元一級呪詛師 スカー・レッド   作:傷んだ赤色

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長らく更新が途絶えてしまい申し訳ありません
エタらないです




「夜蛾を殺したのは儂だ」

 

「……そ」

 

「何故だ」

 

「何が」

 

「揃いも揃って何故儂に呪いをかけんのだ」

 

「別に。アンタのことは学長を通してよく知ってるつもりだ。潔癖マニュアル人間の成れ果て。だからこそ信用できる部分もある」

 

「……儂は遂行する意味もない命令に従ったのだぞ」

 

「それこそアンタのせいじゃないでしょ。僕が封印された事が発端だろうし、死亡を隠蔽してた補佐連中の暴走だって原因は橙子だ。アンタをごちゃごちゃ責める気にもなんないよ」

 

「………」

 

「…学長は最後になんか言ってた?」

 

「パンダのこと……あの呪骸は突然変異ではなく作り方があると…そしてこのことは蒼崎橙子には決して伝えるな、と…」

 

「……ははっ、その歳でも人は変われるんだね」

 

「どういう意味だ」

 

「パンダの秘密は特級案件だ。正式じゃないとはいえ上に報告しないなんて今までのアンタならあり得ない。変わったね、お爺ちゃん。アンタが総監部のトップに立てば少しはマシになるでしょ」

 

「…蒼崎についてはどう思う」

 

「あいつには伝えない方がいいね。その技術で何を作るか分かったもんじゃないし、最悪現状をほっぽり出して研究に夢中になる」

 

 

 

「私を分かっていないな、五条」

 

 薄い笑みを浮かべて、イヤホンを外し静かに呟いた。

 

 

 

 

 

「以前冥さんにおすすめの移住先を聞いた時に言われたんです」

 

『新しい自分になりたいなら北へ、昔の自分は戻りたいなら南へ行きなさい』

 

「私は迷わず南国を選んだ。そんな後ろ向きな私が最後に未来に賭けたんだ。悪くない最後でしたよ。灰原にも感謝してる」

 

 憑き物が落ちたような淡い笑みを浮かべながら七海は自分の人生を締め括った。それに灰原がどうもどうも、と返すのを聞いて、あの遠い青春に戻ったような気がした。

 

「そっか…」

 

 あの時のようにまた学長を揶揄ってやろうと顔を上げて、まだ人がいることに気付いた。煙草をふかしながらゆっくり歩いてきた彼女は無言でオレの首根っこをつかみ引きずっていく。

 

「えっ、ちょ、何でオマエいんの!?つか離せ!どこに連れてく気だよ!」

 

 グイッ、とまた引っ張られ、立たされる。

 

「………」

 

 めちゃくちゃ後ろを向けと、ジェスチャーしているが従うのが癪なので逆にガンをつけてやる。

 

「……」

 

 するとため息を吐きながら頭が痛い、とポーズをとる。そこで相手の動作に全く音がしないことに気付いた。

 

「おい、どうなってんだよとう…」

 

 名前を言い切る前に強引に後ろを向かされた。

 

 空。青空が広がっているとかいう話ではなく、視界全てが空。ほんとに何なんだ、と後ろにいる奴に問い詰めようとしたが全く体が動かず、声も出ない。

 

 そして、ガッ、と背中を蹴られた。

 

 

 

「『五条悟』」

 

 現代最強の呪術師、五条悟の死亡。鹿紫雲一の敗北と宿儺の変身の完了。

 

 そこへ畳み掛けるように虎杖悠仁と日車寛見が現れてすぐ。2体の人形が2人に抱きつき拘束した。

 

「んっ、だこれ!マネキン!?」

 

「くっ…」

 

『悪いな、虎杖悠仁、日車寛見。これから第2ラウンドだ』

 

「橙子さん!?」

 

 力づくで剥がそうとしたところで人形の口が開き、橙子の声が流れる。力が抜けた一瞬を突いて跳躍し、少し離れた所で二人を離す。

 

『お前たちの出番はもうちょっと後だ。巻き込まれるから戻ってくるなよ』

 

 一方的に告げて人形は自壊してしまう。急な独断行動に驚きすぐにでも戻ろうとした二人だったが、橙子の隣に立っている人物を見てむしろ逆の行動をとった。

 

 

 

 五条悟、乙骨憂太に並ぶ現代の異能。"人形師"という名で知られる蒼崎橙子。その二つ名の所以は二つある。そのうちの一つが人体とほとんど違いがない人形を作れるということ。

 

 メカ丸のように人間以上の性能を持った呪骸のように、おもちゃの人形のように、人間以上か人間以下であるモノは容易に作り得る。しかし人間と全く同じモノは人類が長い年月を経てもついに作成することはできなかった。

 

 だが橙子は生得術式である構築術式に加えて『保管』している他人の術式を使用する。その複数の術式の絡み合わせと橙子自身の研鑽によって作成される"人形"はもはや生物であり、人物のデータがあれば失った手足さえ"再生"させられる。

 

 しかし蒼崎橙子にも人の魂の作成は不可能だった。だが先日の五条悟と楽巌寺嘉伸の会話に出てきた突然変異呪骸に明確な作成方法があるという情報。それを楽巌寺の記憶を読み取ることで手に入れ、蒼崎橙子は魂を『作成』するに至る。

 

 そうして蒼崎橙子は、『現代の異能』ではなく『異能』となった。

 

「どうした?驚いたか?」

 

「………いいだろう、面白い!即座に退場などしてくれるなよ!」

 

 

 

 

 

「五条悟!」

 

 宿儺に黒い雷が突き刺さった。

 

 

 

「おはよう、五条。気分はどうだ?」

 

 橙子は立ち上がり、煙草を咥える。

 

「プラマイ0。呪力量はそこそこだし、残り時間的にはちょっとキツそうだけど…」

 

 橙子は徐に虚空を弄り、提灯を取りだした。

 

「十分だな」

 

「それあれば問題無いよね。っていうかコレ(・・)、元は?」

 

「作った」

 

「は、さっすが」

 

「で、どうする?また1人でやるか?」

 

「いやー、史上最強の呪術師ナメてたよね。ちょっとキツイかな」

 

「それじゃあ、久しぶりに2人で行くか」

 

「いいね、ちゃんとついてきてよ?」

 

 橙子は片手を高く持ち上げ、指を鳴らす。

 

「ちゃんと横にいるさ。コイツが」

 

 刀を持った人形が突然現れ、ガシャリと崩れ落ちる。おっと、と言いながら橙子は術式を使い人形を立たせてから人形にストレッチさせる。

 

「オッケー…おーい!宿儺ー!第二ラウンドいっくよー!」

 

 宿儺へ手を振りながら笑顔で言う五条。

 

「『解』」

 

 返答は世界を断つ斬撃。放たれてから五条達に当たる一瞬に人形がそこへ入り込み、斬撃に合わせて刀を振るった。

 

 刀と斬撃が衝突した瞬間、斬撃が消える。

 

 ここで初めて、宿儺の目が驚きに見開かれた。既に走り出していた五条はそれに合わせ蒼を纏わせた拳を放つも受け流される。獲物を刀からナイフ2本に変えた人形が背後から現れるも、呪具で迎撃……するはずだった。

 

 呪具から放たれた雷は10cmも進まぬうちにあらぬ方向へ向かってしまう。

 

「その呪具は知ってる。何も対策してないと思ったか?」

 

 電撃の先には瓦礫の上から突き出ているかなり大きな針のようなもの。それは電撃を受け止め、何事もなかったように佇んでいる。

 

「避雷針か!」

 

 針の正体を見破った宿儺はすぐに解で破壊するが、辺り一体にいつの間にか剣山のように針が刺さっていることに気付く。領域は五条と人形の猛攻により手印を作る暇がないため、一気に破壊することもできない。

 

「五条!合わせる!」

 

「オッケー!」

 

 無数の小さな『蒼』が宿儺を取り囲み、しかし人形と五条には当たらずに複雑な軌道を描き宿儺へ向かう。

 

「それはもう見た」

 

「そぉーかぁ!?」

 

 人形が距離を詰め、全身を使って宿儺を攻め立てる。そして五条がバックステップしながら、『蒼』の交差点に『赫』を撃ち込む。

 

 宿儺は避け、反撃しながらも茈へと繋がる可能性のある『蒼』と『赫』を撃ち落とし続ける。『茈』は今の宿儺であっても致命傷たり得る。『茈』を撃たれれば世界を断つ斬撃で消すしかないが、その隙は致命的だ。

 

 五条悟は言うまでもなく、この呪骸も中々に強い。あくまでも五条を主体として隙を埋めるように立ち回っている。そしてこの呪骸は世界を断つ斬撃を斬れる。宿儺の顔には知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 ──期待に反して、そこからの戦闘は退屈なものだった。

 

 呪骸にはもう世界を断つ斬撃に対する対抗手段はなく、五条悟は領域も使えず

 

 結局は『茈』狙いか、つまらん。宿儺の脳裏をよぎった失望は、人形に、いや、橙子にとって最大のチャンスとなった。例え胴体と頭部が完全に破壊されていたとしても人形は問題なく動く。呪骸とは違って核は無く、橙子が直接操作しているからだ。

 

 極小出力の『蒼』と『赫』、さらに呪詞も唱えていない『茈』は成立せず、ただ紫に輝いたのみ。だが『茈』をガードする為の一瞬の硬直があれば、腕のみの人形がナイフを宿儺の持つ呪具に刺すには十分だった。

 

「!」

 

 宿儺は人形の手を払い落とし、他の破片もろとも斬撃で細かく砕く。それと同時に振おうとした呪具はいつのまにか塵と消えていた。人形が手にしていたナイフだけは砕くことができず、橙子の手へ戻っていた。

 

「あの人形の呪具か…?」

 

「術式だ。昔見つけた万物の『死』を見る眼。それの再現だよ」

 

「よそ見!してんじゃない!?」

 

 今度は正真正銘宿儺に通用するだけの威力を秘めた『赫』が放たれた。

 

 同時に五条の全身が浅く切り裂かれる。

 

 しかしなんの策もなくただ真正面から放たれただけの『赫』は容易く避けられてしまうだろう。

 

 ──宿儺の目と、橙子の目が合った。

 

 ドガァァァン!と、身体が硬直し呪力での防御すらできなかった宿儺が吹き飛ばされて瓦礫の海へ消える。

 

 しばしのインターバルに、体制を立て直す。

 

「…おい、大丈夫か」

 

「まぁー、なんとかね。でももう残りの呪力量がヤバい。……そのナイフの、まだ使える?」

 

「私もそろそろ限界だな。術式の効きがすこぶる悪い上にバカほど呪力を持ってかれる。あと少しでも提灯に吸わせたら倒れるだろうな。…ナイフはブラフで術式の使用も一度きりだ」

 

「そんな上手い話は無いか。でも、まさか僕が呪力量を気にしながら戦うことになるとはね。こんなしかないならみんなすぐバテちゃう気持ちもわかるかな〜」

 

「それが呪術師にとって当たり前だバカ。お前がおかしいんだよアホ」

 

「口悪っ」

 

「次は奥の手を切る。ここまでだ」

 

「オッケー、負けないでよ?」

 

「…私が負けることはない」

 

 

 

 一度仕切り直された戦場は宿儺にとってもありがたいものだった。あのまま戦闘していても間違いなく勝利できていたがかなり時間がかかるだろう。あのナイフがある以上、世界を断つ斬撃は迎撃される可能性が高い。

 

 ある程度回復し、好きに仕掛けられる現状の最適手は一つだった。

 

「…………領域展開『伏魔御厨子』」

 

 呪術の極地、領域展開。あの五条悟といえど、現在の呪力量では対抗できても一度までで呪力が尽きるだろう。それならば破壊されるとしても充分効果がある。

 

 だがその想定はたった一つの外部要素を除外していた。

 

「……領域展開『創蒼伽藍』」

 

「領域展開『無量空処』!」

 

 閉じない領域の中に2つの領域が展開される。『創蒼伽藍』は外部からの、『無量空処』は内部からの干渉への耐性に特化させ、1mmの隙間もないほどピッタリと重なった領域。

 

 それは2人が六眼を持っているからこそ成立した絶技。だが術式が付与された領域である以上領域内では術式は中和される。そして外部からも破ることは難しい。

 

 瞬間、宿儺の脳裏をよぎった敗北。しかし、それを押し流す高揚。

 

 御厨子は封じられ、相手も術式を使用できる状態ではないとはいえ有利なホームグラウンド。更に控えている後衛。しかしどうしようもなく面白い。その感情に身を任せ、それでも思考は止めずに距離を詰める。

 

「さぁ!最終ラウンドだ!宿儺!」

 

「ほざけ、五条悟!」

 

 ふと、脳内の冷静な部分が囁く。領域展開したのは悪手ではなかったかと。

 

 先ほどの領域展開の判断は確かに誤りではなかった。しかしそれに至るまでのロジックにあの女の存在が一欠片も出てこなかった事が気になった。

 

 先ほど吹き飛ばされる直前、あの女の目を見て思考すらも硬直した。いくらか呪力を消耗していたとはいえ、『視る』ことが条件の呪術でここまでの効果を発揮すれば一度で目が潰れる。

 

 一瞬だけだが確かに認識したあの眼。あれは致命傷になり得る。

 

「底が見えんな」

 

 あの時の眼が何の魔眼だったのかはまだ分からない。が、この状況、五条悟の相手をしながら片手間にあの女を片付けるのはかなり厳しい。

 

 ならどうするか。

 

 まずは五条悟の攻撃を凌ぐ。相手は明らかにキレが落ちてきているがこちらにはまだ余裕がある。

 

 明らかにラッシュの精度が荒くなっており、難なく避けられる。それでもしばらくは格闘戦に付き合う必要があったが、ようやく蹴りを放った。足を掴み五条を後ろに投げ、自身は素早く前へ出る。

 

 腕に呪力を纏わせ、女の心臓目掛けて思い切り突く。意表をついたこの一撃はいかほどな抵抗もなく、容易く心臓を貫き通した。

 

「ぐっ…!」

 

「やはり、脆いな」

 

 そのまま五条悟へ投擲しようとした所で、頭を掴まれる。

 

「置き、土産だ……遠慮なく、受けと………」

 

 掠れて言葉すら発せなくなっているにも関わらず腕の力が弱まる事はなく、無限に続いているように見える瞳はただ真っ直ぐにこちらを見つめていた。

 

「……九綱 偏光 烏と声明 表裏の間」

 

 ピクリとも動かない肉体の檻の中で、思考だけがぐるぐると回っている。既に女は虫の息で頭を掴んでいた腕も既に外れているが瞳だけはブレていない。だが片眼で効果が弱まっているのか思考も呪力操作もできる。

 

 その中できた事は詠唱が聞こえてくる方向に全ての呪力を回し、少しでも威力を弱めることだけだった。

 

「虚式『茈』」

 

 

 

 

 

「ふぅー、これであとは橙子に任せればいいかな」

 

 呪力もほとんど底をつき、降霊術は既に解け始めている。もうまともに動けないが、茈を喰らわせた宿儺も死んではいないだろうが、動けないはず。

 

 少しすれば高専のメンバーや橙子が来て宿儺を回収し、恵を助けるだろう。橙子には恵の肉体分の金額は払ってあるし。

 

「うーん、まぁ、なかなか良い終わりじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげ、やっぱそうすんなりは終わんないよなぁ」

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