蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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ようやくこの章が終わります。


白鯨 15

 

 

 ちょうどその時、便利屋68はブラックマーケット最大とも言われる闇銀行へと足を運んでいた。わざわざこんな治安の悪い地域に来ているのには理由がある。単に便利屋の口座は彼女達の指名手配に伴い凍結され、普通の銀行では融資を受けられない。よって、そんなものどうでもいい闇銀行へとやって来たのだ。

 便利屋68は零細企業である。いや、そもそも企業としてほぼ認可はされていないに等しい。故にその知名度は決して高くはなく、依頼も変なものばかりで儲からない。

 世界一のアウトローを目指す社長のアルは、アウトローに相応しくない仕事は受けないようにしている(猫探しや雑用は色々あって受けてしまうが)から、まぁ金がない。

 

 そして極め付けは、この間のアビドス襲撃失敗。

 雇った傭兵で前金どころか資産のほとんどを空にし、事務所兼家の家賃すら払えないような状況で、彼女は闇銀行を当てにしたのだが。

 

「率直に申し上げますと、今回融資はできないということで……」

「ハァ!? どうしてよ!? 事務所もちゃんと構えてるのに!」

 

 サラリーマン型ロボットに融資拒否をされて焦りに焦るアル。だがロボットからその理由を聞かされると彼女は何も言えなくなってしまう。

 事務所は賃貸、資産は今の所銃火器のみ。挙げ句の果てにはペーパーカンパニーを疑われる始末だ。

 腸が煮え繰り返り、ここで大暴れして金を奪ってやろうかとも思ったが。冷静になり、ここがブラックマーケットであることを思い出す。

 いくらアウトローに憧れる彼女でも、裏の世界を敵には回せない。そんな勇気はない。

 

 自分の情けなさに辟易する。自分は、自分たちは、キヴォトスで一番のアウトローになるのではなかったのか。

 

 昔見た映画を思い出す。黒人と白人の男が、くだらない事を言いながらハンバーガーを食べたり、殺しの仕事をする映画だ。個人的には、その中で出てきたスキンヘッドの俳優の他の刑事映画が好きではあるのだが。

 あんなアウトローになりたかった。いや、流石にあれは狂い過ぎだが、あんなかっこいい無法者になりたかった。けど、今彼女を取り巻いているのは金だ。金がないから何も出来ない。金がないから信用がない。

 だから彼女は、本質を見失おうとしている。本当に重要なのは、金だけじゃないということを。

 

 

 

 

 

 突然、シャッターが閉まった。

 銀行内の非常用シャッターが全て閉鎖され、照明も落ちる。

 暗闇の中、何かがコロンコロンと数個ほど転がると、煙が舞い上がった。それで店内はパニックになる。

 刹那、屈強なマーケットガード達が次々と悲鳴をあげて地に伏し、それから銃声が鳴り響いた。

 

「全員、その場に伏せて!」

 

 アルは思わずその声の主を見る。

 覆面に小銃を持った女が、銀行内を制していた。間違いない。銀行強盗だ。

 

「言うことを聞かないと、痛い目に合いますよ〜!」

 

 ミニガンを持った女が言う。覆面の、くり抜かれた口と瞳を見るに笑っていた。それが恐ろしくてたまらない。

 

「み、みなさん怪我をされないようにぃ、大人しく伏せていてくださいね〜!」

 

 一人だけ紙袋の女が言う。だがマーケットガードがこっそり地面に置かれた銃に手を伸ばそうとして、

 

「そいつは()した方が良いぞ」

「いててててて! わかった、わかった!」

 

 一人だけ高身長の、覆面に野戦服の男が銃を奪ってマーケットガードの手首を曲げる。関節技だ。

 

「武器は捨ててって、聞こえなかった?」

 

 覆面からツインテールが出ている女が、関節を極められているガードの頭に銃口を押し付ける。銀行内は混沌としていた。

 

 

 

 

 

 ホシノは心なしか楽しそうにしながら、ヒフミに尋ねる。

 

「さぁリーダーのファウストさん、指示をよろしくぅ!」

「え? え!? 私ですか!?」

 

 勝手にリーダーにされているヒフミが困惑する。ノノミまでも悪ノリしだし、自身のことをクリスティーナと呼んでいる。

 エイハブはバラクラバの内側でそっと口許を緩めた。極めている関節は緩めないが。

 

『ボス、ほどほどにしてやれ。彼らにも俺と同じで痛覚はある』

「分かってるさ。デ……スネークは?」

 

 一瞬言いかけた本名を咄嗟に言い直す。まるで自分の事を呼んでいるような気がしておかしな感じだ。そう、あの頃(MSF)、ビッグボスのメディックとして同行していた時のような、そんな感じだ。今はバラクラバもしている。もし左腕が生身なら、自分はきっとただのエイハブだった。

 

『予定通り侵入に成功した。ブランクがあるとは思えん。……建築物への潜入なら、あんたや(ビッグボス)を超えているだろうな』

「俺は元々メディックだよ」

 

 エイハブは自嘲気味にそう返してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、デイヴィッドをこちらで名乗っている蛇は闇銀行の裏口から一人潜入していた。

 裏口には人員は配置されておらず、監視カメラがあるだけ。それはアロナとオタコンによってすぐにダミー映像を流すだけの置き物となる。

 電子ロックすらすぐに解錠され、彼はさほど苦労もなく内部へと侵入できた。

 

 巡回するセキュリティと作業員にまったく気取られることなく、電源室へと入れば配電盤を操作して電力をカットアウトする。それだけで銀行内の監視カメラは電力を遮断され、挙げ句の果てに通報装置も切れてしまう。

 

「こちらスネーク、聞こえるか?」

 

 久しぶりに名乗った名前に、思わず懐かしさを抱く。

 

『良好だよ。電源を落としたみたいだね。ホシノ達は既に行動に移った』

「予備電力が起動するまでの時間は?」

『そうだね……今アロナに頼んでブラックマーケットの電力を操作している。でも、どれだけ粘っても5分が限界だろう』

「十分だ。久しぶりの潜入なんだ、それくらいあれば用は済む」

『言うまでもないけど、気をつけてくれよ。今回の任務はあくまで……』

「潜入だ。だろう、オタコン。……懐かしいな」

『……そうだね。本当に……さぁ、スネーク。僕達も行動に移ろう』

 

 思わず二人の間に笑みが溢れた。こんな事はいつ以来だろうか。老化が本格的に始まってからは、ガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件まで潜入はしていなかった。だからこの若い身体で、こうしてオタコンとタッグを組んで潜入は久しぶりなのだ。笑いたくもなる。

 頭に巻いたバンダナは、オタコンからクラフトチェンバーで送ってもらった。確かに自分が使っていたものだ。

 服もスーツではない。老化はしていないから筋力を補助するオクトカムスーツではない。タンカーやアーセナルギア潜入の時に使っていたスニーキングスーツを生成した。

 武器は、マスターミラーが生成したスタンロッドのみ。設計は古いようだが、問題はない。ロボット相手なら行動不能にできるだろう。

 

 アビドスの面々が表を押さえている間に、彼らにはやることがある。

 慌ただしい通路を隠れながら進み、データ室へと入る。中には情報管理ロボットがいるだけで、スタンロッドを使えば何も問題はなかった。

 シッテムの箱とデータシステムを接続すれば、あとはオタコンの出番だ。こういう時、タバコが吸えないのが悔やまれる。時間は、残り3分。

 

「どうだ?」

『システムの中に入った、こりゃネットワークの警備状況は杜撰だね。探しているデータは……』

 

 あった、とオタコンが言うとシッテムの箱にダウンロードされる。ちらっと見たが、裏金のデータとアビドスの集金記録のようだ。これで奴らの非道な行いが暴けるだろう。

 

『スネーク、そこにはもう用はない。電力が戻る前に脱出するんだ。シロコ達も……うん、思った以上に暴れていないようだ』

「だと良いんだが。オタコン、あんまり彼女達を危ない目に合わせるな」

『でも、これこそキヴォトスって感じ、しない?』

「はぁ……」

 

 呆れたようにため息をつく。その後スネークは誰にも見つかることもなく銀行を後にした。気絶させたロボットも、背後からの攻撃で自分に何が起きたか分かっていないし、オタコンも痕跡を残していない。まさにステルス(痕跡ゼロ)だ。

 

 

 

 

 

 

 正面で強盗を行っていたアビドス組も、事はうまく行った。いきすぎた。

 シロコが銀行員に現金輸送車から持ち出した集金記録を求めれば、何を勘違いしたのかボストンバッグいっぱいに札束と集金記録が入れられる。

 

 正直求めていたものは集金記録のみだったが、今更これだけの金を返却する時間もない。

 

『ホワイトウルフ、時間だ。集金記録も入っている……まぁ、一先ず預かっておいて良いだろう。所詮は汚れた金だ』

 

 カズヒラがそう言うと、ホシノが撤収の指示をする。

 

「みんなズラかるよ〜!」

「アデュー!」

 

 ノノミがバッグから何かを取り出し、それをシャッターに貼り付ける。一見するとシートのようだが、その実それは爆薬。よく室内戦等で用いられるテープ状のフレックスリニア爆薬等を混ぜたものだ。

 数秒して、勢い良くそれが爆発するとシャッターの一部に綺麗に穴が空く。すると強盗団達は待ってましたと言わんばかりに脱出を開始した。

 

 

 金を奪われてキレる銀行員達を他所に、アルは一人興奮して感激していた。

 あれこそが彼女が求めていたアウトロー。手際よく、不必要な被害を出さずに仕事をこなす。昔見た、街中で銃撃戦をする銀行強盗の映画を彷彿とさせる。

 それに、強盗団の動きのキレが素晴らしかった。特にあの大男の動きが目を見張るものがあったが、それ以外の強盗団員の銃さばきも美しかった。まるでよく訓練された特殊部隊だ。

 

「……社長、すっかり奴らの虜だね」

「あれってアビドスの子達だよね〜?」

「こここここここ、殺しますか!?」

「殺さなくていいよ〜」

 

 そんなアルのことを、背後から眺める便利屋の面々。不意にアルがふらふらと何かに釣られるように動き出した。どうやら強盗団を追うらしい。

 

「いつもの悪い癖が出ちゃってるね……」

 

 カヨコがため息をつくと、ムツキは面白そうと笑って見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思ったよりもマーケットガードの初動が速かったが、それに捕まる彼らではない。スネークも含め、強盗団は包囲網からこっそりと逃れるとブラックマーケットの地域から離脱する。

 人が来なさそうな場所までやってきて、ようやく彼らは足を止めることができた。ちなみにエイハブが全力で走り出したのでスネークやヒフミまでもが全力で走らされる事となった。

 

『みんな成功だ、おめでとう』

「先生としちゃ困ったもんだがな……」

『あはは……』

 

 オタコンの労いにも素直に喜べない。まさかこっちに来て初めての本格的な潜入が銀行強盗だとは夢にも思わなかった。ヒフミも横で項垂れている。彼女も被害者だ。

 

「シロコちゃん、集金記録は?」

 

 ホシノがボストンバッグを持ったシロコに問うと、彼女はバッグを下ろしてチャックを開ける。

 

「うへぇ何これ!?」

 

 ホシノだけじゃない、皆が驚いた。一番はスネークとオタコンだろう。

 ボストンバッグの中には現金がびっしり入っている。

 

「お、お前、シロコ……! 本当に盗んだのか!?」

 

 驚きながらスネークが尋ねる。目的は集金記録だけだったはずだ。だがシロコは首を横に振った。

 

「違う。これは銀行員が勝手に入れただけ。目当てはこっち」

 

 そう言う彼女が手にするのは書類の束。良かった、目的はちゃんと果たしていた、とスネークは謎の安堵をする。

 

『それがあればデータと照合してカイザーの闇を暴けるかもしれない』

 

 紙とデータ、両方で必要だったのは裏付けが欲しかったからだ。データでは改竄されてしまう可能性だってある。

 

「早く持って帰ろう!」

 

 不意に、セリカがウキウキとした様子で言い出した。流石に、それは許容できない。

 

「待てセリカ」

 

 彼女の肩に手を掛ける。セリカはそんなスネークを、キリッとした目付きで睨む。

 

「なに? これがあれば借金を……」

「汚れた金でか? お前達の居場所を汚すことになったとしても?」

「……! で、でも!」

 

 もちろん、彼女の気持ちはわかる。これは彼女達から集めた金でもある。だが、同時に裏の世界の金でもある。一度その身を黒く染めたら、二度と白くはならない。スネークやオタコン、そしてエイハブ達もそれは知っている。

 

『そうだよセリカちゃん! そのお金は……』

「なんでよ! このお金はそもそも私たちが汗水流して稼いだお金じゃん! それがあの闇銀行に流れてったんだよ!」

 

 報復心が彼女の心に巣食う。

 

「確かにそのままにしておいたら、犯罪者の武器や兵器に変えられたかもしれません」

「そうよ、悪人のお金を盗んで何が悪いの!」

「私もセリカちゃんの意見に賛成です」

 

 ノノミが神妙な面持ちで言う。

 

「犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方が……」

「それにこれだけあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」

 

 だが、迷っている。本当にそれで良いのかと。その迷いに拍車をかけたのは、エイハブだった。

 

「……一度銃を握れば、地獄に落ちることになる」

「……先生」

 

 隣のホシノが彼を見上げた。

 

「お前は、アビドスを地獄に落とす覚悟があるのか?」

「っ……」

 

 そんな覚悟は彼女にはない。だってアビドスはみんなの居場所だ。そこを地獄に変えて良いわけがない。

 もっとも、カズヒラからすれば今のアビドスは天国でもないと考えている。あそこはもう、アウターヘブンのような場所。

 社会的弱者達が、除け者達が、その身を寄せ合い互いに生かす場所。その苗床。

 

「……シロコちゃんはどう思う?」

 

 ホシノが尋ねる。シロコは即答した。

 

「ん、決まってる。ホシノ先輩なら反対する」

「……どうしてそう思ったの?」

「アビドスは天国でも地獄でもない。なら、地獄に落ちるようなことは絶対にしない」

 

 カズも、そしてエイハブも。そのシロコの言葉に息を呑んだ。もちろんそれは、スネーク達も同様だった。

 

「……うへへ、流石はシロコちゃん。私のこと分かってるね〜」

 

 ホシノは笑みを浮かべてセリカの頭を撫でる。

 

「私たちに必要なのは書類だけ、お金じゃない。今回は悪人の資金だから良いとしたら、次はどうする? その次は? これに慣れちゃうと、この先またピンチになった時、仕方ないよね〜とか言いながらやっちゃいけないことに手を出すと思う」

 

 スネークは少しホッとしていた。突然……いや、兆候はあったが、急にトラウマと同じことを言い出したのだから。今、ホシノが言ったことを信じている自分がいる。

 

「おじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのは嫌だなぁ〜」

「ホシノ先輩……」

 

 そして。

 エイハブは聞き逃さなかった。

 

「ユメ先輩なら、絶対にそんなことはさせない」

 

 ぞくりと、背筋が凍るように冷徹な言葉。スネークにも、そして他の皆にも聞こえていないくらいの小声。けれどエイハブと、そして彼のiDROIDに住み着いているカズはしっかりと聞いていたのだ。

 

「こんな方法を取るくらいなら、最初からノノミちゃんが持ってる燦然と輝くゴールドカードに頼ってたはず」

「で、ですがそれはホシノ先輩に反対されて……あ、そうでした! きちんとした方法で返済しない限り、健全なアビドス高校ではなくなってしまう!」

「しょゆこと〜」

 

 ホシノがまたいつも通りの昼行灯に戻る。

 

「……そうだセリカ。誰もそんなこと望んじゃいない。そういうのは奴らだけで十分だ」

 

 セリカに視線を合わせ、スネークは諭す。さて、問題はこの金をどうするかだ。そんな時。

 

「ちょ、ちょっと待って〜!」

 

 遠くから声がし、誰かが走ってくる。すぐに皆、覆面を被りスネークは茂みに隠れる。顔を見られるのはまずい。特にスネークは。

 やって来たのは戦ったばかりの陸八魔アル。彼女は両手を振って敵意がないことをアピールすると言った。

 

「し、心配しないで! 私は敵じゃないから!」

 

 とは言え、なんでここにいるのか分からない。

 

「あ、あの! さっきの襲撃、見せてもらったわ! ものの数分で見事に撤収……稀に見るアウトローっぷりだったわ!」

 

 そこからはアルの感想がつらつらと語られた。どうやら先程の銀行強盗は彼女にとってはとても感動的だったらしい。スネークも、エイハブも、そしてホシノ達もよく理解できない。

 

「わ、私も頑張るわ! 法律や規律に縛られない、本当の意味の自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」

 

 エイハブは苦笑していた。まるで入隊志願しに来た奴らのようなセリフだ。口だけの奴は門前払いを食らっていたが、もし彼女があの時(1984年)に居たのならば、きっとスネークも、そしてカズヒラも入隊を許可していただろう。むしろスカウトしていたかもしれない。実力は本物なのだから。

 一方、ホシノ達はなんだかよく分からないらしい。

 

「そういうことだから、名前は……あなた達の名前を、教えて?」

 

 憧れを感じる眼差しで言われると、断りづらい。

 

「その、組織とかの名前、あるでしょ? 今日の勇姿を心に深く刻めるように!」

 

 ノノミが何か笑顔で言いかけた。だが、それを遮る者がいた。

 ホシノだ。

 

 

「アウターヘブン」

「ッ、それは」

 

 スネークが止めようとして、けれど暴露するわけにもいかず。エイハブも、顔を顰めた。

 ホシノが口にしたそれは、歴史に忘れ去られた天国の外側。時代に敗れた死体の山。けれど、ホシノはそれを継いでしまった。次の世代に残すべきものではないそれを、彼女は受け入れてしまった。

 

 時代は、天国の外側を求めているとでもいうのか。

 

「ア、アウターヘブン!? なにそれ、めっちゃかっこいい!!!」

 

 語感だけで心をときめかせたアルに、ホシノは言う。

 

「天国でもなければ地獄でもない。私たちには、どちらも許されない」

 

 それはまるで、あの人(ビッグボス)のように。

 

「私達は、ただ自分達のためだけに戦う。生き残る。それが、アウターヘブン」

「くぉおおおお……!」

 

 目をキラキラさせながら聞き入るアル。それを遠目に、他の便利屋達は眺めていた。

 

「戦う理由は自分で決めるんだよ。アウトローに憧れる少女よ……さらばだっ!」

 

 ホシノがそれだけ言うと、皆がスネークを置いて一目散に逃げていく。突然走り出したアビドス勢に、スネークは少し困惑したが、アルが惚けているのを見てこっそりと撤収した。

 

「アウターヘブン……戦う理由は自分で決める……その言葉、魂に刻むわ! 私も、がんばる!」

 

 そんなアルの姿を後ろから眺めるカヨコ達。いつ彼女達の正体を明かそうか悩む。きっとそれを知ってしまったら白目になってしまうだろう。

 

「あ、あの、これ忘れ物でしょうか」

 

 不意に、ハルカが道端に置かれていたボストンバッグに目をつけた。

 便利屋はボストンバッグの中身を確認し、驚く。大量の現金。これでもう、食事を抜かなくて済むだろう。

 ちなみに事務所に帰ってからカヨコにアウターヘブンの正体をバラされ、案の定白目になっていたアルであった。

 

 

 第2章、完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 盗聴記録

 ▶︎アビドス高等学校の記録を再生……

 

 時、2235。室内で男達が何かを話している。男はデイヴィッド先生(以下、先生という。)と正体不明のエイハブと呼ばれる男(以下、エイハブという。)と思われる。

 部屋にはホログラム発生装置があり、そこにはホログラムで二人の男性が表示されている。眼鏡の男性(以下、オタコンという。)とサングラスの男性(以下、カズヒラという。)は、オタコンが先生の左側、カズヒラがエイハブの右側に立っているように表示されている。

 

『やはりあの金は──』

『間違いない。アビドスが返済した金は、ヘルメット団の任務報酬や装備調達に充てられていた』

 

 先生の質問にカズヒラが答える。エイハブが電子葉巻を取り出し吸い出す。

 

『またセリカが怒りそうな話題だ』

『データの解析も終わった、裏も取ってる。明るい話題じゃないのは確かだ』

 

 先生は椅子に座るとガムを取り出して口に含む。

 

『……エイハブ。ホシノはどうするんだ』

 

 エイハブは無回答。

 

『お前の影響を受け過ぎている』

『スネーク、それは……』

 

 カズヒラが何かを言いかけ、エイハブがそれを言葉で遮る。

 

『アウターヘブン』

『……お前はやはり、アウターヘブンに? その義手、どこかで見覚えがある』

『……』

 

 しばしの沈黙。先生が立ち上がり、部屋を後にする。

 

『俺はヘルメット団やカイザーよりも、お前の方が危険だと思っている』

『ビッグボスの息子にそう言われるとは、光栄だよ』

『知っていたのか。……まぁいい。もしお前が悪影響を及ぼすなら、その時は覚悟しておくことだ』

 

 先生は去っていく。オタコンも消える。

 

『……ボス。やはり、俺が危惧した通りだ』

 

 カズヒラが言うが、エイハブは椅子に深く腰掛けて電子葉巻を吸う。

 

『ホシノは今、あの頃のあんたと同じだ。いや、それよりももっと悪い。このままじゃ……』

『分かってるよ』

 

 義手を掲げると、電灯に翳す。

 

『そうなったら、俺が消えればいい』

『ボス……む、誰だ!』

 

 電磁パルスが発生。盗聴器が破壊される。サーバーの一部に攻撃あり。即座に復旧。録音終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次章 燃える白鯨

 

 

 

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