文才ない人間の妄想ですが、少しの間お付き合いいただければと思います。
私にとって久しぶりの幻想郷は、相も変わらぬ美しさで私を出迎えてくれた。
豊かな自然に囲まれ、人間と妖怪とが共に暮らす理想郷。当初は子供の戯言と馬鹿にしていた彼女の絵空事も、ここまで来ると称賛せざるを得ない。それほどまでに幻想郷は、美しかった。
東の果てに見える神社から続く森は鬱蒼と茂り、魔力に満ち溢れている。その先に続く大きく美しい湖からは自然の喜びが感じられ、湖畔に佇む真紅の館はいいアクセントとして景観をよりよくしてくれている。さらにその向こうには大きな山が裾を伸ばして聳えている。彼女たちは元気にしているだろうか。
少し視点をずらせば、そこには黄金色の絨毯が広がっている。きっと『彼女』の庭だろうそこは、自然の力強さをしっかりと魅せつけている。また、そこと森との間には人間のであろう集落が広がり、ここからでもうかがえそうなほどの賑わいを見せている。
「やはり、ここはいいところだ……」
「あら、あなたにそう言ってもらえるとは……光栄ですわ」
不意に隣の空間が歪み、紫色の、目玉が無数に浮かぶ空間――確か『スキマ』と言ったか――が現れる。そこから中華風のドレスを着た金髪の女性が上半身だけを乗り出して現れた。彼女はその手に扇子を携え、口元を軽く隠しながら勝気な瞳をこちらに向けている。数百年前の無邪気なころからは想像もできないが……成長したということだろう。
「久しぶりだな、紫。藍は元気か」
「ええ。最近はあの子も式を持つようになって、私もすっかり老いてしまったわ」
「ハハハ、心にもないことを言う」
彼女の名は八雲紫。この幻想郷の創始者および管理者にして、一人一種の妖怪である『スキマ妖怪』を務めている。
彼女がこうしてここにやってきたということは、懐かしい面々もすでに私の存在に気が付いているのだろうか。そう考えると何か悪戯をしたくなるあたり、
「ところで、名無しの。今回はどのくらいここに留まるつもりかしら?何なら宿を用意するわよ?」
「それこそ私にも分からないさ。明日にはもう出て行くかもしれないし、何百年先も居座っているかもしれない。宿……とは君の隠れ家か?」
「それでもいいのだけれど……ちょっと心当たりがあってね。そこに泊めさせようと思うの。質素だけれども、中々居心地のいいところよ。あなたも気に入ると思うわ」
「なら是非として頼もう。流石に慣れているとはいえ、野宿よりかは屋根と布団がある方がいい」
「そう。なら今から案内するわ。スキマ……はあなたは駄目だったわね。ホント、私の天敵のような能力だわ」
「言ってくれるな。私自身、扱いに悩む能力だとは思っているんだ」
そう言って私は飛び上がる。ふわふわと宙に浮かび空を飛ぶのは、非常識が常識となる幻想郷では常識である。それを見ると紫もスキマから全身を出し、どこからともなく日傘を差すと同じように宙へと飛び上がった。
「……珍しいな。スキマから出て移動するなど」
「そうしたい気分ってもんがあるのよ。それに……たまにでいいから運動をしろって藍に怒られちゃったもの」
「空を飛ぶのが運動になるのかどうかは知らないが……そういうことなら分かった。のんびりとそこまで向かうとしよう」
「そうね。そうしましょう」
「ところで紫、こうしてお前がここにいるということは……」
「ええ。他の者たちも気付いているでしょうね。幽々子もあなたと会えるのを楽しみにしていると思うわ」
「そうか、それは楽しみだ。それにあの紅い館。あれは以前来た時には見なかったが、誰かがやってきたのか?」
「そうよ。でもそれを言ったらつまらないでしょうし、あなた自身の眼で確かめて来なさいな」
「そう言われると返す言葉もないな」
そんな他愛もない話を続けながら、私と紫はゆっくりと東――神社のあるほうへと向かっていくのだった。
何はともあれ、私の幻想郷での生活はこうして始まっていくのである。
導入ということで今回は短めですが、一話あたり3000字前後で書いて行こうと思っております。
お暇がありましたら、ぜひまた私の妄想にお付き合いくださいませ。