蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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カセットテープ編。
番外編に近いお話です。見なくてもいいです。


白鯨 13

 

 たまたま、本当にたまたまこれを見つけた。

 生まれてこの方カセットプレーヤーなんて見たことが無かったが、ここが見捨てられたアビドスということが幸いしたのだろう。放置された廃材置き場に無造作に置かれていたそれを見つけることができた。

 多少分解整備が必要だったが、ネットで情報を探りながら何とか自分一人ですることができた。

 

 手にしたカセットテープを、修繕した手のひらより少し大きなカセットプレーヤーに挿入する。

 タッチパネルなんてない、すべてがアナログなボタンのプレーヤーは、その無骨さがどことなく銃に似ていた。

 再生ボタンを押すと、真っ暗な部屋に雑音が響いた。そのすぐ後に、声が乗る。

 

『彼女達を、仲間に引き入れよう』

 

 がちゃり、と義手の音が響く。きっと義手の音声録音機能が働いたのだろう。

 

『……それって、ヘルメット団?』

 

 シロコちゃんの質問に、エイハブ先生は答えない。でも確か、この時先生は頷いていたと思う。

 しばらく沈黙が続く。皆がその言葉に理解が追いついていない。

 

『エイハブ先生、でも今拘束しているヘルメット団のメンバーは先程まで私達と戦ってたんですよ? 彼女達も負けたからといって協力してくれるとは思いませんし……』

 

 ノノミちゃんが意見する。それは対策委員会のメンバー全員が思っていることだ。今の今までこの高校を落とそうとしていた相手だ。確かに裏はあるのだろう。彼女達を雇った誰かがいるかもしれない。だが、さっきまで敵だった彼女達が素直に口を割るとは思わないし、情報を持たされているとも思えない。

 

『先生、ヘルメット団は敵。私達はずっとヘルメット団に苦しめられてきた』

『そ、そうです! いくらヘルメット団が改心しても、信用できません!』

 

 シロコちゃんとアヤネちゃんが反論した。それでも先生は黙っていた。

 

『そもそも、部外者が私達の問題に口を出していいわけ!? そりゃさっきは助けられた、でもこれは私達がどうにかしなくちゃいけない問題なの! それを素性も分からない大人に指図されたくない!』

 

 怒鳴るようにセリカちゃんが言った。先生は黙っているが、私はセリカちゃんを宥める。

 

『まあまあ。……でも、おじさんも反対かな〜。ちょっとリスクがあるよね〜』

 

 この5人しかいない学校で、大きなリスクは背負えない。それでなくとも問題は山積みなのだから。確かに手を貸してとは言った。この学校を救うために、知恵を貸してくれと。

 でも先生は、落ち着いた様子でハッキリと言ってみせた。

 

『俺はこのやり方しか知らない』

 

 私達が想像する大人とは、先生はどこか違った。

 

『お前達が何をどうするのも自由だ。……この手を握ろうが握るまいが、お前達の自由意志を俺は否定しない。まぁ確かに多少は手荒いやり方かもしれんがな』

 

 かちゃかちゃと、義手の動作音がマイクに入る。

 私は再生を止めてカセットを取り出すと、異なるテープを挿入してまた再生する。

 じーっと、音がなってからまた声が再生される。

 

『……カズ、サイファーは……ゼロはどうなった?』

 

 ミラー先生が録音していたのだろう。自称魂を持ったAIを名乗る彼は、一見すると気の良い切れ者の、けれどちょっとお茶目な頼れる先生だが、時折何を考えているか分からない不気味さがある。

 

『デイヴィッドとエメリッヒの息子達が葬った。と言っても、奴の生み出した代理人(AI)を、という意味だが』

『代理人? アンダーソン(シギント)が作ったっていう、あの、AIか? ママルポッドみたいな』

 

 話している内容のほとんどは理解できなかった。でも、少しでもこの声を聞いていたい。ラジオのようなものだ。それを聴きながら私は銃を整備する。

 

『そうだ。俺の目指したアウターヘブン……戦争に価値を見出した世界は、デイヴィッド達の時代では最早普遍のものだった。導いたのは代理人AI……愛国者達』

愛国者達(パトリオット)……』

 

 その言葉に何か思う部分があるのか、エイハブ先生は言葉を失う。

 

『あんたも、(ビッグボス)から送られてきたテープでゼロがどうなったか知っているだろう』

『……スカルフェイスに寄生虫を使われて、脳をやられたと。一度キプロスにも来ていたはずだ』

『そうだ。ゼロはそれからすぐに意識を失った。愛国者達はゼロを隠し、代わりにアメリカを牛耳ったんだ。……その世界に反抗した本物(ビッグボス)は、デイヴィッドが倒してしまった。奴らに対抗できる存在は当時、存在しなかった』

 

 エイハブ先生は唸った。

 

『それで、どうなったんだ?』

『最初の蹶起はイーライが起こした。2005年、シャドーモセス島』

『シャドーモセス島? アラスカでか? イーライはアメリカに渡ったのか』

『ああ。イーライは湾岸戦争でイラクの捕虜となり、母国であるイギリスに見捨てられ、その後米軍の特殊作戦中に救出された。……今思えば、それもオセロットの策の内だったんだろう』

『オセロット……声帯虫の事件の後からマザーベースから姿を消したが』

 

 マザーベース。たまにエイハブ先生とカズヒラ先生が話していると、そんなワードを聞くことがあった。どうやら昔の家らしい。

 

『ソ連崩壊後、オセロットはアメリカに渡りイーライが事実上のリーダーとなったFOX HOUNDにスカウトされた。どういうやり取りがあったのかは分からん。だが奴はイーライにうまく取り入ったようだ』

『あれだけイーライと揉めといて、よくやったもんだな』

 

 呆れたような先生の声。カズヒラ先生も同じように笑った。

 

『とにかく、奴らは機会を待った。当時第三の子供もFOX HOUNDにいたことで、訓練中の次世代特殊部隊を洗脳、5000万ドルとビッグボスの遺体を政府に要求した。受け入れなければシャドーモセスの廃棄核を発射すると脅してな』

『随分と強気に出たもんだが。なぜビッグボスの遺体を?』

 

 ビッグボス、という言葉はデイヴィッド先生の口からも漏れていた。彼らは聞こえないようにしていたが、これでも耳は良い。どうにも先生達の中でその言葉は重要なワードらしい。

 

『遺伝子治療に使用するためだ』

 

 遺伝子治療? と、エイハブ先生は首を傾げる。聴き慣れない言葉だった。

 

『当時、極秘裏にビッグボスの特定の遺伝子……ソルジャー遺伝子と呼ばれるものが、次世代特殊部隊の兵士達に用いられていた。人為的に、後天的に戦闘に適した遺伝子を付与する……そうすることで、兵士達は絶対的な強者となる。進めていたのは当時クラーク博士と呼ばれていた女だ。心当たりがあるだろう』

『……パラメディック』

『だがどういうわけか遺伝子治療を行った彼らには副作用が出た。奇病という形でな』

『……人間の傲慢さのツケを払わされたんだ。遺伝子工学に詳しいわけじゃないが、後天的に人の設計図を書き換えるなんて許されるわけがない』

『そうだ。イーライ……リキッドは、その奇病の治療とアウターヘブン創造、そして愛国者達からの解放のために蹶起したんだろう』

『アウターヘブン……こりゃ俺も無関係じゃなさそうだ』

 

 自虐的に先生は言う。

 

『リキッドはシャドーモセスで開発中のメタルギア、レックスを強奪。だがデイヴィッド……ソリッド・スネークに阻止され、暗殺ウィルスによって殺害された』

『暗殺ウィルス?』

『ああ。ナオミ・ハンターという女を知っているか?』

 

 女の話題が出て、銃を整備する手が止まる。

 

『確か……グレイ・フォックスの義妹だったはずだ。アウターヘブンの蹶起の時に、彼の事をイシュメールが手紙で教えてくれた。そこに書かれていたと思う』

 

 手を動かす。どうやらエイハブ先生にはあまり関係がないようだった。

 

『当時ATGC社に勤務していた彼女は、遺伝子工学の知識を買われてFOX HOUNDで遺伝子治療を行っていた。同時にペンタゴンとも組んでいたらしい。そこで開発されたのが、特定の遺伝子を持つ者を殺すレトロウィルス、FOXDIEだった』

『FOXDIE……皮肉だな』

『全くだ。ともかく、スネークを経由してウィルスに感染したリキッドは、シャドーモセスで死んだ。オセロットはザンジバーランドで瀕死となり、クラーク博士によってサイボーグに改造されたグレイ・フォックスに右腕を斬り落とされたが逃げ延びたんだ。まぁ、全ては愛国者達の筋書き通りだが』

『人を騙すのは相変わらず上手いみたいだな、あの先生は。グレイ・フォックスはどうなった?』

『リキッドによって殺された。当時殆ど廃人と化していたようだが、ナオミが保護していたようだ』

『そうか……』

 

 少しだけ、声色が悲しそうだった。

 

『オセロットはその後、旧ソ連の傭兵部隊と合流。メタルギアのプロジェクトを極秘裏に実施していた当時の大統領……ジョージ・シアーズ。……三人目のスネークであるソリダス・スネークは立場を追われ、オセロットの協力の下、地下へと逃げた』

『待て、三人目? だが恐るべき子供達は……』

『ああ。デイヴィッドとイーライ、その二人だけだったはずだ。だが彼らとは異なる方法でクローンが作られた。100%のクローン、ソリダス・スネーク』

 

 クローン。クローンと言ったか?

 デイヴィッド先生は、誰かのクローンなのか? 推察するが、そのオリジナルが彼らがよく口にするビッグボスなのだろうか。

 

『その後オセロットは海兵隊で進められていた対メタルギアであるメタルギア・レイをマンハッタンで強奪、偽装されていたタンカーを沈めた。愛国者達はそこに海洋プラント、ビッグシェルを建設。だがこのプラントこそ、愛国者達が電子の世界を検閲するために作られたものだった』

 

 なんとも言えない唸りを出すエイハブ先生。

 

『奴らのAI、G・Wを守るためのメタルギア……アーセナルギアの建設。だがそれさえも、どうやら奴らの計画の一端に過ぎなかった。

 代理人はシャドーモセス事件という極限の状況を管理、制御できれば、人間そのものをコントロールできるようになると考えたんだ。オセロットを使ってソリダスをけしかけ、蜂起させた。ソリダスは愛国者達に踊らされているとも知らずにまんまと策に嵌り、鎮圧されたんだ。その後、ビッグシェル事件の結果をもとに戦場監視システムであるSOP……サンズ・オブ・ザ・パトリオットを導入。規範と成り果てた彼らは戦場浄化という大義名分の下、戦場すらもコントロールしてみせた』

『……ビッグブラザー。だが、オセロットはあの人を尊崇していた。それは嘘じゃなかったはずだ』

 

 まぁ待て、とカズヒラ先生は御する。

 

『オセロットはこの時、リキッドの右腕を移植していた。そして自分自身を洗脳したんだ』

『洗脳?』

『右腕を媒介し、リキッドに精神を乗っ取られるという……まぁなんともファンタジーな洗脳だ。こうしてオセロットはリキッドのドッペルゲンガーとなったんだ。

 ……そうだ、奴はあんたを真似たんだ。ビッグボスの幻影(ファントム)として、その任務を全うしたあんたを。きっと、奴はずっと……スネークという存在に固執していた』

『……2+2は5……奴は、自分自身も騙したのか。世界を敵に回して。忠のために』

 

 先生が、ビッグボスのファントム……? 意味がわからない。

 

『世界最大のPMCとして活動していたオセロットは、クローンとして急激な老化が始まっていたデイヴィッドを上手く誘導し、 SOPを掌握。人工衛星に偽装されていたAIの中枢であるJ.Dをレックスの核弾頭によるレールガン攻撃で破壊しようとしたんだ。だがそれすらも奴の掌の上だった。デイヴィッドを使い、コンピュータウィルスによってAIを消し去った。そして、奴は……AIに脳死状態で拘束されていたビッグボスを解放した』

『……それが、オセロットの狙い』

『ああ。オセロットはその後、新型FOXDIEによって殺された。だが覚悟していたんだろう。もう自分は二度とビッグボスとともに戦うことはないのだろうと。自分の手を汚せるだけ汚して、それでも忠を尽くしたんだ』

『……イシュメール、ビッグボスは……』

 

 カズヒラ先生は言い淀む。

 

『ゼロの居場所を特定し、殺害に成功。アンダーソンもクラーク博士も、シャドーモセス事件の時には殺されていた。あんたをキプロスに運んだEVAとかいう女も、オセロットも死んだ。奴は新型FOXDIEによってこの世を去った。そして、愛国者は全て消え去ったんだ』

『……そうか』

 

 ふぅっと、エイハブ先生は電子タバコの煙を吐き出す。同時にカセットの再生も止まる。だが私の興味は止まらない。

 新しいカセットを入れて、再生する。

 

『あんたも、そしてデイヴィッドもこのキヴォトスという未知の世界にいる。これが意味する事は、単なる偶然ではないだろう』

 

 カズヒラ先生の語りから始まる。

 

『共通点はスネークであったということ。デイヴィッドはソリッド・スネーク。あんたは……まぁずっとスネークかボスとしか呼んではいなかったが、プロパガンダ用に名付けたパニッシュド・ヴェノム・スネーク。目覚めた順番は知る限りじゃソリッドが最初、次にあんただ』

『シロコが言ってたぞ。そういう名前はキラキラネームって言うんだろう。カズ、いくらプロパガンダとはいえ……』

『おい待ってくれボスぅ。あの頃(1984)ビッグボスというネームは最早老いた伝説だった。これでも悩んだんだ、(ビッグボス)はその昔、ネイキッド・スネークというコードネームがあったそうじゃないか。なら、それに倣ってフルネーム的なもんがあった方がいいんじゃないかってなぁ』

『……まぁそういう事にしておく』

 

 エイハブ先生は納得していない様子だったが、どうにも二人の会話がおかしくて笑ってしまう。それにしても、先生は昔スネークと呼ばれていたらしい。蛇……なんだか先生に似合っている気がした。

 

『話を戻すぞ。あんた達スネークの系譜がいるということは、他のスネークもいる可能性がある。そして二つ目の共通点だ。それは既に、元の世界では死んでいるということだ』

 

 手が止まる。

 先生が、死んでいる? それに、元の世界? カズヒラは何を言っているんだ?

 

『……だがそんな事があり得るのか?』

『現に今こうして話している。まぁ俺も死んではいるけどな』

『何のために?』

『まぁ待ってくれボス。それは俺にも分からん。今こうして俺がAIとしてあんたをサポートできているのも、何も分からないんだ。ただ一つ言えるのは、スネークを名乗った人間が他にも現れるかもしれないということだ』

 

 スネーク。聞いた限りでは、ソリッド、リキッド、ソリダス、ネイキッド、そしてエイハブ先生であるヴェノムがいる。

 

『だろうな』

『だがそれだけじゃない。あんたが……つまり、ビッグボスの幻影(ファントム)がいるということは、奴もいる可能性がある』

『オセロットか』

『そうだ。その場合、奴は敵にも味方にもなる可能性を否定できないんだ』

 

 先生の敵。ぴくりと、指が動いた。

 

『……あの人は、どう思ってるんだろうな』

『さぁな。だが、まぁ……仮に奴がいたとしても、あんたの事を裏切ることはしないだろう。ああ見えて情には厚い男だ。それはあんたが一番知っているはずだ。もう騙すべき(時代)もいない。むしろ俺はあんたの方が心配だ』

 

 何を心配する事があるのだろうか。

 

『なんだカズ?』

『あの頃を引き摺って、ビッグボスの幻影(ファントム)のままでいるんじゃないかと……あんたは、確かにビッグボスだった。俺は離れてしまったが、あんたがビッグボスとして言った事を忘れるような男じゃない。だからこそ、この世界でも……メディックではなく、ビッグボスになってしまわないか心配なんだ。あんたはもう自由なんだから』

 

 葉巻を吸い込む音が微かに聞こえた。

 

『カズ。俺も、あの人と同じだ。戦うことしか知らない』

『だとしてもだ。いくら戦場を斬り裂いて恐れられたあんたでも、ダイアモンド・ドッグズの皆はあんたを敬愛していた。これはダイアモンド・ドッグズの総意でもある。あんたには幸せになる権利だってあるんだ。

 ほら、ホシノはどうだ? 確かにまだ幼いが、あの子はあんたにゾッコンだぞぉ?』

『カズ……』

 

 呆れ混じりにエイハブ先生は言った。私は思わず咽せてしまい、銃のパーツを落としてしまう。

 

『お前な、俺はこう見えてもビッグボスよりも年上なんだぞ。実年齢だけで言えば還暦を超えてるんだ』

『年の差婚なんてこのご時世当たり前だボスぅ。実は俺も死ぬ前は結婚しててな。連れ子だったが、娘だっていたんだ。子供はいいぞぉ! ボス、ホシノでどうだ?』

『やめろよ……』

『あんたも満更でもないだろう。ああ、シロコのが良かったか?』

『どちらにせよ娘みたいな歳だ。それに俺たちに子供はできないだろう』

『養子縁組って手もある。そろそろ身を固めたらどうだ? せ・ん・せ・い?』

『……電源を切るぞ』

『ああ待て待て! 分かった、本音を話す!』

 

 はぁ、っと先生のため息が入る。思わず耳をスピーカーに近付けていた私は、突然の先生のASMRに身体を震わせた。

 

『俺が心配してるのはあんただけじゃない。ホシノも心配なんだ』

『……』

 

 私の心配。エイハブ先生は答えない。まるで分かっていると言わんばかりに。

 

『ホシノはあんたの影響を受け過ぎてる。数々の戦士を見てきたあんたは分かっているだろう。ホシノは自分を偽ってるんだ。普段はおじさんなんて自分を呼んでいるが、真面目な時は違う。それに性格だって。

 前にあんたには教えただろう。前のアビドスの生徒会長のことだ』

 

 心拍数が跳ね上がる。

 

『ホシノは彼女を演じているんだ。そうすることで遺志を世界に残そうとしている。まるであんたのように』

『……』

『あんたは完璧にビッグボスを演じた。それは尊敬する。だがそれはあんたにしかできないことだ。若い少女が演じるには、それは重過ぎるんだ』

『分かってる。お前が言わなくても』

 

 知られたくなかった。今の自分の有様を、エイハブ先生だけには。

 

『俺はホシノの決断を否定したくはない。……確かに、誰かの幻影(ファントム)を演じる事は辛いだろう。だが、俺が来る前にもう彼女は始めてたんだ。ということは、ホシノはそれを選んだ。自ら進んで苦難に突き進んだ。俺はそんな彼女を、否定したくないんだ』

『……ボス、嫌な予感がするんだ。そのうち彼女が無茶をするんじゃないかと。アウターヘブンを率いたあんたのように』

『……そうなったら、俺が止めるさ』

『ボス?』

『俺は先生だからな』

 

 ガチャリ、とテープが終わる。

 ばれていた。隠していた事実を。先生はそれでも、私を否定しなかった。

 焦燥感と同時に嬉しさもある。先生は、そんな私でさえも受け入れてくれたのだと。そしてもし、私がどうしようもないくらい馬鹿な事をしてしまっても、止めてくれるのだと。

 私は部屋で一人、複雑な感情をコントロールできずにいた。

 

 気がつくとまた手が動く。

 

『カズ、あいつらはどうだ』

 

 先生の声とは別に、少女達の活発な声が聞こえてくる。どうやら放課後の部活動という名の訓練中のようだ。

 

『練度は……高くはない。だが素質がある。あんたたちに言わせれば、いいセンスだ、って奴だろう。特に機甲系の生徒達は連携もよく取れている。いずれは俺たちがとやかく言わなくてもどうにかなるだろう』

『そうか』

『だが他のマンモス校に比べれば、アビドスの規模は脆弱だ。いくら100人近くなろうともな。人数が増えれば、インテリジェンスに特化した部も必要となるだろう』

 

 まるであの頃みたいだな、とエイハブ先生はため息混じりに言った。

 

『ゲヘナもトリニティも諜報部があるくらいだ、ここじゃ普通なんだ。ああ、それとCQCについてだが』

『ああ。どうした?』

『一部の生徒達がデイヴィッドに挑んだらしい。無論、返り討ちにされたようだが』

『ハハ、元気があっていいじゃないか』

 

 無口な先生が笑うのは珍しい。

 

『まぁそれは良いんだが。ホシノの成長速度が著しい。まるであんたを見ているようだったよ』

 

 カズヒラ先生が言う。とても嬉しかった。だってエイハブ先生みたいだと言ってくれるのだから。

 

『俺としてはあの人(ビッグボス)を見ているようだった。MSFの時のな』

『ああ、懐かしいな。今じゃホシノにCQCで勝てる生徒はいないだろう。デイヴィッドも危ういんじゃないか? まぁあいつはアウターヘブン以降はCQCを嫌ってたからな』

 

 エイハブ先生が何とも言えない唸りをあげた。何かあったのだろうか。

 

『それで。他には?』

『一部の生徒は機械工学なんかに興味があるようだ。近いうちに、ミレニアムの方に出向させたいと考えている。ホシノとも話したが、彼女は前向きだ』

 

 これはカズヒラ先生と話したことだ。何人かが機械いじりが得意だから、キヴォトス屈指の技術を誇るミレニアムに行かせて勉強させてやりたいと。

 私も完全に同意だ。やりたい事を、迷惑にならないようにやるべきだ。今の元ヘルメット団の生徒達には、その権利がある。

 

『俺はここのボスじゃない。ホシノが決めればいい』

『ああ。それで、その、ホシノなんだが……』

 

 不意に話題が私に移る。なんだろうか。

 

『彼女、寝不足のようだ』

『ああ……毎日夜遅くまで見回りしているようだしな』

『昼寝している時も、ヘイローが消えていない……意識が途切れていないんだ。彼女は眠れてないぞ、ボス』

『分かってる。何とかしてやりたいが……睡眠薬はあまりよろしくないしな』

『昔のあんたもそうだったな』

 

 言うなよ……とエイハブ先生が苦笑した。見回りがバレているのは知っていたが。

 

『そうだ、添い寝してやったらどうだ?』

 

 私は噴き出した。

 

『は?』

『ほら、前にも言っただろう。ホシノはあんたにゾッコンなんだ。ならいっそ添い寝して安心させてやれば……アーオイ! 電源を……』

 

 そこでテープが止まる。これはカズヒラ先生が録音してたものだから、電源を切られたのだろう。

 ……このテープを渡してきたカズヒラ先生はニヤニヤしていたが、そういうことか。してやられた。

 

 悶々としながら、銃を組み立てる。そして私は何とも言えぬ感情を宿しながら夜のキヴォトスの見回りを開始した。




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