ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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原作2巻編 その⑤佐倉愛里

 

 —— 佐倉愛里の独白 ——

 

 人と触れ合うのが苦手だ。

 人の目を見て話すのが苦手だ。

 人が集まっているところで過ごすのが苦手だ。

 

 私は、偽りの仮面を被って、自分を守ってきた。

 

 だけど昨日、自分の事を見て欲しい。触れ合ってみたい。そう思える人と初めて出会った。

 

 真実を知っていながら、自分を守るために逃げようとした私に、彼は私をまっすぐ見つめて、こう言ってくれた。

 

『たとえ誰も信じなくても、俺だけはずっと君の味方で居続ける。約束する!』

 

 その言葉と、その人の優しい目が嬉しくて。

 私は彼の助けになる事を決めた。

 

 そして今日。CクラスとDクラスの話し合いの場で、私は自分が見た事を証言することになった。

 

 会議室に呼ばれた私は、いろんな人からの視線が怖くて、思わず彼の方に視線を向けてしまう。

 

 その時の彼の目は、昨日と同じ優しい目で、「大丈夫だよ」と、言ってくれているようで、私を見ながら頷いてもくれた。

 

 彼の姿に勇気をもらい、私はなんとか自分の見た事を、全て証言することができた。

 

(これで彼の役に立てたかな……)

 

 ——そう思ったけど、やはり私では彼の役には立てないみたい。

 

 Cクラスの担任の先生が、私の証拠に難癖を付けて、無理やりに審議を終わらせようとしてきたのだ。

 

(ああ、なんで私はこんなにダメな人間なの……)

 

悲しい現実に頭が真っ白になっていき、気づいた時には、すでに審議は終わっていた。

 

 どうやら彼と堀北さんの頑張りで、明日の放課後まで、審議を延長してもらえたらしい。

 

 生徒会書記さんの号令で、審議が終わりが宣言されると、Cクラスは乱暴に椅子から立ち上がり、こちらを睨みながら会議室を出て行った。

 

その後にDクラスも会議室を出たのだが、私は申し訳なさから最後尾で会議室を出た。

 

 廊下に出ると、彼が心配そうに話しかけてくれた。

 

「佐倉さん、大丈夫? すごい震えているけど」

「! あ、うん……まだ緊張が解けないだけだよ」

「そう? ......堀北さんと綾小路君。悪いけど、先に特別棟の現場を調べといてくれない? 佐倉さんが落ち着いたら、俺も行くから」

 

 彼にそう言われると、堀北さんと綾小路君は廊下を2人で進んで行った。あれ、いつのまにか須藤君と先生もいなくなってるな。

 

 2人を見送った彼は、廊下の壁に背中を付けて、私の回復を待ち始めた。

 

それがまたすごく申し訳なくて、私は先に彼に謝ることにした。

 

「……あの、沢田君。ご、ごめんね?結局須藤君の無実を証明する事は出来なかったよ……」

 

 そう言った私に、彼は優しい笑顔でこう言ってくれた。

 

「何言ってるの! 佐倉さんの写真のおかげで、一方的に須藤君が悪い、って事にならなかったんだよ? 十分過ぎる活躍だったよ。本当にありがとう、佐倉さん」

 

 こんなダメな私でも、優しく包み込んでくれる沢田君。その優しさに、思わず涙が出そうになった。

 

 涙ぐんでいるのがバレないように、手で拭おうとした瞬間。

 

 ガララ......と、音を立てて会議室の扉を開き、生徒会長と書記の方が出てきた。

 

「——なんだ。まだ残っていたのか」

「すみません、佐倉さんが疲れてるので、少し休憩をと」

 

 生徒会長にここにいる理由を説明すると、生徒会長は彼に更に問いかけた。

 

「明日の放課後までに、須藤の完全無実を証明する……本当に、そんな事ができるのか?」

「はい、もちろんです。明日は今日みたいな、意味のない話し合いをする必要は無いですよ」

「フン、お気遣い感謝しよう」

 

 生徒会長は、そう少し笑って返した。

 

 次の瞬間、生徒会長の視線がなぜか私に向けられた。

 

「佐倉、といったか?」

「!.....は、はい」

 

 名前を呼ばれて、思わず萎縮してしまう。

 

 生徒会長は私に一歩近づくと、冷ややかな目つきで語りかけてきた。

 

「真実と判断されない証拠には、何の意味もない。それを知れ」

「.....わ、私はただ、本当の事を……」

「審議において、1番大事なのは証拠の信用性だ。Dクラスの時点で、他のクラスよりも、マイナスからのスタートだぞ。それなのに、お前がそんな風に自信なさげでは、証拠の用性は更に下がってしまうんだ」

「わ、わた……わたしは——」

 

 生徒会長に威圧され、さっきとは別の感情で泣きそうになっていると、私と生徒会長の間に、彼が入ってくれた。

 

「大丈夫です。俺は佐倉さんの事を、信じているので」

「信じているだと?」

「......さ、沢田君」

 

 そして、彼は生徒会長に向かって、堂々と宣言した。

 

「佐倉さんが真実を証言している事は、俺が必ず証明してみせます。なので安心して下さい」

「......いいだろう。沢田、私を失望させてくれるなよ?」

 

 そう言うと、生徒会長は書記の方を連れて、スタスタと歩いて行ってしまいました。

 

「佐倉さん、震え止まったみたいだね!」

「えっ?......あ、本当だ」

 

彼にそう言われて気づいたけど、いつのまにか私の震えは止まっていた。

 

きっと、さっきの彼の言葉が嬉しかったんだろうな。

 

「じゃあ、教室に戻ろうか!」

「うん、そうだね……」

 

彼と一緒に歩きながら、私はなぜか寂しいなと感じていた。

 

 ——沢田君なら、あのストーカーについて相談しても、嫌がられないかな……。

 

 —— side ツナ ——

 

 佐倉さんを連れて教室に戻ると、桔梗ちゃんが声をかけてきた。

 

「あっ! 審議はどうだったの?」

「なんとか明日まで審議を持ち越せたよ。佐倉さんのおかげだね」

「よかったあ♪ あ、佐倉さん。今日は一緒に帰らない?」

「え? 私と?」

「うん!」

 

 佐倉さんは迷っているようだ。

 さすがにいきなりすぎたかと、実は佐倉さんと桔梗ちゃんが一緒に帰ることを提案した張本人である俺が、理由を説明する事にした。

 

「Cクラスの奴らがちょっかいをかけてくるかもしれないからさ。桔梗ちゃんと一緒にいれば、多分大丈夫だと思うんだ」

 

本当は、別の事が心配で1人で帰らせたくないんだけど、わざわざ不安にさせることはないよな。

 

「は、はぁ」

「よし、じゃあ帰ろ~♪」

「えっ! ちょっと待って下さい」

「いいからいいから♪ 今日のところはお願いだから大人しく従って! ね?」

「え~……わ、わかりました」

 

 桔梗ちゃんが引っ張るような形で、2人は一緒に帰って行った。

 

「.......よし。俺も行くか」

 

 2人を見送った俺も、綾小路君達の待つ特別棟へと向かうのだった。

 

—— 特別棟3F  ——

 

「2人共、お待たせ」

「ああ」

「遅かったわね」

 

 特別棟の3階、つまり事件現場につくと、すでに調査は終わっていたようだった。

 

「ごめんね。——で、どう? やっぱり監視カメラはない?」

 

 この質問に、2人共無言で首を振る。

 

「ないわね。この特別棟には、教室内以外には監視カメラは設置されていないわ」

「そのようだな……それにしても、暑いな」

 

 綾小路君はブレザーを脱いでいて、シャツの首元をパタパタと動かしている。

 

 確かに、この特別棟の廊下はすごく暑い。それは、一昨日須藤君の目撃者探しをしていた時から分かっていた。

 

「そうね……こう暑いと、正常な思考は出来ないでしょうね」

「……なぁ堀北。お前、須藤の完全無実を、どうやって証明するつもりなんだ?」

「——知らないわ」

「は? じゃあなんで、生徒会長にあんな啖呵切ったんだよ」

 

 気怠げな綾小路君の質問を、堀北さんはばっさりと切り捨てた。

 

「私はただ、沢田君にバトンタッチされた時に言われた通りにしただけよ」

「言われた通り?」

「ええ。『佐倉さんの出す証拠を見ても、Cクラスは須藤君の無実を認めないと思う。きっと、お互いに罰を受ける、という和解案で終わらせようとしてくるはず。そうなったら、絶対にその和解案を受け入れないで、あくまで須藤君の完全無実を主張してほしい。そうすれば、絶対に須藤君を完全無実にできるから』ってね」

「......沢田、どういうことだ? そんな方法をいつ思いついたんだ?」

 

 綾小路君が、訝しげな表情で、俺にそう聞いてきた。

 

「あはは。ちゃんと思いついたのは、会議室に入った時だよ」

「どういうことだ?」

「会議室に入ったらね、須藤君が不思議そうな顔で、石崎君達の事を見てるんだよ。それでどうしたのってきいてみたらさ——」

 

 〜 1時間前、会議室 〜

 

「いや、あのよ……石崎達の、怪我の度合いがおかしいんだよ」

「? 思ってたよりひどい、とか?」

「そうなんだか、そうじゃねぇ。俺があいつらにした暴力ってのはさ、ボディを2、3発殴って動けなくしただけなんだよ。それなのに、あいつらは顔面や腕に怪我してんだろ? どうもおかしいんだよなぁ……」

 

 ~回想終了〜

 

「——って、言われたんだ」

「……それが?」

 

 理解できなかったのか、堀北さんがそう言ってきた。

 

「つまりさ、石崎君達の負っている怪我が、須藤君によるものじゃないとしたら、石崎君達の怪我は〝あの事件の後〟に、受けた暴力が原因になるでしょ?」

「ええ」

「だとすれば、1番可能性の高いのは——須藤君に受けた暴力が思ったよりも軽くて、今の状態じゃ『須藤君に受けた暴力が原因で怪我をしました』、って状況を作り出せない。だから、そう見えるように追加で別の誰かから暴力を受けた……って事じゃない?」

「っ! 確かにそうね」

「……なるほどな」

 

 俺の考えを聞いた2人は、目を見開いて頷いている。

 

「それで、その追加の暴力を行った奴を探すのか?」

「ううん。多分そんな事を証明する証拠は、見つからない」

「どうして?」

「こんな事件を引き起こすCクラスだ。Cクラス内部で行う暴力には、細心の注意を払ってると思うんだ」

「.....そうね。今回の事件も、監視カメラがない場所に連れ込んでいるわけだし」

 

 訴えを起こしたのも、勝てる自信があったからのはずだ。

 

「それに、須藤君を退学にする為とはいえ、追加で暴力を振るわれている訳だし、石崎君達は、暴力による恐怖で縛られているはずだよ」

「だろうな……」

「それで、Bクラスの神崎君が『石崎は中学時代は不良の頭をやっているような奴だった』って、言ってたよね。そんな人が、恐怖で縛られてるからって、誰かにいいように使われて、平気だと思う?」

 

 俺の質問に、2人は首を横に振る。

 

「きっと、相当なフラストレーションが溜まっていると思うんだ。他の2人も一緒、須藤君にバスケの実力で勝てないからって、練習の邪魔をするくらいだし。相当フラストレーションが溜まってるはずだ」

「それで、どうするの?」

「そのフラストレーションを利用して、須藤君への訴えを取下げさせようと思うんだ」

「確かに。須藤が暴力を振るった事は事実だから、須藤を完全無罪にさせるには、訴えを取り下げさせるしかないだろうな」

「でも……石崎君達の不満を利用して、訴えを取り下げさせるなんて。そんな事できるの?」

「きっとできるよ。具体的には、こう言う作戦なんだけど……」

 

 俺の考えた作戦を2人に聞かせる。すると、綾小路君は少しだけ笑っているような顔になり、堀北さんは、呆れたようにため息をついている。

 

「ふふっ、なるほどな。いい作戦だ」

「はぁ……確かに、それならうまく行きそうだけど……沢田君が無傷では済まないわよ?」

「わかってるよ。でも大丈夫! 俺は怪我には慣れてるし、これが一番いい方法だと思うんだ」

「......わかったわ。そこまで言うなら、沢田君の作戦で行きましょう」

 

 その後、俺達は作戦の細かい打ち合わせをしてから解散した。

 

 

 

 —— 次の日、早朝 ——

 

 

 作戦を実行する為に、かなり早めに教室に向かうと、すでに佐倉さんが登校していた。

 

「あ、佐倉さん。おはよう」

「さ、沢田君。お、おはよう」

 

 声をかけると、佐倉さんは一瞬びっくりしたようだが、すぐにいつも通りに戻った。

 

「来るの早いんだね。俺はちょっとやる事があって、早めに来たんだ」

「——実は、沢田君に聞いて欲しい話があって」

「俺に話?」

「うん……」

 

佐倉さんは俺の方を見つめてくるが、その体が微かに震えていた。

 

(……あの男のことかな?)

 

「あ、あの、沢田君に相談したい事があって——」「ストーカーの事?」

「えっ? な、なんで?」

 

 相談内容が当たっていたのだろう。佐倉さんはとても驚いたようだ。

 

「ごめんね。一緒に家電量販店に行った時の、佐倉さんの様子が気になってさ。もしかして、あの店員に何かされてるんじゃないかと思って、調べさせてもらったんだ」

「え。し、調べたの?」

「うん。それで、このSNSのページを見つけたんだ」

「あ……」

 

 学生証端末で一昨日調べたページを開いて、佐倉さんに見せた。

 

 液晶に映るページを見た佐倉さんは、大きく目を見開き、やがてどこか安心したように目を閉じた。

 

「——見られちゃったんだね」

「見られたくなかったのなら、ごめん。でもそれで、君にネットストーカーしている奴がいる事に気づいたんだ」

「あ、あのコメント?」

 

 佐倉さんは、俺が言っている奴が誰のことかすぐに分かったらしい。

 

「うん。そして、その書き込み主が誰かも検討がついてる」

「え……本当?」

「うん。だから安心して? 今日の須藤君の件が片付いたら、すぐにそっちのストーカーを、なんとかするから」

「っ! 沢田君……あ、ありがとう」

 

 佐倉さんは線が切れたみたいに、大泣きし始めた。すごく怖かったんだろうな……。

 

 佐倉さんの頭に手を置いて、優しく撫でてみる。

 

 撫でられた事に驚いて顔をあげたが、どうも嫌ではなさそうに見えるので、そのまましばらく撫で続ける。

 

そして、このタイミングで、佐倉さんに言おうと思っていた言葉を伝える事にした。

 

「佐倉さん。これからも何か困った事があったら、いつでも俺に相談してよ」

「え?」

「須藤君の為に証言してくれたお礼……いや、それよりも、友達の助けになりたいからさ」

「うん……ありがとう」

 

は佐倉さんはまだ泣いていたが、俺に微笑んでくれたので、俺も微笑み返して手を離した。

 

「それと今日の放課後は、俺がいいって言うまで、学校の外には出ないでほしいんだ。もしかしたら、怖い目に合わせてしまうかもしれないから」

「う、うん。わかったよ」

 

 それから数分後。佐倉さんが泣き止んだのを確認し、作戦を実行するべく教室から出るのだった。




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