呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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この投稿でクイズを締め切ります。正解は物語を進める中で公開します。


恋

「マジで!!?五条さん、封印されたのか!!?」

 

秤の協力を取り次ぐことに成功した悠仁たちは彼と綺羅羅に自分たちの現状、エスデスが自分たちの敵であること、渋谷事変でのこと、全てを伝える。停学になってから呪術界の情勢に疎くなっていた秤は悟が封印されたというその事実に驚いていた。

 

「「「「マジ((です))」」」」

 

「・・・かぁ~~~~!!」

 

自分たちの知らない間に世話になった恩人が封印されたと聞いた秤は悔いるように頭をかいている。

 

「後ついでのようで悪いんだけどさ・・・ブラートもがくちょーも死んだ」

 

レオーネの後付けの発言にパンダを除いた全員が彼女に顔を向ける。秤と綺羅羅以外はブラートが死んだことは聞いているが、夜蛾が死んでしまった事実はパンダを除いて今初めて聞かされたからだ。

 

「・・・・・・レオーネさん?」

 

「ごめん!黙ってて!言い出すタイミングが全然なくてさ・・・」

 

「姉さんの言ってることは本当だ。俺が証人だ」

 

両手を合わせて謝るレオーネを庇うようにパンダが口を開く。夜蛾が死んだその事実を聞いた悠仁はパンダを気にかけるような心配げな表情を浮かべている。

 

「大丈夫だ、虎杖。ブラートは渋谷で別の奴と相打ちになったし、正道も渋谷事変の後、上とごたついてな。どちらもお前のせいじゃない」

 

悠仁が宿儺に身体を乗っ取られている間2人を殺したわけじゃないとパンダは伝えるが、悠仁が気にしているのはもっと別のことだ。

 

「ならよかったとはなんねぇよ。だって学長は・・・パンダ先輩の・・・」

 

夜蛾はパンダにとって父親同然の男だ。その彼が死んでしまったのだ。身内が死んだ悲しみは計り知れないものだ。だがパンダは夜蛾が死んだあの日にたくさん泣き、気持ちの整理はすでに済ませてきたのだ。

 

「それも含めて大丈夫だ。ありがとな」

 

自分を想う悠仁の気持ちにパンダは素直に感謝しているし、気持ちも楽になってくる。

 

「お前がそう言うなら、俺たちはなんも言えねぇよ・・・」

 

「ね・・・」

 

「・・・にしてもブラートの兄貴までくたばっちまってたなんて・・・。世話になった人らがことごとく・・・こんなに凹んだのはヤックルのケツに矢がぶっ刺さった時以来だよ・・・」

 

((((いい人生送ってんなぁ・・・))))

 

己の悲しみを某アニメ作品に登場する動物の悲しきシーンで表す秤に3人と1匹は心の中でそう思った。

 

「わかった。和倉の救出と死滅回游の平定には協力する」

 

自分たちの協力を約束してくれた秤。心強い味方の加入に恵は安堵し、悠仁とレオーネ、パンダは笑みを浮かべる。

 

「勘違いすんなよ。情に流されたわけじゃねぇ。これはあくまで取引だ。わかってるか?死滅回游に片がついたらお前らが俺に協力すんだぞ」

 

「呪術規定の改訂にいっちょ噛みしようってんだろ?」

 

「ま、呪霊の存在が公になったわけだし?改訂自体は確実なんだろうけどさ、具体的には何をどうすんだい?」

 

呪術規定8条の秘密については渋谷事変以降呪霊の存在が公になったということは、呪術師の存在も明るみに出るのはまず間違いない。ゆえに呪術界では規定の8条の意味が全く成されないため、廃止の決議案が出されているため、改訂そのものは間違いなく行われる。ただ問題は、呪術規定の改訂に秤たちがどうやって割り込み、都合のいい規定を作るのか。それが1番の難題だ。

 

なぜなら秤は停学中の身。その停学の原因が保守派との揉め事。揉め事を起こした不良の要求を上層部が飲み込むはずがない。ハッキリ言って無理難題に近い。

 

「どうあれ、そこまで難しくないと思いますよ」

 

「あ"あ"ん?てめぇに何がわかんだよウニ頭コラァ!」

 

恵の発言に対して、まだ彼に気を許していない秤は凄んだ態度を見せる。

 

「俺、禪院家当主です」

 

恵は秤の凄みに怯むことなく、『もういいや、利用しまくろう』の精神で自分が禪院家の当主であることを告げた。恵の言葉に衝撃を受けた秤と綺羅羅はキョトンとなる。

 

「・・・あ・・・そぉ?」

 

そんな反応を見せた秤はすぐに恵から背を向けて思案する。

 

(おいおいおいおい、マジかぁ⁉3人にゃ悪いが今日一ビビったぜ!御三家がバックに付けば規定の改訂に口出しなんてチョチョイじゃねぇか!問題はその後、ファイトクラブの運営に如何に禪院家を関わらせないかだな・・・)

 

禪院家は呪術界の中枢を担う御三家の1つ。同じ御三家である五条家と並ぶ一族の当主の話であるならば、確かに既定の改訂に口を挟むことが可能だろう。恵が禪院家の当主であるのならば、秤のやることは1つだ。

 

「ウニ頭!!」

 

「伏黒です」

 

「伏黒君!!」

 

秤は恵の呼び方を訂正しつつ、ゆっくりと彼に向き直り・・・

 

「仲良くしようネ?」

 

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

少女漫画のように瞳を輝かせ、顎の下に可愛く手を添えてとてもいい笑顔でを媚びを売った。ただ残念ながら、その禪院家は真希とマインの手によって翌日壊滅することになり、この媚びも無駄になってしまうだろう。

 

「よし。後残る問題は巽(たつみ)の救出だな。やれやれ、世話の焼ける後輩だぜ」

 

全員が攫われた巽(たつみ)の救出の話し合いをしようとしたその時・・・何の前触れもなくそれは現れる。

 

ポンッ!

 

 

「リンゴンッ!!リンゴンリンゴンリンゴンリンゴンリンゴーーーーンッ!!!!」

 

 

突如として現れた天使の羽を生やした愛嬌のあるデザインの髑髏の奇妙な生物に全員は足を止めて硬直し、それに注目する。

 

「泳者(プレイヤー)による死滅回游へのルール追加が行われました!

ルール9!泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)の情報、『名前』『得点』『ルール追加回数』『滞留結界(コロニー)』を参照できる!」

 

死滅回游のルールの追加アナウンスを口にするそれは悠仁の周りを飛び回る。

 

「俺はコガネ!泳者(プレイヤー)と死滅回游を繋ぐ窓口さ!」

 

「なんか途中からキャラ違くねぇか?」

 

「最初のは死滅回游からのアナウンス!今のは泳者(プレイヤー)虎杖悠仁個人に憑いてる窓口としてしゃべってるぜ!」

 

アナウンスと窓口のしゃべり方を使い分ける死滅回游の窓口、式神コガネは飛び回りながら秤の疑問に答えた。

 

「そういや、天元様が言ってたな・・・」

 

「いやおかしいだろ!なんで虎杖がもう泳者(プレイヤー)としてカウントされてんだ⁉羂索に術式や呪物を配られた奴以外はコロニーに侵入して初めて泳者(プレイヤー)になるはずだろ⁉」

 

恵の疑問は尤もだ。悠仁に憑いているこのコガネは羂索の手によって術式を与えられた者と呪物を埋め込まれた者にしか憑かないはずなのだ。それ以外は死滅回游の任意のコロニーに入らなければ憑くことはない。だが悠仁は高専から離れている間東京に留まっていたがコロニーに入ったことは一度もない。では何故コガネが憑いてしまっているのか。その答えは、羂索と赤女(あかめ)の発言の中にあった。

 

『虎杖悠仁のように『呪物』を取り込ませた者』

 

『私の配った『呪物』は『1000年前』から私がこつこつ『契約』した術師たちの成れの果てだ。だが、私と『契約』を交わしたのは術師だけじゃない』

 

『そいつは実在した人間だ。『1000年以上前』の話だがな』

 

「・・・宿儺だ・・・!」

 

「すくな?」

 

恵の疑問の答えに行きついた悠仁は目を見開いて驚愕する。

 

「宿儺も羂索と契約して呪物になった術師の1人なんじゃねぇかな?」

 

(死滅回游の参加が契約に含まれているのか・・・?)

 

羂索が宿儺にどういう風に契約を持ちかけたかは知らないが、確かに1000年前に死滅回游の参加の意思表明を宿儺がしていたのならば、こうしてコガネが憑いていることに説明がつくが、氷解できていない疑問もある。

 

「でもやっぱりおかしい。宿儺の指はお前の意思で取り込んだろ。俺と和倉が証人だ」

 

もし宿儺が羂索と契約していたというのなら、死滅回游の泳者(プレイヤー)として登録されるのは宿儺の名になっているはずなのだ。だが泳者(プレイヤー)として登録されたのは宿儺ではなく悠仁。他の呪物と違い、自分の意思で宿儺を取り込んだにも関わらずなぜ宿儺の代理として泳者(プレイヤー)なってしまっているのか。意味不明である。

 

「・・・後にしよう。虎杖、さっそくコガネに泳者(プレイヤー)の情報を出させてくれ。もしかしたら、和倉やエスデスの名前が載ってるかもしれない」

 

わからないことを今考えても時間の無駄であると考え、恵はまずは死滅回游の参加者を知る必要があると判断し、悠仁に情報開示を求める。

 

「コガネ、できる?」

 

「あいよ!」

 

悠仁の情報開示の指示に従うコガネは自身のコガネを伸ばし、タブレットのような姿に変形する。コガネの身体に表示される画面には泳者(プレイヤー)の情報が乗ってある。悠仁たちは画面をスクロールして、巽(たつみ)やエスデスの名前がないか確認をする。だがどこを探しても彼らの名はどこにも載っていなかった。

 

「う~ん・・・ないなぁ、2人の名前・・・」

 

「偽名じゃなくて本名の方が出てる線はないか?虎杖の宿儺みたいにさ」

 

「それは否定しませんが、エスデスはアイヌ民族です。その線は薄いと思います」

 

「じゃ違うかー」

 

術師の本名のみが出ているという線からエスデスという名は偽名かもとパンダは推察するが、エスデスがアイヌ民族である以上、その可能性は低いと恵は指摘する。

 

「和倉の名前もないということは、エスデスはまだコロニーに入ってないんだろうな」

 

「じゃあ本当にどこに向かったかわからないってこと?」

 

「そうなるなぁ。俺も奴の呪力を探ってはいるんだけど・・・もう完全に消えてるっぽい。巽(たつみ)の方を探ろうにも、そもそもあいつ呪力0だしなぁ」

 

「え~?それ探しようがないじゃん。もうほぼ詰みじゃない?」

 

泳者(プレイヤー)としての情報がない、索敵の要である呪力も途絶えている。綺羅羅の言うとおり、情報が何1つない中でエスデスの居場所を探りようがないため、間違いなく詰んでいる。

 

「おいなんか当てがねぇのかよ?」

 

「う~ん・・・あ」

 

エスデスについて何か細かい情報がないか思い返していると、レオーネが思い出したように声を上げた。

 

「そういえば日下部の奴が言ってたなぁ・・・」

 

日下部が言うにはこういうことらしい。

 

『なんでもエスデスは例の結界を上げるために術師を何人か集めて訓練を受けさせてるらしいぜ。あ、俺が言ったっていうんじゃねぇぞ?』

 

「もしかしたら、その訓練を行ってる場所に向かってるのかも」

 

エスデスが集めている術師に課す訓練場。もしかしたらそこに連れていかれると睨んだ一同はその訓練場がどこなのかを推察する。

 

「エスデスが選ぶ訓練場か・・・なら環境が一番厳しいとこか、呪霊が集まりやすいとこ以外考えられねぇな。あいつ性格ドSだし」

 

呪霊が集まりやすく、なおかつ環境が悪い土地。現時点でその条件がピッタリ当てはまる場所は、たった1つしかなかった。

 

「・・・東京・・・!」

 

その答えに行きついた悠仁はその場所を呟いた。

 

「その訓練場って、東京のどこかなんじゃないかな?」

 

「あり得る・・・ていうかそこ以外考えらない。今の東京は呪霊の巣窟となって住める環境じゃないし、呪霊は東京にしか出ないっていう嘘もあって増加傾向は東京に集中している。調べてみる価値がある」

 

「当てが外れたらどうするぅ?」

 

「それはないと信じたいところです。他に当てがありませんし」

 

「エスデスと鉢合わせた場合はどうする?」

 

「正面から戦ったところで勝てる相手ではありません。奴と遭遇したら逃げることだけを考えてください。東京には2つのコロニーがあります。最悪の場合、そちらに逃げることも視野に入れましょう」

 

恵の考えに同意する一同は全員首を縦に頷いた。次にやるべきことは決まった。目的地は・・・呪霊の魔窟、東京。

 

●

 

翌日。場所は変わって魔境と化した東京。ここでは相も変わらず呪霊が蔓延っている。だが東京で暴れる呪霊は今日はいつもとは違っていた。どの呪霊もとある無人ホテルに近寄ろうともしないどころか、どの個体も大人しくしている。皆恐れているのだ。このホテルの中より感じ取ることができる、禍々しいまでの殺気を。

 

この溢れんばかりの殺気を曝け出しているのは6人いる特級呪術師の1人、エスデスであった。彼女は今、ホテルのリビングにて、彼女が集めた数名の呪術師の前に立っている。

 

「・・・と、いうわけで・・・今日から隊の補欠メンバーとなる和倉巽(たつみ)だ」

 

エスデスの隣で鎖で繋がれ、椅子に無理やり座らせられているのは彼女の手によって攫われた巽(たつみ)であった。

 

「い、いいんですか?上層部の許可もなしに・・・」

 

「私がいいというのだ。ならば上にも文句は言わせないさ」

 

「は、はぁ・・・」

 

「何、生活に不自由はさせないさ。それに、隊の補欠だけではない」

 

エスデスは巽(たつみ)の顔を見て頬を赤く染め、堂々と言ってのける。

 

 

「巽(たつみ)は、私の恋の相手になるとな」

 

 

((恋!!??))

 

五条悟と同様、術師をやるならばエスデスの名を知らない者は誰1人としていない。その彼女が、恋などと全く似合わないことを言ってのけたのだ。特に女性呪術師は驚きを隠せないでいる。

 

「いや・・・それはわかりましたけど・・・それで何で首輪させてるんですか?」

 

「・・・愛しくなったから無意識にカチャリと」

 

「でも確かエスデスさんにはペットという人たちがたくさんいますよね?ペットじゃなくて正式に恋人にしたいなら、違いを出すために外されては?」

 

2人の男性呪術師の意見にエスデスは少し考える素振りを見せる。

 

「・・・それは確かにな。外そう」

 

「・・・・・・」

 

真剣に考えた上で一理あると判断したエスデスは巽(たつみ)に付けた首輪と鎖を外した。

 

「あ、あのぅ・・・気に入ってくれるのは嬉しいんですが・・・俺、栃木に連れを置いてきてるから早く戻りたいというかなんというか・・・」

 

状況が全く飲みこめていない巽(たつみ)はここから抜け出したいがゆえに意見を述べるが・・・

 

「ふふっ。言いなりにならないところも染めがいがあるな」

 

「人の話聞いてくださいよ!!」

 

エスデスは自身の芽生えた恋心に夢中になっているからか、まともに話を聞いてくれなかった。

 

「まぁまぁ、いきなりすぎて混乱してるんだよね」

 

喚いている巽(たつみ)を宥めるのは薄茶色の長髪の女性であった。

 

「大丈夫だよ。お友達のところにはきっと戻れるから。あ、私は六道筑紫(つくし)。これからよろしくね」

 

「・・・・・・」

 

薄茶色の長髪の女性、六道筑紫(つくし)は巽(たつみ)の頭を撫でつつ、自分の自己紹介を済ませる。その際に巽(たつみ)は屈んでる彼女のたわわに実ったそれを一瞬見たが、すぐに目を逸らす。

 

「・・・ていうか、これが何の集まりで何をしているのかさえ全くわからないんですけど・・・」

 

筑紫のおかげで多少冷静になった巽は疑問を口にする。その疑問にエスデスは少しキョトンとしている。

 

「・・・そういえばまだちゃんと説明してなかったな。どこから説明しようか・・・。筑紫(つくし)、例のものを」

 

少し考えてようやく巽に説明していなかったことに気付き、エスデスは筑紫(つくし)に促しをかける。

 

「あ、はい。・・・コガネちゃん」

 

「⁉」

 

筑紫(つくし)がその名を呟くと、それは現れる。

 

ポンッ!

 

「あいよ!」

 

筑紫(つくし)に呼ばれたのは死滅回游の窓口、式神コガネであった。空気をぶち壊す一声を放つコガネは彼女の周りをパタパタと飛び回る。

 

「巽(たつみ)、お前も呪術師ならば、日本各地に10の結界が降ろされているのは知っているな?あそこでは死滅回游という殺し合いゲームが行われていて、筑紫(つくし)や他の者数名に憑いているこのコガネはその窓口らしい」

 

エスデスが説明を行っている中で巽(たつみ)は筑紫(つくし)に憑いているコガネを見て驚愕している。

 

(こいつが天元様の言ってた・・・。・・・そういえば羂索が呟いてたな・・・)

 

巽(たつみ)は渋谷事変で羂索が呟いていたことを思い出す。

 

『マーキングした非術師の中には術師となり、死んだのもいるけどね。あれの再選別は大変だったなぁ・・・』

 

(この人が・・・羂索が再選別したっていうあれなのか?)

 

「このコガネが憑いている者は元々は術式を持っていなかったのだ。だが、10月31日、渋谷事変閉幕後、死滅回游の開催と共にこいつらは術式を手に入れた。それだけならまだよかったのだが、死滅回游には面倒なルールがあってな。術式を手にした者は19日以内に死滅回游に参加しなければ術式を没収されてしまうのだ。それはあまりにも勿体ないだろう?」

 

「勿体ない?」

 

「せっかく手にした武力だ。それを命と共にドブに捨てるなど愚の骨頂。だからこう進言したのだ。1週間でこいつらを強くして、必ず死滅回游を平定させるとな」

 

「!」

 

「上はこれを了承した。それに伴い、私は1つの部隊を作った。死滅回游の強制参加者と死滅回游の平定を望む者で構成された部隊だ。この部隊の最終目標はただ1つ・・・死滅回游を終わらせる」

 

死滅回游を終わらせる。エスデスの口からその言葉を聞いて、巽(たつみ)は多少なりとも驚いた様子を見せている。

 

「それに向けて、今は訓練の最中というわけだな。もちろん、上の任務をこなしながらだがな」

 

「な、なる・・・ほど・・・」

 

巽(たつみ)は理解した素振りを見せる。

 

(死滅回游を終わらせる、か・・・。言葉だけを聞くなら、俺たちと目的は同じに聞こえる。けど、エスデスは羂索と契約を交わしてる。何か裏があるかもしれない。何とかここから逃げ出して、みんなにこの情報を持って帰らねぇと・・・!)

 

巽(たつみ)はエスデスの言葉の真意を考察しつつ、どうやってここから逃げ出すのかを真剣に考える。

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

「あ、ごめん、着信が入ったみたい・・・」

 

すると筑紫(つくし)のスマホから着信が届き、彼女はすぐに通話に出る。

 

「もしもし・・・はい・・・はい、います・・・はい・・・」

 

一通りの話を聞いた後、筑紫(つくし)はスマホを持ってエスデスに近づく。

 

「エスデスさん。上層部からの通達です」

 

「このタイミング・・・ちょうどいいかもしれんな」

 

エスデスは筑紫(つくし)からスマホを受け取り、通話に出る。しばらく待っていると、話を終えたエスデスは通話を切る。そしてスマホを筑紫(つくし)に返し、上層部からの通達を一同に伝える。

 

「お前たち、上層部からの新たな任務だ。これを機に、訓練の成果を私に見せてみろ」

 

エスデスから任務の指示が与えられた途端、一同は全員気を引き締めた表情に変わる。やる気は十分のようだ。

 

「巽(たつみ)、お前は見学だ。皆の戦いをしっかり見ておけ」

 

「えっ⁉俺も行くの⁉」

 

「補欠として皆の動きを見るのはいい勉学になる」

 

皆が任務に行っている間は逃げるチャンスが飛び込んでくるのではないかと考えた巽(たつみ)だったが、強制的に同行を命じられ、心の中で落胆する。逃げようにも一筋縄ではいかないようだ。

 

●

 

活動が活発化してきているのは何も呪霊だけではない。渋谷事変以降、悟が封印されたことによる影響は凄まじく、それまでずっと大人しくしていた呪詛師が活動を再開し始め、東京をはじめ、各地で暴れまわる呪霊の陰にうまく隠れ、欲に赴くままに他者を呪い殺している。

 

東京の隣に位置する山梨にある辺鄙な秘境の小屋に集まる呪詛師も活動を再開し始めたグループの1つだ。呪詛師集団は1つのテーブルに囲み、仕事の仲介人より暗殺依頼の話を聞いている。

 

「・・・以上がターゲットの情報だ。クライアントは業突く張りだが、金払いはいい。そこは保証する。どうだ?引き受けてみる気はないか?」

 

「質問。この中の誰かが標的を殺したら、報酬は山分けになんのか?」

 

「いや。報酬は先に殺した奴に支払われる」

 

「早いもの勝ちか。いいねぇ、悪くない」

 

「当然、動くなら今だよな?」

 

「おうとも。五条悟が封印された今、呪術師共は暴れる呪霊の対応でてんやわんや、しかも日本に現れた結界もあって世間は混乱状態。うまく陰に隠れてりゃ楽に金稼ぎができる」

 

「俺たちは自由を取り戻したんだ!これが喜ばずにいられるかってんだ!はっはっは!」

 

悟がいたことで肩身が狭くなっていた呪詛師たちは自由を取り戻したことで大笑いし、酒を呷って大騒ぎだ。そんなどんちゃん騒ぎの中で、テーブルに置いてあったランタン型のランプがチカチカと点滅し、消える。

 

「あ?おい、ランプ消えたぞ。電池切れか?」

 

「いや、ちゃんとサラの入れたはずだぞ」

 

「んだよ、中古品かぁ?たくっ、あの露店のジジィ・・・」

 

せっかくの盛り上がりに水を差され、一気に不機嫌になる呪詛師はスイッチを入れ直して光を灯した。その瞬間・・・

 

パリンッ!ズンッ!

 

ランプの明かりの中で呪力が溢れだし、その呪力がランプを突き破って1人の呪詛師の脳をぶち抜いた。

 

「「「なっ⁉」」」

 

突然仲間が死んだことで呪詛師と仲介人が驚いている。そして・・・

 

ズンズンッ!

 

「な・・・な・・・」

 

壁より槍の矛先が飛び出してきて、2人の呪詛師の内臓を貫いた。いきなりの襲撃で仲介人は激しく動揺する。

 

「術師の襲撃だと⁉どこからだ⁉」

 

「知るかよ!とにかく呪霊を放て!全部だ!」

 

「言われなくてもわかってんよ!」

 

残った呪詛師の1人は自身の術式で籠を取り出し、封じ込めた呪霊を一気に解き放った。

 

●

 

「5ポイントが追加されました」

 

「残った呪詛師が術式を使って呪霊を放ってきたよ!この騒ぎに乗って周りの呪霊もざわつきだした!みんな気をつけて!」

 

小屋からずっと遠い森の中で筑紫(つくし)はまるで全てを見たかのように呪詛師の動きに気付き、通信機でそれぞれの場所で待機しているメンバーに情報を共有している。それに伴い、小屋の中より大量の呪霊が現れる。

 

●

 

本格的に戦いが始まった様子をエスデスと巽(たつみ)は見学している。

 

「私たちはあいつらの戦いぶりをここで見物していよう」

 

「俺だけ楽してていいのかな・・・」

 

皆が戦ってる中で自分たちだけ安全圏にいることに巽(たつみ)は申し訳なさそうにしていると、ふと頭がよぎる。

 

(あ・・・これって逃げるチャンスなんじゃないか・・・?)

 

巽(たつみ)は隙を見て逃げれるのではないかと考えたが、エスデスがそっと自分の手を繋いできた。その時の彼女の表情は、本当に恋する乙女のようだ。

 

(に・・・逃げられそうにねぇ~~~!)

 

エスデスと一緒にいる状態では逃げることは不可能と察した巽(たつみ)は渋々ながら僅かな抵抗も捨て、大人しく見学に回るのであった。

 

●

 

一方で、自身の術式で槍を限界まで伸ばし、小屋に攻撃を仕掛けていた銀髪の短髪の青年は槍のサイズを通常のものまで落とし込み、槍を構え直して地面に向けて突き刺した。その次の瞬間に地面がひび割れ、青年は跳躍して後退する。

 

ボコォ!!

 

【ぼえええええ・・・】

 

割れた地面の下より、この一帯に身を潜んでいた巨大なモグラ呪霊が姿を現した。

 

「驚いたな。本当に筑紫(つくし)の言った通りになるなんて」

 

事を起こせば呪霊が動き出すと事前に聞いていた青年は本当にその通りになったことに驚きつつ、自分に向かって襲い掛かって来る呪霊を対処する。まず青年は近くの木に向かって槍を伸ばして突き刺す。そこから槍のサイズを再び落とし込み、木に引き寄せられるように呪霊の伸ばす手を躱した。

 

「それっ!」

 

槍を元に戻して木に着地した青年は木に手を触れ、呪力を流し込む。すると、木の枝が呪力を纏って急激に伸び、その勢いに乗って呪霊の脳天を貫いた。それと同時に、他の枝も天に向かって伸びていき、飛び回っていた鳥型低級呪霊を数体貫いた。

 

「この12年間、自分の術式に向き合い続けてきたんだ。呪霊くらいにやられるわけにはいかないな」

 

青年はそう言って気合を入れ、まだまだ襲い来る呪霊を薙ぎ払い、他のメンバーが動く時間を稼ぐ。

 

高専所属 北条鉈落(なたら)  等級、準1級

 

 

●

 

一方で、呪霊が動き出した頃合いで動き出した銀髪のストレートロングヘアの女性は真正面から小屋に向かって突っ込んでいく。小屋から現れた呪霊たちは女性を見つけるや否や一斉に襲い掛かる。

 

「てめぇらボンクラはお呼びじゃねぇんだよ!引っ込め!!」

 

女性はブレードの呪具を抜き取り、襲い来る呪霊の攻撃を躱し、ブレードを振るって呪霊を次々と薙ぎ払いながら小屋の中に入っていった。小屋の中をくまなく調べるが、裏口が開いており、標的である残りの呪詛師と仲介人はすでにいない。残っているのは呪詛師の亡骸と壊れたランプのみだ。

 

「ちっ!ボンクラ共はすでに外か!」

 

女性が毒づいている間にも、低級呪霊が小屋をすり抜けて入ってきて、彼女の周りを囲む。同時に、暖炉の火が強く燃え上がり、暖炉の周りに炎が広がって小屋にも燃え移る。

 

「!!道連れにする気か!」

 

女性が燃え広がる暖炉の炎に視線を向ける。よく目を凝らしてみると、炎の正体は呪霊であり、呪霊は彼女を嘲笑うかのようにニィと笑う。

 

「ざっけんな!死ぬなら、てめぇらだけで死んでろ!」

 

女性は居合の体制に入り、自身の呪力を練り上げ、ブレードに集中する。十分な呪力を練り上げ、女性はブレードを振るって斬撃を放ち、自身を囲む呪霊と炎の呪霊を燃え広がる小屋ごと円状に斬り捨て、炎を消した。

 

高専所属 不知火銀(ぎん)  等級、準1級

 

●

 

裏口から逃げた呪詛師はもう1人の仲間と仲介人と別れ、ただ1人森の中を走って逃げている。

 

「はぁ、はぁ・・・チクショウ・・・どうなってやがる・・・!」

 

悟がいなくなり、自分たちは自由を手に入れたはずだ。なのになぜこんな目に合うのかと愚痴をこぼし、苛立ちが募る呪詛師の前に、黒い剣を持ったウェイブが立ち塞がる。

 

「そこで止まれ!お前たちに逃げ場はないぜ!大人しく投降しろ!」

 

「・・・っ!クソが!邪魔すんじゃねぇ!」

 

彼の投降勧告を拒絶する呪詛師は悪足掻きに術式で籠を召喚し、残してある巨大呪霊を放つ。放たれた巨大呪霊は四つん這い状態でウェイブに近づき、両手を伸ばして握りつぶそうとする。

 

ザンッ!!

 

ウェイブは迫ってきた巨大な両手を黒い剣を振るって斬り落とした。両手を失い、態勢が崩れた呪霊は勢いのまま転び、ウェイブは跳躍して呪霊の腕に乗り、腕をつたって駆けだし、黒い剣を振るって呪霊の頭を斬り落とした。その際に彼は来た道を引き返して逃げようとする呪詛師の姿を捉えた。

 

「!逃がすか!」

 

ウェイブは呪霊を足場のように蹴とばして高く飛び、逃げる呪詛師に近づいて飛び蹴りを放つ。呪詛師は抵抗しようと新たに呪霊を放とうとするが、ウェイブの方が一手速く、呪霊を放つ前に飛び蹴りを顔から受けて、倒れる。

 

「ご・・・ぐぅ・・・!」

 

ウェイブは倒れる呪詛師を抑えつけて、術式を封じる札を彼に張り付けた。

 

「よし!標的、確保!」

 

任務の目的である呪詛師の1人を捕まえて、ウェイブは得意げな表情を浮かべている。

 

高専所属 ウェイブ 等級、準2級

 

●

 

一方、仲介人と共に逃げた呪詛師は特に木が生い茂っている森の中で息を整えている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・おい、話が違うじゃねぇか。ここは見つからないんじゃなかったのか?」

 

「知るかよ!くそ・・・俺たちは自由を得たはずだ!なのに・・・なんで・・・!」

 

自由を手に入れたのになんでこんな目に遭わないといけないのかと呪詛師はその場に落ちている小石を蹴とばして八つ当たりをする。すると・・

 

シュルルルッ!ギュウゥ!

 

「がっ⁉あぁ⁉」

 

小石がぶつかる音が鳴ったと同時に木の上から鞭が伸びてきて、呪詛師は首を締め上げられ、鞭が伸びてきた木に引っ張られるように体が持ち上げられる。

 

「なっ⁉おい・・・」

 

ドカァ!

 

「ぐぁ・・・⁉」

 

仲介人が声を上げた時、木の上から誰かが飛び降り、彼を蹴り上げて転ばし、倒れたところを抑え込んだ。

 

「心配しなくても殺しはしないよ。あんたたちには雇った呪詛師の連絡先や居場所を諸々吐いてもらわないといけないからね」

 

木から飛び出し、仲介人を抑えているのは鞭の呪具を携えたメガネをかけたひとつ結びをした黒髪の青年だった。呪詛師が持ち上がったのは、青年が鞭の呪具を引っ掛けて、自身が降りたことによる反動であった。

 

「て・・・てめぇ・・・ここの呪霊は・・・?」

 

「全部祓った。僕は集団戦をするつもりも、君たちと真っ向からやり合うつもりはないからね」

 

相方が、念のためにと放った呪霊を全て祓ったと聞いて、仲介人は驚くも、首を締められている呪詛師は苦しそうにしつつも余裕そうな笑みを浮かべる。

 

「へ・・・へへへ・・・ちっと見通しが甘いんじゃねぇか?お前ら術師が何人来てるか知らんが、俺たちは準1級呪霊を伸したことがあるんだぜ?俺の相方の術式は呪霊を籠に捕まえ、放つものだ。て、ことはだ・・・放った呪霊も準1級の奴もいるってことなんだぜ。そんじょそこらの相手に準1級が負けるかよ」

 

「そうかい。なら、君たち運がなかったね」

 

「な、何ぃ?」

 

青年の言葉に怪訝な表情を見せていたが、続く言葉に血の気が失せた顔になる。

 

「僕と筑紫(つくし)の等級は・・・1級だ」

 

高専所属 六道グリーン 等級、1級

 

●

 

同時刻、呪詛師が言っていた準1級の呪霊は筑紫(つくし)と当たっていた。巨人型の準1級呪霊は自身の頭の無数の触手を筑紫(つくし)目掛けて放つ。筑紫(つくし)は迫る触手を走って躱し、まとめて迫ってきた一撃は跳躍して躱した。

 

「プロメテウス!」

 

筑紫(つくし)は銃型の呪具、プロメテウスを取り出し、弾丸を何発も撃ち放ち、迫る触手を1本1本撃ち落とす。そして最後の1発は触手を貫いた直後、弾丸の軌道が曲がり、呪霊の頭目掛けて迫る。だがその1発は右手を挙げて片手で受け止めたことで凌がれる。すると、呪霊の閉じていた単眼が目を見開き、筑紫(つくし)を睨む。

 

「っ⁉」

 

その直後、筑紫(つくし)の視界が急にぐるんぐるんと回り始めて歪んでいく。その隙を狙って呪霊は触手を伸ばして筑紫(つくし)に打撃を与えて宙に浮かせ、自身の拳で地面に叩きつけようとしている。

 

(急に視界が・・・。これは術式効果?ということは、目の前の呪霊は準1級以上の等級・・・それなら!)

 

目の前の呪霊が準1級以上と理解すると、筑紫(つくし)は一瞬目を閉じ、すぐに目を見開く。すると、彼女の瞳が翡翠色に変わり、彼女の視界が変わる。彼女の視界は今、呪霊の足元が見えており、その合間に、『術師でも見えない何か』が呪霊の足の合間を掻い潜る。

 

「うん!これなら!」

 

宙に浮く筑紫(つくし)の頭上に呪力を纏った何かが現れ、彼女は一回転して呪力を纏ったそれを足場にして飛び、呪霊の足の合間を掻い潜る。そしてすかさずプロメテウスの弾丸を撃ち、呪霊の右足を撃ち抜く。右足を貫いた弾丸は軌道を変え、左足も撃ち抜く。

 

【髪・・・はぁぁぁぁああ・・・】

 

両足が撃ち抜かれたことで呪霊は倒れる。同時に、呪霊の周りにあった木が根本から不自然に切れ、倒れる呪霊に向かって倒れる。呪霊が身動きが取れなくなった直後、筑紫(つくし)の瞳が赤に変わり、空に指を指し、そのまま下に下ろす。すると、宙に浮かんでいた何かが炎を纏い、倒れる呪霊に向かって突っ込んだ。成す術もない呪霊は迫ってきた炎に身体を貫かれ、体の内側から炎に包まれ消滅する。

 

『みんな、仲介人は捕まえたよ。任務完了だ』

 

「・・・お、終わったぁ~・・・よかったよぉ~・・・」

 

通信機からのグリーンの報告を聞いて、筑紫(つくし)は安心したようにぺたりと座り込んだ。その際、彼女の瞳は元の色に戻っており、視界も良好になっている。

 

高専所属 六道筑紫(つくし) 等級、1級 死滅回游泳者(プレイヤー)

 

●

 

「・・・す・・・すげぇ・・・」

 

戦地に赴いていたメンバーの戦いぶりを見て、その戦闘能力の高さに巽(たつみ)は驚いている。

 

(特にあの筑紫(つくし)って人・・・術式が目覚めて1週間だよな?ムチャクチャ使いこなしてるじゃねぇか・・・)

 

「巽(たつみ)、お前は私が育てる。これぐらいできるようになるぞ」

 

自身に気にかけるエスデスを見て、巽(たつみ)は少し意外そうな表情を浮かべる。

 

「・・・なんだか・・・いやに優しいんですね」

 

「聞いていた噂と違ったか?」

 

エスデスの問いかけに巽(たつみ)は少し気まずそうに首を縦に頷く。

 

「実は私もこんな気持ちは初めてなんだ。誰かを好きになるというのはな・・・。だが、悪くない」

 

自身に芽生えた恋という感情を愛しく感じているエスデスは頬を赤らめ、笑みを浮かべる。その様子を見て、巽(たつみ)はふと思った。

 

(あれ?これひょっとしたら・・・俺が説得すれば味方になってくれるんじゃねぇか?)

 

エスデスを説得しようという無謀な考え。だが羂索と契約しているとはいえ、彼女は確かに死滅回游を終わらせると言った。これをうまく利用できれば、悟の解放も案外早くなるのではないかと巽(たつみ)は考える。しかもエスデスは今、巽(たつみ)に好意を抱いている。これを逆手にとれば、あるいは・・・。

 

「・・・ところで寝泊まりはあのホテルでいいんですよね?俺はどこの部屋に・・・」

 

「私の部屋に決まってるだろう」

 

(えっ・・・)

 

エスデスと同じ屋根の下で過ごすことに巽(たつみ)は一瞬渋ったが、むしろこれは好機であると気持ちを切り替え、固唾を飲む。

 

(よ、よし!それなら今夜説得してやる!悠仁も伏黒も、秤先輩の説得に気合入れてるかもしれねぇんだ!和倉巽(たつみ)!男を見せてやるぜ!)

 

秤より高難易度なエスデスの説得という名の大勝負を前に巽(たつみ)は拳を握りしめ、気合を入れ直す。

 

●

 

一同が東京の無人ホテルに帰還した頃には夜になっていた。各々が自分の部屋に戻る中、巽(たつみ)はエスデスの部屋に招待され、部屋のベッドの上で正座して固まっていた。その原因は、今なお部屋中に聞こえるシャワーの音だ。エスデスは今部屋に備わってるシャワールームでシャワーを浴びてる最中で巽(たつみ)はその音で緊張気味だ。

 

(な・・・なんかいきなりこんな展開なんですけどーーー!!)

 

思春期真っ盛りな巽(たつみ)は緊張がピークに入って、一瞬ボーッとしてしまうが、なんとか気を引き締め直す。

 

(はっ!いかんいかん!緊張してどうすんだ!味方になってもらうように説得しなくちゃ!ビシッと行け俺!俺は猛々しい獣!気圧されてなるものか!!)

 

自分は猛々しいと言い聞かせながら、エスデスが上がってくるのを悶々と待っている。

 

「待たせたな」

 

そんな思いで待っていると、ようやくエスデスがシャワーから上がってきた。・・・パジャマ姿、しかも大胆にボタンを大きく開けた姿で。おまけに来ている服はこれ1枚。

 

「―――――!!そっ、そんなことないです!!」

 

あまりにも大胆な姿に巽(たつみ)は一瞬呆けてしまっていたが、必死に冷静さを装う。

 

「何か飲むか?」

 

「あ、いえ・・・大丈夫です、はい!」

 

緊張で気圧されそうになっている巽(たつみ)はあたふたしている。

 

「緊張しているのか?」

 

「そ、そんなことは・・・」

 

「フ・・・可愛い奴だな。まぁ、私もこういう作法は知らないのだが、求めるままにいけば何とかなるのではないか?」

 

初っ端から緊張でどうにかなってしまいそうになったが、気を取り直して巽(たつみ)はさっそく説得にとりかかろうとする。

 

「あ・・・あの・・・聞きたいことが・・・その・・・エスデスさんは・・・俺のことが好き・・・なんですよね・・・?」

 

説得の鍵となっている自身への好意を確かめるために巽(たつみ)は堂々と質問する。その問いに対して、エスデスは・・・

 

巽(たつみ)に口づけを交わし、勢いのまま、彼をベッドに押し倒す。

 

「うあ・・・」

 

「好きでなければ、こういうことはしないな」

 

(し・・・しっかりしろ、俺・・・!!)

 

エスデスの誘惑に惑わされそうになりつつも、巽(たつみ)は気をしっかり持ち、本題に入る。

 

「な・・・なら!俺の頼みを聞いてほしい!」

 

「ん?なんだ?言ってみろ。聞こえるようにハッキリとな」

 

固唾を飲みこみ、巽(たつみ)はリスクを承知の上で言葉を紡ぐ。

 

「ご・・・五条悟って人を知ってるか?」

 

「もちろん。術師で奴を知らん奴はまずいない。それで?」

 

「俺は高専の1年で五条先生は俺の担任なんだ!俺はあの人の封印を解きたい!」

 

「!」

 

悟の封印を解きたい。その言葉を耳にしたエスデスは表情を変えた。

 

エスデスを相手に本当のことを全部言うわけにはいかない。かといって半端な嘘は彼女には通用しない。ならば下手な誤魔化しはやめて、自身への好意を盾にして、悟を慕っている生徒を演出する方が1番ベストであると巽(たつみ)は考えた。助けを求めるなら津美紀の名をあげるのが1番だとも考えたが、津美紀も術式に目覚めているはずだ。それをエスデスに気付かれてしまえば、彼女の部隊に組み込まれる可能性がある。それは恵に対する信頼の裏切りに他ならない。ならば多少のリスクを背負ってでも、悟の名を引き出す方がよっぽどいい。後の問題は、悟解放が、羂索の契約に関わらないことを祈るばかりだ。

 

「あの人を助けてくれないか⁉同じ特級術師のあんたが加われば、どんなに頼もしいか・・・」

 

「巽(たつみ)」

 

パンッ!

 

「お前が高専の人間なら、それが何を意味するか、知らぬわけではないだろう」

 

巽(たつみ)の助けを求める声に対して、エスデスは拒否の意味を込めて彼にビンタする。

 

「こ、これが罪に問われることはわかってるよ。けどこのままじゃ俺たち、敵味方にわかれちまうかも」

 

叩かれた頬を押え、後ろへ下がる巽(たつみ)にエスデスは優しく抱きしめる。

 

「そんな心配はいらないだろう。巽(たつみ)はずっと私の元へいるといい」

 

「・・・っ」

 

「五条がいなくて心配する気持ちは理解できる。だが何も不安がることはない。すべて私に身を委ねればいい。私がお前の不安を全て取り除いてやろう」

 

「・・・違う。心配とか、不安とかそういうのじゃないんだ」

 

巽(たつみ)はエスデスから少し距離を取り、話を続ける。

 

「五条先生は俺の命の恩人なんだ。あの人がいなかったら、俺はこうして生きてはいなかった。なのに俺はあの人に恩を何一つ返せてねぇ。このままあの人を放って、自分だけのうのうと過ごすなんて・・・俺にはできない」

 

「巽(たつみ)・・・」

 

「それにこれは五条先生だけの話じゃねぇ。五条先生を封印した黒幕は封印のためにたくさんの人を犠牲にした。そいつがいるだけで世界がどんどんおかしくなってる。俺のことが好きだと言ったなら想像してみてくれ。例えば街の年頃の女の子がいて今みたいに誰かを好きになっても、どんどん呪いが蔓延していく今の世界じゃそれすらも叶わないかもしれないんだ。わ、わかるだろ⁉」

 

 

「わからんな!弱者の気持ちなぞは!」

 

 

情に訴えかける巽(たつみ)の説得にエスデスは冷たい言葉で容赦なく斬って捨てた。

 

「呪いが蔓延るこの世の掟は弱肉強食。弱いものは淘汰される。死にゆく者は弱かったということだ。巽(たつみ)、お前は最初は弱かったかもしれんが、腕を磨いたのだろう?そして強くなって今日まで生き延びた。だから私の目に留まったのだ。だが弱者のままの奴は滅んで当然」

 

エスデスの持論は弱肉強食。強い者が生き残り、弱き者は滅びゆく。幼き頃からその世界で生きてきた彼女に、情などという甘っちょろいものは存在しない。

 

「そ・・・そういう考えの人を好きになることはできねぇ!俺のことを想ってるなら・・・お願いだ!これから主義を変えてくれ!」

 

彼女の主義主張が相容れられない巽(たつみ)は恐れることなくハッキリとエスデスに自身の主張を述べた。彼の真剣な表情を見て、エスデスは頬を赤らめる。

 

(・・・その表情も・・・いい・・・。だが・・・)

 

彼女は間違いなく、巽(たつみ)に恋を抱いている。できることなら、彼の望みは何でも叶えたいとは思っている。しかし、だからと言って、己の価値観を否定される道理はない。

 

「ダメだな。勘違いするなよ!私が巽(たつみ)に染まるんじゃない。巽(たつみ)が私に染められるんだ!それ以外はありえん!」

 

「・・・こっちだって変えろと言われて変えられるもんじゃない!拷問されたってな!」

 

「フ・・・強情だな。いや、だからこそ・・・」

 

エスデスの脳裏に浮かんできたのは、ファイトクラブの試合で巽(たつみ)が見せた満面な笑顔だ。彼の強さとあの笑顔がエスデスを恋に走らせたきっかけになったのは間違いないだろう。

 

(あの笑顔をまた見たい・・・その心を・・・巽(たつみ)の全てを支配したい・・・!)

 

巽(たつみ)という人間の性格、人柄。彼のことを知れば知るほど、彼女の中の胸の感情が高まり、彼の独占欲が強くなっていく。

 

「ま、今日のところはドタバタと疲れたろう。話はまた後でな。とりあえず休むか」

 

「え・・・」

 

休む・・・と言っても、この部屋にベッドは1つしかない。つまりは・・・

 

「じゃ・・・俺はそっちのソファで!」

 

察した巽(たつみ)はそれを避けるべくソファで寝ようとするが、エスデスに手を掴まれ止められてしまう。

 

「今日のところは何もしないからベッドで寝ろ!」

 

自分を誘惑してくるエスデスに巽(たつみ)は少し困り果てた様子を見せる。

 

「・・・そうだ!俺も水浴びしてきます!」

 

巽(たつみ)はふと思いついて逃げるようにシャワールームに駆け込もうとする。

 

「言っておくが、外にいる呪霊は私がいるから大人しいだけで獰猛さは消えていない。このホテルから一歩でも外に出たら一斉に襲い掛かって来るから妙な考えはやめておけよ」

 

「・・・わかりました・・・」

 

考えを見透かされての一言なのかは知らないが、エスデスの発言を聞いた巽(たつみ)はピタリと止まり、大人しくなって静かにシャワールームに入る。

 

「・・・あ、一緒に入ればよかったかな」

 

一緒にシャワーに入るという考えまで至らなかったエスデスは盲点だったと言わんばかりにそう呟いた。

 

(まぁ・・・焦ることもないか。明日にはいよいよコロニーに突入する。そこに巽(たつみ)を同行させて、私の腕前を見せてやるとするか)

 

明日にでもコロニーに入る予定を入れたエスデスは自分の強さを持って巽(たつみ)を惚れ直させようと考える。

 

「だんだん惚れさせてやるぞ、巽(たつみ)。こういう趣向は斬新で面白い」

 

恋はまだ始まったばかり。彼女のうきうきはまだ止まらない。

 

●

 

翌日。ホテルのリビングにはもうすでに何人か集まっており、巽(たつみ)もたった今降りてきた。

 

「よお。昨日は休め・・・なかったみたいだな、それじゃ」

 

「緊張して朝まで眠れやしなかった・・・」

 

見るからに寝不足で頭がボサボサしている巽(たつみ)の姿を見てウェイブは彼の心情に激しく同情する。

 

(何もしないとか言って起きたら抱き枕にされてたし・・・)

 

夜中に緊張して眠れなかった時に不意打ちでエスデスに抱き枕にされた時のことを思い出し、巽(たつみ)は深くため息をこぼす。

 

「巽(たつみ)」

 

「ん?」

 

すると今リビングにやってきたグリーンが声をかけてきた。

 

「話がある。ちょっといいかな?」

 

「話?」

 

「・・・ここではちょっと話にくい。一旦僕の部屋まで来てくれないか?」

 

グリーンに促され、巽(たつみ)は後をついていって彼の部屋に向かう。

 

●

 

グリーンの部屋。巽(たつみ)が部屋に入ったのを見計らい、彼はソファに腰かける。

 

「よっと・・・ここなら誰かに聞かれる心配もないでしょ」

 

「で、何だよ?話って」

 

「立ち話もなんだし、まぁ、かけて」

 

グリーンに促され、巽(たつみ)はソファに腰かける。彼が座ったのを見計らい、さっそく本題に入る。

 

「単刀直入に聞くよ。巽(たつみ)、君が・・・いや君たちが栃木に来た理由は、秤と接触するためなんじゃないか?」

 

「!!」

 

核心を突くようなグリーンの問いかけに巽(たつみ)はピクリと反応する。

 

「・・・やっぱりそうか。ということは君たちの目的は五条の封印を・・・」

 

そのわずかな動きを見てグリーンは巽(たつみ)の目的の確信を得た。対して巽(たつみ)は自分たちの目的がバレて少し警戒心を露にする。

 

「安心してくれ。このことは他のみんなに言うつもりはないよ。僕はただ、君と取引がしたいんだ」

 

「・・・取引?」

 

「・・・コガネ」

 

ポンッ!

 

「あいよ!」

 

「⁉」

 

グリーンがコガネの名を呼ぶと、軽快な音と共に現れる。突然現れたコガネに巽(たつみ)は驚愕する。

 

「昨日は使わなかったけど、僕も術式を覚醒してるんだ。だから僕にもこいつが憑いてきたんだ。そのおかげで、いくつかの情報を得ることができた。例えば・・・死滅回游の新しいルールとかね」

 

「新しい・・・ルール?」

 

「僕の頼みに同意してくれるならこの情報を開示してもいいし、今後の君たちの活動にも協力は惜しまないよ」

 

初対面であるはずの自分に取引を持ちかけてくるグリーンに巽(たつみ)は疑問を問いかける。

 

「いや、おかしいだろ。俺たち何の接点もない初対面だよな?他の奴に頼めばいいのに、なんでわざわざ俺なんだよ?」

 

巽(たつみ)の場合だと、エスデスの恋心を利用していたが、このグリーンと巽(たつみ)は昨日会ったばかりの初対面同士だ。いきなり取引を持ち込むのはおかしい。その尤もな疑問に対し、グリーンは答える。

 

「赤女(あかめ)が君たち生徒のことを自慢げに話していたからだよ。彼女が信用してる人間なら、僕も信用できる」

 

「赤女(あかめ)?あんた赤女(あかめ)を知ってるのか?」

 

「高専時代の同級生だよ。学校は違うけどね」

 

所属校が違うとはいえ、グリーンが赤女(あかめ)の高専時代の同期だと知って巽(たつみ)は驚く。

 

「・・・僕が頼みたいことはその赤女(あかめ)のことなんだ」

 

赤女(あかめ)が題材に出てきたことでグリーンは情報共有と協力の約束のための条件を口にする。

 

「赤女(あかめ)にかかっている処刑を何とか取り消してもらいたいんだ」

 

グリーンの出した条件とは、総監部の通達にあった赤女(あかめ)の処刑執行。それを無効にするというものだった。それは総監部の意に反することで罪に問われる行為だ。それがグリーンの口から出たことで巽(たつみ)は驚いている。

 

「五条の永久追放も含めて、総監部の通達はどう考えても穴だらけでとても納得できるようなものじゃない。でも僕の身に周りの人間は筑紫(つくし)も含めて総監部寄りだ。味方になってくれる人間は誰もいない。そこへ現れたのが君だ。赤女(あかめ)や君たちは五条の封印を解きたいんだろう?それはきっと、赤女(あかめ)の処刑を止める行為に繋がるはずなんだ。僕はそれに賭けたい」

 

グリーンはそこまで言い切るとソファから立ち上がり、床に膝を折って、巽(たつみ)に土下座をする。

 

「お、おい!!」

 

「僕は今、プライドも何もかもかなぐり捨てて頼んでる!彼女を救うためなら、この身を全て捧げてもいい!頼む!赤女(あかめ)を・・・助けてくれ!!」

 

男のプライドを捨ててまでの頼み。その姿勢から見ても、たった1人の人間のためなら、世界の全ての敵になってもいいという覚悟が伝わってきた。呪術師として、十分なイカレ具合だ。

 

「・・・グリーン、顔をあげてくれ」

 

巽(たつみ)の言葉に、グリーンは顔をあげる。

 

「あんたの気持ちは痛いほどにわかった。赤女(あかめ)の処刑をどうにかしたいのは俺たちも同じだ。俺も今は1人だ。味方になってくれる奴が1人でもいれば心強い」

 

巽(たつみ)はグリーンに向けて手を差し伸べる。

 

「こっちからも頼む!五条先生を解放するために、力を貸してくれ!

 

逆に巽(たつみ)からの協力の申請。それに対してグリーンは笑みを浮かべ、彼の手を握る。

 

「ああ!もちろんだ!」

 

エスデスの説得は失敗したものの、ただで転ばなかった巽(たつみ)はグリーンと縛りを結んで協力関係を築き上げるのであった。

 

「・・・そういやあんた、赤女(あかめ)のいったい何なんだ?」

 

巽(たつみ)の疑問に対し、グリーンはふっと笑みを浮かべて答える。

 

「何者でもないよ。ただ彼女に淡い恋を抱いてるしがない男さ」




誰とは言いませんが、今回登場しなかった子がなぜいなかったのか。それも物語が進めばわかりますよ。

死滅回游泳者ボルスはどこのコロニーに向かった?

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