あと一番下に、今章のテーマを貼りました。挿絵機能がなぜか使えないのでTwitterのURL貼ります。
仮住まいとなっているヘリの中で、カセットテープを再生機に入れる。それを見ずに再生ボタンを手探りで押すと、ファントムシガーを口に咥えた。
iDROIDの着火ボタンを押しながらホログラムの火でファントムシガーの電源を入れる。本当なら葉巻を吸いたい気分だった。
『ボス、よく撃たなかったな』
テープが再生され、カズの声が響く。
『……ホシノに止められた』
『そうか……だが、結果的に全面戦争は回避できた。デイヴィッドが機転を効かせてくれて助かったしな。それにしても、ヒヤヒヤしたぞ。いつあんたが撃ってもおかしくない状況だった』
それには何も言い返す言葉がない。あの時の自分は完全に報復心に似た怒りに囚われていた。あの理事に仲間を殺されたわけでもない。だが、ホシノ達の怒りを受け過ぎた結果なのだろう。
共感とは、恐ろしいものだ。それを自分達は、あの少年の件で良く知っている。
『奴は言っていた。宝物を探していると』
『ああ。それが何を指しているのかは分からない。何かの隠語なのは確かだが……』
『ゲマトリア……奴はそうも言っていた』
ゲマトリア。あの理事が言うには、そいつらがホシノを狙っているらしい。それについては看過できない。
『アロナと協力して調べたが、キヴォトスのデータバンクにはそんな組織はなかった。或いは、個人なのかもしれないが』
『狙いはなんだ? ホシノを手に入れて、何をしようとしている?』
『分からん。だが神秘の強さが関係しているのかもしれん』
『神秘の?』
ああ、とカズは頷くように言う。
『キヴォトスの学生達が神秘を持っていることは前に話したよな』
『ああ。だから彼女達には銃弾が効かない』
『そうだ。だが、その防御力の高さは神秘の副産物であるとの見解がある。詳しくは分からんが』
悩むような自分の唸り声が響く。
『どっちにしろ、碌な奴らじゃないことは確かだ』
ブツっと、テープが切れる。再生機からテープを取り出し、まだ聞いてないテープを入れる。それは自分とデイヴィッド達との会話が収められたものだ。
『しかし、よく連邦法を覚えていたな』
『……あれくらい、あんたに叩き込まれた知識に比べれば朝飯前だ』
ニヤリと笑うデイヴィッドの顔が脳裏に浮かぶ。何処となくカズも嬉しそうに、フンっと笑って見せた。
『ま、そうせざるを得なかったんだけどね。
『そうなのか。なら、あのユウカやノア……だったか。あの生徒達は連邦法を熟知しているのか? お前達を手伝っていると聞いたが』
オタコンの補足に、カズが質問をする。
『彼女達には連邦法に関わらない部分の書類や、区分けなんかをしてもらってる。データ系は僕やアロナで分担してるしね』
『なるほど。確かに、女学生に機密書類なんかは任せられない』
様々な権限を持つ
と、そんな時だ。不意にデイヴィッドが自分に話題を振った。
『……エイハブ。ホシノの事だが』
なんだ、と自分が答えれば、彼は少し言い辛そうに口を開いた。
『ホシノは、自分を犠牲に何かしようとしているのかもしれない』
『どういうことだ?』
困惑したような自分の声色が響く。
『退学届の件だ。その意図は分からないが……』
『自分の退学と引き換えに、アビドスを救おうと?』
『ああ。……ホシノの事だ、それくらいのことはしでかしても不思議じゃない』
デイヴィッドの言う通りだった。彼女は普段の昼行燈さとは引き換えに、自己犠牲の精神が強い。それに、自分が大きく影響を与えてしまっているのも良くなかった。
どちらにせよ、退学届の件はカイザーの件と同じくらい重要度が高い。
『だが……一体どうやって?』
『……ゲマトリア。そいつらが、もしかしたら裏で手引きを?』
自分の疑問にカズが推察をする。
『奴らが何を企んでいるのかは分からん。だが……事はカイザーだけで収まらないのかもしれない』
デイヴィッドの声を最後に、テープが切れる。またテープを交換して、再生する。
『ゲマトリア。どうやら意味は、ヘブライ語らしい』
カズの説明から始まった。
『ヘブライ文字をヘブライ数字の法則に則って変換し、単語や文章を数値化して扱う手法の事を指している』
『……つまり?』
『簡単に言えば、聖書などに出てくる数字には意味があるとして、ゲマトリアの法則を用いて隠された意味を探そうという……まぁ、暗号解読法みたいなものだ。と言っても、もっぱら都市伝説なんかに出てくる与太話が多い』
ううむ、と自分の唸り声がする。だからなんだというのが感想だ。
『まぁ意味を調べたところで答えが出たわけじゃないが……』
『オカルト連中だってことか。まぁ神秘が目に見える世界だ、おかしな話じゃない』
『そもそも、俺たちだって死人だ。存在そのものがオカルトに近い』
二本目のファントムシガーに火をつける。
『ともあれ、それだけ胡散臭い奴らということだ。ホシノをどうするのかも見当がつかんし、こちらとしても今は何かをするつもりもない』
『それは間違いない。……だが、奴らがカイザーの裏にいるとしたら』
『ああ。かなり厄介な事になる。大企業を操れるほどの力……下手をすれば、サイファーに匹敵する』
つまり、自分達は再び世界を敵に回すかもしれない。
『だが、あの時と違ってこっちには
テープが切れる。
正義、大義。あの頃になかったとは……思えない。少なくとも、俺たちは正しいと信じたもののために戦っていた。血に穢れた正義や大義だが。
ファントムシガーをポーチに収納し、ヘリのドアを開く。飛び降りるようにヘリから出ると、屋上を後にする。
しばらく廊下を歩き、思考を整理しようと夜のアビドスを散歩するため玄関に向かえば。
ホシノとデイヴィッドが、何か話していた。
咄嗟に隠れてしまうのは悪い癖だ。
「ホシノ、俺たちは……誰かの道具じゃない。好きなように生きろ。だが誰かを悲しませるな。それはみんなが……何よりあいつが望んじゃいないはずだ」
デイヴィッドの声が廊下に響く。
自分はただ、彼らの会話を聞いていることしかできなかった。
そっと、その場を後にする。正直な話。ホシノに対して自分はどうすればいいのだろう。
ビッグボスの影武者になって、世界を敵に回したと言うのに。一人の少女を救ってやることもできないとは。
エイハブは、裏口から一人、アビドスの街中へ繰り出した。