「そういえば、あなたの名前はなんて言うの?」
ジョークで笑い転げた後、僕は花にそう聞いた。
シアンの花弁をゆらゆらさせながら、花は満面の笑みで、誇らしげに名前を言った。
「僕はフラウィ!お花のフラウィさ!」
「フラウィだね、分かった」
Flowerからつけた名前なのかな、と考えている時、サク、サクッ、と雪を踏む音が聞こえてきた。
フラウィの後ろから歩いてきたのは、雪と同じように真っ白な体で、パステルの水色のロングワンピースを着たモンスター。
一目で「害を加えてこない」と思えるような、とても優しい顔をしていた。
「あ、トリィ」
フラウィが気配に気づき、モンスターの方を振り返る。
トリィと呼ばれたモンスターは、隣にいる僕に気づいて驚いたように目を見開いた。
「まぁ……なんてこと…」
驚く黒い目の中に、薄っすらと悲しさを感じた気がした。
「彼女はトリエルだよ」
フラウィは真っ白なモンスター──────トリエルに顔を向け、陽気にそう言った。
驚いていたトリエルははっと我に返り、慌てて雪の上に座る。そして僕の目を見て微笑んだ。
聖母のような、真っ白で美しいその微笑みに、僕は目を奪われた。
「こんにちは、私はトリエルといいます。気軽にトリィと呼んでちょうだいね。」
「彼女はいせきの管理をしてるんだ。あと僕の世話もね」
本人でもないのに何故か得意げに語るフラウィを見て、僕とトリィは顔を見合わせて笑った。
「そうね、私は毎朝ここに来て、雪に埋もれているフラウィを助ける役割も担っているわ。」
「毎朝って…朝になるとフラウィは雪に埋もれてるの?」
疑問に思った僕はそう質問すると、フラウィとトリィは同時に頷いた。
「まったく、雪が降ってるわけじゃないのに、朝になると気づいたら雪の中だよ」
雪って意外と重いんだから勘弁して欲しいよ、とフラウィは白い息と共に不満を吐いた。
雪が降らないのに、朝になると雪が積もるのはどういうことなんだろう?
誰かが意地悪をして、フラウィの上に雪をかけてるのかな。
「いつか雪に埋まったままのあなたを踏んでしまいそうで怖いわ」
「冗談抜きで死んじゃうね、そんなことされたら」
楽しそうに笑うトリィとフラウィを見て、雪の謎は今はいいか、と一旦後回しにした。
「今日もフラウィを助けにここに来たら、あなたがいるんですもの。びっくりしちゃったわ。
まさかここにニンゲンが来るなんて…」
トリィは驚き半分嬉しさ半分の表情で、僕に顔を向けてそう告げた。
彼女の発言の内容から推測するに、恐らくここにフラウィ以外がいるのは珍しいことなんだろう。
僕はなんだか少し嬉しくなって、トリィに微笑んだ。
「そろそろ新しい話し相手が欲しいと思っていたの。良ければ私と仲良くしてくれるかしら?」
「もちろん。よろしくね、トリィ」
「あなたに出会えて本当に嬉しいわ、どうぞよろしくね」
「ねぇ、話し相手は元からここにいるんだけど?」
微笑む僕らを見て、不満そうに目を細めたフラウィが口を開く。
トリィはフラウィを見て笑い、話し相手は何人居ても困らないものよ、と返した。
フラウィは少し面白くなさそうな顔をしたが、すぐに陽気な笑顔に戻った。
僕らは暫く、3人で楽しく会話をした。
楽しい思い出のなかった僕にとっては、他愛もない会話さえも幸せに感じた。
挿絵は後に追加予定