【近日中フルリメイク】……あなたが、先生、ですか。はじめまして、不知火カヤと、申します。   作:猫型探索者

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大変お待たせいたしました!


胃痛は友達、敵じゃない!

 

「それでは、アビドス生徒会、及び、アビドス廃校対策部の定例会議を始めます」

 

 そう言って此方へ軽く頭を下げるメガネの子――奥空さんの発言を皮切りに始まった、内容に対して妙に雰囲気の緩い対策会議を聞きつつ、私は目の前に置かれたお水を口に含み、嚥下した。

 

 場所や雰囲気、内容こそ、連邦生徒会で行われているものとは違えど、こうして会議と銘打たれた集まりの席に着くと、妙に気が引き締まる。

 

 職業病なのだろうか。

 

「本日の会議には、アビドス高校OGの梔子ユメさん、連邦生徒会防衛室より、不知火カヤ室長、そしてシャーレの先生にもお越し頂いているので、とても真面目な議論が出来ると思うのですが……」

「何よ。いつもは不真面目みたいじゃない……」

「うへ、よろしくねー、ユメ先輩、カヤちゃん――……そして、先生」

「よろしくね、みんな」

「――っと。そういえば、先生とカヤちゃんは初対面だったよね? 本格的な議論が始まる前に、軽~く自己紹介でもしておいた方がいいんじゃな~い?」

「うん、そうだね」

 

 ホシノさんの言葉を皮切りに、私は目の前の大人と向き合う。

 

「はじめまして! 私は連邦捜査部――シャーレで先生をやらせてもらっている、――――だよ。よろしくね、カヤ」

 

 若干、…………その、前髪が後退気味ではあるものの、私的に中々男前だと感じるその顔には、人の良さそうな笑みが浮かんでいる。

 

 その頭上には、私達には必ず存在する“ヘイロー”は見えず、彼が外からの来訪者であることを改めて印象付けられた。

 

「なるほど。――……あなたが、先生……ですか。私は連邦生徒会防衛室、室長の不知火カヤと申します。以後、お見知り置きを」

「うん、よろしくね!」

 

 彼から差し出された右手を軽く握ると、柔らかく握り返された。あまり経験したことのない温かさを、手袋越しに感じる。

 

 惜しむらくは、この感触も、温かさも、私にとっては痛みの一種でしかないことだ。

 

 当然、それを顔に出すことはしないのだけど。

 

「――それでは、お二人の自己紹介も済んだ所で、会議を始めます」

 

 

 そんなこんなで、アビドス生徒会・アビドス廃校対策部の合同会議が始まった。

 

 とはいえ、立場上、あまり学校運営のアレコレに首を突っ込むわけには行かないので、私は場を引き締める置物として、椅子の上でお茶を啜るだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………の、つもりだったのですけれど。

 

 

 飛び出す意見は怪しげなマルチ商法の被害報告だったり、他校からの誘拐だったり、銀行強盗だったり、スクールアイドル活動だったり、正直に言ってなかなか心配になるものばかり。

 

 ついつい口を挟みたくなる衝動を抑えることに、かなり苦労しました。最後までただ話を聞くことに徹した私を、誰か褒めてください。

 

 ――なんて。

 

 実際には、我慢の限界に達しそうになった直前で、奥空さんの堪忍袋の緒が切れたおかげで、喉元まで出かかった言葉を飲み込むことができたのだ。

 

 ほら、あれですよ。

 

 自分より怒っている人を見ると、逆に冷静になる、ってことよくあるでしょう? そんな、摩訶不思議な現象が私にも起こったわけです。

 

 それで怒りに怒った彼女を落ち着けるためにユメさん、ホシノさん、アビドス高等学校の生徒さん、そしてシャーレの先生は、柴関ラーメンへ向かったのでした。

 

 

 ちなみに、私は一人で校舎に残り、今はお手洗いを目指して廊下を歩いています。

 

 

 もちろんハブられたわけではなくて。

 これでも私は二ヶ月弱の遭難明け。

 弱り切った胃腸に柴関ラーメンのメニューはあまりにも重たすぎるのです。

 

 食べなくても行くだけ行こうよ、とも言われたのだけれど、今アブラの匂いを嗅ぐのは辛いかもしれない、ということをかなり遠回しに伝えた結果、何かがあればすぐに連絡すること、という条件で、一人ここに残ることを許されました。

 

 ユメさんやホシノさん、先生は、私を一人ここに残していくのは嫌そうだったものの、正直なことを言えば、一人のうちに済ませておきたいこともあり、何とかこの我儘を貫かせて頂いた次第です。

 

「…………ぁあ」

 

 ……まあ、何と言いますか。

 

 生きるか死ぬかの極限状態と今後のキヴォトス情勢に対する不安を抱えながら、心も体も自分自身の限界を超えて活動していたツケが来た、ということなのでしょう。

 

 流石に、これは――……これだけは、ホシノさんとユメさんに見られるわけには、いきませんからね。

 見られたら最後、彼女たちがどんな反応をするかなんて、火を見るより明らかですし。

 

 余計な心配も、かけたくないですから。

 

「…………ッ」

 

 その衝動を抑えきれなくなったのは、お手洗いに到着した瞬間でした。

 

 胃からせり上がってくる熱いものが溢れぬよう、右手で口を手で押さえながら、残り滓のような力を振り絞って個室まで駆けた。

 

 急に動かしたせいか、右腕に鋭い痛みが走る。

 けれど、それを気にしている暇なんて、無くて。

 

「……ッ!!」

 

 乱暴に個室の扉を開け、便座に両手を叩きつけ、わたしは、その衝動を解放した。

 

 純白の陶器を、ビチャビチャと赤黒い液体が汚す。

 一度嘔吐く度に、お腹の中心から焼かれているような熱感と、臓物を捩じ切られるような痛みが走る。

 

 無意識の内に両目から涙が溢れ、頬を伝って便器の中へと雫が落ちてゆく。

 

 体から力が抜けて行き、腕や脚は、夏服でレッドウインターへ出張しに行った時のように、ガタガタと震えている。

 

 

 このまま死ぬんじゃないですかね、私。

 

 

 思わずそんなことを考えてしまうほど、体は重い。

 腹部と腕の強烈な痛みと、全身を蛞蝓が這い回るような悪寒、そして制御の利かない筋肉の痙攣が、その考えを裏付けるようで、何か嫌だ。

 

「はあっ……はっ……はぁ…………っ、あぁ……」

 

 元々、コレは、ただのストレス性胃腸炎だった。

 連邦生徒会の役員であれば、症状の差はあれど、誰もが患っているであろう職業病でもある。

 

 しかし、彼女が失踪し、その事実がジワジワと、血が滲むように周囲に漏れ始めたことで急激に増えた仕事を捌くために、多少の無理をした事が拙かった。

 

 最も、あのときは、普段の平和なキヴォトスへ戻さなければと言うことばかりが頭を支配していて、そんなことを考えている余裕はなかったけれど。

 

 

 まあ、なんです。

 

 結論から先に言うと、私の胃には、ぽっかりと穴が開いたんですよ。しかも、もう少しで完全開通寸前、医師から即日入院を言い渡されるレベルのやつが。

 

 

 あの日、私は初めて休暇申請を出しました。

 痛みなどの自覚症状自体はあまりなかったのですが、人体のプロである医師が言うなら、相当状態が悪いのだろう、と。

 

 結果的には、色々な問題が計ったかのように重なったせいで休み取れませんでしたけど。 

 

 それでも、防衛室の皆の支えがあって、最近は経過良好で、特に気にするまでもない程度にまで、治ってきていた所だったのですけれどね。

 

 まさか、再発するだなんて。

 しかも、今度は中々の痛み付きで。

 

 他の選択肢が無かったとは言え、多く生えていて水分も摂れるからと、微量ながら酸を含むサボテンばかり食べていたこと。そして、生きるか死ぬかの極限状態で、限界まで気を張り詰めていたことが、トリガーになったのでしょうか。

 

 もしくは、一番、安心できるというか。

 心が落ち着く場所に来られた、ということもあって、気が抜けたのもあるのかもしれません。

 

 ほら、極度の緊張から解放されて、腰が抜けてしまう、みたいな感じで。

 

「……ふぅ。おちついて、きましたか」

 

 そんなことをぐるぐると考えている間に、大分落ち着いてきましたし、ホシノさん達の帰りまでゆっくり休むことにいたしましょうか。

 

「――っと」

 

 でも、その前に。

 

 トイレを、掃除しなくては。

 

 




今回のお話は、六割方ノンフィクションとなっております。

また、個人的な話ではございますが、ドス黒い職場からの脱出が成功したため、これからは更新頻度を戻して行きます。

長い期間お待ちいただき、本当にありがとうございました!
これからも、このお話をよろしくお願いいたします!

カヤ室長の今後について【誰かの家に転がり込む場合は、家がある地区が活動拠点となります】

  • アビドス編終了までこのまま滞在
  • アビドス編の途中でDUへ出発する
  • ホシノの家に転がり込む
  • 即座にDUへ向かい防衛室へ突撃
  • ヒナの家に転がり込む
  • シャーレに転がり込む
  • ナギサの家に転がり込む
  • 柴関ラーメンで働く
  • ツルギの家に転がり込む
  • カンナの家に転がり込む
  • ノアの家に転がり込む
  • 便利屋68と共に行動する
  • イチカの家に転がり込む
  • マコトの家に転がり込む
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