とある地下の道場に50年間も閉ざされた扉があり、そこは神棚のようなもので祭られていた。


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さっき昼寝したら見た夢を書き起こして調整した。


【短編】扉の向こう側

人気グループがあって、その5人組を無事に目的の会場まで誘導するのが僕の仕事。

だいたいが工場みたいな巨大なコンクリートの壁の裏を植栽に隠れながら進む。それも夜の暗い時間。自動車のライトで照らされている時は隠れて、そうでない時に身をかがめて前身。僕は無名の人間なので、反対側の車線から全景を見て、「進んでOK」だの、「今は隠れて」だの指示をする。

見つかってしまうと群衆がどんどん集まってくる。それは何かのデモやイベントのような人だかりで、車道も歩道も埋め尽くしてしまう。

人気グループの中には僕の指示なんかまったく聞く気もなくて、どうどうと歩く奴がいるからすぐに見つかってしまう。スポットライトで見つけられるのを楽しんでいるかのように見える。僕の仕事に対しては微塵もリスペクトを感じていないのだろう。

 

※ ※ ※

 

どこかの地下の道場には、50年に一度しか開けない扉があって、その扉の前をうやうやしく飾ってある。神棚のようなその場所は人気の場所で人々はそこで記念撮影をする。ある老人にはその扉を開ける儀式を見たことが自慢だ。

扉の向こうがどうなっているのか、したり顔で話す人もいる。

僕は裏方の人間なので、その扉の向こうがどうなっているかを知っている。だって構造的にわかるから。

物置の奥には配電盤があって、そこにはメンテナンス用の扉があり、そこを開ければ裏につながっている。

裏は人が1人はいれるぐらいのスペースで照明も暗いけれど、近代的な場所だ。その先は別の部屋の配電盤の裏の扉につながっている。別になんでもない普通のビルの普通のバックヤードだ。

観音開きの荘厳な扉は、そのスペースにつながっている。誰が何の目的でこんな無意味なものを作ったのか、きっと誰も知らない。

 

※ ※ ※

 

ある男性の音楽家がインタビューに答えている。周年記念の曲作りを任され、それに対するイメージの話をしていた。とにかくよく話す。そしてそれは決してポジティブなものではなかった。周年記念なのでもっと喜びとか、新しい驚きとか、そういうことを取り入れるのかと思ったら、そうではなくて「不満」とか「不安」のようなものが必要不可欠なんだそうだ。それらをどう表現するか・・・それはぜんぜんおめでたいことなんかではなくて・・・これからまた周年が続いていくのに、とてもうんざいりしている・・・みたいなことを話してスタッフを困らせていた。

なら仕事なんて受けなければいいのにって思ったら。「でも、仕事ってそういうものでしょ?」っと言ってた。

 

※ ※ ※

 

控室には正座をしたおっさんが背中を丸めている。体重も増えて正座するにはきつそうだ。無表情で覇気もオーラも感じない。どこにでもいるくたびれたおっさんは、国民的にアイドルグールプの1人で、僕が誘導して連れてくる人気スターだ。今回の周年記念のイベントの司会を任されている。

周年イベントに対してやっぱり不満とか憤りとかありますか?と聞いたら、「ない」とめんどくさそうに答えていた。

ほら、20年も続いた番組が突然打ち切りになったり、みんなから追いかけまわされたり、理不尽な目にもあっているし・・・、そういうことの深い想いみたいのがあって・・・

「ぜんぜんない」と答える。

「台本があって、必要なら笑顔ではしゃぐだけ」そういって、出番で呼ばれたので控室の楽屋から出て行った。

 

仕事ってそういうもんかな?って思った。

 

※ ※ ※

 

名前も覚えていない売出し中の若手芸人の「じゃないほう」が同じ部屋にいた。少し長いロングのストレートとメガネ。彼は楽屋で不必要にはしゃいでいて、「僕はこの周年イベントに抜擢されてすごく興奮しているんだ!」ってテンションが高めだった。

でも、本番ではじっとしていてプロデューサーに叱られていた。

 

※ ※ ※

 

僕の仕事は人気グループを目的まで誘導する仕事で、それは少しドリフのコントのようにふざけている。彼らは身をひそめながら僕の指示で動いている。でも後から来る言うことを聞かない人が必ず群衆に見つかる。

見つかるとだんだんと人だかりができる。やがて警察がきて大ごとになる。群衆の数がすごい。僕にはどうにもできない。その内、軍用のヘリがやってきて、縄梯子を降ろしてそのアイドルグループを乗せて飛んでいく。

後の祭り。群衆はバラバラとどこかへと解散していく。

 

僕は何もない暗い畑道を歩いている。後ろの街灯も先にある街灯も遠い。月明りがあるのでそこまで暗くないけど、世界には僕ひとりしかいないんじゃないかと思えてくる。僕は歩いて目的地まで進む。もうガイドするアイドルはいない。

 

これでこんな大ごとになったのを僕のせいにされて、ケータイ電話でどやされるなら、僕だってこんな仕事はしない。僕は関係者から忘れ去られてしまったかのように誰も何もいわない。

目的地についた頃、そこでイベントがまだ行われいる時もあれば、終わっている時もある。でもそれはもう関係なくて、僕の役割とか仕事はない。僕は扉の向こうがつまらないということを知っているだけだ。そしてそんなつまらないことは口外しないし、僕が口外したところで誰も関心を示さない。

 

※ ※ ※

 

自販機前でコーヒーを飲んでいたら、ベンチ座って2人の男が話をしていた。

 

「もうこんなに人を集める必要なくない?」

「そういうなよ。大事な役割なんだから」

「給料だって出ないんですよ?」

「そりゃそうだろう。ファンなんだから」

「俺、もうそんなファンじゃないっす・・・というか、元々ファンじゃなくって、なんとなく集まってしまって」

「そういうもんだ」

 

どうやら彼らは群衆のようだ。わらわらと群がれば何も考えていなそうな群衆だけど、こうやってスポットを当てて耳を傾けると、そこには生活があって、考えがあって、不満がある。

不満を持った1人が立ち去っていった。彼が次も群衆の1人になるのか、もう群衆をやめてしまうのか、それは僕にはわからない。

 

「お疲れ様」といって、僕は残った1人の隣に座った。

「ああ、お疲れ様」

「いろいろと大変ですね」とよくわからないけど、寄りそう形で会話をはじめる。

「あいつは何もわかってないんだよ。俺はさ、『おい、あそこにいるぞ!』って、125番目に声をあげる役目があるんだ。大事な群衆の1人なんだよ。あいつは何もわかってない」

「そうですね」

「俺が声をあげなければどうなる?人が集まらなくなるだろ?そしたら、警察も軍用ヘリのパイロットも失業だ」

「まったく、そうかもしれませんね」

「あいつは仕事っていうのを何もわかってないんだよ」

「でも、給料はでないんですよね?」

「そりゃそうだろう。誰もが金のことばかり考えて生きていたら世の中が回らない」

「まったく」

 

俺は給料が貰えないで群衆の1人をやるのは嫌だなと思った。だから追っかけなんてしたことない。誰のファンでもないし、扉の向うは気にならない。

 

※ ※ ※

 

「はい!というわけで、あと30日。いよいよ一ヵ月を切りました~!」

 

さっきまでくたびれたおっさんだったアイドルは、元気溌剌とした笑顔を振りまいて、扉の前でレポートしている。

一束いくらの若手アイドルの女の子が、「楽しみですね~!50年ぶりですって!」ともうみんなが知っている事実を説明している。

 

いったい誰が本当に楽しみにしているんだろうか?

俺はスタッフにまじって撮影をみていた。

 

扉を開けてもバックヤードしかないんだけど、そんなことはぜんぜん扉が50年閉まっていることと、50年ぶりに開くこととは関係ないのだろう。

 

なんでこんなことがトレンドになっているのかわからない。

 

(了)

 


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