蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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仕事が続いて中々書けなかった……


白鯨 6

 

 

 

 

 

 

 夜、漆黒に染まったアビドスの廊下を一人歩く。

 閉ざされた闇。その闇に消え行く記憶を辿りながら。

 

 心は壊れている。けれど、癒されることはない。幼く、小さい身体は呪縛(記憶)に縛られ、闇の帷に堕ちていく。

 最早遥かに遠い記憶。

 

 次第に萌えるこの闇空を灼く日差し。まるで私の心の傷を灼くように。

 その痛みこそ、目覚めである。

 生き続ける。(呪われ続ける。)自分が在るべき姿にあるために。

 そしてアビドスとしての誇りを心に注ぐのだ。偽る心の渇きを癒すために。

 

 登り行く太陽が瞳の闇を焦がしていく。

 癒えるはずもない。忘れるはずもない。この痛みは私だけのものなのだから。

 或いは、この灼ける痛みこそが贖いなのか。自分が蒔いた種を燃やし尽くしながら。

 思い出に、決別しろと言うのだろうか。

 

 言葉は人を殺す。(あの頃の私はいない。)彼女の言葉を聞かせて欲しい。おっとりとした、彼女の息吹きに乗せて。

 私の罪は死なず。手に染みついた()は洗い流せはしない。

 キヴォトスは私達を恐れるのだろうか。天国でも地獄でもない、最早外側にあるこの学校を。だがそれさえも、私達の道導となるだろう。

 

 これは、偽りの救済なのだ。(エイハブ)が私達に齎した居場所と呪い。

 真実すらも超えて、私達を苦しめるのだ。

 

 

 屋上への扉を開ける。

 差し込む朝日が私を照らす前に、先客である彼が神々しく映る。

 鬼が口から吐き捨てる煙は甘く魅惑的で。鈍い赤色の左腕は血に塗れたようで。

 

 けれど、例え太陽の光でさえもあの瞳の闇を照らすことなど出来はしないと知っている。

 

 砂で白く染まった頬は、まるで遺灰で染まったように彼を装飾する。死を背負うように。私と同じように。彼もまた、誰かの想いと死を魂に刻まれていた。

 

「寝れないの、先生?」

 

 そう尋ねても、彼はこちらに振り返ろうとはしなかった。その後ろ姿は正に屈強な戦士であり、親のようにも感じてしまう。彼から父性でも出ているのだろうか。

 先生が電子タバコの吸い口に口を付けると、彼の肺を水蒸気が満たした。吐き捨てる水蒸気は、まるで本物の煙のようだ。

 

「もう一生分眠ったさ」

 

 そう答える先生と、昂る朝日が重なった。ある種の神々しさを以て、先生の輪郭がはっきりと目に焼きつく。そのせいで彼の影が黒いシルエットとなる。

 角が、見えた気がした。そんなはずはない、そんなもの付いてはいない。けれどそのシルエットに鬼を見た気がしたのだ。

 でもどうしてだろう。その姿が悍ましいとは私には思えなかった。

 

「お前は帰らないのか。家はここじゃないだろう」

 

 そこで先生がようやく振り返った。太陽の光と、それによって生まれる陰が先生の顔を少しだけ私の瞳に映す。

 私は息を呑んだ。その先生の顔があまりにも違い過ぎて。けれど誰よりも、それが先生であると認識ができて。

 

 右眼は眼帯に覆われ、見ることはできない。無数に顔に刻まれた傷が今までの苦難を表しているようで。

 そして何よりも、大きな角が頭から伸びている。ゲヘナの生徒達とは違う、生まれながらにしてあるものではない。まるで突き刺さり、永久に抜くことができない破片のような角。

 伸び切った角は、血塗れの顔と相まって鬼を思わせる。でもその鬼は、禍々しいけれど神々しかった。

 

 その顔は、私の知るエイハブ(メディック)ではない。

 

 

 

「ホシノ?」

 

 名前を呼ばれて意識を戻す。気がつけば先生は目の前にいて、心配そうに私を覗き込んでいた。そこに鬼はいない。

 

「あ、あれれ〜……ごめん、やっぱり朝イチは眠いよ〜」

 

 欠伸をして動揺を隠す。先生も深くは聞いてはこない。当たり前だが、大人なのだ。聞いてほしくないことやそうでないことの区別はついているのだろう。

 だから、彼は何も言わずに生身の右手で私の頭を優しく撫でた。心地良いその手のひらを、私はただ黙って受け入れていた。

 

「ホシノ」

 

 不意に先生が私の名前を呼ぶ。まだ数日の付き合いだけれど、彼がこの声色で誰かの名前を呼ぶ時は決まって何かを伝えたい時なのだ。

 

「なぁに、先生?」

 

 極めて素に近い自分の声色で答える。そんな私に先生は言う。

 

「鬼にはなるな。お前は過去のために戦うんじゃない。未来のために戦うんだ」

 

 そんな、啓示にも似た言葉に私は笑みを浮かべた。

 

「本当に、なんでもお見通しだね」

 

 私はしばらく先生の手の温もりを確かめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柴関ラーメン。そこはアビドス自治区に存在する、古き良きラーメン屋。

 人情溢れる大将が振る舞う格安ラーメンは、食通も唸らせるほどの深い味わい。それでいて、こってりしているはずの家系ラーメンとは思えないほどの食べやすさ。

 最早住人も半分以下のアビドスにおいても、このラーメン屋だけは別格だ。

 

 セリカは放課後、そこへ入って行ったっきり出てこない。

 

 事の発端は放課後のセリカの足取りについての話題だ。アビドスの面々が面白半分で尾行してみれば、彼女はアビドスの中でも知る人ぞ知る名店である柴関ラーメンへと入って行ったのだ。

 ちなみに、セリカは尾行に全く気づかなかった。否、気づけなかった。なぜなら彼女を直接尾行していたのは、単独潜入のプロであるスネークだったのだから。街中における尾行なんてものも、CIA工作員時代にこなしている。

 確かにガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件の際の東欧では、あまりにも久しぶりかつ厳戒態勢が敷かれていた街中だったから苦労はしたが、ここは銃弾と砂が舞う以外では平和なアビドスだ。

 警戒も薄い女学生一人追跡することくらい容易い。

 

「それにしても、まさかあんな少女を尾行することになるとはな」

 

 ため息まじりに相棒に呟けば、やはり彼も同じ事を思っていたらしい。オタコンは苦笑いをして答えてみせた。

 

『ま、それくらいが平和で丁度良いさ。ホシノ達にはメールで連絡を入れといたよ。もうじきここに来るだろう』

「……オタコン、改めてだが、奴のことをどう思う?」

 

 脳裏に浮かぶのは、正体不明の先生であるエイハブ。

 

『エイハブの事かい? 確かに口数も情報も少ないけど、アビドスのために随分と尽力してるみたいだよ。少しは信用しても良いんじゃないかな』

「……」

『念の為、こっちの世界でも彼の事は調べてみた。でも該当する人物はいないみたいだ。顔認証でも引っ掛からない、まさにゴースト。でも彼、随分と前にこっちで戦死しているんだろう? ならあり得ない話じゃない。今となってはあらゆる情報がデータ化されてるけど、古い戸籍なんかは手付かずのままだ。楽観視はできないけど、もう少しだけ信用しても良いとは思うよ』

「だといいんだがな」

 

 御人好しなのはお前の良いところでもあり悪いところだぞ、と心の中で呟く。尤も、スネーク自身もエイハブが自分が言っているほど危険な存在だとは思っていない。

 だがそれを補って余りあるほどの裏切りの経験が、彼を注意深くさせている。シャドーモセスの時にしたって、親しい間柄ほど人は他人を容易く信じ込んでしまうのだから。

 

「あ、先生。お〜い」

 

 ふと、遠くからホシノ達アビドスの廃校対策委員会の面々がやって来るのが見えた。その中には、真っ赤な義手を身に付けるエイハブの姿も見える。

 

「来たか。それで、これからどうするんだ?」

 

 オタコンとの無線を切る。どちらにせよ、シッテムの箱を通してアロナとオタコンには聞かれているが。

 

「そうだねぇ〜、ちょっとお邪魔しちゃおっか」

 

 いつものように眠たそうな面でホシノは言う。

 

「大丈夫なのか? セリカは怒りそうだが」

「だいじょぶだいじょぶ〜。ほら、行くよ先生〜」

 

 そう言ってホシノを先頭に皆が入っていく。空いた扉からはあまり経験したことのないうまそうな匂いが立ち込めていた。歳をとっても、美味いものに目がない。

 ふと、横を通り過ぎるエイハブと一瞬目が合った。彼は何かを思っていそうな目で彼を見ると、すぐにそのままホシノ達の後を追う。と言うよりは、シロコという狼に似た少女に手を引かれていた。屈強で無口な彼も、どうしてかシロコを前にすると少し弱くなる。

 

 さて、ラーメン屋に入った彼らを待ち受けていたセリカの反応は予想通りだった。セリカは案の定甲高い声色でどうしてここにいるのかと捲し立て、それをアビドスの面々は軽く受け流す。

 柴犬の大将に促されると仕方なくといった様子で席へと案内されたが、やはり怒っているらしくサービスの水を勢い良くテーブルに突き出された。こちらとしては、ほぼ強制的に付き合わされているのだから睨まないでほしいのだが。

 

 そしてテーブルに出されたラーメン。スネークは、その旨味とコクのあるスープを一口舌で感じた瞬間に絶頂した。

 

「めちゃうま……!」

 

 思わず顔が蕩け、そんな声を出してしまう。

 

「せ、先生……意外とお茶目なんだね」

 

 ホシノ達が少し引き気味に言うも、ラーメンを一口食べると全員が舌鼓をならす。やはりこのラーメンは日頃和食等を食べる彼女達からしても絶品のようだ。

 そもそも、スネークやオタコンは放っておくとレーションやジャンクフードくらいしか食べないのだから舌が肥えていないのは当たり前だ。サニーの目玉焼き付きで。

 エイハブも慣れない箸を器用に使って食事をすると、相当美味かったのか目を驚かせていた。

 

「こりゃ良い。うち(アウターヘブン)の主食にしたいくらいだ」

「先生、毎日ラーメンは流石に太るよ〜」

 

 若干ズレた二人の会話だが、それに気付くものはいない。

 

「どうだいうちのラーメンはよ」

 

 食事も中盤、ふと大将の柴犬がやって来る。見た目によらず案外渋い声だ。各々が感想を述べると彼も嬉しそうだ。

 

「これだけ美味いんだ、繁盛してるに違いない」

 

 麺を啜りながらスネークは尋ねる。だが柴大将は首を横に振った。

 

「それがここんとこ客足が落ちてね」

「……」

 

 こんなに美味いのに、と心で呟きながらもアビドスの現状を思い出す。単純に、砂漠化の影響でこの街に人が少ないのだ。

 

「まぁ気にしてても仕方ねえ、腹減ってる客に腹一杯美味いもん食わしてやる。うちのモットーはそれだけだ!」

 

 自信たっぷりに語る柴大将。漢気のある大将だ。

 

「流石、セリカがあんたの下で働くだけの事はあるな」

 

 少し皮肉混じりにスネークは言う。

 

「そうかい? ま、セリカちゃんは良い子だよ。こんな油っこいとこで真面目に元気でいてくれるからな」

 

 他の客を接客するセリカを見る。ふと、エイハブは言った。

 

「毎日ここで、その、アルバイト? ってのをしてるのか」

「うお……あんたら声似てるな。ああ、そんなに働いたら疲れちまうってのになぁ。ま、ほんと良くできた子だよ」

「……そうだな」

 

 そう言ってセリカを眺めるエイハブの顔は傭兵とは思えない程に穏やかだった。まるで父が娘を見ているような、そんな顔で。

 

 

 

 

 

 アビドスの面々も帰り、店が閉まると掃除の時間。セリカがデッキブラシで床を擦る。油を落とすにはこれが一番良い。

 柴大将がセリカにもう上がって良いことを告げると、しかしすぐに続けて言った。

 

「あの先生達、生徒想いのいい大人じゃねぇか。特にあの、義手の先生……ありゃ、子供達の未来を想ってるって顔だったぜ」

 

 エイハブの顔がセリカの瞼の裏に浮かぶ。けれど、それでもやはりまだ認め切れない。

 

「……お先に失礼します」

 

 それだけ告げて、少女は立ち去る。柴大将も、年頃の乙女の心に深くは入らない。

 

 

 

 店を出て、帰路につくセリカ。

 柴大将に言われたことが、ずっと頭に引っかかる。だからだろう、投げられたボトルが、目の前に来るまで気が付かなかった。

 驚いて咄嗟にボトルを受け取れば、シロコがいた。

 

「シロコ先輩……」

「おつかれ。今帰り?」

 

 どこか読めないその先輩に、ただ頷く。

 

 

 

 二人、ガードレールに腰掛けて飲み物を飲む。

 

「さっきのラーメン、美味しかった。大将も良い人だし。それに、頼りになりそう」

「うん……」

 

 何が言いたいのか分からない。そんな顔でセリカはシロコの言葉を待つ。

 

「私は……エイハブ先生も頼りになると思う」

 

 セリカは眉を顰めた。そんなこと、分かっている。あれだけ逼迫していたアビドスを、例え法外であろうとも立て直しかけている。

 シロコはそれだけ告げると、乗ってきた愛用の自転車に跨る。

 

「じゃあねセリカ。また明日」

 

 ただ悩める後輩のために。それだけのために、彼女はここに来た。シロコが去った後、セリカは一人考える。それはもちろん、二人の大人の事だ。

 まだ日の浅いデイヴィッドはともかくとして、エイハブはどうだろう。もう、下手な意地を張らずに頼っても良いんじゃないか。信頼しても良いんじゃないか。

 

「……ううん、アビドスは私達が……」

 

 その時だった。

 不意に、足元に何かが投げ込まれる。それが閃光音響手榴弾(スタングレネード)であると気づいた時にはもう遅かった。

 手榴弾の中でマグネシウムが発火し、轟音を繰り出す。多少の熱さを感じた。その前に視界が真っ白に染まる。

 スタングレネードは非致死性であり、その閃光は100万カンデラを超える。音量も180デシベルに至り、一時的な失明や聴覚障害を齎すものだ。しかしそれも、ほんの一瞬。特殊部隊がそれを用いるのは、その一瞬の隙を突くためだ。

 だが今は夜である事に加え、炸裂したのは彼女の真下。効果は絶大だった。

 

「ぐっ、う、何が……!」

 

 背負ったライフルを身体の前に手繰り寄せ、すぐに戦える準備をするも目と耳が使えない。

 痛みは、すぐにやってきた。

 

「あぐっ……!?」

 

 背中に強烈な痛みが走る。それが二回、三回と続けば、たまらずセリカは前のめりに倒れ込んだ。威力からして、12ゲージのスラッグ弾だ。

 

「ゲホッ、ゴホッ」

 

 咳き込むセリカの背中に、蹴りがめり込み地面に平伏す。抵抗しようにも、敵は複数いるようだった。腕を押さえられ、首にワイヤーが巻かれる。

 息を止められることがこんなに苦しい事だなんて、彼女は知らなかった。酸素が脳に行き渡らず、意識が落ちるのはすぐだった。

 昏睡したセリカを、襲撃者達はやってきたバンに運び入れる。

 

「対象を捕獲、セーフハウスに輸送する」

 

 ヘルメット越しに電話で伝えれば、彼女達は役目を終えたスタングレネードの残骸と薬莢を回収する。後には何も残らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セリカがいなくなったことが分かったのは、朝になって皆が登校してからだった。

 発端は、アヤネがセリカをいつものように迎えに行ったことから始まる。部屋には誰もおらず、それどころか鞄もない。帰宅していないようだった。おまけに電話も出ないと来れば、何かがあったことは明白だった。

 

「まさか、昨日の夜に……」

 

 シロコが苦虫を噛み潰したような表情で呟く。スネークは総合的に考えて、それがアビドスに敵対する者達による工作であると断定する。耳元でオタコンも同じような事を言い、すぐに調査にかかった。

 

 だが、不意にエイハブが動いた。

 

「俺が行く」

 

 まるでいつもの無口さが嘘だと言わんばかりに、衝動的に動こうとしているのが声色から分かった。

 

「待てエイハブ、どこに行くつもりだ」

 

 スネークが後ろから彼の肩を掴んで制する。

 

「まずは情報を集める事が先だ」

「……」

 

 ゆっくりと、彼は振り返った。

 

 その瞳は、燃えていた。

 

 本当に燃えているのではない。

 何か、強い怒りに燃えている。まるで地獄の外から来たような、そんな錯覚を味わってあのスネークが息を呑みかけた。

 それをぐっと堪えて、スネークは対峙する。

 

「不用意に混乱を招くな。わかるな?」

「……ああ」

 

 エイハブの瞳から炎が消える。いや、ただ見えなくなっただけで、その炎は燃えているに違いなかった。

 スネークはポケットから、あの古びた端末を取り出してみせた。それを見たエイハブは、目を見開く。

 

「これを。お前にやる」

「……なぜこれを」

連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)に置いてあったものだ。俺以外の先生が現れた時に、渡すつもりだった。……お前に託す」

 

 生身の右手で、エイハブはそれを受け取る。どうやらその端末の事を知っているようだった。

 感慨深いといった様子で手にすると、エイハブはサイドボタンを押す。すると端末が起動した。ホログラムが浮かび上がる。

 

『ホログラムだって……? あんなに古いものが?』

 

 オタコンが驚いた様子で言った。

 一頻りホログラムの画面を見るエイハブだったが、ふとホシノが言った。

 

「デイヴィッド先生、何か手はあるの?」

「ああ。……オタコン、どうだ?」

 

 シッテムの箱を取り出し、彼女達にも聞こえるようにスピーカーモードをオンにする。

 

『待ってくれ……いた、アビドスの郊外だ!』

「一体どうやって……!」

 

 アヤネが尋ねれば、オタコンは淡々と答えた。

 

連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)のセントラルネットワークにアクセスした。衛星情報や監視カメラの情報をリアルタイムで掌握できる。ここは以前にカタカタヘルメット団の出入りがあった場所だ』

「……先生のお友達でしょうか?」

 

 オタコンの声に反応したノノミが言う。スネークは、親友だ、とだけ答えたが、エイハブは少し動揺しているようだった。

 

『エイハブ、君の端末にも情報を共有する。いいね?』

「お前は……いや、頼む」

 

 複雑な顔をしていた。それに、スネークの事も見ていた。だが今はそれを気にしている暇はない。エイハブは端末の背面から片耳のイヤホンを取り出すと、それを耳にかける。有線のようだった。

 

「シロコ、武器をくれ。俺が行く」

「私も行く」

「相手は人質を取ってる。無理に刺激はできない」

「それでも、私には。私たちには行く権利がある。助ける権利がある」

 

 エイハブは黙る。黙って、シロコの強い瞳を見つめた。

 

「……分かった。だが車両がいる。それも速いのじゃなきゃダメだ」

「待ってください!」

 

 不意にアヤネが手を上げた。眼鏡をキラリと輝かせ、彼女は言う。

 

「それなら、あれを使いましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セリカは目を覚ましてすぐに、自分が置かれている状況を理解した。真っ暗な部屋はトラックの荷台だろう。

 砂漠の上を走るせいで激しく揺れる荷台で、彼女は迫る死を考える。このまま自分も、砂漠に埋められてしまうのだろうか。

 

 人生を振り返れば、理不尽なことばかりだった。

 入学したアビドスは借金に塗れ、来る日も来る日もヘルメット団と戦い、バイトをする日々。確かに関わる人たちは良かったが、それで一体何を得たのだろうか。

 

 けれど、それでも楽しかった。困難が、彼女達を団結させた。

 また、学校のみんなに会いたいと、強く願う。いつのまにかその中に、エイハブがいることに気付かず。

 

 不意に、トラックが大きく揺れた。次いで爆音。

 

「な、なに!?」

 

 セリカは困惑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四輪バギー。キヴォトスではPMCでも使われている車両。一台のバギーが砂漠を駆ける。

 乗っているのはもちろん、アビドス高等学校の面々とスネークだ。

 ドローンが空対地ミサイルを放ちヘルメット団の車列の先頭を破壊すれば、ハンドルを握るエイハブは叫ぶ。

 

「掴まれッ!」

 

 アクセルを踏み込み、荒々しくも迎撃してくるヘルメット団達の猛攻を避ける。

 

「エイハブ、こっちは荷台に乗ってるんだ! もう少しどうにかならないか!」

 

 シロコと応戦するスネークが叫ぶ。だがエイハブは何も返さず、アフガン仕込みのドライブテクで弾丸を避ける。

 ちなみにスネークは本来射撃をする予定ではなかった。いくら死なないと言っても相手は子供だ。引き金を引くのは躊躇われる。けれど、ここに至っては別だ。相手は組織化され、そして人質を取っている。死なない程度にお仕置きしなければならない。

 

「シロコ、GO!」

 

 ドリフトして停止するとエイハブが命令を出す。シロコは従順にそれに従い、敵中に走る。その素早さはサイボーグを彷彿とさせる。

 

「シロコちゃんだけに任せてられないね〜!」

「私も行きます!」

 

 ホシノとノノミも続けて戦地へ赴く。

 

「アヤネ、指示を頼む」

「は、はい! お気をつけて!」

「待てエイハブ、お前も行くのか!」

 

 スネークの問いに、エイハブは口の片方の口角を少しだけ上げてみせた。

 

「お前は行かないのか?」

 

 そう問えば、すぐに彼は走り出す。砂漠だと言うのに、まるでアスリートのような速度だ。

 

「アロナ、ドローンの操作は任せた。オタコン、逐次情報をくれ」

 

 バギーを降り、ため息混じりにスネークは言った。

 




本章のイメージになります。エイハブもこんな感じです。ちなみにデフォルトに近いです。

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