蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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出てくる銃器は時代背景や設定を踏まえて実銃にしています。


白鯨 7

 

 

 

 

 エイハブとシロコのコンビは、それはもう戦場を駆ける風のように素早かった。

 一発でも当たりどころが悪ければ死んでしまうはずのエイハブは、飛んでくる銃弾を意にも介さず走り、シロコもまた彼に追従するように走って撃つを繰り返す。

 時折エイハブは砂漠の稜線に飛び込み、銃弾をやり過ごすと匍匐で位置を変え、必要最小限だけ身体を乗り出して射撃する。古いM16が火を噴くと、ヘルメット団達をノックアウトした。

 

 そんな彼らから遅れ気味に、スネークは砂漠を駆ける。別に彼が特段遅いわけじゃない。むしろ若返った彼の走力はそんじょそこらの傭兵よりも素早いものだ。けれどそれを考慮しても、エイハブの走りは異常だった。

 

「随分と砂漠慣れしてる」

 

 ノノミのミニガンによる掃射で破壊された車両に身を隠し、飛び出す機会を窺う。

 

『砂漠慣れ、ですか?』

「ああ。砂漠の砂ってのは歩くだけでも足を取られやすい。数日そこらで慣れるもんじゃないんだ。あの男……どこの戦場で戦っていた?」

 

 元の世界。戦場は確かにありふれた日常と化していたが、エイハブが居たのはもっと前のことだろう。渡されたM16を難なく使い熟すのを見ると、60年代中盤以降か。そうなると、おのずと答えは見えてきそうだが。

 そんな思考を一旦砂に預け、彼は射撃が止んだ隙に飛び出す。ヘルメット団もまさかただの人間が戦場にいるなんて思っても居ないんだろう。容赦無く弾丸を、男二人に対しても放ってきていた。

 だが不本意ながらも、その生命の危機にどこか潤いを感じてしまう自分がいる。年老いて、戦場から離れ、幸せな余生を過ごしたことこそ人間らしさのはずではなかったのか。けれどスネークは今、若さの代償に、在りし日の生き方を思い出してしまっていた。

 

「フゥ、フゥ……!」

 

 駆ける。駆ける。借りた素のままのM4を手に、ひたすら駆ける。すると、先行していたエイハブ達は既にセリカが囚われていると思われるトラックに取り付いていた。周辺のヘルメット団達は、ほとんどやられている。

 不意に、トラックの物陰からヘルメット団の幹部が飛び出してきた。

 

「エイハブ!」

 

 スネークはすぐに援護しようと銃を構えるが、射線上にはエイハブが居て引き金を引くことはできない。

 一瞬の焦り。けれど、エイハブは目の前の状況に容易く対処する。

 向けられたライフルの銃口を義手で払うと、右手のジャブで相手を牽制。すかさず義手でライフルを掴んで、右手でストック部分を掴んで回せばあっという間に武装を奪ってみせた。

 

「えっ!?」

 

 一瞬の出来事に驚くヘルメット団。それはスネークも同じことだった。

 完璧なトリプルタップで胸と頭を撃たれて気絶するヘルメット団。エイハブの完璧なまでの動きに、見覚えがある。あれはCQC、近接戦闘術だ。

 封印された技術。犯罪者の技術。そして何より、親から子へと流れたミーム。それを、あの男は息をするようにやってのけた。

 

 確かに、ビッグボスの情報はガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件の一年前ほどから公開されてはいた。戦争犯罪者は一転して英雄となり、その過程でCQCの存在も明るみになったから、使える者がいてもおかしくはない。

 だがエイハブは、古い人間だ。そんな人間がCQCを会得できるとすれば、限られていた。即ち、旧時代のFOX HOUNDか──アウターヘブン。ザンジバーランドという線もあるだろう。だがスネークは彼を知らない。どちらにせよ、碌でもないことは確かだった。

 

『あれは……CQC?』

「間違いない」

 

 彼は、自分が知る前の父親(ビッグボス)と何らかの交流があったのだろうか。

 

 

 

 

 

 トラックのコンテナを開ける。

 そこには積荷と一緒に、拘束されたセリカが転がっていた。その目には涙が浮かんでいて、かなり怖い思いをしていた事が想像できる。

 

「泣き顔のセリカ発見」

「そっちの方がよっぽど可愛らしいぞ」

 

 シロコが淡々と言えば、思わずエイハブも軽口を叩いた。

 

「な、泣いてない! それにかか、かわいいって何よ!」

「話は後だ、ここから逃げるぞ」

 

 ベルトの背面からナイフを取り出すと、エイハブはセリカを拘束していたロープを切る。しかしまぁ、こういった汚れ仕事はヘルメット団も初めてだったのだろう。縛り方も雑だし、セリカのライフル(シンシアリティ)がすぐそばで転がっている。それを彼女に渡す。

 

「無事か、セリカ」

 

 今になってようやくスネークも彼らと合流を果たした。その姿を見てセリカは驚く。

 

「デイヴィッド先生まで!?」

「俺は先生だからな。泣いてる生徒を放っておくわけにはいかないだろう」

「だ、だから泣いてないし!」

「それだけ元気なら大丈夫そうだ。行くぞ」

 

 全員がコンテナから出ると、ホシノ達もそれを確認したのか嬉しそうに各々セリカに言葉を贈る。

 だが、そう喜んでいられる状況でもなかった。襲撃を知ったヘルメット団の本部が増援を寄越してきたのだ。

 

『東から装甲車です!』

 

 アヤネがそう警告した途端、装甲車……BMPの100mmガンがトラックを粉砕した。仲間ごと撃ち抜こうとするあたり、やはり寄せ集めなのだろう。

 衝撃に砂の上を転がると、スネーク達は隠れて応戦する。だがこちらの対戦車火器はドローンの空対地ミサイルのみ。それも、最初の襲撃で尽きていた。

 

『スネーク、確認できるだけで装甲車が5台はいる! 早くそこから離れるんだ!』

 

 オタコンが焦るように言う。そうは言っても、バギーまでは距離がある。おまけに陽動を買ってくれたホシノ達が散らばっているせいで、回収にも時間がかかるだろう。

 

「ここでどうにかするしかない」

 

 エイハブが睨みつけるように装甲車を確認する。

 

「でも、どうやって……!」

 

 セリカが問えば、しかし名案は出てこない。かなりまずい状況だった。

 キヴォトスの住人である彼女達はともかくとして、スネークやエイハブは装甲車の同軸連装銃に撃たれただけで一巻の終わりだ。爆薬も持ってきてはいない。

 

『わわわ!』

「アヤネ!」

 

 おまけに乗ってきたバギーが主砲で破壊された。幸いアヤネは無事のようだが、とうとう退路は断たれてしまった。ヘルメット団達が護送に使っていた車両も、ほとんどは破壊してしまったし、仮に今から乗り込んでも下手をすれば追撃されてやられるのは目に見えていた。

 

『……』

 

 ザザッと、エイハブのイヤホンにノイズが走る。初めは誰かが通信しようとしているのかと思った。だが皆が皆、手持ちの火器で応戦しているのを見るとそうではないようだった。

 エイハブはイヤホンに耳を当て、ノイズ混じりのそれを聞く。

 

『……ボス。聞こえるか』

「お前は……」

 

 間違えるはずもなかった。何年も一緒に居たのだ。まだMSFを立ち上げる前から、その特徴的な声を聞いていた。

 MSFで一緒だった時も、そしてその後も。何ならその後の方がより一層、彼の声を聞いていた。副司令として、影である自分を支えてくれた。

 

 エイハブの胸には、その懐かしい声に込み上げてくるものがあった。

 

「カズか? 今どこにいる?」

『……話は後だ。まずは敵の装甲車を蹴散らすのが先だ』

 

 感動的な再会でないにせよ、それをするには火力がまるで足りなかった。

 

「何か策でもあるのか?」

「おいエイハブ、誰と話してる?」

 

 スネークが尋ねれば、エイハブは手のひらを向けて彼を制する。

 

『すぐに分かる。そのために、あの子らを呼んだんだ』

「あの子ら?」

 

 言っている意味がわからない。だがすぐに、スネークの方でも異常があった。

 

『スネーク! 装甲車が!』

「それは分かってる!」

『違うんだ、アビドスの装甲車が反対側から!』

 

 ハッとした。次の瞬間、皆の無線越しに射撃号令が聞こえてきた。

 

『12時装甲車! 砲手、徹甲! 撃て!』

 

 装甲車とは反対方向から発射音が響く。するとヘルメット団の装甲車が一台火を噴いた。

 エイハブだけじゃない、ホシノ達も振り返り、その砲撃を確認する。稜線から現れた命の恩人は、新生アビドスの装甲車。つい先日、エイハブ達が入学させた(攫った)生徒達だった。

 

『ボス、エイハブ! 御無事で!』

 

 学校を襲撃し、エイハブの腕を撃った元ヘルメット団の少女が通信してくる。

 

「みんな……!」

 

 ホシノはその光景に、何とも言えない感情を抱いていた。たった五人だけしかいなかったアビドス高等学校。五人だけで、いつ終わるかも分からない戦いに挑んでいた。けれど今、こうして戦況を覆すほどの装甲車と生徒達が、彼女達を救おうと命を懸けている。

 けれどホシノはその感情を表には出さなかった。いつものように役割を演じるだけだ。

 

「……みんな〜、どうしたの? 今日はお休みだったのに〜」

『怪しい男からボス達がピンチと連絡を受けました! どうやら間に合ったみたいですね!』

 

 その通信を聞いていたエイハブは思わず笑った。

 

「カズ、一体何を言ったんだ?」

『別に……いや、本当だ。おかしなことは……言って、ないよな……? と、とにかく! ボス、今は彼女達と敵を排除してくれ!』

「いや」

『ボス?』

 

 エイハブは鼻で少し笑うと言う。

 

「排除じゃない。俺たちは殺しはもうしない」

『……そうだ。俺たちはもう、戦争の犬じゃない』

 

 聞きたいことは山ほどある。だが今は、やるべきことをやるだけだ。エイハブはBTRから出撃するアビドス生徒達と駆けていく。

 

「シロコ、GO!」

「ん、背中は任せて!」

「ちょっと! 置いてかないでよ!」

 

 その姿は、まさに戦場そのものだった。途端にスネークは彼らが羨ましく思えた。孤独な戦場、オタコンや数少ない仲間の他は誰も信用できない戦場で、あれほど輝いているのが羨ましく見えたのだ。

 

『スネーク、聞こえるか?』

 

 ふと、なんだか懐かしい声がスネークの耳に響いた。

 

「誰だ?」

『スネーク、サバイバル教官の声を忘れたか?』

「……まさか、マスター!?」

 

 驚きだった。何せ彼が言うマスターとは、FOX HOUNDでサバイバル教官をしていたマクドネル・ミラーだ。彼はシャドーモセスの時にリキッドによって殺されたはずだ。

 

「なぜ生きてるんだ!」

『後で話そう。おい、エメリッヒ……と呼ぶのは、なんだか癪に障る。ハルだったか?』

 

 突然知るはずもないオタコンの名前を呼ぶマスターミラー。思わず画面越しにいる彼は驚いてしまう。

 

『ど、どうして僕の名前を……』

『後で話すと……まぁいい。俺はミラーだ。生憎iDROIDはバージョンアップが済んでいないんだ。お前のシッテムの箱と連動させてもらうぞ。いいな?』

 

 そこで全てが繋がった。iDROIDとは、エイハブの持つ端末だ。つまり、今のマスターはアロナと同じくAIのようなものだ。だからオタコンの事を認識できるし会話もできる。

 マスターが勝手にシッテムの箱と連動すると、周辺の地形や正確な情報がiDROIDに流れ込む。

 

『ボス! 敵は更に戦車も動員しているようだ。数分後にはこちらに到着する』

「カズ、武器は送れるか?」

『問題ない。端末から好きなのを選んでくれ』

 

 下車したヘルメット団相手に射撃をしていたエイハブは、身を隠して端末を開く。ホログラムに映るのは懐かしい映像だった。

 開発品を見てみれば、グレードは低いがあの頃(MGSⅤ)に開発したものがリストアップされている。その中の一品を見て思わずエイハブはほくそ笑んだ。

 彼はその中からいくつかを選択すると、投下位置を決定する。

 

『了解、クラフトチェンバー!』

 

 いくらか若返ったような声色のカズが叫ぶと、頭上にワームホールが開く。この光景も懐かしい。今思えば、このワームホールはどういう原理なのだろうか。

 ワームホールから出てきた大きな段ボール箱……シロコは目を疑う。

 

「は、箱……?」

「フン!」

 

 エイハブはその中に入り込むと、ゴソゴソと何かをしだした。

 

「ダンボール……! 良い大きさだ!」

 

 それを間近に見ていたスネークも、完成されたサイズと形のダンボールに興奮する。

 パカっと開いた段ボールから、エイハブが出てくる。それも、いつものスーツパンツとワイシャツではない。ダイアモンド・ドッグズ製のバトルドレス。背中にはカールグスタフ無反動砲、左脇には密着するように装備されたコルトコマンドー、右大腿部には拳銃の傑作であるM1911。それは彼の正装のようなものだった。

 

「エイハブ先生……かっこいい……!」

 

 シロコが思わず射撃を止めるほど感心している。満を持して、在るべき姿になった男は言い放つ。

 

「待たせたな……!」

「俺の台詞……」

 

 スネークはちょっとしょんぼりした。

 

 




エイハブ完全体
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