ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作7巻編 その② 嵐の予感

 

 

 —— 朝、Dクラス教室。side清隆 ——

 

 

「あーくそ。なんなんだよあいつらはよぉ」

 

 登校してきた須藤が、苛立ちを口にしながら自分の席を通り過ぎて綱吉の下へと近づいてきた。その表情は険しく怒りを孕んでいるのが見て取れる。

 

「鈴音、ツナ。ちょっと聞いてくれよ」

「どうしたの?」

「Cクラスの連中、つか龍園のヤツだよ。朝から俺にイチャモンつけてきやがった。廊下で歩くのを邪魔してきやがって。マジムカついたぜ」

「え、なんでそんなことを」

「暴言を吐いたり手を出したりしていないでしょうね?」

 

 軽く睨む堀北に、須藤が即座に反論する。

 

「してねーよ。ガン無視して来たっつの」

「そう。私の言いつけ通り上手くやり過ごしたようね」

 

 ひとまず問題を起こしていないようで何よりだ。

 

「言いつけって?」

「鈴音に言われてたんだよ。上手い対処が出来ない時はとにかく無視しろってな」

 

 それは的確なアドバイスだな。下手に須藤に反論させると火に油を注ぐことになる。それなら須藤にストレスを溜めさせてでも、我慢させるのが一番だろう。

 

「まあ、強引に通る際に肩はちょっとぶつかったけどよ。他クラスの連中も俺が絡まれてるのは分かってただろうから大丈夫だよな?」

「そうね。流石にそれにつけ込んで来ることはしないでしょうね」

「でも、一体何を言われたの?」

「猿だのバカだの、ガキみたいなことだよ。喧嘩売りまくってきたぜ」

 

 パン、と自らの拳を手のひらに打ちつけ、怒りを発散させる。

 

「一体何がしたいんだよ、龍園君は」

 

 そういえば、Bクラスの一之瀬にもちょっかいを出している真っ最中だものな。

 

「明人の……部活中の三宅の方にもCクラスの連中が張り付いてたらしい」

「え、明人君のとこにも?」

「……最近のCクラスは随分と活発に行動しているみたいね」

 

 堀北のその言葉に、須藤が面倒そうに口を開く。

 

「何が狙いなんだよ。また俺をハメた時のように事件を起こすつもりか?」

「それは今帆波ちゃんに対してやってるんだよなぁ……まさか複数クラスに対して同時に事件を起こすつもりなのかな」

「さぁな。今はなんとも言えない」

「そうね……だけど対策を考えておいた方がいいでしょうね」

「対策かぁ……あっ、そういえば」

「?」

 

 綱吉は何かを思いついたのか、学生証端末を取り出して教卓の方に急いで行った。

 

「皆、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど!」

 

 綱吉のその発言で、クラスメイト全員の視線が教卓に集まった。

 

「沢田君、何かな?」

 

 平田が綱吉に尋ねると、綱吉は手にしていた学生諸端末を皆んなに向けて掲げた。

 

「実はさ、最近知ったんだけど、この学生証端末には特定の連絡先を緊急時の連絡先に設定できる機能があるみたいなんだ」

「え、そうなんだ」

 

 クラス中が驚いていた。俺も知らなかったな。

 

「で、それがどうかしたの?」

「うん。皆にお願いがある。俺がいいって言うまで……いや、最低冬休みに入るまでは、クラス全員の緊急連絡先を俺にしてほしいんだ」

「なんで?」

「最近、龍園君やCクラスの怪しい動きが目立つ。何が目的かは知らないけど、もしもの時に助けられるように俺を緊急連絡先にしてほしい。そうすると、端末に対して特定の簡単なアクションを起こすだけで、俺にその端末の位置情報が届く」

「なるほど、そうすればすぐに沢田が助けに向かうってわけ?」

「うん。やりすぎとか思う人もいるかもしれない。でも、用心するに越したことはないと思うんだ。だから、どうかお願いします!」

 

 深々と頭を下げる綱吉。すでにクラス内でも綱吉がリーダーという認識で固まっているだろうに、しっかりと礼儀は尽くすところがなんとも綱吉らしいと思った。

 

「……ふふっ♪」

(……櫛田?)

 

 その時、櫛田が急に笑った。そしてブレザーから学生証端末を取り出すと、ピコピコと操作をし始める。

 

「……これでよしっ! はいツナ君っ、私は登録したよ♪」

「! ありがとう桔梗ちゃん」

 

 櫛田が登録したことを宣言すると、他のクラスメイト達も急いで登録を始めた。

 

 なるほど、自分が率先して動くことで他の者達も動きやすくしたのか。

 

「俺も登録したぞ」

「私も!」

 

 やがて、高円寺を除いた全員が登録したことを綱吉に報告した。一方で高円寺は相変わらず手鏡で自分を見るのに忙しいご様子。

 

「……高円寺君は、登録してくれない?」

 

 そう言って様子を伺う綱吉に、高円寺は視線を鏡に映る自分から綱吉へと移した。

 

「ふっ、ナンセンスなことを言うなよシーチキンボーイ。そんな心配など私には不要なことは君だって分かっているだろう? 君のお仲間ならともかく、ただの高校生相手に私が遅れを取るなどあり得ないよ」

「……そう、だよね。わかった」

(……綱吉のお仲間?)

 

 説得が難しいと思ったのか、綱吉は思ったよりもあっさりと引いた。

 

 その後、綱吉が緊急時のアクションをクラスメイト達に周知していると、あっという間にホームルームの時間になった。

 

 

 

 —— 放課後 ——

 

 

 

 その日の放課後。綱吉が生徒会室に向かった後の事だ。

 

 Dクラスに、招かれざる客がやってきた。

 

 

 ——ガララ。

 

 教室の扉が開け放たれると、龍園達Cクラスの生徒がDクラスへと姿を見せたのだ。思わぬ生徒たちの来訪に、教室の中は一気にざわつく。  

 

 これまで遠まわしにDクラスを観察していた龍園達だったが、ついに正面から乗り込んできたようだ。それも綱吉のいないタイミングで。

 

 現れたのは龍園の他に石崎、山田アルベルト。そして小宮、近藤だった。武闘派の連中がここまで集まってくればクラスの空気が重くなるのも当然だ。

 

「なんだオイ。ここはDクラスだぞ」  

 

 真っ先に龍園に反応したのは須藤だった。元々喧嘩っ早いところも多少影響しているだろうが、以前のように振り回されまいとする純粋な防衛反応だったかも知れない。何より堀北を守らなければ。そんな思いが先行したんじゃないだろうか。

 

 即座に立ち上がり龍園に詰め寄っていく須藤。それを見た平田が、暴力沙汰を恐れてか慌ててその間に入った。

 

「うちのクラスに何か用かな? 龍園君」

 

 事態を理解できない平田が聞き返すと、龍園は身振り手振りも大げさに話しだした。

 

「同級生のクラスを訪ねちゃいけない理由があるのか? どこの学校でもあることだろ。友人を訪ねて自分のクラス以外に出向くことは。何をそんなにビビッてやがる」

 

 開口一番、挑発するような発言と強面の面々を連れ回した明らかな高圧的態度にも平田は冷静に切り返す。

 

 「確かに普通はそうだね。だけどこの学校では少し事情も変わってくるんじゃないかな。少なくとも今まで、君たちがこうやってDクラスを訪れたことはなかったはずだよ」

 

 あくまでも今回の件は非常時の扱いだと、平田が極力丸く治めようとする。

 

「今までが疎遠過ぎただけだ。これからはもう少し積極性を見せようと思ったのさ」

 

 手近な女子の机に手の平を置き、龍園が白い歯を見せる。

 

「ペーパーシャッフルの試験じゃ上手く立ち回ったな。お陰で俺達Cクラスは敗北した。まだ結果こそ出ちゃいないが、3学期からお前らはCクラスに上がるかも知れない。大したもんだぜ」

「地道に努力を積み重ねたからね」

「努力か。その努力とは無縁そうな須藤も未だに生き残ってやがるから分からないもんだ。真っ先に退学すると思ったんだがな」

「やっと名前覚えたかよ」

 

 視線が交錯し、バチバチとやりあう二人。  帰ろうとしていた数人のクラスメイトも、まさかの事態に硬直したまま立ち尽くす。

 

「本当の用件を聞かせてもらえるかな」

 

 一刻も早く事態の収拾を図りたい平田にしてみれば、龍園にだらだらと話され続けることだけは避けたいようだ。ただ、そういった態度は見透かされていると思った方がいい。

 

「俺は今、お前らDクラスに対して丁寧に警告をしてやってるのさ」

「警告? どういう意味かな」

「沢田のことだ。あいつをクラスのリーダーにしていると、お前ら全員がバカを見るぜ?」

「意味がわからないな。Dクラスのリーダーは彼だ。それはクラス全員が納得していることだよ」

 

 平田のその言葉に、クラスメイト達が龍園に視線を向けながら次々と肯く。

 その一方で、我関せずといいたげに教室を出ていく者もいた。……櫛田だ。

 

 櫛田は龍園達が教室に入ってからずっと学生証端末を凝視していたのだが、急にぱぁぁっと明るい表情になっていた。

 

「ごめん、私ツナ君に呼ばれちゃったからもう行くね?」

「えっ!?」

「そ、それは何の用で——」

「急ぐからまたね〜♪」

 

「……石崎」

「はいっ!」

 

 櫛田が教室を出ると、石崎がその後を追って出て行った。

 

「……また来るぜ」

 

 石崎に続き、龍園も他の取り巻きを連れてDクラス教室を出て行った。

 

「なぁなぁ、なんか龍園のヤツすげぇことやりそうなんだけど! 桔梗ちゃん助けに行かないとじゃね!?」

「ってか、あいつら櫛田ちゃんに何するつもりなんだろうな!?」

 

 龍園達が櫛田を追って行ったことについて、池と山内が中心となって、あれこれ勝手に妄想話を始めた。  

 

「さすがにまずいんじゃないかしら」

「……かもな」

 

  龍園は櫛田に用件がある様子だったが、それも少し引っかかる。大勢を監視していることもそうだが、この前の事もあるし、今龍園が櫛田に接触を図ろうとしている理由がわからない。

 

「清隆、ちょっと様子を見に行ってみないか?」

 

 そう声をかけてきたのは明人だった。

 

「幾らなんでも人数が多い。もしかしたら何かするつもりかも知れない」

「そうだな……監視の目が多いと言っても絶対じゃないしな」  

 

 万が一にも櫛田が暴行でも受ければ、それを防ぎえたDクラスには重く責任がのしかかる可能性がある。何も学校からペナルティを受けることだけが問題じゃない。助けに行っておけば良かった、と後悔の念で埋め尽くされてしまうだろう。

 

 明人と廊下に出ると、啓誠もついてきた。

 

「俺も行く。少人数だと危険だからな」

 

 少し遅れて堀北が1人で、それを追う形で須藤も出て来る。 更に平田も心配そうな表情で教室から出てきた。

 

 どうやら、今日は荒れる日になりそうだな。

 啓誠と明人に少しだけ待つよう頼み、俺は平田に声をかけた。

 

「平田。お前は教室に残っていてくれ。もしかしたら他にもついてくる生徒がいるかもしれない。池や山内たちといった賑やかしの生徒たちまで来ると、騒ぎも大きくなりやすいんじゃないかと思う」

「……確かにそうだね。でも、櫛田さん大丈夫かな……」

「最悪暴力沙汰になりそうなら、綱吉に連絡する。今朝教わった緊急連絡でな」

「うん、分かった。くれぐれも無茶はしないようにね」  

 

 平田はすぐに落ち着きの無いDクラスの教室へと引き返した。

 

「正しい判断だな清隆。これ以上人数が増えるのは手間が増えるだけだ。それに平田の場合はクラス内を落ち着かせてもらう方が適任だろう」

 

 啓誠も大勢で行くことには否定的なのか、判断に納得した様子で頷く。

 

「よし、じゃあ俺達も行こうぜ」

「ああ」

「そうだな」

 

 出遅れたが、俺達も櫛田達の向かった方向へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 —— 並木道 ——

 

 

 

 

 学校を出て、寮への帰り道にある並木道へと差し掛かる。  まだ放課後を迎えたばかりのそこに、生徒はほとんど姿を見せていない。  しかし、その帰り道の途中に目的の櫛田、そしてCクラスの生徒達がいた。教室では見かけなかったが、Cクラスの伊吹も合流しているようだった。

 

「おい桔梗。ちょっと顔貸せよ」

「ん? 何かな龍園君。私は呼び止められるようなことをした覚えはないよ?」

 

 取り巻き達の背中で櫛田の顔は見えないが、口調はいつもと変わらない。

 

「それを判断するのはお前じゃない」

「へぇ……悪いんだけどこれからデートの約束があるの、手短に済ませて貰えるかな?」

 

 デート? だからあんなに上機嫌に教室を出て行ったのか。

 

「デート? ま、まさか綱吉君と?」

(先を越されたらしいな、堀北)

 

「悪いがその用事は後にしてもらおうか」

「え〜。帰さないつもりなのかな?」

「だとしたらどうする」

 

 少しだけ考えるように片手の人差し指を口元に持っていく櫛田だが、すぐにその指は離れた。

 

「あっちで用件を伺おうかな」

 

 寮への帰り道を塞いでいては他の邪魔になる、という考えなのか、あるいは逃げ切れないと判断したのか、櫛田は少し先にある休憩スペースを指差した。

 

「俺としちゃどこでもいいぜ」

「じゃあこっちに来て」

 

 先頭の櫛田が誘導するように、少し道から外れ休憩スペースへと移動した。往来ならともかく、人目から離れるとなれば静観するにも限界がある。

 

「わ、私達も行った方がよさそうね」

「そうだな。一応緊急連絡を入れておく」

「ええ、お願い!」

(……語気が強いな)

 

 ブレザーのポケットに手を入れる。学生証端末のボリューム増のボタンを2回。その後すぐにボリューム減のボタンを2回。最後に電源ボタンを2回。これで緊急連絡は終わりだ。

 

 俺達も休憩スペースへと移動し。すぐさま堀北は龍園に対して声をかける。

 

「龍園君。櫛田さんに何をする気? 安易に手を出せば、すぐ大問題になるわよ」

「あ? なんだよお前ら。勝手に着いてきやがって。俺達はまだ何もしちゃいないぜ」  

 

 確かに今のところ、誰一人櫛田には指1本触れていない。

 

「俺は桔梗に聞きたいことがあんだ。それに答えてもらおうか」

「一体何かな? こんな大所帯で私に聞きたいことって」

 

 龍園は少しの間を置き、その質問を口にする。

 

「もしも俺達がお前やDクラスの奴らに対し、同時に数カ所に別れて暴力を振るったとする。その場合、沢田は誰を優先して助けると思う?」

「! 一体何を言い出すの?」

「お前には聞いてねぇよ鈴音。俺は桔梗に聞いてんだ」

 

 堀北を軽く睨み、櫛田へと視線を戻す龍園。すると、櫛田は大声で笑い始めた。

 

「ぷっw ぷはははははっ♪」

「……笑ってないで、質問に答えろ」

「あははっw ご、ごめんね。あまりにもくだらない質問すぎて笑っちゃったよ。でも答えてあげる。君の質問に対する答えは1つしかないからね。——全員。以上だよ」

「……ほう」

 

 櫛田の答えは、なんともはっきりした答えだった。こいつなら迷わず自分と答えそうなものだが、あの事件を経てこいつの中で変化があったのだろうか。

 

「はっ、それは答えじゃない。俺は誰を優先すると思うって聞いたんだぜ?」

「うん。だから全員が答えだよ。ツナ君は全員助けるもん」

「同時に暴力を振るってんだぞ? 全員助けるには時間もかかるし、それだと助けられたとしても怪我の度合いに違いがでる。それは同時に、怪我の少ない奴ほど沢田が優先して助けたかった奴だって判断材料にもなるだろ」

 

 ……なるほど。そんな質問をわざわざ観衆の前でするのは、俺達Dクラスに不安を植え付けるためか。

 今していることは何かの為の布石と捉えるべきだろうな。

 

「確かに同時に数人を別々に襲われたら、助かっても怪我の度合いに違いは出ると思うよ? でも、だからってツナ君が人を見て順番を決めたなんて思わない」

「なぜだ?」

「ツナ君なら、助けられる順に片っ端から助けていくだろうからね。その順番なんて状況によるものでしかないよ。というか龍園君。そんなこと聞かされたくらいで、私のツナ君に対する信頼が揺らぐとでも思っているの?」

「……いいや? ただ聞きたかっただけだ」

 

 不適に笑う龍園。その背中を突然叩く者が現れた。

 

 ——トンっ。

 

「! 誰だ?」

「すまないね。ちょっと通してくれないかい?」

「……高円寺か」

 

 いつのまにか近づいていたようで、高円寺は手で退くようにジェスチャーをしている。

 

「お前が別の道を通ればいいだろ」

「残念だが私の目的は、君の先にあるベンチなのだよ。そこでデートの待ち合わせなのさ」

「……ここは使用中だ。場所を変えるんだな」

「それはできないなぁ。今日はここからデートを始めたい気分なんだよ」

「……ちっ」

 

 相手にするのも面倒に思ったのか、龍園は少し後ろに下がった。

 

「どうも」

 

 高円寺はウインクをすると、龍園の前を通り、休憩用のベンチにドカッと腰掛けた。

 

「……ねぇ。用が終わったならもう行ってもいい? 私もデートなんだけどな」

「まだ話は終わってねぇ。桔梗、お前は俺達と沢田が一戦を交えたとして、どっちが勝つと思う」

「ツナ君」

 

 即答だった。

 

「へぇ。俺達全員が沢田一人にやられるってのか?」

「うん。ボコボコにされちゃうと思うから、やめた方がいいよ。どうしても倒したいなら、正々堂々勝負をしかけなよ」

 

 お前が言うな……おっと蛇足だった。

 

「ふっふふふ……」

 

 その時、高円寺がふいに笑い声を上げた。

 

「……うるせぇぞ高円寺。静かにしてろ」

「いやいや。あまりに櫛田ガールの言うことが正論だったものでね。思わず笑ってしまったのだよ」

「あ?」

「真に賢いものなら、シーチキンボーイを前にして戦うことなど選びはしないのさ」

「はっ。なら俺達は愚か者だとでも?」

「イエス。その通りだよドラゴンボーイ」

「……テメェ」

 

 そろそろ龍園が手を出すんじゃないかと思われた頃。この騒動に新たな参加者が現れた。

 

「何事かと思えば、随分と面白そうな組み合わせの集まりですね」

 

 騒動の噂を聞きつけたようで、Aクラスの坂柳達が姿を見せたのだ。

 その中には神室真澄の姿もあったが、残る2人の男子生徒は顔しか覚えていない。

 

「坂柳か……まるで計ったようなタイミングだな」

 

 立ち止まると、カツン、と少女は手にした杖をコンクリートに軽く打ちつける。  

 

「私がここに来たのは用があったからですよ」

「あ?」

 

 坂柳はゆっくりと歩を進め、高円寺の座っているベンチに近づいた。

 

「お待たせしました高円寺君。私から呼び出しておいてすみませんね」

「いいや、かまわないよ? まぁデートにお友達を呼ぶのは感心しないがねぇ」

「すみません、どうしても着いていくと聞かなくて」

 

 どうやら、高円寺のデート相手は坂柳だったらしい。まぁデートと言うのは冗談だろうが。

 

「それにしてもCクラスの主要なメンバーに、Dクラスの生徒。これからクリスマスパーティーに関してのご相談でもなさるおつもりですか?」

「引っ込んでろよ。お前に用はない」

「そう仰らなくてもいいじゃありませんか。パーティーなら大人数の方が面白いですよ? 私達もお仲間に加えていただけません?」

 

 坂柳からの挑発にも似た誘いを、龍園は全く相手にする様子は無かった。

 

「……ここに留まるつもりなら邪魔すんじゃねえぞ」

「もちろんです。ここに来たのは高円寺君とお話しする為ですから」

 

 少しだけ距離を置いた坂柳は、休憩スペースのベンチに腰を下ろした。その前にAクラスの生徒3名が鎮座する。まるで坂柳を守るように。

 

 ま、この空気じゃ暴力事件が起こってもおかしくなさそうではあるが……。

 

 休憩スペース付近に監視カメラはない。とは言え、少し視線を移せば帰路に就く生徒達。いつ誰が何人ここにやって来るかもわからない。 殴りあいが起こるとは、考えにくい。

 

(綱吉を呼ぶ必要はなかったか?)

 

 ここまで黙っていた集まりの中心人物、櫛田桔梗が口を開いた。

 

「ギャラリーが増えているけど、もう話は終わったところだよ」

「待てよ桔梗。まだ話は終わっていない」

「ええ、まだ何かあるの?」

「……ふふっ」

 

 そのやりとりを見ていた高円寺がうっすらと笑った。

 

「どうやら君は、Cクラスの邪魔をする者、あるいは他クラスをまとめる人間を倒すことに夢中になっているようだね」

「そうだな。目障りな人間は全て敵だ。潰す」

「そして今のターゲットは、Dクラスのシーチキンボーイというわけかい」

「そういうことだ」

「また同じことを言うが、すぐにでもターゲットを変えるべきだねぇ。君では彼は潰せない」

「なぜ、そう言い切れる?」

「彼は君が思っているような浅い人間ではないからねぇ。キュートガールもそう思うだろう?」

 

 高円寺が坂柳に話を振った。

 

「そうですね。少なくとも龍園君では相手にもならないかと」

「……俺がコイツらに沢田を突然リンチさせたらどうする? これまでの件を逆恨みして、なんの利もなく、無意味に数の暴力で潰しにかかったとしたらどうだ?」

 

 不穏な空気に堀北が反応しそうになるが、その前に高円寺と坂柳が笑った。

 

「またもナンセンスな質問だね。君はその選択を選ばない。それだと先ほどまでの質問は何だったのかって話になるだろ?」

「生憎と、俺らはどんな状況だろうと暴れられるんだよ。利は度外視だ」

 

 面白いやり取りを聞かされ、坂柳が微笑む。

 

「面白いお話ですね。ドラゴンボーイさん沢田君を潰そうとしているという噂は聞き及んでいましたが、本当のことだったのですか」

「黙ってろと言っただろ坂柳。それとお前が次にその呼び方をしたら殺すぜ?」

「ふふっ。気に入りませんでしたか? 素敵なネーミングだと思いますけど。ドラゴンボーイ——」

「っ!」

 

 そう発言しかけた直後、龍園は素早く坂柳へと距離を詰めた。

 そして地面を蹴り上げて前に飛び出すと、坂柳に対して遠慮なく蹴りを繰り出した。

 

 

 ——ドンっ!

 

「なっ!」

 

 しかし、龍園の蹴りが坂柳に届くことはなかった。なぜなら、いつのまにか綱吉が坂柳の前に立っており、片腕で龍園の蹴りを受け止めたからだ。

 

「なっ! いつのまに沢田が!?」

「——ふふふっ」

 

 石崎が突然現れた綱吉を見て驚愕している。一方で坂柳はどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 

(間に合ったみたいだな)

 

 飛び蹴りを片手で受け止めた綱吉だが、全く効いている様子はなく、微動だにしていなかった。

 

「……ちっ!」

 

 ——ダンっ!

 

 蹴り倒せないと判断したのか、龍園は綱吉の腕に踏み込んで後ろにジャンプして着地した。

 

「あの蹴りを喰らって微動だにしないなんて……」

「ありえねぇだろ」

 

 Cクラスの奴らが綱吉を睨みながらそう呟いた。

 

「はっ、よく受け止めたな沢田」

「……女子の、それも杖を着いている坂柳に対して飛び蹴りか。どこまでも見下げ果てた奴だな、龍園」

「……」

 

 未だ坂柳の正面から動くことなく、後ろに下がった龍園に対して鋭い視線を向ける綱吉。

 

「もう一度呼んだら殺すと言ったはずだ。悪いのは坂柳のほうだぜ?」

「暴力を振るおうとした時点で、お前が悪いだろ。……あと高円寺、全く動く素振りがなかったが、助ける気はなかったのか?」

「シーチキンボーイが走ってくる様子が見えていたからねぇ。私が動く意味はないと判断したまでだ」

 

 ふぁさっと髪をかきあげる高円寺。その隣で、坂柳が綱吉に声をかけた。

 

「ふふ。きっと助けに来てくれると思っていましたよ沢田君。これは私に賛同する気になってくれた、そう捉えていいのでしょうか?」

「……当然のことをしただけだ。君の考えに賛同するつもりは今後もない」

「あら、残念です。まだまだアピールが足りないということでしょうか」

 

 坂柳は俺に少しだけ視線を向けると、ベンチから立ち上がった。

 

「すみません高円寺君。今日はありがとうございました。私はこれで失礼しますね」

「おや、もうランデヴーは終わりかい?」

「ええ。今日はもう十分です。……では沢田君、また近いうちに」

 

 そう言い微笑むと、坂柳は取り巻きを連れて去って行った。

 

「ふむ。デートが終わったなら、私もここに用はないねぇ。失礼するよ」

 

 続いて高円寺も去って行った。

 

 残されたのは綱吉と櫛田に俺達。そして龍園とその取り巻き達だ。

 

「……龍園、最近Dクラスの皆を付け回しているようだが、何のつもりだ」

「はっ、さあな。言わねぇよ」

「……」

「沢田。てめぇはそれよりも、2日後の一之瀬の審議の方を心配した方がいいんじゃないか? 俺達は絶対に一之瀬に不正の罰を与えるぜ」

「……言われるまでもない。帆波の無実は必ず証明する。そして、俺の仲間に手を出したら許さない。そんなことになれば、俺がお前に罰を与えるぞ」

「……はっ。そうかよ」

 

 龍園は綱吉の言葉を鼻で笑うと、俺達に背を向けて歩き出した。その後ろを取り巻き達が追従する。しかし数歩歩いたところで立ち止まり、こちらに振り返った。

 

「——じゃあな沢田。また近いうちに遊ぼうぜ」

 

 言いたいことを言い終えたのか、龍園はまた歩き始める。

 

「……」

 

 綱吉はその背中を、見えなくなるまでじっと見つめ続けていた……。

 

 




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