蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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赫怒 3

 

 

「半径10キロ圏内にて爆発を検知しました!」

 

 警報が鳴ってすぐ、アヤネがタブレットに表示された事を読み上げた。同時にアビドス高等学校全体に緊張感が走る。

 

「場所は?」

 

 対策委員会の皆が銃を手にする中、スネークがすぐに問い掛ければアヤネは驚いたように言う。

 

「場所は……柴関ラーメンです!」

 

 思わぬ場所での爆発に、皆が驚いた。スネークは表面では驚かないようにしていたが、それでも動揺はしていたはずだ。

 特にセリカの慌てっぷりが凄まじかった。どうしてあの場所が、とまるで怒りのように捲し立てる。

 

「落ち着け、セリカ」

 

 語気を強め、宥める。こういう時、焦るのが一番危ない。そうやって死んでいった人間を何人も知っているスネークだからこそ、皆を宥める。それが大人の、そしてベテランの役割だ。

 

「何が……いや誰を狙って……」

「まさかセリカちゃんを……」

「わ、私!? なんで……」

 

 シロコが考察するとノノミがすぐに言ってみせた。

 ありえない話ではない。前にセリカは狙われている。だがあれは夜遅くまでバイトをして、人通り少ない場所で狙えるという利点があったからだ。昼間から柴関を爆破してどうするのだろうか。

 

『スネーク、ホシノとエイハブに連絡がつかない。今アロナに頼んでGPS座標を取って来てもらってる』

「分かった。アヤネ、サポートを頼む」

 

 当然のように同行しようとするスネークに、けれどエイハブという異端が当たり前のようにいるせいか誰も突っ込まない。

 校内では既に新生アビドスの生徒達が出動準備を終えていた。

 

「第1偵察小隊はすぐに柴関ラーメンへ前進、主力の歩兵小隊と戦車小隊、救護班も体勢が取れ次第前進してください!」

 

 アヤネが校内放送を終えると、偵察小隊のオートバイが数台グラウンドから飛び出して行く。対してスネークと廃校対策委員会は屋上へと向かう。

 すぐにアヤネを除く全員で屋上へと辿り着けば、そこには離陸準備を済ませた汎用ヘリが待機していた。操縦席には誰もいない。カズヒラがどこからか用意したAIによって制御されている。

 

『スネーク、大変だ』

「どうしたオタコン」

 

 対策委員会が乗り込み、スネークが最後にステップに座って安全帯を取り付けた時だった。

 

『エイハブの居場所が分かった。柴関ラーメンだ!』

「なに!?」

 

 オタコンも焦っていたのだろう。全員の無線機に、その報告は入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アル達は傷だらけになりながら、急いで瓦礫を掻き分ける。その中には柴関ラーメンの大将も含まれていた。

 

「先生! エイハブ先生、どこにいるんだ!」

 

 柴大将が煤まみれになりながら必死に瓦礫を漁る。彼はエナジーウォールのおかげで無事だった。流石に多少の怪我はしたが、よく知る正史とは比べるまでもない。

 対してエイハブは、飛んできた戦車砲、榴弾砲、そしてハルカが事前に仕掛けていた爆薬が誘爆したことで崩壊した建物の下敷きとなってしまったのだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……! こここ、こんなことをしてしまって、私死ぬしか……」

「ハルカ! 今はエイハブ先生を探して!」

 

 珍しくアルが叱るように命令した。

 

『ボス! どこだ、どこにいる! ボスーッ!』

 

 カズの怒号にも似た呼びかけが柴大将の横で木霊する。もし彼に肉体があれば、何がなんでも探していたに違いない。例え自分が死に瀕していようと。

 だがその時、突然瓦礫から赤い腕が伸びた。義手だ。

 

『ボス! おい、あそこにボスがいる! 救出するんだ、早く!』

 

 カズに言われるまでもなく、皆が腕の周りの瓦礫を掻き分ける。いくつか瓦礫を掘り出せば、ようやくエイハブの上半身が出てきた。

 アルも、そして他の便利屋達も。言葉を失う。

 血塗れのエイハブが、虚ろにヘーゼルグリーンの瞳を覗かせていたからだ。

 

『アル! 早くボスを!』

「、え、ええ!」

 

 急いで瓦礫を退かすと、ようやくエイハブの全身が出てくる。彼女達はそっと彼の身体を抱えると、開けた場所へと移動させた。

 ボロボロのスーツは血のせいで赤く染まってしまっている。それを丁寧に剥ぐように脱がせば、再度皆は絶句した。

 砲弾の破片が無数、身体に刺さってしまっていたのだ。

 

「こ、こんなの、どうすればいいのよ……!」

 

 狼狽えるアルに、だがカズではなく柴大将が指示をした。

 

「落ち着け! 破片は取ったらマズイ、何か布はないか!? 布を囲うように止血するんだ!」

『大将、あんた……アル! なんでもいい、ボスを……俺の友を助けてくれ!』

 

 わたわたとしながらも、アルはどうにかしようとする。そんな時、カヨコとムツキが彼女の隣に座り込んだ。そして自らの服の一部を切り取ると、エイハブの傷口へと押し当てた。

 アルも、そしてハルカも。一体感を持ってそれをする。だが明らかに出血が多過ぎる。

 

「いたぞ!」

「CP、こちらブラボーシックス! 柴大将とエイハブ先生を発見! 状態は……1名重症、1名軽傷! エイハブ先生が重症だ! 早く救護班を!」

 

 オートバイが来たと思えば、アビドスのワッペンを肩章につけた元ヘルメット団達が駆けつける。

 計四名、二人は周辺警戒、もう二人はエイハブに駆け寄り、アル達を引き離して持っていた救急キットで治療に掛かる。

 

「脈拍が弱い!」

「救急包帯が足りない!」

「まずは止血剤だろ!」

 

 便利屋と柴大将はその工程を見ていることしかできなかった。やってきた二人の邪魔をするわけにはいかない。

 と、そんな時。今度はヘリがやって来る。高度を落としたヘリからロープが垂れると、分厚い手袋をしたスネーク達がファストロープで降下して来た。

 アビドス対策委員会。その誰もが、エイハブの姿を見るなり絶句した。

 

「待て、俺が代わる。下がってろ」

 

 スネークが元ヘルメット団の偵察班にそう言うと、彼女達の代わりに止血剤を振り掛ける。少女達の手は多量の血を見たことで震えていた。

 止血剤が傷口に掛かった瞬間、エイハブが呻き声をあげる。

 

「ボス……」

 

 不意にエイハブが口を開いた。その目は虚だ。

 

「エイハブ、しっかりしろ! 死ぬんじゃない!」

「爆弾は……もう、一つ」

「何を言ってるんだ!」

 

 意識が混濁しているようだった。だがカズには分かる。彼が言っている意味が。今、彼はメディックにまで退行してしまっていた。

 

「あんたたちが……あんた達がこんなことを!!」

 

 セリカがアルに食って掛かる。

 

「はぁ? こんな事するわけないじゃん。私達だって巻き込まれてるんだからさぁ……こんな不快な思い、自分達でするわけないよねぇ!」

 

 闘争心を剥き出しにしたムツキが真っ向から反論した。

 

「あんた達は敵でしょ! こんな、こんな、エイハブ先生まで巻き込んで……!」

「確かに、まだアビドス攻略の任務は消えてない。けど私達は……」

 

 カヨコが弁明しようとした、その時だった。

 

 

 何かが両者の間に落ちて、炸裂する。迫撃砲だった。

 

「ぐっ!」

『スネーク、大丈夫かい!?』

 

 オタコンが心配そうに言う。正直、かなりの至近距離での爆発だった。だがそれでも彼とエイハブが無傷なのはアロナがシールドを張ってくれたからだ。

 

『先生、いつでも護れるようにシールドを張ります!』

「ああ、ありがとうアロナ。だが大丈夫だ。オタコン、少し移動させる、ここは危ない。救護班はまだ来ないのか?」

『爆発の影響で道が渋滞してしまってる。主力が来るのはもう少しかかる』

「クソ! ほら、エイハブ……バイタルは逸れているが、出血が酷い。ヘリの着陸できそうな場所はないか?」

『無理だ。UH-60じゃ道路が狭過ぎる……待て、スネーク! 近くに大規模な部隊がいる! アビドス以外のものだ!』

 

 奴らだ、とカヨコが苦虫を噛み潰したような顔で遠くを睨む。そちらに視線を向ければ、確かに大規模な部隊が道路上に展開していた。

 どうやらアルは今の迫撃砲をもろに食らったらしく、意識を失っている。

 

 

 

 

「敵部隊制圧、我の迫撃砲攻撃により混乱している模様」

 

 風紀委員の観測係が双眼鏡で迫撃砲の効果判定をする。それを聞いて、チナツは問う。

 

「さて、どうしますかイオリ? どうやら予定外の方々も混ざっているようですが」

「ああ、なんて言ったっけ……アビドス?」

「はい。アビドス高等学校廃校対策委員会」

 

 ぴこぴことイオリの尻尾が動く。

 

「どうするもこうするも、決まってるだろチナツ。公務の執行を妨害する輩は……」

 

 担いだボルトアクションの小銃を、両手に保持する。

 

「全員敵だ」

 

 赤い瞳がギラついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゲヘナだと!? どうなっている! 明らかな他学区への武力行使だ!』

 

 スネークの腰元でカズヒラが怒鳴る。そんなことは分かっている。粗方、情報が古いのだろう。たった5人の弱小校、まだそんな情報を基にして、指名手配されている便利屋を追ってきたに違いない。

 一先ず出来る治療を終えたスネークは、物陰にエイハブを寝かせて様子を見る。横隊になってこちらへと前進してくる様を見るに、明らかに戦力に自信があるようだった。

 そしてその中に、見知った少女がいる。チナツだ。

 

「オタコン」

『もうアヤネが動いてる。歩兵小隊は下車してそっちに向かってる……けど、まだ時間が掛かる』

 

 仕方ない、と思いながらも前に出る。偵察兵の少女達にエイハブを任せ、彼は戦闘体勢のシロコ達と並んだ。

 

「先生、戦える?」

「まずは奴らの言い分を聞いてみよう、シロコ」

 

 冷静かつ怒れるアビドス勢とは対照的に、ゲヘナの風紀委員の一人はイラついているようだった。チナツの横にいる、銀髪の少女イオリだ。

 

「めんどくさい……なんで攻撃しちゃいけないんだ」

「物事には順序があります」

「うちの厄介者どもをとっ捕まえるための労力が惜しい。邪魔するなら問答無用で……!」

「まずはこちらの事情を説明、次に相手の事情を確認、それから交渉。それでどうしても解決しなければ戦闘」

 

 理路整然と語るチナツ。だがイオリは納得していないようだ。

 

「相手は部外者です。意図していなかったとはいえ……先程の攻撃、本来ならば決して許されるような事では……」

「分かったよ! なら私が手っ取り早く説明してくる」

 

 チナツの制止も聞かず、イオリは過小評価している廃校対策委員会へと進む。

 一方、便利屋はエイハブの近くに身を潜めていた。アルが目を覚まし、カヨコが事情を説明するとまた彼女は慌てる。

 

「ホシノ先輩とまだ連絡つかないの!?」

 

 セリカが無線でアヤネに尋ねるも、否定される。その時、彼女達の数メートル手前でイオリが止まった。

 

「やぁ、アビドス高校の諸君」

 

 上から物を見ている言い方だった。

 

「ゲヘナの風紀委員が、なぜこちらにいらっしゃるのですか? それにさっきのは……」

 

 ノノミが尋ねれば、イオリは大して問題にならないといった風に説明する。

 

「ああ、ここに逃げ込んだ校則違反者達にお灸をすえようと思ってな」

「それって便利屋68のこと!?」

「ああ、その通り。というわけで、別にお前達に用はない。だから見逃してやるよ、さっさと撤退するならな」

 

 それは、流石のスネークでさえ怒りを覚えるような言い草だった。そもそも他人の土地にやって来て圧倒的な武力を振り翳したのはそっちだ。

 だからスネークが前に出ようとして。

 

「……ふざけないでよ!」

 

 セリカが怒りに震え、声を発した。

 ノノミも、そしてシロコも同意見。政治的な問題、それは捨てきれない。けれどそれよりももっと大切な事がある。

 

「私達の戦う理由は自分で決めるわ! こんだけのことしておいて、それで許されると思ってるわけ!?」

 

 エイハブの意思が、彼女にも伝播していた。

 

「……私達は、私達のために戦う。誰かに縛られることはない」

 

 シロコも、そしてノノミも武器を手放さない。

 

 便利屋68はその有志を、間近で見ていた。

 

「あの子達、風紀委員会の申し出を断った……?」

「ウッソ〜、敵うわけないじゃん……!」

 

 カヨコとムツキがそんな事を言い、ハルカが今のうちです、と逃げる事を促してくる。

 だが、アルはそうはしない。

 

「ねぇ。せっかくのパトロンを見捨てて逃げるって、アウトローじゃないわよね。目の前の戦いを見て見ぬふりして逃げるのって、アウトローじゃないわよね」

 

 火がついていた。自分達を高く買ってくれたエイハブが、こんな目に遭ってしまったということも大きい。

 それ以上に、自分達が始めてしまったことを、そのままにしておくことなんて出来やしなかった。

 

「何言っているの、今はそんなことより……!」

「アウトローって」

 

 アルはその目に強い信念を抱く。

 

「アウトローって、私達の目指すアウトローって、誰が相手でも自分の信念を曲げないことじゃない?」

 

 俺は、俺自身の忠を尽くす。

 

「私は、自分で戦う理由を決めるわ」

 

 戦う理由だけは俺が決める。

 

 知りもしないだろう。ビッグボスという生き様と、この若き社長が重なっているということを。

 だから彼女は銃を取る。自分の信じるもののために。

 

 

 

「それが答えってことでいいんだな?」

 

 イオリが銃を向け、威圧するもシロコは頷いてみせた。あからさまなため息を吐き、イオリは言う。

 

「後悔するなよっ!」

 

 刹那、彼女の人差し指が引き金を引き、シロコに向けて弾丸が放たれる。

 瞬時にシロコは射線を見切ると戦闘の火蓋が切って落とされた。だがスネークにはやらなければならない事がある。彼は気配を消し、路駐された車を盾にしながら慌てるチナツへと近付く。

 

 

 イオリは風紀委員として、様々な事態に対処してきた。

 美食研究会や温泉開発部などというテロリストみたいな集団にも立ち向かってきたし、自分の強さには自信があった。

 機動力を用いて相手を翻弄し、圧倒的な火力で点を制圧する。

 

 それが、今はまるで出来ない。

 

「カバー!」

 

 セリカが怒鳴るとノノミのミニガンがとんでもない音を発てて弾幕を張る。

 それらを曲芸のような機動で回避するも、回避した先にはシロコがいる。シロコは小銃を連発して突撃しながら、目の前まで来たと思えば小銃を左脇に追いやるように挟んだ。

 

 すぐにイオリも銃を向けるも、腕で弾かれる。

 格闘戦に移行しようとして、素早い動きでストックによる打撃を決めようとし。

 それを流され足を掛けられる。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしながらもイオリは回転して転ぶことを避けた。だが今度は真横から、セリカが格闘をしようとしてくる。

 右手に小銃を、左手にナイフを。彼女も歴としたCQCの継承者となっていた。

 

 逆手に持ったセリカのナイフが何度も空を斬る。鋭い連続攻撃だった。だが躱わせないほどではない。

 数回の斬りつけをなんとか回避するも、今度は銃を使って突いたり打撃してくる。おまけにシロコが合間を縫って撃ってもいる。銃弾はさすがに被弾してしまう。

 

「なんなんだこいつら……!」

 

 こんな戦いは見た事がなかった。跳躍して空に逃げようものならノノミのミニガンで蜂の巣にされそうになる。

 見事な連携だった。敵ながら天晴と言ってしまうほどに。

 

 

 

「待ちなさいイオリ……きゃ!?」

 

 イオリを止めようとしていたチナツの前に、にゅっ! っと、大人の男が現れる。突然の登場にチナツが驚いてしまった。

 だがその顔を見て、それも少し納得してしまう。

 

「久しぶりだな、チナツ」

「先生……!? どうして」

 

 初日以来の再会だった。

 




いつも誤字報告ありがとうございます。
でも一つだけお願いがあります。本文の意図を大きく変えるような修正はお控えください。よろしくお願いします。
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