蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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マニアックなシーン挟んだせいでいつもより長めです。
このためにわざわざYouTubeで総火演の動画を取り寄せたんだ!


赫怒 5

 

 

 キョウコ達の戦車が前進すると、たまらずゲヘナの旧ドイツ製戦車は散るように後退する。

 カタカタヘルメット団。そこから引っ張り上げられ、人権を与えられたのはたった数週間前だ。そこから適正検査により機甲科生徒となり、戦車車長となってからカズヒラによるスパルタ教育を受けた。通常の兵士ならば、圧倒的に時間は足りない。

 

 だがそれは大人だったら、という話だ。彼女達は青春を謳歌する少女。その成長スピードは比にならない。

 

「小隊横隊、前へ!」

 

 先日の便利屋襲撃において、装甲車を破壊されたもののその戦果から戦車小隊長となったキョウコが号令を出す。

 するとすぐさま広い道において四両の戦車が横一列に広がり、逃げていくゲヘナの戦車部隊にまるで覆い被さるように追撃する。

 

「タイガー射撃する! 目標後退する敵戦車! 砲手、徹甲、行進射!」

『確認!』

「撃て!」

 

 カズヒラから教えられた号令通りに彼女はスロートマイクに向けて言い放つ。刹那、四両の戦車……ソ連製のT−80の砲口から轟音と閃光が飛び出る。

 音速を遥かに超え、装甲を貫徹することだけに特化した装弾筒付き翼安定徹甲弾が飛翔すると。

 ゲヘナの戦車を、真正面から貫いた。

 射撃を受けた敵の四両のうち、三両から次第に爆炎が上がり、風紀委員会の戦車兵の少女達が真っ黒になりながら出てくる。シュールだが、キヴォトスの戦車戦とはそういうものだ。

 だが被弾したはずの敵一両は、幸運にも被弾角度が浅かったためか徹甲弾が装甲で弾かれたようだ。

 

「命中、効果あり! 目標変換! 被弾した敵戦車! 小隊集中、徹甲、撃て!」

 

 自動装填が終わるや否や、キョウコの号令とともに小隊の戦車全てがボロボロのゲヘナ戦車を射撃した。

 当たり前のように、射撃を受けた戦車は吹き飛ぶ。あれで死んでいないらしい。

 

 ゲヘナの戦車は既に残っていなかった。移動のために乗ってきたであろう非武装の装甲車くらいしか残っていない。

 

「CPこちらパンサー(キョウコ)、敵戦車部隊撃破!」

『了解です! 歩兵部隊と合流後、引き続き風紀委員会を駆逐してください! 火力支援の使用権限を渡します!』

「パンサー了! 小隊、これより歩兵部隊と合流する!」

 

 各車長からの応答を聞き、停止しようかと判断していると。

 

「キョウコ! レーザー検知!」

「レーザー検知! 小隊止まれ!」

「おりゃ!」

 

 砲手からの警告を聞き、キョウコが号令を出すとすぐにドライバーの少女はブレーキを踏む。あまりの急ブレーキにとてつも無い重力を感じて前のめりになるが、踏ん張って耐える。前に急ブレーキ時に頭をぶつけた事があるのだ。

 

「CP、パンサー! レーザー検知! 火力支援要請!」

『どうぞ!』

「座標送る! えーっと……二番街中央通り、北から二個目の交差点! 現在時刻より一分間、弾種榴弾、信管には時限!」

『え、えっと、分かりました!』

 

 アヤネが多少戸惑っているが、火力支援を受理したようだ。

 

「くそ〜、あいつら対戦車ミサイルまで持ってるなんて!」

 

 砲手の少女が渋い顔で言う。

 

「エイハブ先生大丈夫かな?」

「あの人は頑丈だから。あ、歩兵だ!」

 

 ドライバーの不安を打ち消そうと優しく言っていると、後方から新生アビドスの軽装甲車が数台やってくる。

 戦車の後方に軽装甲車が停止すれば、そこから下車して歩兵少女達が展開する。

 

「キョウコ! 今どんな感じ!?」

 

 そんな時、歩兵部隊の小隊長がキョウコの戦車によじ登って尋ねてきた。ハッチを開けて顔だけ出し、

 

「ゲヘナに対戦車ミサイルがいて火力支援要請中!」

「了解! まだ前進できないか……火力支援が」

 

 その瞬間、歩兵小隊長とキョウコの目の前に銃弾が通り過ぎた。

 背筋がぞわりと凍り、歩兵小隊長が急いで飛び降りると同時にキョウコもハッチを閉める。

 外では歩兵達が狙撃だ〜! っと叫び警戒する。

 

「小隊、正面警戒! 狙撃兵を見つけ次第撃破しろ!」

「キョウコ、いた! 狙撃兵!」

 

 照準器を覗く砲手が叫ぶ。キョウコもすぐに車長用の照準器を覗くと、ビルの2階に陣取りこちらに銃口を向けている風紀委員会の狙撃兵が見えた。

 

「小隊! 弾種変更、対榴! 小隊オーバーライド!」

 

 パネルのスイッチを入れて小隊の全車に対し優先権を得る。続けて照準器ハンドルのスイッチを握れば、小隊の戦車砲が全て狙撃兵の方を向く。

 ガコン、という音が響いて戦車砲の薬室に対戦車榴弾が装填されるとキョウコは注意喚起して号令を出す。

 

「戦車射撃するぞ! 小隊、目標狙撃兵! 砲手、対榴! 小隊集中射、撃て!」

 

 ドォン、という雷にも似た音が響く。注意喚起した事で耳をふさいだ事に加えて歩兵の少女達は皆ヘッドセットをしているため難聴にはならないだろう。

 うわ〜! っという情けない声とともに狙撃兵がギャグ漫画のように吹っ飛んでいく。いささかオーバーキルであるが、これもカズが決めた作戦行動規定に則っている。

 

「命中、撃ち方待て!」

 

 その瞬間、空から砲弾が降り注ぐ。あまり街中で迫撃砲は使いたくないが、ミサイルで戦車を失うよりはマシだ。

 曳火射撃によって前方のビル群を制圧すると、レーザーの警報も止む。どうやら砲弾の爆発にやられてくれたようだ。

 

「CPこちらパンサー。敵ミサイル制圧。歩兵部隊と共同で側面より攻撃を実施する」

『了解です! できれば早めにお願いします! わっ! こっちもゲヘナ生が多くて……』

「了解、すぐに対処する」

 

 アヤネとの無線を切るとキョウコは歩兵小隊の小隊長と連絡を取る。

 

「ハイエナ、こちらパンサー。敵は対戦車火器を保有している模様、そっちが主導で前進してほしい」

『了解。遅れるなよ〜!』

 

 相手は気の良い少女だ。昔からの馴染みでもある。アビドスで一番最初にエイハブによって制圧された生徒でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れるな! ついて来い!」

 

 戦闘の高揚感に身を包み、スネークが突っ込んでいく。それが今の自分にそぐわないとは思っていても、やはり戦士としての性には抗えない。だから、スネークはそれを全て否定はせずに自分と、そして自分が守りたいと思うもののために戦う。

 伝説の傭兵、或いは英雄。そう呼ばれる彼の戦いは、事情を知らないシロコとアルから見ても異常だった。彼はてっきり、こっそりと隠れる事が得意だと思っていたからだ。

 

『凄まじいな……』

 

 ボソリとカズヒラが声を漏らす。確かに昔から訓練成績は優秀だった。だがそれは主として潜入や不正規戦闘に関してである。こんな、当たれば一発で死ぬような戦場において、数発撃たなくては伸びもしない少女達を相手に鬼神のように戦っている。

 少し後ろで引き離されそうになっているシロコとアルが強引に前進する。スネークの目標は、敵中を突破することで陣形を破壊し、指揮をめちゃくちゃにすることなのだろう。相手は銃を持っているだけの少女なのだから。

 

 弾が切れればすぐに拳銃へとトランジションし、綺麗な構えで撃ちまくる。そしてすぐにリロードすると再度突っ込む。

 思えば、アーセナルギアの内部でも彼は雷電とともに鬼のような強さを見せていた。おまけに身体が老化しても、アウターヘイブン内で一発も喰らうことなくメリルを守りながら敵を撃退していたのだ。これくらいは当たり前なのかもしれない。

 

 一方でセリカ、カヨコ、そしてハルカも善戦している。

 小迂回し、後方で指揮をしていたチナツを追い詰めていく。

 

「死んでください、死んでください」

 

 呪文のように呟きながら、ハルカは一人突撃していく。護衛の攻撃をものともせず、ショットガンで蹴散らしながらチナツへと駆け寄る。ただのホラーだ。

 だが本命はハルカではない。カヨコとセリカ、その二人の機動力だ。

 

 パルクールのようにビルの壁を駆け巡り、二人は背後からチナツへと駆け寄る。

 

「はっ!?」

 

 気がついた時にはもう遅い、カヨコの射撃でチナツの拳銃が落とされ、セリカがCQCを仕掛ける。

 小銃のストックをチナツの肩に押し当て、足を掛けて思い切り押す。すると簡単なテコの原理でチナツは仰向けに倒れる。

 

「まだよ!」

 

 切れたセリカはそれだけでは終わらず、チナツの腹と右腕にそれぞれ膝を乗せると顔面に銃口を突きつけた。

 

「大人しくしなさい!」

「くっ……」

 

 それでチナツも大人しく降伏する。

 

 

 

 

 

 スネーク達は、イオリを追い詰めていた。丁度彼らが敵の本隊とイオリに当たった時、アビドスの歩兵小隊と戦車小隊が合流したのだ。

 火力は既に、アビドスが優勢。敵の迫撃砲も戦車の攻撃で使い物にならない。

 

「小隊、突撃にぃ!」

 

 歩兵小隊長の少女が廃車の影に隠れながら叫ぶ。これ以上接近すれば、それはもうCQCの間合いだ。

 

『デイヴィッド先生、射撃支援します!』

 

 キョウコの声がスピーカー越しに響く。

 

「了解!」

 

 歩兵小隊を見れば、彼女達は既にナイフを左手に持ちCQCをする気満々だった。

 シロコはマガジンを交換すると、頷いて準備が良いことを報告してくる。アルもやる気十分なようだ。

 

「突っ込むぞ!」

 

 スネークが叫び、廃車の影から身を乗り出す。

 

「突撃ィー!!!!!!」

「うぉりゃー!」

『小隊! 砲手、連装! 撃て!』

 

 戦車の機関銃を合図に歩兵小隊が横隊で突っ込む。相手との距離は数十メートルしかない。

 その状況にただの女学生達が耐えられるわけがなかった。すぐにほとんどの風紀委員会の生徒は逃げ出してしまう。

 

「おい! 逃げるな! ちょっと……」

 

 先頭のスネークを筆頭に、アビドス生達が突っ込んでくる。イオリの目尻に涙が溜まった。

 だがここで引いては風紀委員の名が廃る。イオリは戦うことを選んだ。もはや誰も味方は居なくとも。

 そしてそのガッツに、スネークは応える。格闘戦を挑もうと、逆に突っ込んでくるイオリと対峙した。

 

「こんのぉおおおおおお!」

 

 銀髪を揺らしながら、小銃を振りかぶる。スネークは振り下ろされる小銃を、M4で受け流しながら背後に回る。

 そして左手でイオリの肩を掴むと、膝裏を蹴って体勢を崩した。

 

「あだっ!?」

 

 そして背中を手で押す。何かぷちんという感触がしたが、今は戦闘中だ。

 シロコとアル、そしてスネークの銃口がイオリの後頭部に突きつけられる。勝敗が決まった。

 

「どうする、まだやるか」

 

 スネークが問い掛けると、イオリは何かにハッと気付いてうつ伏せのまま胸を抱え込んだ。何かまだ隠しているのだろうか。

 銃を片手でイオリに指向したまま、彼女を仰向けに転がす。もしかしたら、手榴弾でも抱えているのかもしれない。

 

「動くな」

「〜〜!!」

 

 イオリの顔は真っ赤に染まっていた。どうにも悔しさからの紅潮ではないらしい。

 何かを察したのか、シロコもアルも顔を背けた。一人スネークは困惑する。

 と、その時である。前方を警戒していた歩兵小隊長がやって来て、合点がいったと言わんばかりの笑みで大声を出した。

 

「あっ! あんたブラのホック外れたんだろ! 先生が背中押したから取れちゃったのかなぁ? あはは、よくあるよね〜!」

「〜〜!!!!」

 

 その瞬間、オタコンとカズヒラの軽蔑するようなため息が聞こえた気がした。

 

「い、いや俺はだな!」

『スネーク、いくら戦闘だからってそういうのは良くないよ……君、先生なんだからさぁ』

『流石に俺もCQCでブラを解除……なんてことはしなかったぞ……』

「おい、勘弁してくれ……!」

 

 慌てるスネークに、サポートの二人が好き放題言いまくる。今のスネークは女学生のブラのホックを解いた変態教師というレッテルが貼られ掛けていた。

 

 

 

 

 

『くっ……! アビドスの戦力がここまでとは……しかし、まだこちらの戦力は……!』

 

 ホログラムのアコが悔しそうに吠える。そう、まだまだ風紀委員はいるのだ。一個大隊が壊滅したところで、動員したのは計3個大隊。まだこの二倍ほどが控えているのだ。

 

 

 

 けれど、そうはならない。

 

「アコ」

 

 か細く、けれど力強い声がアコの動きを止める。

 ギギギ、と錆びた機械のように振り返れば、そこにいたのは……

 

『ヒ、ヒナ委員長!?』

 

 小さい背丈。真っ白な肌と長髪。それだけ見たら人形のような美しさ。けれどその立派に聳える黒い角と、背中の翼は異質である。背中には少女には不釣り合いな汎用機関銃。アメジストの瞳は、まるで宝石のように煌めいて、けれど深淵すらも感じさせる。

 ……とは言うものの、カズもオタコンも、そしてスネークでさえも、成長したら美人になるのだろうと思うくらいには美が勝っている。同時に、かつて想像したゴリラのような屈強さは感じられない。

 それはゲヘナ風紀委員会の風紀委員長、空崎ヒナ。ゲヘナ最強と恐れられる生徒だった。

 

「この状況、きちんと説明してもらう」

 

 楽器のように美しいヒナの声がアコを刺す。

 

『え、そ、その、えっと、これは……素行の悪い生徒達を捕まえようと……』

「便利屋68のこと? ……どこにもいないけど」

『な、何を言っているんですか、ここに……あれ?』

 

 スネークですら気が付かないほど、便利屋68の行動は素早かった。さっきまでアルが隣にいたはずなのに姿が見えない。

 

『そんなバカな!? ここにいたはず……委員長、すべて説明いたします!』

 

 必死なアコに、しかしヒナはもういいと言い放つ。

 

「大体把握した。……アコ、私達は風紀委員であって生徒会じゃない」

『それは、その……』

「詳しい話は帰ってから。校舎で謹慎していなさい」

『……はぁい』

 

 残念そうなアコのホログラムが消えると、ヒナはこちらに向き直った。

 

「ゲヘナの風紀委員長、この状況については理解されてますでしょうか?」

 

 緊張したような声色のアヤネが問い掛ける。

 

「事前通達無しでの、他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒達との衝突……」

「いや、それだけじゃない」

 

 スネークが間に入る。

 

「お前達は、一人の人間を殺しかけた」

「……何ですって?」

 

 エイハブのことを言わずにはいられなかった。これはもう、学生同士の喧嘩の範疇ではない。殺人未遂だ。

 

「アビドス高等学校に所属する教員が一名、そっちの先制攻撃で重症を負っている」

「……」

 

 ヒナは黙る。その冷酷な無表情が、少し揺れ動いた。

 

「……けれど、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実」

『ふざけるなッ!!!!!!』

 

 いきなり、カズヒラのホログラムがスネークの前に展開される。その姿はいつもの若々しいものではない。片脚と片腕の無い、そして少し年老いたものだ。スネークの記憶ではマスター・ミラーの手足は特に欠損はしていなかったはずだ。

 

「……あなたは?」

『アビドスの副顧問のカズヒラ・ミラーだ。お前達、公務だと? 人様の家に勝手に上がり込んで人を殺しかけるのが公務な訳があるか!』

「マスター」

 

 落ち着け、と言いかけるも手にした杖が伸びてスネークを制した。もちろん存在はしていない。

 

『確かに……ここはグレーゾーンに近い。お前達ゲヘナはそれを知っていた、だから攻めて来た。うちの彼女達はまだ知らないが……だが! ならばここは係争地帯だ! そうであるならば、いくら貴様らが公務と言い張ったところでアビドスにも言い分がある!』

 

 サングラスの下には明確な報復心が燃えていた。

 

『それにだ! 貴様らは連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)の人員であるデイヴィッドにも銃を向けた! これは連邦生徒会に対する明確な敵対と取る! 単なるゲヘナの治安維持部隊如きが、だ! ましてや部下の手綱すら握れていないじゃないか! さあ、風紀委員長! この責任はどう取る!』

 

 完全にカズヒラはゲヘナの風紀委員会を敵と見做していた。あまりにも正論すぎてスネークも、そしてオタコンも割って入れない。

 学生には酷であるが、誰かがこの責任を取る必要がある。

 ヒナは、表情を変えずにただカズヒラの視線を耐えていた。

 

 

 

 

「おじさんがいない間に大変なことになってるね〜」

 

 

 

 

 そんな、昼行燈な声が響く。

 行方の分からなかったホシノが、両者に割って入るようにやって来た。

 

「ホシノ……!」

 

 今一番、やって来てはいけない人物。

 エイハブが負傷したと知れば、きっと彼女は暴れるに違いなかった。彼女はエイハブに心酔し切っている。カズヒラもマズイと思ったのだろう、顔を顰めている。

 

「今までどこに……!」

「あはは、ごめんごめーん、ちょっと昼寝しててね〜」

 

 そんなわけが無い。中心街がこんな有様なのだ、アビドス高等学校で寝ていようものならば必ず気付く。ただでさえ襲撃で校内は慌てていたのに。

 ホシノはヒナと向き合うように立つと、一言だけ言った。

 

「先生を傷つけたね」

「……っ」

 

 笑っているようで笑っていない。そのオッドアイから滲み出る殺意は凄まじい。

 スネークが止めようとして、けれど今度はホシノが手を翳して制した。まるで警告のようだ。

 

「それで〜? 風紀委員長ちゃんはこんなに大勢で何しに来たの〜?」

「……やっぱり、小鳥遊ホシノ」

「……おじさんのこと、知ってるみたいだね?」

「……一年生の時とは随分変わった、人違いかと思ったけれど……変わってないわね。情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒達をある程度把握してたから」

 

 それは、きっと今でも変わらない。いや、一度は変わってまた戻ったのだ。

 

「うへへ〜、おじさんもしかして有名人?」

「小鳥遊ホシノ」

 

 ヒナが彼女の名を強く呼ぶ。

 

「忘れるはずがない。あの事件があった後、アビドスを去ったと思ってたけれど……そうか。だから連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)が……」

「なぁに? ちゃんと自分の思ってることを言葉にしないと伝わらないよ?」

 

 両者の間で、確実に何か良からぬやり取りがされている。一触即発。今すぐにでも銃撃戦になってもおかしくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騒がしいな。傷に響くからそこいらで止してくれないか」

 

 そして、またもや突然それはやって来た。血だらけで包帯まみれのエイハブだった。

 まるで少女達の喧嘩を眺めている時のように、その顔は笑っていた。

 

「先生……!」

「ホシノ、目が怖いぞ。よく眠れたか?」

 

 ぽんっとホシノの頭を撫でるエイハブ。スネーク達の背後では救護班の生徒達があわあわと慌てていた。どうやら勝手に出て来たらしい。

 

「……怪我、大丈夫なの?」

「ああ、まぁ痛いが。よくあるんだ、気にするな」

 

 そう言うと、エイハブはヒナと対する。まるでホシノを庇うかのように。

 

「お前が、風紀委員長か」

「……ぁっ……、あなたは……?」

 

 電子葉巻を取り出し、その水蒸気を胸一杯吸う。もくもくと口から出る煙は、ただ空へと登っていく。

 

「俺は……先生だ。アビドスの」

「そんな情報、聞いていないけれど」

「そりゃそうだろう。俺が言ってるだけだしな」

 

 エイハブは未だ、戸籍がない。当たり前だ、スネークとは事情が異なる。先生といってもただ名乗っているだけだ。

 

「まあそれは別にいい。……こっちとしても、長であるお前から謝罪の一つくらいは欲しいもんでな。見ろ、スーツがズタボロだ」

 

 それ以外に気にすることがあるだろ、とスネークもオタコンも思うが。これは彼なりの冗談だ。

 

「……そうね」

 

 ヒナは、あっさりとその場で頭を下げる。風紀委員達のざわめきが道路上に広がる。

 

『ボス! そんなんでいいのか!? あんたは死にかけたんだぞ!!!!!!』

「カズ」

『一方的に踏み込んできて、あんたをこんな目に遭わせたんだッ! こんな奴が、俺たちの!』

「カズ、聞け」

 

 低く、けれど重厚な声にカズヒラは押し黙った。

 

「そうだな、確かにそれなりに責任は取ってもらおう」

「……」

 

 ヒナはまだ、頭を下げたままだ。

 そんな小さな頭に、エイハブは右手を乗せ、撫でた。少しだけ、ホシノは目を細めた。

 

「貸し一つだ」

「貸し……?」

 

 ああ、とエイハブは頷く。

 

「もし何かあれば、アビドスを助けてほしい」

「先生、なにを」

「それでチャラだ。悪い話じゃないだろう」

「でも、先生!」

「ホシノ、お前も落ち着け。確かに怪我はしたが死んじゃいない」

 

 今度はホシノの頭を撫でる。すると彼女は頬を膨らませて黙ってしまった。

 

『……後悔はないな?』

「またそれか。カズ、お前はいちいち心配し過ぎだ。さ、帰ろう。俺たちの家に」

 

 足を引き摺りながらエイハブはホシノの肩を押すように言ってみせた。

 ヒナはようやく頭を上げ。

 

「……似てる……撤収、行くわよ」

 

 そう命令すると、風紀委員会達はあっさりと引き下がってみせた。

 だが最後に、ヒナがエイハブの背中に向けて言う。

 

「今回の件、ゲヘナ風紀委員会委員長である空崎ヒナが正式に謝罪する」

 

 困惑するアビドス生達を巻き込んで帰ろうとするエイハブは、ただ左手を上げてみせた。

 スネークもそれを見て、牙を抜かれてしまった。もう戦う意味はない。一番の被害者が、こうして許してしまえば誰も責められない。

 

「……先生」

 

 気がつくと、ヒナがスネークの前にいた。その無機質な瞳は何を考えているのか分からない。

 

「……なんだ」

「アビドスの捨てられた砂漠」

 

 オタコンはすぐに検索にかかる。

 

「あそこでカイザーコーポレーションが、何かを企んでいる」

「……!」

 

 それは、新たな動乱の予感であった。

 

 




誤字報告、感想等いつもありがとうございます。
新生アビドス生の立ち絵とかいりますかね?
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