「校長、十代達の退学をなんとかなりませんか。俺もあの場所にいたんですから責任を問うなら俺にも課さないとおかしいでしょう」
場所は校長室、廃寮に入ったことで十代と翔は退学処分を言い渡された。ただし救済処置として十代と翔でタッグデュエルを行い、勝つことができれば免除してもらえるようだが。
「そうです私もあの場所にいました。タッグを組むなら私に組ませてください」
「俺も十代達の姿を見て、もう一度頑張ってみようとおもったんだな」
後ろに控えていた明日香と隼人も同じように主張する。廃寮に勝手に入って罰が与えられるのならば全員に与えなければならない。しかし責任を問われたのは十代と翔の2人だけだ、
「君達の思いはわかりました。しかしタッグデュエルは査問委員会で決定したことです。私の力ではもうどうすることもできません」
この学園の最高責任者である校長でも駄目となるとこれ以上は無駄な平行線が続くだけだ。
「……わかりました。失礼します」
納得は出来ないがこれ以上ゴネても意味がない。ここでできることもない、十代達の方に顔を出しに行くか。
零士達は校長室を出て、十代達のいるレッド寮に向けて歩き出す。
「大丈夫かしらあの2人」
「デュエルに関しては十代は大丈夫だろう。問題は翔の方だ」
「十代と上手くいっているといいんだけどな」
十代と翔のタッグ、おそらく十代はデュエルに関しては乗り気だろう。しかし退学がかかったデュエルだ、翔はプレッシャーに押し潰されそうになっているだろう。
「ただいま〜」
レッド寮の部屋の扉を隼人が開けると隼人に抱きつく1人の人影、
「はやどぐん、れいじぐ〜ん、僕とタッグを変わっておくれよ〜。このままじゃ、僕のせいでアニキも一緒に退学になっちゃうよ〜」
号泣しながら隼人に抱きつき懇願する翔。やはりこうなったか、悲観主義というわけではないが翔はネガティブになりやすい。
「そのことだが校長でも査問委員会の決定を変えることは出来ないそうだ」
校長室で話したことを翔に伝えるが、みるみる顔を絶望の色に染まっていく。かえって翔にショックを与えてしまったようだ。
「翔、お前も俺の弟分なら腹を括れ」
十代は机の上にデッキを広げ調整しながら翔を諭す、
「ひっぐ、アニキは強いからそんなことが言えるんだよ」
「決まってしまったことは仕方ない。タッグデュエル向けて俺も協力するよ」
翔に手を差し伸ばすが、その手を払いのけ走り出す。
「落ちこぼれの僕なんかが努力してもアニキみたいにはなれないよ、校長先生に言ってアニキの退学だけでも考えてもらう!」
そう言い放ち走り出す。しかし足がもつれたのか転けそうになり顔面から転倒する。零士は咄嗟に翔の服を掴み転倒を防ぐ。
だが腰のベルトが緩かったのかデッキケースが落下しカードが散らばる。
「なにやってんだよ」
散らばったカードを隼人と一緒に拾い集めていると1枚のカードが目に止まる。
「おお、パワーボンドじゃん。こんな強力なカード持ってじゃん」
パワーボンドは、簡単に言えば機械族専用の融合カードだ。召喚した融合モンスターの攻撃力を倍に出来る強力なカードだ。リミッター解除と組み合わせればそのままフィニッシャーになり得るほどの威力があるカード。その代わり、使用したターンの終わりに召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを受けるというデメリットがあるがそれを補って余りあるカードだ。
しかし。翔は顔を伏せ絞り出すように呟く。
「……そのカードは使っちゃ駄目なんだ。お兄さんに封印されてるんだ」
「封印?なんでそんなことに?」
十代が理由を聞こうと翔に近づき尋ねるが、
「やっぱり、僕なんかじゃアニキの相手なんか務まるわけないよ!」
その言葉を残して寮を飛び出していく。連れ戻そうと隼人がその背中を追いかける。
「翔の兄貴って一体何者なんだ?」
「知らなかったのか?丸藤亮だよ。この学園の帝王とまで言われてる」
てっきり翔から聞いてるかと思っていたが、知らなかったようだ。翔があの様子じゃ話したくはないか。
「翔と兄貴の間にいったい何があったんだ?……そうだ!デュエルすればいい、闘えばどんな奴か一発でわかるからな」
十代が突然すごいことを言い出した。確かにデッキの構成、闘い方や戦略、どれをとってもその人なりの考え方がある。間違ってはいないが、
「……デュエルバカめ」
十代は早速、丸藤亮と闘うための申請書を書きに学園へと向かっていた。おそらく零士の呟いた言葉など聞こえてはいないだろうが。
「待っててもしょうがないか、翔を探すか」
この場に留まっても意味はない。消えた翔を探しに出かける。
見つからないかと思ったが思いの外早く見つけ、もう一度十代と話し合えと寮へ戻るよう説得する。
翔もそのことには渋々了承し、トボトボと戻っていく。
翔の背中を見送り、翔の発見を伝えるのを兼ねて十代の様子でも見にいくか。
「どうしたんだよ、十代」
学園に十代はおらずブルー寮は向かったと思い、そちらへ向かう途中の道で十代に合流したが十代は頭からずぶ濡れだ。
「ブルー寮の奴らに身の程を知れと言われて水をぶっかけられたんだよ」
どうやらカイザーの親衛隊なるもの達から洗礼を受けたのだろう。強い奴の周りには必然的に人達が集まってくる。亮もそれにもれず3年間この学園で最強を保持しているため、その強さを神格化されている節がある。
そんな学園の憧れが新入生、しかも落ちこぼれと言われるレッド寮の生徒が挑んできたのだ。ふざけるなと思うだろう。
(だからといって、水をぶっかけるのは違うだろ)
自室に戻った十代は棚からタオルを取り出し濡れた身体を拭く。
十代がふとベットの上にある1枚の紙に気がついた。その紙を十代の背中越しに覗き込む。翔から十代に当てたものだ。
【僕がこの学園から出ていくからアニキだけでも退学を免れておくれ】
逃げたな。もう一度、十代と話し合えと言ったのに。分かりきったことたが、翔について十代に尋ねる。
「どうするんだ十代」
「そんなの決まってる!とっ捕まえてやる。俺は決めたんだ!パートナーは翔だ。2人で勝ってこの学園に残るんだ!」
十代ならそう言うと思っていた。
「なら、とっとと翔を見つけないとな」
再び消えた翔の捜索に向かう。レッド寮の周囲から学園内を探すが見つからない。
次はどこを探そうか思案していた時、そこでふと思い出した。確か港付近でイカダを作って出ようとしたとこを十代に止められ、居合わせた丸藤亮と十代でデュエルするのだった。
日は暮れすでに暗くなっている。
(しまったな、まだ間に合うか)
現学園最強と主人公のデュエルを見逃すまいと十代達がいるであろう港へと急いで向かう。
港の明かりが見えてきたころソリッドビジョンによって現れたサイバー・エンド・ドラゴンの姿が見える。
間に合わなかったか。現場に到着したがデュエルを終え帰路に着こうとしていた丸藤亮と目が合う。
「君は……、確か入試の時に手札を0にする戦い方をしてたな、名前は……黒薙零士」
「学園最強に名前を覚えてもらえて光栄ですよ丸藤亮先輩。いやカイザー亮と言った方がいいですか」
こちらの挑発とも取れる言葉に亮はこちらをじっと見たまま微動だにしない。
流石に乗ってこないか、こちらも少し舞い上がってしまったな。
「いや失礼。学園最強に知ってもらえて少しテンションが上がってしまいました」
その言葉に先程から表情を変えなかった亮がふっと笑う。
「そうか、こちらは別に気にしていない。いずれ君とも戦ってみたいよ」
そう言うと零士の横を通りブルー寮へと歩いていく。
通り過ぎた亮を見送り、十代達の方に歩み寄る。今朝見た時の弱々しい表情から決意を決めた表情に変わった翔に声をかける。
「どうやら腹は決まったようだな」
「うん!気付いたんだ。大切なことは何かを、そして封印しているパワーボンドも使えるようになるよ」
どうやら亮と十代のデュエルで翔なりに何か掴んだようだ。
「なら明日からタッグデュエルの特訓だな、本番の日取りは決まってないがやれるだけやってみよう」
そうと決まり十代が頑張るぞと掛け声をあげようとした時、その場にいる全員の腹の虫が大きくなる。そういえば翔の捜索で夕食を食べ損ねていたな。
「まだ間に合うかも、急げ〜!」
十代と翔、隼人の3人は急いでレッド寮の食堂に走り出していった。
「俺も部屋に戻るか」
零士も自分の自室に向けて歩いていく。
翌日、レッド寮の前にて十代と翔、隼人と集まりタッグデュエルの特訓を開始する。その場には責任を感じてか明日香もこの場所に来ている。
「で?どういう特訓をするんだ」
ワクワクといった感じで十代は零士に尋ねる。
「特訓といったらひとつだろう。ひたすらタッグデュエルをするんだよ。数をこなすしかないだろう。まぁ、習うより慣れろってやつだ」
古今東西、特訓と言ったらこれだろう。いくら頭で理解していても、いざ実践で出来なければ意味がない。
「なら十代と翔くんのデッキもタッグ用に調整する必要あるんじゃない?」
話を聞いていた明日香が最もな質問を投げかけてくる。確かにタッグデュエルをするならタッグ用にデッキを組み替える必要があるだろう。しかし、
「明日香の言ってることも正しいが、それはおいおいでいいだろう。まずはタッグデュエルに慣れるとこだろう。それに十代と翔じゃデッキの内容が違いすぎてかえって手間取ってしまうだろう」
方向性がまるで違うデッキをタッグ用に作り替えるには時間がかかりすぎる。2人ともタッグデュエル自体したことがないのだから、無理に組み替えず今のままのデッキでデュエル自体に慣れる方がいいだろう。
こちらの言い分に明日香は納得してくれたようだ。
「それにこの学園には、とっておきの練習相手がいるだろ。明日香悪いが彼女達に声をかけてくれないか」
その言葉に明日香はすぐに理解したようでその場を離れる。十代達は首を傾げ先ほどの言葉に疑問を投げかける。
「相手は来てからのお楽しみだ。来るかどうかはわからないが」
おそらく来ると思うがもし来なかった時のために別の案も考えないとな。
しばらくすると扉が開き明日香が入ってくる。
「お!明日香、そっちはどうだった?」
「えぇ、了承はもらえたわ、入ってきて」
明日香の言葉に食堂内に入ってきたのは、瓜二つの姉妹、違いがあるとしたら顔つきと髪色ぐらいだろう、銀色と金色の長髪を持つ2人。
タイラー姉妹だ。俺の知る限りではタッグデュエルといえばこの2人だろう。
「零士〜、また私と楽しいデュエルをしましょうよ」
グレースは零士に近寄り手を引っ張り外へ出ようとするが、
「待て!グレース。いいか零士、私はあくまで貴様の実力は認めているがグレースとの仲までは認めていないからな!今回はこの前のカリを返すために来てるだけだからな」
グロリアが零士とグレースの間に割ってはいる。どうやらこの前のデュエルの件からグロリアからは睨まれ、グレースからは気に入られてしまったようだ。
グレースが何かにつけてくっついてくるのだが、グロリアはそれが気に入らないようだ。
「もう、姉さんは無粋なんだから。私は零士と楽しくデュエルがしたいだけよ」
くつくつと怪しく笑う、またコイツはそうやってからかっているのか。そう思い零士は額を抑える。
「グレース!いいか私は断じてこの男との仲など認めんからな」
グレースの態度にグロリアが咎めるが気にするそぶりもなく、姉を揶揄っている。
そんな2人を見かねて明日香がパンパンと手を叩きその場を収める。
「ハイハイ、喧嘩はそのぐらいにしてもらえるかしら。申し訳ないけど2人にはタッグデュエルの特訓を手伝ってもらうわよ」
「ふん!そもそも、立ち入り禁止区域に無断で入らなければこんなことにはならんのだぞ」
グロリアのその言葉に何も言い返せない。確かに深夜徘徊をした挙句、禁止区域に入ってしまったのだ。たとえどんな理由があったとしても言い訳にしかならないだろう。一緒について行った零士も耳が痛い話だ。
「まぁまぁ、姉さん。落ち着いて、久しぶりに姉さんとタッグを組んでデュエルするんだから、楽しまなくちゃ」
グレースの言葉にグロリアは仕方ないと納得する。妹にはどこか甘いみたいだな、
「ただし、特訓を手伝う代わりに最初に条件として零士と明日香のタッグで戦いましょう」
先程の柔らかい表情から鋭い目つきでこちらを捉える。
明日香とか、零士としてもはじめてのタッグデュエルである。十分の実力を持っている明日香とはいえ、デッキのタイプが違いすぎる。お互いに噛み合わないかもしれないが、
零士は明日香の方を見てどうするか尋ねる。
「私は構わないわ、手伝ってもらうものそれくらいは了承するわよ」
零士としてもこんな面白そうなこと、断る理由はない。
それにタッグデュエルの見稽古として十代達の役にも立つだろう。レッド寮の前の広場に向かい準備する。
思っている以上にタッグデュエルの内容を作るのがむずいです。おんなじような展開だとワンパターンだなと思われてしまいますし、使用したカードが少ないのでどう動かすべきか迷ってしまいます。