蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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便利屋のみんな可愛くてすき

追記 PMC等のご指摘をいただきまして、表現を傭兵に変えました。


白鯨 12

 

 いや待て、同じだけ血を流して貰おう。後で俺のところに来い、みっちりCQCを仕込んでやる。

 

 ──メタルギアソリッドⅤ ザ・ファントムペインより、ヴェノム・スネーク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルが狙撃銃を槍のように抱き抱え、突撃してくる。それをエイハブは簡単にいなすと、ブーツで彼女の足を引っ掛けて転ばせる。

 ふぎゃ、と可愛らしい声で倒れるアルは、しかしすぐに立ち上がると再度銃を構えた。

 

 数分、いや数十分こうしているだろうか。アルの狙撃銃はとうに弾を撃ち切っていた。それもそうだ、狙撃銃の弾倉にはそう弾は入らない。至近距離ならば長銃身故に簡単に射線は見切られてしまうために回避されてしまう。

 数発の威嚇射撃の後に、アルは射撃を諦めて格闘戦に移行していた。

 

「この……!」

 

 高速ステップでエイハブに詰め寄り、銃身による斬打撃を決行する。だがあっけなく金属製の義手で受け止められ、押し込まれるように直投げされる。

 アルは仰向けに倒れながらも、後転する事で受け身を取りすぐに立ち上がる。彼女はもうボロボロだったが、それでも立ち向かう事をやめない。

 

 エイハブはそんな若き女社長に、ある種の敬意と懐かしさを抱いていた。

 野心はある。度胸もある。根性だってある。多少流されやすいようだが、別にそんなものは欠点にならない。もし欠点ならば、カヨコ達は彼女に着いて行っていないだろう。

 カリスマといえば良いだろうか。目の前の少女から、そんなものを感じていた。まるで、そう。エイハブが信じていた誰かのようなカリスマを。

 

「こんなもんじゃないだろう、アル」

 

 息を切らしてこちらに食いつくアルに檄を飛ばす。

 

「ええ、まだまだ終わらないわよ……!」

 

 楽しかった。若者と汗を流せることが、技術を与えることが楽しい。かつてビッグボスと呼ばれていた頃。セーシェルの洋上で、一からやり直している頃。エイハブは、暇があれば血気盛んな傭兵達に教練をしていたものだ。

 アルがまた迫って来る。今度は銃床打撃。まるでフックのように、狙撃銃のストックが迫る。それを、義手で受け止める。

 

「むっ……!」

 

 その時だった。アルの一撃を受け止めた義手から火花が飛び散る。赤いいつもの義手と違って、このハンド・オブ・ジェフティと呼ばれる義手は精密機械の塊だ。

 そういえば、これが開発された時に研究開発班から言われたんだったか。あんまり物理的に酷使しないでくれと。それにアルは幼く可愛らしい少女と言えども、キヴォトスの神秘を授かった者だ。むしろそんな少女相手に格闘戦で圧倒しているエイハブがおかしいのだ。

 

「やっぱり……!」

 

 そして、アルがニヤリと笑う。初めからこれを狙っていたのだろう。義手で受けざるを得ない状況を作っていたのだ。そう考えると彼女はかなりの策士である。

 

 エイハブは咄嗟に彼女から離れ、義手の状態を確認する。指先は幾度もスパークし、満足に動いてはくれない。これで繊細なCQCは不可能だろう。

 

「いいセンスだ。やるじゃないか」

 

 こういった危機は今まであまりなかった。素直に賞賛を贈る。

 

「どういたしましてッ!」

 

 アルがまた迫る。銃口で何度も突き刺してくるマズルストライク。それをエイハブは満足に動かない義手で受け流していく。だがとうとう、ポロリと義手の拳部分が取れてしまった。

 

「もらったわよ!」

 

 義手に気を取られているエイハブに、アルは回し蹴りを繰り出す。しかもエイハブから見て右側から。

 

「ぐッ!」

 

 間一髪、エイハブは右腕でそれを受け止めたが、あまりにも強烈なキックに90キロ近い彼の身体はボールのように吹き飛ぶ。

 

「ぐはぁッ!」

 

 仰向けに倒れ痛みにのたうち回る。まるで熊に突撃されたような衝撃だった。いくら若返ったとしても痛いものは痛い。我らがボスは落下にも弱いし轢かれるのにも弱い。

 

『ボス!』

 

 カズが焦ったように叫ぶ。

 

「終わりよ!」

 

 アルが跳躍し、エイハブにマウントを取ろうとする。それが戦闘でなければどれほど羨ましいか、とカズヒラ・ミラーは瞬時に思ってしまう。アルは実際、とんでもない美少女だ。

 エイハブの身体に馬乗りになる直前、彼はまるで待ち受けていたと言わんばかりに目が輝いた。

 

「フンッ!」

「え!? ちょちょちょ!」

 

 エイハブの片足が上がり、アルの腹部を押さえる。そして右腕がアルの胸倉を掴み、そのまま後方へと投げ飛ばした。巴投げだ。

 ポーンっと投げ飛ばされた彼女は、そのまま屋上から飛び出していく。

 

「お〜、飛んだねえ」

 

 下からそれを眺めていたホシノが、まるで野球の試合観戦のように感想を述べた。

 ドシャ、っとアルはカヨコの真横へと崩れ落ちる。エイハブはちょっと苦笑いして、

 

「……マズかったか?」

『ボス……いや、彼女達なら大丈夫だとは思うが……』

 

 これが普通の人間ならば死んでいただろう。エイハブは屋上の縁からアルを見下ろす。白目になってはいるが、失神しているだけのようだ。アル達の近くでホシノが手を振っていて、エイハブも口許をニヤケさせ右腕で手を振る。

 振っていて、かなり痛い。ヒビで済んでいれば良いが。

 

「カズ、後で痛み止めをくれ」

『まぁ……大人一人を吹っ飛ばす蹴りを受けたからな……やっぱり、痛いか?』

「下手に銃で撃たれるより痛む」

『鎮痛剤を用意しておく』

「デキセドリンはいらない。性欲を持て余す」

『元気そうじゃないかボス』

 

 ここにスネークがいればまたセリフを取られたとか何とかと拗ね出すに違いなかった。彼らが知る由もないが。

 

 遠くからチャイムが鳴る。もう生徒達は下校の時間だった。

 チャイムが鳴ると、その音で伸びていた傭兵達が目覚めたようだ。もとよりCQC投げ付けでの気絶の時間は短い。一時的な脳震盪程度だからだ。

 エイハブは小銃を右手で握ろうとして、痛みに顔を顰めた。これで銃撃戦は難しい。

 

 だが傭兵達はチャイムが鳴り響いているのを聞いて、まるで興味がなくなったとばかりに帰り出す。

 

「あれ、帰っちゃうの?」

 

 臨戦態勢だったホシノが近くの傭兵に尋ねる。

 

「もう契約時間外なんで。これでも値切られちゃってるんですよ。これ以上戦うなら残業代貰わないと」

「うへへ……大変だね。気をつけて帰ってね〜」

 

 ホシノが手を振ると、先程まで敵対していた傭兵の少女達も手を振って帰って行く。それを見て、エイハブはカズと笑うと、痛む右手を動かしてファントムシガーを咥えた。

 と、そんな場所へとムツキとハルカがやって来る。

 

「あっちゃ〜、アルちゃん負けちゃったか〜」

「ああああアル様! しっかりしてください!」

 

 ハルカがわちゃわちゃと焦って伸びているアルを揺らす。ぐわんぐわんと彼女の頭が揺れていた。

 ムツキ達を追うようにシロコ達もやって来る。流石に便利屋は分が悪いだろう。

 

「どうする。まだ続けるか?」

 

 屋上からエイハブが投げ掛けると、アルが丁度目覚めたようだ。あれだけの高さから落ちてすぐに目覚めるとは、本当にタフな少女だ。

 

「アルちゃんどうする? 雇った子達、みんな帰っちゃったよ?」

「いつつ……社長、流石に不利だよこれは」

 

 気が付けば、元ヘルメット団の新生アビドス生徒達も彼女達を取り囲んでいた。

 

「今帰るなら見逃そう。お前達も、ここでもう一戦やるのは本意じゃないだろう」

 

 デイヴィッドが若干息を切らしながらやって来てそう提案した。

 

『ボス、どうする? このまま逃せば奴らのクライアントが……』

「いや、いい。無理に吐かせる必要はないさ。エメリッヒ……オタコンがその辺り、どうにかするだろう」

 

 カズヒラはボスに任せる、とだけ言う。もう戦いは終わったも同然だ。

 アルは悔しそうに目をてんやわんやさせると、エイハブとホシノを交互に指差して叫んだ。

 

「おおおおお、覚えてなさい〜!」

「アルちゃん三流の悪党みたいなこと言ってる〜!」

「さ、三流!? 私達は一流のアウトロー……いや、帰るわよ!」

 

 スタコラサッサと、彼女達はヘルメット団傭兵達を追うように逃げて行く。それを見てホシノは気の抜けた笑顔で笑った。

 他の廃校対策委員会のメンバー達も、戦闘が終わったことでホッと脱力している。

 

 不意に、ホシノは屋上を見上げた。

 エイハブは一人、屋上であの電子葉巻を吸っている。夕日を背にした彼は、ホシノの心を奪う。

 惚れているとか、そういうものじゃない。ただ、彼の姿がホシノを離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。依頼失敗の報告を見て、カイザーPMC理事は溜息混じりに報告書のタブを消す。カチリ、というマウスの音が虚しく響いた。

 彼は高級そうな椅子に深々と座ると、葉巻を机の引き出しから一本取り出す。専用の鋏を懐から出し、チョキンと先端を切り、次に吸い口も作る。

 愛用の金色のガスライターで、ゆっくりと火をつけると濃厚な煙が立ち上がる。そして吸い口を、顔面部の口部分に近付けると吸い込んだ。

 

 どこから吸っているのかは分からないが、彼の口部分から副流煙が立ち込める。

 

「……格下のチンピラ如きではあの程度が限界か」

 

 便利屋68。腕の立つ集団と聞いていたが、送られて来たのは失敗の謝罪文。

 本当ならば旧式の主力戦車を貸与する予定だった。だがここ最近のアビドスによる被害のせいで、貸せるほど戦車が余っていない。最初は最新の戦車を貸与することも考えたが、下手に足取りを掴まれても困る。

 とはいえ、まさかこれほどまでにアビドス高等学校が力を付けているとは思わなかった。ドローンで戦闘を見たが、主力メンバー以外の練度も非常に高い。最早寄せ集めの愚連隊と言うのは無理がある。

 おまけに連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)の先生とやらがいては迂闊に手を出せない。

 

 だが一番の問題は、あの正体不明の義手の男だ。

 経歴も何もかもが不明の男。唯一分かっているのは、奴がとんでもない戦闘力と指導力を持っているということだ。

 先の誘拐では、送り込んだヘルメット団をほぼ単独で殲滅。いや、回収といえば良いか。

 ともかく、あの男は下手をすれば連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)の先生よりも危険である。

 

「お悩みのようですね」

 

 不意に、暗い部屋に男が現れる。

 スーツ姿の、異形。その顔は、真っ黒で。けれどヒビ割れ、光が漏れている。

 

「彼女達に手こずっているようだ」

「嫌味を言いに来たのか?」

 

 まさか、とわざとらしく肩をすくめると、その男は机の前で止まる。

 

「我々は、ただ提案を」

「提案だと?」

 

 立ち昇る煙をものともせず、男は言う。

 

「武力だけが全てではありません。あなた方の悪い癖だ」

「なら、どうする? 貴様には何か策があると?」

「ええ、もちろん」

 

 怪しくその口許が歪む。

 

「私がその原因を、捕えてみせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の昼、アビドス廃校対策委員会。

 外では集金の車が金をたんまり積んで走り去って行くところだった。

 

「あいつら、どうして現金のみでの回収に拘るんだ?」

 

 窓のブラインド越しにそれを見ていたスネークが、ふと呟く。

 

「さぁ……過去には振り込みも申請したのですが、現金での受領のみと断られてしまいまして」

 

 その質問にアヤネが答えた。振り込みならばわざわざこんな砂の僻地まで来る必要はない。現金回収車は見たところ四駆ではないただのバンのようだし、下手をすればタイヤが砂に足を取られてハマる可能性もある。

 ただでさえ治安の悪いキヴォトスだ、そんな所を襲ってくる輩もいるはずだ。現にシロコがジッと獲物を見つけた狩人のような瞳で現金回収車を眺めている。

 

『カイザーローン。親会社はかなり手広くやってるみたいだ。兵器の売買にPMCにリゾート地開発……これじゃまるで、戦争経済の時の軍産複合体だね』

「どこに行っても同じか……」

 

 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件の直前まで、テレビでPMCの広告を見ない日はなかった。儲かる軍事というのはそれだけで経済に根強く絡み付くことを知っている。

 

『金の話も良いが……皆、検査結果が出たぞ。やはりヘルメット団が保有していた装備は元々ブラックマーケットから流れてきたものだ』

 

 ふと、カズヒラのホログラムが現れて机の上に置かれた戦車の破片を指差す。

 ブラックマーケット。連邦生徒会も手が出せないキヴォトスの闇。非認可の部活動や違法な兵器、物品が数多く出回っている場所だ。

 

『情報では、昨日うちらを襲撃してきた便利屋68も出入りが目撃されている』

「あのおっちょこちょい達がか?」

 

 エイハブが鼻で笑って茶化す。だがまぁ、やたらとアウトローを語る彼女達にはうってつけの場所なのだろう。それに彼女達は母校のゲヘナに指名手配されていると聞く。

 

「奴らもヘルメット団と同じく、この学校が目的だった」

「何か裏がありそうです……」

 

 スネークとノノミが考え出す。裏があるのは十中八九その通りだろう。彼女達は、彼女達ですら知らないところで繋がっているに違いない。

 ホシノはいつもの緩い表情を崩さなかった。だが、すぐに手を挙げると提案する。

 

「はいはーい。じゃあ、行ってみよっか」

 

 そのとんでもない提案に、セリカは驚く。

 

「もしかして……」

「うん。ブラックマーケットに」

 

 次の行き先が決まった瞬間だった。

 

 

 




次話は少し空くかもです。
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