ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作7巻編 その⑤ ツナ VS 龍園

 

 

 

 —— 屋上、軽井沢side ——

 

 

 

「……俺を潰すため、俺の仲間に。ましてや自分のクラスメイトにまで手を出したこと、死ぬ気で後悔させてやるよ」

 

 2学期最終日の放課後。屋上という寒空の下で、ツっ君と龍園は睨み合っている。

 

 ツっ君がこんなに怒りを表情に出しているのを見るのは、これが初めてかもしれない。

 ……ううん、そもそもツっ君が怒ったところなんて見たことがなかった。

 

 初めて見る彼の怒りの表情。それが自分に向けられたものではないと分かっていても、その雰囲気に威圧されるのか、思わず身がすくんでしまう。

 

「……ガウウ?」

 

 抱っこしていたナッツちゃんが、心配そうに私の顔を見上げている。私の内面を感じ取っているみたいだ。

 

「……大丈夫。大丈夫だよ、ナッツちゃん」

「ガウ!」

 

 安心してもらえるように、頭を撫でながらなだめた。すると安心したのか、ナッツちゃんは視線をツっ君の方に戻した。ナッツちゃんに続くように私も視線を正面に戻す。

 

 お互いに相手の出方を伺っているのか、動こうとしない2人だったけど、痺れを切らしたのか龍園が口を開く。

 

「……他の9人は助けた? はっ、そんなわけねぇだろ。お前にメールを送ってから1時間も経ってねぇんだぞ。それに全ての人質には俺の配下達を付けてある。こんなに早く9人を助け出して、さらに俺のところまで来るなんて不可能だ」

「……信じられないなら、その配下とやらに確認してみろよ。俺が気絶させて、その後に仲間達が学校側に引き渡してるから無理だろうがな」

「……」

 

 龍園はツっ君をギロりと睨みつけ、後方で待機していた石崎に目で合図を送る。それを受けた石崎は学生証端末を取り出して、どこかに電話をかけ始めた。他のCクラスの奴らに連絡をしているのだろう。

 

 石崎は端末を操作して電話をかけることを9回繰り返し、最後の通話を切ったところで、絶望したような顔で龍園に向けて首を振った。

 

「……まじかよ」

 

 龍園は悔しそうな、今だに信じられなさそうな表情でツっ君の顔を見た。

 

「確認は取れたか?」

「……ああ、信じられねぇが、お前の言った通りらしいな」

「そうだ。もう他のこの事件に加担したCクラスの奴らは全員捕まってる。お前達で最後だ」

「……」

「だが、学校に突き出す前に、お前達には今回の事件を起こした報いを受けてもらうぞ」

 

 ツっ君が龍園に向かってゆっくりと詰め寄っていく。

 

 龍園は「フッ」と笑ったけど、明らかにさっきまでの余裕は無くなっているように見えた。

 

「……石崎、行け」

「! は、はいっ!」

 

 龍園は自分では動かず、配下の石崎をツっ君に差し向けた。

 

「やめておけ、石崎。お前では一瞬の足止めにしかならないぞ」

「へっ、前は俺にボコボコに殴られていたくせに、何をイキがってやがる!」

「あの時は須藤の無実を晴らすために、わざと殴られたんだ。今やれば勝負は一瞬で着くぞ」

「やれるもんなら……やってみろやぁ!」

 

 石崎がツっ君に向かって、拳を振り上げながら突っ込んでいく。

 それを見てもツっ君は歩みを止めない。

 まるで石崎のことなんて視界に入っていないみたいに。

 

「うらぁぁぁ!」

「……」

 

 石崎の拳がツっ君の顔面に迫る。

 

 危ない、直撃してしまうと私が思った次の瞬間、なぜか石崎は誰もいない空間に向けて拳を奮っていた。

 しかもツっ君はすでに石崎を追い越している。

 

「なっ!?」

「……」

 

 ——ドゴッ!

 

 ツっ君は視線を龍園に向けたまま、振り返ることもなく、石崎の背中に手の甲の部分を振り抜いた。確か、裏拳とかいう技だったと思う。

 

「ぐあぁぁぁっ!」

 

 ツっ君の裏拳を背中でモロに受けた石崎は、数メートル先まで吹き飛び、屋上を囲んでいるフェンスに大きな音を立ててぶつかった。フェンスがあったのは不幸中の幸いだった。もしなかったら今頃地面に大激突しているはず。

 

「石崎っ!」

 

 フェンスからコンクリートの屋上床に落下した石崎に伊吹が駆け寄る。どうやら気絶してしまっているらしく、石崎は動かない。

 

「……次はお前の番だ、龍園」

「……BAD BOY」

「!」

 

 龍園に向かって進むツっ君の背後に、先ほどまで気絶していたはずのアルベルトが現れた。いつのまにか目を覚ましていたらしい。

 

「やめておけ。さっきお前には神経を麻痺させる打撃を当てた。無理に動くと体へ負担が掛かるぞ」

「SHUT UP!」

 

 大きなアルベルトの拳がツっ君の頭上に迫る。

 

 ツっ君は動じることなく、頭上に来たアルベルトの拳を受け止める。そして掴んだ拳ごとアルベルトの巨体を持ち上げた。

 

「!?」

「……もう一回、寝てろ」

 

 持ち上げられたアルベルトは放り投げられて、さっきの石崎と同様に屋上のフェンスに直撃した。

 

「GAAAAA!」

「アルベルト!」

 

 アルベルトも気絶してしまったようだ。

 

「……」

「今度こそお前の番か? 龍園。それとも伊吹まで差し向ける気か?」

「っ……」

 

 

 邪魔するものがいなくなり、ツっ君は龍園の目前にまで近づいていた。

 

「……クハハっ、ははははっ!」

「……」

 

 

 ツっ君に追い詰められた龍園は、なぜか手で目元を覆い、空に向かって高笑いをし始めた。

 

「謝ろう。俺達はお前の実力を見誤っていた。さっきまでのこっちの優位はどこへやら、あっという間に大ピンチだ。どうする伊吹」

 

 先ほどまでの圧倒的な戦いっぷりを一部始終を見ていたはずなのに、龍園は技量を見せ付けられても楽しそうに笑う。

 

 しかも、いまだ自分は戦わず、伊吹にツっ君の相手をさせようとする始末。

 

 

「やめておけ伊吹。お前は自分と俺との実力差を理解できているはずだ」

「たとえそうだとしても……お前は戦うよなぁ、伊吹?」

「っ。何なのよ……あんたも、沢田も……!」

 

 苛立ちをぶつけるように伊吹は駆けだし、ツっ君に飛び蹴りをかましてきた。下着が見えていることなど気にした様子もない。

 

 ううん、正確にはそんなことを考えるほど冷静じゃなかったのかも知れない。

 

 ツっ君は後方に下がり、落ち着いてその蹴りを避ける。

 

 伊吹は喧嘩になれているのか、躱されても即座に地面を二度三度踏み、距離を詰めて隙の少ない蹴りを主体に攻めていく。それでもツっ君には一度も攻撃が当たらない。

 

「ムカつく。本当にムカつく! わかってんの!? あんたのせいで私達は龍園からひどい目に遭わされてんだよ!」

「……お前達の境遇には同情する。だが、お前達もこの件に加担しているんだろ? だったらこの件に対する罰は受けてもらうぞ」

「くそがぁぁっ!」

 

 怒り狂った伊吹が、大振りの蹴りを繰り出そうとする。ツっ君はそれをあっさりと躱し、伊吹のみぞおちに拳をたたき込んだ。

 

「ぐはっ!」

「……でも安心しろ。お前達のことも、いずれ助けだすから」

「っ……何を……言って……」

 

 伊吹はゆっくりと意識を失っていき、やがて倒れた。

 

 ツっ君は支える形になってしまった伊吹をフェンスに寄かかかるように座らせ、再び龍園に向き直った。

 

「……もうお前だけだな、龍園」

「……そのようだな」

 

 ついに自陣が自分だけとなって、ようやく龍園は動き出した。

 

「ククク……俺を楽しませろよ、沢田」

「さっきまでの戦況を見てもなお、そこまで大口を叩くか」

「ああ。俺はあいつらとココが違うからな」

 

 龍園は人差し指で自分の頭を指した。

 

「喧嘩の勝敗を決めるのは、何も腕っぷしの強さだけじゃねぇ。こういう勝ち方も……あるんだよ!」

「!」

 

 龍園はどこから持ってきたのか、砂をツっ君の目に向かって投げつけた。ツっ君は目に入ったのか目を瞑ってしまっている。

 

「目が見えない状態なら、何もできねぇだろ?」

 

 ツっ君が目が見えないのをいいことに、龍園は大振りで拳を振りかぶった。

 

「危ないツっ君!」

「ガウっ!」

 

 龍園の拳がツっ君に直撃……することはなく、ツっ君は目を瞑っているのにも関わらず、余裕で龍園の拳を躱し、さらに龍園のお腹に膝蹴りをたたき込んだ。

 

「ぐはあっ!」

 

 膝蹴りはクリーンヒットし、龍園は後ろに数メートルずり下がった。

 

「かはっ……て、てめぇ」

「あの程度で俺の虚を衝けると思ったのか? お前が目潰しを狙ってるのは明らかだったから、かけられる前から目を瞑っていたんだ」

 

 どうやら目に入ってすらいなかったらしい。でも、やり返した時も目を瞑ったままだったのは気のせいかな。

 

「へっ、へへへ……いいねぇ沢田、勝負を楽しませてくれるじゃねぇか」

「……さっきも言ったが、これは勝負じゃない。俺からの一方的な断罪だ」

 

 ツっ君はそう言いながら龍園に近づき、痛みに耐えている龍園の背中に、今度は回し蹴りをたたき込んだ。

 

「がはぁぁつ!」

 

 さっきとは逆方向に吹っ飛ばされる龍園。しかし、これまでの3人とは違い、こんなに攻撃を受けても龍園は気絶しなかった。

 

「かはっ……かはっ」

「他の奴らみたいに、すぐに気絶はさせない。お前には自分の過ちを悔いてもらわないといけないからな」

「……くっ、くははは……ばーか。俺は今回のことを悔やんだりなんてしねぇよ」

「……そうか。まだ痛みが足りないのか」

「——がはっ!」

 

 ……そこからは、ツっ君の一方的な攻撃が続いた。

 

 ——殴る。

 

 ——蹴る。

 

 ——殴る。

 

 

 それでも龍園は笑っている。

 

 ——また殴る。

 

 ——また蹴る。

 

 ——また殴る。

 

 同様の流れが10回程繰り返される。すでに龍園の顔面は腫れ上がり出血もしている。内出血もしていそうだ。

 

 でも、それでも龍園は笑っている。

 

「……すでにお前は満身創痍のはずだ。なのに、どうしてお前は笑い続けられるんだ」

「……く、くくく……ぺっ!」

 

 龍園は再び笑い、口から血の混じった唾を吐き出した。

 

「残念だが、どれだけ痛めつけられても俺は屈しねぇよ」

「……痛めつけられるのが、怖くないのか?」

「ああ、怖くない。俺は生まれてからこの方、一度も恐怖ってものを感じたとがねぇんだからな」

 

 ありえない、生まれてから一度も恐怖したことがないだなんて。

 

「……なら、お前は負けを認めないと?」

「確かにこの場はお前の勝ちだろうなぁ……だが明日はどうかな? 明後日は? 来月は?」

「繰り返してれば、いずれ勝てると?」

「ああ。いつでも、どこからでも狙ってやるさ」

「……恐怖を感じないから、いつまでも俺に固執するわけか」

「くくくっ、そうだよ。最後に勝敗を決定するのは精神力と覚悟だからな」

「……そうか。なら、肉体への攻撃はやめだ。精神を攻撃する」

 

 龍園の言葉を聞いたツっ君は、掴んでいた奴の胸ぐらから手を離し、屈み込んで床に倒れている龍園と目線を合わせた。

 

「……おい龍園。俺と勝負しろ」

「は? 今更何言ってやがる?」

「今度のは正式な勝負だ。俺とお前、どちらかが敗北を認めるまで続く真剣勝負」

「……」

「ただ、俺の仲間に手を出すことは許さない。狙うなら俺を直接狙え」

「……くくっ、俺がそんなルールを守るとでも?」

「守れ。その代わり、俺のことはいつどんな時だって狙ってくれていい。寝ている時に俺の部屋に侵入して襲ってこられても文句は言わない……たとえそのまま殺されたとしてもな」

「……は?」

 

 笑っていた龍園だけど、ツっ君の雰囲気の変化に気づいたのか、表情が曇る。

 

「今、このままお前をボコボコにしても、お前は絶対に負けを認めないだろう。そしてまた後日俺と仲間達を狙う。このままでは俺達は何度もこの無駄な争いを続けることになる。だからこそこの勝負……いや、殺し合いをするんだ」

「は? は?」

「言っておくが、俺も絶対に負けを認めたりしないからな。お前が勝つ為には俺を殺すしかないぞ」

「な、何を言ってんだてめぇ」

「何だよ龍園、その顔は。お前は俺を潰したかったんだろ? さっきまでは軽井沢を殺しかねないことをしていたじゃないか。……それなのに、本当の殺しはできないとか言うつもりか? 安心していいぞ、俺が死んでも学校側に問題にはさせない」

「い、いや……」

 

 ツっ君の迫力と威圧に、龍園が口籠る。

 

「……どうした龍園。早く選べよ」

「……は?」

 

 ツっ君が再び龍園の胸ぐらを掴み、自分の顔すれすれまで引き寄せた。

 

「は、じゃないだろ。俺との殺し合いを受けるのかって聞いてるんだよ」

「ひ、ひっ」

 

 龍園の顔は、これまでに見たこともないほどに血色が悪くなっている。

 

「最後に勝負を決めるのは精神力と覚悟。ああ、俺もそう思うよ龍園。それに当てはめると、俺達の殺し合いは〝誰を犠牲にしても絶対に相手を潰す〟って覚悟と、〝自分を犠牲にしても仲間を守る〟って覚悟のぶつかいあいになるよな」

「ひっ……」

「さぁ龍園。真に強いのは、どっちの覚悟と精神力なのか。はっきりさせようじゃないか。この殺し合い、受けるだろ?」

「ひっ、ひぃい……」

 

 

「——受けろよ龍園翔! お前が俺を殺すか! 俺がお前の覚悟を殺すかの戦いを!」

 

 

「……」

 

 最後は弱々しい声を出すこともできず、龍園は気を失ってしまっていた。

 

 ……正直、ツっ君に対して恐怖を覚えてしまっていた。

 あの優しいツっ君が、あんなことを言うとは思ってもみなかったから。

 

 ——だけど、そんな感情はツっ君がこっちに顔を向けた瞬間に消えてしまった。

 

「……待たせたな軽井沢。終わったぞ」

 

 龍園を床面に寝かせたツっ君は、私の方に振り返った。その表情にはさっきまでの狂気とも言える恐ろしさはなく、いつもの底抜けに明るくて優しい表情だった。

 

 ツっ君は私のそばに来ると、ゆっくりと私を立ち上がらせてくれた。

 

「歩けそうか?」

「う、うん。なんとか歩けそう」

「そうか。……」

「? ツっ君?」

 

 私の全身を見渡すと、ツっ君はなぜか下を向いて動かなくなってしまった。

 

「……」

「……?」

「……っ」

「! えっ、ツっ君!?」

 

 再び顔を上げたツっ君は……涙を流していた。

 

「ど、どうしてツっ君が泣くの? ツっ君のおかげで私は無事だよ?」

「っ……すまない」

「え?」

「すまない……約束していたのに」

「約束って……」

 

 私の脳裏に、夏休みの最終日に、プールでしたツっ君との会話が蘇る。

 

 

 

 ——今みたいにさ。俺、すぐに駆けつけるから!

  

 ——駆けつける?

 

 ——軽井沢さんが俺を呼んでくれたら、今みたいに遠くからでも必ずその声を聞いてさ、君の元に走っていくから。

 

 ——……うん。

 

 ——君に辛い思いはさせないように、全力を尽くすから。だから、俺の事を信じてくれないかな。

 

 

 

「……ツっ君」

「駆けつけると約束したのに、すぐに助けに行けなかった。そのせいで君は……君は、こんなに辛い思いを」

 

 ツっ君は私の肩に手を置いてきた。ずぶ濡れになっていることを気にしてくれているのだろう。

 

「気にしないでよ! ツっ君はちゃんと助けに来てくれたじゃん!」

「……」

「ほらツっ君! 顔を上げてよ!」

「……」

「……えっ!?」

 

 顔を覗き込んでいると、急にツっ君に抱き寄せられてびっくりしてしまう。

 

「つ、ツっ君?」

「……軽井沢、無理しなくていい」

「わ、私は無理なんて……」

「……怖かったよな。本当にすまない。もう、もう我慢しなくていい」

「うっ、うう」

 

 ツっ君に優しく語り掛けられる。

 その声色と、ツっ君の温もりで、押し込んでいたはずの恐怖と悲しみが決壊して溢れ出す。

 

「うぅ……うわぁああぁ! 怖かった! 怖かったよぉ!」

「ああ……本当に無事でよかった」

「うああぁぁぁ!」

「もう二度と、こんな思いはさせない。今度こそ約束する」

「うあぁぁん! ツっ君〜!」

 

 

 

 

 ……冬の寒空に、私の泣き叫ぶ声がこだまする。

 

 ……だけど。

 

 私の心は、優しくて暖かな光に包みこまれていた。

 

 




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