EOE後のつもりです。

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刻の過ぎゆくままに

 まるで地獄に僕は居るみたいだ。喧騒すら無い。波音も聞こえない、まるで刻が止まったかのように。瓦礫が元々白かったのであろう砂浜を覆い尽くしている。紅い海。紅い空。一向に沈む気配のない夕日。白夜みたいだとふと思う。そんな中にたった一人で僕は居る。ここに来てからどれ程の時間が過ぎたのだろうか。代わり映えのしない、そんな風景の中で僕は日々を数えるのをやめた。無駄でしか無い。いくら待っても誰も現れやしない“咳をしても一人” 尾崎放哉の句がそっと腑に落ちた。僕は孤独だ。このまま独りで死ぬ事を受け入れるしか無いのかも知れない。僕は彼のように奔放だったのだろうか。

 

 お世辞にも綺麗とは言えない浜辺の上で、僕はいつしかの日常を懐かしむ事にした。もう手が届かない、天真爛漫で身勝手な少女に振り回されたあの日々を。楽しい事ばかりではなかった。辛いことの方が幾許か多かったと思う。そんな日々が今や懐かしい。少なくともその日々は孤独では無かった。彼女に見放された瞬間から僕の孤独は始まったのかも知れない。

 

彼女は多くの事を僕に求めてきた。正直に言えば過剰なほどだったと思う。実際辟易(うんざり)としていたんだ。だから僕は拒んだ。彼女の要求を——彼女自身を——

 

 僕だって一人の人間だ。拒む権利だってある。今まで誰一人として僕を受け入れてはくれなかった。そんな彼女だって僕を受け入れようとは一度もしてくれなかった。それにも関わらず、彼女は自身の要求を受け入れろと幾度も迫ってきた。横暴な話では無いか。だから僕は彼女を拒んだんだ。彼女は僕に優しくさえしてくれない。ただ自分の希望を僕に求めるだけだった。

 

 ある一日を追憶した。僕と彼女の関係性に決定的な亀裂を生んだ日を。その日は僕の母さんの命日だった。僕には家族なんてものはいない。母さんの顔だって憶えていやしなかった。父親はいる。僕の事なんて眼中になかったあの男も、一応は父親だった。命日だからって、そんな彼と顔も知らない母さんの墓前で話した。お互いに不愉快だったと思う。互いに互いを受け入れる気なんか微塵も無かったから。その場はただ無意味な問答を繰り返した。父さんは一度もマトモに僕に向き合い、応えてはくれなかった。ただ逸らかすだけ。だから僕は彼に愛情を感じることはなかった。父親とは何なのだろうか。疑問が渦巻いた。家族なんて考えるだけで忌々しいものだ。僕にはやはり家族はいない。そう実感した日だった。そんな不愉快な想いをした僕をただ彼女には慰めて欲しかったんだ。家族のように、母親のように、兄妹のように、恋人のように、何でもいいから、ただ僕を受け入れて欲しかった。

 

 彼女は僕を慰めてはくれなかった。その対極にあったとさえ思う。彼女は僕に接吻を求めてきた。その時は嬉しかったんだ。彼女なりの慰めを与えてくれるんだと思った。だけど、甘い考えは即座(すぐ)に否定された、彼女の行動によって。あろうことか彼女は行為が終わるや否や洗面台に駆け出して行ってしまった。『こんなものするもんじゃ無い』と捨て科白を添えて。

 

 僕自身の存在を否定されたように思えた。何故彼女が僕に“そんなもの”を求めてきたのか未だに理解出来ない。理由(わけ)を知るのが怖かったのかも知れない。その場は平常心を装ったが、僕の心は不信感で一杯だったんだと思う。彼女はこんなに傷ついた僕を、遊びの道具としか思っていない。今まで彼女の求める事は出来る限りした心算だ。僕は悪く無いんだ。彼女が悪いんだ。だから決めた、彼女の要求を飲まない事を。

 

 彼女の助けを求める声さえも僕は無視した。周囲の、彼女を助けてやれという声も聞きたくはなかった。助けた所で彼女は僕を受け入れてくれはしないだろう。僕を責め、僕の責任を問うに違いない。僕が求めているのは僕を、僕自身を受け入れてくれる人だ、彼女じゃ無い。誰でもよかったんだ。だから、死んだんだ、彼女は。僕が僕である為に、彼女を見捨てたから……。

 

 

 

——ああ、彼女が僕を見放したんじゃない。僕が最初に彼女を見捨てたんだ。

 

 

 

不意に笑いが込み上げてきた。なんて滑稽なんだろう。今の僕はひどく醜いに違いない。なんだ、簡単な話だったんじゃないか。人を受け入れようとしない僕を、誰かが受け入れてくれる筈はないんだ。いつかは誰かが僕を救ってくれると。そんな予定調和など期待するべきじゃ無いと知っていたはずだ。現実から目を背け、相手を玩具だとしか思ってなかったのは、僕の方だ。慰めの方法の一つとしか、彼女を認識していなかったんだ。

 

こんなことに今更気づいてももう遅い。時間は戻らないのだから。刻の過ぎゆくままに、僕は栄光の孤独を味わう他ない。この孤独は、僕の業に対する罰だ。独りぼっちにならない方法などいくらでもあった。相手もちゃんとそこに居たんだ。でもその人は僕の傍にはもう居ない。僕は間違ってしまった。相手は——彼女は、僕が殺したんだ。だけどもし、もしもこんな世界にも神様がいるのならば……。

 

 

 

こんな砂浜の果てにも最初は二人の人間がいた。少年と少女。少女の方は死んだも同然だったように見える。彼女は虚な瞳で紅い空を見ていた。虚空を無機質に凝視める彼女を少年は憐れんだのだろうか。そっと彼女の首に手をかけ、華奢な腕に力を、想いを込めて握った。刹那の刻が流れる。そして少年は袖を涙で濡しながら、その場を逃げるように去った。

 

 

 

紅に染まった、独りぼっちの砂浜の上で少年はこう願った。

 

「神様……もし赦されるのならば……彼女との時間をまた過ごさせてください……」

 

 

 

蒼い海。蒼い空。真っ白な砂浜。潮騒。太陽が二つの影を浜に照らす。刻はまた奔りだした。

 

 




駄文失礼しました、オリジナルを書こうとして結局エヴァに縋ってしまった成れの果てです。

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