入り口を抜けると、先程と同じように雪が積もっていた。正面には太陽の光に照らされた雪がある。光が遠くて熱が届かないのか、照らされた雪は溶けていなかった。
折角なので探索してみる。照らされた雪の奥にあるのは……先程と同じ入り口のようだ。少し雪が積もっている。
周りを散策するが、黒い壁、地面に雪が積もっているだけ。照らされた雪がある以外は、落ちてきた場所と一緒だった。
それにしても、何故ここだけが光で照らされているのだろう。
「何か大事なものがここにあったのかな…?」
雪の下に何かが埋まってるのでは、と僕は照らされた雪に近づいてみる。
その途端、
「ひゃっ!?」
照らされた雪が盛り上がり始めた。何かが出てくる、と分かっているが、それ以上に怖さで動けなかった。
持っていた弱々しい木の枝を照らされた雪に向ける。何にもならない気がするけど、ないよりマシだ。
少しの間盛り上がりが続いたが、やがてピタッ、と止まる。そのまま動かなくなってしまった。
僕もしばらく木の枝を向け続けていたけれど、本当に動かなくなってしまったので流石に心配になってくる。
すると、盛り上がった雪から何かが聞こえてきた。多分、声。
何を言っているかさっぱりだが、ずっと繰り返し何かを言っているので、助けを求めてるのではと思った。
「えー………と…?」
悪い人の罠だったらどうしようと思った。でも、大丈夫と信じて雪を掻き分けてみる。
雪を掻き分けた瞬間飛び出してきて攻撃してくるなんてことまさか──────
「Howdy!!」
「わっ」
前言撤回。攻撃はしてこなかったけど飛び出してきた。心臓に悪いし、驚きすぎて後ろに倒れてしまった。
飛び出してきたのは花。6枚のシアン色の大きな花弁には少し雪が積もっていて、真ん中には顔がある。
綺麗、と呟くと、その花は僕に気付いたらしく顔をこちらに向けた。
「…なんだトリエルじゃないのか、君は誰?」
「え……っと…僕は、」
そこまで言って僕の声は途切れた。
目の前の花は不思議そうにこちらを見ている。
「思い出せないの?」
寂しげに花はそう言った。違う、と僕は慌てて言う。
「思い出せないんじゃなくて………そもそも、……僕に名前がないんだ。」
「ない?そりゃまたどうして?」
「……【悪魔の子】だから…」
花はそれを聞き、質問をやめる。悪魔の子の話は、こちらにも伝わってしまっているのだろうか。
「……君がどういう経緯で【悪魔の子】ってなっちゃったのかは知らないけどさ」
静かに口を開いた花は、僕にそう言った後、満面の笑みで僕を見た。
そして、楽しそうに嬉しそうに僕にこう言った。
「嫌じゃなければ僕が名前をつけてあげるよ!!」
一瞬何を言われてるのか分からず硬直した。
僕が名前を貰える日なんて、ずっと来ないと思ってた。
それが今、この花が僕に名前をくれる──────
「嫌じゃないよ」
待ち望んだ時が今来たのだ。嫌なわけない。嬉しい。
「そんなに笑ってくれるなんて、よっぽど嬉しいんだね!!」
今の僕の顔は、今までで一番晴れた笑みをしているのだろう。
花はニッコリ笑顔でそう言った。
さぁ、花はどんな名前を僕にくれるのだろうか。
「じゃあポチとか…コロとか!」
「僕犬じゃないよ………」
花のジョークに笑いながら、僕は嬉しさで涙を1つ溢した。
挿絵は後に追加予定