元一級呪詛師 スカー・レッド 作:傷んだ赤色
中々投稿できず、間隔がかなり空いてしまいましたが、長らくお付き合い頂きありがとうございました。
もしかしたら、≡編もやるかも知れません。
やるとしたらしれっと更新してると思うので、期待せずにいてください。
駄文でしたが、お読み頂き本当にありがとうございました。
この世界で1番初めに感じたのは絶望だった。
自分の記憶よりも古い世界。知っているこれからの出来事。
つまらない。
この世界の未知は既知でしかない。
かと言って記憶にある世界へ辿り着くには命の時間が足りない。
あまりの古さに発展のさせ方も分からない。
どうしようもない絶望に、ずっと打ちのめされていた。
自棄になってこの世界の親を振り切り、行く宛もないまま歩いていた時だった。
一対の澄んだ『青』を見た。
前の世界には無かった『呪力』。
初めてまともに見た自分の『容姿』。
呪術師だった両親。
発現した『術式』。
ここまでお膳立てされて、目指すべきものは一つしか無い。
それに不満も無い。
だがどうしようもなく才能というものが無かった。
どうやっても作れるものはビー玉一つ程度。
ならばと修練を重ねても呪力量は伸びず呪力操作に重点を置いてもサイコロの構築が限界。
肉体強度も伸びず、このままでは補助監督が良いところだった。
だが幸運なことに、代償として差し出せるものだけは腐るほどにあった。
未来の記憶。
前とはいささか違う世界ではあるが、照らし合わせてみると世界情勢は一致していた。
渋谷事変が起こるまでの未来。
そしてそこからの一連の騒動。
最後にこの時代から遥か未来である2086年に起きたシムリアとの接触。
それらを内包するいわゆる前世の記憶全てを永遠に消去する『縛り』。
それに加えて自然治癒以外で回復できなくなる『縛り』。
私は2つの『縛り』と十数年に及ぶ研鑽の末に『自身』を作り出した。
更に莫大な金額を払い、冥冥から絶命を対価とした縛りを学んだ。
それにより『蒼崎橙子』は1年以内に必ず死亡する『縛り』を結び、自身の技術と知識を完全に保有可能にした。
「その眼、何かしらの魔眼だな?恐らくは視線を合わせることで行動を制限する類のものだろう」
五条悟は振り向かない。
「しかも何十、何百と同時に発動させることで単純な呪力防御では防げなくしている」
五条悟の髪が伸び、傷付いた赤へと色付いていく。
「本当に驚きだ。この生ぬるい時代にオマエのような呪術師がいるとは」
そして、『蒼崎橙子』が振り返った。
「構築術式・極ノ番『匣』」
橙子の腹から無数の茨のような触手が飛び出し、周囲の瓦礫を巻き取り腹に発生した無数の口で貪っている。
宿儺にも伸びるが『解』で断ち切られ、届かない。しかしそれに怒ったように伸ばす触手の数を増やしていく。
「ただの呪霊や呪具では無いな!」
「まぁ、そう簡単にはいかないか。しばらくは付き合ってもらうぞ」
「この程度の触手ではな、楽しむものも楽しめん」
その時、ドク、と橙子の体が脈動する。
「あー、マズイか、これ」
触手の速度、威力、数が数段上がり、宿儺へ殺到する。しかしまだ避けられ、断ち切られ、有効打はない。
「やっぱり宿儺相手だと興味を持つよな……どうしたものか…」
「何をぶつぶつ言っている!この程度では興醒めだ!」
橙子は頭が痛い、と言うように頭を抱える。
「それで対応できてるからマズイんだよ…おい、宿儺。割と真面目に頑張れ」
「は?」
殺し合いをしている真っ最中の敵から純粋に応援の意を受けて、宿儺の思考が数瞬止まる。
そして、ついに橙子の腹からずる、とそれは這い出した。
「まだ分体か…とりあえずは安心だな」
触手の塊の中に口だらけの塊がある、どこぞの神話の生物のような出立のそれは触手の全てで宿儺を狙い、捕食しようとしている。これが本体であれば、世界ごと食いちぎっていた可能性があった為、宿儺どころの騒ぎでは無くなる可能性があった。
そこで宿儺は一つの決断をする。そこまで温存していた『竈』による大火力での滅却を。問題は触手の攻勢が激しく、避けることだけで手一杯になってきている事だった。
「おーし、良いぞー。もうちょい頑張れー」
あそこで胴体から真っ二つになりながら呑気に応援している女は、後でさらに縦に分割してやることに決めて隙を探る。
奴から離れれば離れるほど触手の攻勢が自由に、激しくなっている。逆に胴?と呼べる口だらけの塊の近くでは触手は蠢いていなかった。奴の懐に潜り込み、最大火力をぶつける。
「『竈』……『開』!」
至近距離で、口の中に直接叩き込んだそれは内側から爆散させ、奴の残骸を飛び散らせた。
「意外と早かったな…じゃあ、ついに終幕だ」
「まぁ想定通りではあったが」
「アイツの本体は……反応してないな」
「しかしこんなにいたか?」
「どこぞの設備が稼働してるんだろう。ここに来てるのも全てじゃない」
「しかし宿儺か。解析しがいがあるな」
「ああ。あれを呪具化できれば良かったが……受肉体である以上無理だろうな」
「なんらかの残骸が残ることを期待しておくか」
そこかしこから同じ声が聞こえて来る。それは幻影などでは無く確かな質量を持ってそこにいた。一人一人が全く同じ顔、服装、体型をしていて、胴体がちぎれていなければ最初の個体との見分けすら付かなかっただろう。
「これは………全て同一の個体、なのか」
1人として違うものは居らず、指揮をする個体がいるわけでもない。ただ全員が同じ思考回路で思考した故に、同じ結末を導き出しただけのこと。即ち、圧倒的な物量による圧殺である。
「さて、私の領域の説明をしておこう」
「私がしたいことをするには縛りを設けるしかなくてな。かなり複雑な縛りとなってしまった」
口を閉じさせるために『解』で真っ二つにしても他の個体が引き継ぎ説明を続ける。更にはまだまだ増えており終わりが見えない。
「まず第一に、他の領域がない状態での領域展開の使用不可」
「これは領域内、領域外を問わず私の視界の範囲内に領域があることが条件となる」
「次に、前述の条件を満たさない場合領域の詳細を開示しなければならない」
「このどちらかを達成して初めて領域展開が可能になる」
「次は、領域の術式」
「私の術式は構築術式だが、展開後に必中とするものを自由に構築できる」
「しかし、構築できるものは一つだけで、更に1分で自壊し」
「術者も同じく1分で死亡する」
「そして、1番最後のキモだ」
「この領域は同じ領域と連結できる」
「2人が領域を展開し、構築し、連結する」
「そうすると、領域内に必中が付与された2つの物体が存在する」
「これで開示は終わりだ」
一斉に周囲の蒼崎橙子『達』が文殊菩薩印を結ぶ。
「「「「「「「領域展開『創蒼伽藍』」」」」」」」
そこには何もなかった。
否、一つだけ。砂嵐が流れている古いブラウン管のテレビがあった。
やがて、がた、と音が鳴る。
五条悟が居た。
「ッ!」
咄嗟に領域展延を付与した拳で殴りつける。五条悟は吹き飛び、力無く崩れ落ちた。
がた、と音がした。振り向くと、そこには虎杖悠仁が居た。
今度は『解』で首を飛ばす。
がた、と音がした。伏黒恵がいた。
手が止まった。
がた、がた、がた、がたがたがたがたがたがたがたがた……………
小僧と伏黒恵のそばに居た茶髪の女が、羂索の器となっていた袈裟の男が、火傷だらけのフィジカルギフテッドの女が、漏瑚と名乗った火山頭までも…
そして気付く。全てが人形であると。
そして、その術式の全てに必中が付与されていると。
領域展延で守りつつ、切り刻んでいくが圧倒的な物量によりすぐに次の個体がやってくる。領域を展開しても、あの女が出てくる限りコイツらは実質無限に湧き出るため術式が焼き切れるデメリットが大きすぎた。
ただ、狙いも付けずに所構わず斬撃を放つ。狙いをつける必要はなかったが、それは物量が減っていない証だった。
世界を断ち切ろうともすぐに別の領域で覆い隠される。別の、というより追加の、が正しいか。
「が、ぁぁぁぁぁあ!」
そして、最後に、薬指と小指がない手が触れた。
「『解』」
受肉を保てず、俺は伏黒恵から引き剥がされた。
「ハアッ、ハァ…ハァ…」
「よう。宿儺。気分はどうだ」
「貴様………!」
スライムのような、崩れた何かになって消える寸前宿儺に声をかける。その後ろには虎杖悠仁が所在なさげに立っている。
「呪いの王、両面宿儺もこれで終わりだな」
「クッ…」
「さ、こちらの虎杖君から話したいことがあるそうだ」
高専の屋上で1人、タバコを吸っていた。
「ふぅ………」
ガチャ、と扉が開く。
「あの、橙子さん……」
「よう。どうした?虎杖」
「ちょっと相談したいことがあって…」
「珍しいな。私に相談とは。で?」
「俺、すげぇ長生きするっぽくて…」
「あぁ、相談内容とはズレるかも知らないが心配するな。私はお前より永く生きる」
「……どゆこと?」
「私の身体が人形だっていうのは説明したな?ある程度の期間でアップデートしたりはするが、年齢は一定の所から変わってないからな。変えようと思わなければ歳は取らないし、取りたいとも思わん」
「マジで!?俺よりもすげぇじゃん…」
「まぁ、だから気にするな。私の連絡先は渡しといてやるから、困ったことがあったら連絡しろ。老けて見えるメイクとかもできるぞ」
「あざっす!」
ひらひらと虎杖に手を振りながら屋上から去る。
「さぁ、これからどうしようかな」
土壇場で採取しておいた宿儺の残骸、ちょっとだけ削った虎杖悠仁の指。研究用の素材はたくさんある。ふ、と笑みをこぼす。
「これからが楽しみだ」