まぁその、なんだ。だいたい私の願望でできている。
Twitter( https://twitter.com/kome_asterisk/status/1762497173026201923 )に投稿したやつです。
(他の小春六花作品(まぁ3/4は私だがな!)と同様に、原作名は「VOICEROID」ということにしてあります。このサイトではCevio勢もこれに分類されているので)
昼休み。机の上のスマホからLINEの通知音が鳴った。
片手で電源ボタン押して、ロックかけたまま目だけで見ると、お父さんの名前。
「うげ、お父さんからだ。ちょっとごめん」
そう告げて友達と別れてから、廊下の端の階段の、ちょうど
「うげ」なんて言ったけれども、別にお父さんのことが嫌いなわけじゃない。むしろ、私の親ランキングなら断トツの一番だ。
そらもちろん2人しかいないけど。とはいえ、親戚って言っちゃうと、会うたびになんだかんだと理由付けてお金をくれるお祖母ちゃんがいるから、かなりいい勝負になってしまうのだ。
それはともかく。
今だって、お父さんから「六花、」ってメッセージ来ただけなのに、こっちから電話かけてるわけで。
いやいや、そう言うと、逆になんだか私がお父さん大好きっ子みたいじゃん。別にそういうんじゃない。
さっきも変な「、」が入ってたように、お父さんはLINEがへたっぴだから、文字でやり取りしてると遅いわ分かりにくいわ理解しないわで、面倒で仕方がない。だから電話かけてちゃっちゃと済ませようとしているだけ。
それに、声の方が情報量多いし。あ、今のなんか賢いキャラっぽい。
「どしたの、お父さん」
スマホから、「んん」とか、「ああ」とか、「いや」とか。そんな感じの音がする。歯切れが悪い。こういうときは、だいたいしょうもない用件だ。
「なにさ。言ってくれないと、私のお昼休みなくなっちゃうんですけど」
すると、さすがにばつが悪くなったのか、電話するほどのことでもないけど、とか言いながら、夕飯は何かと聞いてきた。
「ゆーはん~~?」
それを聞いてどうするんだ。どーせ今日も
まぁでも、昨日は作りましたが? 褒めよ讃えよ。ヨーグルトを差し出せ。あ、いやでも昨日買ってきたか。そのついでに買い物したから夕飯用意したわけで。今日もその残り物を夕飯に……
いや待て、残り物があるのになぜお父さんは電話をかけた? 残り物の存在を忘れていた? いったいなぜ……
そこで名探偵六花ちゃんは気づく。犯人の目的は夕飯ではなく……昼飯! だから昨日の残りに思い至らなかった!
「ははーん、さてはお父さん、昼ご飯決めらんないから私に聞いたんでしょ」
返事がない。図星だな~?
「夕飯聞いて、てきとーに被らないもの食べようとしてたわけだ」
お父さんはそういうとこがある。何聞いても「なんでもいい」って言うんだもん。そこは、ちょっとだけあの人に同情しないでもない。
で、きっとお父さんは、私に聞けば、「お昼は○○食べたら」って返してくれるんじゃないかなって、ちょっと期待していたのだ、おそらく。
しょーがないなー。六花ちゃんに任せなさい。
「お寿司食べなよお寿司、ちょっと高いの。いいやつ」
電話口からは戸惑う声。しかし意に介さず、私は続ける。
「ううん、今日はお寿司食べなきゃダメ」
「だいたいさぁ、いっくらお父さんが普段から優柔不断だって言っても、今日は相当だよそれ」
さすがに毎日昼ご飯で電話なんてしてたら、「どんな関係だよ」ってなるし。そんなこと新婚さんもやらないと思う。……食事制限してるアスリートと栄養士とか?
「お父さんは疲れてるんだよ。最近夜も遅いし。土日も結構いないし」
そして、帰って来たときには、あと少しでほんとうに死んでしまいそうな顔をしているし。
そんなにぼろぼろになってまで、私のために働いているのだ、お父さんは。
そんなにぼろぼろになるまで、私と、それから、妻だった人のために、働いていたのだ、お父さんは。
だから、私はお父さんを嫌いになんてならない。あの人とは違って。
「きっと、お父さんはさ、何かを決めるための力を、お仕事中に使い果たしちゃってるんだと思う」
だからさ、と私は続ける。
「おべんと、つくろっか?」
予想通り、素っ頓狂な声。
「いや、誰がって、私が」
私とお父さんしかいないんだから、私に決まってるでしょうが。
大変だろう、負担になるんじゃないか、とか、そんな返事が返って来る。
「いいから、私がつくりたいの。最近購買高いし混んでるし」
でも、お父さんの声色は、嫌そうでは、ない。嬉しそう、だと思う。たぶん、きっと。
「自分で作れば好きなものだけ入れられるじゃん。ブロッコリー絶対入ってないんだよ!」
ひょっとしたら、食に無頓着なお父さんのことだから、弁当自体が嬉しいのではなくて、私にそこまで思ってもらえているから、とか、そういうのかもしれない。
でも、それなら、それはそれで、うん。
「冷凍食品使えばさ、全然手間かからないんだって。ご飯はまとめて炊けるし、炊飯器大きいから」
嫌いな人に教わったことでも、嫌いな人が買ってきたものでも、好きな人のために使えるのなら、知識にも物にも罪はない。
「それ以上ゴネるなら明日はトマト弁当だからね! プチトマト丸ごとのやつ!」
お父さんはプチトマトが口の中ではじけるのが嫌いだ、というのも、あの人から聞いたことだ。
……いや、これから入れないように気をつければ罪にはならないし。まだ未遂だし。
とまぁ、そんなこんなで。
「はいはい、じゃあね、また夜ね。ラストの外食ランチ、ちゃんとお寿司食べて来てね」
晴れて(?)、私はお父さんにお弁当を作ることになった。
電話を切って、画面上の時計を見て、思ったより長く話していたことに気づく。
もう昼休み全然残ってないじゃん。お父さんがゴネたせいだ。後でヨーグルトのひとつでもせびらねば。
「ごめんごめん、遅くなっちった」
後ろの扉から教室に戻って、友達たちに謝る。いいってことよ、と許してもらって定位置へ。いや、「いいってことよ」とは言われてないけど。
すると、先生の不機嫌度の判別に定評のある友達が、私の方を見て、「なんかいいことでもあったの?」と。
「え、いや、とくに何もないけど……」
さすがに、お父さんのお弁当作ることになったとは言わない。お父さん大好きっ子みたいに思われそうだし。
しかし、そんなに嬉しそうに見えていたのか。言われてみれば、私もちょっとした達成感があるような、いや、優越感? うーん、なんて読んだらいいんだろう。
給食のデザートじゃんけんでヨーグルトを勝ち取ったとき、みたいな。それはちょっと突き抜け過ぎか。
そんなことを思っていると、もう一人が「さては六花、彼氏と話してたでしょ」などと追及してくる。
「彼氏じゃないって、てかいないって」
しかし私は平然と答える。私に恋人がいないのは周知の事実。さすがに無理攻めだ。大丈夫、問題ない。
ところが追撃は予想外の鋭さだった。
えーでも、あーこが彼氏の家でご飯作る約束したときみたいな顔してるよ、だと。
なんでそんな具体的なんだ。ニアミスにもほどがある。飛行機だったら一大事だぞ。
そんなことない、と否定しつつ、しかしちょっと気になることが。
「あきっち料理できたの?」
するとあきっち(あきこちゃんだからあきっちだのあーこだの呼ばれている)が言うことには、できるもなにもウチは料理屋だぞと。
それは、さすがに、聞き捨てならない。
「………………あきっち、いやあきこちゃん、ううん亜希子様! 料理教えてください!」
以来、小春六花という奴に好きな人ができていて、その人に手料理を振る舞おうとしているという噂は、潮高2年生に瞬く間に広まった。
女子高生は昼休みにすぐに他所の教室に行く生態を持っているせいだ。あの日はすぐに予鈴が鳴ったから、あまり問い詰められずに済んだけれども。
もちろん、家ではお父さんにも料理の頻度が増えていることがバレるわけで。
「せっかく自分で食べるお弁当なんだし、美味しいものの方がいいの」と答えておいた。
そりゃあ、それもあるけれど。それだけではない。
夕飯はあの人も(たぶん、自分でも食べるから)ちゃんと作っていたから、私が作ったところで、年季も使える時間も違うから、勝ち目がなかった。
でも、お弁当なら話は別だ。
それに、お父さんの中の「お弁当」が、適当な冷凍食品ばかりの、味気ないご飯のままなのは、寂しいじゃないか。
これで衣と、それから食の三分の一は間違いなく、私の影響だ。もうちょっと料理が上手くなれば、衣食住過半数も夢じゃない、かもしれない。
そう思うと、ヨーグルトのかかったデザートじゃんけんより、ずっと気分が高揚するのを感じた。
なんか、つい六花にお昼ご飯何にするか相談しようかとか思っちゃって、そこで「思い出した」んですよ。
まぁでも、六花のことだから3日に1回は「ごめん今日は弁当なし!」ってなるんで、全然外でランチ食べる機会はあるんですが……