魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen   作:ルル・ヨザミ

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第33話 終結後の心の傷

 フェイトによって、抱えられたなのははシグナムとも合流し、グラナードへ戻った。グラナードに着くとすぐに、シャマルが飛んできて、なのはをタンカーに乗せ、医療室に運んで行った。その時、フェイトは少しだけ寂しそうな顔をしてそれを見ていたという。これはシグナムの談だ。

 その後フェイトはグラナードが本局帰還のための次元移動に入るため、自室に入れられた。そして、次元航行が安定に入った頃に、フェイトの部屋のドアが開く。

 「フェイトちゃん、お疲れ様や」

 はやてが、フェイトを労いにやってきたのだ。

 「ああ、はやて。はやてもお疲れ様」

 「いやいや、私は何にもしてへんよ?フェイトちゃんは何や、”影”に憑依されてるのがわかったり、色々あったらしいし、そっちの方がお疲れ様やろ?」

 「でも、はやてだって、私たちがなのはを探している間この艦の護衛をしてくれていたじゃない」

 二人の間に何とも言えない空気が流れる。

 「ではどちらもお疲れ様、ということにしましょう。主」

 沈黙を破ったのはシグナムだった。

 「シグナム、いい考えや。そうしようかフェイトちゃん」

 「うん…」

 そして、再びシグナムが話し出す。

 「そうでした。我が主、バニングスが目を覚ましたようです」

 「おお!アリサちゃんが目覚ましたんか!フェイトちゃん、一緒にお見舞いに行こ!」

 「わかった!」

 二人は、アリサのいる医療室を目指して駆けだした。

 「二人とも、元気だな…。特にテスタロッサ。」

 シグナムは穏やかな顔で二人を見送った。

 場所は変わり、医療室内のベッド。いくつものベッドが並べられているがその一番奥に彼女は寝ていた。アリサ・バニングスだ。

 アリサは、なのはと違って目を覚ました時から乗っ取られている時の記憶をハッキリと覚えていた。

 ある日いきなり知らない男が病室に入ってきて連れ去られたこと、連れ去れた先でよくわからない宝石を埋め込まれたこと、自分の身体をなのはの様に黒い球体が包み込んだこと、何人もの管理局員を倒したこと、シグナムやなのは、フェイトと戦った事。全部覚えていた。この出来事を忘れられたらどんなに良かったか。

 アリサの目には自分の弱さや、行った事の重大さに対する罪悪感、なのはに対しての恨みを、怒りを感じてしまった事の後悔、等複雑な感情が入り乱れたことによる涙が浮かんでいた。

 「私は…いつもいつも…あの子の足を引っ張ってばかり…今回も私がもっと…もっと強ければ、こんなことには…!!」

 今度はアリサは自分に対しての怒りで頭がいっぱいになってしまっていた。

 「アリサ、あまり自分を責めすぎないで…」

 「えっ…フェイト…はやても…」

 「そうやで、アリサちゃん。もう起きてしまったことはしょうがない。過去のことになってしまったんや。今は体調を整えて、これからの事、未来の事を考えるようにしよう?」

 「……そう簡単に、切り替えられる訳…ないじゃない。私がしたことは重罪よ?これからの人生、私はこの罪の意識を抱えていかなきゃいけないのよ?」

 アリサは涙を流しながら、フェイトとはやてに訴える。

 「貴方たちにも…私はこれからも罪悪感と共に過ごしていかないといけない…今まで通りの付き合いなんて無理でしょ!」

 「それはアリサちゃんの気持ち次第だよ」

 フェイトとはやてが振り返ると松葉杖で立っているなのはがいた。

 「…なのは…」

 「なのはちゃん、もう大丈夫なん?」

 「隣のベッドに寝ててってシャマル先生に言われたんだけど、みんなが話している声が聞こえてたから来ちゃった」

 「私の気持ち次第って…どういう事?」

 「…アリサちゃん、本当は最初に会ったら謝ろうと思っていたんだけど…」

 「今はとりあえず、私の疑問に答えて欲しいわ…お願い…」

 「わかった。あのね、私は自分が行ったことに対してどう向き合うかは生きていくことで示していこうって思ったの。」

 「生きていくこと?」

 「そう、生きて罪を背負い続けることが私の償い。死ぬことも罪を忘れることも許さない。それが私にできること」

 「そんの辛いすぎるじゃない…」

 「でも私が迷惑をかけた人たちはもっと辛い気持ちになったんだ。それはアリサちゃんもそうだよ。私があの時”隷属の影”に乗っ取られなければアリサちゃんが怒りの感情を覚えることもなかっただろうし…でも傷つけた事実は変わらない。そうなってしまった。だから私は、その事実を受け止め罪を背負う。でも、幸せになってはいけないわけじゃない、それはアリサちゃんもそう。事件を起こした私が言えることじゃないかもしれないけど”影”に乗っ取られて行った事でもあるから。不必要な罪の意識は持たなくていいの。…クロノ君や管理局の偉い人たちも言ってくれたことでもあるんだけど…」

 「え、なのはの事件は管理局の本局には伝えてないんじゃ…」

 「アリサちゃんの事件が”影”関係ってわかった時点で、クロノ君が報告していたんだよ、さっき診察している時に通信で言われた」

 「…不必要な罪悪感…難しいわね…結局…」

 「だから、必要以上に自分を追い込まないでってこと…。それで自分を追い込んだって、何が残るの?残るのは延々と続く自責の念。私がそうだったように、アリサちゃんも今まで普通に話せていた人から逃げるように生きるの?…自分が計画してやった罪でもないのにそんなに自分を追い込むの?直接的に悪いのは”影”たち。私たちを操った”影”たちなんだよ?」

 「…そうね…確かに、私がやったことは自分で考えたことじゃない。起こった事実の罪の意識は忘れずに、事件を起こしたっていう罪の意識で自分を追い込みすぎないようにするってことよね」

 「うん、私はそうするよ。…で、アリサちゃん。改めまして、ごめんなさい。」

 なのはは、今度は自分のしたことを謝った。アリサの左腕を切ってしまった事、腹を刺してしまった事、そして自らの事件の起こった発端である、友達であるアリサを信じられなくなってしまっていたことを、打ち明け謝罪した。

 「じゃあ、お互いに受け止めあいましょう。私もなのはに身体を直してもらったわけだし」

 「そうだね!それがいいよ!」

 ずっと黙っていたフェイトが我慢できずに、そう言った。

 「フェイトちゃん…今は我慢するべきや…」

 「だ、だって、空気が重いから!」

 「あははっ…!全くフェイトはしょうがないわね」

 「あ、アリサ!」

 「フェイトちゃん、明るくしてくれるのはいいんだけどもう少しやり方とタイミングが…」

 「なのはまで!」

 しょんぼりとしたフェイトを横目に、はやてが

 「なのはちゃんもずっと立ってちゃ辛いやろ。手貸すから、横になったら?」

 「ありがとう、はやてちゃん」

 「しばらく隣どうしなんだから、色々話しましょ」

 「うん!今まで通り、ね?」

 「そうね!」

 「いやぁ…よかったよかった。フェイトちゃんもそう思わへん?」

 「あ、はい」

 「明らかに元気無くなってるじゃない」

 「誰のせいだと!?」

 グラナードの医療室では行きの時には聞こえなかった少女たちの笑い声が響いた。その笑い声は廊下まで響き、戦いで疲れたものたちの癒しになっていたことを本人たちは知らない。

 そしてリーリョを出発しておよそ二時間、グラナードは本局に着いた。スタッフたちや、なのはたちが艦を降りてくる。

 「足元に気を付けろなのは」

 「シグナムさんわざわざありがとうございます。でも大丈夫ですよ?だいぶ松葉杖にも慣れましたし」

 「そう言う問題じゃないよ、なのは。松葉杖で躓いたらどうするの?」

 なのは、フェイト、シグナムが一緒に艦を降りてきた。

 「…それにしても、そこまで長い時間乗っていたわけでもないのに、グラナードを降りるということがなんだか寂しく感じるな」

 とシグナムが言うと

 「わかります!なんか…こう…行く時のやるぞ!って気持ちと終わった後のホッとした気持ちのギャップがあって、事件解決って雰囲気が感じられて、うれしいんだけど寂しい感じ、わかります!」

 となのはが、答え

 「確かに計4時間弱しか乗っていないんですよね…本当にもっと長い時間乗っていたみたいです…」

 グラナードとの別れに、感慨深げに話している三人の後ろから、アリサとはやてが降りてきた。

 「アンタたち…管理局だと色々な船に乗ることになるんじゃないの?」

 「少なくはないやろぁ、まぁあの三人はグラナードに乗る前におーってやってたみたいやから、思い入れがあるんとちゃうかな?」

 「あ、主!その話は誰から!」

 「え?なのはちゃんとフェイトちゃんから、みんなと話している時聞いたんよ?」

 「お、お前等ぁ!!」

 「なのは…!」

 「フェイトちゃん…!」

 フェイトはなのはを背負い、その場から駆け出した。

 「こら!逃げ出すな!」

 「意外となのはちゃんとフェイトちゃんって、お茶目さんやなー」

 「えぇ…貴方がそれを言う…?」

 そう言いつつもアリサは、再び戻ってきた友情を、心で噛みしめていた。恥ずかしがっているシグナムから逃げるなのはとフェイト。隣で一緒に笑っているはやて。連れ去られた時の恐怖を忘れるくらい楽しい気分を感じている。

 「お、アリサちゃんもいい顔するようになったなぁ。医療室の時は堅い笑顔だったけど、今のは自然な笑顔や!」

 「えへへ…そうかな?なら皆のおかげよ。私を救ってくれた皆のね」

 はやてはその話をニコニコしながら聞いていた。

 「私の中にはまだ魔法石があるらしいし、いつか…みんなと一緒に管理局で働いてみたいわね…」

 「え、まだあるん?」

 「うん。なんか結構しっかり埋め込まれちゃってるみたいで、逆に取る方が危険なんだって」

 中々の衝撃発言をはやてにしたアリサ。流石にはやても驚いたらしく、目をまんまるにしてしまった。

 「大丈夫?身体に何か影響とかはないんか?」

 あまりに心配になったはやては、慌てて身体への影響について聞く。

 「それはわからないって。だからこれから、精密検査するんだから」

 「ええ!?それは心配やー…。何もないとええなぁ」

 「そりゃあね。何ともないなら私も魔導師になってみたいわー」

 「その時は特訓に付き合うよー!私厳しいけどな」

 「ふふふ、お手柔らかにね」

 歩きながら話ていると、前にシグナムに捕まったなのはとフェイトが怒られているのを見つけた。

 はやてとアリサはその様子を見て、少し笑い、シグナムたちのもとへ歩いていった。再び、平穏な日常に帰れたことを実感しながら…。

 

 事件の終結から一週間後、アリサの身体の魔法石は身体に何も影響しないことが確認され、アリサは自分にできる償いの形が増えたと、なのはに話したという。




コレは間違えて今投稿してしまったものです…。本当は明日の分でした…。
一応、本編であまり話せなかったアリサとはやてを多めに話させました。
明日はこの影響で投稿はお休みです

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