蛇だった者たちへ。   作:Ciels

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赫怒 7

 

「これはこれは、お待ちしておりました。暁の……いえ、今やアビドス高等学校のボスである、小鳥遊ホシノさん」

 

 薄暗いオフィスに、そいつはいた。

 真っ黒のスーツ、真っ黒の顔、そこから溢れ出るかのような青白い光。ホシノはそいつを黒服と呼んでいた。

 

「今度は何の用だ」

 

 普段のホシノからは考えられないほどにドスの効いた声で、黒服に尋ねる。だが黒服はそんなホシノを相手にただほくそ笑んだ。

 

「状況が変わりましてね。再度、アビドス最高の神秘を持つホシノさんにご提案をしようと思いまして」

「ふざけるな」

 

 怒鳴ることはせず、彼女は尊崇する先生のように静かに言ってみせた。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください。あなたに、決して拒めないであろう提案を一つ」

 

 デスクの上に差し出されたのは一枚の紙切れ。度し難いものだ。その紙切れに書かれた内容はホシノを憤慨させる。だが彼女はあくまで冷静だった。

 もうあの頃の、弱いアビドスはいない。今、アビドスという無くなりかけていた存在は力をつけている。だからホシノも冷静でいられたのだ。

 黒服が、一枚の写真を取り出すまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アコは風紀委員室でひたすらに反省文を書かされていた。

 山積みになった反省文。けれどそれでもまだ到達目標には至らない。おまけに手書きだから、手も疲れる。

 

「まさかこうなるとは……」

 

 ボヤいたところで何も終わらない。ヒナは窓の外を眺めながら、

 

「何か言った?」

 

 と、アコに釘を刺す。驚いて落としたペンを拾い、アコはまた作業に戻る。反省文を書いているうちにも仕事は増えていく。

 

「あの、ヒナ委員長……これはいつまで続ければ……」

「今二百枚くらいでしょう? 自分で千枚書くって言ってなかった?」

 

 夜通し書いてこれなのだ。終わるのは一体いつになるやら。

 

「そ、それはその……それくらい反省しているという意味でして……」

「口より手を動かしなさい」

 

 項垂れるようにアコは俯き、そして作業を再開した。だがやはり、集中力は長くはもたない。すぐにアコはヒナに質問をした。

 

「そういえば、あのアビドスのホシノさんとはお知り合いなのですか?」

「いや、情報部にいた頃に調査はしてたけど、実際に会ったのは初めて」

「そうでしたか……どことなくお知り合いなのかと思いまして」

 

 ヒナは窓枠から離れ、室内を歩くと、冷蔵庫へと移動する。そしてドアを開けると水の入ったボトルを取り出した。

 

「小鳥遊ホシノ。天才と呼ばれた本物のエリート。二年前、情報部の分析では、ゲヘナの潜在的脅威の一つとしてリストアップされていた」

 

 淡々と語るヒナに、アコは疑問を呈する。

 

「まったくそんな風には見えませんでしたが……」

「アコ。そんな相手が率いる学園に、一個大隊が壊滅させられたの、忘れたの?」

「うっ……」

 

 返す言葉もない。彼女が独断で風紀委員を動かしたせいで、増強されたアビドスの軍隊と戦い、ほぼ一方的にやられてしまったのだから。

 

「……でも、確かに二年前とは全然変わっていた。かつて彼女は、攻撃的戦術を多用し、もっと荒っぽくて、ナイフのように鋭かった。……ま、それはさておき、あのまま交戦していたら、もう一個大隊は確実に戦闘不能になっていたはず。アコ、あなたの早とちりでね」

 

 う、とまた彼女は渋い顔をした。

 

「戦力の分析はしっかりと行っていたはずなのですが、そういった情報は……」

「あれだけやられておいてよく言う。ま、ある日突然活動報告も途切れたから、情報部もアビドス高校自体を脅威とみなさなかったのかもしれない。……アコ、手が止まっている」

 

 話で中断していた手を動かす。

 ヒナはまた窓際に戻り、ボトルのキャップを開けると小さい口でこくこくと水を飲む。しまった、これは水じゃなくて炭酸水だ。

 予想していなかったシュワシュワ感に眉を顰めると、不意に携帯のバイブレーションが作動した。すぐに取り出し、液晶に映る名前を見るとヒナは驚く。

 

「……アコ。電話しに外に行くから、しっかりと反省文を書くように」

「はいぃ……」

 

 そう告げて彼女は部屋から出ると、通話ボタンをタッチしてスピーカーを耳元にあてた。

 

「久しぶりね」

 

 スピーカーから響く声に、妙な既視感を覚えながらも彼女は淡々と話す。聞こえる声はどことなく嬉しそうでもあった。

 

「ええ、相変わらず仕事量は多いけれど、なんとかやってるわ」

 

 心なしかヒナの顔も嬉しそうではある。

 

「それはそうと、あまり美食研究会を図に乗らせないで。あなたのおかげで彼女たちがあまり飲食店を利用しなくなったのはありがたいけれど」

 

 美食研究会。それはゲヘナの部活の中でも最も過激なものの一つ。美食を追求するあまり、彼女達の舌にそぐわない、或いは食に敬意のない店などを吹き飛ばしたりする……まぁ、言ってしまえば狂人の集まりとでも言えようか。他校からはテロリストだと思われているらしい。

 だが電話口の人物は、笑いながら自分のせいじゃないとだけ言うと話題を変えた。聞きたいことがあると。

 

「今度はなに? 温泉開発部と山奥で温泉を掘ってるなんて言わないで。あの件、どれだけ私が苦しめられたか分かっているの?」

 

 そのことについては、しっかりと電話の声は謝罪してみせた。だが聞きたいのはそんなことではないらしい。

 それは、アビドス高等学校についてだった。

 

「……どこでその情報を? いや、いいわ。あなたのことだもの、私の知らない情報網の一つや二つ、持っていてもおかしくはない」

 

 アコの前にいる時とは打って変わり、ヒナの表情がよく変わる。

 

「……エイハブ? あの、義手の……アビドスの先生のこと?」

 

 不意に聞こえた名前に、ヒナは反応した。

 

「ええ。まぁ、怪我をさせてしまったけど……そうね。え? いや、角なんて無かったわ。何を言っているの?」

 

 質問に、ヒナは怪訝な顔をする。一体この質問の意図はなんだろうか。と、また新たな質問が。今度はアビドス高等学校のことについてだった。

 

「……そうね。ゲヘナの風紀委員会とも対等に渡り合えるほどの装備と練度。一人一人の練度が異様に高いことに加えて、装備も編成もより実戦的なものだった。まるでどこかからの脅威に備えているかのようにね。え? ダンボール? ……何を言っているのか分からないわ」

 

 ヒナがまた困る。一体この質問はどういったものなのだろうか。

 

「でも、そうね。いくらその先生と、連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)から本物の先生が来ているところで、彼女達単体でカイザーグループに立ち向かうのは厳しいでしょうね。……ねぇ、あのエイハブ先生とは、その、知り合いなの?」

 

 ヒナの質問に、しかし相手は唸るように声を出さない。どうやらあまり口にしたくない話題なのかもしれない。

 

「いいわ。どうせあなたの事だもの。それより……今度はいつ帰ってくるのかしら?」

 

 ヒナの言い方に、相手は笑ってみせた。まるで母親だと。

 

「あなたがまたおかしな事をして仕事を増やさないか心配なだけ。そもそも、今どこにいるのかしら」

 

 最後の質問にはすんなりと答えてみせた。そしてヒナは驚いてしまう。彼女らしくなく、声を張るほどに。

 

「え? アビドスの砂漠? カイザーコーポレーションの基地近く? ねぇ、本当に何をするつもりなの?」

 

 相手は笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人、ホシノはアビドス高等学校の屋上からグラウンドを見下ろす。その顔はいつもの彼女とは打って変わり、物憂げにも見えた。

 自分自身ではどうにもならない、不条理なことが多すぎる。まるで、時代に拒絶されているかのような。アビドスは、時代とともに滅ぶ運命にあるのだと言われているような、そんな感覚に彼女は不安を感じていた。

 眼下では、いつものように少女達が忙しなく動き回っている。

 運動する者、自主訓練をする者、車両を操縦して訓練する者……つい最近までは考えられなかった。

 

 回収した少女達を引き入れてきたアビドスにも、少しだけ変化が出てきた。それは、入校志願者が現れたことだ。

 どういう経緯で広まったのかは知らないが、最近不良少女達の間である種の伝説が生まれているのだという。

 それは、行き場のない者達の最後の楽園。否、楽園から追放された者達の、天国の外側。現に、入校志願者のすべてはスケバンだったり不良だったりする。

 最初こそ、不良であることを隠しもせずに先生や他生徒達に食って掛かることも多いが、そういう輩は須く先に「入校」した先輩方に教育されて根性を叩き直されるようだ。

 

「今日は屋上で昼寝か?」

 

 不意に、背後から声をかけられる。

 いつの間にかエイハブが屋上にやって来ていたらしい。隠れんぼじゃ勝てないのはいつもの事だが、色々と心臓に悪いとホシノは思う。

 

「そんなとこかな〜。そういう先生は?」

 

 ホシノの横で、同じように校庭を見下ろしながらファントムシガーを吸うエイハブに尋ねる。

 

「色々とうるさい奴らが多くてな。一服しに来た」

「まぁ、まだ安静にしてなきゃいけないしね〜。足、もう大丈夫なの?」

 

 ああ、と、ちょっとうんざりしたようにエイハブは頷いた。

 

「おかげさまでな。救護班の連中とカズは静かに寝てろとうるさいが」

「みんな心配してるんだよ。昨日まで完全には治ってなかったんだし」

 

 いくら医療用ナノマシンがあるとはいえ、無理はできない。まだ完全回復する前に無理をしてしまえば、異常が出るかもしれない。

 だがこの男が大人しくしていてくれるとはホシノも思っていなかった。それはアビドス皆がそうだ。

 

「先生が来てから、大分経ったね〜」

 

 ふと、ホシノは話題を変えてみせる。

 彼が来てから、本当に色々な事が変わった。良くならない状況が、好転しつつある。だが、それでも世界はアビドスを排除しに掛かるのだろう。

 けれど、不思議とエイハブと、そしてデイヴィッドがいればどうにかなるのではないかと思う自分がいる。いてしまう。

 

「そうだな。確かに、大分経った」

 

 彼が何を考え、煙を吐き出すのかは分からない。この高校のことか、或いは自分を殺したデイヴィッドのことか。それとももっと他のことなのか。もしかしたら、全部かもしれない。

 

「最初は変な大人が来たな〜って思ったけど」

「そうか? まぁそうかもしれないな。俺は今でも世間から見れば先生じゃなくて変なおじさんだ」

 

 そう言って彼は笑う。

 

「おじさんなら、似た者同士だね〜」

「お前は若いだろホシノ……ま、そうかもしれん」

 

 しばし、二人で校庭の喧騒を見る。ゲヘナの風紀委員に事実上の勝利を得てから、入校希望者は留まらない。今もほら、校庭では歩兵小隊長が新入り達をドヤしながら走り込んでいた。

 

「対策委員会のみんなだけじゃない。アビドス全体が、今は生き生きしてる」

「俺は何もしてない。全部お前達がやってきたことが身を結んだんだ」

「にひひ……確かにそうかもね」

 

 珍しく、ホシノは謙遜しない。

 

「キョウコちゃん達はアビドスのためにずっと頑張ってくれるし」

 

 校庭で戦車の動きを教えるキョウコを見る。

 

「セリカちゃんはみんなを頼るようになったし」

 

 素直になれないセリカを思い出す。でも、今はそうじゃない。

 

「アヤネちゃんは、顔を上げてくれる時間が増えたかな」

 

 忙しそうに、不安そうにタブレットと睨めっこしていた頃のアヤネ。

 

「ノノミちゃんは誰のためでもなく純粋に笑ってくれることが増えた」

 

 癒し手とも呼べるノノミ。彼女に耳掃除をしてもらった事をエイハブは密かに思い出していた。カズにはしっかり見られていたらしいが。

 

「シロコちゃんは……ん、呼吸が深くなったと思う」

「はは、シロコは特に独特だからな」

 

 銀行強盗を提案したり。

 エイハブは、ホシノの背中を叩くように押した。それはたまに、気合いや元気を入れてくれる時にしてくる行動だった。

 

「ホシノ。お前も頑張ってる。みんなお前を頼りにしてる」

「おじさんはただ、みんなの生活を守りたいだけだよぅ〜」

 

 その行動が嬉しくて、けれど恥ずかしくていつもの飄々としたおじさんを演じる。

 エイハブはいつものように左側の口角を上げて笑う。

 

「お前のその努力が、アビドスの笑顔に繋がってるのさ」

 

 素直な賞賛が、嬉しかった。ただただ嬉しくて、顔を上げるとエイハブの優しい笑顔だけがそこにあった。父親のような笑顔に、ホシノは一瞬笑って、けれど下を俯く。そこに笑みはなかった。

 

「……そのためにはもう、前に進むしか」

「……ホシノ」

 

 きっと、今の小声を聞いていたのだと思う。けれどエイハブは何も尋ねなかった。

 

「いや〜、先生にそう言ってもらえると、安心して昼寝できるな〜って」

 

 だから、笑顔で取り繕う。前に進むしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アロナ、アロナ」

 

 寝ているアロナの肩を揺さぶる。

 また何か陽気な夢でも見ているのだろうか。

 

「アロナはそうなると、中々起きてくれないから……」

 

 あはは、と困ったように隣でオタコンが言う。

 今、スネークは意識をシッテムの箱に移動させていた。昔流行ったVRのように、奇妙なデジタル感はない。まるで現実に起きているかのようなリアリティがある。オタコン曰く、元いた世界でも実現できないレベルのことらしい。もちろんオタコンはVR技術などを応用したもので、擬似的にこの空間に存在しているだけだが。

 

「まったく……呑気に昼寝か。まぁこの子らしいが」

「彼女も頑張ってくれてるからね。実際、君がゲヘナ生と戦っている時もずっと守ってくれていた」

「あの、エネルギーのバリアか。あれがあればFOX HOUNDやBBとも楽にやり合えただろうな」

 

 いや、きっとあの強敵達はいくら超技術があっても苦戦はするだろう。

 

「今は寝かせておいてあげてくれ。それでスネーク、何か用があってここに来たんだろう?」

「ああ」

 

 スネークは近くの机の上に腰掛けると、妙に周囲を警戒する。

 

「大丈夫だ、この空間にはマスターミラーは入り込めないし、盗聴もできない」

「そうか……いや、別に聞かれてまずい話じゃないんだが。オタコン、アロナと調べて欲しいことがある」

「カイザーのこと?」

 

 スネークは頷いた。きっとミラーもエイハブも、そして他の生徒もいない状態での頼みということは、彼女達が下手に暴走しないためなのだろう。カイザーというワードは、今のアビドスではほぼ禁句に近い。対策委員会も、まぁ良い思いはしていないだろうが、それ以上に他の生徒達が非常に毛嫌いしているのだ。当然だ、カイザーコーポレーションはアビドスを脅かす敵なのだから。

 それに、カズヒラは密かに生徒達にカイザーコーポレーションに対して敵意を抱かせるような事を吹聴しているようだった。プロパガンダに近いものだ。

 

「奴らが砂漠で何をしているのか。それが知りたい」

「分かった。僕とアロナでそっちは調べてみるよ」

「衛星写真ではどうだった?」

「ダメだね。奴ら、随分と前に基地を建設してくれたおかげで上空からは何も分からない」

 

 やはり、巨大企業なだけあってその辺りは対策されている。上空からの偽装は基本だから、それは当たり前だ。

 

「分かった。それともう一つ……」

「なんだい?」

 

 しかしスネークは、そこでしばらく黙ってしまった。

 

「……いや。なんでもない」

「ホシノのことかい?」

「……いや、これは俺が自分で調べる。先生だからな」

「……君のそういうとこ、変わってないね」

 

 それはお前もだ、と言わんばかりにスネークは笑う。言わずにこちらのことを理解してくれるのは、この痩せこけた相棒だけだ。

 

 

 

 

 

 

 アビドス対策委員会室に入ると、いつもの五人とエイハブ、そしてカズヒラがいた。どうにもその空気は重い。

 

「大将の所には行ったのか?」

「はい、もうすぐ退院できるそうで」

 

 当たり障りのない会話でノノミと話す。だがそれが良くなかった。

 

「先生、アビドスの地権について大将から聞いたわ」

 

 セリカが怒りを隠せないといった様子でそう言った。どうやら、彼女達もこの件について知ってしまったらしい。遅かれ早かれ知ることになるが、どうして自分はこうもタイミングが悪いのか。スネークは頭を抱えそうになった。

 

「そうか」

「やっぱり、先生も知ってたのね。いつから?」

「ゲヘナとの戦闘の後にな」

 

 自分だって知ったのは二、三日前だ。それを彼女達に言えなかったのは、無用な混乱を避けるためではあるが。

 

『……最初から、カイザーの奴らが仕組んでいたんだろう。地権のことについては巧妙に隠されていた。不自然なほどに』

 

 ゲヘナとの戦いから、姿が変わってしまったカズヒラが口を開いた。

 

「……目的はなに? それに、いつから?」

『目的は分からん。だが随分と前に、生徒会とカイザーコーポレーションの間に取引があった。砂漠化の件で混乱しているアビドスに、多額の融資をする。その担保として、地権を移譲する。本来ならば、あってはならないことだ』

 

 シロコの質問に答えるミラー。ぎろりと、サングラスの下の瞳が光った気がした。

 

「全部、繋がってた……便利屋のみなさんも、ヘルメット団も。ずっと、カイザーの手の内で」

 

 アヤネが呟く。セリカが怒りを露わにするが、それを抑えられる者などいなかった。ただ一人を除いて。

 

 

「ふぁ〜あ。最近さぁ、寝ても寝ても寝た気がしないんだよねぇ。おじさんも歳かねぇ」

 

 不意にホシノが、いつもの昼行燈な様子でそう言った。お前は若いだろ、と思いながらもスネーク達大人は黙る。という彼女は窓枠に立つと、空を見上げる。

 

「おっ! みてみて、あの雲くじらっぽくない〜?」

 

 拍子抜けするほどに演じる彼女に、皆の怒りは収まる。困惑するアヤネだが、それを見ていたノノミは笑う。セリカも最初こそいつものように真面目にやれと言うものの、彼女達に毒気を抜かれた。

 スネークは、そんな彼女達に微笑む。オタコンも、エイハブも、そして怒りで変わってしまったカズヒラも、それは同じだった。

 

 少女達は、純粋で、輝いている。その輝きを失わせるわけにはいかない。

 水族館に行こうというホシノの提案を、皆が受け入れる。まだ分からないことを、できるなら笑顔で待っていたいという彼女を、支える。それが大人の使命なのだから。

 そんな彼女達を見て、エイハブは笑みを浮かべて電子葉巻を取り出した。

 

「ここは禁煙だ」

「ああ……」

 

 そしてすぐに、ちょっとだけしょんぼりしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠を一人、練り歩く。

 暑い日差しと乾いた大地は、同じキヴォトスとは思えないほどに過酷だ。

 日除のための布を纏うが、そうすると今度は中が蒸れる。よほど自然は人間が嫌いらしい。

 

 コンパスと地図を頼りにしばらく歩けば、目的の場所が見えてきた。砂漠の中に急に現れる、アビドスの市街地。そしてその中央にある、アビドス高等学校。

 高めの丘陵に登ると、双眼鏡を取り出して観察する。聞いてはいたが、その校庭では熱心に少女達が軍事的な訓練を行なっていた。見ただけで、練度の高さを感じられる。よくもまぁ、短時間であれだけ教え込めたものだ。ゲヘナの風紀委員も見習ってほしい。

 

 と、双眼鏡の倍率を上げれば、屋上に人がいるのが見てとれた。どうやら生徒ではない。あれは、男だ。男が二人、屋上で何やら話している。

 指向性マイク機能のある双眼鏡だ、声もスピーカー越しに聞こえてくる。

 

『お前達なら知ってるんじゃないのか。ホシノがどこに行っていたのかを』

 

 懐かしい声だった。最後に聞いたのは年老いた声だったけれど、今は若い声色だった。

 

『ホシノは定期的に、カイザーのビルに出向いている。誰にも行き先を告げずに、ただ昼寝していただけだと嘘をついて。お前にも、何も言っていないのか』

 

 多少の怒気を孕んだ声だった。何やら穏やかではないらしい。

 

『……それを知って、お前はどうするんだ。デイヴィッド』

『……それはこっちのセリフだ。ホシノが何かを隠しているのは事実だ。お前は、彼女をどうするつもりだ』

『別にどうもしない。ただ……』

 

 本当に、本当に。懐かしい声だ。二人とも声は似ているが、自分には分かる。だって、彼は友なのだから。自分の大切な、仲間だったのだから。

 

『俺は、ホシノを信じてる。それだけだ』

 

 それだけ聞くと、双眼鏡をしまう。二人とも、自分基準で元気そうだった。特に連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)で活動している方は、なんだか若々しくなってこっちまで嬉しくなる。

 アビドス高校に背を向けると、また歩き出す。彼らに使命があるように、自分にも使命がある。

 ふと、連絡を取りたい人物がいた。携帯を取り出すと、電話帳を開いてタップする。本当に便利な端末だ。

 

 数度のコール音の後、少女の声が響く。

 

『久しぶりね』

 

 ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ。

 

「ヒナ。どうだ、そっちの様子は」

 

 そうして会話をしながら歩く。ヒナと電話をしながら。たまに、自分のしでかした事を怒られながら。

 その声は、スネーク達と似通っていた。

 

 

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