蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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今次章の予告を作ってます。


白鯨 11

 

 

 皆は忘れているかもしれないが、キヴォトスにおける先生というのはいくつか異なる意味を持つ。

 一つは教育者としての、文字通り少女達の導き手たる先生という意味。まともな学校教育など受けたことがないスネークだが、幼少期からその高い知能指数を生かすかのように、戦い以外においても様々なことを学んできた。特に言語スキルにおいては6ヶ国語を話せるため、教員としてうってつけだろう。アビドスでは主に日本語と英語を受け持っていた。

 

 そしてもう一つの意味。それは指揮官という意味。戦う少女達を導く、指導者としての先生だ。

 

 

「ノノミ、前方に弾幕を張れ。シロコとセリカは交互に躍進しながら右方向から肉薄しろ、互いの移動間にはカバーし合うんだ」

 

 シッテムの箱を起動しながら、ナノマシン通信で指揮をする。便利なものだ、彼女達が発見した相手ならばリアルタイムでタブレットに反映される。理屈は分からないが、まるでSOPシステムのようだ。

 大の男が破壊された装甲車の後ろでコソコソやっているのは何とも言えない心地悪さがあるが、仕方がない。できることをやるしかないのだ。

 

 

 ノノミのミニガンが重厚感ある音と共に弾丸の雨を降らす。一分間に3000発以上ものライフル弾を発射できるそれは、本来ならば車載や航空機搭載用として使用されるものだ。

 

「一気にやっつけちゃいますよ〜!」

 

 相変わらずのほほんとしたような声でえげつない攻撃をするノノミ。圧倒的制圧射撃の最中、シロコとセリカが家屋の屋根に飛び乗って移動する。

 

「カバーするわよ!」

「ん、お願い」

 

 セリカが援護射撃をすると、シロコが次の家屋の屋根へと跳躍する。

 

「まるでカエルだ」

『あれを純粋な筋力でやっているんだとしたら……彼女達とは仲良くしないとね、スネーク』

「これでもちゃんと先生をしているつもりなんだがな、オタコン?」

『でも君、連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)の仕事をユウカやミレニアムの生徒に押し付けちゃってるからね?』

「今思い出すべきことじゃなかったな……」

 

 あの口煩いユウカのことだ、戻れば何をされるか分かった物じゃない。それを考えるだけで胃が痛くなるが、今は切り替えなくては。

 

 シロコが敵部隊に突撃すると、周囲の傭兵を物ともせずにCQCを仕掛ける。

 一番近くにいた傭兵の少女が銃口で彼女を突こうとするも、あっさりとそれを受け流して相手のバランスを崩す。そのままラリアットのように腕を相手の首へと叩き込む。

 

「うぎゃ!」

 

 一回転して倒れる傭兵の一人。シロコは愛銃のSG550(WHITE FANG 465)を脇に抱えるように保持すると、連続CQCへと移る。

 近くにいた別の傭兵の小銃を、テコの原理で奪い取り、相手の足をかけながら銃口で胸を小突く。ぐるりとバレリーナのように回転すると、彼女の脚……膝裏が仰向けに倒れた傭兵の首を捕らえた。

 太ももと脹脛に圧迫され、傭兵は呼吸ができなくなる。シロコは奪った小銃で他の傭兵達を射撃すると、締める脚に力を込めて締め落とす。奇しくもそれは東欧でスネークがレジスタンスにやってみせたCQCと同じだった。

 

『彼女達、随分とCQCを使いこなしているようだね』

「エイハブの部活動とやらの成果だろうな。まったく……」

 

 たった数日。アビドスにおいてCQCは特別なものではなくなってしまった。エイハブに憧れた少女達は、皆がこぞってCQCを習い始め、今では暇な時にあちこちでCQCの真似事をしている。

 何度かスネークも、相変わらずエイハブ以外の大人を嫌う元ヘルメット団達に絡まれたものだ。お返しとばかりに少し稽古をつけてやったら絡まれなくなったが。

 

 シロコの突撃に合わせセリカが跳躍する。

 廃家屋の屋根に着地しながら、まるでスケートのように滑るとまた跳躍してシロコの真横に着地した。

 

「これであとはあんた達だけよ、便利屋68!」

 

 あっという間に二人は周囲の傭兵達を殲滅してみせた。だがそんな二人に対してもムツキとハルカは戦意を崩さない。

 

「やるじゃん……ならこっちも、手加減しなくて済むよねぇ!」

「死んで……死んでください……! アル様の邪魔をする奴は死んでください……!」

 

 こうなると、スネークの指揮はあまり役に立たなくなる。集団戦においては彼のプランした戦術は役に立つだろう。だが、俗にいうタイマンのような形では本人達の戦闘力がものをいう。それはいつの時代も同じだ。

 

「3対2……不利なのは貴女達」

「それはどうかな? さぁ、来なよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルは容赦無くエイハブに向けて引き金を引く。ヘイローの有無は問題ではない。ただ全力で挑まなければ勝てないのだと分かれば、彼女は自身の中のリミッターを解除したのだ。

 片手で保持されるPSG-1の射撃は、かなり正確だ。エイハブは横へと飛び、その射撃を回避する。

 

『スナイパーライフルを片手で撃つとは……それにあの精度。ボス、あまり彼女達を見くびらない方が良い。地の利を活かしてホシノを援護するんだ』

 

 いつものようにイヤホン越しでカズが助言をする。

 そんな事は分かっている。舐めて挑むつもりは最初からない。戦場で敵と対する時、ヴェノム・スネークと呼ばれた男は容赦するはずがない。

 戦場における神罰。戦場を駆ける毒。全てを喰らい尽くす蛇。それが彼だった。

 屋上に隠れながら匍匐で小移動し、自身の左腕を確かめる。いつもの赤い義手ではない。

 

「ホシノ、少しだけ二人を引きつけてくれ」

『了解』

 

 プレストークボタンを押してホシノと通信すると、彼女は短く了承した。

 ホシノは至近距離のカヨコと徹底して格闘戦をしている。そうすればアルは誤射を恐れて中々攻撃できないし、いくらカヨコが近接戦闘を得意としていても、ホシノにはエイハブ直伝のCQCがある。負けないという絶対的な自信が彼女にはあった。

 

「っ!」

 

 カヨコが地面を蹴り、接近してくるホシノへと砂を巻き上げる。これには流石のホシノも視界を奪われ怯んでしまう。

 すぐにキヴォトスの少女特有の身体能力でホシノの左側面へと回るが、ホシノはそれを予期していた。

 飛びかかるようにカヨコは右フックを叩き込もうとしたが、咄嗟にホシノの左腕がフックをブロックし、右手が首元へと伸びた。

 

「せぃっ!」

「ッ!?」

 

 カヨコの飛びかかりの勢いを殺す事なく、ホシノは背負い投げを敢行する。だが投げられた瞬間に猫のように身を翻し、カヨコは難なく地面へと着地してみせた。

 

「社長!」

 

 カヨコが仲間の名前を叫べばアルが狙撃銃をホシノへと向け、発砲する。それを、ホシノは神速とも呼べる速度で盾を展開し防いで見せた。

 

「先生、これでいい?」

『十分だ』

 

 二人の意識がホシノへと向いている。それをエイハブは逃さなかった。

 エイハブは屋上から義手を構える。狙うのはアルの方だ。ロックオンが完了した警告音が鳴ると、エイハブは唱える。

 

「はいだらぁーッ!」

 

 意味をなさないその言葉は、引き金である。

 瞬間、義手が作動するとアルの身体を強制的に移動させる。それはまるで瞬間移動。彼女はいつの間にかエイハブの目の前にいた。

 

「え!?」

 

 何が起きたのか分からない様子のアルへと、エイハブの手が伸びる。

 彼女の腕を取ると、一気に床へと直投げする。鈍い音がしてアルが白目を剥きながら倒れた。

 

「へぶッ!?」

 

 だがキヴォトスの少女達はタフだし、アルはこう見えてもかなりの実力者だ。ダメージこそ負っただろうが、気絶はしなかった。

 エイハブは彼女からてくてく歩いて離れると、アルが立ち上がるのを待つ。

 

「え、ちょ、社長ッ!?」

「よそ見はだめだよ〜」

 

 アルが連れ去られた一瞬の隙を突かれ、ホシノのショットガンが火を噴く。スラッグ弾がカヨコの腹部を強打し、思わず彼女は倒れ込んだ。

 

 仲間の窮地に、けれどアルは混乱した。なぜこの男はこれほど余裕があるのだろうか。自分に背中まで見せて、一体この男は何がしたいのだろうか。

 立ち上がり、自分の顔を叩いて気合いを入れ直す。一対一になった。カヨコもダメージを負ったが、まだやられてはいない。なら、今は目の前の男に集中すべきだ。

 

「バカにして……」

 

 エイハブはこちらに向き直ると、アサルトライフルを右手で保持する。

 

「さぁ、サシで稽古をつけてやる」

「そう……それは、頼もしいわね!」

 

 ならばこちらも全力で行くまでだ。

 アルは狙撃銃を構える。

 

「便利屋さん、こっちも再開しようか」

 

 柴関ラーメンで出会った時のような昼行燈さは微塵も感じられない。冷徹な兵士。それが今のホシノだった。

 カヨコは拳銃を連発すると、左手で隠し持っていた手榴弾を投げる。ホシノはその瞬間、盾を展開した。爆風と破片を盾で防ぐつもりだろう。そしてそれこそがカヨコの目論見。

 

 ホシノの盾の直前で爆ぜた手榴弾。爆風が粉塵を巻き上げ、細かい弾核が盾を襲う。

 カヨコはその隙に、真上に跳躍して急襲を仕掛けた。防御体勢のホシノを攻撃するのだ。

 

「っ!」

 

 だが、ホシノはそこにはいない。あるのは盾だけだ。

 盾の裏に着地すると、カヨコは周囲を見渡す。だが粉塵と砂塵が巻き上がっているせいで何も見えない。迂闊だった。

 

 ドンッ、と銃声が響く。彼女の脇腹にスラッグ弾が突き刺さる。

 

「うぎッ……!?」

 

 弾が飛んできた方へと拳銃を放つ。だがその反対方向からまたスラッグ弾が飛んできて、カヨコの肩を殴るように痛めつけた。

 ホシノはこの砂塵を利用して駆け回り、奇襲している。さっき傭兵達を倒した時と同じだ。

 

 カヨコは周辺にとにかく拳銃を撃ち込むが、効果は無い。そもそも拳銃の攻撃力では、いくらJHP弾であろうとも神秘の強いホシノに重大なダメージは与えられないだろう。

 不意に背後から音がした。振り向こうとした時にはもう遅い。

 

 カヨコの背中に掌底が突き刺さる。まるでジャブのようなそれは、しかしメインではない。

 次にローキック。カヨコの膝が痛みで軋む。

 

 怯む彼女の肩を、ホシノは掴んで振り向かせる。

 視界に入ってきた光景は、ホシノが振り向いたカヨコに向けてアッパーを放とうとしている姿だった。

 

「ふんッ!」

「うごッ」

 

 強烈なアッパーを喰らったカヨコがそのまますっ飛んで倒れる。

 仰向けに倒れると、彼女はそのまま動かなくなった。気絶したようだ。

 ホシノは制服に着いた砂を払うと、屋上を見上げる。状況は分からないが、銃声とアルの怒号がひっきりなしに響いていることから賑やかなことになっているようだ。

 

「ふぅ……せーんせ、かっこいいとこ見せてよね」

 

 またホシノの表情がいつものように和やかなものに戻る。屋上での戦いは、熾烈を極めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セリカの腕をハルカが払いのける。すぐにネガティブな瞳でツインテールの少女を捉えると、片腕でショットガンを放つ。

 

「あぶなっ……!」

 

 まるで竜の息吹のように燃える散弾(ドラゴンブレス)を、身を翻して回避する。セリカはそのまま回転しながらしゃがむと、足払いをしてハルカを転倒させる。

 

「わっ!」

 

 こてん、とお尻から転ぶハルカに、至近距離からシンシアリティ(AR70/223)を叩き込もうとする。だが、あらぬ方向から薙ぎ払うように軽機関銃を撃ち込まれてセリカは後退を余儀なくされた。

 ハルカを助けたムツキが、ぺたんと可愛らしく座る彼女の手を取って立ち上がらせる。

 

「だいじょーぶハルカちゃん?」

「すすすすすみませんすみません転ばされてすみません」

 

 徹底的に謝るハルカ。セリカとシロコは隣に並ぶと、銃を構える。

 

「強い……! ヘルメット団の傭兵とは大違い!」

「ん……でも私達にはデイヴィッド先生がいる。それに……」

 

 何か、大きな物音がする。

 ギギギ、という歪な金属音。ムツキとハルカがそれに気付き、驚く。

 そこには軽自動車を持ち上げて今にも投げようとしているノノミの姿があった。

 

「いっきますよ〜!!!!!!」

 

 笑顔で軽自動車を投げる。まるでボールのように投げられたそれを、ノノミはすぐにミニガンで蜂の巣にして、便利屋の近くで爆発炎上させた。

 その爆発で二人はすっ飛んで行く。

 

「めちゃくちゃだな……」

『ユウカもあれくらいできるのかな……ゾッとするよ』

連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)に帰りたくなくなってきた……」

『あはは……骨は拾うさ』

 

 まるで死刑宣告のようだ。

 ムツキとハルカは咽せながら立ち上がる。

 

「けほっけほ……あっはは、ほんと無茶するねぇ……」

 

 ふと、ムツキは時計を見る。針は既に夕方の5時を示そうとしていた。そろそろ限界だろう。

 ムツキはにぃっと笑うと、肩にかけていたポーチからありったけの爆薬を取り出す。

 

「っ! 何をするつもり?」

 

 シロコがそれに気がつき問いかける。

 

「時間切れって感じ? 楽しかったよ、アビドスのみんな」

 

 イタズラをする子供のように笑うと、彼女はピンを抜いて爆薬を投げる。そしてすぐに反転してハルカと駆け出した。

 

「ばいばーい!」

「やっば……!」

 

 転がって来る爆薬から、セリカとシロコは走って逃げる。コロリと手榴弾がスネークの足元にも転がってきた。これはまずい。

 

「うぉおおおお!」

『防御壁を展開します!』

 

 V40手榴弾。サイズは小さいが携帯性に長けた手榴弾だ。それが、走り出したスネークの背後で爆ぜる。

 破片が当たらなかったのは奇跡だろう。だが少なからず爆風が彼を襲い、スネークは地面に転がった。

 

『スネーク!? 大丈夫かい!?』

「ぐ……あいつら、やってくれたな……!」

 

 持ち前のタフネスで立ち上がる。近くで手榴弾が爆発したのに大した怪我も無い。どうやらアロナが守ってくれたようだ。あんな小さな子に守られるとは、伝説の傭兵が聞いて呆れるな、なんて思ってしまう。

 

「先生、大丈夫ですか!?」

 

 やってきたノノミがスネークを労わる。それが酷く惨めだった。

 

「ああ、ああ、俺はいい。シロコとセリカは?」

「ん、大丈夫。危ない所だった」

「あいつらほんと何なのよ……」

 

 疲れたように文句を言うセリカ。

 セリカが言うように、なぜ彼女達は逃げたのだろう。如何に劣勢とはいえ、まだ二人は戦えたはずだ。

 

「オタコン、ムツキとハルカが逃げた」

『ドローンで追ってるよ』

「エイハブ達はどうしてる?」

 

 そう尋ねると、オタコンがシッテムの箱にドローンからの映像を映す。どうやら別の機体のようだ。

 映像では、エイハブとアルが校舎の屋上で戦っている。無茶なものだ。

 

「俺達も校舎に戻る。三人も着いてきてくれ」

「ん、もちろん。先生を一人にはできない」

 

 シロコの優しさに、スネークは何度目かも分からない気力の減少を感じた。




カヨコ好きな人ごめんなさい、でも僕もASMR聞いて3分で眠るくらいにはすき
メタルギア2 ソリッドスネーク、34周年おめでとう
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