないイベントなだけに、思わずわくわくしてしまう。

 

 ——プルルルル。

「!」

 

 その時、学生証端末に着信が入った。画面に表示されているのは、堀北鈴音の名だ。

 

 ——ピッ。

 

「……もしもし」

「起きてたみたいね」

「まあな。何か用か?」

「明日、勉強会の後に期末試験に向けた最後の打ち合わせをするから、あなたも参加して」

「……明日か」

「何か問題でもあった?」

 

 ……問題が無いといえば嘘になる。勉強会の後は映画を観に行く予定だからな。

 

「少し時間が遅くなってもいいか?」

「かまわないわ 何時ごろなら都合いいの?」

「……20時、なら平気だと思う」

「わかったわ。じゃあ20時にケヤキモールの前に集合ということで、他の人には連絡を回すわね」

「了解だ」

 

 ——ピッ。

 

「……」

 

 電話を切った俺は、ベッドに寝転がった。……一応、明日の打ち合わせについて思考を整理しておこう。

 

(明日の打ち合わせには櫛田も来るだろう。勝負自体は堀北任せになるが、俺も何かできることはしておいたほうがいいんじゃないだろうか。例えば……もしもの時の為の秘策とか……)

 

 すぐに頭の中にある考えが浮かんだが、それを実行してもいいものかと躊躇してしまう。

 

(……もしその作戦が実行された場合、綱吉はどう思うだろうか。以前の俺なら迷うことなく実行していただろうが、今の俺は——)

 

 過去の綱吉との会話が脳裏によぎる。

 

『だから……俺は君の事を信じるよ。いつか必ず分かってくれるって。俺と同じ方向を向いてくれるって』

『……また俺は、お前の許せないやり方を選ぶかもしれないぞ?』

『うん、でも大丈夫。次からは事前に俺が止めるから。友達の悪事は友達が止めないとね』

『……』

『あ、でもあんまりひどい事しようとしたら、デコピンだよ?』

 

 それに続き、堀北との会話も思い出す。

 

『……そうね、ありがとう。ここでもう一度宣言しておくわ』

『宣言?』

『ええ。綱吉君の選んだパートナーは私、そして相棒はあなた』

『……おう』

『綱吉君の隣に立ち、その背中を支える……そうね、両翼といえばいいかしら。背中を支える両翼は私達よ。これは誰にも譲れないし、譲らない』

『おう』

『櫛田さんには、絶対に負けないわ。だから綾小路君。あなたの退学を私に預けて。一緒に戦ってほしいの』

『……強引だな。だが、それでこそ堀北鈴音だ。俺の退学はお前に預けるし、一緒に戦わせてもらう』

『ありがとう。……勝つわよ、2人で』

『もちろんだ』

(……2人で勝つ、か)

 

 色々考えはしたが、やはり答えは変わらなかった。

 

「……悪いな綱吉。デコピンなら何発でも受けるから」

 

 言い訳を独りごち、俺は軽井沢に電話をかけることにした。

 

 

 ——プルルルル、ガチャ。

 

『もしもし? どうしたの綾小路君」

『遅くにすまない。明日堀北から連絡が行くと思うが、20時頃から打ち合わせの予定だ』

『20時? 随分遅いじゃない』

『俺にちょっと予定があってな。綱吉達と映画に行くんだ』

『……ふーん。で、用件はなに?』

『ああ、その打ち合わせでお前に頼みたいことがあるんだ』

『頼みたいこと? 私に?』

「ああ。同じ綱吉の仲間として、頼みたい」

「……わかった、聞かせて」

 

 俺は軽井沢に細かな指示を出した。全てを聞き終えた軽井沢から、鬱陶しそうな声が返ってきた。

 

『また凄い面倒な役回りじゃない。何が狙いなの?』

『念のための工作だ。回り回って綱吉の為になることだぞ』

『わかったわ。それじゃ明日ね』

 

 通話が終わり、俺は学生証端末を持った腕を布団の上に放った。

 

 軽井沢に頼み事をする中で、俺は自分の中にある1つの感情に気がついた。

 

 ——俺は、この日常を失うのが、どうしようもなく怖いのかもしれない。

 

 

 —— 翌日、放課後 ——

 

「あ、きたきた」

「ごめん、お待たせ」

「時間通りだ、気にするな」

 

 待ち合わせの時間。時間通りにやって来た綱吉を皆で迎える。

 

「じゃあ行こっか。これチケットね」

 

 波瑠加が、一人一人にチケットを手渡す。受け取った俺達は一斉に歩みを進める。

 

「つ、綱吉君。映画楽しみだねっ」

「うん。なんか話題になってるみたいだし、どれくらい面白いんだろうね」

 

 控えめながらも頑張って綱吉に声をかける愛里。

 

「えへへへ……綱吉君」

「何?」

「えっ?」

「いや、名前呼ばれたから」

「……え、私呼んでた? ご、ごめんなさい、全然そういうのじゃなくって!」

「そう? ごめん、俺の聞き間違いだったかな」

「あうぅ……」

 

 いや、聞き間違いじゃないぞ綱吉。そして愛里。綱吉にはもっとわかりやすく行かないと無理かもしれないぞ。

 

 ……たとえばほら、あんな風に。

 

「ツナ君!」  

「!」

 

 聞こえてきたのは、遠くからこちらに向かって叫ぶ声。声の主は佐藤麻耶だ。

 

「あ、麻耶ちゃん」

「もしかして今から映画観るところだったの? あ、これ話題のヤツ! 私もこの映画見る所だったの! わ、しかも席が近〜い」

 

 手に持っているチケットを見て興奮したように言う。

 

「そうなんだ。偶然だね」

「うん! あ、実は軽井沢さん達と一緒に来たんだ」

 

 佐藤の後ろからぞろぞろと軽井沢と女子数人が近づいてくる。

 

「あ、ツッ君。偶然だね」

 

 いや、絶対昨日俺が綱吉と映画を見に行くって言ったからだろ。

 

「勉強会で私が映画を観に行く話をしてたら、軽井沢さんも行きたいって言って来てね。それで一緒に行くことにしたわけ。折角だから一緒に観ようよ」

 

 そう言って、佐藤はグイッと綱吉の腕を両手で掴んだ。

 

「ふえぇぇ!?」

 

 後ろで愛里が悲鳴に似た声をあげる。

 

「ちょ、麻耶ちゃん。恥ずかしいよ」

「なんで~? 別にいいじゃない」

 

 平気そうに言う佐藤だが、顔は少し赤い。無理して頑張っているようにも見えるぞ。

 

「偶然ね、幸村君に、綾小路君。それに長谷部さんや佐倉さんも」

 

 そう言って軽井沢はちょっと上から目線で声をかける。 だから全く偶然じゃないだろ。

 

「……嫌な偶然だな。中に入ろう」

 

 憤慨な様子の啓誠は一人先にチケットを見せて中に入って行く。騒がしいのは苦手なんだろうな。

 

「じゃあ、俺達も行こうか」

 

 席が近いので別々に行く意味はないと、綱吉は佐藤達と一緒に中に入っていく。グループメンバーが困らないようにとの配慮なのかもしれないが、それでは不十分だぞ綱吉。

 

「うぅぅぅ……」

 

 ほら、愛里のフォローを忘れてる。

 

 

 

 ——  映画館 ——

 

 

 

 映画館の中は、席を埋め尽くすほど生徒で満たされていた。香ばしいポップコーンの匂いと焼けたホットドッグの匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 オレ達は最後尾の一番高い列席の右端から6席予約している。 佐藤や軽井沢達は俺達の1つ前の席を予約していたようだ。

 

「席順どうする?」

「どこでもいいぞ」

「俺も」

「そう? じゃあ私1番右端〜。愛里は私の隣おいでよ」 

「え、うん」

 

 端の2席を女子が取った。後は男子だけだが、俺は迷うことなく綱吉を3番目の席に押し込むことにした。

 

「次は綱吉な。俺は4番目がいい」

「え? なんで?」

「……俺のこだわりだ。いいから愛里の隣に座れ」

「? わかった」

 

 愛里の隣に綱吉を配置することに成功した。これは頑張って綱吉とコミュニケーションを取ろうとしていた愛里への、俺なりの後押しである。

 

 そして4番目に俺が座り、その隣に明人と啓誠が座った。

 

「あの、つ、綱吉君」

 

 席に座るなり、愛里から綱吉に小さく耳打ちをする。他の生徒達もおしゃべりに興じているため、そんなに小声でなくても良いと思う。

 

「どうかした?」

「綱吉君って……その、佐藤さんと、最近仲が良い、よね……?」

「そうだね。生徒会交替式から、麻耶ちゃんとは仲良くなったかな。友達が増えるのっていいよね」

 

 無意識に愛里の聞きたいであろうセリフを言っている綱吉。相変わらずすごい直感だ。

 

「で、でも普通異性の友達同士で腕とか組んだりは、し、しないよ?」

「え? そうなの? でも、中学の時も女の子に腕組まれたりとかあったよ」

 

 訂正。こいつやっぱり呪われてると思う。

 

「い、嫌だったら振りほどいたりしても、いいと、思うんだけど……」

 

 弱気ながらも的確なツッコミを入れてくる愛里。

 

「嫌ってわけでもないしな〜」

「え……ま、まんざらでもないの?」

 

 こいつ、自分に好意のある異性に対しては完全に殺し屋だな。的確に急所を撃ち抜いてるぞ。

 

「……でも、周りから見て変なのなら気をつけるようにするよ。教えてくれてありがとう愛里ちゃん。君は優しいね」

「ふえっ! い、いえ私はそんな……ぷきゅぅ」

 

 対、恋する乙女用の弾丸。無自覚殺人スマイル。……綱吉、お前はやっぱりマフィアに向いてるのかもしれないな。

 

 

 〜 上映終了後 〜

 

 

「ううぅ……ぐすっ」

「つ、綱吉君。大丈夫?」

「いや〜。分かるよツナぴょん。この映画は泣けたよね〜」

「そうか?」

「面白かったけど、泣けはしなかったな」

「……俺も」

「え〜、なんで〜?」 

 

 映画が終わり、映画館を出てもなお、綱吉は1人で泣き続けていた。よほど感動したらしい。

 

 映画のタイトルは「デンジャラスでデストロイな恋」。金持ちだらけの学校に、一般家庭育ちである主人公が入学して、上級生の超金持ちの男と恋に落ちるという話だった。

 

 今でこそ泣いてはいるが、上映中の綱吉の感情はジェットコースターのように忙しなく変化していた。

 

 主人公の名前は京子というのだが、その京子に超金持ちで風紀委員長の上級生が何かをすれば怒りの表情を浮かべ、逆に京子が風紀委員長にときめくシーンでは焦りの表情になっていた。そして最終的に2人が結ばれてからはずっと泣きっぱなしである。

 

「……なんで雲雀先輩と京子ちゃんがぁ」

「雲雀? あのキャラそんな名前だったっけ?」

「いや、城島犬って名前だったはずだ」

「ああぁぁぁ〜!」

 

 名前を訂正されてさらに打ちひしがれる綱吉。

 

「というか、キャラに先輩とかちゃん付けとか。感情移入しすぎだろ」

「きっと、ツナぴょんは感受性が豊かなんじゃん?」

「ぴょん……くそぉ、今は俺にもピョンが付いているのにぃ」

「……とりあえず、今日は早めに寝とけ」

 

 綱吉の情緒も不安定なので、ここで解散することになった。

 

 

 —— ケヤキモール ——

 

 グループメンバーと別れ、俺と啓誠は打ち合わせのためにケヤキモール内のカラオケルームに向かった。

 

「ねえ歌っていい?」

 

 まさに今から話し合いが始まろうとしていたタイミングで、軽井沢が何かの機械を手にしてそう言った。

 

「これから打ち合わせなのよ。飲み物とフードだけで我慢して」

 

 既にテーブルにはポテトを始めとしたジャンクフードと各個人のドリンクが置かれてある。

 

「じゃあ作戦会議終わったら一緒にデュエットしようよ洋介君」

「そうだね。話が上手くまとまったらそれくらいの息抜きはいいんじゃないかな」

「私も賛成かな。試験に向けた打ち合わせはちゃんとしておきたいけど、カラオケで歌うのも結構久しぶりだし」  

 

 折衷案を探るように、平田と櫛田が堀北と軽井沢それぞれに同意を得る。

 

「……始めるわよ」

 

 そんな2人を軽く無視して、堀北は話を始める。

 

「まずは勉強会の成果だけれど、1部2部ともに上々の結果だと思ってるわ」

「しゃあ! 口から英単語帳が飛び出してくるくらいやったかいがあったぜ!」

 

 須藤なりの勉強したアピールなのだろうが、至極分かりづらい表現だ。

 

「まだ付け焼刃をしている段階、基本学力は中学1年生にも劣っているのを忘れないで」

「こんだけ勉強して中1レベルかよ……」

 

 落ち込む須藤を無視して、堀北は話を進める。

 

「幸村君、少人数勉強会の方はどうかしら」

「大丈夫だ。3人とも赤点を取ることはないだろう」

「良かった。私Dクラスの誰かが欠けるなんて絶対に嫌だもん。皆で乗り越えようね。ペーパーシャッフル 」

「……なんかさぁ、あたし思うんだけど。本当に大丈夫なの?」

 

 櫛田の外部向けの思いを聞いた後、軽井沢がそんな不安なことを口にした。

 

「そりゃクラスメイトが減るのは嫌だけど毎年誰かが退学してる試験なんでしょ? 私や須藤君が赤点を取らないなんてそんな保証ないよね?」

「保証は、その、出来ないけど……」

「だったらそんな軽々しい言い方しないでよ」

 

 どこか弛緩していた空気が、ピリッとした空気に変わっていく。

 

「櫛田さん。なんかさ、さっきからずっと綺麗事じゃない?」

「そう、かな……私はただ皆が無事に試験に合格して欲しいだけで……」

「いいよね、頭が良い人はさ。あたしなんかどうなるかもわかんないのに」

「大丈夫だよ軽井沢さんは。今しっかり勉強会にも参加しているし」

 

 平田がフォローするも、軽井沢は納得がいかないようだった。

 

「前々から言いたかったんだけど、櫛田さんって良い子ちゃんぶってない?」

「え……そ、そう、かな……」

「冷静になってもらえないかしら軽井沢さん。今はテストに向けての話し合いをしている最中よ。関係のないことで時間を取らないで」

「堀北さんはちょっと黙っててよ。ねぇ櫛田さん、もしかして頭の良くない私を心の中で馬鹿にしてたりするんじゃないの?」

「そんなことしないよ私っ」

「だったら気安く保証しないでよ。こっちは毎回毎回テストの度に辛い思いしてるんだから。それで赤点取ったら責任取れるわけ?」

 

 櫛田の正論と優しさに対して、軽井沢が一方的にキレる。あまりに不条理。ある種理解不能な怒りに田だけじゃなく周囲も困惑する。

 

 とはいえ、1番困惑しているのは軽井沢自身だろう。今軽井沢が発している言葉は、綱吉に対しても言えることだからな。

 

 そして直後、殆ど手をつけていなかったグレープジュース入りのガラスコップを手にとって、櫛田に向け思い切り中身をぶちまけた。着色料を含むジュースがブレザーの胸元付近を中心に大きく飛散する。

 

「軽井沢さん───!」

 

 その信じがたい行動に平田が珍しく大きな声をあげコップを握る手を掴んだ。

 

「今のはいけないよ。やっていいことと悪いことがあると僕は思う」

「だ、だって……。私が悪いわけ?」

「申し訳ないけれど、今の話はあなたが悪いわ軽井沢さん。櫛田さんにはどこにも非がなかった」

 

 櫛田と冷戦状態にある堀北ですら、擁護しようのない行動だ。

 

「私は平気だよ。全然気にしてないから。ね? 軽井沢さんを責めないであげて」

「そうはいかないだろ。どう考えても軽井沢が悪い」

 

 全員からの視線に、軽井沢がハッとした表情になる。

 

「わ、私……」

「軽井沢さん。このまま変な状態で今日を終わらせたら絶対後悔するよ。まずは櫛田さんに謝ろう」

「……ごめん」

 

 彼氏からの説得を受け、軽井沢は悔しそうにしながらも謝罪する。

 

「ううん全然だよ。私ももう少し軽井沢さんに理解ある発言をするべきだったかなって」

 

 怒っても不思議じゃない状況で、櫛田は全く怒ることもなく軽井沢を許した。  

 

「ありがと……」

「櫛田さん、明日学校に着て行く予備のブレザーって持ってる? 大丈夫?」

「あ、ううん。私前に1着ダメにしちゃって、これしか残ってないな……」

 

 元々ブレザーは学校から2着支給されている。だが今回のように不測の事態も起こるし成長に合わせてサイズも変わってくる。その際に必要になればケヤキモールの制服を専門に扱う店で買うことも出来るが、生徒個人に合わせるために仕立てる時間もある程度必要になるだろうし、ポイントもけして安くない。

 

「クリーニング屋があるんじゃね? 俺部活で汚した服とか持ってくぜ。今日出しておけば明日の朝一で受け取って間に合うだろ」

「普段使う機会がないから知らなかったわ。それなら何とかなりそうね」

 

 ナイスな須藤のアドバイスを受け解決の糸口を掴む。 話を聞いていた軽井沢が、自分にも出来ることがあると思ったのか1つの提案をする。

 

「お詫びってわけじゃないんだけど、さ。クリーニング代だけは出させて」

「いいよそんな、気にしないでも」

「それじゃあたしが落ち着かないって言うか……ダメ?」

「本当にいいの?」

「うん。全部私が悪いから、それくらいはさせて」

 

 こうしてこの事件は、クリーニング代を軽井沢が出すということで着地点を見つけた。

 

 ——話し合いが終了した後。俺はマンションに戻る振りをして、クリーニング屋に先回りした。少し待っていると、軽井沢が櫛田のブレザーを持ってクリーニング屋にやって来る。

 

 俺は光の当たらない所に隠れてはいるが、軽井沢からは俺のことが見えているのだろう。

 

「……」

「……」

 

 お互いに何も言葉は発さない。ただ外灯の届かない暗闇に伸ばされる軽井沢の手に、1枚の折り畳まれた紙を俺が乗せるだけだ。

 

 手に乗せられた紙を優しく掴み、そのまま軽井沢はクリーニング店に入っていった。

 

「……帰るか」

 

 やるべきことを終えた俺は、ひっそりとマンションへと帰った。

 

 

 

 ——清隆がマンションに帰りついた後、少し遅れてマンションに帰ってきた者がいる。しかし軽井沢ではない。

 

 その者は自分の部屋に入り、ベッドに腰掛ける。そして学生証端末を取り出すと、とある人物に声をかける。

 

 ——プルルルル、ガチャ。

 

「あ、もしもしツナ君? うん、やっぱり動いてたよ。うん、櫛田さんのブレザーに。……そうそう、軽井沢さんに頼んだみたいだね。……それは大丈夫、ちゃんと仲直りしてたよ」

 

 ——こうして。それぞれがそれぞれの行動を起こした1日が終わったのだった。




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