ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
—— マンション。side清隆 ——
「……」
マンションの自室。俺は勉強机に置かれた宝石箱をじっと眺めていた。
「……母親からの贈り物、か」
俺は母親というものを知らない。だから突然母親からの贈り物だと言われても、どうすればいいかわからない。
「……」
——カサッ。
宝石箱に同封されていた、母親だという女性からの手紙を改めて開く。
——清隆へ。
突然こんな手紙と贈り物を送ってごめんなさい。
あの人との契約で、私はあなたに会うことができないの。
あなたが自由になったと松雄さんに聞いて、その宝石箱をあなたに渡さないといけない、そう強く思いました。
でも私はあなたと会うことはできない。なので松雄さんにこの手紙と宝石箱を託しました。
会ったこともない母親からの贈り物なんて気持ち悪いかもしれないけど、母親からの最初で最後の頼みです。何も言わずに受け取ってください。
その宝石箱は、お母さんの家に伝わる家宝です。おばあちゃんから父へ。そして私へと受け継がれてきました。今度はそれを清隆に受け継ぎます。
残念だけどその宝石箱は蓋を開けることができないから、中身は見ることができないわ。
でも、私達の家系にとって、とっても重要なものが入っているそうです。
『この宝石箱を開きし者よ。形有る物は自らに。片割れの形無き物は汝が最も信頼し、力になりたいと思う者へ手渡せ。さすればそこに、永遠の友情が巡るだろう』
……これは、宝石箱と共に伝承されてきた詩です。これも清隆に受け継ぎます。
私には意味不明だったけど、あの人の血も受け継いだ清隆ならもしかしたら……なんてね。
長々とごめんなさい。次で最後にします。
私はいつもあなたの事を思っています。会ったこともない母親だけど、あなたの事を常に愛している人がいることを忘れないで下さい。
清隆には愛の溢れた人生を送ってほしい。これが私の願いです。
……どうか健やかに。幸せに生きてね。
あなたの母 ——美香より。
「……美香、それが俺の母親の名前か」
とはいえ、別に今更会いたいと思うこともない。強いていうなら、なんであの男の間に子供を作ったのかと聞いてみたいくらいだな。
「……」
何気なしに宝石箱を手に取る。
(……開かない家宝、そんなものをなんで律儀に受け継いでるんだろうな)
——すっ。
開かないと分かっているからこそ、気楽に宝石箱の上蓋に手をかける。……すると。
——パカっ!
「! ……あ、れ。開いちゃったんだが」
開かないはずの蓋が、いとも簡単に開いたのだ。
「……中、見てもいいよな。もう俺が受け継いだんだし」
誰も聞いていない言い訳を独りごち、俺は宝石箱の蓋を全開に開いた。
「……なんだこれ」
宝石箱の中はベルベット張りになっており、ベルベットには2つの窪みがある。そしてその窪みにぴったり嵌まるようにして錆びた懐中時計、そして宝石部分が歪な形をした指輪が収まっていた。
「懐中時計と……指輪? というかこの指輪の宝石、歪な形だな。まるで一個の宝石を真ん中で切り分けたみたい……あ」
その時、頭の中に母親からの手紙に書かれていた詩が流れた。
『この宝石箱を開きし者よ。片割れの形有る物は自らに。片割れの形無き物は汝が最も信頼し、力になりたいと思う者へ手渡せ。さすればそこに、永遠の友情が巡るだろう』
……。形有る物ってのは多分、懐中時計の事だよな。となると片割れの形無き物はこの歪な形の指輪のことか?
ならばこの指輪を俺が最も信頼する奴に渡せばいいってことか?
(そんな奴、1人しか思い浮かばないよな)
……いや、何も伝承の通りにする必要なんてないだろう。母親の願いは、これを俺が受け継ぐことのみなんだ。
また言い訳を独りごち、俺は宝石箱の蓋を閉じた……。
—— 同時刻、マンション。side鈴音 ——
「……母さんからの贈り物か」
私は自室のベットに座り、先ほど兄さんから受け取った宝石箱を観察していた。
それにしても、今日の放課後に体育館裏に来るようにと兄さんから言われた時は、一体何を言われるのかと臆していたけれど……まさか認めてもらえるとはね。ほんの少し、だけど。
〜数分前〜
「あの……兄さん。お話というのは?」
「……鈴音。今日はお前に渡すものがあって呼び出した」
「えっ。私に渡すもの、ですか?」
「ああ。母さんからお前に渡してくれと頼まれていたものだ」
「……母さんから?」
兄さんから手渡されたのは、宝石箱だった。
「母さんから私に、ですか?」
「そうだ。この前学校の監視を掻い潜って、実家から送ってもらった」
「そんなことしていたんですか……」
兄さんらしからぬ行動だが、そんなことをしてでも私にこの宝石箱を渡したかったということなのだろうか。
「それと、これも渡しておく」
「これは?」
渡されたのは、一冊の便箋だ。
「母さんからの手紙だ。後で読んでおけ」
「は、はい。分かりました」
「用件はこれで終わりだ。俺はこれで失礼する」
用が終わったのでさっさと消えようとする兄さん。でも私にはどうしても聞いておきたかったことがあったので、遠ざかっていく兄さんの背中に声をかけた。
「あ、あの! 兄さん!」
「……なんだ?」
私の声が届いたのか、兄さんはピタッと足を止めた。
「あの、私は……私はっ、少しでも成長できていますか!?」
「……」
兄さんは少し沈黙し、振り返ることなく答えた。
「……俺がお前にその宝石箱を渡した。鈴音、その意味がわかるか?」
「えっ?」
「——俺は、お前が人間として成長したと感じたから、それをお前に渡したんだ」
「っ! はいっ!」
「……だが、この程度で満足するなよ。常に上を目指せ。それができて初めて、お前は真の実力者となる」
「はい。肝に銘じます」
私の返事を聞くと、兄さんは再び歩き始め、体育館裏から去って行った。
〜 現在 〜
「……そうだ、母さんからの手紙」
ふと母さんからの手紙を思い出し、私は便箋から一枚の紙を取り出した。
鈴音へ。
あなたがこの手紙を読んでいるということは、学があなたの成長を認めたということね。
おめでとう鈴音。母さんは誇らしいです。
昔から学の背中だけを見て、周りを見ていなかったあなたが、高度育成高等学校に進学を決めた時は、正直母さんは心配でした。
でもそんな心配を跳ね除けて、あなたは立派に成長して見せた。それが本当に嬉しい。
何度も言っているけれど、母さんや父さんには学も鈴音も等しく大切で自慢の我が子です。
これからも頑張って、自分で選んだ道を突き進んで行って下さい。
——さて本題はここからです。学から受け取ったはずの宝石箱ですが、それは我が家系で代々受け継がれてきた、堀北家の家宝です。
おばあちゃんから私が受け継いだものを、今度は私が鈴音に受け継ぎます。大切にしてね。
あ、残念だけどその宝石箱は開くことができません。おばあちゃんも私も何度も開けようと試みたけれど、一度たりとも開くことはありませんでした。それでも100年近く堀北家に受け継がれてきたのは、きっと宝石箱と一緒に伝承されてきた詩があるから。
だからその詩も、この手紙で鈴音に受け継いでもらうわ。
『この宝石箱を開きし者よ。形有る物は自らに。片割れの形無き物は汝が最も敬愛し、寄り添い、そばにいたいと思う者へ手渡せ。さすればそこに、永遠の愛が蘇るだろう』
——これがその詩よ。
どう? なかなかロマンチックでしょう?
もしかしたら鈴音の代で永遠の愛が蘇ったりして……なんてね。
「……」
最初は嬉しい言葉の羅列だったのに、最後で吹っ飛んだわ。
永遠の愛が蘇るなんて、母さんもお婆さんもそんなことを真面目に信じるような人ではなかったはずだ。
それに、勝手に知らない人との愛が蘇られても困るだけだろう。
「……はぁ。開かない宝石箱なんて、場所を取るだけで邪魔に……あれ?」
なんの気なしに宝石箱の上蓋に手をかけた。すると、なんの引っ掛かりもなくすんなりと宝石箱はその中身を露わにしたのだ。
「もう、母さんったら。開かないなんて全くのデタラメじゃない」
少しの呆れと怒りを感じつつ、私は宝石箱の蓋を全開に開いた。
宝石箱の中身はベルベット張りになっており、その中央に2つの形が違う窪みが存在していた。
「これは髪飾り、かしら? それともう1つは……指輪? でも宝石が中途半端にしかついていないわね」
窪みに入っていたのは、白い花が装飾されている錆びた髪飾り。そして、歪な形をした宝石の付けられた指輪だった。
「……中途半端な、歪な形の宝石。多分、これが「片割れの形無き物」よね。逆に髪飾りは形有る物……なのかしら」
伝承の通りにするなら、髪飾りは私が持っていれば良いのだろうけど、宝石はどうしたら?
確か伝承の詩では……『片割れの形無き物は、汝が最も敬愛し、寄り添い、そばにいたいと思う者へ手渡せ。さすればそこに、永遠の愛が蘇るだろう』だった。
私が最も敬愛し、寄り添い、そばにいたい人。……兄さん?
いや、違うわね。なんとなくだけど、それは違う気がする。
(……だとすれば誰? 私がそばにいたい人……綱吉君?」
自分の隣に誰がいるのかを考えていたら、自然と綱吉君の顔が浮かんだ。
「じゃあこの指輪を綱吉君に渡せば、そこに永遠の愛が——っ///」
な、何を考えているの、私っ!?
異性に指輪なんて渡せるわけないし、私の綱吉君の間に永遠の愛が蘇られても困ら……困るわ!
「……一旦保留だわ。別に家宝を受け継いだからって、その伝承通りに行動する必要などないのよ」
私は宝石箱を閉めてから勉強机の引き出しにしまい込むと、赤く火照った顔を冷ますために洗面所へと向かったのだった。
読んでいただきありがとうございます♪
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