人を食べながら人を救う

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化け物みたいなヒーローがいたっていいじゃないか


腐った魚の腸みたいな

 

 

 

 総ての『個性』は使い方次第で、悪行も善行も行うことができる。

 

 コメンテーターがテレビでそう言ったのをふと思い出すことがある。いや、どこかのヒーローだったか。まぁ、誰が言ったかはあまり関係は無いのだけれど。

 

 例えば。

 『物を壊す』という個性があるとしよう。一見すると攻撃的で加害性のある個性だが、被災地の救助活動という場面ならば、その個性は崩壊した建造物の撤去や、生き埋めになった人の救助等で役に立つだろう。

 

 例えば。

 『物体の時間を巻き戻す』という個性があるとしよう。一見すると万能で医療を始めとした様々な分野で役立ちそうな個性だが、悪用方法はいくらでも考えることができる。

 契約書を巻き戻して白紙にしたり、暴行の証拠を巻き戻して隠ぺいしたり。それこそ、人を巻き戻し続けて殺害する、だとか。

 

 何が言いたいかって?

 

 この世の『ほとんど』の個性は、使い方次第で悪にも善にもなることができるって話さ。

 

 『総て』ではなく、『ほとんど』だ。

 だってそうだろう? 絶対に人に危害を加えるしかない個性だってこの世にはあるんだ。それに、個性が進化し、増え続けるこの世の中で『総て』と断定するには些か自身の知識を過信し過ぎではないだろうか。

 善悪すら判別するのに苦労しているのだから、まして個性自体が持つ本質を見分けるなどできるはずがないというものだ。

 

 反論があるなら、まずは私の個性でどうやって善行を行うのか教えて欲しい。

 

 

 私の個性は『喰種』。

 

 

 人を食べなければ生きていけない、まさしく敵のような個性さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じてもらえないかもしれないが、私には前世と思しき記憶がある。

 

 その世界は個性なんて超常の力は存在していない、今よりも少しだけ昔のそこそこ平和な世界だった。

 

 私もその世界で只々生きているだけの人間の一人で、強いて言うなれば小説や漫画、アニメ、動画配信視聴や食事などといった娯楽を好むヲタクであった。

 ひょんなことから命を落とし、意外なことに新たな生を受けたわけだが、私はこの世界に見覚えがあった。

 

 

 『僕のヒーローアカデミア』

 

 

 集英社の週刊少年ジャンプにおける看板漫画と呼ばれた作品の一つであり、まさしく王道といった手に汗握る熱い展開が続く不屈の名作である。

 『個性』、『ヒーロー』、『敵』。この三単語が揃えば、もはや見て見ぬふりをすることはできまい。

 

 私が第二の生を受けたこの世界は、『僕のヒーローアカデミア』の世界だったのである。

 

 私が前世で持ち合わせていた死生観的に、来世があったことがそもそも驚きだが、加えてその世界が前世の創作物だなんて聞いたら、宗教家も腰を抜かしてしまうに違いない。

 いや、聖書なんかも創作物ではあるのだから、一応彼等の言うことは正しいのかもしれない。

 

 閑話休題。

 

 そしてこの世界が創作物であることを自覚して早四年。ここで私の人生に転機が訪れる。そう、個性が発現してしまったのである。

 

 『超人的な身体能力と固有の捕食器官を得る代わりに、人肉しか受け付けない身体になる』個性。

 

 長いな。

 病院で告げられた個性診断結果を聞いて、私がまず抱いた感想だった。

 

 そしてその文字列をゆっくりと噛み砕いて、頭の中で整理すると、不思議なことにこれもまた見覚えがあった。

 

 

 『東京喰種』

 

 

 集英社の週刊ヤングジャンプにおいて連載されていた、ダークファンタジーの顔と言っても過言ではないほどの名作だ。

 

 その作品の中核を担う存在である喰種。人間社会に紛れ込み、人を喰らう化け物の総称。彼等と私の体質が、あまりにも一致していたのである。

 

 つまり、だ。

 

 

「僕は──『喰種』だ」

 

 

 言ってみたかっただけである。

 

 

 取り敢えず、私は自身の個性を『喰種』と命名した。『超人的な身体能力と固有の捕食器官を得る代わりに、人肉しか受け付けない身体になる』個性と毎度言うのはあまりにも面倒だからだ。

 

 次に、食料をどうするか考えた。

 ここで私に選択肢が生まれた。敵に堕ちるか、真っ当に助けを求めるかの二択。

 

 前提として、『喰種』が人を食べずに生きることは不可能である。珈琲は飲めるが、それだけで腹は満たされない。そして空腹のままでいれば、いずれ人を襲って晴れて敵として投獄されるだろう。

 

 ならば最初から敵として、本来の『喰種』が人間社会に紛れ込んで食事をしていたように過ごすのが一つ目の選択肢。

 

 もう一つの案は、ヒーローの保護化に入り、定期的に人肉を提供してもらうというものだ。

 死刑囚や不慮の事故で亡くなった死体とかならワンチャン貰えるのではないだろうか。という淡い期待である。

 

 アンパンマンみたく、人肉マンとかいたら楽なんだけどね。

 

 結局、敵堕ちするのは最終手段にした。何故なら普通に捕まるのは嫌だからだ。

 私は娯楽がないと死んでしまうドパガキ予備軍なので、刑務所なんかにいたらドーパミン不足ですぐに死んでしまうだろう。私も二度は死にたくない。

 

 急がば回れど、善は急げだ。

 私はさっそく近くのヒーロー事務所に助けを求めに行った。ちなみに両親は私の個性が判明するや否や孤児院に私をポイして消えた。悲しいもんだね。

 

 

「お腹が空いて死にそうなので、人肉を提供してくれませんか?」

 

「……………………………は?」

 

 

 受け付けの人は数秒固まった後、どこかに電話をかけに行ってしまった。その後別の案内のお姉さんに連れられて、控室のような場所に通された。

 お姉さんに積み木を渡されたが、そんなものでお腹は膨れないのだよ。

 

 結局、私は数時間積み木に勤しんだ。

 

 

 結果として、私の要望は受け入れられた。どうやらこの数時間で私の個性を病院から把握し、刑務所や病院、各ヒーロー事務所や葬儀場等に取り合った結果、有志のヒーローが文字通りその身を削ってくれるらしい。リカバリーガール様々である。

 

 こうして私の食料問題は奇跡的に解決し、悠々自適な第二の人生が始まる────はずだった。

 

 

「君はヒーローになるべきだッ!!」

 

「僕は喰種だ…………」

 

 

 人肉提供の条件として、私の進路はヒーローで固定された。悠々自適どころか、ガチガチに敷かれたレールの上を進む人生に早変わり。なんで?

 

 というか人食ってるヒーローってなにぃ……?

 

 

 

 

 

 

「とまぁこういう訳で、私はヒーローを目指すことになったのさ」

 

「…………それを俺に話して何のつもりだ」

 

 

 時は飛んで私も15歳になり、高校受験の年になった。私は敷かれたレールを順調に進み、雄英高校を受験しに来たわけである。

 ついに原作に登場する人物に会える興奮冷めやらぬまま、少し早めに受験会場に行くとなんとびっくり。我らが先生であるイレイザーヘッドがいるではないか。

 

 私は彼を逃がすまいと自慢の身体能力で彼との距離を詰め、ギョッとする彼の腕を掴んで確保したのだ。

 そのままの流れで唐突な自分語りを始めさせてもらった。もちろんこの世界が創作物であることや、前世のことは伏せてもらったがね。

 

 

「わからないかい? 私はこの個性のお陰で、すごく人生に苦労してきたのさ」

 

「お陰、と言っていいのか?」

 

「少なくとも私は自分の個性は恨んだことはないよ。これは私のアイデンティティでもあるし、それに人生は何かと苦労が多いほうが良い」

 

「随分と達観しているな」

 

 

 正門を入って少し横。ぱっと見では見えづらい位置で私達は横並びになって話をしていた。

 

 彼の感心したと言わんばかりの視線が私に向けられる。だが、私が欲しいのはそんなものではない。

 一歩前に出て、イレイザーヘッドの赤く充血した目を見る。それは彼が努力してきた、彼が人を助けてきた、彼のヒーローとしての歩みの証だ。

 

 だからこそ、私の瞳だって負けず劣らず赫いのだと彼に知ってほしい。

 

 

「個性は、恨んだことはないけどね」

 

「…………」

 

「誰かに助けて欲しかったなぁ……ね? ヒーロー♡」

 

 

 赫眼がイレイザーヘッドを射抜く。黒と赤に染め上がった瞳が、私が化け物であることの証明だ。

 

 誰にもわからないだろう。昨日まで美味しかった母親のご飯が、腐った魚の腸みたいな味になることを。街を歩けば香ばしい匂いがそこら中から漂っていることを。

 

 私が今も、誰かを食べたくて仕方がないことを。

 

 

「なんてね」

 

 

 イレイザーヘッドの表情が少し暗くなる。ただの八つ当たりにそんな顔ができるからこそ、彼はどこまでもヒーローであり続けられるのだろう。

 我ながら情けないものだ。私にとって彼はこの飢餓と不自由から解放してくれる唯一の希望だったからこそ、なのだけれどね。

 

 

「自己紹介が遅れたね」

 

 

 綺麗な翡翠色の髪を揺らしながら、私は彼の正面に立った。

 私は自分の美貌に絶対的な自信を持っている。なぜなら、十人中十人が美人だと太鼓判を押す私の容姿は、喰種が蔓延るどこかの世界で『隻眼の梟』と恐れられた、可憐で狂気を含んだ彼女そのものなのだから。

 

 

「私の名前は芳村エト。どうぞよしなに、先生」

 

「……まだ先生と呼ばれる筋合いはないな」

 

「つれないなぁ。そんなんじゃ女子高生には嫌われるぜ?」

 

 

 これは、私が人を食べ続ける物語だ。

 

 

 

 

 

 

 




エトが一番かわいいよ……
おいちゃんはぁはぁしちゃう

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