魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen 作:ルル・ヨザミ
新暦0077年。私ティアナ・ランスターは、一件の事件報告書を読んでいた。
その事件は、“欲望の影”事件という名称で登録されていた。何故私が、十年以上前の事件の報告書を読んでいたかというと、そんな事件の名前を聞いたこともなかったからというのが大きい。
別に管理局員だから今まで起こった事件をすべて把握しているというわけではないのだが、こんな特徴的な事件を聞いたこともないなんて…正直信じられない。
しかも、パラレルワールド?が存在しているとは…。そんな事件ならもっと有名なはずなのに…しかもこれはあの高町なのはさんや、フェイト・T・ハラオウンさん、八神はやてさんが関わった事件、全く聞いたことがないなんて何かおかしい気がしてしまった。
明日にでもフェイトさんに聞こうかしら…。
「あれ?ティアナ?まだなんか仕事していたの?」
噂をすれば。フェイトさんだ。
「いや、仕事ではなくてですね…聞いた事の無い事件の資料を読んでて…」
「聞いたことのない事件?見せて…」
その時のフェイトさんの顔を私はきっとこれからも忘れないだろう。いつも優しく微笑んでいるフェイトさんがその一瞬だけ、鬼の形相と言っても過言ではない表情をしたのだ。
「これ、まだ残っていたんだ…」
「えっ…」
そうフェイトさんは呟くと、その事件の資料を全て削除してしまった。
「な、なにをしているんですか!いいんですか…!?」
「いいの。これは知っちゃいけない事件なんだから。ティアナも今日見た事件の内容はすべて忘れること。いいね?」
フェイトさんが私の目をじっと見て言ってくる。
「は、はい…」
フェイトさんはそのままその場を去っていた。私のコンピュータの画面には削除完了の文字が赤字で表示されている。
一体何故なんだろうか…。あのフェイトさんの態度は一体…?
色々考えながら、廊下を歩いていたら今度はなのはさんと出会った。
「あれ?どうしたのティアナ。そんなに思いつめた顔して」
「なのはさん…。あ、あの、教えて欲しい事があるんです!」
「ん?私が知ってる事なら教えられるけど…」
「“欲望の影”事件の事です!」
「…ティアナ、それどこで聞いたの?」
なのはさんも、どこかキッとした表情になった。
「さっき、事件の資料の中にあって、それを読みました…」
「まだ残っていたんだね…」
「その…資料自体はもうフェイトさんに消されちゃって…」
「…フェイトちゃんは何か言ってた?」
「知っちゃいけない事件と…言っていました…」
「でも気になっちゃった?」
「…はい…」
「そっか…。じゃあしょうがないよね。うん、ティアナなら大丈夫でしょ、教えてあげる」
「えっ、いいんですか…?」
「もう、ティアナが聞いてきたんでしょ?あ、でも誰にも教えちゃだめだよ、私が教えた事の内容」
「も、もちろんです!!」
そして、私たちは他に誰も来ないような部屋に移り、“欲望の影”事件について教えてもらうことになった。
「それで、ティアナは何が気になったのかな。一応全容は読んで知っているわけでしょ?」
「そうなんですけど…。パラレルワールドの事とか、あとフェイトさんやなのはさんが何でそんなにこの事件の事を隠しているのかが気になって…」
「なるほど。…パラレルワールドは確かに存在するよ。実際私も向こうの人と戦ったり話したりしたわけだし」
なのはさんはそこから一拍おいて、少し暗い表情で話し始めた。
「でもね、その世界の私。つまりナノハちゃんが戻った瞬間、その世界は観測できなくなったんだ。まるで最初からそこにいなかったかのように。元々、お互いに干渉できるわけじゃなかったんだけど、急にいなくなったんだ。昨日まで親友だったのに瞬きしたら出会った瞬間になっている感じ?っていうのかな。んーなんか違うな。わかりやすく言うと…急に元の関係に戻ったっていうのかな…」
「でも、それが何で隠すことにつながるんです?」
「…パラレルワールドからもたらされた技術はすごい物だった。今の技術部が何十年と研究した末にたどり着くようなものばかりだった…。ナノハちゃんが魔法研究の技術的な面でどれだけの才能の塊だったのか、当時の技術部だけじゃない、管理局全体が驚いていた」
ナノハちゃんというのはパラレルワールドのなのはさんの事だろう。そうか私の前に居るこの世界のなのはさんは魔法戦闘や教導の天才だけど、ナノハさんは魔法を研究したり、それを実現したりする、研究職の天才だったんだ…。それの技術の集大成が、“影”という存在だったんだろう。
「それで、無人世界でその技術で作られた武装だったり、デバイスだったりを実験したんだ。技術部も実際に作れるとは思ってなかったみたいで、完成した時は驚いていたな…。そんな時だったんだ。あの報告書には書かれていない事故が起こったのは」
「事故…?」
「無人世界で行われていた実験の最中、突如すべての武器やデバイスが暴走を起こして、その世界と周辺世界四つが消滅したんだ」
「なっ…!大事故じゃないですか!?」
「そう。大事故だった。誰も何でそんな事が起こったのかわからなかった。ただわかっているのは、事故が起きた時間はちょうどパラレルワールドが観測できなくなった時間と同時刻だったという事だけ」
「じゃあ、パラレルワールドから離れたから、そこの技術で作られた物は暴走したという事なんですか…?」
「そうではないか、とは言われていたけど…実際何もわからないのが現状なんだ。それ以降その技術を使って物を作っていないしね。そして、その事故の存在を隠すために私たち事件関係者にはその事件の存在自体を秘密とするように通達された。ティアナが見たような事件の記録も全部消した…筈だったの」
「なるほど…。それじゃあ、なのはさん達は隠ぺいに巻き込まれたような感じなんですね…」
「…そうなのかな…。うん、そうかも。友達の事をなかったように扱いたくなんてなかったけど…」
なのはさんは悲しそうな顔で俯く。
今の話を聞いていると向こうの技術で物を作った時はまだパラレルワールドが近かった時って言うことよね…。
「その技術で作られた物の原動力って何だったんですか?」
「え、原動力?うーん…私は詳しくは知らないんだけど…管理局が『魔法石』、ナノハちゃんが『ナイト鉱石』って言っていたロストロギアらしいよ。極少量でも大量の魔力を創り出せるっていう」
「…もしかして、それが原因なんじゃ…」
「ええ…それは無いんじゃないかな。だって、私の友達だって埋め込まれていたけど暴走なんてしてなかったよ?」
「その時、御友人にはパラレルワールド由来の何か物を持っていませんでした?技術とかではなく、デバイスみたいな実物として何かを…」
「その友達には“影”が憑りついてたけど…」
「やっぱり…!あ、あの…もしかしてですけど、グリューエンに収監されていた“断罪の影”の身にも何かあったんじゃないですか…?」
「え、よくわかったね。そう、“断罪の影”は事故の日に忽然と姿を消したんだ。でも脱走とかじゃないの。まるでそこに何にもいなかったかのように…」
なのはさんも何かに気づいたような顔をする。
「さっきのなのはさんの話で引っかかるところがあったんです。なぜナノハさんは管理局が『魔法石』と呼んでいるものを『ナイト鉱石』という固有名詞に聞こえる名称で呼んでいたのかというところが…」
「確かに…。誰も気にしてなかったけど、それは確かに変だね」
「そして、あの報告書の感じから、“影”というのはお互いの存在を感じあえると私は思ったんです。だから、ナノハさんはそのうちの一つに入り込むことで監視していたのではないかと」
「考えてみれば、闇の書事件の時期からナノハちゃんは私たちの世界に来てたわけだもんね」
「つまり、ずっと異世界で生まれたナノハさんという存在が居たわけです。“影”という存在も一見自由に動いているように見えて、互いを感じ合っているという…しかもそれは遠い次元世界に居る“断罪の影”が、全ての影の存在を消えたのが認識できるという程高性能の感覚」
「でも、“断罪の影”とか“束縛の影”は“不屈の影”やナノハちゃんが出てきた時すごく驚いていたみたいだけど…そこまで高性能なら、気づいてそうなものじゃない?」
「これは私の推察になってしまうのですが、『居るはずがない』と思ってしまうことで、その存在を感じられなくなってしまうのではないかと…。それもかなり強く考えてしまうことで。…“不屈の影”というのは、ほぼ全ての“影”に勝てるという存在、そしてナノハさんは彼らが殺した人なんですから、いないと思っていても不思議じゃありません」
「“不屈の影”に関してはいて欲しくないからそう考えてしまった…ナノハちゃんに関しては死んでいるはずなのだから居るはずがない…そっか…確かにその説はかなり納得がいくよ」
「そして、事故と“断罪の影”の消滅がパラレルワールドが観測できなくなった日と同日という事、『ナイト鉱石』という固有名詞をナノハさんが知っていたという事を踏まえると…」
「ナイト鉱石…魔法石は元々ナノハちゃんの世界の物…?」
「はい、そして“影”の動力もまたその魔法石ことナイト鉱石なのではないでしょうか…?彼らはユニゾンデバイスです。かなり高い技術で作られているデバイス…」
「技術部が作ったデバイスと…同じ動力源…!」
「そして、それらの消滅や暴走のきっかけを、ナノハさんがパラレルワールドに帰り観測不能になった時とすると…」
「ナイト鉱石はあの世界の人間がいないと…制御できない…?」
「そうです…!しかし、ナノハさんは元々その世界で産まれ育った…だからその事を知らなかったんです。そしてありのままに自分の世界の技術を伝えてしまった…ナイト鉱石を利用した魔法運用の方法を…」
「あの時はそんな事考えもしなかった…そうか、確かにそうだとすれば全て辻褄が合う!ティアナ!」
「は、はい!」
「ありがとう…!私…その事故とかがショックであまり思い出さないようにしてしまっていたから…ちゃんと考えた事無かったんだ…。だけどこうやってティアナが客観的に考えてくれて、考察までしてくれたおかげで…あの事故の原因が何となくわかった気がする…!」
「そんな…私はただ…そうなのではないかと、思っただけで…」
「ただ直感的に言ったわけじゃないでしょ?私の話と事件の事を踏まえて、じっくり考えてたからそこまで説得力のある説明ができるんだよ」
「えへへ…ありがとうございます」
そして、私となのはさんは自室へ戻っていった。
まさか、自分の考察でなのはさんを元気にできるとは…思ってもみなかった…。
…うん?メールボックスに知らないアドレスからメールが来ている。
不審だから本来開かないはずなのに、次の瞬間、私はなぜか開いてしまった。メールの内容は単純な文だった。
【ありがとう。ごめんね】
ここまで読んで下さりありがとうございます。お気に入りしてくださった方、チラッとでも読んで下さった方ありがとうございます。
まだ終わっていない小説もできるだけ更新していき、また新たに何か投稿するかもしれません。その時はまたよろしくお願いします。
ぜひ感想を書いてください。辛辣なものでもこのガラスハートが受け止めます。
それにしても、まさか完結させるまでに五年近くかかるとは…高2から高3にかけてのモチベーションの低下が恐ろしい。